博士(工学)亀田充史 学位論文題名
ポ リリン酸 を利用し た新規 ATP 再生系の 構築に 関する研 究
学位論文内容の要旨
ポリリン酸はりン酸が直鎖状に数個から数千個結合したポリマーであり、自然 界において原核生物から高等真核生物に至る様々な生物でその存在が確認されて いる。ポリリン酸の生体内機能は、生体内エネルギー中間体であるATP、および DNA、RNAを構成するヌクレオチド合成の際のりン酸基の供給源、金属イオンの キレート剤、生体内のpH安定化のための緩衝作用、ストレス応答遺伝子の発現 制御、などがあげられる(Kornberg 1995)。本研究では、ヌクレオチド合成におけ るりン酸供給源としてのポリリン酸の役割に注目し、珈vitroにおいてポリリン酸 をりン酸源として利用するATP再生系の構築を目的とした。ATPを含むヌクレオ チド3リン 酸(NTP)は生 体物質の合 成に関わる さまざまな酵素反応において必 要とされ、その反応を工業的な物質生産に利用する際に必要となる。NTPを随時 反応系に添加して物質生産を行うとコストがかさむため、その効率的な再生系が 必要不可欠となる。本論文は5章から構成され、それぞれの概略は以下の通りで ある。
第 1章 は 序 章 で あ り 、 本 研 究 の 背 景 、 目 的 を 明 ら か に し た 。 第2章では、ATP再生系を構築する要素であるニつの酵素、Polyphosphate‑AMP phosphotransferase(PAP)とP01yphosphatebnaSe(PPK)の生化学的性質およびそ の調製法について記した。M畑印甜恥施門m恥はグラム陰性の桿菌で、菌体内に大 量のポリリン酸を蓄積することが知られている。この菌は増殖が定常期に入ると ポリリン酸を蓄積しはじめ、それに伴ってPAP活性が上昇する。このPAP活性は 主に菌体破砕物の不溶性画分で見られ、これを界面活性剤で処理することにより PAPを 粗 精 製 し た 。 こ の 粗 精 製 し たPAPを 用 い てP01yphosphate‐NMP phosphotransferaSe活性を調べたところ、AMP以外にもGMPでもりン酸転移反応 が起こることが観察された。また、PAPの生化学的性質は最適pHは8.5で、Mg2十 イオン要求性であり、NHr、およびS(やイオンの存在によって活性が上昇した。
PPKにつ いては大腸 菌のPPKのN末端にヒスチジンタグが付加された形で発現す る組換えDNAを作成し、大量発現、精製を行った。
第3章で は 、PAPとPPKの 組 み合 わ せに よ って 、AMPか らATPを再 生 する 各 種反応条件の検討を行った。その結果、実際にPAPとPPKによってポリリン酸を りン酸源 としたAMPからのATP再生が行わ れることが 分かった。また反応系に おけ る 初 期AMP濃 度 、初 期 ポリ リ ン酸 濃 度を検討し た結果、初 期AMP濃度 は ATP再生の速度に影響すること、初期ポリリン酸濃度はATP再生量に大きく影響 することが分かった。
第4章で は 、PAPとPPKに よ るATP再生 系 の応 用 につ い て検 討 した 。ATPを 要求するモデル反応系として、Acetyl‑CoAsynthaSe(ACS)により触媒され酢酸と COAか らAceM‐COAを 合成 す る反 応 を選 び 、PAPとPPKによ るATP再生 系 と組 み合わせて反応を行った。その結果、PAP活性とPPK活性が共存する場合でのみ AceM‐(ニoA合成 が見られ、PAPとPPKによるATP再生系によりAce卿_COA合成 に必要なATPが合成されACSの触媒する反応が進行していることが確認できた。
また反応系に添加する初期ポリリン酸量の増加により、PAP活性、PPK活性に必 要なMg゜+イオンがキレートされATP再生効率が低下するため、反応系に添加す るMg +イオンの量に関する条件検討を行った。その結果、初期ポリリン酸濃度が 30mMのと きの最適Mg2十イオ ンは24mMであり 、初期ポリ リン酸濃度 の増加に 伴い最適Mg2十イオン濃度も上昇することが示唆された。各種条件検討の結果、
PAPとPPKによるATP再生系を用 いて約10mMのAcetyl―( ニoAの合成に 成功し た。 こ の 反応 系 の初 期AMP量はO.25mM、 初期ポ1Jリン 酸量は30mMであり 、 ATPはポ1J1Jン酸によって約40回再生されていることが分かろた。また、PAPが GMPを りン 酸 化す る 活性 も 有す る とぃ う 第2章の 結果と、PPKはNDPとポリリ ン酸 か らNTPを合成す るNDK活性 を持っとぃ う報告(Ku岡aandKomberg1997) からPAPとPPKに よ るATP再 生 系はGTP再 生系と しても利用 できること を示し た。その実証実験として、GMPとP P]ラベルしたポリリン酸を基質としてPAP とPPKによる反応を行ったところ、[32P]GTPが再生されることが観察され、PAP とPPKに よるATP再 生系iまGTP再生 系としての 利用も可能であることが示唆さ れた。
