保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保 証債務の弁済をした場合における主たる債務の消滅 時効の中断 〔求償金請求事件、最高裁平二二(受
)二五四三号、平25・9・13二小法廷判決、破棄自 判、判例時報二二〇九号一〇二頁、民集六七巻六号 一三五六頁〕
著者 今尾 真
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 31
ページ 103‑112
発行年 2015‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2521
保証人が主たる債務を相続したことを知りながら 保証債務の弁済をした場合における
主たる債務の消滅時効の中断
〔求償金請求事件、最高裁平二二(受)二五四三号、平25・9・13二小法廷判決、
破棄自判、判例時報二二〇九号一〇二頁、民集六七巻六号一三五六頁〕
明治学院大学教授 今 尾 真
【事実】
商人Bは、平成9年から平成11年にかけて3度、子Yを連帯保証人として銀行Aから次のとお りの金員を借り受けた。まず、Ⅰ平成9年5月26日に2,000万円を、次いで、Ⅱ平成10年3月9 日に締結された極度額500万円とする当座貸越契約による貸越しを、そして、Ⅲ平成11年5月26 日には1,000万円をそれぞれ借り受けた(以下、右各債務につき「Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ債務」という)。Bは、
これらの借入れの都度、信用保証協会Xとの間で信用保証委託契約を締結し(Ⅰ債務につき平成 9年3月24日、Ⅱ債務につき平成10年2月17日、Ⅲ債務につき平成11年5月14日)、XがAに対 して本件各保証債務を代位弁済したときはその弁済額の全額とこれに対する弁済の日の翌日から 完済に至るまで年14.6%(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金を支払う旨を約した。
そして、Yは、Xに対し、右各借入れに伴う信用保証委託契約の締結日に、BがXに負担すべき 信用保証委託契約上の債務(以下、「本件各求償金債務」、また各個別の求償金債務につき「①②
③求償金債務」という)について連帯保証する旨を約した(以下、「本件各連帯保証債務」という)。
Bは、平成12年5月18日、Ⅰ債務につき期限の利益を喪失し、また平成12年3月9日にⅡ債務 につき、およびそれ以前の平成11年5月14日にはⅢ債務につきそれぞれ期限を徒過していたため、
Xは、平成12年9月28日、Aに対し、Ⅰ債務(1,496万5,181円)、Ⅱ債務(509万8,102円)および
Ⅲ債務(1,007万2,328円)の残元利金合計3,013万円5,611円を代位弁済し、Bへの求償権を取得し た(以下、「本件各求償金債務」という)。
その後の平成13年6月30日、Bは死亡し、その相続人がYほか2名であったが、YがBを単独 相続してB所有不動産を売却して一括返済することとして、ほか2名は相続放棄した。そして、
Yは、同年7月27日、Xに対して、YがBを単独相続することを告げていた。また、Xも、平成 17年9月24日および平成18年3月14日に、Bの相続につきY以外の法定相続人が相続放棄したこ とをYから聴取していた。
そして、Yは、Xに対して、平成16年6月3日にBから相続した不動産の売却代金382万6,430 円を①求償債務の弁済に充てるとともに、平成15年12月15日から平成19年3月30日までに①から
③の求償金債務につきそれぞれ40~41回にわたり内入弁済した(①求償金債務につき計402万 6430円、②求償金債務につき計6万円、そして③求償金債務につき14万円を支払った)結果、各 求償金債務の残元金2,590万9,181円および確定損害金2,583万7,451円の合計は5,174万6,632円と
