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雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research

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(1)

事再生手続開始決定の後にした、再生債務者に対す る同人所有の建物についての根抵当権設定登記手続 の請求および右請求についての監督委員に対する同 意を求める請求がいずれも棄却された事例

著者 近藤 隆司

雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research

巻 29

ページ 139‑146

発行年 2013‑07‑31

URL http://hdl.handle.net/10723/2069

(2)

手続の請求および右請求についての監督委員に対する同意を求める請求がいずれも棄却された事例

民事再生手続開始決定の後にした、再生債務者に 対する同人所有の建物についての根抵当権設定登記 手続の請求および右請求についての監督委員に対す

る同意を求める請求がいずれも棄却された事例

――大阪地判平成20年10月31日判時2039号51頁、判タ1300号205頁――

近 藤 隆 司 1.事実の概要

 X(原告)は、平成19年9月28日、Y1(被告)に対し、本件建物(Y1の本社機能を持つ旗艦店)

を建設する資金として2億円を貸し付けた。その際、Y1は、Xに対し、平成20年2月29日までに、

本件建物につき極度額2億円の根抵当権を設定して担保提供することを確約した。

 本件建物は、平成19年10月29日に新築完成し、同年11月30日に表示登記がされ、同年12月11日 にY1名義の所有権保存登記がされた。

 XとY1は、平成20年1月29日、本件建物につき根抵当権設定契約をして契約証書を作成し、

根抵当権設定登記手続はY1において行うことを合意したが、Y1は、その登記手続をしないま ま、同年2月13日、大阪地裁に再生手続開始の申立てをした。大阪地裁は、同日、監督命令を発 し、弁護士であるY2(被告)を監督委員に選任し、再生債務者の財産にかかる担保権の設定を、

監督委員の同意を得なければ再生債務者がすることができない行為の1つに指定し、その後、同 月20日午後5時、再生手続開始の決定をした。

 Xは、Y1に対しては、根抵当権設定契約またはその根抵当権に基づき、根抵当権設定登記手 続を求めるとともに、Y2に対しては、根抵当権に基づく妨害排除請求権に基づき、再生債務者 Y1がその登記手続をすることにつき監督委員として同意の意思表示をすることを求める訴訟を 提起した。

2.判旨

 請求棄却(X控訴)。

 「当裁判所は、根抵当権設定契約をしても再生手続開始前に登記をしていない根抵当権者は、

再生手続開始後は、再生債務者に対し、根抵当権を対抗することができず、したがって登記手続 を請求することができないものと判断する。その理由は、次のとおりである。

 再生債権者が、登記をしなければ不動産に関する物権の取得を対抗できない民法177条の第三 者にあたることはいうまでもない。そして、再生手続が開始された場合には、再生債務者は、そ の財産を管理処分する権限を失わないものの(民事再生法38条1項)、債権者に対し、公平かつ

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誠実に、その財産を管理処分する権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う(民事再生法38 条2項)。すなわち、再生手続が開始された以上、再生債務者は、再生債権者のために公平かつ 誠実に、財産を管理処分するとともに再生手続を遂行する責務を有する再生手続の機関として、

民法177条の第三者である再生債権者の利益の実現を図るべき再生手続上の責務を有するのであ る。このように考えると、再生債務者は、登記をしなければ物権の取得を対抗できない民法177 条の第三者である再生債権者の利益を実現すべき再生手続上の機関として、再生債権者と同様、

民法177条の第三者にあたると解するのが相当である。

 民事再生法は、再生債務者が登記をしなければ不動産に関する物権の取得を対抗できない第三 者にあたることを前提として、監督委員に対する否認に関する権限の付与を定めるとともに(民 事再生法56条)、権利変動の対抗要件の否認(民事再生法129条)、執行行為の否認(民事再生法 130条)も認めていると解される。更に、民事再生法45条1項が、不動産に関し再生手続開始前 に生じた登記原因に基づき再生手続開始後にされた登記は、再生手続の関係においては、その効 力を主張することができないと定め、ただし、登記権利者が再生手続開始の事実を知らないでし た登記については、この限りでないと定め、これにより再生債務者が任意に登記をした場合の登 記の効力については定める一方、登記権利者からの登記手続請求の可否に関しては何らの規定を 置いていないことも、以上のとおり、再生債務者が第三者にあたることから、再生債務者の任意 の協力なしに、登記権利者が再生債務者に対して登記手続請求をすることができないことを当然 の前提としていると解されるのである。」

