Keysight Technologies
3GPP Long Term Evolution
システムの概要、製品開発、テスト上の問題
Application Note
このアプリケーション・ノートでは、
3GPP
(3rd Generation
Partnership Project
)で開発中の、UMTS
(Universal Mobile
Telecommunication System
)のLTE
(Long Term Evolution
)について説明します。特にマルチ入力マルチ出力(
MIMO
)のLTE
での マルチアンテナ手法と、LTE
のアップリンクで用いられるSC-FDMA
と呼ばれる新しい変調方式について詳細に説明しています。また、LTE
製品の開発を加速し、規格策定の進行に対応した測定ツールが 求められるため、このアプリケーション・ノートでは、Keysight
のLTE
デザイン/検証/テスト・ソリューションのラインナップについても 紹介します。3GPP LTE
規格
2009
年
6
月現在
目次
1 LTE
の概念...3
1.1
はじめに... 3
1.2 LTE
要件のまとめ... 4
1.3 UMTS
規格の歴史... 5
1.4
このアプリケーション・ノートにおけるLTE ... 6
1.5 3GPP LTE
仕様のドキュメント... 6
1.6
システム・アーキテクチャの概要... 7
2 LTE
エア・インタフェースの無線機能...11
2.1
無線アクセス・モード... 11
2.2
伝送帯域幅... 11
2.3
サポートされる周波数バンド... 12
2.4
シングル・ユーザのピーク・データ・レートとUE
機能... 13
2.5
ダウンリンクのテクノロジー:OFDM
とOFDMA ... 14
2.6
アップリンクのテクノロジー:SC-FDMA ... 17
2.7
マルチアンテナ手法の概要... 24
2.8 LTE
マルチアンテナ方式... 27
3 LTE
エア・インタフェースのプロトコル...32
3.1
物理層の概要... 33
3.2
物理チャネルと変調(36.211
)... 34
3.3
多重化とチャネル・コード化(36.212
)... 43
3.4
物理層プロシージャ(36.213
)... 46
3.5
物理層測定(36.214
)... 49
3.6
無線リソース管理(36.133
)... 52
4 RF
コンフォーマンス・テスト...58
4.1 UE
のRF
コンフォーマンス・テスト... 59
4.2 UE
のRRM
コンフォーマンス・テスト... 62
4.3 eNB
のRF
コンフォーマンス・テスト... 65
5 LTE
製品開発の問題...69
5.1
デザインのシミュレーションと検証... 70
5.2
アップリンク/ダウンリンク信号の作成... 73
5.3
ベースバンド解析... 74
5.4
アップリンク/ダウンリンク信号の解析... 76
5.5 UE
の開発... 77
5.6 UE
のプロトコル開発とコンフォーマンス・テスト... 78
5.7
ネットワークの配備と最適化... 79
6
今後の展望...81
6.1 IMT-Advanced
の高い要件... 82
6.2 LTE-Advanced
ソリューションに関する提案... 83
6.3
まとめ... 86
3
1
LTE
の概念
1.1
はじめに
W-CDMA
をベースにした第3
世代UMTS
は、世界中で採用されています。このシステムが 今後も競争力を維持できるように、2004
年11
月、3GPP
は、UMTS
携帯電話テクノロジーの 長期的な発展を規定するためのプロジェクトを開始しました。この作業に関連する仕様の 正式名称はE-UTRA
(evolved UMTS terrestrial radio access
)とE-UTRAN
(evolved
UMTS terrestrial radio access network
)ですが、プロジェクト名LTE
で呼ぶ方が一般的です。
LTE
の最初のバージョンは、3GPP
仕様のRelease 8
で文書化されています。SAE
(System Architecture Evolution
)と呼ばれるパラレル3GPP
プロジェクトでは、EPC
(
Evolved Packet Core
)と呼ばれる新しいAll-IP
パケット専用コア・ネットワーク(CN
)を定 義しています。EPC
とevolved RAN
の組み合わせであるE-UTRA plus E-UTRAN
は、EPS
(
evolved Packet System
)です。状況によっては、LTE
、E-UTRA
、E-UTRAN
、SAE
、EPC
、EPS
のいずれの用語も、システムの一部またはすべてを表すのに用いられる場合もありま す。EPS
は、システム全体を表す唯一の適切な用語ですが、システムの名前は通常、LTE/
SAE
または単にLTE
と記されます。3GPP
のLTE
に対する上位レベルの要件には、1
ビットあたりのコストの削減、より優れた サービスの提供、新しい周波数バンドと既存の周波数バンドの柔軟な使用、オープン・インタ フェースによるネットワーク・アーキテクチャの簡素化、端末の消費電力の低減があります。 これらの要件は、LTE
実現可能性調査、3GPP
テクニカル・レポート25.912
[1
]、およびLTE
要件ドキュメント25.913
[2
]に詳しく説明されています。LTE
の開発スケジュールが図1
に示されています。これには、GCF
(Global Certification
Forum
)のコンフォーマンス・テストやLSTI
(LTE/SAE Trial Initiative
)によって実施されているトライアルに加えて、
3GPP
の仕様のドラフト作成作業も含まれています。LSTI
は、LTE
の機能、性能評価や機器の相互接続検証、フィールド試験など、LTE
の商用化のために活動 している団体です。LSTI
の作業は4
つの段階に分かれています。第1
段階は、必ずしも仕様 に準拠しているとは限らない初期のプロトタイプを使用したLTE
およびSAE
の基本原理の 概念実証です。第2
段階はIODT
(相互運用性の開発テスト)で、規格に準拠していますが、 必ずしも商用とは限らないプラットフォームを使用した、より詳細なテスト段階です。第3
段 階はIOT
(相互運用性テスト)で、適用範囲はIODT
と類似していますが、商用配備を目的に したプラットフォームを使用します。最終段階は顧客によるトライアルで、GCF
が最初のUE
を3GPP
コンフォーマンス・テストに備えて認証すると見込まれる、2010
年中頃までには実 施される予定です。2009
年中頃以降になると予測されますが、実際の日付は業界の状況や 進捗次第です。 図1. LTEの開発スケジュール2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
Rel-7実現可能性の調査 Rel-8仕様作成 Rel-8テスト開発 GCFテスト検証 最初の GCF UE認証 最初の トライアル・ ネットワーク 最初の商用 ネットワーク ワークの展開商用ネット LSTI概念実証 LSTIIODT LSTI IOT LSTIの親しい顧客によるトライアル Rel-7実現可能性の調査 Rel-8仕様作成 Rel-8テスト開発 GCFテスト検証 最初の GCF UE認証 最初の トライアル・ ネットワーク 最初の商用 ネットワーク ワークの展開商用ネット LSTI概念実証 LSTIIODT LSTI IOT LSTIの親しい顧客によるトライアル1.2
LTE
要件のまとめ
25.913
で概説されたLTE
の要件を満足するために、LTE
では、以下の実現を目指しています。̶
ダウンリンクとアップリンクのピーク・データ・レートの増加(表
1
を参照)。ダウンリンクは、
64QAM
変調方式を用いる場合にSISO
(シングル入力シングル出力)およびMIMO
(マルチ入力マルチ出力)アンテナ構成として仕様化され、アップリンクは、
SISO
として のみ(ただし、さまざまな変調方式で)仕様化されています。これらは、理想的な無線条 件でのFDD
(周波数分割デュプレックス)エア・インタフェースの場合です。特定のUE
カ テゴリについては、より低いレートが仕様化されています。理想的でない無線条件での 性能要件も作成されました。TDD
については、25.912
に同等の図があります。 ̶アップリンクとダウンリンクで
1.4
、3
、5
、10
、15
、20 MHz
のスケーラブルなチャネル 帯域幅 ̶スペクトラム効率を
Release 6 HSPA
(高速パケット・アクセス)よりダウンリンクで3
∼4
倍、アップリンクで2
∼3
倍改善 ̶小さいサイズのインターネット・プロトコル(
IP
)パケットで5 ms
未満の遅延 ̶0
∼15 km/h
の低速モバイル用に最適化された性能。15
∼120 km/h
では高性能で サポート、120
∼350 km/h
でも動作可能。350
∼500 km/h
に対するサポートは検討中。 ̶All-IP
ネットワークに向けての進化と従来規格との共存表1. TR 25.912 V7.2.0 Table 13.1および13.1aからのLTE(FDD)ダウンリンク/ アップリンクのピーク・データ・レート
FDDダウンリンクのピーク・データ・レート(64QAM)
アンテナ構成 SISO 2×2 MIMO 4×4 MIMO
ピーク・データ・レート(Mbps) 100 172.8 326.4
FDDアップリンクのピーク・データ・レート(単一アンテナ)
変調方式 QPSK 16QAM 64QAM
5
1.3
UMTS
規格の歴史
表2
に、LTE
に向けた3GPP UMTS
仕様の進化の概要を示します。3GPP
仕様の各リリース は、定義された機能セットを表します。各リリースの内容の概要については、www.3gpp.