なった。なお、YのXに対する平成19年3月30日までの右弁済につきXからYに交付された領収 証の名宛人は「連帯保証人Y」と表示され、XからYに対する平成21年12月28日付け催告書には
「主債務者:B」と表示されていた。
そこで、Xは、平成22年1月13日、Yに対し、本件各連帯保証債務の履行として、右5,174万6,332 円(各求償債務の残元金2,590万9,181円と確定損害金2,583万7,451円の合計)と、各求償債務の残 元金2,590万9,181円に対する最終内入弁済された日の翌日(平成19年3月31日)から支払済みに 至るまでの遅延損害金の支払いを求めて、支払督促を申し立てたところ、Yが督促異議の申立て をしたことから、この督促事件は訴訟に移行した。
Yは、Xが代位弁済した平成12年9月28日から5年が経過し、主たる債務である本件各求償金 債務が商事消滅時効により消滅している(商522条)と主張して、連帯保証人としてこれを援用 するとともに、本件各連帯保証債務についても、平成16年6月3日(Yが連帯保証人として求償 金の一部を返済した日)より後は連帯保証人としての弁済もしていないので商事消滅時効により 消滅していることからこれを援用する、などと主張した。
これに対して、Xは、⒤YがBを相続したことによりYは主たる債務者でもあり、YがXに対 して弁済することは主たる債務の承認として主たる債務の時効が中断している、ⅱYが、Xから Yへの通知や領収証の肩書が連帯保証人と表示されていたことを奇貨として、主たる債務者の地 位と連帯保証人としての地位を併有する者が、それぞれの地位を使い分けて、連帯保証人として 弁済しておきながら、他方で主たる債務者として債務の消滅時効を援用するのは禁反言の法理に 違背する、などと反論して争ったのが本件である。
第1審(千葉地佐倉支判平成23・3・29金判1426号21頁)は、本件各求償金債務の時効消滅を 認めた上で、Yに主たる債務者と連帯保証人の地位が併存することを承認するも、XはYを連帯 保証人と取り扱い、Yも連帯保証人として弁済していたにすぎないことから、主たる債務に債務 の承認は生じないと判示してXの請求を棄却した。
また、原審(東京高判平成23・9・15金判1426号19頁)も、第1審と同様、Xの請求を棄却し た。すなわち、原審は、Yはもともと連帯保証人の地位にあったのであるから、連帯保証人とし て弁済を継続する意思があったとしても不合理とはいえない、Yがいったん主たる債務者として 弁済をしながら、その後自らの前言を撤回して当該弁済は連帯保証人としての地位で行ったもの であると主張し始めた事実もない、そして、平成17年9月にはY以外の相続人の相続放棄の手続 が執られたことを聴取しており、遅くともその頃には、Yに対して主たる債務者としての時効中 断の措置を執ることは可能かつ容易な状況になっており、そうした措置をYが妨げていたような 事情も認められない、などの理由を第1審の理由に加えて、Xの控訴を棄却した。
そこで、Xはがて上告受理の申立てをした。
【判旨】 破棄自判
「⑴主たる債務を相続した保証人は、従前の保証人としての地位に併せて、包括的に承継した 主たる債務者としての地位をも兼ねるものであるから、相続した主たる債務について債務者とし
てその承認をし得る立場にある。そして、保証債務の附従性に照らすと、保証債務の弁済は、通 常、主たる債務が消滅せずに存在していることを当然の前提とするものである。しかも、債務の 弁済が、債務の承認を表示するものにほかならないことからすれば、主たる債務者兼保証人の地 位にある者が主たる債務を相続したことを知りながらした弁済は、これが保証債務の弁済であっ ても、債権者に対し、併せて負担している主たる債務の承認を表示することを包含するものとい える。これは、主たる債務者兼保証人の地位にある個人が、主たる債務者としての地位と保証人 としての地位により異なる行動をすることは、想定し難いからである。