 「以上によれば、Xは、登記がされていない以上、根抵当権の取得を再生債務者であるY1に対 抗できないから、XのY1に対する根抵当権設定登記手続請求は、理由がない。〔……また……〕

再生債務者Y1の監督委員であるY2に対し、その登記手続についての同意の意思表示を求める Xの請求についても、根抵当権を再生債務者に対抗できない以上、それを監督委員に対抗するこ ともできないことは当然であるから、理由がない。」。

3.本判決の意義

 本判決は、再生債務者の第三者性(第三者的地位)について正面から言及した最初の公表判例 であり、そして、本件の争点を、未登記の根抵当権者であるXは、再生債務者であるY1に対し、

根抵当権を対抗することができるか否か、換言すると、再生債務者は、民法177条により不動産 の物権の取得につき登記がされていないことを主張する正当な利益を有する第三者にあたるか否 かととらえて、この、いわゆる対抗問題について、再生債務者の第三者性を肯定したものである。

※ なお、山本克己「再生債務者の機関性」事業再生と債権管理115号7頁(2007年)によると、

再生債務者の第三者性を否定した未公表の判例があるとのことである。

4.検討

※ 前提:民法177条にいう第三者とは、当事者およびその包括承継人以外の者であって、不動

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手続の請求および右請求についての監督委員に対する同意を求める請求がいずれも棄却された事例 産の物権の得喪・変更につき登記がされていないことを主張するにつき正当な利益を有する者 をいう(大連判明治41年12月15日民録14輯1276頁)。

4-1 判例の状況――いわゆる対抗問題に関するものを中心に

 ⑴ 破産管財人の第三者性

  ⇒ 差押債権者が第三者にあたるなら、破産管財人も第三者にあたる。

  ① 民法177条

   ・大判昭和8年7月22日新聞3591号14頁

    ⇒ 不動産の2分の1の持分の譲受人が登記をしない間に譲渡人が破産した事案につ き、破産管財人は、破産者の破産前に有した権利義務を承継するものではなく、破産 債権者のために公の執行機関たる職務を行うものであるから、破産者に代わって登記 をなす義務を負わず、よって、譲受人と譲渡人との間の売買は、破産債権者に対抗す ることができない。

   ・最判昭和46年7月16日民集25巻5号779頁

    ⇒ 破産者が唯一の資産である不動産を未登記の抵当権者に――売買代金債務と被担保 債務とを相殺することを約して――適正価格で売却した事案につき、故意否認(旧破 72条1号〔現行法では破161条1項でいくことになろう〕)を認めたものであるが、そ の理由中で、「抵当権の設定を受けた者であっても、その登記を経ない間に設定者が 破産宣告を受けた場合には、右抵当権設定をもって破産債権者に対抗することができ ないものと解すべきである」と述べている。

  ② 民法467条2項

   ・大判昭和8年11月30日民集12巻2781頁

    ⇒ 債権の譲受人が対抗要件を具備する前に譲渡人が破産した事案につき、差押債権者 は民法467条の第三者に含まれるとした上で、破産者の有する執行可能な財産は破産 財団となって破産管財人の管理処分に属し、破産債権者全体のために差し押さえられ たのと同一の状態にあるから、債権の譲受人は、破産債権者に対抗することができな い。

   ・最判昭和58年3月22日判時1134号75頁     ⇒ 同旨。

  ③ 建物保護法1条

   ・最判昭和48年2月16日金法678号21頁

    ⇒ 土地を借りて建てていた建物について所有権保存登記をしておらず、土地所有者の 破産後に所有権保存登記をした建物所有者に対して、破産管財人が建物収去土地明渡 請求をした事案につき、破産管財人は、破産者の代理人または一般承継人ではなく、

破産債権者の利益のために独立の地位を与えられた破産財団の管理機関であるから、

破産宣告前に破産者が設定した土地の賃借権に関しては、建物保護法1条にいう「第

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三者」にあたり、よって、土地賃借権の対抗要件たる登記を経由していない建物所有 者は、破産管財人に対し賃借権を対抗することができない。

