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多相交流アークの変動特性の解析

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多相交流アークの変動特性の解析

大熊, 崇文

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多相交流アークの変動特性の解析

平成 30 年度 学位論文

九州大学 大学院 工学府 化学システム工学専攻

大熊 崇文

(3)
(4)

- 目次 -

1 章 序論

1

1.1 プラズマの定義と分類 1

1.2 熱プラズマ 2

1.3 熱プラズマの発生方法と研究例 2

1.3.1 直流アーク 2

1.3.2 交流アーク 4

1.3.3 多相交流アーク 4

1.3.4 高周波誘導結合プラズマ 5

1.4 熱プラズマを用いた応用研究 6

1.4.1 ナノ粒子生成 6

1.4.2 インフライトガラス溶融 7

1.4.3 廃棄物処理 7

1.5 熱プラズマの変動現象 8

1.5.1 直流アークの変動現象 8

(a) 非移行式直流アークの変動現象 8 (b) 移行式直流アークの変動現象 9 (c) フリーバーニングアークの変動現象 10 (d) 高速度イメージングを用いた変動現象観察 10

1.5.2 交流アークの変動現象 10

1.6 熱プラズマの温度計測 11

1.6.1 温度算出方法 11

(a) 絶対強度法 12

(b) Fowler-Milne法(Off-Axis最大放射係数法) 12

(c) 二線強度比法(同種・異状態粒子間の相対強度比法) 13

(d) Boltzmann plot法(同種・同状態粒子間の相対強度比法) 13

(e) シュタルク広がり 13

1.6.2 発光分光法による温度計測 14

(a) 非移行式直流アークの温度計測 14 (b) フリーバーニングアークの温度計測 15 (c) 高周波誘導結合型熱プラズマの温度計測 15

1.6.3 高速度カメラ観察による温度計測 16

(5)

2 章 多相交流アーク実験装置と計測方法

29

2.1 多相交流アーク発生装置 29

2.1.1 プラズマ発生チャンバ 29

2.1.2 プラズマトーチ 30

2.1.3 交流電源装置とインバータ 30

2.1.4 アーク発生方法 31

2.2 アーク計測装置と方法 31

2.2.1 アーク計測装置 32

2.2.2 温度計測方法 32

2.3 計測データ解析方法 32

2.3.1 アーク挙動の解析 32

2.3.2 アーク温度の算出 32

2.3.3 アーク面積の算出 34

2.3.4 アーク変動周波数の算出 34

2.3.5 アーク存在確率分布の算出 34

2.4 アーク温度計測における誤差要因に関する検証 34

2.4.1 バンドパスフィルタの選定 34

2.4.2 連続光の影響 35

2.4.3 高速度カメラCCDの感度誤差の影響 35

2.4.4 解析方法に起因する誤差 36

3 章 交流アークの相数と電極本数が放電と温度特性に与える影響

51

3.1 実験条件 51

3.1.1 3相,6相,12相交流アークの放電および温度特性 51

3.1.2 12相と6相2段交流アークの放電および温度特性 52

(6)

4.1.1 駆動周波数の検討(6相交流アークの場合) 75

4.1.2 駆動周波数の検討(6相2段交流アークの場合) 75

4.2 実験結果 75

4.2.1 40 kPaにおける駆動周波数依存 75

(a) 6相交流アーク 75

(b) 6相2段交流アーク 77

4.2.2 70 kPaにおける駆動周波数依存 78

(a) 6相交流アーク 78

(b) 6相2段交流アーク 79

4.2.3 100 kPaにおける駆動周波数依存 79

(a) 6相交流アーク 79

(b) 6相2段交流アーク 80 4.3 駆動周波数が放電と温度特性に与える影響に関する考察 81

4.4 まとめ 82

5 章 雰囲気圧力が放電と温度特性に与える影響

129

5.1 実験条件 129

5.2 実験結果 129

5.2.1 6相交流アークにおける雰囲気圧力依存 129

5.2.2 6相2段交流アークにおける雰囲気圧力依存 130

5.2.3 12相交流アークにおける雰囲気圧力依存 131

5.3 考察 132

5.4 まとめ 133

6 章 結言

157

6.1 本論文のまとめ 157

6.1.1 相数と電極本数が放電と温度特性に与える影響 157

6.1.2 駆動周波数が放電と温度特性に与える影響 157

6.1.3 雰囲気圧力が放電と温度特性に与える影響 158

6.2 今後の研究課題と展望 158

謝辞

161

(7)
(8)

1 章 序論

1.1 プラズマの定義と分類

プラズマとは、気体を構成する分子や原子が電離し陽イオンと電子に分かれ,相互に作用 を与えながら運動している状態であり、電離した気体に相当する.気体の温度を上げて行く と構成する中性分子が原子に解離し,さらに電離してプラズマになる.このことからプラズ マは固体、液体、気体に次ぐ,物質の第4の状態ともいわれる.しかし、固体、液体、気体 間の相転移とは異なって、気体からプラズマへの転移は徐々に起こり、電離度が非常に低く,

構成分子の1%が電離しただけの状態でもプラズマであるし,完全に電離した状態でもプラ ズマである.これらのプラズマは,その組成や密度,温度などにおいて大きな相違点がある.

そのためプラズマは「物質の第4の状態」とはいうものの,他の物質の三態とは異なった意 味合いを持っている.

プラズマ物理学としての歴史は,気体の放電現象の発見に端を発している.1835年ごろ、

マイケル・ファラデーが再び真空放電に注目し、それを安定に実現した放電管内の現象を詳 しく観察して、グロー、陽光柱などとともにファラデー暗部と呼ばれる構造を見いだした.

プラズマはクルックス管の中で初めて認識され、1879年、クルックスの著書でradiant matter と記述されている.続いて、1897 年、クルックス管で発生した陰極線の正体を電子の流れ と特定したのはトムソンである.ラングミュアは、1920 年代、デバイ遮蔽やプラズマ振動 などのプラズマの基本的性質を明らかにした.そして1928年、この物質を初めてプラズマ と名付けたのがラングミュアである.