したがって、保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合、当 該弁済は、特段の事情のない限り、主たる債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を 中断する効力を有すると解するのが相当である。
⑵これを本件についてみると、上記事実関係によれば、Yは、単独でBの本件各求償金債務を 相続したことを知りながら、平成15年12月15日から平成19年3月30日まで本件各連帯保証債務の 弁済を継続したものということができ、この弁済が本件各求償金債務の承認としての効力を有し ないと解すべき特段の事情はうかがわれない。そうすると、上記弁済は、主たる債務者による承 認として本件各求償金債務の消滅時効を中断する効力を有するというべきであり、上記の中断は、
Yが連帯保証人として援用する本件各求償金債務及び本件各連帯保証債務の消滅時効に対して も、その効力を生ずるといえる(民法457条1項)。したがって、Xが本件各連帯保証債務の履行 を求める旨の上記支払督促を申し立てた平成22年1月13日の時点では、いずれの債務の消滅時効 もまだ完成していなかったことになる。」
【研究】
一 はじめに―問題の所在
〔争点〕
連帯保証人が主たる債務者を相続してから、連帯保証債務の一部弁済後に主たる債務の消 滅時効期間が経過した場合、当該連帯保証人が主たる債務の時効を援用できるかどうか*1。
〈個別の論点〉
①相続により保証人と主たる債務者が同一人となった場合に両者の地位が併存するか否か。
②併存するとして、保証人兼主たる債務者が保証債務の弁済後に主たる債務者の地位に基 づき主たる債務の消滅時効を援用できるか、それとも弁済により主たる債務の消滅時効 が中断するか。
③主たる債務の消滅時効が中断しないとしても、保証人兼主たる債務者が主たる債務の消 滅時効を援用することが許されるか否か。
~本件は、従来の判例・学説が意識していなかった問題*2~
〔本判決*3の概要〕
保証人と主たる債務者の地位が併存することを前提として、保証人兼主たる債務者が主た る債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合には、当該弁済が主たる債務 の承認をも包含するものとして主たる債務の消滅時効を中断する(「特段の事情のない限り」
との留保はあるものの)、との新たな判断を示したものである。
二 主たる債務と保証債務の消滅時効をめぐる問題に関する判例・学説
1 主たる債務に生じた事由
〔原則〕……主たる債務の消滅時効が完成し、主たる債務者がこれを援用した場合、主たる債務 が消滅して付従性によって保証債務も消滅→保証人は保証債務の消滅を主張するこ とができる。
⑴ 判例……保証人も民法145条の「当事者」に当たることを理由に主たる債務の消滅時効を援 用できる(大判大正4・7・13民録21輯1387頁、大判昭和8・10・13民集12巻2529 頁)。
⑵ 通説*4…判例法理を支持。
⇒主たる債務者に生じた事由は保証人に対しても効力を生じるので、主たる債務者の債務承 認によって消滅時効が中断した場合には、保証人に対しても時効中断効が生じる*5(民 法457条1項)。
2 保証債務に生じた事由
〔原則〕………保証債務に生じた事由は、連帯保証人への履行の請求が主たる債務者に対して 効力を生ずる(主たる債務の時効も中断)こと(458条の434条準用)を除き、
主たる債務者に影響を及ぼさない。
→保証人が保証債務を承認しても保証債務の消滅時効が中断するのみで主たる債務の時効は 中断しないので、主たる債務者は主たる債務の消滅時効を援用することができる(大判昭 和5・9・17新聞3184号9頁)*6。
⑴ 判例
