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血管内皮細胞での炎症応答に対する植物精油の抑制作用の検討

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(1)

原著論文

血管内皮細胞での炎症応答に対する植物精油の抑制作用の検討

丸 山 奈 保

*

1, 2

,上 野   匡

3

,安 部   茂

2

Effects of essential oils on the inflammatory response of vascular

endothelial cells

Abstract

Essential oils have protective effects on various inflammatory conditions such as allergies and acute inflammation. To determine the characteristics of essential oils on anti-inflammatory effects, we focused on the basic process of type I aller-gy such as hay fever and evaluated how these oils suppress nitric oxide(NO)production in human umbilical vein endo-thelial cells(HUVEC)induced by calcium ionophore(A23187). We selected six essential oils commonly used in aroma-therapy for allergies such as hay fever. Then, we added each of the essential oils and A23187 on a plate with densely cultured HUVECs, cultured them for 50 min, and measured the amount of NO secreted into the culture medium. Tea tree oil and lemongrass oil demonstrated the strongest inhibitory effect at 0.001%, followed by geranium oil and lavender oil; conversely, chamomile oil and eucalyptus oil had no significant inhibition. On comparing the suppressive activity on other basic processes of inflammation, such as neutrophil activation, we found that these essential oils may have different mechanisms of action on various inflammatory responses. Comparing the effects of essential oils on various basic pro-cesses of inflammation-related reactions and clarifying their mechanisms of action might help establish a theoretical basis for proposing combinations and uses of essential oils for the treatment of inflammatory conditions.

Key words: inflammation, type I allergy, essential oils, vascular endothelial cells, nitric oxide

1.

 緒

近年,花粉症やアトピー性皮膚炎,気管支喘息,ア レルギー性鼻炎,食物アレルギーなどのアレルギー疾 患が増加し,その症状で悩む患者が増えている。その 治療には各種抗アレルギー薬や抗炎症薬が効果的に使 用されるが,副作用や長期的使用に対する不安などか ら代替医療への期待が高くなっている。その中で, ティートリー精油,ユーカリ精油,ラベンダー精油, カモミール精油など数多くの精油が軽度な症状の緩和 や予防のために経験的に広く使用され,その効果が一 部報告されている。これらの精油の多くは感染に伴う 炎症など,一般の急性炎症の緩和にも使用されてい る。 炎症症状の原因となる病態は,アレルギー,好中球 やマクロファージが主に関与する急性炎症,リンパ球 やマクロファージが主に関与する慢性炎症などのタイ プに分けることができる。精油はさまざまな炎症症状 を緩和すると考えられているが,個々の精油がどのタ イプの炎症症状を強く抑制するかに関しては明らかで はない。精油の抗炎症効果に関する現在までの報告を みても,特定の精油について炎症の素過程に対する作 用を調べたケースが多く,複数の精油の作用を比較 し,それらの特性について比較を行っている研究は十 分とは言えない。特に,タイプ別の炎症作用の素過程 に着目し,複数の素過程を比較することで種々の精油 の作用特性を明らかにしているものは,Mitoshiらが 20種類の精油を用いてラット由来好塩基球様細胞の 脱顆粒抑制作用,マウス由来マクロファージ様細胞か らのサイトカイン分泌の抑制作用を比較している程度 で非常に少ない1), 2)。このように,複数の精油につい て炎症タイプの素過程間での比較が行われていない状 況では,さまざまな炎症症状に対する精油の作用の特 性を科学的に明らかにすることはできず,その結果, Naho MARUYAMA*1, 2, Tasuku UENO3, Shigeru ABE2

1. 帝京平成大学・健康メディカル学部・健康栄養学科/Department of Health and Dietetics, Faculty of Health and Medical Sci-ence, Teikyo Heisei University

2. 帝京大学・医真菌研究センター/Teikyo University Institute of Medical Mycology

3. 東京大学大学院薬学系研究科薬品代謝化学教室/Laboratory of Chemistry and Biology, Graduate School of Pharmaceutical Sci-ences, The University of Tokyo

