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精神発達遅滞児における学習時間配分について

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全文

(1)

精神発達遅滞児における学習時間配分について

松村多美恵*・細谷恵美子*・柳橋 由美*

(1990年9月14日受理)

The Apportionment of Study Time in Children with Mental Retardation

Tamie MAsuMuRA, Emiko HosoYA and Yumi YANAG田AsH1

(Received September 14,1990)

は じ め に

種々の記憶課題において精神遅滞児が劣弱な成績を示すことの主要な原因として,実行機能の障 害が指摘されている(Borkowski and Cavanaugh,1979;Campione, Brown, and Ferrara,1982;

松村,1989)。精神遅滞児の実行機i能を改善する方法として,彼ら自身が学習過程における行為の 主体であるという自己意識を高める訓練が注目されているが,その1つの方法として自由再生課題 における学習時間配分方略の訓練がある。この方略は,自由再生課題の後さらに短時間の学習時間 を与えられた時,再生できなかった項目を集中的に学習するものである。

Masur, McIntyre, and Flavel1(1973)は,自由再生課題における適切な学習時間配分(study time apportionment)方略の発達的な傾向を,小学1年生,3年生,および大学生の健常児・者を 対象として検討した結果,この方略は1年生ではあまり見られず,3年生になって初めて用いるこ

とができることを指摘している。さらにBrown and Campione(1977)は, M A 6歳とMA8歳の 精神遅滞児も方略的な行動を示さず,また,以前に再生できなかった項目に注目している者でも再 生が向上するわけではないことを指摘している。また,彼らは,これらの遅滞児に訓練を行ない,

その効果を検討した。訓練群としては,先行の自由再生で再生できなかった項目を集中的に学習す る標準群と,再生できた項目とそれに1つだけ新しい項目を学習する漸進群である。後者の訓練群 を設けたのは,未熟な被験者は再生できなかった項目を学習している間に前に再生した項目を忘れ てしまうのではないか,もしそうであるなら,前に再生できた項目を復習しながら1つずつ新しい 項目を加えて,漸進的によりよい成績にしていくほうが,有効ではないかと考えられたからである。

実験の結果,MA6歳の遅滞児は漸進方略が有効であり, MA8歳の遅滞児は標準方略が有効であ ることが示唆された。

しかし,Brown and Campione(1977)の研究では,記銘項目数が全被験者に対して一律である ため被験者によっては天井効果あるいは床効果が生じた可能性も考えられる,さらに彼らの研究で

*茨城大学教育学部障害児教育学科.

(2)

は健常児との比較が行なわれていない。そこで,本研究ではこの2点を修正した上で,精神遅滞児 に対する学習時間配分方略の訓練の有効性を同一MAの健常児と比較し,さらにBrown and Cam一 pione(1977)の研究の被験者より低いMAの被験者においても,訓練が有効であるか否かを検討

する。

方    法

1)被験者

被験者は茨城県内の養護学校の中学部および高等部に在籍する精神遅滞児36名,保育所に在籍す る健常児39名であり,各々標準群,漸進群,統制群に分けられた。被験者の内訳は表1に示す。

2)材料

記銘刺激は,7×8cmの厚紙に描かれた日常物の線画,計87枚(プレテスト用:12枚X 1セット,

訓練用:15枚×2セット,ポストテスト用:15枚×3セット)を用いた。具体的なリスト項目は表 2に示した。すべてのリストは,異なるカテゴリーに属する項目から成っている。被験者の記憶ス パンによって呈示カード数は異なった。なお,実験前に被験者が全カードを命名できることを確認

した。

3)手続き

本実験は,プレテスト,訓練1および2,ポストテスト(直後,3日後テスト1および2)の3 段階で,いずれも個別に行なった。実験の経過は,テープレコーダーで録音した。

(1)プレテスト 12枚のカードを50秒間学習(S1)させ,自由再生(R1)を行なわせた。こ こで再生された項目数を被験者の記憶スパンとした。R1の後,再生項目と非再生項目の同定がで きるかいなかが評価された。続く25秒間の追加学習(S2)では,前試行で呈示された12枚のカー ドから6枚を被験者自身に選択させ,学習させた。自由再生(R2)の後, S 2における項目選択 の理由の言語報告を求めた。S2においてR1の非再生項目を選択し,その言語報告も可能であっ たのは健常児1名のみであり,この被験者は以後の実験より除外された。

