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博 士 ( 理 学 ) 神

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 理 学 ) 神    裕 介      学位論文題名

Spectroscopic Study of Water and Water‑Benzene Mixtures     at High Temperatures and Pressures

     (高温高圧における水および水―ベンゼン混合物の分光研究)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  水は、臨界点(647K.220 bar)を超えると、気体と液体の特徴を合わせ持つ超臨界水と 呼ばれる状態となる。近年、基礎研究から工業的応用までの多方面で亜臨界水・超臨界水が注 目されている。しかし、亜臨界水・超臨界水の物性と分子レベルでの構造との相関については 未知の点が多く残されている。また、水と炭化水素の相互溶解度は常温常圧では非常に小さい が、亜臨界から超臨界状態に至る高温高圧下では相互溶解度が著しく増加し、ついには水と炭 化水素が任意の割合で混ざり合い均一な相を形成する。このような水一炭化水素混合物に関し ては、新しい反応媒体としての研究や超臨界水による有機廃棄物の分解などの応用研究が行わ れている。また、石油精製および石油化学プラントの設計と運用に重要である混合系の相平衡 などの熱物性研究は広く行われている。―方、分子レベルでの基礎研究はこれまでほとんど報 告されていなかったが、最近の研究から、水―炭化水素系の相互溶解度、および混合状態の分 子レベルでの研究には赤外分光によるm situ測定が有効であることが分かってきた。しかし 通常の高温高圧セルの光路長では水の吸収が強すぎるため水相の測定は困難であり、これまで の研究では炭化水素相の測定に限られていた。

  そこで本研究では近赤外分光法に着目し、水、および水一ベンゼン混合物の水相とべンゼン 相の両相の高温高圧m situ測定を行った。近赤外分光法を用いる利点は、水の赤外OH伸縮 基音遷移に比べて、〇H伸縮倍音遷移の吸収強度が約2桁小さいため、通常のセルの光路長で も測定が容易であるということと、水の水素結合状態の変化によるモル吸収強度の変化が小さ いため、広い温度・圧力範囲で定量的測定ができることである。

  得られたスペク卜ルから、高温高圧水の水素結合状態について論じた。ついで、水ベンゼン 混合物中の水とべンゼンの濃度を決定し、水一ベンゼン系の相互溶解度、更に、臨界域近傍に おける異常な体積挙動について論じた。

  本論文は8章で構成される。

  第1章は序論として、超臨界水を含む高温高圧水及び高温高圧下での水一炭化水素混合流体 の研究の現状、そして、本論文の目的と構成について述べた。

  第2章では、実験方法とスペクトルデ―夕の処理方法、さらにモル吸収強度とノヾンドの1次 モ→メントの求め方について述べた。実験の概要は次の通りである。セルは耐圧耐腐食性の     ―180―

(2)

Hastelloy C276を 材料 と し て依 頼 製 作し 、 窓 材に は 無 色 サフ ァ イ アを用い て、0.30 mmと 1.46 mmの 光 路 長 の も の を 用 い た 。 分光 器 に は光 源 と 検知 器 を 近赤 外 用 に 変え たPerkin Elmer system 2000 FTIR分 光 器 を 用 い て 、 温 度 範 囲373‑673K、 圧 力 範 囲10―400 bar で水 及び水 一ベンゼ ン混合流体の近赤外スペクトルを測定した。実験で得られた透過スペクト ルか ら、空 のセルを りファ レンスと して吸 光度を求 めた。近赤外領域では、水の〇H伸縮倍音 遷移 とべン ゼンのCH伸 縮倍音 遷移が観 測され る。また 、水― ベンゼン 混合流体の水相の低温 域 に つい て は 、JASC〇Vー550紫 外 分光 器 を 用い て 、 ベン ゼ ン の 兀‑兀゛遷 移を測定 した。

  第3章では水の近赤外スペクトルについて述べた。

  観 測された 水のOH伸 縮倍音吸 収スペク トル形 状の温度 ・圧力 変化を調 べたところ、超臨界 状態 でも水 分子が比 較的自由に回転していることが分かった。このように、形状に回転構造を 残しているスペクトルに対しては、水素結合情報を得るための通常のノヾンド分解法は有効では ない 。そこ で本研究 では、 水素結合 状態に よって水 の〇H伸縮倍音遷移のモル吸収強度が変化 することに着目し、/ヾンド全体の積分強度からモル吸収強度を求めた。その結果、高温の低密 度気 体状態 では、モ ル吸収強度が圧力上昇と共に直線的に減少することが分かった。この勾配 か ら 水の2量 体 形成 の ェ ンタ ル ピ ーを15士3 kj/molと 見 積 っ た。 ま た、種々 の温度 ・圧カ のモ ル吸収 強度を密 度に対してプロットすると、良い近似で一本の線に乗ることが分かった。

