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博 士 ( 理 学 ) 大 津

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 大 津    敬

     学 位論文 題名

    Cold adaptations in Drosophila :     Qualitative and quantitative changes of triacylgycerols in relation to overwinterlng      ( ショウジョウバェの低温適応一越冬にともなう      卜 リ ア シ ル グ リ セ 口 一 ル の 質 的 、 量 的 変 化 )

学 位 論 文 内容 の 要 旨

  温帯 、寒帯域 に分布す る昆虫の 多くは、低 温及び餌 不足に特徴付けられる冬を乗リ 切る ため、秋 に休眠に 入るとと もに、低温 抵抗性を 高め、そして越冬中のエネルギー 源と なる物質 を蓄積す る。これ ら越冬のた めの適応 的形質のうち、休眠、低温抵抗性 につ いてはこ れまでに よく研究 されてきた が、エネ ルギー貯蔵物質についての研究は 少 な い。 昆 虫は 、 一 般に ト リ アシ ル グリ セ ロ ール (TAG) が主要 なエネル ギー貯蔵 物質 であると 考えられ ており、 その蓄積量 が休眠個 体において増えること、また構成 脂肪酸の不飽和度が高くなっていることがぃくっかの昆虫で報告されている。しかし、

TAGの 化学 的 組成 及 び 蓄積 量 と 越冬 能 カと の 関 係に づ いて はこれ までほと んど調べ られていない。

  本研 究の目的 は、エネ ルギー貯 蔵物質であ るTAGの越冬 に伴う質 的、量的 変化を、

亜 熱 帯か ら 暖温 帯 、 冷温 帯 にかけ て分布する ショウジ ョウバェ7種、9系統 について 比 較 する こ とに よ り 、越 冬 に おけ るTAGの 役 割 を明 ら かに するこ とにある 。実験に 用 い たハ エ はキ イ ロ ショ ウ ジ ョウ バ ェ種 群  (Drosophila melanogaster species group)に属 し、その 分布域と 低温抵抗 性の違いか ら、冷温帯種(D. au′aria,D. bi‑

auraria,D.fr』lauraria,D. subaurar洒)、暖温帯種(D.ru.fa,D.ん絶S卯ロS)、亜 熱 帯 種(D.fa如 由a曲mの3グ ル ープ に 分け ら れ る。 こ れら のハエの うち冷温 帯種4 種 とD.rUfaは 、mondUmSpeCieSSubgroupに 、他 の2種 はfa畑 轟a始ロSpeCieSSub‐ groupに属 する。こ れまでの 研究から 冷温帯種及 び暖温帯 種は成虫 で休眠す ることが

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明らかになっている。

  第1章 で は 、 こ れ ら の ハ エを 短 日 条 件 (10時間 明期 : 14時間 暗期 )と 長日 条件

(15時 間 明 期 :9時 間 暗 期 )で 飼 育 し 、TAGと グリ コー ゲン の蓄 積量 を比 較し た。

冷 、 暖 温 帯 種 は、 短日 条件 下で 生殖 休眠 に入 り、 非休 眠個 体に 比べ より多 くのTAG を 蓄 積 し た 。 冷温 帯種 と暖 温帯 種を 比ぺ ると 、TAGの蓄 積量 は前 者で 多く 、な かで も 最も 北方 に分 布す るDI subaurariaにおいて最大であった。亜熱帯種は温帯種ほど 多 く のTAGを 蓄積 でき なか った 。一 方、 グリコ ーゲ ン量 につ いて は、 休眠 、非 休眠 個 体間 及び温帯種、亜熱帯種間ではっきりとした相関はみられなかった。以上の結果 か ら 、 こ れ ら ショ ウジ ョウ バェ にお いて 、越 冬時 の主 要な エネ ルギ ー源はTAGであ り、その蓄積量が越冬能カと関係することが推測された。