プラズマは身近に存在する.蛍光灯はクルックス管の一種であり、グロー放電により水銀 をプラズマ状態とし、紫外線を発光することを利用している.ネオンサインは、アルゴンや キセノンなどをグロー放電によりプラズマ状態とし、封入気体固有の波長で発光すること を利用している。1990 年代に発表されたプラズマディスプレイもその名の通りプラズマを 用いている.RGBごとに設けられたセルでプラズマを発生させ,紫外線によりRGBの蛍光 体を光らせて表示する方式である.近年では自動車や鉄道車両用のヘッドランプにも用い られているHIDランプ(High-Intensity Discharge lamp、HID lamp)は、金属原子高圧蒸気中 のアーク放電による光源である.

宇宙の質量の 99%以上がプラズマ状態にあると言われている.太陽はプラズマ状態であ る.2006年9月に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」によって、太陽を取り巻くプラ ズマ化した大気の中で起こっている活発な現象を、より詳細に観測・研究できるようになっ た.地球上でみられるオーロラや稲妻,さらにローソクの炎などの燃焼炎もプラズマである.

このように,自然界に存在するプラズマ,人工的に発生させるプラズマには多くの種類が あり,それぞれの温度と密度力に関する性質は大きく異なる.プラズマは温度帯にいくつか の種類に分類されるが,この中で工業的に広く用いられているのは,低温プラズマと熱プラ ズマである.低温プラズマは,電離度が低く、中性分子が大部分を占める弱電離プラズマで

(9)

ある.イオンと電子とでは質量が極端に違っていて衝突してもエネルギー交換が起こりに くいので、低温プラズマではイオンと電子とが別々の温度をもつ.イオンや重粒子の温度は

室温から500 K、電子の温度は104 Kである.低温プラズマは,半導体製造工程に多く用い

られ,半導体設計ルールの微細化と共に研究開発が進められてきた.スパッタリング,ドラ イエッチング,プラズマCVDなどはすべて低温プラズマを用いた薄膜加工方法である.熱 プラズマは,重粒子と電子の温度がほぼ等しく,5x103から2x104 Kと非常に高い.この高 温を用いて,溶射や溶接,高融点材料プロセシングの分野において実用化されている.本研 究はこの熱プラズマを研究の対象とする.

1.2 熱プラズマ

熱プラズマは大気圧下でほぼ熱平衡状態にあるプラズマであるが,実験室的なプラズマ 発生装置においては,冷却壁による熱の損失など,プラズマからの熱の輻射を同じ機構で補 うことは難しいので,厳密な熱平衡状態を保つことは困難である.しかし,各粒子の温度が ほぼ等しく,組成が熱平衡状態に近い状態は比較的実現しやすい.この状態は,局所熱平衡 状態 (Local Thermodynamic Equilibrium, LTE) と呼ばれる.局所熱平衡状態であることの条 件は,(1)電子温度と重粒子温度がほぼ等しいこと,(2)急激な温度勾配や密度勾配がないこ と,(3)励起は粒子衝突が支配的であること,をすべて満たすことである.

局所熱平衡状態は,40 kPa以上で成立するとされており,イオン,中性粒子などの重粒子 温度と電子温度が等しく5x103 Kから2x104 Kという高温となっている.通常の電気炉では 実現できないこの高温を用いて,さまざまな材料プロセシングに応用が可能である.単に温 度が高いというだけでなく,プラズマは電離気体であり,イオンやラジカルが多く存在して いるため,反応性ガスを用いた高温化学反応場として利用することができる.

熱プラズマの発生方法としては,電極間のアーク放電を用いる方式と,高周波により誘導 結合型の磁場を用いる方式の2種類に大別できる.前者は装置構成が比較的簡便であり,周 辺機器の電源等も普及しているものを使用できる長所と,高温場の中に電極が存在するた め,電極の消耗,電極材料からなる不純物混入などの課題とを持っている.後者は無電極放 電方式とも呼ばれ,実際に高温場の中に電極が存在しないためコンタミネーションがない という長所を有しているが,電源をはじめとして機器構成が複雑,高価になるという課題が

(10)

突することによる電離,衝突により陰極から放出される二次電子,熱陰極からの熱電子,そ して冷陰極からの電界放出電子によって行われている.

直流アーク発生装置は,電極と直流電源,ガス供給機構と,電極可動機構が主な構成要素 であり,比較的安価に製作することができる.安定的な放電を長時間維持することができ,

制御性に優れている.そのため,大気圧下での直流アーク放電の技術は確立されており,高 い汎用性がある.しかし,エネルギー密度が低く,プラズマジェットやプラズマアークの半 径方向や軸方向に急激な温度勾配があるため,高温を用いる際はその領域を把握すること が重要である.直流アークは,非移行式アーク,移行式アーク,そしてフリーバーニングア ークに大きく分類される.

非移行式アークは,トーチ内部の電極とノズルの間にアークを発生させ,ガス流によって ノズル先端からプラズマを発生させる方式であり,プラズマジェットとも呼ばれる.ノズル 部分で熱ピンチ効果を利用して高温のプラズマジェットを得る.外部に電極を設ける必要 が無いため材質を選ばず,プラズマ溶射や表面処理に用いられている.

移行式アークはトーチ内部の電極と,ノズル外にある陽極との間に電位差を設けてアー クを発生させる方式である.金属の切断や溶接などに広く応用されており,その場合は非処 理材料を直接陽極としてアークを発生させている.

フリーバーニングアークは,棒状の陰極と平板陽極の間に発生するアークであり,移行式 アークのように水冷されたトーチが必要ないため,簡易な構造である.熱効率が高いため,

アーク溶接や,ナノ粒子製造方法として用いられている.

直流アークでは,電極現象に関する研究や,アークの温度計測に関する研究が報告されて

いる.Heberleinらは2010年に,直流アークの陽極について,研究例をまとめている[1].熱

プラズマは104 K以上の高温で,1022 m-3を超える電子密度を持ち,107 Wm-2を超える熱流 束を持つことから,直接それらを測定することは困難であり,間接的な測定もしくはモデリ ングによる解析が必要であると述べている.

発光分光用による,直流アークにおけるカーボン電極の温度測定についての報告例があ る[2].高速度カメラとバンドパスフィルタを用いた測定システムにより,カーボン製の陰 極と陽極の温度を同時に測定し,印加電圧との関係について調べている.

