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博 士 ( 理 学 ) 大 塚 直 彦

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 大 塚 直 彦

学 位 論 文 題 名

  Hadronic Degrees of Freedom in Relativistic Heavy‑Ion Collisions

( 相 対 論 的 重 イ オ ン 衝 突 に お け る ハ ド ロ ン自 由 度 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  初期宇宙や中性子星のような自然現象を理解する上では、通常の原子核から遠く離れた高温高 密度の下のハド口ン多体系の性質を理解することが重要である。この理解を目指す実験的な取り 組みとして、相対論的重イオン衝突実験がここ十数年来精力的に行われて、豊富な実験データが 蓄積されてきた。しかしながら、こうした重イオン衝突は極めて非平衡な現象であり、生成される ハドロン物質も非一様な状態でごく短時間の間生成されるのみである。よって、蓄積された豊富 な重イオン衝突データから平衡一様ハドロン物質の性質を引き出すためには、ハドロン多体系の 動力学を信頼できる形で解き、その動力学で仮定(あるいは導出)された平衡状態での物性と重イ オン衝突の現象の関連を明らかにする必要がある。現在進行している実験の大きな目標はクォー クやグルーオンが単体として存在するプラズマ状態(クォーク・グルーオン・プラズマ,QGP)の 生成であるが、終状態に現われる膨大な数のハドロンの情報からプラズマの生成を実験的に確認 する上でも、ハドロン多体系の動力学を解くことは大変重要である。

  本 論文の目 的は、 近年の相対論的重イオン衝突実験で得られたデータを微視的ハドロン輸送 模型を用いて分析し、この分析を通じてハドロン粒子自由度がどの程度活性化されているのかを 明らかにすることである。多くのハドロン粒子自由度が活性化されれば、これらの自由度と質量 にエネルギーが分配されるため、運動エネルギーの減少f現象としては温度上昇の鈍化、あるいは スベクトルの軟化)が期待される。実際、米国国立ブルックヘブン研究所(BNL)での核子あたり lOGeVの加速 器(AGS)による実験ではこうした傾向がみられている。高エネルギー領域のハドロ ン多体系としては、この自由度の増加が軟化の最も大きな要因と期待され、重要な課題である。

    高工ネルギー重イオン反応の記述において、微視的ハド口ン輸送模型は強カな方法である。ハ ドロン多体系の非平衡現象である重イオン反応を取り扱う上で、現時点では厳密に解き得る理論 的方法は存在しない。しかし、ハドロンの質量と崩壊幅は実験データを利用し、ハドロン2体間 の素過程相互作用を現象論的に取り入れられれば、高次の多体効果・多段階効果を解くことが残 された問題となる。微視的ハドロン輸送模型では、模型に導入する自由度を与えた後、こうした 1体、2体問題 を現象 論的に取 り入れ た上で、 ハドロン間の多重衝突を独立な2体衝突の重ね合 わせとして記述する。高工ネルギーの反応では、ド・ブロイ波長が原子核における典型的な核子 間 距 離 よ り も 短 く な る た め 、 上 の よ う な 取 扱 い が 良 い 近 似 とな る こ とが 期 待 され る 。     ところが、微視的ハドロン輸送模型においてハドロン粒子自由度をどの程度導入するべきかは 自明ではない。ハドロンには陽子・中性子・パイ中間子以外にも様々な共鳴粒子と呼ばれるハド ロンの励起自由度が存在し、重いものでは陽子の質量の2倍以上に至るまでの様々な共鳴状態が 発見されているが、これらは全てクォーク・グルーオンからなる複合粒子であると同時に、高励 起の共鳴状態は、ノくイ中間子と低励起共鳴にも崩壊するなど低励起ハドロンの複合系の側面も持 つ。このため、ハド口ンの輸送模型には大きく分けて、「一っは共鳴粒子自由度を可能な限り多<

取り入れる模型」と、「△(1232)のような代表的な共鳴粒子自由度のみを取り入れる模型」の2種 類 が現存し ており 、入射エネルギーが核子あたり10 GeV程度の重イオン反応ではハドロンのェ ネルギースベクトルに関して、上の両方の模型が良い再現性を示す。しかし、平衡状態ではエネ