(2)訓練 プレテストの成績をもとに各群の成績が等質になるように,精神遅滞児と健常児を標 準群,漸進群および統制群に分けた。標準群は,前試行の非再生項目のみを集中的に学習するよう に訓練する。S1およびR 1までの手続きはプレテストと同様である。 R 1の後,再生項目に目印 としてのおはじきを置き,再生できなかった項目を被験者の前に呈示し,「今度は今,覚えられな かったものをがんばって覚えてみよう」と教示する。漸進群は,前試行の再生項目に非再生項目を 1つだけ加えて学習するように訓練する。「今度は今,覚えたものに覚えられなかったものを1つ 足して,覚えてみよう」と教示する。統制群では再生項目と非再生項目を半分つつ呈示したが,前

2群とは異なり,項目の選択基準は説明しなかった。呈示項目数は3群ともに各被験者の記憶スパ

ンの1.5倍とし,追加学習での選択項目数は呈示項目数の最高半数までとした。学習(S1からS

4)と自由再生(R1からR4)が交互に繰り返された。 S 1の学習時間は50秒間, S 2からS4

(3)

表1 被験者の構成

N CA平均(範囲) MA平均(範囲) IQ平均(範囲)

標準児

13 5:10 ( 5 :06− 6:02)

常 漸進群

13 5 :10 ( 5 :05−  6 :04)

統制群

13 5 :10 ( 5:05− 6:03)

標準群

12 15:03 (13:05−18:06)

6:10(5:09−7:11) 47.3(37−54)

漸進群

12 16 :03 (13 :07−18 :05)

6:07(5:00−7:10) 40.7(28−53)

統制群

13

16:01 (13:01−19 :02) 6:06(5:05−7:11) 40.5(32−49)

表2 刺激項目

カテゴリー プレテスト 訓練1段階 訓練2段階 直後段階 3日後1段階 3日後2段階

動物 ぞう ねこ

ぶた うさぎ

いぬ

きりん

果物 みかん

ばなな

すいか もも

ぶどう

いちご

身につける物

しゃつ

すりっぱ くつ ぼうし ずぼん ながぐつ

乗り物 でんしゃ ふね

ばす じどうしゃ じてんしゃ ひこうき

昆虫

ちょうちょ

てんとうむし

ばった

あり かたつむり とんぼ

菓子

あめ

あいす せんべい チョコレート

ドーナツ

ケーキ

野菜 とまと にんじん

なす キュウリ

かぼちゃ

じゃがいも

身体の一部

はな あし

て め かみのけ くち

日用品 ばけつ ほうき

かさ

とけい

でんわ テレビ

台所用品

ほうちょう

ちゃわん

なべ

コツプ

はし

スプーン

ひよこ

ぺんぎん

はくちょう

つばめ

にわとり

からす

文房具

いす ほん

えんぴつ

くれよん

つくえ はさみ

遊具 ぶらんこ すべりだい すなば

てつぼう

ジヤングルジム

ひまわり

ちゅうりっぷ たんぽぽ あさがお あじさい

楽器 たんばりん ピアノ

たいこ

ラッパ すず

(4)

の学習時間は25秒間,4回の自由再生時間は2分間とした。

(3)ポストテスト 3群とも,項目選択を被験者自身が行なう点を除いては,訓練と同様の手続 きである。

結     果

各段階の平均正再生率を示したのが表3である。さらにプレテストを除く各段階のR4における 平均正再生率を図示したのが,図1および図2であり,全段階のR2における平均正再生率を図示

したのが,図3および図4である。また非再生項目の選択率における全試行平均を示したのが表4 であり,それを図示したのが図5および図6である。

1)プレテスト段階の成績

R1とR2の平均正再生率を比較すると(表3),健常児においても遅滞児においても, R 1よ りR2のほうが有意に正再生率が高かった(X=8.28, p<.01;κニ17.28, p<.01)。健常児と遅 滞児の成績を比較すると,R1および2ともに正再生率において差は認められなかった。