Bachmannらは,高速度カメラとバンドパスフィルタを用いた測定ステムにより,フリー バーニングアークの温度計測に成功している[3].アーク側面の複数方向より温度分布を測 定し,アーベル逆変換によってアーク断面の温度分布の解析を行っている.

近年では数値解析による直流アークやプラズマジェット,そして電極の溶融現象に関す る研究に取り組まれている.Shigetaらは,ナノ粒子生成のためのプラズマジェットの乱流 を数値解析によって明らかすることに成功した[4].また,ワイヤー溶接でのワイヤー先端 から溶融する金属液滴の挙動を数値解析にて解明した研究成果が報告されている[5].直流 アークは最も実用化が進んでいる方式であるが,上述のような温度特性の計測や,直接計 測が困難である現象については数値計算が積極的に取り入れられ,研究は盛んにおこなわ

(11)

れている.

1.3.2 交流アーク

交流アークは,電圧を周期的に変化させてアークを発生する方法である.交流アークの利 点は,商用交流電源を変換することなく使えることであり,種別変換による損失が無い.電 源装置も溶接用電源が普及しており,直流電源に比べて非常に安価である.しかし,電圧の 周期的な変動に伴い,アーク中の電子やイオンの密度や温度も周期的に変化するので,その 挙動を把握することが求められる.また,交流アークは1本の電極に,陰極時と陽極時があ るという特徴がある.そして電極が入れ替わる瞬間に電流値がゼロとなり,消弧する.交流 アークの難しさはその後の再点弧である.

1.3.3 多相交流アーク

多相交流アークは,交流アークの再点弧の問題を,電極本数を増やし,すべてを同時に消 弧させないことにより解決する方法である.位相の異なる交流電圧を複数の電極に印加す ることにより,異なる電極間に次々と連続的にアークを発生させる.再点弧の課題解決以外 にも,電極本数を増やすことによって,大面積の高温領域を得ることができる.3相交流は 以前より研究されている[6, 7].

本研究で主に用いるのは,松浦らが開発した6本もしくは12本の電極を用いる,多相交 流アークである[8-10].電極を同一平面上に放射状に等配となるように設置する.電極が 6 本であれば60度,12本であれば30度の角度差をもって配置する.位相のシフトは,商用

3相交流のR, S, T相の組み合わせで位相差60度の6相を作り出し,さらにトランスを用い

て30度の位相差を持たせることで12相としている.電極1本に,交流電源が1台接続さ れており,12相の場合は12台の交流電源を用いる.交流電源は,溶接用として市販されて いるものをそのまま使用することができ,また電極との対となっているため,安価かつスケ ールアップなどに柔軟に対応することができるシステムである.多相交流アークは,直径

100 mm程度の高温領域を作り出すことができ,処理物質の滞留時間が長いため,粉体材料

の溶融や蒸発といった材料プロセシングに最適である.多相交流アークは炉内に電極が存 在するため,電極材料に起因するコンタミネーションが発生する課題がある.

(12)

り,温度分布を2次元的な広がりをもって測定することができる.また,1周期が16.7 ms である60Hzの交流アークのミリ秒オーダの変動に追随し測定することに成功している.ま た,通常の交流アークの電極は,周期的に陰極と陽極を繰り返すが,電極消耗の点で問題が ある.この問題の解決のために,1か所の電極に1対2本の電極ヘッドを設け,陽極と陰極 を使い分ける方式として,A diode-rectified multiphase AC arc (DRMPA)が提案されている[15].

電極現象については,高速度カメラとバンドパスフィルタを用いたシステムにより,熱輻 射を用いて電極表面の温度を計測する方式についての報告がなされた[16].電極表面温度の 計測に成功するとともに,電極の先端に電極材料であるタングステンが溶融している部分 があり,その範囲は多相交流アークの相数に関係があることを示した.また,アルゴンの線 スペクトルに対して,タングステンのスペクトルを併せて観察することで,電極からの蒸発 現象をとらえることができた[17-19].交流電圧の周期と同期することで,陰極時に蒸発現象 が起こっていることを示した.さらに電極表面から液滴となって飛散している現象をとえ られることができた[20, 21].電極表面存在する溶融金属が液滴となって飛び出すまでの過 程について,溶融金属に働く力で説明がなされている.電極に流れる電流と液滴の関係につ いても明らかにした[22].

以上のように,多相交流アークに関する研究が活発に行われており,特に電極現象につい ては相当に解明されてきたと.実用化に向けては,アークの安定性や高温場の温度変動など について明らかにする必要がある.

1.3.4 高周波誘導結合型熱プラズマ

高周波誘導結合型熱プラズマは,水冷した石英管などで作製されたチューブの中に大気 圧から 0.5 気圧程度に減圧したガスを流し,チューブの外部に巻かれたコイルに,数 MHz の高周波を印加することにより生じた電磁場によって,チューブ内のガスを誘導的にプラ ズマ化して発生させる.チューブ内部の中心軸方向には,高周波に応じて変化する磁界が発 生する.電磁誘導作用により,円周方向に渦電流が流れ,それによるジュール熱によって放 電を維持している.高周波熱プラズマの特徴は,高温領域内に電極が存在しないため,コン タミネーションの懸念がないことである.一方でナノ粒子を生成する場合は,エネルギー効 率が低いという問題がある.

高周波熱プラズマとDCトーチを組み合わせた,ナノ粒子生成装置の温度とガス流れにつ いて,大型渦シミュレーションに基づく時間依存 3 次元数値シミュレーションによって明 らかにしている[23].プラズマ内に存在する複雑なガス流れの渦と,温度の不均一性につい て解析している.

一般的に高周波熱プラズマ発生装置の構成は,石英などのチューブに高周波を印加する コイルを巻き付けることで,チューブ内部にプラズマを発生させるというものであるが,チ ューブの端から噴き出すプラズマを熱源として使う場合は取り扱いが難しい.そこで,2つ の環状コイルに挟まれるように同じく環状の石英チューブを設置し,内部をガスで満たす

(13)

ことでプラズマを発生させる方式が提案されている[24].この方式では,環状石英チューブ の一部に開口部を設けることでプラズマを取り出し,例えばウエハ表面の加熱処理や浅い ドーピング処理に応用することが可能であると述べている.

