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松村多美恵“・手塚睦代*・小林恵美子*         (!994年3月16日受理)

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(1)

精神発達遅滞児の物語記憶における繰り返し読み聞かせの効果について

松村多美恵 ・手塚睦代*・小林恵美子*

        (!994年3月16日受理)

Effects of Repetitive Reading Presentation oR Memory of a Story        in ChildreR with Mental Retardation

Tamie MATsuMuRA Mutsuyo TEzuKA and ]Emiko KoBAyAsHi        (Received March16,1994)

目  的

 幼児は同じ絵本を繰り返し繰り返し読んでもらうことを好む。繰り返し読んでもらうことによっ て,幼児は物語を深く理解し,物語の世界を楽しむことができる。精神遅滞児の指導においても物 語を繰り返し読み聞かせることが行われている。しかし,繰り返し読み聞かせることによって物語 記憶は向上していくのであろうか。

 精神遅滞児の物語記憶における絵画呈示や先行情報の効果については報告されている(松村1985,

松村・嶋田・村尾1987)が,繰り返し読み聞かせの効果については検討されていない。さらに,

健常児については高木・小林・田代・沢田(1976)が3歳児を対象に繰り返し読み聞かせの効果を 報告しているが,健常児におけるその発達的変化については検討されていない。そこで,本研究で は,精神遅滞児(MA5−6歳)と健常児(4歳,5歳,6歳)を対象に物語記憶に及ぼす繰り返

し読み聞かせの効果を検討する。

 物語としては繰り返し構造のあるものとした。昔話や幼児向け物語によくみられる物語の繰り返 し構i造が物語記憶を促進することが実証されているからである(高木1978,高木・丸野1979,

松村1985)。

 また,高木ら(1976)は,物語を聞く回数が増加するに伴い,絵本に集中しない反応が減少し,

物語を楽しむ積極的反応や物語の展開に関連する反応が増加することを指摘している。そこで,物 語記憶の成績と同時に物語を読み聞かせている時の被験者の行動を分析し,それらを繰り返し要因

との関係で検討する。

*茨城大学教育学部障害児教育講座(〒310 茨城県水戸市文京2丁目1−1).

(2)

56 茨城大学教育学部教育研究所紀要第27号(1994)

方  法

1)被験者

 被験:者は茨城県内の保育所に在籍するCA4〜6歳の健常児25名(男子11名,女子14名) (4歳 児8名,5歳児9名,6歳児8名),および小学校の特殊学級・養護学校の小・中学部に在籍する MA5〜6歳の精神発達遅滞児26名(男子12名,女子14名),合計51名である。

2)物語材料

 物語材料としては,被験者がこれまで聞いたことがなく,繰り返し構造のある物語として,酒井

(1989)が作成した「おおきなたまご」を用いた。酒井(1989)によれば,この物語は保育園の保母,

幼稚園および養護学校の教師15名により精神年齢5〜6歳に適していると評定されたものである。

具体的な物語文は,表1に示す。この物語はテープに吹き込まれ,紙芝居形式で絵と同時に呈示さ れた。絵は,物語の場面に合わせて彩色画9枚(38cm×55cm)が用いられた。

3)手続き

 「後でどんなお話しだったかを尋ねるので,絵をよく見てお話をよく聞くように」と教示した後,

物語を紙芝居形式で2〜3日の間隔をあけて4回,繰り返し読み聞かせた。そのたびに自由再生課 題,質問課題,および構戒再認課題を実施した。

(1)自由再生課題

 物語呈示直後に,何の手がかりも与えずに物語の再生を行わせた。物語全文を文節単位に分け,

被験者の再生した1文節につき1点が与えられた。助詞が脱落していたり,述部が常態に変化して いても1点が与えられた。最高得点は93点である。

(2)質問課題

 10項目からなる質問に答えさせた。正答1問につき1点が与えられたが,感情理解(6番,10番の 質問項目)や意訳的質問(7番,9番の質問項目)に対する正答は2点が与えられた。最高得点は 14点である。質問項目は表2に示す。