受付日:2020226日,受理日:20201021日 ©(公社)日本アロマ環境協会

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特定の炎症症状に対し,どの精油をどのように用いれ ば最適なのか考えることができないという問題が生じ ている。この問題を解明するには,炎症症状の発症に かかわる複数の素過程に対する精油の作用を比較し, 精油のタイプ別炎症作用に対する作用特性を明らかに することが必要であると考える。 われわれは,既に炎症反応タイプの中で好中球の関 与する急性炎症に着目し,精油や芳香蒸留水,および その成分テルペノイドの抗炎症効果を,in vitroおよ びin vivoで検討し報告してきた3)∼8)。特にその中で, ヒト末梢血より分離した好中球を用い,ゼラニウム精 油やレモングラス精油,ローズウォーターが,刺激に よるヒト好中球の活性化を強く抑制すること3), 4),こ のときに好中球表面の接着因子であるCD11bの発現 を抑制することを明らかにした4) 精油の炎症に対する作用特性を明らかにするため, 本研究では,好中球の関与する急性炎症以外の炎症タ イプとして,身近なアレルギーである「花粉症などの I型アレルギー」に注目した。I型アレルギー反応では, 抗原刺激により肥満細胞や好塩基球から放出されるヒ スタミンなどにより,血管拡張,血管透過性の亢進な どが起こるが,その主要メカニズムとして図1に示さ れるような経路が報告されており9),好中球の機能は 主役ではない。この反応経路において,NO産生は初 期炎症反応の中で血管透過性の亢進や血管拡張(血管 平滑筋弛緩)を介して発赤や腫脹などの反応を起こ し,さらにその後に起こるアレルギー症状を引き起こ す重要なステップと考えられる。そこで,I型アレル ギーの素過程として「脱顆粒で分泌されたヒスタミン などにより起こる血管内皮細胞からのNO産生」に着 目し,ヒト血管内皮細胞をモデルとして,カルシウム イオノフォアであるA23187で刺激した時の炎症応答 としてNO産生量を測定し,その産生量に対する精油 の抑制作用を検討した。精油としては,花粉症などに 対してセラピストが頻用する精油であり,前述した好 中球炎症反応の検討3)で使用した6種を選択した。

2.

 研 究 方 法

2.1 細胞および培地

ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein En-dothelial Cells: HUVEC)お よ び 培 地(Endothelial Cell Growth Medium 2)はプロモセル社(PromoCell

社,独,ハイデルベルグ)より購入した。5% CO2, 湿度98%の状況下37度で培養し,2∼3日ごとに培地 の交換を行った。80%以上の密集成長状態でデタッ チキット(Detach Kit,プロモセル社)を用いて継代 培養を行い,実験には継代4∼6の細胞を用いた。NO 量測定の際は,ウシ胎児血清(FCS)およびフェノー ルレッドを除いた培地(反応培地)を用いた。 2.2 植物精油 植物精油はプラナロム社製のラベンダー精油( La-vandula angustifolia,フランス),レモングラス精油 (Cymbopogon citratus,イ ン ド),ゼ ラ ニ ウ ム 精 油 (Pelargonium asperum,マダガスカル),ティートリー 精油(Melaleuca alternifolia,ジンバブエ),ユーカリ 図1. ヒスタミン刺激による血管透過性亢進・平滑筋弛緩のメカニズム 血管内皮細胞膜受容体へヒスタミンが作用すると,Gタンパク-ホスホリパーゼC(PLC)系の情報伝達によってイノシ トール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)が生じる.IP3は小胞体および細胞外から細胞質内へCa2+ 流入を促進する.一酸化窒素合成酵素(NOS)が活性化されるとO2とアルギニンから一酸化窒素(NO)が生成され,

さらにcGMPの生成へと続きプロテインキナーゼG (PKG)を活性化する.一方,DAGはプロテインキナーゼC (PKC) を活性化し,PKGとPKCが血管透過性の亢進を引き起こす.さらにNOは近接する血管平滑筋へ移動し,グアニル酸 シクラーゼ(GC)の活性化やcGMPの産生が起こり,平滑筋が弛緩し血管が拡張される(参考文献9を改変し作成).