1.4 熱プラズマを用いた応用研究

本項では,前述の各種熱プラズマ発生方法を応用した研究事例について述べる.前項で述 べた熱プラズマそのものの特性に関する議論を中心とした論文ではなく,比較的応用に主 眼を置いた論文についてまとめている.

1.4.1 ナノ粒子生成

2010年にShigetaとMurphyによるレビュー論文がまとめられた[25].過去5年間の実験

的研究成果と過去20年の数値モデリングの結果についてまとめられている.ナノ粒子の生 成に最も用いられているのは,radio-frequency induction thermal plasma (RF-ITP) つまり高周 波熱プラズマであると述べている.また熱プラズマを用いた新しい成膜方法として,熱プラ ズマとCVDを組み合わせた方式を提案している.これは原料となるガス,液体,粉体材料 を熱プラズマで分解,活性化をして基板に吹き付けて成膜するというものである.

直流アークを用いたナノ粒子生成に関して,ニッケルを陽極に用いた研究例が報告され ている[26].冷却した銅ブロック上に金属ニッケルを設置し,陽極としている.水素アーク 放電によりニッケルが溶融し,プラズマ中で解離した活性種により溶融金属からナノ粒子 を合成する方法である.陽極とした金属を蒸発させて金属ナノ粒子を合成する方法もある が,2種類の金属を陽極として,上記の凝縮過程において合金ナノ粒子や金属間化合物ナノ 粒子を合成することもできる.上述したような活性プラズマ溶融金属反応法は,ナノ粒子の 生成レートが高いという特徴を持っている.プラズマ中で解離した水素原子が溶融金属に 溶け込み,溶融金属中で水素が再結合するときの発熱によって,溶融金属が局所的に加熱さ れることがナノ粒子の生成レートを高めていると考えられている.

高周波熱プラズマを用いたナノ粒子生成に関する研究報告は多数なされている.やはり 高純度のナノ粒子の生成にあたって,電極材料によるコンタミネーションの懸念が無いこ とに価値を認められているためであると考える.加えて,他の熱プラズマを比較して,プラ

(14)

とができた.材料のナノ化と表面被覆を同一プロセス中で行っている.ロータリーキルンの ような雰囲気炉中で材料を混合する工法と異なり,熱プラズマによる材料プロセシングに は一方向の流れがあるため,流れの上流や下流などに本報告例のような異なるプロセスを 行うことができる.このように空間的にプロセスを分ける方法の他に,時間的に分ける方法 も提案されている.ナノ粒子生成レートの向上を目的に,変調型高周波熱プラズマを用いて,

アルミニウムをドーピングした酸化チタンナノ粒子を生成した研究例である[28].プラズマ の変調と材料供給を同期させ,材料の蒸発時間と,急冷による凝縮時間とを分けることによ って生成速度の向上を実現している.

同じく高周波熱プラズマを用いた,リチウム化合物の合成に関する研究も進められてい る[29, 30].リチウムとマンガン,クロムやニッケルなどの金属と酸素の三元系材料の合成 についての研究である.このように多元系のプロセスを考える場合,その材料系がもつ融点,

沸点と核生成温度に着目することが重要であると述べている.また,高周波熱プラズマを用 いた材料プロセシングにおいても,数値解析による現象解明が行われている[31, 32].

1.4.2 インフライトガラス溶融

インフライトガラス溶融とは,高温の熱源に粉砕したガラスを投入,通過させることで,

連続的に溶融する技術である.従来の大型炉による大バッチ加熱に比べて材料のスループ ットが高く,設備も小型化できるという利点がある.

高周波熱プラズマを用いたインフライトガラス溶融に関する研究について報告されてい る[33-35].また,多相交流アークを用いたインフライトガラス溶融に関する研究もおこなわ れている[36-39].多相交流アークの位相の組み合わせが,生成されるガラス粒子に与える影 響や,プラズマ中の粒子の移動速度を計測した事例が述べられている.

1.4.3 廃棄物処理

熱プラズマを用いた廃棄物処理技術の研究が進められている.熱プラズマの特徴である 高温と高いエネルギー密度を活用し,非処理物を短時間で処理することが期待できる.単に 加熱するたけでなく,有害物質の無害化や,廃棄物から有価物やエネルギーを取り出すこと ができる技術としても期待されている.2008年にHeberleinとMurphyによって,熱プラズ マによる廃棄物処理のレビュー論文がまとめられている[40].熱プラズマによる廃棄物処理 に関する理論と,熱プラズマを用いる場合と長所と短所等についてまとめられている.近年 では水をプラズマガスに用いた水プラズマによる廃棄物処理の研究が行われている[41, 42].

水プラズマにより有機物中の炭素を酸化することで除去し,水素を取り出すというもので ある.熱プラズマは廃棄物処理に非常に有効であるが,熱プラズマを発生させること自体に エネルギーコストがかかり,ガスと電力がほぼ占めている.レアメタルや水素ガスのような 有価物を取り出すことができれば,実用化の可能性が増すものと考えられる.

(15)

以上のように,熱プラズマは,発生原理で分類すると,直流アーク,交流アーク,多相交 流アーク,そして高周波熱プラズマに分類される.また,応用先として,ナノ粒子生成,イ ンフライトガラス溶融,廃棄物処理などがあげられ,材料や求められる品質によって最適な 方式が選択され,実用化研究がされている.材料合成技術の分野において,産業界からの要 求が高いものはやはり機能性ナノ材料と,それを安価で製造できる生産システムである.本 論文で引用したいくつかの論文にも述べられているが,リチウムイオン 2 次電池の高容量 化,高信頼性化において,ナノ材料の開発は必須であると言われている.現在は粉砕法や液 相または固相合成法などで作製されているが,性能を満足することができていない.粉砕法

では100 nm程度の粒径までが限界であることと,粉砕時間が長く生産性が低いという問題

も表面化している.一方で熱プラズマを用いたナノ粒子合成法では,直流アークによる方式 と高周波熱プラズマを用いた方式が一部の材料メーカで実用化されている.しかし,材料の 価値にもよるが100gで数万円もするような価格では到底普及は見込めない.

