博 士 ( 工 学 ) 吉 田 憲 充
学 位 論 文 題 名
イ オ ン 伝 導 性 ア モ ル フ んス 半導 体 にお ける 粒 子線 照射 効 果
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
アモルファ.ス半導体は現在、太陽電池や相変化型光メモリーなどとして利用されている。
ここ で後者fま、アモルファス半導体に光を照射することによって生じるアモルファス状態 と結 晶の間の 相転移 現象を利 用した ものである。アモルファス半導体で、このような相変 化が 生じるの は、ア モルファ ス半導 体が次のような構造的・熱力学的な特徴を有するから である。
まず 、アモ ルファス 半導体は 結晶と 比較して、原子配列が不規則である。またアモルフ ァス 半導体は 熱力学 的に非平 衡な物 質である。これらのことが原因となって、アモルファ ス半 導体に光 照射や 熱処理な ど外部 からエネルギーを与えると、その構造や状態が比較的 容易に変化する。
一方 、アモ ルファス 半導体で は構造 の不規則性ゆえに、結晶半導体と比較して大面積の 試料を得ることができる。さらに、組成をある程度自由に変化させることができるために、
物質 の物性を 連続的 に制御す ること が可能となる。これらの特性は、結晶では到底実現で きそうにもない。
以上 のよう にアモル ファス半 導体は 、物理・化学的に興味があるだけでなく、応用上も ・丶
重要な材料であると思われる。
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アモル ファス 半導体の 代表例の ひとっ であるカ ルコゲ ナイドガ ラスは 、金属( 例えば Ag)と 光化学 反応する ことが知 られて いる。すなわち、光照射によって金属元素の移動が 誘起 され、結 果とし てガラス の組成 が変化するのである。また、光化学反応は不可逆的に 進 行す る。っま り、光 照射によ ってガ ラス中を 移動し たAgは元に は戻ら ない。こ の現象 は、 超高解像 度のフ ォトレジ ストや 光メモリーへの応用が可能であるため、これまでに非 常に 多くの研 究がな されてき た。し かしながら、Ag移動のメカニズムにっいては未知の部 分を 多く残し ている のが現状 である 。したがって、Agの移動を可逆的に制御することがで きた り、Ag移 動のメカ ニズムを 明らか にすることは、基礎的あるいは応用上の観点から意 義のあることと思われる。
本研 究は、Agを含むカルコゲナイドガラスAg一As(Ge)−S(Se)における粒子線照射効果 ‑ 686―
を実験および現象論的な解析により調べたものである。ここで粒子線とは、光・電子線お よびコロナ放電によるイオン流を意味する。目的として、第一にAgの移動を可逆的に制 御することである。第二に、Ag→As(Ge)−S(Se)ガラスにおける粒子線照射によるAg移動 のメカニズムを明らかにすることである。本研究により、粒子線と物質の相互作用あるい fよランダム系における原子の移動現象について、知見が深まることが期待できる。
本論文は7章から構成されている。
第1章では、本研究の背景と目的を述べる。
第2章では、AgーAs―Sガラスにおける光照射効果にっいて述べる。ここでは、まず光誘 起化学修飾という新しいAgの移動現象を発見したことを述べる。カルコゲナイドガラス において、Agを初めて可逆的に移動させることができた。また、Ag移動のメカニズムを 光一正孔(電子), Ag゛イオンの相互作用によって現象論的に説明できたことを述べる。
第3章では、Ag一As―Sガラスにおける電子線照射効果にっいて述べる。ここでは電子線 照射によってもAgの移動を誘起させ得る(電子線誘起化学修飾)ことを述べる。また、
Ag移動のメカニズムを電子線ー正孔(電子)−Ag゛イオンの相互作用によって説明でき たことを述べる。
第4章で は 、Ag一As−Sガ ラス の コ 口ナ 放 電 によ るAgの 移 動にっい て述べる 。 第5章では以上の内容を受け、ガラス中の原子(イオン)の粒子線照射による移動につ いて考察する。まず、光誘起化学修飾と電子線誘起化学修飾におけるAgの移動量を定量 的に比較し、その結果を光および電子線とAg―As―Sガラスの相互作用のモデルに基づいて 解釈する。また、カルコゲナイドガラスにおける粒子線照射によるAgの移動現象にっい て、諸特性を比較検討する。
第6章では、Ag―As(Ge)―S(Se)ガラスを用いた新しい応用例にっいて提案する。
第7章では、本研究を総括する。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 田 中 啓 司 副 査 教 授 前 晋 爾 副 査 教 授 田 村 信一 朗
学 位 論 文 題 名
イ,オン伝導性アモルフんス半導体における粒子線照射効果
アモルフ ァス半 導体に関 する研 究は1950年代 から開 始され、様々な光誘起現象が発見 された。 これらの光誘起現象は結晶の半導体では発現せず、非平衡系であるアモルファス 半導体に 固有であると考えられている。以来、光誘起現象は基礎と応用の両面から研究さ れ、現在 では、相変化型光メモリーなどとして実用化されている。しかしながら、アモル ファス半 導体に おける光 誘起現 象の起源 などにっ いては 、依然として不明な点が多い。
そのーっが、カルコゲナイド系アモルファス半導体(カルコゲナイドガラス)と銀との 不可逆的 な光化学反応に関するものである。これにっいては従来、光ドープ、光析出と呼 ばれるニ っの現象が知られていた。しかし、いずれの現象においても銀の移動は不可逆的 であり、 移動を制御することはできなかった。また、光照射でなぜ銀が移動するのかとい った問題 にも明確に答えることができなかった。さらにまた、光のかわりに電子線を照射 するとどうなるのか、といったことも研究が十分ではなかった。
本論文は、銀を含むカルコゲナイドガラスAgーAs (Ge)―S(Se)における光、電子線、イオ ン流の照射効果に関する一連の研究をまとめたものである。特に、Ag−As (Ge)−S(Se)ガラ スが光学 的には半導体であるが、電気的には銀イオンと正孔の伝導をあわせもつ混合伝導 体である ことに着目し、粒子線照射効果にっいて詳しく考察している。本論文の成果は、
次の4点に要約される。
(1)Ag―As−Sガラスにおいて光誘起化学修飾という銀の可逆的な移動現象を発見した。
(2) Ag−As―Sガラスにおいて、電子線やイオン流の照射によって、多量の銀を移動させ得 るこ と 発 見し た 。 また 、 移動 した銀 はマクロ な体積 膨張をも たらす ことを発 見した。
(3) 上記の光や電子線の照射による銀移動現象のメカニズムを、統一的に説明Lた。っま り「光ま たは電子線の照射によって励起された正孔の拡散が、ガラス内部に電場を生じさ せ、この 電場がAg゛イオンの移動を誘起する」と考えた。このアイデアを現象諭的に解析 することによって、実験結果に対する定量的説明を与えた。
(4)上記の現象の応用にっいて研究し、光化学電池や電子線直接書き込み回折格子などを 試作した。
これを要するに、著者は、銀を含むカルコゲナイドガラスにおける粒子線照射効果に関 して、新しい現象の発見、その理論的解釈、ならびに応用素子の試作を行ったものであり、
ラン ダ ム 系固 体 物 理学 お よび 応用物 理学の進 歩に貢 献すると ころ大 なるもの がある。
よって著 者は、 北海道大 学博士 (工学) の学位 を授与さ れる資格あるものと認める。
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