LTEエア・インタフェースは、物理シグナルと物理チャネルから構成されています。これらは 36.211[10]に定義されています。物理シグナルは、レイヤ1で生成され、システム同期、セ ル識別、無線チャネル評価に使用されます。物理チャネルは、制御、スケジューリング、ユー ザ・ペイロードなどの、上位レイヤからのデータを扱います。
表8に、物理シグナルをまとめています。ダウンリンクで、P-SSとS-SSがセル識別子をエン コードします。これにより、UEで識別とネットワークとの同期が可能になります。
ダウンリンクとアップリンクのどちらにも、他の規格ではパイロット信号と呼ばれる基準信号
(RS)があります。RSは、レシーバで受信信号の振幅と位相のフラットネスの評価に使用さ れます。フラットネスは、送信された信号内のエラーと、無線チャネルに起因する障害に影響 を受けます。RSを使用しないと、受信信号の位相シフトと振幅シフトにより、特に16QAM、
64QAMなどの高次の変調方式で復調の信頼性が低下します。これらの高次の変調方式で
は、受信された信号の振幅や位相のちょっとしたエラーでも、復調エラーを引き起こす可能 性があります。
表8. LTEの物理シグナル
ダウンリンクの物理信号 目的
プライマリ同期信号 UEによるセル・サーチと識別に使用。
セルIDの一部を搬送(3つの直交シーケンスのいずれか)
セカンダリ同期信号 UEによるセル・サーチと識別に使用。
セルIDの残りを搬送(168のバイナリ・シーケンスのいずれか)
基準信号
ダウンリンク・チャネル評価に使用。
セルIDから導出した正確なシーケンス
(3×168=504個の擬似ランダム・シーケンスのいずれか)
アップリンクの物理信号 目的
基準信号(復調とサウンディング) UEとの同期とULチャネル評価に使用
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一方、ユーザ情報とシステム情報は物理チャネルにより送られます。表9に、これらをまとめ ます。W-CDMAの時のようなデディケイテッド・チャネルはありません。これは、パケット専用 システムの特性です。LTEの共有チャネル構造は、シングル・ユーザに対する専用チャネル割 り当てをベースにしたオリジナルのW-CDMAよりも、HSPAに近くなっています。
表9. LTEの物理チャネル
DLチャネル フル名称 目的
PBCH Physical broadcast channel セル固有情報を搬送
PMCH Physical multicast channel MCHトランスポート・チャネルを搬送
PDCCH Physical downlink control channel スケジューリング、ACK/NACK PDSCH Physical downlink shared channel ペイロード
PCFICH Physical control format indicator channel 1サブフレームあたりのPDCCH OFDMA シンボル数を定義(1、2、3または4) PHICH Physical hybrid ARQ indicator channel HARQ ACK/NACKを搬送
ULチャネル フル名称 目的
PRACH Physical random access channel 呼設定
PUCCH Physical uplink control channel スケジューリング、ACK/NACK PUSCH Physical uplink shared channel ペイロード
3.2.1 フレーム構造
物理層は、前述の2種類の多元接続方式(ダウンリンクのOFDMAとアップリンクの SC-FDMA)をサポートしています。さらに、ペアになっているスペクトラムとペアになっていな いスペクトラムが、それぞれFDD(周波数分割デュプレックス)とTDD(時分割デュプレック ス)を使用することによりサポートされています。
LTEのダウンリンクとアップリンクでは、異なる多元接続方式を使用しますが、共通のフレー ム構造を共有しています。フレーム構造は、フレーム、スロット、シンボルをタイム・ドメインで 定義しています。LTEについては、2種類のフレーム構造が定義されています。これらの構造 を、図21と22に示します。