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精油(Eucalyptus globulus,ポルトガル),ジャーマン・ カモミール精油(Matricaria recutita,エジプト)を用 い,すべて株式会社健草医学舎(山梨)より購入した。 精油はDMSO(Dimethyl sulfoxide)で50%に希釈し た後,反応培地を用いて適切な濃度に希釈した。

2.3 試薬

L-アルギニンは富士フイルム和光純薬株式会社より, L-NAME(N-Nitro-L-arginine methyl ester,

hydrochlo-ride)は(株式会社同仁化学研究所,熊本)より,カル シウムイオノフォア(Calcimycin: A23187)はケイマン ケミカル社(Cayman Chemical Company,米,ミシガ ン)より購入した。A23187はDMSOで3.8 mMに希 釈した後,反応培地を用いて適切な濃度に希釈した。 2.4 細胞外NO量の測定 24穴平底プレートでHUVECを培養し,90%以上の 密集成長状態になったものを使用した。培地を反応培 地に換え前培養(2時間半)した後,アルギニン(最終 濃度100 µM)およびNOS阻害剤であるL-NAME(最 終濃度50, 100 µM)あるいは精油(最終濃度0.001%) を加え15分,さらにA23187(最終濃度1 µM)を加え 50分培養した。培地中の最終DMSO濃度は0.035%で ある。培養上清を遠心(1,000×g,15分,4℃)して 後,タンパク質除去のためアミコンウルトラ0.5, 10 K (メルク株式会社,東京)を用いて遠心(14,000×g, 20分,4℃)を行った。培地中に放出されるNO量は, 硝酸塩(NO3−)/亜硝酸塩(NO2−)フルオロメトリック アッセイキット(株式会社同仁化学研究所)を用いた。 これは,NOの半減期が非常に短いため,NOの最終 酸化産物であるNO2−とNO3−を蛍光物質ジアミノナフ タレン(DAN)と反応させて測定することでトータル NO量を算出する方法である。使用説明書に従い, NO3−を還元しNO2−とした後,蛍光物質ジアミノナフ タレン(DAN)と反応させ,マルチプレートリーダー ARVO-X3(株式会社パーキンエルマージャパン,神奈 川)を用いて蛍光強度(λex=355 nm, λem=460 nm)を 測定した。放出されるNO量は実験ごとに差がみられ たため,A23187刺激時のNO量を100%として相対 値として示した。測定は,1つの精油に付き3回以上 行った。 2.5 細胞内NO産生の測定 蛍光プローブを用いて細胞内NO産生の検討を行っ た。これは,細胞内にNOの蛍光プローブ前駆体ジア ミノフローレセイン-ジアセテート(DAF-2DA:五稜 化薬株式会社,北海道)を取り込ませ,細胞内のエス テラーゼでDAF(蛍光プローブ本体)とした後,刺激 により産生するNOと結合することによりNOを蛍光 体として測定する方法である。35 mmのガラスボトム ディッシュにHUVECを培養し,90%以上の密集成長 状態になったものを用いた。培地をDAF-2DAを500 倍に希釈した反応培地に置換し,30分培養しDAFを 取り込ませた。DAFを含まない反応培地に交換し, A23187(最終濃度1 µM)で刺激後の蛍光量を15分間, 倒立蛍光顕微鏡を用いて測定した。阻害剤L-NAME による抑制を測定する場合は,L-NAME(最終濃度 100 µM)を加えた反応培地を用いた。相対的蛍光値 は,バックグラウンドを引いた後に細胞の輝度値を規 格化して示した。

3.

 研 究 結 果

3.1 HUVECA23187で刺激したときのNO産生 血管内皮細胞では,ヒスタミン刺激後,細胞内カル シウム濃度が上昇しNOが産生する(図1)ことが報告 されている。実験的にヒスタミンは不安定で,HUVEC 刺激効果が一定でないことから,直接細胞内Ca2+ 高めるカルシウムイオノフォアであるA23187で刺激 を行った。 A23187量(1, 10 µM),反応培地に交換してからの 前培養時間(2∼19時間)を変化させて検討を行った ところ,前培養時間2時間半,1 µMのA23187刺激後 50分培養することにより細胞外(培地中)に放出され るNO量の有意な増加が認められた(図2)。さらに, この反応がNO産生を示していることの確認のため, NOS阻害剤であるL-NAMEを添加し影響をみた。そ の結果,L-NAMEの共存により濃度依存的にNO量 の増加が抑制されたことから,NOSによるNO産生 経路によるものと確認された。培養後にプレートに接 着している細胞を観察したところ,A23187により細 胞が若干収縮し,L-NAMEにより回復する様子が見 られた。 細胞内NO産生をNO蛍光プローブで測定したとこ ろ,図3に示すようにA23187でNO蛍光プローブの 蛍光量が増加することが認められた。この蛍光量増加 もL-NAMEによる抑制が示された。この結果は,細 胞外NO量の結果と対応しており,A23187によりNO 量が細胞内外でともに増加することが確認された。 3.2 植物精油によるNO産生の抑制 アロマテラピーで一般的に広く使用されている6種 の精油を用い,A23187刺激によるNO産生に対する