  第2章 で は 、 屋 外 で の 飼 育、 越 冬 実 験 に よ り、TAGの 蓄積 がこ れら のハ エの 越冬 に 果た す役割を調べた。屋外飼育は北海道大学構内の木立の中に設置した飼育箱を使 用 し、8月 中旬 から 行っ た。こ れま での 研究 からD, aurarfaは 雪の下で越冬するこ と が知 られ てい るの で、12月 中旬 に根 雪と なっ た後 は、雪 の下 に埋めた発泡スチロ ー ル 箱 の 中 に 飼 育 ピ ン を 移 し 、 そ の 後4月 ま で死 亡個 体数 とTAG蓄積 量の 変化 を調 べ た 。 実 験 個 体が 経験 した 日長 と温 度は8月中 旬か ら12月中 旬ま では 札幌 の自 然条 件 と 同 じ で あ り 、 ま た 、 雪 の 下 に 埋 め ら れ て か ら4月 上 旬 ま で は 暗 黒 下 で、 ほぼ 0.2℃ で あ っ た 。 屋 外 実 験 の 結 果 、D.sU6a ′amとD. む ねUram大 沼 系 統 で は 9月上 旬以 降に 羽化 した 個体が 生殖 休眠に入リ、暖温帯種では、10月中旬以降に羽化 した個体が休眠に入った。亜熱帯域由来のD.師a ′a′』・『a亀徳系統は休眠に入らなか っ た。D,sUぬU′ar.ね とD. 織U′ar.ね大沼系統では、9、10月に羽化した個体の TAG量 は 12月 中 旬 に 最 大 で 体 重 の16% に 達 し た 。 そ れ ら の 個 体 の50〜70% が 春 ま で 生 存 し た 。11月 以 降 に 羽 化 し た 個 体のTAG量 は 体 重 の9% 以 上 に 達 す る こ と は な く 、 生 存 率 も 低 か っ た (0〜35% ) 。 暖 温 帯 種 とD. 酊aUram亀 徳 系 統 で は 、12月 中 旬 に お け るTAG蓄 積 量 は 少 な く ( 体 重 の2〜9% ) 、 こ れ ら のハ エが 春 まで 生存 する こと はな かっ た。 また、これらすべての実験系統において、体内のT AG量 は12月 中 旬 以 降 徐 々 に 減 少 し た 。 以 上 の 結 果 か ら 、TAGは 越 冬 中 エ ネ ル ギ ー 源と して利用されており、その蓄積量はこれらショウジョウバェの越冬能カを決定 する一要因であると結諭した。

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   第3 章で は、 越冬 にと もなう TAG の質 的変 化、すなわち脂肪酸の組成、TAG 分 子種の組成、相転移温度の変化を調べた。示差走査熱量測定(DSC )による解析の 結果、TAG の相転移温度は、非休眠個体より休眠個体で低く、より北方に分布する 種または系統で低かった。たとえば、冷温帯種の休眠個体のTAG はO ℃、すなわち 越冬条件でほぼ100 %が液相だったのに対し、 D . 1utescens では 50 %以上が固相 だった。一般にTAG の相転移温度はその不飽和度に依存するので、まず構成脂肪酸 の不飽和度を調べたところ、休眠個体および、より北方に分布する種で高かった。次 に 、TAG 分 子種 を不飽和度に従って分画し、飽和 TAG の全体に占める割合(実測 値)を求め、構成脂肪酸の組成を基に、TAG 合成時に脂肪酸がグリセロールにラン ダムに取リ込まれると仮定したときに得られる飽和TAG の割合(期待値)と比較し た。その結果、冷温帯種では実測値は期待値の1110 〜1/3 であり、D .rufa では1/3

〜 2/3 であった。一方、D .1utesces とD . takahashii では実測値と期待値はほとん ど 同じ であ った 。以上の結果から、飽和TAG が少なぃことが、 TAG の相転移温度 を低下させるために重要であること、このことは一般には構成脂肪酸の不飽和度を高 めることによって達成されているがmontium species subgroup では、それに加えて、

脂肪酸のグリセロールヘの選択的取り込みを行うことにより達成されていると結諭し た。

   以上のように本研究では昆虫の越冬における TAG の重要性を明かにしたが、とり

わ け、 TAG 蓄積 量と 越冬 能カに 相関 がみ られ ること(第 2 章)、DSC を用いて TA

G の熱挙動を明らかにしたこと、飽和 TAG 合成を抑えることに適応的意義があるこ

とを示レたこと(第3 章)は、これまでにない新しい知見である。飽和TAG の合成

を抑える機構は、TAG 合成系の酵素の量的、質的違いによることが予想され、今後

この系の詳しい解析がなされれば、気候適応を分子レペル、遺伝子レベルで理解でき

るようになると期待される。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

        Cold adaptations in Drosophila :     Qualitative and quantitative changes of triacylgycerols in relation to overwintering

