博士(医学)能條 建 学位論文題名
反射分光解析法を用いたラット慢性脳虚血モデルの 脳循環予備能の検討
学位論文内容の要旨
急 性の 脳虚 血・ 再灌 流の 実験 的研 究が数 多く 報告 され る中 で, 再灌 流可 能な慢性脳 虚 血に 関す る報 告は わずかしかなぃ,ラットの一側頚動脈・頚静脈短絡モデルは,短絡側 の 脳に 梗塞 に至 らな ぃ慢性脳虚血状態を惹起し,短絡部の結紮により灌流圧が上昇するこ とより,再灌流可能な慢性脳虚血モデルとしての一側面を持ち合わせている可能性がある.
本 研究 では 近年 ,脳 循環動態を低侵襲にりアルタイムに測定できる計測技術のーっとして
注 目 さ れ て い る 分 光 解 析 法 を 用 い て , そ の 脳 循 環 動 態 の 評 価 を 試 み た .
実 験に は6 〜
8週 令雄 性Wistar rat を用い ,右 慨頚 部に て頚 動脈 ・頚 静脈 短絡を作成
し た. ラッ トは
‑wjJの内 頚動 脈閉 塞の みでは ウイ リス 動脈 輪を 介す る側 副血 行により脳
血 流の 有意 な低 下は 来さなぃが,このモデルでは,動静脈短絡部を通じて脳血流が動脈側
か ら静 脈側 に流 出す るため,短絡側の脳灌流圧低下により,脳梗塞に至らなぃ中等度の慢
性 脳虚 血状 態が 得ら れ,さらに短絡を結紮することにより灌流圧,脳血流量の上昇が得ら
れ る. モデ ル作 成8 〜
12週 後, 全身 麻酔 ,人 工呼 吸器下にラット頭部を定位脳フレームに
固 定 し , 左 右 の 頭 頂 骨 に 骨 窓
(thinned skull window)を 作 成 し た .
イ ン ド シ ア ニ ン グ リー ン(ICG) の静 脈内 投与後 ,近 赤外 分光 計測 にて 得ら れた その
時聞濃度曲線から計算されたBFI は,局所脳表血流量(r くニBF) と高い相関を示すことが報告
されている.BFI |よ以下の計算式にて求められる:BFI =aX [△ICG ]/[dsedme ],ただし
dsedmeは△
ICGの 最大 値の
10ー
90% 間に 要し た時 間で表される.`ラットの頭部に白色光
を 外照 射し ,ICG を急 速静 注し ,頭 頂部 の脳 表か ら得られる反射光を接眼レンズに挿入し
たqua 血lightguide を通してスベクトル分光解析器に取り込み,その反射吸収スベクトルか
ら 最 小 二 乗 法 に よ る 多 成分 解析 によ りICG の 時間濃 度曲 線を 求め た. また ,△
ICGtま得
ら れ た
ICG濃 度 と 急 速静 注 前 の
O・
2秒 間 の 平 均
ICG濃 度 の差 分と して 求め た.
BRお よぴ
nsedmeはそ れぞ れ,
rCBFと平均通過時間(Mn )をある程度反映すると考えられ,これらの
値 を短 絡の 同側 と対 側, 短絡 の結 紮前 後で比 較検 討し た. 短絡 と同 側の
BHは 対側と比較
し て有 意に 低く ,ま た,短絡結紮により上昇傾向を示した.短絡と同便0 のBFI は対側の平
均約71 %に相当し,短絡の結紮により約37 %増加した.一方,短絡と同側のnsetime |ま対
便 叮 に 比 べ て 有 意 に 延 長 し て お り , 短 絡 結 紮 に 伴 い 有 意 に 短 縮 し た .