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抑制作用を測定した。精油の濃度を0.01∼0.001%で 測定したところ,典型的な4種の精油の結果を図4に 示すように,0.01%ではすべての精油で有意な抑制が みられ,0.001%では精油による差が示唆される結果 となった。培養後の細胞観察からは,いずれの精油濃 度でも大きな変化は認められなかった。これらから, 精 油 に よ る 抑 制 作 用 を 比 較 す る た め の 検 討 は, 0.001%濃度で行うこととした。各精油3回以上の測 定を行った結果を 表1に示す。結 果 は,ほとんど 90%以下の明確な抑制を示すグループA,一度も明確 な抑制が示されなかったグループC,両方の結果が示 されたグループBに分類した。なお,レモングラス精 油は4回測定した中で,1回のみ91%を示したが,他 は90%以下だったためAに分類した。 図2. A23187刺激による細胞外NO量 HEVECを反応培地で前培養後,アルギニンおよ びL-NAMEを加え15分,A23187を加え50分培 養した.細胞外NO量は,NO3−/NO2−フルオロメ トリックアッセイキットを用いて測定し,A23187 刺激時のNO量を100%として相対値として示し た. a: p<0.01(A23187(−)と比較),b: p0.05, c: p< 0.01(A23187(+)と比較)(Student’s t-testより)

図3. A23187刺激による細胞内NO産生量

HUVECを培養したディッシュにDAF-2DA含む反応培地を加え30分培養し,DAFを取り込ませた.A-23187(最終 濃度1 µM)で刺激後の蛍光量を15分間測定した.

写真:NO産生による蛍光量の変化 グラフ:相対的蛍光量の変化.矢印は刺激時

(   :コントロール,   :A23187,   :A23187+L-NAME)

図4. 植物精油によるA23187誘導細胞外NO量の抑制 HUVECを反応培地で前培養後,アルギニンおよ び植物精油を加え15分,A23187を加え50分培養 した.細胞外NO量は,NO3−/NO2−フルオロメト リックアッセイキットを用いて測定し,A23187 刺激時のNO量を100%として相対値として示し た.(A)ゼラニウム精油,ティートリー精油, (B)ユーカリ精油,カモミール精油 a: p0.01, b: p<0.05(A23187(−)と比較),c: p< 0.01(A23187(+)と比較)(Student’s t-testより)

(5)

4.