フレーム構造タイプ1は、FDDモードに対して定義されています。各無線フレームの長さは 10msで、10個のサブフレームから構成されています。サブフレームにはそれぞれ2個の スロットがあります。FDDでは、アップリンクとダウンリンクは、異なるスペクトラムを使用し ますが、フレーム構造は同じです。
フレーム構造タイプ2は、TDDモードに対して定義されています。図22に、例を示します。こ の例は、スイッチ・ポイント周期が5 msの場合です。2個の5 msハーフ・フレームが含まれて いて、合計時間は10 msです。サブフレームは、アップリンク・サブフレーム、ダウンリンク・サ ブフレーム、伝送ギャップ・ガード周期(GP)で分離されたダウンリンク/アップリンク・パイ
1個の無線フレーム、Tf = 307200 × Ts = 10 ms
1個の無線フレーム、Tf = 307200 × Ts = 10 ms 1個のハーフフレーム、153600 × Ts= 5 ms
1個のサブフレーム、30720 × Ts = 1 ms
DwPTS UpPTS DwPTS UpPTS
ガード間隔 ガード間隔
1個のスロット、Tスロット= 15360 × Ts= 0.5 ms 1個のスロット、Tスロット= 15360 × Ts = 5 ms
1個のサブフレーム
サブフレーム 0 サブフレーム 1 サブフレーム 9
#0
#0 #2 #3 #4 #5 #7 #8 #9
#1 #2 #3 #18 #19
図21. LTEのフレーム構造タイプ1(36.211[10]Figure 4.1-1)
図22. 5 msのスイッチ・ポイント周期のLTEのフレーム構造タイプ2(36.211[10]Figure 4.2-1に準拠)
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3.2.2 OFDMシンボルと巡回プレフィックス
OFDM方式(ここでは、SC-FDMAを含む)の主な利点の1つは、マルチパス遅延拡散に対す る耐性です。長いOFDMシンボルでは、各シンボル間にガード間隔を挿入することができ、
マルチパス遅延拡散によるシンボル間干渉がなくなります。ガード間隔が無線チャネルの遅 延拡散より長い場合や、各OFDMシンボルが周期的にガード間隔まで入り込む場合は(シン ボルの終わりを始まりにコピーして巡回プレフィックスを作成することによる)、シンボル間 干渉を完全に除去することができます。
図23からは、ノーマル巡回プレフィックスでは1スロットに7個のシンボルがあることがわか ります。
表10に、ダウンリンクとアップリンクの巡回プレフィックス長を示します。ダウンリンクの場 合は、Δfは15 kHzまたは7.5 kHzのサブキャリア間隔を表します。144×Tsのノーマル巡回 プレフィックスでは、1.4 kmまでのマルチパス遅延拡散に対応できます。最長の巡回プレ フィックスでは、10 kmまでの遅延拡散に対応できます。
N DLsymb OFDMシンボル(=ノーマルCPで7個のOFDMシンボル) 1スロット= 15360 × Ts
巡回プレフィックス 160
0 1 2 3 4 5 6
2028 144 2028 144 2028 144 2028 144 2028 144 2028 144 2028 (x Ts)
図23. ノーマル・プレフィックスのOFDMシンボル構造(ダウンリンク)
表10. OFDM(ダウンリンク)とSC-FDMA(アップリンク)の巡回プレフィックス長(36.211[10]Table 6.12-1 および5.6-1に準拠)
OFDM構成(ダウンリンク) 巡回プレフィックス長
NCP、l
ノーマル巡回プレフィックス Δf = 15 kHz 160(l = 0で)
144(l = 1、2、...、6で)
拡張巡回プレフィックス Δf = 15 kHz 512(l = 0、1、...、5で)
Δf = 15 kHz 1024(l = 0、1、2で)
SC-FDMA構成(アップリンク) 巡回プレフィックス長
NCP、l
ノーマル巡回プレフィックス 160(l = 0で)
144(l = 1、2、...、6で)
拡張巡回プレフィックス 512(l = 0、1、...、5で)
