【学位論文審査の要旨】
1 研究の目的
電力用パワーデバイスや受動部品の性能向上にともない,電力変換回路の高電圧・大電力 用途への検討が始まっている。最近では,100 kW以上の双方向絶縁形DC-DCコンバータ の回路方式・制御手法,その応用技術について数多くの研究開発が行われており,実用化 も進められようとしている。この変換回路は,高周波変圧器を介して 2 つの単相インバー タ回路が接続される回路になっていることから,小型・高効率で双方向に電力伝送を行う ことができるために,様々な用途で利用されることが期待されている。次世代の直流配電 系統を対象として直流電源・バッテリー・負荷のそれぞれを双方向DC-DCコンバータを介 して接続する方式も提案されているが,DC-DCコンバータの数が膨大になるために,シス テム全体が冗長になり,電力変換損失が大幅に増加するといった課題もある。近年,マル チポートコンバータの研究開発が進められており,特に3方向DC-DCコンバータ(TAB: Triple Active Bridge)が提案されている。これは,3巻線変圧器を介して,3つの単相イン バータ回路が接続された回路方式になっており,電力エネルギーを一括制御できる点に特 長がある。TAB コンバータについては,その回路・制御方式が提案されており,実験検証 が行われてきている。また,変換器効率やその基礎特性についても議論が行われている。
以上のように,TAB コンバータの基礎技術についてはこれまで検討は進められてきている が,その応用技術については十分な検討は行われてこなかった。
2 研究の方法と結果
(1) TABコンバータを用いた3種類の直流配電方式を提案し,各方式の有効性を示した。
まず,直流2系統システムと1つのバッテリーを用いたシステムにおいては,ある1系統 に停電等の問題が発生した場合においても,バッテリーもしくは別系統から電力エネルギ ーを融通できることを示した。このシステムにおいては,200 V, 500 Wのミニモデルを用 いた実験により,その妥当性を明らかにした。次に,2種類の異なるバッテリーと直流1系 統がTABコンバータを介して接続されるシステムを提案し,バッテリーの特徴を考慮した 新しいシステム構成を提案した。最後に,直流3系統システムをTABコンバータで接続す る方式を提案し,バッテリーを使用しなくても直流電源からTABコンバータを介して他系 統の負荷にエネルギー融通が可能であることを示した。
(2) 直流3系統システムをTABコンバータで接続する方式を対象にして,システム全体の 効率に関する検討を行った。ここでは,PWM(Pulse Width Modulation)整流回路により 直流電源を確立することを前提として検討を行うために,PWM整流回路とTABコンバー タの負荷依存の効率の解析を行った。次に,システム全体の効率特性を検討し,PWM整流 器のみを用いた直流配電方式に比べてPWM整流回路とTABコンバータを併用するシステ ムは低負荷時の動作領域ではシステム全体の効率を最大で1.4%改善できることを明らかに
した。
(3) 直流3系統システムをTABコンバータで接続する方式を対象にして,システム信頼性 に関する検討を行った。従来,高信頼システムを実現するためにはバッテリーを用いた予 備電源を用いるシステムが適用されるが,提案方式ではバッテリーを使わないシステムで あることに特長がある。この方式では,TAB コンバータを用いることによって事故時にバ ッテリーに代わる電力エネルギーの供給が可能となる。まず,信頼性ブロック図 (RBD:
Reliability Block Diagram) による解析を行うために直流配電系統を構成する各要素の信 頼性調査を行った。その結果を元に,TAB コンバータを用いた直流配電系統システム全体 の解析を行い,既存のバッテリーを用いた場合に比べて提案方式は1.5%の信頼性向上の効 果があることを明らかにした。
3 審査の結果
本論文では,3 方向DC-DC コンバータを用いた次世代直流配電系統システムを提案し電 力制御・システム効率・信頼性の観点から研究を行った。その結果,TAB コンバータを使 用することによって従来とは異なる多様なシステムを構築できるという極めて重要な知見 を得ている。特に,3方向へのエネルギー制御を高速に実現できることから負荷急変時や事 故時においても有用なシステムであることを示した。さらに,直流3系統システムをTAB コンバータで接続する方式を対象にして,効率と信頼性の両方の観点から議論したことは 工学的価値が非常に高い。また,直流200 V, 500 Wのミニモデルを用いた実験検証では97%
を超える高い電力変換効率を実現できたことから,実用的な回路方式であることを示した。
なお,本論文を構成する技術要素については,厳正な査読を経て権威ある学術雑誌に掲載 され,一般に公開されている。以上から,本論文は博士(工学)の学位を授与するに十分 価値あるものと認められる。
4 最終試験の結果
本学の学位規定,および電気電子工学専攻の申し合わせに従って論文審査会を開催して,
専門分野に関する筆答および口頭の試問を行うと共に,論文内容について慎重に審査を行 った。また,本論文に関する公開の発表会を開催し,学内外から多数の出席者を得て多角 的な質疑・討論を行った。専門分野に関して,筆答および口頭による試問を行い十分な学 力があることを確認した。以上の結果を総合的に考慮し,慎重に審議した結果,合格と判 定した。