org/releases
を参照してください。機能凍結日は、リリースへの新項目の追加ができなくな る日付と関係があります。これ以降の仕様の変更は重要な修正に限られます。Release 99
以降、3GPP
は、リリースにその年にちなんだ名前を付けることを止め、Release 4
から始まった新しい方式を選択しました。Release 4
では、TD-SCDMA
(Time
Domain Synchronous Code Division Multiple Access
)とも呼ばれる、1.28 Mcps
の狭 帯域バージョンのW-CDMA
が導入されました。続くRelease 5
では、Release 97
(1998
) のGSM
に対するGPRS
(General Packet Radio Service
)と同様の方法で、HSDPA
(High
Speed Downlink Packet Access
)によりパケット・ベースのデータ・サービスがUMTS
に導 入されました。UMTS
用のパケット・データは、Release 6
で完成し、HSUPA
(High Speed
Uplink Packet Access
)が追加されました。このテクノロジーの公式の用語はE-DCH
(
Ehanced Dedicated Channel
)です。HSDPA
とHSUPA
は現在、総称してHSPA
(High
Speed Packet Access
)と呼ばれています。Release 7
には、実現可能性の調査の終了に伴 うLTE/SAE
に関する第1
次調査結果が盛り込まれました。また、ダウンリンクMIMO
、64QAM
(ダウンリンク)、
16QAM
(アップリンク)など、HSPA
にさらに改良が加えられました。Release 8
では、HSPA
は進化し続け、デュアル・セルHSDPA
や64QAM-MIMO
など、多くの小さな機能が追加されています。しかし、
Release 8
では主に、LTE
とSAE
の仕様化に取り組んでいます。
Release 8
以降の作業も進行中で、LTE
はRelease 10
でさらに機能強化され、4G
としてよく知られている、国際電気通信連合(ITU
)のIMT-Advanced
プログラム向けの候補テクノロジー、
LTE-Advanced
として提案される予定です。3GPP
にはこの他にも、GERAN
(GSM Enhanced RAN
)やIMS
(Internet Protocol
Multimedia Subsystem
)など、表2
に示されていない標準化活動があります。表2. UMTS仕様の進化
Release 機能凍結 リリースの主なUMTS機能
Rel-99 2000年3月 Basic 3.84 Mcps W-CDMA(FDD & TDD)
Rel-4 2001年3月 1.28 Mcps TDD(別名TD-SCDMA)
Rel-5 2002年6月 HSDPA
Rel-6 2005年3月 HSUPA(E-DCH)
Rel-7 2007年12月 HSPA+(64QAMダウンリンク、MIMO、16QAMアップリンク)
LTE/SAEフィージビリティ・スタディ
Rel-8 2008年12月 LTE作業項目: OFOMA/SC-FDMAエア・インタフェース
1.4
このアプリケーション・ノートにおける
LTE
3GPP LTE
は、大ざっぱに"3.9G"
と呼ばれる複数の進化する3G
無線規格の1
つです。その 他の規格には、以下があります。̶
3GPP HSPA+
̶
3GPP EDGE Evolution
̶
Mobile WiMAX
TM(IEEE 802.16e
)、韓国のTelecommunications Technology
Association
(TTA
)によって開発された初期のWiBro
を含みます。どの規格もスペクトラム効率の改善という点で同様の目標を掲げていて、最大の帯域幅と 最高のシングルユーザ・データ・レートを目標としています。スペクトラム効率を改善するた
めに、高次の変調方式と、基本的な送信/受信ダイバーシティから高度な
MIMO
空間ダイバーシティまでのさまざまなマルチアンテナ・テクノロジーを使用します。
3.9G
規格のうち、EDGE Evolution
とHSPA+
は、既存のテクノロジーを直接拡張したものです。
Mobile WiMAX
は、既存のIEEE 802.16d
規格をベースにしたもので、WiBro
では実装が制限されていました。上にリストされている規格の中で、「新規」と見なされるのは
LTE
だけです。3GPP2
により開発が進められてきた別のUMB
(Ultra Mobile Broadband
)規格への取り組みは、
LTE
を優先して、2008
年11
月に中止されました。1.5
3GPP LTE
仕様のドキュメント
3GPP
仕様のRelease 7
に、LTE
のstudy phase
が含まれました。この調査結果は複数のテクニカル・レポートにまとめられ、そのなかの
25.912
と25.913
は注目されてきました。LTE E-UTRA
とE-UTRAN
の仕様自体は、以下のカテゴリから構成されるRelease 8
の36
シリーズに盛り込まれています。
̶
36.100
シリーズ:無線仕様とeNB
(evolved Node B
)コンフォーマンス・テストをカバー ̶36.200
シリーズ:レイヤ1
(物理層)仕様をカバー ̶36.300
シリーズ:レイヤ2
および3
エア・インタフェース・シグナリング仕様をカバー ̶36.400
シリーズ:ネットワーク・シグナリング仕様をカバー ̶36.500
シリーズ:UE
コンフォーマンス・テストをカバー ̶36.800
および36.900
シリーズ:バックグランド情報を含むテクニカル・レポートSAE
の仕様は、Release 8
の22
シリーズ、23
シリーズ、24
シリーズ、33
シリーズに盛り込ま れています。また、Release 9
でも並行して作業が進められています。LTE
とSAE
のドキュメントの最新バージョンについては、http://www.3gpp.org/ftp/specs/latest/Rel-8/
をご覧ください。7
1.6
システム・アーキテクチャの概要
図
2
(技術仕様23.882
[3
]から引用)に、現在の2G/3G
セルラ・ネットワークの複雑さを示します。
EPC
と呼ばれるAll-IP
パケット専用コア・ネットワークを定義するためのSAE
プロジェクトには、このアーキテクチャの簡素化を目指す
3GPP
の動きがあります。LTE
のいくつかの目標を満足させるには、
EPC
の実装も必要になります。LTE
のサポートに加えて、EPC
は、従来の3GPP
(UTRAN
、GERAN
)と3GPP
以外(cdma2000
、802.16
など)のRAN