3.2.3 リソース・エレメントとリソース・ブロック
リソース・エレメントは、物理層の最小単位で、タイム・ドメインでは1個のOFDMまたは SC-FDMAシンボルを占有し、周波数ドメインでは1個のサブキャリアを占有します。これを図24 に示します。
1個のダウンリンク・スロットTスロット 1個のダウンリンク Tスロット
(a) (b)
リソース・ブロック N DLsymbol× N RBSC
リソース・ブロック N DLsymbol× N RBSC
リソース・
エレメント(k、l)
リソース・
エレメント(k、l)
I = 0 I = NDLsymbol−1 I = 0 I = NDLsymbol−1
N DLsymbol SC-FDMAシンボル N DLsymbol OFDMシンボル
N DL- RB
× N
RB SC サブキャリア DL- RB RB SC N × N サブキャリア
N RB SC サブキャリア N RB SC サブキャリア
リソース・ブロック(RB)は、伝送のスケジューリングが可能な最小単位です。RBは、タイム・ド メインでは0.5 ms(1スロット)、周波数ドメインでは180 kHzを物理的に占有します。1 RB 当たりのサブキャリア数と1 RB当たりのシンボル数は、巡回プレフィックス長とサブキャリア 間隔の関数として変化します(表11を参照)。ダウンリンクとアップリンクの明らかな違いは、
ダウンリンク伝送は、シングル周波数ネットワーク(MBSFN)に対するマルチキャスト/ブ ロードキャストに使用される7.5 kHzのサブキャリア間隔に対応していることです。7.5 kHz のサブキャリア間隔では、シンボルの長さが2倍になるので、より長いCPを使用して、複数の
MBSFNセルから受信する際に見られるより大きな遅延拡散に対応することができます。
図24. アップリンク(a)とダウンリンク(b)のリソース・エレメント(36.211 Figures 5.2.1-1および6.2.2-1)
表11. 物理リソース・ブロックのパラメータ(36.211[10]Table 6.2.3-1および5.2.3-1)
ダウンリンク構成 N RBSC N RBSymb
ノーマル巡回プレフィックス Δf = 15 kHz
12 7
拡張巡回プレフィックス Δf = 15 kHz 6
Δf = 7.5 kHz 24 3
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3.2.4 例: FDDダウンリンクのリソース・エレメントへのマッピング
プライマリ/セカンダリ同期信号、基準信号、PDSCH、PBCH、PDCCHは、ほとんどの 場合、ダウンリンクの無線フレーム内に存在します。次のような割り当て(物理マッピング)
優先ルールがあります。信号(基準信号、プライマリ/セカンダリ同期信号)は、PBCHよりも 優先されます。PDCCHはPDSCHよりも優先されます。PBCHとPDCCHは、同じリソース・
エレメントに割り当てられることはないので、衝突しません。
図25と26に、LTE FDDのマッピング例を示します。プライマリ同期信号は、中央の62個の サブキャリアのスロット#0とスロット#10の最後のシンボルにマッピングされています。セカ ンダリ同期信号は、プライマリ同期信号の直前のシンボルに割り当てられています。基準信 号は、各スロットのシンボル#0とシンボル#4にあります。基準信号は、他のすべての割り当 てより優先されます。
PBCHは、中央の6個のRBのスロット#1の最初の4つのシンボルにマッピングされていま す。図25に示すように、PDCCHは、各サブフレームの最初の3つのシンボル(RBの数が10 以上の場合は4つのシンボル)に割り当てることができます。残りの未割り当ての領域は、
PDSCHに使用できます。
図25. ダウンリンクのマッピング例(ノーマル巡回プレフィックス)
サブフレーム = 2 スロット = 1 ms
1 フレーム
= 10 サブフレーム = 1 ms
プライマリ同期信号 セカンダリ同期信号 PBCH
PDCCH PDSCH 基準信号
図26. ダウンリンクのマッピング例:周波数(サブキャリア)対時間 周波数
時間