これ は、水 素結合状 態が密度だけで決まり、温度にはほとんど依存しないことを示している。

次に 、水素 結合状態 のもう ーつの尺 度と成 り得る吸 収/ヾ ンドの1次モ ―メント(/ヾンドの重 心) を求め 、モル吸 収強度との間に良い相関があることを見い出した。これにより、混合物中 の水の積分強度から水の濃度を求めることができる。

  第4章で は水一ベ ンゼン 混合系の 水相の 近赤外測 定について述べた。水とべンゼンの吸収帯 の積 分強度 から水相 中の水 とべンゼ ンの濃 度を求め た。水の濃度は第3章で求めた相関関係か ら、またべンゼンの濃度は同じ温度圧カの純ベンゼンの吸収/ヾンドとの積分強度比から見積り、

水相 、及び 高温にお ける均 ―相中の べンゼ ンのモル 分率を求 めた。 ベンゼン のモル分率は、

548K以 下 で は圧 力 依 存性 は ほ とん ど 見 られなか った。 一方、高 温域で は圧カの 減少と とも にべンゼンのモル分率が顕著に増加した。

  得 られた濃 度から水 相の体 積挙動を 調ぺた ところ、 水―炭 化水素混 合系の炭化水素相のin situ赤 外分光で 報告さ れている のと同様 の、混 合による 異常体 積膨張が 水相中でも確認でき た 。 更に 、 こ の 体積 膨 張 は水 の 気 液平 衡曲 線近傍 で特に大 きくなる ことを 明らかに した。

  第5章 で は 水相 の 紫 外測 定 に つい て 述 べた 。498K以 下の 低 温 で は、水 相へのべ ンゼン の 溶解度が小さく、ベンゼンの近赤外/ヾンドの定量測定が困難であった。そのため、水相中のべ ンゼンの紫外吸収バンドを測定し、常温常圧時の吸収/ヾンドとの積分強度比からべンゼンの濃 度を 求めた 。ベンゼ ン濃度は、温度上昇と共に顕著に増加し、圧力増加と共に緩やかに増加し た。

  第6章で はべンゼ ン相の 近赤外測 定につ いて述べ た。ベンゼン相中の水のモル分率は温度上 昇と ともに 顕著に増 加し、圧力増加によって緩やかに増加した。ベンゼン相の体積挙動は、水 相の 結果と 同様の傾 向を示 した。こ れらの 結果は、 既報の加situ赤外分 光測定の結果と概略 ー致した。

  第7章で は水―ベ ンゼン 混合流体 の相互 溶解度と 混合による異常体積膨張について論じた。

    ‑ 181−

(3)

2相領域では、ベンゼン相への水の溶解度が、水相へのベンゼンの溶解度に比べて1桁以上大 きいことが分かった。その相互溶解度の非対称性を溶媒和モデルによって考察したところ、溶 媒相に溶質が入るための空孔形成エネルギーの差(分子の大きさの違い)によるものであると 考えられる。次に、混合による体積変化とべンゼンのモル分率との関係を調べたところ、同じ 温度圧カではべンゼンのモル分率が小さいほど体積膨張の割合が大きいことが分かった。例え ば、573`、100 bar、ベンゼンのモル分率0.18においては、混合に伴う体積の膨張率は700% にもなる。これは、水相に少量の超臨界ベンゼンが溶解することによって、水相の状態が液体 様から気体様になるためと考えられる。

  第8章では本論文のまとめを述べた。

‑ 182

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査

副 査 副 査 副 査

教 授 教 授 教 授 教 授

井 川 田 中 武 田 中 原

駿 一     晧     定 純一郎

     学位論文題名

Spectroscopic Study of Water and Water‑Benzene Mixtures     at High Temperatures and Pressures

     (高温高圧における水およぴ水―ベンゼン混合物の分光研究)

  高 温高 圧状 態の 水は 室温 の水 とは 大き く 異な った 性質 を示し、通常疎水性物 質とされて いる 炭化 水素 の良 溶媒 とな り、 他方 、電 解 質を 溶解 する 能カは低下する。例え ば、水とべ ンゼ ンの 相互 溶解 度は 室温 では 非常 に小 さ いが 、加 圧下 温度上昇に伴って著し く増加し、

570K、200 bar以 上 の 温 度 と 圧 カ で は 任 意 の 割 合 で 混じ りあ って 均一 相を 形成 する 。こ のよ うな 混合 系は 基礎 化学 の立 場か ら興 味 深い ばか りで なく、石油精製プラン トの設計・