(無線アクセス・ ネットワーク)をサポートしています。 IMS TE MT UTRAN SMS-SC EIR TE MT 課金 システム* R Um GERAN WAG Uu HLR/AuC* HSS* R C Wn Wp Wu WLAN UE Ww イントラネット/ インターネット Wa Wm Wf Iu Gn Gb, Iu Gf Gr Gd Ga Gi Gn/Gp Gc SMS-GMSC SMS-IWMSC Wi OCS* SGSN SGSN 注記:*要素は、図のレイアウト目的にのみ複製されています。 これらは、アーキテクチャ・ベースラインの同じ論理 エンティティに属しています。 ** は、現在欠落している基準ポイントです。 トラフィックとシグナリング シグナリング HLR/ AuC* 3GPP AAA プロキシ Ga Gy CDF CGF* 3GPP AAA サーバ PCRF AF Rx+ (Rx/Gq) Gx+ (Go/Gx) OCS* UE P-CSCF Mw Cx Dx Wa Wg Gm SLF HSS* CSCF MRFP IMS-MGW Wo D/Gr Dw Mb PDG CGF* 無線LANアクセス・ ネットワーク Wx Mb GGSN Wz Wd BM-SC Gmb Gi MSC Gs PDN ** 課金 システム* Wf Wy 図2. 3Gの論理ベースライン・アーキテクチャ(23.882[3]Figure 4.1-1)図
3
は、LTE evolved RAN
およびEPC
が従来の無線アクセス・テクノロジーとどのように 相互作用するかを詳細に示しています。 GERAN UTRAN SGSN Gb Iu S1 S3 S4 S7 Rx+ S5a S5b S6 SGi IASA S2b S2a PCRF HSS ePDG MME UPE アンカ3GPP アンカSAE GPRSコアEvolved RAN(LTE)
EPC(SAE) 信頼できる3GPP 以外のIPアクセス 無線LAN アクセス・ ネットワーク 無線LAN 3GPP IP アクセス オペレー ション IPサービス (IMS、PSS など) 図3. 上位レベルの論理アーキテクチャ(23.882[3]Figure 4.2-1から引用)
9
EPC
と同様に、LTE RAN
のアーキテクチャも大幅に簡素化されています。図4
(36.300
[4
]から引用)に、
E-UTRAN
を示します。E-UTRAN
には、UE
に対してE-UTRA
のユーザ・プレーン・プロトコル終端と制御プレーン・プロトコル終端を提供する、新しいネットワーク要素
(
eNB
)が含まれています。X2
と呼ばれる新しいインタフェースがメッシュ・ネットワークとしてeNB
間を繋ぎ、各要素のダイレクト接続が可能になり、無線ネットワーク・コントローラ(
RNC
)経由でのデータのやりとりが不要になります。
E-UTRAN
は、S1
インタフェース経由でEPC
に接続されます。S1
インタフェースは、eNB
をMME
(モビリティ管理エンティティ)に接続して、「多対多」のサービング・ゲートウェイ(S-GW
)としての役割を果たします。図4. E-UTRANを持つLTEアーキテクチャ(36.300[4]Figure 4) eNB MME / S-GW MME / S-GW eNB eNB S 1 S1 S1 X 2S1 X2 X2 E-UTRAN
図
5
(36.300
[4
]から引用)に、EPS
のE-UTRAN
とEPC
間の機能分割を示します。黄色の ボックスは論理ノードを、白色のボックスは制御プレーンの機能エンティティを、青色のボッ クスは無線プロトコル層をそれぞれ表します。 仕様上は、eNB
には以下の機能があります。 ̶無線リソース管理 ̶
IP
ヘッダの圧縮と暗号化 ̶UE
アタッチメントでのMME
の選択 ̶ユーザ・プレーン・データの
S-GW
へのルーティング*
̶ページング・メッセージとブロードキャスト情報のスケジューリングと伝送 ̶
モビリティ/スケジューリングに関する測定と測定レポート構成 ̶
ETWS
メッセージのスケジューリングと伝送MME
には以下の多くの機能があります。 ̶NAS
(非アクセス階層)シグナリングとNAS
シグナリング・セキュリティ ̶AS
(アクセス階層)セキュリティ制御 ̶アイドル・ステート・モビリティ制御 ̶
EPS
ベアラ制御S-GW
には以下の機能があります。 ̶eNB
間ハンドオーバ用のモビリティ・アンカ・ポイント ̶ページングを理由にしたユーザ・プレーン・パケットの終了 ̶
UE
モビリティのためのユーザ・プレーンの切り替えP-GW
(PDN
(パケット・データ・ネットワーク)ゲートウェイ)機能には以下が含まれています。 internet eNB RB control Connection mobility cont.eNBmeasurement configuration & provision
Dynamic resource allocation (scheduler) PDCP PHY MME Serving gateway S1 MAC Inter cell RRM
Radio admission control
RLC
E-UTRAN EPC
RRC
Mobility anchoring SAE bearer control Idle state mobility
handling NAS security
11
2
LTE
エア・インタフェースの無線機能
LTE
の無線仕様は、UE 36.101
[6
]に、eNB
(基地局)36.104
[7
]に文書化されています。2.1
無線アクセス・モード
LTE
エア・インタフェースは、FDD
モードとTDD
(時分割デュプレックス)モードをサポートし ています。それぞれが、独自のフレーム構造を持っています。追加のアクセス・モードを定 義でき、半二重FDD
が検討中です。半二重FDD
では、アップリンクとダウンリンクが同時に 使用されることがないため、アップリンクとダウンリンク用のハードウェアを共有できます。 この手法は、いくつかの周波数バンドで使用されていて、コストの削減にもつながりますが、 データ・レートが半減します。LTE
エア・インタフェースは、MBMS
(マルチメディア・ブロードキャストとマルチキャスト・ サービス)もサポートしています。これは、ポイント・ツー・マルチポイント接続を使用して デジタルTV
などのコンテンツをUE
に放送するための比較的新しいテクノロジーです。MBMS
用の3GPP
仕様は、最初にUMTS
用としてRelease 6
で登場しました。LTE
では、よ り高度なeMBMS
(evolved MBMS
)サービスを仕様化する予定です。eMBMS
サービス は、与えられた持続時間のあいだ複数のセルから送信できる時間同期された共通波形を 使用して、MBSFN
(Multicast/Broadcast over single-frequency network
)上で動作 します。MBSFN
を使用すると、UE
でマルチセル伝送の無線結合が可能になります。伝搬 遅延の違いに対応するために巡回プレフィックス(CP
)を使用します。UE
には、伝送が1
つ の大型セルから来るように見えます。この手法により、LTE
をMBMS
伝送に対して大幅に 効率化できます。eMBMS
サービスは、3GPP
仕様のRelease 9
で完全に定義される予定 です。2.2
伝送帯域幅
LTE
は、国際的な無線市場と地域のスペクトラム規制、およびスペクトラムの可用性を サポートする必要があります。この目的を達成するために、仕様には、1.4
∼20 MHz
の範囲 から15 kHz
のサブキャリア間隔で選択可能な、可変チャネル帯域幅が含まれています。新 しいLTE eMBMS
を使用する場合は、7.5 kHz
のサブキャリア間隔も可能です。サブキャリ アの間隔は、チャネル帯域幅に関係なく一定です。3GPP
では、LTE
エア・インタフェースを帯 域幅とは無関係となるように定義しています。これにより、エア・インタフェースを異なるチャ ネル帯域幅に適用するときにシステム動作への影響を最小限に抑えることができます。 アップリンクまたはダウンリンクで割り当て可能な最小量のリソースを、リソース・ブロック (RB