第 5章 は 総 括 で あ り 、 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 を 総 括 し た 。 本 研 究によっ てポリリン 酸をりン酸 源とし、PAPとPPKを用いるこ とでAMP からのATPの再生を 行う再生系を構築した。ポリリン酸は現在利用されている ATP再生系のりン酸源と比較してかなり安価なことから、このATP再生系の利用 によりATPを必要とする酵素反応を利用した有用物質の工業的生産の低コスト化
が期待される。また、ATP再生だけでなくGTP再生も可能であることも確認し、
ポ リ リ ン 酸 を 利 用 し て の NTP再 生 系 へ の 足 が か り を 示 し た 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ポ リリ ン酸 を利用した新規 ATP 再生系の 構築 に関 する研 究
ポ リ リ ン 酸 は り ン 酸 が 直 鎖 状 に 数 個 か ら 数 千 個 結 合 し た ポ リ マ ー で あ り 、 自 然 界 に お い て 原 核 生 物 か ら 高 等 真 核 生 物 に 至 る 様 々 な 生 物 で そ の 存 在 が 確 認 さ れ て い る 。 ポ リ リ ン 酸 の 生 体 内 機 能 は 、 生 体 内 工 ネ ル ギ ー 中 間 体 で あ るATP、 お よ ぴ DNA、RNAを 構 成 す る ヌ ク レ オ チ ド 合 成 の 際 の り ン 酸 基 の 供 給 源 、 金 属 イ オ ン の キ レ ー ト 剤 、 生 体 内 のpH安 定 化 の た め の 緩 衝 作 用 、 ス ト レ ス 応 答 遺 伝 子 の 発 現 制 御 、 な ど が あ げ ら れ る 。 本 研 究 で は 、 ヌ ク レ オ チ ド 合 成 に お け る り ン 酸 供 給 源 と し て の ポ リ リ ン 酸 の 役 割 に 注 目 し、in vitroに お い てポ リ リ ン酸 を り ン酸 源 と し て 利 用 す る ATP再 生 系 の 構 築 を 目 的 と し た 。 ATPを 含 む ヌ ク レ オ チ ド3リ ン 酸 (NTP)は 生 体 物 質 の 合 成 に 関 わ る さ ま ざ ま な 酵 素 反 応 に お い て 必 要 と さ れ 、 そ の 反 応 を 工 業 的 な 物 質 生 産 に 利 用 す る 際 に 必 要 と な る 。NTPを 随 時 反 応 系 に 添 加 し て 物 質 生 産 を 行 う と コ ス ト が か さ む た め 、 そ の 効 率 的 な 再 生 系 が 必 要 不 可 欠 と な る 。 本 論 文 は 5章 か ら 構 成 さ れ 、 そ れ ぞ れ の 概 略 は 以 下 の 通 り で あ る 。 第 1章 は 序 章 で あ り 、 本 研 究 の 背 景 、 目 的 を 明 ら か に し た 。 第2章 で は 、P. aeruginosaの ぼ 庇 遺 伝 子 とppx遺 伝 子 の 同 定 と そ の 解 析 を 行 っ た 。ppk遺 伝 子 の 下 流 に はppx遺 伝 子 が 逆 向 き に コ ー ド さ れ て お り 、 そ れ ぞ れ の 終 端 部 分 は14塩 基 分 重 な っ て い た 。M. xanthusは グ ラ ム 陰 性 の 桿 菌 で 、 菌 体 内 に 大 量 の ポ リ リ ン 酸 を 蓄 積 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 こ の 蓄 積 に 伴 っ て 高 ま る ポ リ リ ン 酸 代 謝 活 性 に よ っ て ポ リ リ ン 酸 か らATPを 合 成 し て い る と 考 え ら れ た 。ATP再 生 系 をPolyphosphate−AMPphosphotransferase(PAP)とPolyphosphate kinase (PPK)に よ っ て 構 築 す る こ と を 決 定 し 、 こ の ふ た つ の 酵 素 の 生 化 学 的 性 質 お よ び そ の 調 製 法 に つ い て 記 し た 。PAP活 性 はM. xanthusの 不 溶 性 画 分 で 見 ら れ 、 こ れ を 界 面 活 性 剤 で 処 理 す る こ と に よ りPAPを 精 製 し た 。 こ の 精 製 し たPAPを 用 い て