(3)構成再認課題

 5枚の絵の組合せによる物語の再認課題で,物語どおりに並んだ1組を含む4組が用いられた。

5枚の絵は,起・承・転・結の承の部分が2枚で,他の部分が1枚つつであった。物語どおりに並 んでいる組を選べば3点,3枚が物語どおりに並んでいる組を選べば2点,2枚が物語どおりに並 んでいる組を選べば1点,全くばらばらに並んでいる組を選べば0点とした。

(4)行動観察

 物語の読み聞かせ時の被験者の行動を毎回VTRにより録画し,繰り返し読み聞かすことによる 行動の変化を検討した。物語1文毎の各被験者の視線と積極的な反応(指さし,笑い等)を分析し

だ。

(3)

表1 呈示した物語文(「おおきなたまご」) 表2 質問課題における質問項目

{1)のはらの まんなかに おおきな たまごが ありました。

(2)とんぼが すいすいと とんできました。

 たまごの.うえで ひとやすみしました。

 たまごは じっと しています。

(3)こんどは かえるが びょ一んと とんできました。

  「おいしそうだなあj

 かえるは たまごを ペロリと なめました。

 けれども たまごは うごきません。

(4)fガアガア」 あひるが やってきました。

 たまごを みると 「コヅコツ」と くちばしで  つつきました。

 けれども たまごは うごきません。

(5)しっぽを ふりふり いぬが きました。

  「おや? なんだろう」

 いぬは たまごの まわりを ぐるぐる まわりました。

 それから 「ワン」と なきました。

 でも やっぱり たまごは うごきません。

(6}まこちゃんが のはらを あるいてきました。

 「あれ? なんの たまごだろう。 おおきいなあ」

 「こんな ところで だいじょうぶかなあ」

 まこちゃんは たまごに ハンカチを かけてあげました。

 そ一つと やさしく かけてあげました。

(7)そのとき 「ピューン」と かぜが ふいてきました。

 たまごは ころこう ころがって  「ドポーン」と  いけの なかに おちました。

 「1{リーッ」

(8)fほくの おかあさんは とこ?」

 たまごが われて とびだしたのは かいじゅうの  あかちゃん だったのです。

{1)なんという題のおはなしでしたか。

(2}たまごはどこにありましたか。

(3}野原にはだれが来ましたか。

  来た動物や入を答えて下さい。

(4)とんぼやかえるやあひるや犬が来たとき   たまごはどんなようすでしたか。

(5)まこちやんがたまごの所に来たとき   まこちやんはたまごに何をしてあげましたか。

〔6)まこちやんはどんな子どもですか。

(7)たまごがころこうころがつたのはとうしてですか。

(8}たまごが落ちたのはどこで.すか。

(9)おおきなたまごは何のたまごでしたか。

(王O)たまごがわれて、かいじゅうのあかちゃんが出て   きたとき、みんなはどんなようすでしたか。

一 一 一 一 一 一 騨 一 一 一 ﹁ 一.

2巳8642B86423 22i11i−

2回目 3回目 4回目

24歳二 二5歳児 翻6歳児 協遅灘1己

図1 自由再生課題における各群の平均再生得点

(4)

58 茨城大学教育学部教育研究所紀要第27号(1994)

結  果

1)自由再生課題

 健常児の4,5,6歳児群および遅滞児群の自由再生課題における成績を示したのが図1である。

すべての群において読み聞かせの回数を重ねるにつれて成績が上昇している(4歳児,5歳児では

1−2,1−3,1−4,2−4回目問,6歳児では1−2,1−3,1−4,2−4,3−4回

目間,遅滞児では1−2,1−3,1−4,2−4回目間に有意な差,t検定値省略)。特に1回 目から2回目にかけての上昇率が高かった。個々人の成績を分析すると,健常児群では25名全員が,

遅滞児群では26名中21名(80.8%)が1回目より4回目の成績がよく,2回目の再生数が1回目の 再生数より5ポイント以上増加している被験者は,健常児群で13名(52%),遅滞児群で7名(26.9