)と呼びます。RB
は180 kHz
幅で、0.5 ms
の時間スロットのあいだ継続します。標準 のLTE
の場合は、RB
は、15 kHz
間隔の12
個のサブキャリアから構成されます。オプション の7.5 kHz
のサブキャリア間隔を持つeMBMS
の場合は、RB
は、0.5 ms
に対して、24
個の サブキャリアから構成されます。表3
に、各伝送帯域幅によってサポートされるRB
の最大 数を示します。 表3. 伝送帯域幅構成(36.101[6]Table 5.6-1に準拠) チャネル帯域幅(MHz) 1.4 3 5 10 15 20 伝送帯域幅構成(MHz) 1.08 2.7 4.5 9 13.5 18 公称伝送帯域幅構成 (N UL RB OR N DLRB)(RB) 6 15 25 50 75 1002.3
サポートされる周波数バンド
LTE
仕様は、UMTS
用に定義されたすべての周波数バンドを継承し、このリストは、膨らみ続 けています。現時点では、15
個のFDD
運用バンドと8
個のTDD
運用バンドがあります。一部 のバンド間には大きな重複が存在しますが、地域のニーズに基づいたバンド固有の性能要 件が存在する可能性があるため、必ずしもこれによりデザインが容易になるわけではあり ません。LTE
は、ローカル変数に大きく依存するため、最初にどのバンドに配備されるかに関 する合意はありません。この合意の欠如は、機器メーカにとっては非常にやっかいな問題で す。この点で、仕様化の対象が1
つのバンドのみであったGSM
やW-CDMA
の開始時とは対 照的です。現在確実に言えることは、ある特定のバンドがある1
つのアクセス・テクノロジー に対して予約されているという仮定はもはやなり立たないということです。 表4. EUTRA運用バンド(TS 36.101[6]Table 5.5-1) E-UTRA 動作バンド アップリンク(UL)運用バンド BS受信 UE送信 ダウンリンク(DL)運用バンド BS受信 UE送信 デュプレックス・モードFUL_low∼FUL_high FDL_low∼FDL_high
1 1920∼1980 MHz 2110∼2170 MHz FDD 2 1850∼1910 MHz 1930∼1990 MHz FDD 3 1710∼1785 MHz 1805∼1880 MHz FDD 4 1710∼1755 MHz 2110∼2155 MHzz FDD 5 824∼849 MHz 869∼894 MHz FDD 6 830∼840 MHz 875∼885 MHz FDD 7 2500∼2570 MHz 2620∼2690 MHz FDD 8 880∼915 MHz 925∼960 MHz FDD 9 1749.9∼1784.9 MHz 1844.9∼1879.9 MHz FDD 10 1710∼1770 MHz 2110∼2170 MHz FDD 11 1427.9∼1452.9 MHz 1475.9∼1500.9 MHz FDD 12 698∼716 MHz 728∼746 MHz FDD 13 777∼787 MHz 746∼756 MHz FDD 14 788∼798 MHz 758∼768 MHz FDD .... 17 704∼716 MHz 734∼746 MHz FDD .... 33 1900∼1920 MHz 1900∼1920 MHz TDD 34 2010∼2025 MHz 2010∼2025 MHz TDD 35 1850∼1910 MHz 1850∼1910 MHz TDD 36 1930∼1990 MHz 1930∼1990 MHz TDD 37 1910∼1930 MHz 1910∼1930 MHz TDD
13
2.4
シングル・ユーザのピーク・データ・レートと
UE
機能
理想条件でのLTE
システムの予想ピーク・データ・レートは非常に高く、ダウンリンクでは100
∼326.4 Mbps
、アップリンクでは50
∼86.4 Mbps
の範囲です(アンテナ構成と変調方式によ り変化します)。これらのレートは、システムがサポートできる最大値を表し、実際のピーク・ データ・レートは、UE
のカテゴリにより低下します。UE
カテゴリは、サポートする必要がある ものに制限を加えます。UE
カテゴリにはさまざまな特性がありますが、最も大きな特性は、 おそらくサポートされるデータ・レートです。36.306
[8
]から引用した表5
に、UE
カテゴリと、UE
カテゴリがサポートするデータを示します。 ダウンリンク用のUE
カテゴリとアップリンク用のUE
カテゴリは同じでなければなりません。 表5. UEカテゴリのピーク・データ・レート(36.306[6]Table 4.1-1と4.1-2から引用) UEカテゴリ データ・レート(ピーク・ダウンリンク・ Mbps) ダウンリンク・アンテナ構成 (eNB送信×UE受信) ピーク・アップリンク・ データ・レート(Mbps) アップリンクでの 64QAMのサポート カテゴリ1 10.296 1×2 5.16 なし カテゴリ2 51.024 2×2 25.456 なし カテゴリ3 102.048 2×2 51.024 なし カテゴリ4 150.752 2×2 51.024 なし カテゴリ5 302.752 4×2 75.376 あり2.5
ダウンリンクのテクノロジー
:
OFDM
と
OFDMA
LTE
のダウンリンクとアップリンクは、複数のテクノロジー(特に、ダウンリンク用のOFDMA
とアップリンク用の
SC-FDMA
)を使用しています。最初にダウンリンクについて考えます。
OFDMA
は、OFDM
の改良版です。OFDM
は、無線システムでは広く使用されていますが携帯電話では比較的新しいデジタル・マルチ搬送波 変調方式です。
OFDM
は、高レートのデータ・ストリームをシングル・キャリアで送信する代わ りに、多くの直交サブキャリアをパラレルに送信します。各サブキャリアは、従来の変調方式 (QPSK
、16QAM
、64QAM
など)を使用して低シンボル・レートで変調されます。数百または 数千個のサブキャリアを組み合わせて、同じ帯域幅で従来のシングル・キャリア変調方式と 同様のデータ・レートを実現します。 図6
(TR 25.892
[9
]から引用)に、周波数−時間軸でのOFDM
信号の主な特長を示します。 周波数ドメインで、複数の隣接トーンまたはサブキャリアがそれぞれ、独立して変調されます。 次にタイム・ドメインで、各シンボル間にガード・インターバルを挿入して、無線チャネルでの マルチパス遅延拡散により生じるレシーバでの符号間干渉を防止します。OFDM
は、通信システムで長年使用されてきましたが、モバイル機器での使用は、それほど 古くはありません。ETSI
(ヨーロッパ電気通信標準化協会)が最初にGSM
用としてOFDM
に着目したのは1980
年代の終わりです。しかし当時は、OFDM
のコアでの多くのFFT
演算 に必要な処理パワーがモバイル・アプリケーションにとっては高価過ぎ、要求が厳し過ぎまし た。1998
年、3GPP
ではUMTS
用としてOFDM
の採用を真剣に検討しましたが、ここでも、CDMA
(コード分割多元接続)をベースにした代替テクノロジーが選択されました。現在で は、デジタル信号処理のコストが大幅に低下し、OFDM