脳 の 可 視 光 領 域 の 反 射 吸 収 ス ベ ク ト ル は , 内因 性 の生 体色 素で ある へモ グロ ビン
(Hb)の 酸 素 化 , 脱 酸 素 化 状 態 と そ の 濃 度 に よ り 主 に 変 化 す る . よ っ て 脳 表 の 反 射 光 の 分 光 解 析 に よ り , 脳 表Hbの 酸 素 飽 和 度 や 濃 度 の 変 化 の 推 定 が 可 能 で あ る . 両 側 頭 頂 部 の 脳 表 の 反 射 光 を そ れ ぞ れ 分 光 解 析 器 に 取 り 込 み ,500―650nmの 反 射 吸 収 ス ベ ク ト ル を 経 時 的 に 取 得 し ,oxyHb,deoxyHbの 濃 度 変 化 を 多 成 分 解 析 に よ り 求 め , 動静 脈短 絡部 の同 側 や対 側,
あ る い は 短 絡 卿 の 短 絡 結 紮 前 後 に お け る 各 成 分 の 動 態 や ,Cq吸 入 に 伴 う 脳 表 の 局 所Hb 濃 度 の 推 移(C02反 応 性 ) を 比 較 検 討 し た ,total Hb濃 度 の 変 化 は 脳 容 積 が 一 定 で あ れ ぱ , す な わ ち 局 所 脳 血 液 量(rCBV)の 変 化 を 反 映 し て い る と 考 え ら れ る . ま た ,C02反 応 性 は 以 下の式にて求めた:△concentration(of total Hb)(.ワ。)/△PaCOi (mmHg).さらに脳表の反射 吸 収 ス ベ ク ト ル よ り 脳 表Hb酸 素 飽 和 度 を 求 め 短 絡 部 の 同 儺 や 対 側 , 短 絡 側 の 短 絡 結 紮 前 後 に お い て 比 較 し た . 短 絡 側 のtotal HbのC02反 応 性 は , 対 卿 に 比 し 有 意 に 低 く , 短 絡 結 紮 後 , 有 意 に 上 昇 し た . ― 方 , 短 絡 側 の へ モ グ 口 ビ ン 酸 素 飽 和 度 は 対 側 に 比 し 有 意 に 低 値 で あ っ た が , 短 絡 結 紮 後 , 有 意 に 上 昇 し た . ま た 短 絡 結 紮 後 の 各 成 分 の 動 態 を 経 時 的 に 観 察 す る と , 短 絡 結 紮 に よ りoxyHbは 一 過 性 に 急 上 昇 し , や や 前 値 に 復 す る も 上 昇 を 維 持 し た . 一 方to讎Hbtま 漸 減 し た . 短 絡 結 紮3分 後 ,oxyHblよ 有 意 に 上 昇 ,deoxyHbとto凵Hb は有意の低下を示した.
本 研 究 で は 一 側 内 頚 動 脈 ・ 外 頚 静 脈 短 絡 モ デ ル の 脳 循 環 動 態 を 反 射 分 光 解 析 法 を 用 い て 評 価 , 検 討 を 加 え た . 脳 神 経 外 科 領 域 で は 脳 循 環 動 態 の 評 価 に 脳 血 流 量 の み な ら ず , 脳 血 管 拡 張 作 用 の あ る 薬 剤 や 吸 入 ガ ス の 負 荷 に 伴 な う 脳 血 流 量 増 加 反 応 を 脳 循 環 予 備 能 と し て , 疾 患 の 予 後 や 治 療 方 針 の 決 定 に 役 立 て て い る . 本 研 究 に お ぃ て はrCBFやMrrの 比 較 検 討 の 目 安 と し てBFIお よ びdsedmeを ,rCBVの 推 移 を 反 映 す る 脳 表 のto讎Hb濃 度 の C02反 応 性 を 脳 循 環 予 備 能 の 指 標 と し て 用 い た . ま た , 脳 灌 流 圧 の 低 下 が 脳 の 酸 素 供 給 に 及 ほ す 影 響 を 評 価 す る た め , 脳 表 のHb酸 素 飽 和 度 の 比 較 検 討 も 行 っ た , そ の 結 果 , こ の 動 静 脈 短 絡 モ デ ル の 短 絡 儺 で は 対 側 に 比 べ てrCBFの 低 下 やMnの 延 長 が 認 め ら れ , さ ら にHb酸 素 飽 和 度 や 脳 循 環 予 備 能 (C02反 応 性 ) も 低 下 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た . 