さらに非再生項目の選択率においても(表4),健常児と遅滞児の差は認められなかった。

再生項目の同定率は健常児,遅滞児ともに高く(健常児:90.50%,遅滞児:91.91%),差は認 められなかったが,非再生項目の同定率については,健常児94.74%,遅滞児71,43%であり,健常 児のほうが有意に高かった(γ=48.24,p<.01)。

なお標準群,漸進群および統制群のプレテストにおける正再生率,および選択率については,健 常児においても遅滞児においても差は認められなかった。

2)訓練段階の成績

(正再生率)

訓練1および2における正再生率について試行間の変化(表3)をみると,訓練1においても訓 練2においても全群ともに,試行が進むにつれて成績がよくなっている(検定値省略)。

健常児も遅滞児も訓練1と2の間にR4における正再生率の差(表3,図1,図2)は認められ なかった。さらに健常児においては,訓練1および2のR4において漸進群が統制群より有意に高 く(κ=5.20,p<.05;κ=2.93, p<.1),遅滞児においては,訓練1および2のR4において漸 進群は統制群よりも有意に高く(κ=5.70,p<.05;Z=4.82, p<.05),訓練1において標準群

は統制群よりも高い傾向が認められた(κ=2.75,p<.1)。健常児と遅滞児のR4における正再 生率を比較すると,統制群の訓練2においてのみ健常児は遅滞児より高い傾向が認められた(Z=

3.44,Pぐ1)。

次にプレテストのR2と,訓練1および2のR2を比較すると(表3,図3,図4),健常児に おいては,漸進群で訓練1および2がプレテストより有意に高く(N=12,m=3, P=.05;N=13,

m=3,p=.05),統制群で訓練2がプレテストより有意に高かった(N=13, m=3, p=.05>。遅

滞児においては,標準群で訓練2がプレテストより有意に高く (N=12,m=3, P=.05),漸進群

(5)

表3 平均正再生率

標準群 漸進群 統制群 平均

、 プレースト

         R1

衷寛凵@        R2

45.50 T6.42

48.75 T7.67

47.42 T4.50

47.22 T6.84

         R1

x滞児         R2

43.08 T5.58

39.58 T8.33

37.50 S9.42

40.08 T4.17

R1 62.04 60.34 63.16

         R2

衷寛凵@        R3

63.06 V0.18

68.64 V5.42

64.04 U6.09

R4

78.81 83.05 70.43

訓練1段階

R1

56.25 61.36 52.38

         R2

x滞児         R3

67.71 V1.43

70.00 V4.73

61.90 U4.29

R4

74.49 79.35 63.10

R1 61.47 62.93 61.40

         R2健常児         R3

68.47 V1.68

67.80 V3.11

64.35 U7.83

R4

79.31 82.35 73.04

訓練2段階

R1

62.50 59.09 54.76

         R2

x滞児         R3

74.23 V3.74

73.86 V6.40

59.76 U2.79

R4

72.00 78.89 63.90

Rl

62.04 61.21 61.40

         R2

衷寛凵@        R3

64.55 V1.68

64.41 V3.95

64.04 U6.67 ポストテスト

R4

78.95 85.95 73.91

直後

R1

59.38 56.82 57.14

         R2

x滞児         R3

71.88 V2.92

69.32 V6.67

58.82 U7.06

R4

75.26 81.32 65.82

R1

60.38 61.21 60.00

         R2

衷寛凵@        R3

62.96 V0.91

71.19 V2.88

66.09 U4.35 ポストテスト

R4

72.73 83.19 72.17

3日後1段階

R1

58.33 60.23 59.52

         R2

x滞児         R3

61.46 U4.58

65.91 V1.59

60.71 U0.71

R4

67.71 77.53 64.29

R1

62.26 62.07 60.87

         R2

衷寛凵@        R3

67.29 V0.64

67.24 V3.73

64.35 U7.24 ポストテスト

R4

78.38 84.75 72.65

3日後2段階 R1 61.46 61.36 58.33

         R2

x滞児         R3

67.71 V0.83

67.05 V1.59

60.00 U2.35

R4

73.96 78.41 65.88

(6)