は、商業的に実現可能な無線伝送方 式とみなされるようになっています。 図6. 周波数−時間軸で表現されたOFDM信号(25.892[9]Figure 1) 5 MHzの帯域幅 サブキャリア 周波数 時間 シンボル ガード・インターバルFFT
15
UMTS
のベースであるCDMA
テクノロジーと比較すると、OFDM
には多くの利点があります。̶
OFDM
は、フェージングに対する耐性に優れた帯域幅の広いチャネルに簡単に拡張でき ます。 ̶OFDM
信号はタイム・ドメインではなく周波数ドメインで表されるので、OFDM
チャネル・ イコライザは、CDMA
イコライザよりも実装がはるかに容易です。 ̶OFDM
は、マルチパス遅延拡散に完全に耐性を持つように構成できます。これが可能な 理由は、OFDM
に使用される長いシンボルを、巡回プレフィックス(CP
)と呼ばれるガー ド・インターバルによって分離できるからです。CP
は、先頭に挿入されるシンボルの後ろ の方のコピーです。受信信号を最適な時間にサンプリングすることにより、レシーバは、 無線チャネル内のマルチパス遅延拡散に起因する、隣接シンボル間のタイム・ドメイン干 渉を除去できます。 ̶OFDM
は、MIMO
に適しています。周波数ドメインの信号であるため、マルチパス無線 チャネルの周波数特性と位相特性に合わせて信号を簡単にプリコード化できます。 しかし、OFDM
にはいくつかの欠点もあります。サブキャリアが密接しているため、周波数エ ラーと位相雑音に敏感になります。同じ理由から、OFDM
は、サブキャリア間に干渉を引き起 こすドップラ偏移にも敏感です。また、純粋なOFDM
では、ピークツーアベレージの高い信 号が生成されます。このような理由から、アップリンクではSC-FDMA
と呼ばれる改良テクノ ロジーが使用されています。SC-FDMA
については後述します。セルの端では、
OFDM
はCDMA
より動作が難しいことが知られています。CDMA
では、セル端でのセル間干渉を防止するためにスクランブル・コードが用いられるのに対して、
OFDM
にはこのような機能がありません。このため、セル端で何らかの形の周波数プラニングが 必要になります。図7
は、これを実行する方法の一例です。黄色は、チャネル帯域幅全体を表 し、その他の色は、セル端でのセル間干渉を回避するための周波数再利用のためのプラン を示しています。 図7. セル端でのセル間干渉を回避するための周波数プラニングの例表
6
に、CDMA
とOFDM
の主な違いをまとめます。 標準のOFDM
を使用すると、非常に狭帯域のUE
の伝送が、狭帯域フェージング/干渉の影 響を受ける可能性があります。3GPP
が、ダウンリンクに対してTDMA
が組み込まれているOFDMA
を使用するのはこのためです。OFDMA
を使用すると、図8
に示すように、サブキャ リアのサブセットをチャネル上の異なるユーザに動的に割り当てることができます。結果と して、容量が増加し、信頼性の高い伝送が可能になります。これは、低レート・ユーザを多重 化するトラッキングの効率性と、周波数ごとにユーザをスケジューリングする機能によるも ので、周波数選択フェージングによる影響が少なくなります。 表6. CDMAとOFDMの比較 属性CDMA
OFDM 伝送帯域幅 フル・システム帯域幅 フル・システム帯域幅まで可変 周波数選択スケジューリング 不可 OFDMの主な利点。ただし、レシーバからトランスミッタ へのチャネル条件のリアルタイムでの正確なフィード バックが必要 シンボル周期 非常に短い:システム帯域幅の逆数 非常に長い:サブキャリア間隔で定義、システム帯域 幅とは独立 イコライゼーション 5 MHz以上では困難 信号の周波数ドメイン表示により、いずれの帯域幅に 対しても簡単 マルチパスに対する抵抗 5 MHz以上では困難 CP長までマルチパス歪みがまったくない MIMOに対する耐性 信号がタイム・ドメインで定義されているので、 かなりの演算能力が必要 信号の周波数ドメイン表示と狭帯域割り当てによる チャネル内のリアルタイム変動への対応の可能性か らMIMOに最適 周波数ドメインの歪み/干渉に対する感度 拡散プロセスによりチャネル全体にわたって平均化 狭帯域歪み/干渉の影響を受けやすい ユーザの分離 スクランブル/直交拡散コード 周波数と時間(スクランブル/拡散の追加も可能) ユーザ1
ユーザ2
ユーザ3
サブキャリアOFDM
サブキャリアOFDMA
シ ン ボ ル(時間) シ ン ボ ル(時間) 図8. OFDMとOFDMAのサブキャリアの割り当て17 図9. QPSKデータ・シンボルを送信するOFDMAとSC-FDMAの比較
2.6
アップリンクのテクノロジー
:
SC-FDMA
OFDM
はピークツーアベレージ比(PAR
)が高いため、3GPP
はLTE
のアップリンク用伝送方式として別の方式を探すことになりました。その結果、
GSM
、CDMA
などのシングル・キャリ ア伝送システムの低PAR
手法と、OFDMA
のマルチパス耐性および柔軟な周波数割り当て が組み合わされているSC-FDMA
が選択されました。 タイム・ドメインでのSC-FDMA
シンボルの数学的な記述は、36.211
[10
]sub-clause 5.6
にあります。簡単に説明すると、タイム・ドメインのデータ・シンボルが、離散フーリエ変換 (DFT
)を使用して周波数ドメインに変換されます。次に周波数ドメインで、これらのシンボ ルがチャネル帯域幅全体の必要な位置にマッピングされた後、逆FFT
(IFFT
)を使用してタ イム・ドメインに戻されます。最後に、CP
が挿入されます。SC-FDMA
はこの手法を用いて いるので、離散フーリエ変換拡散OFDM
(DFT-SOFDM
)と呼ばれることがあります。SC-FDMA
については、以下でさらに詳しく説明します。2.6.1
OFDMA
とSC-FDMA
の比較OFDMA
とSC-FDMA
の変調方式の違いを理解しやすいように、図9
にこれらの比較を示し ます。この例ではわかりやすいように、QPSK
変調によって表されたペイロード・データを持 つ、2
シンボル周期上の4
(M
)個のサブキャリアのみを使用しています。前述のように、実際 のLTE
信号は、12
個のサブキャリア単位で割り当てられます。 15 kHz 周波数f
cf
cV
時間 OFDMAシンボル OFDMA シンボル CPOFDMA
データ・シンボルは1 OFDMAシンボル 周期のあいだ15 kHzを占有SC-FDMA
データ・シンボルは1/M SC-FDMAシンボル 周期のあいだM×15 kHzを占有1,1
-1,1
1,-1
-1,-1
Q
I
1, 1
-1,-1
-1, 1
1, -1
1, -1
-1, 1
送信するQPSK
データ・シンボルのシーケンスQPSK
変調 データ・シンボル 60 kHz 周波数V
時間 SC-FDMAシンボル CP 各SC-FDMA シンボル周期中は、 一定のサブキャリア ・パワー-1,-1
1, 1
SC-FDMAシンボル図
9
の左側で各15kHz
のサブキャリア(チャネル帯域幅内に配置済み)は、66.7µs
のOFDMA
シンボル周期のあいだ、1
個のQPSK
データ・シンボルで変調されます。この4
個 のサブキャリアの例では、4
個のシンボルがパラレルに取り込まれます。これらはQPSK
データ・シンボルなので、各サブキャリアの位相のみが変調され、サブキャリアのパワーは シンボル間で一定のままです。1 OFDMA
シンボル周期の経過後、CP
が挿入され、次の4