%)であった。

 健常児群における年齢間の比較では,2回目と4回目において4歳歯群が6歳児群より成績が有

意に悪かった(2回目:t=1.80,df=14, p〈.05;4回目:t==1.67, df=14, p〈.05)。

 また,健常児群と遅滞児群を比較した結果,遅滞児群は4歳児群と同程度の成績であり,5歳児 群や6歳児群より有意に成績が悪かった(5歳児群との比較,2回目:t・1.44,df ・ 33, P<.10;

3回目:t== 1.59,df==33, P<.Ol;4回目:t・= 2.21, df ・33, P<.01;6歳児群との比較,!回 目:t = 2.21,df=32, P<.05;2回目:t=2.53, df=32, P<.01;3回目:t =1.77, df= 32, P

〈.01;4回目:t=2.85,df = 32, P<.01)。

2)質問課題

 健常児の4,5,6歳児群および遅滞児の質問課題における成績を示したのが図2である。健常 児群においては読み聞かせの回数を重ねるにつれて成績が上昇している(4歳児では1−2,1−

3,1−4回目間,5歳児では1−3回目問,6歳児では1−4回目問に有意な差,t検定値省

略)。しかし,遅滞児群においては回数間に有意な差は認められなかった。

 健常児群における年齢間の比較では,4歳児群は5歳児群や6歳児群より成績が有意に悪かった

(6歳児との比較,1回目:t・4.26,df=14, p<.Ol;2回目:t= 2.89, df=14, p<.Ol;3回 目:t=2.17,df=14, p<.05;4回目:t=2。75, df ・14, p<.05,5歳児との比較,1回目:t

=1.71,df=15, p<.05;3回目:t=1.43, df ・= 15, p<.10)。また,5歳児群は6歳児群より 成績が悪かった(1回目:t=1.79,df=15, p<.05;4回目:t=1.83, df=15, p<.05)。

 また,健常児群と遅滞亡妻を比較した結果,遅滞語群は健常児のどの年齢群と比べても有意に劣 っていた(4歳児との比較,1回目:t=・1.59,df ・ 32, p<.10;2回目:t=3.25, df ・32, p<.

01;3回目:t・4.19,df ・32, p<.01;4回目:t ・3.01, df=32, p<.Ol,5歳児との比較,1 回目:t=3.71,df=33, p<.Ol;2回目:t=4.69, df ・ 33, p<.01;3回目:t・ ・5.70, df33, p

〈.01;4回目:t=4.53,df=33, p〈.0!,6歳児との比較,1回目:t=6.11, df=32, p〈.Ol

;2回目:t=6.40,df=32, p<.01;3回目:t=6.27, df=32, p<.01;4回目:t=8.27,

df== 32, p〈.Ol) .

(5)

11 1巳

9 8 7 6 5 4

恐︶

2 1

1〃

4多/二/イ

・く・アSこごここモこモこ美決ミ§こ蓑黛蓑

!「^ニニゴ多ニニチ∫ニグニニグづグ多髪髪//彩

//ス多髪!多髪//

玉國擁 2圓目

囮4歳児 圓5歳り己 騒6歳児 髄 〜 臼ノ﹂し

図2 質問課題における各群の平均得点

2 1.8 1,6 1.4 a,2 1 Z.8 密.6

e.4 縢,2

z

//!/! ノ 、、A︑︑︑妹\ ︑ 二/シググ // 拶彩/z !ノノ彰多

1圏目 2團目 411則縢

閣4歳兇 臨.5歳児 閣  6jlt3tY己

図3 構成再認課題における各群の平均得点

3日

2e 15

1臼

=ソ

ノク1!〆

・Z 「L

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z A

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1醐勝 2圓醗 3撹:旧

囮4歳児 翻5歳児 翻6歳児 翻遅    滞児

図4 各群の平均注視回数

(6)