で訓練1および2がプレテストより有意に高く(N=11,m=2, P=.05;N=10,皿=1, p=.025),

統制群で訓練1がプレテストより有意に高かった(N=11,m=1, p=.01)。各訓練段階における 標準群,漸進群,および統制群のR2を比較すると,遅滞児の訓練2段階においてのみ標準群およ

び漸進群が統制群より有意に高かった(Z=4.42,P<.05;κ=3.98, p<.05)。訓練1のR2と 訓練2のR2を比較すると,健常児の標準群のみ訓練2が訓練1より高かった。

3)ポストテストの成績

(正再生率)

直後,3日後1および2段階における正再生率について試行間の変化(表3)をみると,健常児 の全群および遅滞児の標準群と漸進群において,どの段階ともに,試行が進むにつれて成績がよく なっており,遅滞児の統制群においては,直後のみR3, R 4がR 1, R 2よりも成績がよかった

(検定値省略)。

訓練段階と各ポストテスト段階のR4における正再生率を比較すると,健常児においては,標準 群で訓練1および2段階が3日後1段階より有意に高く(サインテスト:N=11,m=2, p=.05;

N=9,m=1, p=.025>,遅滞児においては,標準群で訓練1,直後,3日後2段階が3日後1段 階よりも有意に高かった(N=9,m=1, pニ.025;N=7, m=0, p=.01;N=5, m=0, p=.05)。

漸進群と統制群では,段階間に有意な差は認められなかった。また3群間を比較すると,健常児の 漸進群はポストテストの全段階において統制群より有意に高く(Z=5.35,p<.05;κ=4.10,

p<.05;Z=・5.13,p〈.05),3日後1の段階において標準群より高い傾向が認められた(Z=

3.66,p〈.1)。遅滞児の漸進群もポストテストの全段階において統制群より高かった(γ=5.42,

p<.05;κ=3,68,p<.1;Z=3.38, p〈.1)。健常児と遅滞児の差については,どの段階におい ても各群ともに認められなかった。

次にプレテストのR2と,ポストテストのR2を比較すると(表3,図3,図4),健常児にお いては,漸進群で3日後1段階がプレテストより有意に高く(N=13,m=2, p=.025),統制群で 直後および3日後1段階がプレテストより有意に高かった(N=13,m=3, p=.05;N=12, m=3,

p=.05)。遅滞児においては,標準群で直後,3日後2段階がプレテストより有意に高く(N=12,

m=3,p=.05;N=12, m=3, p=.05),漸進群と統制群では直後,3日後1段階,3日後2段階 がプレテストより有意に高かった(漸進群:N=10,m=2, p=.05;N=9, m=1, p=.025;N=12,

m=2,p=.025,統制群:N=10, m=2, p=.05;N=10, m=0, p=.01;N=10, m=1, p=.025)。

また3群問を比較すると,遅滞児の直後においてのみ標準群が統制群より高い傾向が認められた

(κ=3.40,P<.1)。

(非再生項目の選択率)

非再生項目の選択率における各ポストテスト段階の試行間の変化(表4)については,健常児,

遅滞児ともに明らかな差は認められなかった。

各段階の平均選択率を比較すると(表4),遅滞児の標準群において,直後が3日後1および2

段階よりも有意に高かった(N・=9,m=1, p=.025;N=9, m=1, p=.05>以外は,遅滞児の他の

群や健常児においては段階間に差は認められなかった。3群間を比較すると,健常児の標準群は全

段階において漸進群より有意に高く(Z=6.87,p<.01;Z=4.79, p<.05;Z=8.15, p〈。01),

(7)