個のシンボルがパラレルに送信されます。見やすくするために、CP
をすき間として表示し ています。しかし、これは実際には次のシンボルの後ろの方のコピーで埋められます。すな わち、伝送パワーは連続ですが、シンボル境界で位相の不連続があります。送信信号を生 成するために、各サブキャリアでIFFT
を実行して、M
個のタイム・ドメイン信号を作成しま す。次にこれらをベクトル加算して、送信用の最終タイム・ドメイン波形を作成します。SC-FDMA
信号の生成は、特別なプリコード化プロセスで始まりますが、後の手順はOFDMA
とほぼ同じです。しかし、生成プロセスの詳細に移る前に、理解しやすいように 図9
の右側に示された最終結果について説明します。2
つの方式の最も明らかな違いは、OFDMA
は、4
個のQPSK
データ・シンボルをパラレルに(1
サブキャリア当たり1
個)送信す るのに対して、SC-FDMA
は、4
個のQPSK
データ・シンボルを連続的に4
倍のレートで送信 することです。各データ・シンボルは、M
×15 kHz
の帯域幅を占有します。 視覚的には、OFDMA
信号は、明らかに1
サブキャリアあたり1
個のデータ・シンボルを持つ マルチ・キャリアですが、SC-FDMA
信号は、シングル・キャリアにより近く(SC-FDMA
とい う名称の“SC
”はこれに由来します)、各データ・シンボルが1
個の幅の広い信号によって表されます。
OFDMA
とSC-FDMA
のシンボル長は66.7µs
で同じですが、SC-FDMA
シンボルには、変調データを表す
M
個の「サブシンボル」が含まれている点に注意してください。OFDMA
で望ましくない高いPAR
が生じる理由は、複数のシンボルをパラレルに伝送する からです。M
個のデータ・シンボルをM
倍のレートでシリアルに送信すると、SC-FDMA
の 占有帯域幅はマルチ・キャリアOFDMA
と同じですが、PAR
は、元のデータ・シンボルに対 する場合と同じになります。OFDMA
で多くの狭帯域QPSK
波形を加算すると、ピークは、 より帯域幅の広い、シングル・キャリアのSC-FDMA
のQPSK
波形よりも常に大きくなりま す。サブキャリアの個数M
が増加すると、ランダム変調データのOFDMA
のPAR
は、ガウシ アン雑音統計に近づきますが、SC-FDMA
のPAR
は、M
の値に関係なく、元のデータ・シン ボルに対するPAR
と同じままです。19 −1, 1 1, 1 +1 +1 −1 −1 Q V(I) SC-FDMA シンボルの1周期 SC-FDMA シンボルの1周期 V(Q) I −1, −1 1, −1
2.6.2
SC-FDMA
信号の生成 前述のように、SC-FDMA
信号の生成は、特別なプリコード化プロセスから始まります。図10
に、QPSK
データ・サブシンボルのタイム・ドメイン波形を作成する最初のステップを示 します。プロセスでは、図9
の4
色で色分けしたQPSK
データ・シンボルを使用して、1
個のQPSK
データ・シンボルから次のデータ・シンボルへの移動の軌跡を計算することにより、 タイム・ドメインに1
個のSC-FDMA
シンボルを作成します。これをSC-FDMA
シンボルの レートのM
倍で実行して、1
個のSC-FDMA
シンボルにM
個の連続するQPSK
データ・シン ボルが含まれるようにします。実際の実装では、データ・シンボル遷移のタイム・ドメインで のフィルタリングが発生しますが、ここでは説明を省きます。1
個のSC-FDMA
シンボルのIQ
データをタイム・ドメインで作成した後、次のステップでは、DFT
を使用してそのシンボルを周波数ドメインに変換します。これを図11
に示します。DFT
の サンプリング周波数は、1
個のSC-FDMA
シンボルのタイム・ドメイン波形が15kHz
間隔のM
個のDFT
ビンで完全に表されるような値を選択します。各ビンは1
個のサブキャリアを表し、 ビン内では振幅と位相が66.7µs
のあいだ、一定に保たれます。1
つのSC-FDMA
シンボル周期中に送信されるデータ・シンボルの数と、作成されるDFT
ビ ンの数には常に1
対1
の関係があります。この数は、占有されるサブキャリアの数になりま す。1
つのSC-FDMA
周期中に送信されるデータ・シンボルの数が増えると、タイム・ドメイン 波形の変化が速くなり、より広い帯域幅が生成されるので、周波数ドメインで信号を完全に 表現するために必要なDFT
ビンの数が増加します。図11
では、個別のDFT
ビンの振幅/位 相と元のQPSK
データ・シンボル間に直接の関係がなくなっていることに注意してください。 この点で、データ・シンボルがサブキャリアを直接変調するOFDMA
とは異なります。 図10. SC-FDMAシンボルのタイム・ドメイン波形の作成 図11. 1個のSC-FDMAシンボルのベースバンドDFT表示と周波数シフトDFT表示 周波数 周波数V,
Φ
V,
Φ
信号生成プロセスの次のステップは、タイム・ドメインの
SC-FDMA
シンボルのベースバンドDFT
をチャネル帯域幅全体の必要な部分にシフトすることです。信号がDFT
として表現され ているので、周波数シフトは、M
個のビンをより大きなDFT
空間のN
個のビンにコピーする だけの単純なプロセスです。このより大きな空間は、システム・チャネル帯域幅のサイズと等 しくなります。LTE
では、1.4
∼20 MHz
の範囲で6
個の選択肢があります。チャネル帯域幅内 の任意の位置に信号を配置できるので、複数のユーザ間でアップリンクを効率的に共有す るために不可欠なFDMA
を実現できます。SC-FDMA
信号の生成を完了するために、プロセスは、OFDMA
の場合と同じ手順を行いま す。IDFT
を実行して周波数シフト信号をタイム・ドメインに変換し、CP
を挿入してマルチパスに対する
OFDMA
の基本的な信頼性を高めます。図12
に、SC-FDMA
とOFDMA
との関係を 示します。 データを コンスタレー ションに マッピング タイム・ ドメイン波形を 生成 M個の データ・ ビットを 入力 Mポイントの DFTを実行 (時間から周波数) シンボルを サブキャリアに マッピング Nポイントの IFFTを実行 N > M アップ コンバートと 送信 コンスタレー ションを デマッピングして データを生成 コンスタレー ションを生成 Mポイントの IDFTを実行 (周波数から 時間) サブキャリアを デマッピングして シンボルを生成 Nポイントの DFTを実行 N > M 受信と ダウンコンバート タイム・ドメイン 周波数ドメイン タイム・ドメイン M個の データ・ ビットを 出力 SC-FDMAに固有 OFDMAと共通 図12. SC-FDMAとOFDMAの信号の生成と受信モデル21 この時点で、データ・シンボルが依然として短い場合は、当然、
SC-FDMA
のマルチパスへ の耐性が気になります。OFDMA
では、変調データ・シンボルは66.7µs
のOFDMA
シンボル 周期のあいだ一定ですが、SC-FDMA
シンボルは、はるかに持続時間の短いM
個のサブシ ンボルが含まれているので、時間と共に変化します。OFDMA
復調プロセスのマルチパスへ の耐性は、サブキャリアに直接マッピングされる長いデータ・シンボルに依存しているように 見えますが、各サブキャリア(データ・シンボルではない)が一定であるという性質により、遅 延拡散に対する耐性があります。図9
と図11
に示すように、時間変動するSC-FDMA