 考

今回,ヒト血管内皮細胞HUVEC細胞を用いA23187 刺激によるNO産生量に対する植物精油の抑制作用を 検討した結果,その強さは精油により異なることが明 らかになった。具体的には,ティートリー精油とレモ ングラス精油は抑制作用が強く,ゼラニウム精油,ラ ベンダー精油と続き,カモミール精油とユーカリ精油 では明確な抑制は示されなかった。炎症反応における 血流の増加などを引き起こす内皮細胞のNO産生に対 する複数精油の作用比較を行ったのは,われわれの調 べた限りで初めてである。 今回,NO産生抑制作用の強さで精油をA∼Cの3 グループに分けた。これは,多数の精油を用いるた め,毎回1つプレートで同時に測定し比較することが 困難であること,刺激による細胞応答や精油の抑制に もばらつきがみられることから,数値の幅で示すより もグループ分けした方が精油の特性を示しやすいと判 断したためである。今後,炎症症状の発症にかかわる 複数の素過程に対する精油の作用を比較する上でも, 個々の反応で強さをグループ分けしたほうが特性を示 しやすいと考える。また,実際にアロマテラピーで精 油を選択する場合,グループで示されている方がわか りやすいと思われる。 血管内皮細胞より産生したNOは,中膜平滑筋を弛 緩させ,血管を拡張させることが広く知られている。 さらに,ヒスタミンなどの起炎物質による血管内皮細 胞の透過性亢進がNOS阻害剤などにより抑制されるこ とから,PLC-Ca2+ -NOS(NO)経路が血管透過性の 亢進に関与する可能性が報告されている9)∼11(図1)。 血管拡張により血流が増加すると炎症の四主徴である 発赤が,血管透過性が亢進すると浮腫が生じる。たと えば,皮膚は赤く腫れて熱を持ち,呼吸器系に対して は鼻づまりなどの症状がでると考えられる。このこと から,本研究で明らかにした精油によるNO産生の抑 制は,I型アレルギーの病態形成時に起こるこれら炎 症症状の緩和と結びついた反応と理解できる。特に, ティートリー精油やレモングラス精油がNO産生を強 く抑制したことは,I型アレルギーで生じる炎症症状な どを抑制する可能性を示唆する。事実,ティートリー 精油の塗布がヒスタミンをヒト皮膚内に投与した際に 起こる浮腫を抑制することが既に報告されていて12) 今回の結果はそれを支持していると言える。 NO産生抑制の作用メカニズムについて考えてみる と,カルシウムイオノフォアであるA23187は細胞内 へのカルシウム流入を促進することによりNO産生を 引き起こすことが知られている(図1)。今回植物精油 がA23187刺激によるNO産生を抑制したことから, Ca流入からNO産生に到る経路のいずれかに作用し たものと考えられる。 植物精油による細胞からのNO産生阻害について は,ティートリー精油やユーカリ精油,クミン精油な ど多くの植物精油を用いて検討されているが,その多 くはLPSで刺激したマウス由来マクロファージ系細 胞におけるNO産生を測定する報告である13)∼15)。マ クロファージでは,刺激により合成誘導されるiNOS

(inducible nitric oxide synthase:誘 導 型NO合 成 酵 素)がNO産生に関与するため,刺激後の培養時間が

12∼24時間程度と長く設定され,精油の作用メカニ ズムとしてNF-κB(nuclear factor-κB)伝達系を阻害 することによるiNOS誘導抑制の可能性が報告されて いる15)。一方,血管内皮細胞では,マクロファージと

異なり常に発現しているeNOS(endothelial nitric oxide synthase:内皮型NO合成酵素)によりNOが産生さ れる。今回の研究は花粉症などのI型アレルギー発症 に重要な素過程として血管内皮細胞からのNO産生を 検討したため,培養時間を50分と短く設定している。 このため,精油はCa流入からNO産生に到る経路上 の物質の合成を抑制したのではなく,活性化抑制な ど,経路に直接働きかけたものと推察される。I型ア レルギー反応では,ヒスタミンなどの刺激によりNO が分泌され,各種炎症反応を引き起こす。今回の実験 系では,ヒスタミン刺激による細胞内NO産生は観察 されたものの細胞外へのNO分泌量が少なく精油の抑 制作用を検討することができなかった。このため,植 物精油がヒスタミンの刺激からCa流入までの過程を 含む複数箇所を抑制する可能性も否定できない。I型 アレルギーの素過程に対する精油の作用をより詳細に 比較・検討していくためには,今後さらなる作用メカ ニズムの解析とともに,精油成分を用いた検討が必要 と考える。 精油の炎症に対する作用特性について総合的に検討 表1. A23187刺激によるNO産生に対する植物精油の 抑制効果の比較 精油 相対的NO量(%) グループ ティートリー精油 81‒85 A レモングラス精油 82‒91 ゼラニウム精油 84‒95 B ラベンダー精油 86‒92 カモミール精油 90‒98 C ユーカリ精油 93‒106 A23187刺激時のNO量を100としたときの相対値として 示した.