そこで本論文では,大きなプラズマ体積を持ち,大量の材料処理が期待できる多相交流ア ークに着目し,ナノ粒子合成技術としての実用化を目指すことを考えた.そのためには,最 も効率よく,高速で安価にプロセスを行うことができるシステムを設計する必要がある.そ こで,多相交流アークのシステム構成や制御可能なプロセス条件が,アークの変動や温度特 性に与える影響を明らかにすることを,本研究の目的とした.

1.5 熱プラズマの変動現象

熱プラズマは大気圧付近で発生させるため,ガスの熱対流の影響を受け,放電状態にゆら ぎが生じる.特に交流アークにおいては電圧周期に伴う変動が起こる.また,直流アークに おいても,電圧波形の異なるいくつかの放電モードがあることが報告されている.熱プラズ マを用いて材料プロセシング行うにあたり,プロセスおよび製品の品質保証に対して重要 な影響を与えるプロセス場の変動について,詳細に調べることが重要である.本項では,直 流アークおよび交流アークにおける,アーク変動現象の報告例について述べる.

1.5.1 直流アークの変動現象

(a) 非移行式直流アークの変動現象

(16)

正弦波の波形をもつ.さらに高い電流と,直線状に制御されたガスを流すことで,比較的低 く,一定な電圧を示すSteady modeへ移行する.シミュレーションによる電圧変動モードに ついて計算した結果についても報告されている[47].アルゴンもしくはアルゴン+水素ガス を用いた条件において,流体方程式と電磁気方程式を組み合わせた有限要素法により解析 されている.熱平衡モデルを用い,電極近傍に高い導電率を設定した他は特段の仮定無く,

Takeover modeよびSteady modeを予測することができたと述べている.また,商用の溶射

用プラズマトーチの放電特性を比較,報告した事例がある[48, 49].複数のトーチの形状に 起因する放電特性の差異や,ヘルムホルツ振動が電圧変動に与える影響について,音響的な 計測を行い,説明されている.

アークの再点弧のメカニズムをシミュレーションにより解析した結果が報告されている

[50].質量,運動量,エネルギー,電流および電磁気に関する保存方程式を 3 次元で解き,

時間依存性について明らかにしている.これによりプラズマトーチのパラメータがアノー ド表面での放電点の運動,およびトーチ内部のガス流の時間変動に及ぼす影響を予測する ことが可能であると述べている.また,トーチ出口のガス温度と速度の計算値が,実測値を よく一致したことを示している.

高速度カメラと電圧波形を同期させることで,アーク変動と電圧変動の関係を明らかに している[51].毎秒40,500フレームで観察した高速度カメラ画像の解析により,アノードに おける点弧現象を可視化し,アークを取り囲むアノード壁面との距離が放電モードに影響 を与えていることを明らかにした.アノード壁面との距離が増大するにつれてアークの伸 長方向のガス流量が増加し,アークの回転運動が減少し,Restrike modeに移行することが分 かった.

(b) 移行式直流アークの変動現象

移行式直流アークのアノード境界層における LTE からのずれについて,解析により明ら かにした研究例が報告されている[52].大気圧,高強度のアルゴンアークのアノード境界層 の一次元解析により,重粒子であるガス温度はアノード表面の温度に近づくが,電子温度は 必要な導電性を確保するために高いままであることが示されている.高速度カメラによる 観察で,交流電流値と柱状に発生するアークの形状の関係について明らかにした報告例に ついて述べる[53].アークと接触する陽極点に2つの異なるモードが観察された.陰極から のプラズマ流が広がりをもつものをDiffuse mode,陰極から陽極へ収縮したプラズマ流が発 生する形態をConstricted modeと呼ぶ.Constricted modeは,熱的な効果とアークの電流によ る自己磁場のピンチ力によって発生する.陽極近傍でアークは周辺の陽極によって冷却さ れ,アークは陽極に近づくほど細くなる.そのため,電流経路は陽極から離れるにつれて広 がり,電流に起因する自己磁場によって発生するピンチ力は弱くなる.その結果,アーク内 部には軸方向に圧力勾配が発生し,アノードジェットが観察される.関連して,高強度アー クにおけるアノードへの熱流などの現象に対するプラズマガス流量の影響について,アノ

(17)

ード境界層の数値モデル解析により議論されている[54-57].アノード境界層を移動する質 量流量に着目して2つの異なる放電モードについて述べられている.プラズマ柱とアノー ド境界層付近の電気的特性をラングミュアプローブ法で計測した例が報告されている[58].

プローブによる計測結果と発光分光法による測定を組み合わせて議論されている.

(c) フリーバーニングアークの変動現象

フリーバーニングアークにおいても,移行式アークと同様に,陽極点に Diffuse mode,

Multiple mode[59],そしてConstricted mode[60]の3つのモードがあることが観察されている.

これらの現象は,分光測定により求められたアーク柱および陽極近傍の電子温度および密 度によって説明されている.

(d) 高速度イメージングを用いた変動現象観察

前項までに述べた直流アークの変動現象を観察する手段として,高速度カメラが多く用 いられていることから,高速度イメージングは現象解明の有力な手段であることがわかる.

前述のような基礎的なアークの変動現象を明らかにすることは非常に重要であるが,その 一方で,実際の溶接や溶射を想定し,被処理材料が存在する状態での観察が非常に重要であ る.積層造形を実現するワイヤーアークにおける溶融金属の影響や[61],ワイヤーアーク溶 接における溶融ワイヤーの挙動[62]などについても報告されている.

以上,直流アークにおける変動現象について,既往の研究例について述べた.直流アークは 既に溶接や溶射の分野で広く実用化されていることから,放電現象や温度の非平衡性に関 する基礎的な報告から,実際の溶接プロセスに関する応用的な報告まで幅広く豊富な研究 事例があり,アークの変動現象が相当に詳細に解明されている.

1.5.2 交流アークの変動現象

交流アークは前述の通り,駆動電圧そのものが周期的に変動しているため,その極性反転 によりアークが点弧と消弧を繰り返し,放電中も変動しており定常状態とはなりえない.そ のため,直流アークや高周波誘導結合型熱プラズマに比較して,特に変動現象を明らかにす

(18)

が報告されている[11, 12].