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ルギー密度が与えられた場合、自由度の違いは温度の違いに反映されるので、このスベクトルが 一致するとぃう事実は一見奇妙である。相対論的重イオン衝突においても、反応初期の構成粒子 の非弾性散乱において、入射運動工ネルギーの多くは共鳴粒子の質量エネルギーに転化され、そ の共鳴粒子の崩壊を通じて終状態に大量のバイ中間子が残るため、/ヾイ中間子の生成量、および スベ クトルの 傾きを 決定する エネル ギー転化 量は共鳴 粒子自 由度に依 存すると考えられる。

    このような「ハド口ン自由度の活性化にともなうスベクトルの軟化」と上述の奇妙な「ハド口 ン自由度に対するスベクトルの非依存性」の問題を解決するため、我々は2種類の輸送模型を開発 し、比較研究を行なった。多自由度模型として、JAM (Jet Aa Microscopic transport model)、少 自由 度模型と して、HANDEL (HAdronic Nucleus・nucleus cascade moDEL)を構築した。特に、

少 自 由 度 模 型 に は 公 開 コ ー ド が 存 在 し な い た め 、HANDELの 開 発 は 重 要 で あ る 。   我々はまず、核子一核子(NN)、パイ中間子―核子(つ1・N)衝突の素過程断面積を、少自由度の2 体.1体ハド口ンヘの非弾性散乱・融合過程と直接多中間子生成を組み合わせることにより評価 し、現象論的なフイットを行なった。そしてこの断面積をもとにして、逆反応に一般化された詳 細釣合公式を適用するなど、出来る限り統計性(詳細釣合)を保持した上で現存する素過程の実験 データをよく再現する反応断面積を提示した。

    次に 周期境 界条件のもとで長時間時間発展させることにより、HANDELによって作られる平 衡ハド口ン物質の性質を調べ、温度が定義できる平衡状態が記述できることを確認した。また直 接多粒子生成を導入した場合には詳細釣合が破れるが、この頻度を評価した上で、直接多粒子生 成がこの評価を越えて物質の軟化に寄与することを示した。この軟化は粒子生成時間( formation time)を有限にした場合により顕著である。粒子生成時間は、多重発生模型におけるハドロン化に 要する時間に対応したものとして導入されたもので、この時間の間、直接生成された粒子は他粒 子と反応することができない。この生成時間内にある発生粒子群は実効共鳴粒子としての役割を 果たしていると解釈すれば、上記の軟化を自然に理解できる。

    そ し て、HANDELと多 自 由 度模 型 であるJAMを用い てBNL‑AGS工ネル ギーでの 金‐金衝 突 を計算し、両者がエネルギースベクトルを同程度に再現すること、また、バリオン密度一温度の時 間発展に関しても同様の履歴を示すことが示された。こうした再現性・一致は粒子多重発生を取 り入れ、かつ粒子生成時間を標準的な値(0.8fm/c)の近傍とした場合に限られる。これを大きくし た場 合にはス ベクト ルが軟化しすぎ、小さくした場合には核子のStopping Powerが大きすぎる ことが示された。これらの結果は、前節の解釈一粒子生成時間内にある発生粒子群は実効共鳴粒 子自由度としての役割を果たしているーと無矛盾であり、また導入される実効共鳴粒子自由度の 大きさに制限をっけていることとなる。

    以上をまとめると、BNL‑AGSエネルギーでの相対論的重イオン反応で生成される核(ハドロ ン1物質は、ハドロンの基底状態のみでない多くの自由度が発現した結果として、温度上昇や圧力 増加の抑制が起こっている系であると結論する。この自由度増加は、多くの共鳴ハドロンをあら わに導入することによっても記述可能であるが、あらわに導入する自由度は少数(ハドロンの基底 状態と少数の共鳴ハドロン)であっても粒子の多重発生において粒子生成時間を適度にとることで も記 述できる 。本申 請論文で は、少 自由度ハ ドロン輸 送模型(HANDEL)を新たに構築し、これ を統計平衡状態と重イオン反応に適用し、多自由度模型と比較することにより、これらの結論を 得た。