表4 非再生項目の選択率

標準群 漸進群 統制群 平均

健常児  S2 73.97 72.46 72.22 72.90

、プレテスト

遅滞児  S2 67.65 72.22 75.00 71.70

S2 72.50 65.22 65.12

S3

82.05 62.79 70.73

健常児     S4

87.50 66.67 76.32

ポストテスト 平均 80.18 64.75 70.49

直後段階

S2

87.18 62.16 72.22

S3

85.19 51.72 62.86

遅滞児     S4

85.19 5L85 73.33

平均 86.02 55.91 69.31

S2 71.43 66.67 66.67

S3

79.49 65.63 71.05

健常児     S4

85.29 62.86 75.00

ポストテスト 平均 78.26 65.18 70.73

3日後1段階

S2

71.79 65.71 69.70

S3

65.71 54.84 64.52

遅滞児     S4

71.88 66.67 68.75

平均 69.81 62.37 67.71

S2

80.49 63.41 65.91

S3

82.35 64.86 63.41

健常児     S4

83.87 66.67 76.92

ポストテスト 平均 82.08 64.81 68.55

3日後2段階

S2

75.68 61.76 68.57

S3

74.19 71.43 55.88

遅滞児     S4

75.00 68.00 77.42

平均 75.00 66.67 67.00

表5 ポストテストにおける標準方略・漸進方略使用者の割合

標準方略使用者 漸進方略使用者

標準群 統制群 漸進群 統制群

ポストテスト 健常児 100.00 30.77 84.62 30.77

直後 遅滞児 75.00 25.00 41.67 8.33

ポストテスト 健常児 61.54 30.77 46.15 15.38

3日後1段階 遅滞児 33.33 41.67 25.00 16.67 ポストテスト 健常児 69.23 46.15 53.85 30.77

3日後2段階 遅滞児 41.67 41.67 33.33 33.33

(8)

(%)      (%)

100       100『       一標準群  .._一__・一・一・一・_...一一.一・   漸進群       80         ト\_/ノ    統制群       60

       一一標準群

@      …一漸進群

@  ,一一,,. ・..、一         統制群  ・         一「・㍉

^

@   一\ジノ

40 40

20 20

0

0

訓  訓  直   3  3      ブ  訓  訓  直   3  3 練  練  後   日  日       レ  練  練  後   日  日

1  2      後  後       テ   1  2      後  後

1   2      ス      1   2

図1 R4における平均正再生率(健常児)    図4 R2における平均正再生率(遅滞児)

(%)      (%)

100 100

80

       一標準群

@      ・…漸進群  80.....。.引一一,.・・ ヤー一一・.こ        曽 ……    統制群

      一標準群

@       ・…漸進群

・畢@も 層 、

噸亀。一幽 ・7−−・騨,,..凸曽r−}−一.欄

60 60

40 40

20

0

訓  訓  直   3  3       ブ   直   3  3 練  練  後   日  日       レ  後   日  日 1  2     後  後      テ     後  後

1   2      ス       1   2

図2 R4における平均正再生率(遅滞児)    図5 非再生項目の平均選択率(健常児)

(%)      (%)

100       100一標準群

一標準群

・…

Q進群

…・

Q進群

80 統制群  80

統制群

60

       ヤ ー r  闇

@!…曹…     /!  > o             60

40 40

20

20

0

o

ブ  訓  訓  直  3  3       ブ  直  3  3 レ  練  練  後   日  日        レ  後   日  日 テ   1  2      後  後        テ      後  後

ス      1   2        ス       1   2

図3 R2における平均正再生率(健常児)    図6 非再生項目の平均選択率(遅滞児)

(9)

直後と3日後2の段階で統制群より高かった(Z=2.91,p〈.1;Z=5.54, p<.05)。遅滞児は 直後段階において標準群が漸進群や統制群よりも有意に高く(κ・=20.45,p<.01;κ=7.71,

p<.01),統制群は漸進群よりも高い傾向が認められた(Z=3.71,p<.1)。健常児と遅滞児の

次にプレテストのR2とポストテストのR2における選択率を比較すると(表4,図5,図6)

健常児では標準群が直後段階の方がプレテストより有意に高く(N=11,m=1, p=。01),遅滞児 でも標準群が直後と3日後2段階がプレテストより有意に高かった(N=13,m=3, p−.05;N=