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信 一
夫 一
正
晋
民
肇
方 下
館
棟
木
上
柴
授 授
授 授
教
教
教
教
助
査
査
査
査
主
副
副
副
Polyphosphate‑NMP phosphotransferase活性を調べたところ、AMP以外にもGMPで もりン酸転移反応が起こることが観察された。また、PAPの生化学的性質は最適 pHは8.5で、Mg2゛イオン要求性であり、NH4+、およびSO。2・イオンの存在によっ て 活性が上昇した。PPKについては大腸菌のPPKのN末端にヒスチジンタグが付 加 された形で発現する組換えDNAを作成し、大量発現、精製を行った。また、
PAPの生化学的性質は最適pHは中性付近で、Mg2゛イオン要求性であった。この His‑tagged PPKを 用 い て NDK活 性 が 見 ら れ る こ と を 確 認 し た 。 第3章 で は、PAPとPPKの 組み 合 わせ に よっ て 、AMPからATPを合成す る各 種反応条件の検討を行った。その結果、実際にPAPとPPKによってポリリン酸を り ン酸源とし たAMPから のATP合成 が行われることが分かった。また反応系に お け る初 期AMP濃 度、 初 期ポ リリン酸 濃度を検討 した結果、 初期AMP濃 度は ArP合成の速度に影響すること、初期ポリリン酸濃度はATP合成量に大きく影響 することが分かった。
第4章 で は、PAPとPPKに よるATP再 生系 の 応用 に つ いて 検 討した。ATPを 要求するモデル反応系として、Acetyl一COAsynthase(ACS)により触媒され酢酸と COAからAcetyl―COAを合成する 反応を選び 、PAPとPPKによるATP再生系 と組 み合わせて反応を行った。その結果、PAP活性とPPK活性が共存する場合でのみ Acetyl−COA合成が見られ、PAPとPPKによるATP再生系によりAcetyl‐COA合成 に必要なATPが合成されACSの触媒する反応が進行していることが確認できた。
また反応系に添加する初期ポリリン酸量の増加により、PAP活性、PPK活性に必 要なMg ゛イオンがキレートされATP再生効率が低下するため、反応系に添加す るMg ゛イオンの量に関する条件検討を行った。その結果、初期ポリリン酸濃度が 30mMのと きの最適Mg2゛イオン は24mMであり、 初期ポリリ ン酸濃度の 増加に 伴い最適Mg゜゛イオン濃度も上昇することが示唆された。各種条件検討の結果、
PAPとPPKに よ るATP再 生 系 を 用 い て 約10mMのAcetylICOAの合 成 に成 功 し た 。 この 反 応系 の 初期AMP量 は0.25mM、初期ポリ リン酸量は30mMで あり、
ATPはポリリン酸によって約40回再生されていることが分かった。また、PAPが GMPを り ン 酸化 す る活 性 も有 するとぃ う第2章 の結果と、PPKはNDPとポリリ ン 酸 からNTPを 合 成す るNDK活性 を 持っ と ぃ う報 告 からPAPとPPKによるATP 再 生系はGTP再生系としても利用できることを示した。その実証実験として、
GMPと[ P]ラベルしたポリリン酸を基質としてPAPとPPKによる反応を行った ところ、[32P]GTPが再生されることが観察され、PAPとPPKによるATP再生系は GTP再生系としての利用も可能であることが示唆された。
第 5章 は 総 括 で あ り 、 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 を 総 括 し た 。 これ を要するに、著者は本研究によってポリリン酸をりン酸源とし、PAPと PPKを用いる ことでAMPからのATPの再生を行 う再生系を 構築した。 ポリリン 酸 は現在利用されているATP再生系のりン酸源と比較してかなり安価なことか ら、このATP再生系の利用によりATPを必要とする酵素反応を利用した有用物質
の工業的生産の低コスト化が期待される。また、ATP再生だけでなくGTP再生も 可能であることも確認し、ポリリン酸を利用してのNTP再生系への足がかりを示 した。本研究は、ポリ1Jン酸の工業的な利用への方法を示すことで、酵素工学の 発展に貢献するところ大なるものがある。よって著者は北海道大学博士(工学)
の学位を授与される資格あるものと認める。