本 研 究 で 用 い た 動 静 脈 短 絡 モ デ ル で は , 短 絡 を 結 紮 す る と 静 脈 側 へ の 血 液 の 流 出 が 消 失 す る た め 短 絡 側 の 脳 灌 流 圧 の 上 昇 が 得 ら れ る . そ の 結 果 , 疋BFの 上 昇 やMnの 短 縮 ,Hb酸 素 飽 和 度 の 上 昇 や 脳 循 環 予 備 能 (C02反 応 性 ) の 改 善 が 得 ら れ る こ と が , 上 記 の 実 験 成 績 に よ り 示 唆 さ れ た , 一 方 , 中 大 脳 動 脈 閉 塞 な ど の 急 性 の 脳 虚 血 後 の 再 灌 流 に お ぃ て は , 反 応 性 にCBVの 上 昇 が 認 め ら れ る こ と が 多 い の に 対 し , 当 モ デ ル の よ う に 慢 性 脳 虚 血 後 の 再 灌 流 に お ぃ て | よrく ニBVは む しろ 漸減 する こと が短 絡結 紮後 のtoぱHb濃度 の 経時 的変 化 に よ り 示 唆 さ れ た . 臨 床 的 見 地 か ら 言 え ば , 慢 性 脳 虚 血 は 今 後 起 こ り う る 脳 梗 塞 を 予 防 す る 上 で 重 要 な 位 置 に あ り , 実 際 ,EC・ICバ イ パ ス は 非 梗 塞 性 の 慢 性 脳 虚 血 状 態 の 改 善 の 選 択 肢 の ー っ と 考 え ら れ て き た , バ イ バ ス の 適 応 を 論 ず る 際 , 臨 床 の 場 で は 主 に 血 管 拡 張 作 用 の あ るAcetaZolarnide( 駢amox) 負荷 後の 脳血 流量 上昇 率を 脳循 環予 備能 の指 標 とし て用 い て い る が , 本 研 究 は そ の 病 態 の 変 化 を 実 験 的 に 裏 付 け る 側 面 を 持 ち 合 わ せ て い る と 考 え ら れ た . 本 研 究 に よ り , 一 側 内 頚 動 脈 ― 外 頚 静 脈 短 絡 モ デ ル は 再灌 流に 適し た非 梗 塞性 慢性 脳 虚 血 モ デ ル で 短 絡 結 紮 前 後 の 脳 循 環 動 態 が 臨 床 的 な 血 行 再 建 前 後 の 状 態 に 近 似 し て い る ことから非常に有用性が高いモデルと 考えられた.
本研 究では脳循 環動態の非侵襲的計測法として反射分光解析法をthinned skull
windowと組み合わせて用いた,この方法t よ頭蓋骨や硬膜を開放しないため,脳を生理的環
境に近い状態で測定が可能であり,脳表の血管の変化も同時に観察可能であり,さらにレ
ーザードッブラーなど他の計測法も適用可能であるなど,脳循環動態を低侵襲に異なる視
点から解析することができる非常に有用な方法と考えられた.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
反射分光解析法を用いたラット慢性脳虚血モデルの 脳循環予備能の検討
急 性 の 脳 虚 血 ・ 再 灌 流 の 実 験 的 研 究 が 数 多 く 報 告 さ れ る 中 で 、 再 灌 流 可 能 な 慢 性脳 虚血 に 関 す る 報 告 は わ ず か し か な い 。 ラ ッ ト の 一 側 頸 動 脈 ・ 頚 静 脈 短 絡 モ デ ル は 、 短 絡 側 の 脳 に 梗 塞 に 至 ら な い 慢 性 脳 虚 血 状 態 を 惹 起 し 、 短 絡 部 の 結 紮 に よ り 灌 流 圧 が 上 昇 す る 。 本 研 究 で は 、 こ の モ デ ル を 再 灌 流 可 能 な 慢 性 脳 虚 血 モ デ ル と し て 、 そ の 脳 循 環 動 態 を 主 に 脳 循 環 予 備 能 の 視 点 か ら 反 射 分 光 解 析 法 を 用 い て 明 ら か に し た 。