管理 、超 臨界 水を 用い た環 境汚 染物 質の 分 解処 理技 術な どの応用面でも重要で 、相図など の熱 力学 的研 究が 国内 外で 活発 に進 めら れ てい る。 一方 、分子レベルでの基礎 研究はこれ まで 殆ど 報告 され てい なか った が、最近、赤外in situ分光により分子レベルで の混合状態 に関 する 興味 深い 知見 が得 られ 始め てい る 。し かし 、赤 外領域では水の吸収が 強すぎるた め水 リッ チ相 (以 下水 相と 記す )の 測定 は 困難 で、 これ までは炭化水素リッチ 相(炭化水 素相 )の 測定 に限 られ てい た。 そこ で本 研 究で は近 赤外 分光法に着目し、水、 および水―

ベン ゼン 混合 物の 水相 とべ ンゼ ン相の両相について 高温高圧in situ測定を行い 、水素結合 状 態 、 相 互 溶 解 度 、 お よ び 臨 界 域 近 傍 で の 混 合 に よ る 異 常 体 積 挙 動 に つ い て 論じ た。

  本 論 文 は8章 か ら 構 成 され てい る。 第1章 では 、序 論と して 高温 高圧 状態 の水 およ び水 一炭 化水 素混 合系 に関 する これ までの研究を概説し 、in situ分光研究の意義と 本研究の目 的に つい て述 べて いる 。

  第2章 では 実 験方 法と スベ クト ルデ ータ の処 理法 につ いて 述べ てい る 。分 光実 験に 用い た特 注製 作の 高温 高圧 セル を中 心と する 実 験装 置お よび 実験手順について説明 し、次いで 水 と べ ン ゼ ン の そ れ ぞ れの 近赤 外吸 収 帯の モル 吸収 強度 の求 め方 につ いて 述べ てい る。

  第3章 では 、 水の 近赤 外ス ペク トル 測定 につ いて 述べ てい る。 スペ ク トル 形状 の温 度・

    ―183―

(5)

圧力依存性を調ベ、673K,400 barの超臨界状態でも、かなりの割合の水分子が自由に回 転していることを見いだした。さらに、高温低密度の気体状態でのモル吸収強度が圧力上 昇とともに直線的に減少することを明らかにし、その勾配から水の2量体形成のエンタル ピーとして15t3 kj/molを得た。また、モル吸収強度の密度依存性から、水の水素結合 状態が近似的に密度だけで決まり、温度には殆ど依存しないと結諭した。さらに、近赤外 吸収バンドの一次モーメントがモル吸収強度と良い相関を示すことを見いだし、これを用 いて混合物中の水の濃度を求める方法を提案した。

  第4章では水―ベンゼン混合系の水相の近赤外測定について述べている。水とぺンゼン のそれぞれの近赤外吸収帯の積分強度から、水とべンゼンの濃度を求め、種々の温度圧カ における混合物中のべンゼンのモル分率を見積った。548K以下の温度では、ベンゼンの モル分率は圧カに殆ど依存しないが、高温域では圧カの減少とともに顕著に増加すること を明らかにした。また水とべンゼンの濃度から水相の密度を見積もり、臨界域近傍で混合 による異常体積膨脹が生じていることを見いだした。

  第5章では、水相の紫外測定について述べている。498K以下の低温では、ベンゼンの 近赤外パンド強度の定量測定が困難であった。そのため、ベンゼンの兀呵*遷移による紫外 吸収帯を測定し、水相中のべンゼンの濃度を見積もった。

  第6章ではべンゼン相の近赤外測定について述べている。ベンゼン相中の水のモル分率 は温度上昇とともに顕著に増加し、圧力上昇によって緩やかに増加した。また、ベンゼン 相の体積挙動は水相と同様の傾向を示した。これらの結果は、既報の赤外基本振動領域の 測定による結果と概略一致するものである。

  第7章では、水とべンゼンの相互溶解度、および混合による異常体積膨脹について論じ ている。2相領域では、ベンゼン相への水の溶解度が、水相へのべンゼンの溶解度に比べ て1桁以上大きいことが分かった。この溶解度の非対称性を溶媒和モデルによって考察し、

空孔形成エネルギーの違いによるものであると結論した。混合による体積変化は、一定温 度・圧カではべンゼンのモル分率が小さいほど体積膨脹の割合が大きいことを明らかにし た。例えぱ、573K,100 bar,ベンゼンのモル分率O.18においては、混合による体積膨張 率は700%に゛もなる。これは、水相に少量の超臨界ベンゼンが溶解することで、水相の状 態が液体類似から気体類似に変化するためと結論した。

  第8章では本論文の研究成果をまとめている。

  以上の研究成果は、亜臨界・超臨界状態における水の分子レベルでの構造と運動、およ び水一ベンゼン混合物の相互溶解度と体積挙動を近赤外珈situ測定によって初めて解明し たものであり、基礎から応用にいたる広範囲の研究分野の今後の発展に大いに寄与するも のである。また本論文の内容の一部は既に国際的に権威ある学術雑誌に掲載され高い評価 を受けている。よって審査員一同は著者が北海道大学博士(理学)の学位を受けるに十分 な資格を有するものと認める。

    ‑ 184ー

参照

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