( シ ョウ ジョ ウバェの 低温適応ー 越冬にと もなう ー  卜リ ア シ ルグ リ セ口 一 ル の質 的 、量的 変化)

  生 物は様々な 環境の変 化に適応するが、それがどのような生理学的、生化学的機構 によっているかは極めて興味深い問題である。温帯、寒帯域に分布する多くの昆虫は、

冬 季に備えて 休眠状態 に入り、 低温抵抗性を高め、越冬中のエネルギー源となる物質 を蓄積する。これら越冬のための適応的形質のうち、 休眠、低温抵抗性についてはこ れ までによく 研究され てきたが 、エネルギー源の蓄積についての研究は少なぃ。いく っ か の昆 虫 に おい て は、 主 要 なエ ネル ギー貯蔵 物質がトリ アシルグ リセロー ル(TA G) であり、そ の蓄積量 が休眠個 体におい て増える こと、ま た構成脂肪酸の不飽和度 が 高 くな る こ とが 知 られ て い るが 、TAGの 化学的組 成や蓄積量 と「適応 」との関 連 性 を直接証明 した例は ない。申 請者は、 近緑で、 分布域の 異なるショウジョウバェ7 種 、9系 統を 比 較 する こ とに よ り 、越 冬 能カ とTAGの質 的 、 量的 変化との 関係を明 ら かにした。 実験に用 いたハエ はその分布域と低温抵抗性の違いから、冷温帯種、暖

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浩 憲

明 人

   

   

正 正

   

   

田 田

堀 戸

芦 木

授 授

授 授

   

   

教 教

教 助

査 査

査 査

主 副

副 副

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温帯種、亜熱帯種の 3 グループに分けられる。

   第1 章では、短日条件(10 時間明期:14 時間暗期)下で生,殖休眠に入る冷、暖 温帯種は非休眠個体に比ペ、より多くのTAG を蓄積していること、冷温帯種と暖温 帯種を比べると TAG 量は前者で多い,こと、亜熱帯種は温帯種ほど多くのTAG を蓄 積できないことから、これらショウジョウバェにおける、越冬時の主要なエネルギー 源 は TAG で あ り 、 そ の蓄 積 量 が 越 冬 能 カ と 相関 する 可能性 を示 唆し ている 。    第2 章では、TAG 蓄積量とこれらのハエの越冬能カとの関係を、直接、屋外実験 により確かめている。その結果、冷温帯種、暖温帯種、亜熱帯種のうち、TAG 蓄積 量が一番多い冷温帯種のみが越冬可能であるが、その中でも秋早くに羽化した個体ほ ど TAG 量が 多く 春まで の生 存率が高いこと、また、すぺての系統において、TAG 量は越冬中、徐々に減少していることから、 TAG は越冬中エネルギー源として利用 されており、その量はハエの越冬能カを左右する一要因であると結諭している。

   第 3 章で は、 TAG の質 的変 化、す なわ ち脂 肪酸の 組成 、TAG 分子種の組成、相 転移温度の変化を調べている。示差走査熱量測定(DSC )の結果、冷温帯種の休眠 個 体の TAG は0 ℃、 すな わち 越冬条 件で ほぼ 100 %が 液相 であるのに比し、暖温 帯種では50 %以上が、゛亜熱帯種では70 %以上が固相だった。また、この相転移温 度の違いは、単に不飽和脂肪酸の比率が高いことだけでなく、不飽和脂肪酸をグリセ ロ ー ル ヘ 選 択 的 に 取 り 込 む 機 構 の 存 在 に よ る と 考 え ら れ た 。      以上の成果のうち、TAG 量と生存率との間に正の相関がみられること(第2 章)、

DSC を 用 い て TAG の 熱 挙動 を 明 ら か に し た こと 、不 飽和 TAG 合成 を促 進する 機 構の存在を示したこと(第3 章)は、新しい知見であり、気候適応を分子レベル、遺 伝子レベルで研究するための礎石となったという点で、意義は大きい。また、4 編の 参考論文は査読っきの国際誌に掲載され、高い評価を受けている。よって審査員一同 は 申 請 者 が 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 に 十 分 な 資 格 あ り と 認 め る 。

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参照

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