  ※ いわゆる第三者保護規定に関するものについても、差押債権者が第三者にあたるなら、

破産管財人も第三者にあたる、という構図である。例えば、大判昭和8年12月19日民集12 巻24号2882頁、最判昭和37年12月13日判タ140号124頁は、破産管財人は民法94条2項にい う第三者にあたるとし、逆に、最判昭和46年2月23日判時622号102頁は、破産管財人は手 形法17条にいう「所持人」にあたらないとする(差押債権者については、大判昭和12年1 月16日新聞4100号13頁)。

    なお、最判昭和59年2月2日民集38巻3号431頁は、「債務者が破産宣告を受けた場 合……を……一般債権者による差押の場合と区別すべき積極的理由はない」という理由を 添えた上で、「先取特権者は、債務者が破産宣告決定を受けた後においても、物上代位権 を行使することができる」とした(なお、差押えの場合については、その翌年の最判昭和 60年7月19日民集39巻5号1326頁で判示された)。

 ⑵ 和議法(民事再生法の前身。民事再生法の施行により廃止)における和議債務者の第三者

  ⇒ 見当たらず。

 ⑶ 会社整理(商法旧381条以下。会社法の施行により廃止)における整理会社の第三者性   ⇒ 民法467条2項につき、整理会社は第三者にあたらないとした下級審判例があるのみ。

   ・大阪高判平成9年7月23日判タ980号270頁

    ⇒ 債権譲渡担保契約の締結→債権の譲渡人が会社整理の申立て→担保提供禁止の保全 処分→譲渡人が譲受人に債権譲渡通知(民467条2項)、という事案につき、「商法の 会社整理の手続を、破産、会社更生、特別清算の手続と対比しながら検討すると、会 社整理においては、管財人が選任されず取締役が整理を行い、整理を行う取締役につ き商法434条〔注:会社法523条〕のような規定がなく、債権の確定手続や、否認権の 規定も置かれていない。商法383条2項は、個々の執行、仮差押仮処分、破産、和議 などの手続の開始・続行を許していないが、整理開始命令につき会社資産の一般的処 分禁止の効力を認めていない。」「会社整理手続においては、会社とそれぞれの債権者 との間の実体的関係をそのまま認めて、整理を実施させるものであって、取締役に破 産管財人のような特別の地位を認め、会社を第三者のように扱って債権者との間に対 抗関係を持込むものではない」

4-2:学説――水元宏典「双面神現る」山本和彦編・倒産法演習ノート〔第2版〕(2012年)

 ⑴ 破産管財人の実体法上の地位(359頁)

   「実体法がある法律関係について当事者でない第三者を保護し、その第三者が差押債権者 を含むと解されるとき、破産管財人は、差押債権者類似の地位を有するとの解釈論を前提に、

第三者として保護されると説かれることが多い(伊藤247-255頁参照)。破産管財人が差押債

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手続の請求および右請求についての監督委員に対する同意を求める請求がいずれも棄却された事例 権者と類似の地位に立つ根拠は、破産手続開始決定が破産債権者全体のための包括差押えの 効果を有し(破産債権者の個別的満足の禁止と破産者の財産管理処分権の剥奪という効果は、

すべての破産債権者が破産財団に属するすべての財産を差し押さえたというに等しい)、破 産管財人がそのような破産債権者全体の利益を代表すべき機関であることに求められてい る。」

 ⑵ 再生管財人の実体法上の地位(359頁)

   「破産管財人について前述〔⑴〕で述べたことは、再生管財人にも妥当する。なぜなら、

再生管財人が個別的な満足を禁止された再生債権者全体の利益代表機関として再生債務者財 産を専属的に管理処分する点は、破産管財人となんら異ならないからである。」

 ⑶ 再生債務者の実体法上の地位(360頁~362頁)

   「再生管財人が選任されない場合、再生手続開始によって対抗問題が生じるかどうか、換 言すれば再生債務者が対抗問題における第三者といえるかどうか、については議論がある。

   通説は、再生手続開始によって対抗問題(民177条参照)が生じ、相手方は登記なくして 不動産物権変動を再生債務者に対抗できないと説く。……その論拠については、通説の間で も説明の仕方が異なるが、次の5点に整理することができる(なお、各論拠は相互に矛盾排 斥するものではない)。