以上のように,交流アークにおけるアークの変動現象に関する研究が報告されている.駆 動周波数が60Hzの場合,1周期が16.7 msである交流アークの変動現象を精緻に捉えるた めに,高速度カメラが有力なツールであることが示されている.電圧周期に同期させて高速 度カメラによる観察を行うことで,極性と放電を関連付けることができる.多相交流アーク を実用化に結び付けるには,既往の研究に加えて,電極配置や相数制御などの装置構成や,

駆動周波数や圧力といったプロセスパラメータがアークの変動現象に与える影響を明らか にすることが必要である.

1.6 熱プラズマの温度計測

プラズマの温度計測は,接触式と非接触式に大別される.接触式は,対象物に直接触れて 計測を行うことで,計測応答が早く,高精度計測が可能である.計測例としてプローブ計測 があげられる.プラズマに微小電極を挿入し,基準電極に対して電圧を印加して得た電流-

電圧特性からプラズマの特性を計測するプローブ法は,一般にラングミュアプローブ法と 呼ばれ,広く使われている[58, 66].主に粒子密度を計測することを目的に使用されている.

プラズマのエンタルピーについて,エンタルピープローブを用いて計測した事例がある[67, 68].しかし,プローブの挿入によるプラズマ状態の変化や,計測対象物が熱プラズマのよ うな極めて高温となる場合,プローブが過熱・損傷し正確な計測が困難である.そのため,

熱プラズマの温度計測には主に非接触式の計測手法が用いられている.

非接触式は,対象物に直接触れないためプラズマに対する擾乱が少ないという利点があ り,プラズマ状態の診断においては極めて有用な計測手法である.しかし,計測対象となる プラズマに適用できるモデルの選択や空間分布の積分効果など問題点もある.計測手法は,

レーザーなど入射した電磁波のプラズマによる応答を検出し温度を算出する能動的手法と,

プラズマから逸失してくる電磁波を検出し温度を算出する受動的手法がある.能動的手法 の例として従来から用いられてきたレーザートムソン散乱計測があげられる.また,受動的 手法の例としてプラズマからの発光強度を計測することで温度を算出する発光分光法があ る.各計測手法によって計測された発光強度や,シュタルク広がりに応じて,様々な温度算 出方法があげられる.

1.6.1 温度算出方法

計測される物理量に応じて様々な温度算出法があげられる.まず,計測された発光強度よ り温度を算出する方法について述べた後,シュタルク広がりから温度を算出する方法につ いて述べる[69].

プラズマの温度は,プラズマ構成粒子からの線スペクトルの発光強度を計測することで 算出することができる.プラズマからの放射は,線スペクトルと連続スペクトルで構成され ている.線スペクトルは,プラズマ中の構成粒子である原子やイオンが持つ電子が,エネル

(19)

ギーを得て励起し,その高いエネルギーを持った電子が脱励起するために生じる.また,原 子やイオンが取りうるエネルギー準位は,核外電子の配置により決まる.このエネルギー準 位間の遷移により放射が生じ,各元素固有のスペクトルが現れる.連続スペクトルは,連続 エネルギー状態の電子の遷移によって発生する.連続スペクトルの主な過程は2つある.1 つ目は,自由電子がイオンに補足されて再結合するとき,余剰エネルギーを放出する再結合 放射である.2つ目は,自由電子がイオンの電場の中で軌道を曲げられるときに放出する制 動放射である.そこで,分光器や特定の波長のみを透過するバンドパスフィルタを用いて,

温度算出に必要な波長の線スペクトルの抽出をおこなう.

線スペクトルの発光強度Iは式(1-1)で表すことができる.

) 1 1 k (

) exp ( 4

) ( hv

B n n

mn

λ

  

 

 

    

T E T

U g T n I A



温度の算出方法には絶対強度法,Flower-Milne法(Off-Axis最大放射係数法),二線相対強 度比法(同種・異状態粒子間の相対強度比法),相対強度比法(Boltzmann plot法,同種・同 状態粒子間の相対強度比法)が挙げられる.

(a) 絶対強度法

発光強度と温度の関係式(1-1)を書き換えると,温度Tは次の式で表される.

) 2 1 ) (

( 4

) ( ln hv

k

λ

n mn

B

n

  

 

 

I    

T U

g T n

A T E



光の絶対強度 Iは温度に依存するので,絶対強度を計測することで温度を求めることが できる.ただし,絶対強度は,計測で得られた線スペクトルの発光強度を,絶対強度が既知 である標準光源による補正を施す必要がある.しかし.絶対強度を求めるための感度補正に は,極めて厳密な補正が必要であるため,温度計測として広く用いられる手法ではない.ま たLTEを仮定し,Sahaの熱電離平衡式より数密度を算出する必要がある.

(20)

Sahaの熱電離平衡式より数密度を算出する.すなわち,LTEを仮定する温度評価法であり,

ここで評価される温度は,イオン化温度と呼ばれる.この手法では,強度分布にアーク中心 軸から離れた位置で最大放射強度が見いだせれば,その最大放射強度に対するスペクトル 強度比から温度を求めることができる.

(c) 二線強度比法(同種・異状態粒子間の相対強度比法)

ある原子とそのイオンとのスペクトル強度比から温度を算出する方法である.例えば,原 子とイオンの波長λatm,λionの2スペクトル強度を測定すると式(1-1)は書き換えられ,温度 Tは次式で表される.

) 3 1 ) (

( ) (

) ( ) ln (

k atm ion

atm ion

atm atm ion ion

ion ion atm atm B

atm

ion  

 

 

 ・    

T U T n

T U T

n g A I

g A I

E T E

本方法でも,数密度が必要になるので,Sahaの式から算出して用いる.すなわちLTEを 仮定する手法であり,ここでの温度評価もイオン化温度と呼ばれるものである.

(d) Boltzmann plot法(同種・同状態粒子間の相対強度比法)

二線強度比法では原子-イオンの強度比から温度を算出したのに対し,Boltzmann plot法で は同種・同状態にある粒子のスペクトル強度比から温度を算出する方法である.例えば,波 長λm,λnの 2スペクトル強度を測定すると式(1-1)は書き換えられ,温度Tは次式で表さ れる.Em-Enは,各線スペクトルにおける励起準位のエネルギー差である.波長間の異なる 励起準位のエネルギー差と相対強度比の項をプロットすることで温度が求まる.