シンボ ルのDFT
は、SC-FDMA
シンボル周期のあいだ、変調データ・シンボルがたとえ変動したとし ても、時間的に一定のDFT
ビン・セットを生成します。DFT
プロセスの性質として、時間変動 するSC-FDMA
シンボル(M
個のシリアル・データ・シンボルで構成)が、周波数ドメインではM
個の時間的に変化しないサブキャリアで表されます。したがって、短いデータ・シンボルを 持つSC-FDMA
でも、マルチパスに対する耐性があります。M
個の時間的に変化しないDFT
ビンを時間変動する信号によって完全に表現できるという ことは、一見、奇妙に思われるかもしれません。しかし、DFT
の原理は、周波数が異なる2
つの 正弦波の和を考えると簡単に説明できます。結果は、時間的に変動する非正弦波信号とな り、2
つの正弦波によって完全に表されています。表
7
に、OFDMA
変調方式とSC-FDMA
変調方式の違いをまとめます。OFDMA
を一度に1
サブキャリアずつ解析する場合は、元のデータ・シンボルと似ています。しかしフル帯域幅で は、信号は、
PAR
統計とコンスタレーションの点でガウシアン雑音に似ています。逆のことがSC-FDMA
に言えます。この場合は、元のデータ・シンボルとの関係は、信号帯域幅全体を 解析すると明らかになります。元のデータ・シンボルのコンスタレーション(低PAR
)が、SC-FDMA
シンボル・レートのM
倍で回転するのを観察できます。CP
の追加による7
%のレート の低下は無視しています。15 kHz
のサブキャリア間隔で解析する場合は、SC-FDMA
のPAR
とコンスタレーションは意味がなくなります。これらは、データ・シンボルの情報帯域幅 よりM
倍狭いからです。 表7. さまざまな帯域幅でのOFDMAとSC-FDMAの解析 変調方式 OFDMA SC-FDMA 解析帯域幅 15 kHz (信号帯域幅M×15 kHz) 15 kHz (信号帯域幅M×15 kHz) ピークツーアベレージ 電力比 データ・シンボルと同じ 高PAR (ガウシアン) <データ・シンボル (無意味) データ・シンボルと同じ IQ コンスタレーション 1/66.7 µsレートでの データ・シンボルと同じ 無意味 (ガウシアン) 無意味 (ガウシアン) M/66.7 µsレートでの データ・シンボルと同じ2.6.3
SC-FDMA
信号の検討UE
は、eNB
とは異なり、通常チャネル帯域幅全体で送信しません。図13
に、代表的なアップ リンク構成と用語の定義を示します。 図14
に、代表的なSC-FDMA
信号に対して行えるいくつかの測定を示します。ここでは、伝 送帯域幅構成より小さい伝送帯域幅が割り当てられています。6
個の異なるトレースが表示 されています。トレースA
(左上)のコンスタレーションは、目的の信号が16QAM
信号である ことを示しています。単位円は、7
番目のシンボルごとに発生する基準信号(RS
)を表してい ます。シンボルはSC-FDMA
を使用していませんが、直交Zadoff-Chu
シーケンスを使用し て位相変調されています。 伝送帯域幅[RB] 伝送帯域幅構成[RB] チャネル帯域幅[MHz] 中心サブキャリア(ベースバンドのDCに対応) はダウンリンクでは送信されません アクティブ・リソース・ブロック チ ャ ネ ル ・エ ッ ジ リ ソ ー ス ・ ブ ロ ッ ク チ ャ ネ ル ・エ ッ ジ 図13. 1つのE-UTRAキャリアのチャネル帯域幅と伝送帯域幅構成の定義(36.101[6]Figure5.6-1) 図14. 16QAM SC-FDMA信号の解析23 トレース
B
(左下)は、信号パワー対周波数を示しています。周波数スケールは、−600
∼599
で番号付けられた15 kHz
のサブキャリア単位で、18 MHz
(100 RB
)の伝送帯域幅構成を 表します。したがって、チャネル帯域幅は20 MHz
で、割り当てられた伝送帯域幅は、下限に 向かって5 MHz
です。茶色の点は瞬時サブキャリア振幅を表し、白色の点は10 ms
での平 均を表しています。トレースの中央のスパイクは、信号の局部発振器(LO
)のリーケージ(IQ
オフセット)を表しています。右の大きなイメージは、信号内の0.5 dB
のIQ
利得不平衡を使 用して意図的に作成されたOFDM
アーチファクトです。未割り当てのサブキャリアのLO
リー ケージとパワーは、3GPP
仕様によって制限されます。 トレースC
(中央上)は、エラー・ベクトル振幅(EVM
)、周波数エラー、IQ
オフセットを含む、測 定された信号劣化のサマリを示しています。1.15
%のデータEVM
は、0.114
%のRS EVM
よりはるかに高い値です。これは、トレースE
でレポートされたデータ・パワー内の+0.1 dB
の ブーストに起因します。この例では、これはレシーバによって無視され、データ固有のEVM
が作成されます。また、基準信号(RS
)パワー・ブーストが+1 dB
としてレポートされていま す。これは、トレースA
のIQ
コンスタレーションで観察できます。単位円が16QAM
ポイントの うちの8
個を通過していないからです。トレースD
(中央下)は、サブキャリアによるEVM
の分 配を示しています。割り当て信号のEVM
の平均とピークは、トレースC
の数値と一致してい ます。未割り当てのサブキャリアのEVM
の読み値は、はるかに高くなります。ただし、この欠 陥の規模は、新しい「バンド内エミッション」要件によって割り当て済みRB
と未割り当てRB
の電力比として仕様化されています。この特定の信号の比は、トレースB
に示されているよ うに約30 dB
です。トレースD
内の(X
軸に沿った)青色の点が、RS
のEVM
も示しています。 これは非常に低い値です。 トレースE
(右上)は、1
回の捕捉で得られた変調方式別のEVM
の測定結果です。この信号 は、RS
位相変調と16QAM
だけを使用するので、QPSK
の結果と64QAM
の結果はブラン クです。最後に、トレースF
(右下)は、CCDF
(相補累積分布関数)測定のフォーマットでPAR
(
SC-FDMA
のポイント全体)を示しています。SC-FDMA
のOFDMA
に対するPAR
の優位性を
1
つの性能指標を使用して明らかにすることは不可能です。理由は、データ・レートに依存するからです。
OFDMA
のPAR
は、狭い周波数割り当ての場合でも、常にSC-FDMA
より高くなります。ただし、データ・レートが上がり、周波数割り当てが広くなると、
SC-FDMA
のPAR
は一定のままですが、OFDMA
では悪化し、ガウシアン雑音に近づきます。5 MHz
のOFDMA 16QAM
信号は、ガウシアン雑音に非常によく似ています。下側の白色のトレース から、SC-FDMA
信号が、上側の青色のガウシアン基準トレースより3 dB
良くなる確率は0.01
%であることがわかります。アンプのデザイナなら誰でも知っているように、ピーク・パ ワー・バジェットから1 dB
の10
分の1
でも削ることは、大きな改善です。2.7
マルチアンテナ手法の概要
LTE
の核心は、カバレージおよび物理層の容量を拡大するために使用されるマルチアンテ ナ手法の概念です。無線システムにアンテナを追加すれば、放射信号が異なる物理経路を 通るため、性能が向上する可能性があります。主に、3
種類のマルチアンテナ手法がありま す。第1
