【学位論文審査の要旨】
1 研究の目的
世界的な電力エネルギー需要の増加に伴い,CO2排出量が年々増加している。この問題 を解決することを目的として再生可能エネルギーの導入が進められているが,その出力電 力が気候条件により変動するために,安定した電力利用のためにバッテリーなどのエネル ギー蓄積要素を併用することが必要不可欠である。そこで,異なる電力エネルギー源が独 立に接続されるハイブリッドエネルギーストレージ(HES)システムが提案されている。
HESシステムには,絶縁形DC-DCコンバータとバッテリーが不可欠な要素であり,特に,
トリプルアクティブブリッジDC-DCコンバータ(TABコンバータ)と呼ばれる3方向に直流 電力を授受できる電力変換回路の利用が想定されている。TAB コンバータは,3 台の電力 変換回路が 3 巻線変圧器を介して接続され,電力変換回路が出力する矩形波電圧の位相制 御によって電力制御を行う回路である。ここで,電力変換回路は太陽電池やバッテリーな どが直流電圧源として接続されるために,直流電圧変動を考慮した回路パラメータの設計 指針を明らかにする必要がある。一方,HESシステムの実現のためには,リチウムイオン バッテリーの有効利用が必須である。しかしながら,リチウムイオンバッテリーは多数の セルを直列・並列接続して利用するために,各セルの電圧を効率良くバランスさせる必要 がある。
本研究では,HESシステム実現に向けてTABコンバータの設計手法とリチウムイオンバ ッテリー内部のセル電圧のバランス手法を確立することを目的とする。まず,TAB コンバ ータの直流電圧変動が電力伝送に与える影響を解析する。さらに,TABコンバータの電圧・
電流定格によらない回路パラメータの設計手法を提案し,その妥当性を試作した実験装置 により明らかにする。次に,リチウムイオンバッテリーのセル電圧バランス手法として小 型リレーと共振型電力変換回路を用いる,電圧バランス回路を提案する。提案する回路の 有効性を明らかにするために実験を行い,従来の電圧バランス回路より小さな回路損失に おいて電圧バランスが実現できることを示す。
2 研究の方法と結果
(1) TABコンバータの回路方式,制御方法と動作モードについて整理分類し,さらにTAB コンバータを用いた将来適用が期待されるアプリケーションについてまとめた。さらに,
各アプリケーションにおけるTABコンバータの利点と課題をまとめた。また,リチウムイ オンバッテリーのセル電圧のバランス手法について分類し,従来のセル電圧のバランス手 法の課題を明らかにした。
(2) TABコンバータの電圧・電流定格によらない,回路パラメータの設計手法を提案した。
まず,回路の等価インピーダンスに基づく規格化手法によりTABコンバータ回路に接続さ れるインダクタンスの設計手法を明らかにし,その結果を用いて,TAB コンバータにおけ
る電力伝送量の制限値を明らかにした。さらに,直流側の電圧変動に対応するインダクタ ンスの限界についても議論を行い実用的な動作範囲における電力伝送制限値を示した。本 方式の妥当性を明らかにするために,定格400 V,10 kWのシステムの設計を行い,直流 電圧が 85%から110%まで変動する場合においては,規格化されたインダクタンスを 30%
とすることによって効率的に電力伝送できることを明らかにした。さらに,提案手法を検 証するために,定格200 V, 500 WのTABコンバータを試作し,実験により提案する手法 の有効性を明らかにした。また,異なる直流電圧条件についても実験を行い,本論文で検 討した方法の有効性を明らかにした。
(3) リチウムイオンバッテリーのセル電圧のバランス手法を提案した。この回路は,バッテ リー内部の各セルに小型リレーを接続し,また直列接続されたセル間を絶縁形DC-DCコン バータを介して接続し,セル電圧を均等化できることに特長がある。絶縁形DC-DCコンバ ータに共振型電力変換回路を適用することで,スイッチング時に発生する損失が最小限と なり,高効率で電圧バランスができることを明らかにした。提案手法の妥当性を確認する ために,リチウムイオンバッテリーを対象とした実験装置を試作し,すべてのセルは平均 セル電圧でバランスが実現でき,かつ最大効率は 94.5%を達成した。さらに使用可能な電 池容量が84%から98%へと14%向上したことを明らかにした。
3 審査の結果
本論文では,ハイブリッドエネルギーストレージシステムの実現に向けて必要不可欠な TAB コンバータの回路パラメータ設計手法の確立とリチウムイオンバッテリーのセル電圧 の均等化回路を提案し,その有効性を実験により明らかにした。特に,TAB コンバータの 設計手法については,規格化手法を導入することによって任意の電圧・電流条件にも適用 できることから,様々なアプリケーションに応用可能であるために,工学的価値が非常に 高い。また,セル電圧のバランス回路においては,リレーとDC-DCコンバータを組み合わ せるだけでなく,共振型回路を提案した点において新規性が非常に高い手法である。いず れの研究においても実験による評価検証が行われており,本論文の研究成果は,将来の直 流電力エネルギーマネージメントシステムの実用化において非常に有益な結果であること を明らかにした。
なお,本論文を構成する技術要素については,厳正な査読を経て権威ある学術雑誌に掲 載され,一般に公開されている。以上から,本論文は博士(工学)の学位を授与するに十 分価値あるものと認められる。
4 最終試験の結果
本学の学位規定,および電気電子工学専攻の申し合わせに従って論文審査会を開催して,
専門分野に関する筆答および口頭の試問を行うと共に,論文内容について慎重に審査を行
った。また,本論文に関する公開の発表会を開催し,学内外から多数の出席者を得て多角 的な質疑・討論を行った。専門分野に関して,筆答および口頭による試問を行い十分な学 力があることを確認した。以上の結果を総合的に考慮し,慎重に審議した結果,合格と判 定した。