) 4 1 ) (

/ ln(

1

kB m m n n n n m m

n

m 

 ・    

g A I g A I E T E

この式は対象とする粒子の数密度 n(T)とは無関係で,雰囲気ガス組成にも影響されない ため,Sahaの熱電離平衡式を使用しない.従って,LTEの仮定を設ける必要はなく,同種・

同状態の粒子間でのボルツマン分布則が成り立つ局所部分熱平衡を仮定すれば良い.ここ で評価される温度は励起温度と呼ばれるものである.

(e) シュタルク広がり

プラズマ中の多数の荷電粒子の作る電場の影響を受けて原子のエネルギー準位が分裂す るシュタルク効果により,線スペクトルに広がりが生じる.シュタルク広がりによる線スペ クトルの半値全幅は,次式で表される.

(21)

) 5 1 13000 (

) ( 10

) 0814 (

. 0 ) (

0.3685 e

23 3

e  

 

 

n m T K    

nm

これにより,線スペクトルの半値全幅を実験的に計測することで,温度 T を算出するこ とができる.

以上に述べた温度算出方法を用いて,多くの研究報告がなされている.しかし,それらの 計測結果を評価する際には,使用された算出方法およびその前提条件を理解することが重 要である.LTE からのずれや計測誤差に関する検討が必要である[70, 71].温度算出に重要 な定数をプラズマ計測によるアプローチで求めている報告例もある[72].大電流アークプラ ズマの測定により,Ar IおよびAr IIの代表的なスペクトルの遷移確率を求めている.

次項にて,発光分光法による温度計測や,その動的変動について捉えることができる高速 度カメラによる計測について述べる.

1.6.2 発光分光による温度計測

発光分光法は,プラズマに擾乱を与えない非接触な温度計測手法であり,空間的に限定さ れた,ある一点の温度計測が可能である.発光分光法における同時に計測可能な領域(集光 範囲)は約1.0×10-3~1.0×10-2 mm2である.多点測定もしくは測定点をスキャンすることに より,2次元的な計測が可能であるが,測定時間を要するため動的な変動を捉えることは困 難である.本項では,直流アークのうち,非移行式直流アークおよびフリーバーニングアー クを対象とした温度計測について述べ,次に高周波誘導結合型プラズマの温度計測につい て述べる.併せて,数値解析により温度の解析を行い,実験値との比較を行った研究例や,

関連する測定事例について述べる.

(a) 非移行式直流アークの温度計測

プラズマジェット(非移行式直流アーク)の温度計測に関する報告例について述べる.プ ラズマジェットは,プラズマ溶射において実用化されており,温度が周囲の環境から受ける

(22)

プラズマ計測と共に,シミュレーションによる温度解析結果との比較も盛んにおこなわ れている.プラズマジェットにおいて,熱的非平衡を想定した2温度モデルによるシミュレ ーションの結果が報告されている[79-82].

(b) フリーバーニングアークの温度計測

溶接で用いられるアークの定常放電時における温度計測については,多数の報告例があ る[83, 84].各電流値における温度計測結果について述べられており,陰極下1 mmにおける 中心軸の温度は,電流値100 Aにおいて17,000 K,300 Aにおいて23,000 Kであった.温度 算出法は,LTE仮定に基づいたFowler-Milne法が用いられている.

減圧条件下や超高温領域では,測定値と計算値が異なる例が報告されている[85-87].雰囲

気圧力0.3~0.5 kPaにおいて,Fowler-Milne法により算出された.上述条件下での計測の結

果,高圧条件や16,000 K以上の領域において,実験値と計算値では約2,000 Kの差が生じ た.低圧条件ではLTEが成り立っていないため,温度算出法としてFowler-Milne法は適し ておらず,実験値と計算値の温度に差が生じたと考えられる.このような条件下では,LTE の仮定を必要としない Boltzmann plot 法を用いることが適切であることがわかる.また

16,000 K以上では連続スペクトルの発光強度が増加するため,影響を考慮する必要がある.

ガス雰囲気が温度に与える影響についても研究されている.アーク溶接を行う際,溶接品 質を制御するために,アルゴンに水素,ヘリウムや窒素ガスを添加することが多いためであ る.アルゴンアークにヘリウムガスや窒素ガスを添加し,アーク温度に与える影響について 報告されている[88, 89].その他にも,アルゴンイオンレーザのレイリー散乱による物性評 価や[90],熱的非平衡や化学非平衡に関する研究例[91, 92]も報告されている.

また,前述の各種温度計測法を包括的に比較してまとめられている報告例もある[93].ア ルゴン,ヘリウムアークプラズマの温度を,Fowler-Milne法,二線強度比法,およびBoltzmann plot法を用いて算出した結果を比較している.

フリーバーニングアークにおいても,熱的非平衡を想定した 2 温度モデルによるシミュ レーションの結果が報告されている[94].実際の結果が,1温度モデルによるものに比較し て良好な一致を示したと述べている.

(c) 高周波誘導結合型熱プラズマの温度計測

高周波誘導結合型熱プラズマの温度計測について,数百ヘルツの周期で変調したパルス 変調誘導熱プラズマ(PMITP)に関する事例が報告されている[95].変動時間に追随した計測 を行うため,特定の波長のみを空間分解せずに計測している.また,シミュレーションによ る解析結果との比較についても報告されている[96, 97].前述と同様に,熱的非平衡を想定 した2温度モデルによる計算結果との比較が示されている.

(23)

1.6.3 高速度カメラと分光光学系を用いた温度計測

高速度カメラと分光光学系を用いた計測は,従来の発光分光法より時間分解能が高く,か つ広範囲な領域を一度に計測できる手法である.高速度カメラを用いることで,2次元また は3次元的な画像として可視化することができる.アークの温度計測では,前述のとおり一 般的にアークを乱さずに計測することができる発光分光法が用いられてきた.しかしなが ら,従来の発光分光法は空間分解能が低く,計測時間が長いため,広範囲な領域の計測およ び動的計測には適していない.そこで,高速度カメラを用いることで,アーク全体を捉え,

時間変動にも追従した計測を行うことができる.計測対象として,軸対称および定常なアー クの計測が行われており,さらに近年では,非軸対称かつ非定常な計測も行われている.