①保証人が主たる債務の時効完成前に保証債務の一部を弁済しても主たる債務の消滅時効を中 断せず、主たる債務の時効完成後に保証人は主たる債務の消滅時効を援用できる(大判昭和 10・10・15新聞3904号13頁)。
②主たる債務の時効完成後に保証人が債務の承認(大判昭和7・6・21民集11巻1186頁〔支払 いの延期を求めた事案〕)または弁済(最二小判平成7・9・8金法1441号29頁)をしても、
保証人は主たる債務の消滅時効を援用することができる。
⇒判例は、主たる債務の消滅時効の完成前後を問わず、債務承認ないし弁済を行った保証人 が、その後に主たる債務の消滅時効を援用することは妨げられないとの法理を確立*7。
⑶ 学説
ア.多数説……保証人の承認が将来主たる債務の時効が完成してもなお独立の債務を負担する 趣旨である場合を除いて、債務承認を行った保証人が主たる債務の消滅時効を 援用できるとして、右の判例法理を支持するのが多数*8。
イ.有力説……保証人による保証債務の承認(または時効利益の放棄)は、主たる債務のそれ を含むと解すべきで、その後に保証人が主たる債務の消滅時効を援用すること は許されないとの見解も有力*9。
三 本件に関する下級審の判決と本判決の論理構成
〔前提〕……保証人と主たる債務者たる地位が同一人に併存すること……
1 下級審の判決 〔法律構成〕
保証人と主たる債務者のいずれの地位に基づいて弁済したかを基準に、主たる債務者とし て弁済した評価できる場合でなければ主たる債務の承認とは認められないとの論理を採 用*10。
〔判断ファクター〕
①Yの弁済が主たる債務者としての弁済であったか否か、
②Yの時効援用が禁反言(信義則)に違背するか否かという事実評価に重点*11。
〔根底にある考慮〕
保証人と主たる債務者たる地位の別個独立性を、本件のような地位同一人帰属類型におい ても貫徹するとの考慮がある*12。
2 本判決 〔法律構成〕
地位が併存する者による一部弁済は、「主たる債務者による承認として当該主たる債務の 消滅時効を中断する効力を有する」
=地位が併存している者が「主たる債務を相続したことを知りながらした弁済は、これが 保証債務の弁済であっても、債権者に対し、併せて負担している主たる債務の債務の承 認を包含」している。
〔根拠〕
ⅰ 「保証債務の弁済は、通常、主たる債務が消滅せず存在していることを当然の前提とす るものである」こと……保証債務の付従性、
ⅱ 地位が併存する者が「主たる債務者としての地位と保証人としての地位により異なる行 動をすることは想定し難い」ことから……保証人・主たる債務者たる地位の同一人帰属類 型の特殊性*13、
〔根底にある考慮〕
保証債務の独立性と保証人・主たる債務者たる地位が同一人に併存という前提を維持しつ つ、保証人の債務承認に主たる債務の時効中断効を見出す余地を認めえた*14。
⇒保証人と主たる債務者が同一人であることを重視する判断がある。
四 若干の検討
1 本判決の位置付け
⑴ 従来の判例法理・通説との関係―債務の承認を行った保証人による主たる債務の消滅時効援 用可否
ア.従来の判例・通説
主たる債務の消滅時効完成前後を問わず、債務承認ないし時効利益の放棄を行った保証 人が、その後に主たる債務に関する時効を援用することは妨げられない。
Cf. ただし、主たる債務の時効完成後に、主たる債務者が債務承認したことを知りなが ら保証債務を承認した保証人による時効援用を信義則に反するとした判例もあり(最 一小判昭和44・3・20判時557号237頁)。
イ.本判決
上記の判例法理・通説を否定するものではなく、保証人と主たる債務者たる地位が同一 人に帰属した類型にあっては、同一人に帰属した原因を「知りながらした弁済」*(債務 承認)は、主たる債務の承認を含むとの判断を示したものと捉えられる(前掲昭和44年最 判との共通の理論枠組?)。
*「知らないでした4 4 4 4 4 4 4弁済」4 4 の場合には、保証人は主たる債務の時効を援用できる(?)