60 茨城大学教育学部教育研究所紀要第27号(1994)

3)構成再認課題

 健常児の4,5,6歳銅壷および遅滞児の構成再認課題における成績を示したのが図3である。

すべての群において,回数を重ねることによる一定の傾向は認められない。宿泊においても有意な 差は認められなかった。

4)行動の変化

 各群の絵に対する注視の回数を示したのが,図4である。すべての群で回数を重ねるにつれて注 視の回数は有意に少なくなっている(4歳児では1−2,1−3,1−4,2−4,3−4回目問,

5歳児と6歳児では1−2,1−3,1−4回目問,遅滞児では1−4,2−4回目間に有意な差,

t検定値省略)。1回目より4回目の注視回数が少なくなっている被験者は健常児群においては20 名(80%),遅滞児群においては16名(61.5%)であった。

 健常児群における年齢問の比較では,4歳児群は6歳自判や5歳児群より注視の回数が有意に多 かった(6歳児との比較,3回目:t=2.00,df=14, p<.05;4回目:t= 1.79, df・= 14, p<.05,

5歳児との比較,2回目:t== 1.88,df ・15, p<.05;3回目:t= 2.77, df=15, p<.01)。また,

5歳児群は6歳児群より成績が悪かった(3回目:t=1.81,df=15, p<.05;4回:t=1.48, df

== 15,p<.10)。また,健常児群と遅滞児群を比較した結果,遅滞児群は全体的に健常児群より注 視の回数が少なかった(t検定値省略)。

 各群の積極的な反応の回数を示したのが,図5である。各群ともに,回数を重ねるにつれて積極 的な反応の回数が増加している(4歳児では1−2,1−3,1−4回自問,5歳児では1−4,

2−3回目間,6歳児では1−3,1−4,2−3回目間,遅滞児では1−2回目間,t検定値省 略)。健常児群における年齢問の比較では,4歳児群は5歳児群や6歳児群より積極的な反応の回 数が有意に少なかった(6歳児との比較,2回目:t・=1.92,df=14, p<.05;3回目:t=2.67,

df=14, p<.01,4回目:t ・1.67, df=!4, p<.10,5歳児との比較,1回目:t=2.OO, df=!5,

p<.05;4回目二t=1.45,df=15, p<.10)。 また,5歳児群は6歳前群より成績が悪かった

(2回目:t=2.24,df=15, p<.05;3回目:t=2.66, df=15, p〈.01)。 また,健常児群と遅 滞児群を比較した結果,遅滞児群は全体的に健常児群より積極的な反応の回数が少なかった(t検 定値省略)。

5)自由再生得点と行動の関係

 注視していた時と注視していなかった時の自由再生得点を比較したところ,負の相関が認められ,

5歳児において有意であった(r=一.34,t ・2.15, df・・ 30, p<.Ol)。

 注視回数と自由再生得点の1回目から4回目の変化を組み合わせて5つのタイプに分け,被験者 毎に分析すると表3のようになる。健常児群では注視回数は少なくなるのに対し成績は上昇するC

タイプの被験者が大部分である。それに対し,遅滞児群でも多くはCタイプであるが,再生成績が 上昇しないDタイプやEタイプがいることがわかる。図6は,1回目から4回目までの物語呈示時 における1文毎の注視と再生成績を示したものである。表3の代表的なタイプと典型事例を示した。

再生成績については,1文に含まれる文節数が異なるので,図6における丸印の合計と再生得点と は異なる。図6の事例においても認められるように視線を絵に向けていない時の文の再生が出来て

(7)

  9   8   ?   6   5

  3   2

  臼

     1挺}厨       2煙」圏       3垣}E]      41q】目

    翅4歳児  圓5歳児  閣6歳児  幽遅滞児

       図5 各群の平均積極的反応回数

 表3 注視と自由再生成績の変化によるタイプとその人数

タイプ 注視 再生 健常児 遅滞児

A .L昇 .L昇 3 7

B 変化なし 土山 2 2

C 下降 上昇 20 !2

D 下降 変化なし 0 4

E 変化なし 変化なし 0 1

Aタイプ

(E. A.遅滞児)