高速度カメラと分光器による 2 次元温度計測についての報告例について述べる.TIG パ ルスアークの2 次元温度分布の動的変化を,高速度カメラを用いたFowler-Milne 法により 測定した結果が報告されている[98].ピーク電流200 Aの条件において,最大アーク温度は

20,000 Kであった.また,アーク柱の幅は,特にアークの下流領域で減少し,50 Aのベース

電流の期間において,アーク温度は17,500 Kまで低下したと報告されている.同じくTIG 溶接におけるプラズマ温度と金属蒸気濃度の挙動を明らかにした報告例がある[99].TIG溶 接時の動的温度分布を高速度カメラによる光学計測で得るとともに,金属蒸気のスペクト ル画像を同時に取得し,金属蒸気分布との照合を行っている.その結果,アークプラズマ温 度は金属蒸気がアークプラズマ中に混入すると減少することがわかった.また,プラズマ中 の金属蒸気分布にも言及しており,低沸点金属であるマンガンの蒸気はアーク中に広く分 布しているのに対して,高沸点金属である鉄はアークの中心付近のみに分布することを示 した.これらの報告例から,高速度カメラを用いる計測方法は,広範囲の情報を高い時間分 解能で取得することにより,温度だけではなく,様々なプロセスの変動特性を捉えることが できる,極めて有用な方法である.

次に,高速度カメラを用いた3次元温度測定例について述べる.高速度カメラとバンドパ スフィルタを用い,軸対象のフリーバーニングアークの電子密度と温度を三次元測定した 結果が報告されている[100].487.5 - 488.5 nmと689 - 699 nmを透過する2種類のバンドパ スフィルタを用い,高速度カメラにより観察した.電流値を100, 125, 150および180 Aと変 化させて温度測定を行った.複数の方向から観察を行い,アーベル逆変換によって3次元温

(24)

高速度カメラとバンドパスフィルタを用いた温度計測方法は,バンドパスフィルタが持 つ波長域により,従来の発光分光法と比較して,波長分解能は低くならざるを得ない.その ため,高精度計測のためには適切な測定波長の選定と,波長範囲の決定が重要である.しか し,適切な波長選定を行うことにより,計測領域は102-3 mm2オーダ以上,かつ時間分解能 は10-4 sオーダの計測を実現することができる.以上より,高速度カメラを用いた温度計測 手法は,非定常かつ空間的に広がりのある熱プラズマの温度場を明らかにする手法として,

極めて有用であると結論づけられる.

1.7 研究目的

本研究では,熱プラズマの中でもエネルギー効率が高く,プラズマ体積が大きい,処理物 質の滞留時間が長いといった利点を持ち,材料プロセシングに適した多相交流アークに着 目した.その特長からインフライトガラス溶融プロセスやナノ材料合成プロセスなどへの 応用が期待され,実用化を目指した研究が行われている.本研究は,リチウムイオン電池の 容量向上と充放電サイクル信頼性向上の実現を期待されている,ナノ材料合成技術への応 用展開を目指している.しかし,多相交流アークは新規な熱プラズマ発生手法であるため,

アーク変動現象や温度特性などの重要な基礎現象の理解が充分でない.特に材料プロセシ ング向けシステムの設計にあたっては,電極の配置や相制御,および各種プロセス条件がア ークの変動現象や温度特性に与える影響を明らかにすることが必要不可欠である.そこで 本研究では,高速度カメラと特定の波長のみを透過するバンドパスフィルタを組み合わせ た計測システムにより,多相交流アークにおける放電と温度の変動特性を解明することを 目的とした.

1.8 本論文の構成

本論文における研究の流れをFig. 1.1にフローチャート形式で示す.本論文は結言を含め て6章から構成されている.

第 2 章では,本研究で用いた多相交流アーク発生装置の構成およびアーク発生のための 制御方法について述べる.また,放電状態の観察方法,温度計測方法および計測データの解 析方法について示す.

第 3 章では,交流アークの相数と電極本数が放電と温度特性に与える影響について検討 する.多相交流アークは商用の三相交流を用いることを基本としているため,120度の位相 差をもった電力を3本の電極に供給する3相交流アーク,位相差をこの半分の60度として 6本の電極に供給する6相交流アーク,さらに位相差を30度として12本の電極に供給する 12 相交流アーク,さらにそれらを組み合わせた構成を取りうる.電極本数を増やすとアー クの面積が増え,安定したプロセスの実現が期待できるが,一方で装置が複雑化し高価とな る.最適な構成を設計するためにも相数や電極本数が放電と温度特性に与える影響を明ら かにすることは意義深いことであると考えた.

(25)

第4章では,アークの動作制御を目的として,駆動周波数が放電と温度特性に与える影響 について検討する.商用電源周波数を用いた多相交流アークは,その設備構成の簡便さにお いて大きな利点を有している.しかし,日本国内の商用電源周波数である50Hzないし60Hz においては,一周期の長さはそれぞれ20 ms, 16.7 msである.これは多相交流アークを熱源 として利用した材料プロセシングを想定した場合に,変動周期が長く,安定したプロセスの 実現に対する課題であると考えられる.そこで,多相交流アークの駆動周波数を高めること により,変動の影響を小さくできるのではないかと考えた.

第5章では,交流アークの雰囲気圧力が放電と温度特性に与える影響について検討した.

多相交流アークは大気圧雰囲気での動作を基本としているが,プロセスの目的により減圧 雰囲気が適する場合もあると考えられる.局所熱平衡状態が成立する圧力範囲において,ア ークの挙動と温度特性の傾向を理解することは重要であると考えた.

第 3 章から第 5 章まで,それぞれの放電条件において,高速度カメラで観察したアーク 変動現象と,算出した温度分布の結果について述べる.

第6章では,本研究の成果を総括する.

(26)

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Fig. 2.11 Representative high-speed snapshot filtered at 794 nm and that at 785 nm.
Fig. 3.6. High-speed snapshots (a) and corresponding temperature distributions (b) of the 6-phase  AC arc during one AC cycle
Fig. 3.7. High-speed snapshots (a) and corresponding temperature distributions (b) of the 12-phase  AC arc during one AC cycle
Fig. 3.8 Time variation of arc area in different number of phases.
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