11,m−2, P=.05)。

4)方略使用者の割合

ポストテストにおいて,標準方略および漸進方略を用いた被験者の割合を示したのが表5であり,

それを図示したのが図7および図8である。S2からS4までの3回の選択のうち,2回以上各方 略を用いたものの割合を示してある。健常児,遅滞児ともに直後段階で,標準群および漸進群は統 制群より標準方略および漸進方略を使用した被験者の割合が有意に多かった(健常児:Z=13.76,

p<.01;κ=7.72,p<.01,遅滞児:κ=4.19, p<.05;Z=3.55, p<.1)。また,直後段階に おいて,標準群の標準方略使用者および漸進群の漸進方略使用者の割合は,遅滞児より健常児の方 が有意に高かった(Z=5.15,p<.05;Z=4.99, p<.05)。

(%)      (%)

100

100

80

       80

60 藝竃

60

40

雛二

40

20

O

甕嚢轟

蒙藝:露

雛霧 箋萎

難 蒙 霧

20

妻奪萎

婆1

奪妻 難 多,,r,

華…i

箋llll

o

直後     3日後1   3日後2        直後 3日後1  3日後2

口  口  圏  幽      口  口  圏  麗健常標準 健常統制 遅滞標準 遅滞統制      健常漸進 健常統制 遅滞漸進 遅滞統制

図7 標準方略使用者の割合       図8 漸進方略使用者の割合

考    察

まナ健常児と遅滞児の正再生率については,全段階において差が認められなかった。同一MA

の遅滞児と健常児の記Jl意成績を比較検討した従来の研究(松杜1984;松村・木村,1986;松村・

(10)

小川,1983;松村・佐藤,1990;松村・若色・平嶋,1987)においては,遅滞児の再生・再認の成 績が健常児より悪いという結果が得られている。本研究で健常児と遅滞児の再生成績に差が認めら れなかったのは,各被験者の記憶スパンに基づいて記銘項目数を決定したことによっているように 思われる。また,プレテストにおける非再生項目の同定率には健常児と遅滞児の差が認められなか ったのに対し,非再生項目の同定率においては遅滞児の方が低かった。この点については,成功試 行の自己評価は正確であるが失敗試行での自己評価は不正確であるという結果を報告している松村

(1985)が指摘しているように,非再生項目の同定はできているが,Zigler(1973)のいう大人の 是認や承認を得ようとして,非再生項目を再生できたと報告した可能性が考えられる。

標準群と漸進群における訓練効果について検討すると,健常児の漸進群においては訓練1および 2段階の正再生率がプレテストの正再生率より高く訓練効果が認められたが,標準群においては認 められなかった。遅滞児の標準群においては訓練2の正再生率がプレテストより高く,漸進群にお いては訓練1および2の正再生率がプレテストより高いことから,両群において訓練効果が認めら れた。訓練段階における標準群,漸進群,および統制群の3群の正再生率を直接比較すると,健常 児の漸進群が統制群よりR4の比較において高かった。遅滞児においては,標準群および漸進群と

もに統制群よりR2とR4の比較において高かった。このことから,健常児においては漸進群,遅 滞児においては標準群と漸進群両方の訓練の直接的効果が認められた。しかし,健常児,遅滞児と もに統制群においても,部分的にではあるが,プレテストより訓練段階の方が正再生率が高かった。

この点については,統制群においては選択の基準は教示していなかったが,再学習の際の呈示項目 の半数は前試行の非再生項目であったため,訓練段階の正再生率が,再学習時の項目を被験者が無 方略的に選択したプレテストの正再生率より高くなったものと考えられる。

次に訓練効果の維持について検討する。健常児の漸進群においては3日後1段階が,遅滞児の標 準群においては直後と3日後2段階が,遅滞児の漸進群においては直後,3日後1段階,および3