Bタイプ

(K.Y.健常5歳児)

Cタイプ

(K.M.健常4歳児)

.一一.一一一一一一一f一一

一一一?一一一(三)…

oo o

£e・ee−eee一一一

図6 1文毎の注視の有無と再生の有無(事例)   :絵に視線を向けている箇所   :絵に視線を向けていない箇所

○ :再生できた箇所

(8)

62 茨城大学教育学部教育研究所紀要第27号(1994)

いたり,逆に視線を向けていた文の再生ができていないことも多い。全被験者について分析した結 果,文亀の注視と再生成績には関連は認められなかった。

 積極的な反応が見られた時と見られなかった時の自由再生得点を比較したところ,5歳超群と6 歳児群および遅滞晶群において積極的な反応が見られた時に自由再生課題の成績が有意によいこと

が認められた(t=1.34,df・=・34, p<.01;t=1.57, df=30, p<.Ol;t=1.66, df==lO2, p<.01)。

考  察

 自由再生課題においては健常児,遅滞児ともに読み聞かせの回数を重ねるにつれて成績が上昇し,

特に1回目から2回目の上昇率が高かった。健常児群においては6歳児群が4歳児群より成績がよ く,発達的な変化が認められた。また,遅滞児群は4歳児群と同程度の成績であり,5歳斯々や6 歳児群より成績が悪かった。

 質問課題においては健常児は読み聞かせの回数を重ねるにつれて成績が上昇し,特に4歳児の上 昇率が高かった。これは,1回目の読み聞かせの後の正答率が5,6歳児ではすでに44.6%,59.3

%と高いのに対し,4歳児では29.6%と低いため,2回目以降の上昇率が高くなったものと思われ る。遅滞児は回数問に差は認められなかった。これは,質問課題においては被験者の答に対し実験 者が正答を示さなかったため,遅滞児の場合,聞違えた答が訂正されることなく固執的に同じ答を 繰り返したためではないかと考えられる。また,健常児群においては発達的な変化が認められた。

遅滞児は健常児のどの年齢群と比べても劣っていた。

 構成再認課題においてはすべての群において回数を重ねることの効果は認められず,被験者群間 にも差が認められなかった。構成再認課題は5枚の絵が並んでいる4種類のカードを一度に呈示し,

物語の順番と合っているものを選ぶという課題であった。そのため,一度に与えられる情報量が多 すぎ,絵を見比べることなくカードを選んでしまった可能性が高いように思われる。各群の1回目 から4回目までの平均点を計算すると,各群ともにチャンスレベル(1.5)に近いことからも,こ のことが推察される。そのため,繰り返し読み聞かせの効果,さらには群差が認められなかったの であろう。

 注視の回数はどの群でも読み聞かせの回数を重ねるにつれて少なくなった。高木ら(1976)は物語 を聞く回数が増加するに伴い,絵本に集中するようになると指摘しているが,本研究の結果は逆で あった。この点については,被験者の年齢と関係があるかもしれない。高木ら(1976)の被験者は3 歳児であり,本研究の被験者は4,5,6歳児であった。本研究結果から示唆されるように年齢が 低いほど注視の回数は多い。低年齢ほど視覚的刺激に対する好奇心が強く,耳から入る言語による

よりも絵によって物語を理解しようとする傾向があると考えられる。反対に年齢が高くなるとむし ろ聴覚的に物語を理解しようとし,繰り返し呈示されるうちに紙芝居の絵という視覚的刺激に対す る好奇心が薄れていき,視線の回数が少なくなったとも考えられる。高年齢の健常児の場合,注視 の回数が少なくても記憶成績はよく,読み聞かせの回数を重ねるにつれて視線の回数は少なくなる のに記憶成績はよくなったこと,注視と自由再生成績の問には関係は認められなかったこと等から も,こうした考察の妥当性を示しているように思われる。しかし,この点については,さらに検討