と解される以上、従来の判例・通説の法理を前提としている。
⑵「無権代理と相続」(本人無権代理人相続)ケースとの関係 ア.本人が無権代理人を相続したケース
相続前4に行われた被相続人の無権代理行為を本人としての地位で追認拒絶できるか否か の問題
→無権代理人たる地位をも併有する本人が、追認拒絶権を行使しても信義則に反しな
い(最二小判昭和37・4・20民集16巻4号955頁)。
イ.本判決
相続後に地位を併有するに至った保証人が行った弁済の意味が問われる問題
→事案・問題状況を異にするので、昭和37年最判の理論枠組は参考にならない*15。
2 本判決の評価
⑴ 法律構成について……《肯定的評価》が多数 〔保証人の意思解釈〕
→信義則または権利濫用に主張制限ではなく、債務承認の趣旨すなわち、保証人の意思解釈 から*16
①「一審・原審も含め、従来はこの点について硬直的な理解が一般的であったと思われるが、
本判決は……柔軟な立場を示唆するもの」*17
→「一部弁済基づく承認によって時効が中断される債務は、その弁済が充当される債務と常 に一致しなければならない必然性はなく、複数の債務の債務者としての地位を併有する者 が弁済を行う場合には、債務相互の関係次第によっては、複数の債務にまたがって時効中 断効が生じることもありえよう」
②「特段の留保なく弁済を行った保証人が、主たる債務者として自己に対する権利行使の懈怠 を指摘することは通常許されないと評価できよう」*18
③「基本的に妥当なものと評価しうる」*19
④「主たる債務者兼保証人による保証債務の弁済は、保証債務を承認するだけでなく、主たる 債務についても、これを承認しているとみる方が自然」*20
Cf. 保証人の意思解釈という法律構成に疑問?
①保証人は他人(主たる債務者)の債務をその者に代わって弁済する者で、たまたま相続 によってその他人の地位を承継したからといって、その主たる債務の時効消滅を知りう る立場にあるというは、保証人の合理的意思を推認したものといえるか、いささか疑問。
②相続が起こらなかったならば、保証人が主たる債務の時効消滅後に弁済をしても(これ は保証人としての弁済とみられる)、主たる債務の消滅時効を援用できるのに、相続が 起こった結果、それを知った保証人の弁済は主たる債務の承認(主たる債務者としての 弁済)になるというのも、保証人の意思と乖離していないか?。
③保証人として弁済をしていた者は、相続が起こっても、保証人として弁済し続ける意思 を有するのが通常ではないか?
⑵ 結論の妥当性について ア.保証の仕組みに対して
→保証は、いわば他人の債務の弁済といいるので、その債務負担をなるべく軽減する方向
での解釈・運用が望ましい。偶然に生じた相続事案において、主たる債務者という地位 を形式的に併有する者に責任を負わせる方向での解釈は問題。
イ.本件に対して
①本件は、保証と信用保証の組み合わせにより、債権者側に極めて有利な仕組みとなっている。
②保証人・主たる債務者の負担する債務額が過大。
③相続が生じなかった場合との結論のアンバランス。
⑶ 私見
ア.本判決の法律構成・結論に対して……反対
イ.法律構成
①第1審・原審の理論枠組を支持……別人格構成を重視すべき
②「無権代理と相続」ケースにおける判断枠組を参考にすべき……信義則説
→本件は相続後4の弁済が問題なので、相続前4に行われた「無権代理と相続」ケースとは事 案が異なるとの指摘があるが、本件も相続前の保証債務負担、相続後になされた弁済が 保証人としての弁済か主たる債務者としての弁済かを決定できるのは、保証人であると してもあながち不当とまではいかないのではないか?
③ただし、保証人による主たる債務の消滅時効の援用が信義則に反する場合には、その主張 を封ずべき
→主たる債務の消滅時効を保証人が認識した上で、ないし認識する蓋然性が高かった場合
(X交付の領収証の肩書や催告者が主たる債務者宛を窺わせるなどの事情がある場合)、
弁済を続けながら、後に主たる債務の消滅時効に気付いてこれを援用することは信義則 に反するとすべき。
3 本判決の射程
⑴ 普通の保証人・物上保証人のケース……〇 Cf. 本件は連帯保証人のケース
⑵ 主たる債務の消滅時効完成後のケース……〇
Cf. 本件は主たる債務の時効完成前の債務承認ケース
⑶ 共同相続ケース……〇
Ex. 共同相続人の1人である保証人が、相続によって主たる債務の一部が持分割合に応じて 自己に帰属するに至った場合など
Cf. 本件は単独祖続ケース
⑷ 「相続したことを知らない」で保証人が弁済(債務承認)した場合……×
⑸ 相続以外の理由で地位が併存する場合……×
→主たる債務者と保証人とが実質的一体性があると認められるケース Ex. 会社の合併
4 本判決の問題点
⑴ 「相続したことを知らない4 4 4 4」で保証人が弁済(債務承認)した具体的場合?