日後2段階がプレテストの正再生率より高く,これらの群で訓練の維持効果が認められた。ポスト テストの各段階における正再生率を直接3群間で比較すると,R4の比較において健常児の漸進群 が全段階において統制群より高く,3日後1の段階において標準群より高い傾向が認められた。遅 滞児についてはR4の比較において全段階で漸進群が統制群より高く, R 2の比較では直後段階で 標準群が統制群より高い傾向が認められた。このように,健常児においては漸進群の維持効果が認 められ,遅滞児においては標準群と漸進群両方の維持効果が認められた。しかし,ポストテストに おいても統制群はポストテストより成績がよく,統制群においても維持効果が認められた。さらに,

健常児においても遅滞児においても,標準群はR4の比較で3日後1段階が他のポストテスト段階 より低く,3日経過すると訓練効果が低下することが示唆される。これに対し,漸進群の効果は3 日後も維持されている。

ポストテストにおける非再生項目の選択率を検討すると,訓練段階で非再生項目を選択して再学

習するように訓練された標準群が健常児においても遅滞児においても訓練直後の非再生項目の選択

率がプレテストの選択率より高く,遅滞児においては訓練2段階においても選択率が高かった。遅

滞児における標準群の訓練効果およびその維持については,正再生率においても認められたが,選

択率においてもこのことは支持された。健常児の標準群についても,訓練直後の選択率に影響を与

えているが,それが正再生率を上昇させるまでにはいかなかったものと思われる。漸進群と統制群

(11)

については,非再生項目を選択するように訓練したわけではないので,選択率に影響は認められな かったものと思われる。

訓練の効果は方略使用者の割合においても認められた。健常児の標準群においても標準方略の使 用者声多くなっており,この点での訓練効果は選択率と同様のレベルで認められるが,やはり正再 生率にまでは影響しなかったのであろう。また,健常児,遅滞児ともに,方略使用者を指標とした 時,その効果は直後段階でしか認められなかった。

以上,健常児においては,先行の自由再生で再生できなかった項目を集中的に学習する標準群の 訓練効果が認められ,遅滞児においては,標準群と,再生できた項目とそれに1つだけ新しい項目 を学習する漸進群の両方の訓練効果が認められた。Masur, McIntyre, and Flavell(1973)は,標 準方略は1年生ではあまり見られず,3年生になって初めて用いることができることを指摘してい る。本研究の対象であった幼稚園児にとってこの方略は非常に高度であったため,訓練してもその 効果が認められなかったのだと考えられる。それに対して,より未熟な学習者に焦点を当てた漸進 方略の訓練は効果があったものと思われる。健常児とは異なり同一MA(6歳)の遅滞児では標準 群の訓練効果が認められた。Brown and Campione(1977)は, M A 6歳の遅滞児は漸進方略が有 効であり,MA8歳の遅滞児は標準方略が有効であることを示唆しているが,本研究ではMA6歳 の遅滞児においても標準方略の訓練が有効であった(3日後,効果は低下したが)。これは各被験 者の記憶スパンに基づいて記銘項目数を決定したことに関係がありそうであり,さらに標準方略の 訓練効果はCAに影響されることが考えられる。この点についてはさらに検討することが必要と思

われる。

ま  と  め

本研究は精神遅滞児の記憶における実行機能の改善方法の1つとして,学習時間配分方略の訓練 を実施し,その効果を検討した。対象はCA5歳から6歳の健常児とMA5歳から7歳の遅滞児で あり,標準群,漸進群,統制群の3群が設けられた。その結果,健常児と遅滞児の成績の差につい ては,プレテストにおける非再生項目の同定率と直後段階における標準群の標準方略使用者および 漸進群の漸進方略使用者の割合が健常児の方が高かったが,プレテストにおける再生項目の同定率,

全段階の正再生率,および非再生項目の選択率には差が認められなかった。訓練の効果については,

訓練段階においてもポストテストにおいても健常児は漸進群,遅滞児は標準群と漸進群の正再生率 が高く,効果が認められた。しかし,遅滞児の標準群では訓練の3日後になると成績が下がった。

非再生項目の選択率については,健常児においても遅滞児においても標準群が特に直後段階におい て他の群より高かった。さらに,健常児,遅滞児ともに直後段階で,標準群および漸進群は統制群 より標準方略および漸進方略を使用した被験者の割合が有意に高かった。

引 用 文 献

(12)

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参照

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