実 験 に は6〜8週 令 雄 性Wistar ratを 用 い 、 右 側 頚 部 に て 頸 動 脈 . 頚 静 脈 短 絡 を 作 成 し た 。 モ デ ル 作 成8〜12週 後 、 全 身 麻 酔 、 人 工 呼 吸 器 下 に ラ ッ ト 頭 部 を 定 位 脳 フ レ ー ム に 固 定 し 、 左 右 の 頭 頂 骨 に 骨 窓 く thinned skull window)を 作 成 し た 。 ま ず 脳 表 に 白 色 光 を 照 射 し 、 そ の 反 射 光 を へ モ グ 口 ピ ン の 等 吸 収 点 に あ た る586nmの 干 渉 フ ィ ル タ ー を 通 し て 冷 却CCDカ メ ラ よ ル コ ン ピ ュ 一 夕 ー に 経 時 的 に 取 り 込 み 、 反 射 光 強 度 の 差 分 画 像 を 作 成 し た 。 得 ら れ た 画 像 は 、 脳 局 所 ヘ モ グ 口 ピ ン 濃 度 の 変 化 を 反 映 し た 画 像 と な る が 、 そ の 結 果 、 低 酸 素 や 二 酸 化 炭 素 吸 入 時 の 局 所 脳 ヘ モ グ 口 ピ ン の 増 加 反 応 が 短 絡 側 に お い て 低 下 し て お り 、 逆 に 過 換 気 で は む し ろ 減 少 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 短 絡 結 紮 に よ る 脳 灌 流 圧 上 昇 に 伴 い 、 短 絡 側 の 二 酸 化 炭 素 吸 入 時 の 局 所 脳 ヘ モ グ ロ ピ ン の 増 加 反 応(C02反 応 性 ) が 改 善 す る こ と が 確 認 さ れ た 。
解 析 に は 関 心 領 域 の 反 射 光 を 接 眼 レ ン ズ に と り っ け た プ 口 ー ブ か ら ア ナ ラ イ ザ ー に 取 り 込 み 、 そ の 吸 収 ス ペ ク ト ル か ら へ モ グ 口 ピ ン な ど の 濃 度 変 化 の 推 移 や そ の 酸 素 飽 和 度 を 最 小 二 乗 法 に よ る 多 成 分 解 析 に よ り 求 め た 。 そ の 結 果 、C02反 応 性 は 短 絡 側 で 低 下 し て お り 、 短 絡 結 紮 に 伴 い 改 善 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 ま た 、 ヘ モ グ 口 ピ ン 酸 素 飽 和 度 は 短 絡 側 で 低 下 し て お り 、 短 絡 結 紮 に 伴 い 上 昇 し て い た 。
脳 表 のpial arteryの 血 管 径 お よ び 二 酸 化 炭 素 吸 入 時 の 反 応 性 を 短 絡 の 同 側 と 対 側 、 短 絡 の 結 紮 前 後 で 比 較 し た 。 そ の 結 果 、 短 絡 側 の 脳 表 血 管 径 は 対 側 に 比 し 拡 張 し て お り 、 二 酸
弘 守
男 雄
和 邦
部 村
坂 代
阿 田
宮 田
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
化炭素吸入に伴う血管拡張率(C02 反応性)も低下していたが、短絡結紮に伴い収縮し、
C02
反応性も改善していることが確認された。
インドシアニングリーン(IC G) の静脈内投与後、その時間濃度曲線からBFI およびrise
timeを算出 した。BFI および
rise timeはそれぞれ、
rCBFと平均通過時間
(MTT)を反映 すると考えられ、これらの値を短絡の同側と対側、短絡の結紮前後で比較検討した。そ の結果、短絡側の
BFIは対側に比し有意に低く、また、短絡結紮により上昇傾向を示し た。一方、短絡側のrise time は対側に比し有意に延長しており、短絡結紮に伴い有意に 短縮した。以上の実験結果より、慢性脳虚血に伴う脳循環予備能の低下が灌流圧上昇に伴 い改善したことが示唆された。
公開発表に於いて宮坂和男教授から短絡結紮後のBFI のばらっきやhyperperfusion につ いて、また、急性と慢性脳虚血における再灌流時のCBV の推移の違いの意義について、
次いで、田代邦雄教授からモデルの歴史的背景、脳表の形態学的変化について、また臨床 との類似性や
acetazolamide testの結果について、次いで、田村守教授から慢性脳虚血時 のラットの行動の変化やSEP など電気生理学的反応性の変化について、次いで、阿部弘教 授から血管吻合の手技およびその開存の個体差について、及び虚血・再灌流障害について、
さらに、黒田敏助手から中大脳動脈閉塞モデルヘの応用可能性について、最後に宝金清博 講師から短絡結紮時の血管撮影所見についてそれぞれ質問があった。いずれの質問に対し ても、申請者は、自らの研究に基づく経験や過去の論文の結果を引用し、豊富な知識に基 づいて明確に回答した。