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するため,今回得られた結果と,われわれが既に発表 している好中球活性化に対する精油の抑制作用3),お よび先行研究である好塩基球用細胞の脱顆粒反応に対 する精油の抑制作用1)を比較した。先行研究では, I型アレルギーに対し今回の検討と異なる素過程を比 較し,レモングラス精油やカモミール精油が好塩基球 様細胞の脱顆粒を強く抑制作用を示すことを報告して いる。 表2に示すように,すべての素過程に共通してレモ ングラス精油が強い抑制作用を示したことから,各種 炎症を低濃度で緩和する可能性が期待される。さまざ まな素過程を抑制する可能性とともに,非特異的に細 胞膜に作用した可能性も考えられる。今後,他の素過 程との比較やメカニズムの検討を行うことにより,レ モングラス精油の作用特性が明らかになると期待され る。レモングラス精油については皮膚刺激を示す可能 性が知られているため,炎症時の使用には注意が必要 と思われる。 一方,ユーカリ精油はいずれの素過程においても抑 制作用が低い結果となった。しかし,ユーカリ精油は 炎症を含む呼吸器系症状に広く使用され,その臨床的 な効果が知られている。さらに,ユーカリ精油や主成 分である1,8-シネオールがLPSやアクネ菌刺激による IL-1などのサイトカイン誘導を抑制すること13), 16) 報告されている。このことから,ユーカリ精油は,今 回示した素過程以外の部分に作用し抗炎症作用を示す 可能性が考えられた。 他の4種の精油は反応により抑制作用の強さが異な る傾向を示した。各精油がそれぞれの素過程に特徴的 な部分に働きかけたものと予想される。 今後,炎症にかかわる反応のさまざまな素過程に対 する精油の効果をさらに検討することにより,それぞ れの精油の作用特性が明らかになると期待される。そ の結果,それぞれの特性の違いを生かした精油のブレ ンド,たとえばNO産生抑制の強いティートリー精油 と脱顆粒抑制の強いカモミール精油をブレンドするな ど,相乗効果を期待したブレンド作成への応用と使用 法の提案が可能になると思われる。 本研究では,I型アレルギーの予防・症状緩和のた めのアロマテラピーという観点から,今後の研究・臨 床応用への一助になるデータが得られたと言えるであ ろう。今後,炎症にかかわる反応のさまざまな素過程 に対する種々の精油の効果が示され,精油の機能的特 性が細胞レベルで明らかになることにより,将来的に 炎症症状のケアに対する精油の組み合わせや使用法な どを提案する上での理論的基盤を確立することができ ると考える。

5.

 結

ヒトHUVEC細胞のA23187刺激によるNO産生抑 制作用の強さは精油により異なり,ティートリー精油 とレモングラス精油が強い抑制作用を示すことが明ら かになった。また,他の炎症素過程との比較から, 種々の炎症反応に対する精油の作用特性には違いがあ る可能性が示唆された。 謝 辞 本研究は,公益社団法人日本アロマ環境協会2018 年度研究費助成制度による助成を受け,実施した。同 協会に深く感謝する。 ●引用文献

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16) Lee E. H., Shin J. H., Kim S. S., Joo J. H., Choi E., Seo S. R.: Suppression of propionibacterium acnes-induced skin inflammation by Laurus nobilis extract and its major constituent eucalyptol, Int. J. Mol. Sci., 20(14), 3510(2019). 【要 旨】 植物精油は,アレルギーや急性炎症など,さまざまなタイプの炎症症状の緩和に効果的であると言われている。本研究では, 精油の炎症に対する作用特性を明らかにするため,花粉症などI型アレルギーの素過程として,刺激によるヒト臍帯静脈内皮細 胞(HUVEC)からの一酸化窒素(NO)産生に対して,精油の抑制効果を検討した。精油は,花粉症などにアロマテラピーでよ く使用される6種を用いた。HUVECを密集状態に培養したプレートに,精油,刺激剤であるカルシウムイオノフォアA23187 を加え50分培養した後,培養上清に分泌されたNO量を測定した。6種の精油の0.001%での抑制作用を比較したところ,ティー トリー精油とレモングラス精油は抑制作用が強く,ゼラニウム精油,ラベンダー精油と続き,カモミール精油とユーカリ精油で は有意な抑制は示されなかった。好中球の活性化抑制作用などの炎症の素過程と比較したところ,種々の炎症反応に対する精油 の作用特性には違いがある可能性が示唆された。炎症にかかわる反応のさまざまな素過程に対する精油の効果を比較し,その作 用特性が明らかになることで,炎症症状のケアに対する精油の組み合わせや使用法などを提案する上での理論的基盤の確立が可 能になると考える。 キーワード:炎症,I型アレルギー,精油,血管内皮細胞,一酸化窒素 連絡先:丸山奈保 帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 〒170‒8445 東京都豊島区東池袋2‒514 TEL: 03‒5843‒3139 E-mail: [email protected]

図 3.   A23187 刺激による細胞内 NO 産生量

参照

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