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学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

加藤幾芳 河本   岡部成玄

(北海道大学情報メデイア教育研究総合センター)

大西  

    学 位 論 文 題 名

    Hadronic Degrees of Freedom

in Relativistic Heavyー 工 on Collisions

( 相 対 論 的 重 イ オ ン 衝 突 に お け る ハ ド ロ ン 自 由度 )

  高 工 ネ ルギ ー 重 イオ ン 反 応研 究 の 目的 は 、 通 常の 原 子 核か ら 遠 く離 れ た 高温 ・高 密度 の 下の ハ ド ロン 多 体 系の 性 質 を理 解 す るこ と で あ る。 特 に 、高 温 ハ ドロ ン 多 体系 として は 、核 子 以 外に 様 々 なハ ド ロ ンが 現 わ れる 「 ハ ド ロン 自 由 度の 増 加 」が 、 核 子当 たり10 GeV程 度 の 入 射 エ ネ ル ギ ー(BNL−AGSエ ネ ル ギ ー )に お け る重 イ オ ン反 応 で 観 測さ れ て い る温 度 上 昇の 抑 制 と物 質 の軟化 を説明す るうえで 重要な 要因であ る。と ころが、 現在ま で の理 論 的 分析 で は 、模 型 にあら わに導入 する自由 度の大 小によら ず実験 データが 説明さ れ てお り 、 上述 の ハ ド口 ン 物質の 性質と重 イオン反 応デー タの関連 づけに おける大 きな疑 問 とな っ て いた 。

  本 論 文 は、 近 年 の相 対 論 的重 イ オ ン衝 突 実 験 で得 ら れ たデ ー タ を微 視 的 ハド ロン 輸送 模 型を 用 い て分 析 し 、こ の 分析を 通じてハ ドロン粒 子自由 度がどの 程度活 性化され ている の かを 明 ら かに し た もの で あ る。

  具 体 的 には 、 多 自由 度 模 型は 著 者 らが 既 に 開 発し 、 公 開さ れ て いる 模 型 が存 在す るた め 、本 論 文 では ま ず 素過 程 実験デ ータを忠 実に再現 する断 面積を導 入した 少自由度 ハドロ ン 輸 送 模 型(HANDEL)を 新 た に 構 築 し た 。 次 に 周 期 境界 条 件 のも と で 長時 間 時 間 発展 さ せ るこ と に より 、 こ の模 型 によっ て作られ る平衡ハ ドロン 物質の性 質を調 べ、粒子 生成時 間 内に あ る 発生 粒 子 群が 実 効 共鳴 粒 子 とし て の 役 割を 果 た して い る と解 釈 で きる ことを 示 した 。 そ して 実 際 の相 対 論的重 イオン反 応につい ての計 算結果を 多自由 度模型、 および 実 験デ ー タ と比 較 す るこ と により 、実効ハ ドロン自 由度の 増加が、 多くの 共鳴ハド 口ンを あ らわ に 導 入す る こ とに よ っ ても 記 述 可能 で あ る が、 あらわ に導入す る自由 度が少数fハ ド ロン の 基 底状 態 と 少数 の 共鳴ハ ドロン) であって も粒予 の多重発 生にお いて粒子 生成時 間 を適 度 に とる こ と でも 記 述 でき る こ とを 示 し た 。そ し て この 分 析 から 、 「BNL−AGSエ ネ ルギ ー の 相対 論 的 重イ オ ン反応 で生成さ れる核( ハド口 ン)物質 は、ハ ド口ンの 基底状

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態のみでない多くの自由度が発現した結果として、温度上昇や圧力増加の抑制が起こって いる系である」との結論を得ている。

  これを要するに、著者は、重イオン反応研究の分野における現象の認識を深めたとと もに、重イオン反応の現象を平衡ハドロン物質の性質を結びつけるための基本的な理解方 法を 提案 した もの であ り、 分野 の研究 に対 して 貢献 する ところ大なるものがある。

    よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格があるものと認める。

参照

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