   第1は、破産管財人の実体法上の地位に関する前述〔⑴〕の理解と同様に、再生手続開始 決定を包括差押えと同視する論拠である(山本克己〔報告者注:氏名のみ掲記。以下同じ〕)。

すなわち、再生手続開始決定によって、再生債権者は個別的な満足を禁止され(民再39条1 項、85条1項)、再生債務者も財産管理処分権をいったんは剥奪される(これにより、再生 手続開始決定は、再生債権者全体のための包括差押えの性質をもつことになる)。そのうえ で(剥奪と同時瞬間的にではあるが)、債権者の利益を擁護すべき義務によって性格が変容 された財産管理処分権があらためて再生債務者に付与され、再生債務者は、総再生債権者の 利益代表機関として、その財産管理処分権を行使すべきことになる。このことを端的に示し ているのが、再生債務者の公平誠実義務に関する規定であり(同38条2項)、この規定の解 釈として以上のような法律構成が導かれる。要するに、再生手続開始決定は総再生債権者の ための包括差押えであり、再生債務者はその利益を代表する機関であるから差押債権者類似 の地位が認められ、そして差押債権者は対抗問題における第三者と解されることから、再生 債務者もまた第三者性を主張できるという。

   第2は、実質的な公平論に基づく根拠である(山本和彦)。すなわち、再生債権者は、再 生手続開始決定により個別的権利行使が禁止されて差押債権者となりえなくなるから(民再 39条1項)、差し押さえることができたら得られるであろう地位を保障しなければ酷であり、

したがって、そのような再生債権者の地位を保護するために、再生債務者には対抗問題にお ける第三者としての地位が認められるべきであるという。

   第3は、清算価値保障原則からの帰結である(松下淳一)。すなわち、破産手続であった ならば実現されえたであろう配当分(清算価値)は、再生計画を通じて再生債権者に分配さ れなければならない(民再174条2項4号)。したがって、破産手続であれば破産管財人の第

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三者性で勝ち取ることができたであろう財産は再生手続でも勝ち取ることができ、その価値 は再生債権者に分配されなければならない。それを実現するために、再生債務者にも対抗問 題における第三者性が認められるという。

   第4は、債務者財産の公示の促進という観点であり、公示されていない担保権等から無担 保債権者を保護するために再生債務者には差押債権者の地位ないし第三者性が認められるべ きであるという(中西正)。

   第5は、実定法上の根拠であり、手続開始後の登記・登録の無効制度(民再45条)および 対抗要件否認制度(同129条)は、手続開始により対抗問題が生じることを前提としなけれ ば説明困難であるという(松下淳一)。

   以上の通説に対しては、再生債務者が対抗問題における第三者にあたらないとする少数説 もある(河野正憲)。この少数説は、不動産物権者がなんらかの処分制限を受けた場合には 対抗問題が生じるという理解を前提として、再生手続開始決定自体には処分制限が生じない ことから、再生債務者は第三者ではないと帰結する。ただし、具体的に再生債務者の行為に つき処分制限がされた場合(民再41条)や監督命令による財産処分制限(同54条2項・4項)

がされた場合には、対抗問題が生じ、再生債務者の第三者性が肯定されるという。……この 少数説は、再生債務者の公平誠実義務(同38条2項)からその実体法上の第三者性を引き出 すことに懐疑的であるが、その背景には、再生債務者が不動産等をみずから売却しておきな がら登記手続に協力せず、手続開始に至って突如として買主の登記欠缺を主張することは不 当であるとの実質論がある。

   この少数説に対しては、通説から次のような反論がある(山本克己)。すなわち、少数説 の考え方によれば、担保権は、手続開始当時に対抗要件を具備していなくても別除権とされ るが、開始決定後、手続の途中で管理命令が発令されて再生管財人が選任されると、対抗で きなくなり、別除権でなくなってしまう。逆に当初は再生管財人が選任されていたが手続進 行中に管理命令が取り消された場合には、別除権として対抗しえなかったはずのものが対抗 しうることになる。この帰結は、別除権の有無が手続開始決定時を基準に定まるという倒産 法の大前提と抵触するものである。換言すれば、再生管財人に第三者性を認める以上は、再 生債務者にも第三者性を認めなければ、管理命令の発令・取消しによって手続の同一性は維 持されないという〔報告者注:管理命令の発令・取消しだけでなく、監督命令の発令・取消 しの場合も同様の批判が成り立つ〕。