(9)

が必要であろう。また,遅滞児群は健:常児群より注視の回数が少なかった。健常児・者を対象とし た研究においては,推理能力や集中度,読字力などの能力が文章記憶・理解の能力と関係があると 指摘されている(今井1982,岡・石田・桐木・森1981,大村・撫尾・樋口1980)。推理能力や 集中度の低い遅滞児は注意を集中して視線を向けていることが困難であったのではないかと考えら れる。そして,そのことが遅滞児の記憶成績の低さに影響したのだと思われる。

 視線とは異なり,積極的な反応は各群ともに回数を重ねるにつれて増加し,高木ら(1976)の「積 極的反応が増加する」結果と一致した。これは,読み聞かせの回数を重ねるにつれて物語がよく理 解され,話に感情移入するようになるため,ただ視線を向けるといった消極的な反応とは異なり,

指さしや物語の内容に合った笑いという積極的な反応が増えていったのではないかと考えられる。

年齢が高いほど積極的な反応が多く,記憶成績もよくなったこと,積極的な反応が見られた時の自 由再生成績は積極的な反応が見られなかった時の自由再生成績よりよかったことからもこのことが 示唆される。遅滞児群においては視線と}司書,健常児群より積極的な反応は少なかったが,積極的

な反応が見られた時の自由再生成績はよかった。

まとめ

 本研究は物語を繰り返し聞かせることによって,聞いている時の視線や積極的な反応がどのよう に変化していくのか,さらに記憶成績は向上していくのかについて検討した。

 結果は以下のようであった。

(1)健常児においては発達的な変化が認められた。すなわち,絵に向ける視線は高年齢ほど少なく,

 積極的な反応は逆に高年齢ほど多かった。記憶成績は高年齢ほど高かった。

(2)健常児においては,繰り返しの回数を重ねるにつれて絵に向ける視線は減少したが積極的な反  応は増加した。さらに記憶成績も上昇した。

(3)遅滞児は健常児より視線も積極的な反応も少なく,記憶成績も悪かった。

(4>遅滞児においても,繰り返しの回数を重ねるにつれて絵に向ける視線は減少したが積極的な反  応は増加した。さらに質問課題における変化は認められなかったが,自由再生課題の成績は上昇  した。

(5)健常児においても遅滞児においても積極的な反応が見られた時の自由再生成績は高かったが,

 視線を向けていることと自由再生成績との関係は認められなかった。

引用文献

1 ) 今ヲ■1二立青i親.1982.

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2)松村多美恵.!985.

 究』23,36−45.

「幼児の文理解に及ぼす絵の効果」 『日本教育心理学会第24回総会発表論文

「精神薄弱児における物語記憶におよぼす絵画呈示の効果」 『特殊教育学研

(10)

64 茨城大学教育学部教育研究所紀要第27号(1994)

3)松村多美恵・嶋田佐智子・村尾由紀.1987.「精神薄弱児の物語理解に及ぼす先行情報の効果」

  『特殊教育学研究s 36, 55−66.

4)岡直樹・石田潤・桐木健始・森敏昭.1981.「文章の読解に関する研究(4)一個人の能力と読   解について一一、」 『日本教育心理学会第23回総会発表論文集』 668−669.

5)大村彰道・撫尾知信・樋ロー辰.1980.「文問の接続関係明示が文章記憶に及ぼす影響」 『教育   心理学研究』 28, 174−182.

6)酒井美千代.1989.「絵本を使った精神発達遅滞児の物語理解に及ぼす自己言語化,事物操作の   効果の検討」鳴門教育大学大学院修士論文.

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8)高木和子・小林幸子・田代康子・沢田瑞也.1976.「絵本の読み聞かせに関する研究(1)一く   り返し読み聞かせによる分析一」 『読書科学』 18, 105−113.

9)高木和子・丸野俊一.1979.「物語理解におけるくり返し構造の役割」 『日本教育心理学会第21   回総会発表論文集s 342−343。

参照

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