の手法では、フェージング損失の影響を受けやすい放射信号もあれば、そうでない 放射信号もある経路ダイバーシティを直接使用します。第2
の手法では、アンテナから放射 される電気信号の位相関係を制御して伝送エネルギーを物理的に方向付けるビームステ アリングを使用します。第3
の手法では、マルチ入力マルチ出力(MIMO
)とも呼ばれる空間 多重化またはビームフォーミングを使用して分離する空間分離(アンテナを分離することに よって生じる経路の違い)を使用します。 図15
からわかるように、無線チャネルを使用する方法は4
つあります。簡単にするために、例 では、1
つまたは2
つのアンテナだけを使用しています。無線チャネル・アクセス・モードの分 類に使用されている用語は、デバイスのトランスミッタとレシーバではなく、無線チャネルの 入力と出力を指していることに注意してください。 Tx RxSISO
MISO
SIMO
MIMO
Rx Rx0 Tx0 Rx0 Tx0 Rx1 Tx1 Rx1 Tx1 Tx2.7.1
シングル入力シングル出力 最も基本的な無線チャネル・アクセス・モードは、SISO
(シングル入力シングル出力)で、1
つ の送信アンテナと1
つの受信アンテナのみが使用されます。これは、無線が開始されて以来 のデフォルトの通信方式で、この方式がすべてのマルチアンテナ手法を比較する際のベー スラインとなっています。2.7.2
シングル入力マルチ出力 図15
に示す2
番目のモードがSIMO
(シングル入力マルチ出力)で、1
台のトランスミッタと2
台以上のレシーバが使用されます。SIMO
は、受信ダイバーシティと呼ばれることがありま す。この無線チャネル・アクセス・モードは、2
台のレシーバを使用したときに3 dB
の理論利得 が得られ、低S/N
比(SNR
)の状況に特に適しています。1
個のデータ・ストリームだけが送信 されるので、データ・レートは変化しませんが、使用に適したSNR
が下がるので、セル端での カバレージが向上します。 図15. 無線チャネル・アクセス・モード25
2.7.3
マルチ入力シングル出力MISO
(マルチ入力シングル出力)モードで、2
台以上のトランスミッタと1
台のレシーバを使 用します(図15
には、簡略化のために2
台のトランスミッタと1
台のレシーバのみを示してい ます)。MISO
は、一般に送信ダイバーシティと呼ばれます。同じデータが両方の送信アンテ ナで送信されますが、データは、レシーバが各トランスミッタを識別できるようにコード化さ れます。送信ダイバーシティは、フェージングに対する信号の信頼性を高め、低SNR
条件で の性能が向上します。MISO
によってデータ・レートは増加しませんが、同じデータ・レートを より少ないパワーでサポートします。送信ダイバーシティでは、各送信アンテナの位相とパ ワーの最適なバランスをトランスミッタに指示するために、レシーバからの閉ループ・フィー ドバックを使用できます。2.7.4
マルチ入力マルチ出力 図15
に示す最後のモードが、MIMO
で、2
台以上のトランスミッタと2
台以上のレシーバが 必要です。MIMO
では、複数のデータ・ストリームを同じ周波数と時間で同時に送信し、無線 チャネルの異なるパスの利点をフル活用することにより、空間容量を増やします。システム がMIMO
として機能するには、システムに送信ストリームの数以上のレシーバが必要です。 送信ストリームの数を送信アンテナの数と混同しないでください。トランスミッタが2
台で、1
個のデータ・ストリームしか存在しないTx
ダイバーシティ(MISO
)を考えてみましょう。受信 ダイバーシティの追加(SIMO
)により、2
つのTx
アンテナと2
つのRx
アンテナが関与するようになっても、この構成が
MIMO
になることはありません。すなわちSIMO
+MISO
≠MIMO
。トランスミッタの数をデータ・ストリームの数より多くすることは常に可能ですが、逆はできま せん。
N
個のデータ・ストリームがN
個より少ないアンテナから送信される場合は、空間ダイ バーシティの追加なしでストリームをオーバラップすると干渉が発生するので、レシーバが 何個あってもデータを完全にデスクランブルすることはできません。しかし、N
個以上のアン テナでN
個のストリームを空間的に分離すると、無線チャネル内のパス相関とノイズが十分 低い場合は、N
個のレシーバで、元のデータ・ストリームを完全に再構築できます。MIMO
動作のもう1
つの重要な点は、各レシーバが送信のどの組み合わせが受信されたか を判断できるように、各アンテナからの送信は、一意に識別可能でなければならない点で す。この識別は通常、パイロット信号を使って行われます。パイロット信号は、各アンテナに対 して直交パターンを使用します。無線チャネルの空間ダイバーシティは、
MIMO
によりデータ・レートが増加する可能性がある ことを意味しています。最も基本的な方式のMIMO
では、1
個のデータ・ストリームを各アン テナに割り当てます。これを図16
に示します。 送信 ストリーム 受信 ストリーム クロス・チャネル・ デマッピング チャネル この方式では、1
つのデータ・ストリームが1
つのアンテナに一意に割り当てられます(ダイレ クト・マッピングと呼ばれます)。チャネルは次に、レシーバの各アンテナで各ストリームの組 み合わせがわかるように、2
つの送信を混合します。受信信号のデコードは、巧妙なプロセス です。このプロセスでは、レシーバが、各トランスミッタを一意に識別するパターンを解析す ることにより、各送信ストリームのどんな組み合わせが存在するかを判断します。逆フィルタ の適用と受信ストリームの加算により、元のデータを再作成します。 より高度な方式のMIMO
には、チャネルのEigen
モードへの送信に適合する特別なプリコー ド化が含まれています。この最適化により、各ストリームが複数の送信アンテナに拡散され ます。この手法が効率的に機能するためには、トランスミッタにチャネル条件に関する情報 が必要です。FDD
の場合は、これらの条件を、UE
からのフィードバックによりリアルタイムで 提供する必要があります。こうした最適化によりシステムが非常に複雑化しますが、性能の 向上も得られます。TDD
システムでは、トランスミッタが、同じ周波数上の受信信号を解析す ることにより、チャネル条件を独立して判断できるため、プリコード化にレシーバのフィード バックは不要です。MIMO
の理論的な利得は、送信アンテナと受信アンテナの数、無線伝搬条件、変化する条件 に適応するトランスミッタの能力、SNR
に依存しています。理想的なケースとは、無線チャネ ル内のパスが、ほとんど分離していて完全に非相関で、トランスミッタとレシーバ間の物理 的なケーブル接続にクロストークが存在しない場合です。このような条件を自由空間で実 現することはほぼ不可能であり、非常に多くのバリエーションが可能なので、条件を提示し ないでMIMO
利得を引用することは、無意味です。理想条件におけるMIMO
利得の上限は より簡単に定義できます。2
×2
システムでは、2
個の同時データ・ストリームを使用すると、容 量とデータ・レートを倍にすることができます。MIMO
は、最小の見通し線、高SNR
条件で最 も良く機能します。見通し線は高いチャネル相関と同じで、利得の可能性がなくなります。結 果として、MIMO
は、複雑なマルチパスと限定された見通し線が現われる、屋内環境に特に 適しています。 図16. 2×2 MIMO、プリコード化なし27 シンボル