⑵ 「特段の事情」の具体的内容?
Ex. 保証債務の弁済時に殊更に主たる債務の承認でない旨(専ら保証人として弁済する旨)
を留保した場合?……こうしたケースは稀
以上
【付記】
本報告に基づき、判例時報2232号124頁(2014年11月)に本判決の評釈を公にしたので、参照 されたい。
*1本件は連帯保証が問題とされている事案であるが、本判決も「連帯保証」と「保証」とを区別してい ないので、以下では、一括して「保証」とする。
*2白石大「本件判批」TKC新・判例解説Watch民法(財産法)No.74(2013年)2頁、石田晃士「本件判批」
本山敦=奈良輝久編『相続判例の分析と展開』金判1436号(増刊)25頁、森永淑子「本件判批」重判 解平成25年度ジュリ1466号73頁(以上、2014年)。
*3本判決の評釈して、白石・前掲(注2)、長谷川卓「本件判批」金法1983号52頁(2013年)、堀口久「本 件判批」銀法21・768号18頁、武川幸嗣「本件判批」金判1435号2頁、中川敏宏「本件判批」法セミ 710号108頁、石田・前掲(注2)24頁、森永・前掲(注2)73頁(以上、2014年)などがある。
*4ただし、松久三四彦『時効制度の構造と解釈』(有斐閣、2011年)78頁は、反対する。
*5判例はまた、付従性を根拠に、債務を担保するため抵当権を設定した物上保証人が、債務者の債務承 認により生じた時効中断効を否定することはできないとする(最二小判平成7・3・10判時1525号59 頁)。
*6なお、判例は、物上保証人が被担保債権および物上保証の存在を承認しても、このことをもって主た る債務の時効中断効を生じるわけではない(依然として物上保証人は主たる債務の消滅時効を援用で きる)としている(最一小判昭和62・9・3判タ702号83頁)。
*7もっとも、判例には、会社の債務(主たる債務)につき代表取締役が連帯保証したという事案におい て、主たる債務の消滅時効完成後に、主たる債務者である当該会社が主たる債務を承認し、保証人で ある代表取締役が、主たる債務者の債務承認を知つて保証債務を承認した場合には、保証人がその後 主たる債務の消滅時効を援用することは信義則上許されないとしたものある(最一小判昭和44・3・
20判時557号237頁)。
*8我妻榮『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』(岩波書店、1964年)482頁、奥田昌道『債権総論〔増補版〕』
(悠々社、1992年)397頁、淡路剛久『債権総論』(有斐閣、2002年)395頁、潮見佳男『債権総論Ⅱ〔第 3版〕』(信山社、2005年)470頁、円谷俊『債権総論〔第2版〕』(成文堂、2010年)276頁、中田裕康
『債権総論〔第3版〕』(岩波書店、2013年)495頁など。
*9前田達明『講述債権総論〔第三版〕』(成文堂、1993年)362頁。なお、松久三四彦『時効制度の構造 と解釈』(有斐閣、2011年)79頁は、信義則を根拠に同様の結論を導き出す。
*10武川・前掲(注3)4頁、石田・前掲(注2)25頁。
*11森永・前掲(注2)74頁。
*12武川・前掲(注3)4頁。
*13武川・前掲⑶4頁。
*14森永・前掲(注2)74頁。
*15白石・前掲(注2)3頁。
*16武川・前掲(注3)5頁。
*17白石・前掲(注2)4頁。
*18武川・前掲(注3)5頁。
*19中川・前掲(注3)108頁。
*20石田・前掲(注2)26頁。