   下級審判例ではあるが、判例も前述第1および第5の論拠から、再生債務者の第三者性を 肯定する(大阪地判平成20年10月31日〔報告者注:本判決〕)。」

4-3:若干の疑問

 ⑴ 「対抗要件の具備」の必要性の意味について

  ⇒ 最判平成22年6月4日民集64巻4号1107頁は、「信販会社の留保所有権」も別除権にな りうるとした上で、「再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の

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手続の請求および右請求についての監督委員に対する同意を求める請求がいずれも棄却された事例 担保権を有する者の別除権が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権 者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣 旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等を具備し ている必要があるのであって(民事再生法45条参照)、本件自動車につき、再生手続開始 の時点でX〔信販会社〕を所有者とする登録がされていない限り、A〔自動車販売会社〕

を所有者とする登録がされていても、Xが、本件立替金等債権を担保するために本件三者 契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。」と判示した。

    この最判は、別除権を行使するには「対抗要件の具備」を必要としているが、「誰」を 想定して対抗要件の具備が必要としているかは明らかでない。「誰」=「再生債務者」と いうなら、『対抗問題』ということになるから、それでよい。しかし、「誰」という点は特 に深く考察する必要はなく、「対抗要件の具備」=『別除権として扱われるための権利保 護要件』と考えることもできるのではなかろうか。そうであれば、「別除権として扱われ るか?」という場面においては、「再生債務者の第三者性は出る幕なし」と考えることも できるのではなかろうか(なお、同様に考えれば、二重譲渡の場面では、「対抗要件の具備」

=「取戻権として扱われるための権利保護要件」ということになるし、さらに、再生手続 以外の場面でも、「破産管財人の第三者性は出る幕なし」などということになる)。

    なお、本件の控訴審判決である大阪高判平成21年5月29日金判1321号28頁(ただし、引 用ではなく、次のように要旨が紹介されているのみ)も、「民事再生法45条1項本文は、

不動産に関し再生手続開始前に生じた登記原因に基づき再生手続開始後にされた登記は、

再生手続の関係においては、その効力を主張することができない旨定め、ただ、同条項た だし書において、登記権利者が再生手続開始の事実を知らないでした登記についてはこの 限りでない旨定めるところ、XのY1に対する本件請求は、不動産に関し再生手続開始前 に生じた登記原因に基づき、再生手続開始後に、再生手続開始の事実を知りながら登記手 続を請求するものにほかならない〔から〕…、かかる登記請求は、同法45条1項により、

許されないものというべきである。」としており、やはり上記と同様の疑問を惹起するも のである。

 ⑵ 登記を遅らせた行為に関するXの主張について

  ⇒ 本判決は、上記の判旨引用部分に加えて、Y1が根抵当権の設定登記を意図的に遅らせ るような信義則上許されない不誠実な行為があったのでY1には法の保護を与えるべきで はないとのXの主張に対し、Y1について信義則に反するといえるほどの不誠実な行為が あったとまでは認められない、もっとも、Y1に不誠実な行為はあった、しかし、再生債 務者は再生債権者の利益を実現する再生手続上の機関としての地位を有するのであるか ら、Y1に不誠実な行為があったことは、再生債務者の第三者性を否定することにはなら ないとした。

    では、仮に、Y1に信義則に反するといえるほどのレベルで登記を遅らせていた場合に ついては、どう考えているのであろうか。もし、この場合にはXの登記請求を認めると考 えているとすれば、それは適当でない。なぜなら、再生債権者の不利益においてXの登記

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請求を認めることになるからである。また、Xの損害賠償請求を認めるとしても、それは 再生債権にとどまり、共益債権とはならない。したがって、Y1に信義則に反するといえ るほどのレベルで登記を遅らせていた場合については、管理命令(民再64条)の発令が考 えられるくらいであろう(なお、再生手続の申立てから開始決定がされるまでの間であれ ば、不誠実な申立てにあたるという理由から、申立てが棄却されることも考えられるし〔民 再25条4号〕、さらに、間接的ではあるが、決議に付するに足りる再生計画案の作成の見 込みが立たない等の理由から、再生手続が廃止されることも考えられる〔民再191条各号〕)。

以上

参照

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