商用電源周波数を用いた多相交流アークは,その設備構成の簡便さにおいて大きな利点 を有している.しかし,日本国内の商用電源周波数である50Hzないし60Hzにおいては,
一周期の長さはそれぞれ20 ms, 16.7 msである.これは多相交流アークを熱源として利用し た材料プロセシングを想定した場合に,変動周期が長く,安定したプロセス実現の妨げとな ることが懸念される.そこで,多相交流アークの駆動周波数を高めることで,変動の影響を 小さくできるのではないかと考えた.本章では,多相交流アークの駆動周波数が,放電と温 度特性に与える影響について調べた結果を述べる.
4.1 実験条件
4.1.1 駆動周波数の検討(6相交流アークの場合)
6相交流アークの駆動周波数を3水準の圧力条件(40, 70, 100 kPa)において,60Hz, 120Hz,
180Hz と変化させた場合のアークの放電と温度特性について調べた.実験装置およびアー
ク計測装置は第2章にて述べたとおりである.その他の詳細条件をTable 4.1に示す.向か い合う電極間の距離は60 mmとした.各電極に投入する電力は電流一定制御とし,120 Aと なるように調整した.アーク生成用の雰囲気ガスは各プラズマトーチ先端部より供給し,ト
ーチ1本あたり2 L/min.とした.使用した電極は下段6本であり,Fig. 2.2において示した
No. 1, 3, 5, 7, 9, 11である.これらの電極に60度ずつ位相をシフトした交流電圧を印加した.
電極配置と印加した電圧波形をFig. 4.1に示す.
4.1.2 駆動周波数の検討(6相2段交流アークの場合)
6 相 2 段交流アークの駆動周波数を 3 水準の圧力条件(40, 70, 100 kPa)において,60Hz,
120Hz, 180Hz と変化させた場合のアークの放電と温度特性について調べた.実験装置およ
びアーク計測装置は第2章にて述べたとおりである.その他の詳細条件をTable 4.2に示す.
向かい合う電極間の距離は60 mmとした.各電極に投入する電力は電流一定制御とし,120 A となるように調整した.アーク生成用の雰囲気ガスは各プラズマトーチ先端部より供給 し,トーチ1本あたり2 L/min.とした.使用した電極は12本であり,上段と下段の隣り合 う2本の電極を順に1組とすることによってできる6組の電極に60度ずつ位相をシフトし た交流電圧を加えた.電極配置と印加した電圧波形をFig. 4.2に示す.
4.2 実験結果
4.2.1 40 kPaにおける駆動周波数依存
(a) 6相交流アーク
駆動周波数 60Hz, 120Hz, 180Hz の時の高速度カメラのスナップショットと,それに対応 した温度分布をFigs. 4.3 - 5に示す.スナップショットは794 nmのバンドパスフィルタにて
撮影した映像であり,温度分布の算出方法は第2章で述べたとおりである.それぞれの周波 数における1周期の時間を12分割した時間ごとに示している.60Hz, 120Hz, 180Hzの1周 期はそれぞれ,16.7 ms, 8.3 ms, 5.6 msである.高速度カメラの画像より,それぞれの電極か らのアーク放電が左回りに移っていく様子が見られる.周波数の影響により,アークの挙動 に違いが見られる.ひとつの電極先端に注目すると,60Hzにおいては周期的なアークのス ウィングが観察されるが,180Hzにおいては対照的に放電領域の中心付近に向かって直線的 にアークが伸びていることがわかる.また,アークの発光強度やその分布においても違いが 見られる.60Hzにおいて,常にアークが存在する領域は観察されないが, 180Hzにおいて は特に放電領域の中心部にアークが定常的に存在している様子が見られる.放電領域の中 心部からのアルゴンの発光は,60Hzに比べて180Hzのほうが明確に観察される.温度分布 図より,おおよそ7,000 Kから12,000 Kの温度範囲で変動しており,電極近傍の温度が特に 高いことがわかる.駆動周波数が高くになるにつれて,中心付近の高温領域が拡大している 一方で,中心温度は大きく変わらないことがわかる.ここで示す温度はボルツマンプロット 法を用いて算出したアルゴンの励起温度である.第3章の3.3項で述べたと同様に,この結 果においても励起温度をガス温度とみなすことができると考える.ただし,電極近傍など急 な温度勾配を持っている部分は除外しなければならない.
駆動周波数が放電領域中心部の温度に与えている影響を明らかにするため,高速度カメ ラの中心部1画素の温度を取り出して比較を行った.駆動周波数ごとの温度変動をFig. 4.6 に示す.測定限界である7,000 Kを下回る瞬間があるが,駆動周波数を高くすることで,中 心部の温度が上昇していることがわかるが,120Hz と 180Hz の間には有意な差は見られな
い.180Hzにおいて7,000 Kから8,800 Kの高い温度が観察されている.これに対して60Hz
においては測定下限である7,000 Kをたびたび下回っている様子が観察される.これは60Hz においては上述の通り,放電領域の中心部にアークがほとんど存在していないことに起因 している.
駆動周波数の影響をより詳しく比較するために,アーク面積の解析,比較を行った.異な る周波数におけるアーク面積の時間変動をFig. 4.7に示す.アーク面積の時間変動において,
周波数による明らかな差が見られる.60Hzにおいては15 - 28%の範囲で変動していたもの が,120Hzにおいては18 - 30%,180Hzでは24 - 30%の間での変動となり,駆動周波数の増
交流1周期におけるアークの存在確率分布をFig. 4.9に示す.駆動周波数の増加に伴いア ークが中心部に多く存在するようになり,120Hz および180Hzにおいて,放電領域の中心 部には常にアークが存在している.特に 180Hz においてその領域が拡大していることが明 らかになった.つまり,6相交流アークにおいて,駆動周波数の増大はアークを放電領域中 心部に集め,さらにその面積変動も抑制する効果があることがわかる.
(b) 6相2段交流アーク
駆動周波数 60Hz, 120Hz, 180Hz の時の高速度カメラのスナップショットと,それに対応 した温度分布をFigs. 4.10 - 12に示す.高速度カメラの画像より,それぞれの電極からのア ーク放電が左回りに移っていく様子が見られる.また,6相2段交流アークの特徴である,
隣り合う電極が一対となり,放電していることが現れている.ひとつの電極先端に注目した アークのスウィングについては,駆動周波数に対する大きな差は見られない.温度分布図よ り,おおよそ7,000 Kから12,000 Kの温度範囲で変動しており,電極近傍の温度が特に高い ことがわかる.60Hzの場合を除き,放電領域の中心部には7,000 K以上の高温領域はほと んど存在していないことがわかる.
駆動周波数が放電領域中心部の温度に与えている影響を明らかにするため,高速度カメ ラの中心部1画素の温度を取り出して比較を行った.駆動周波数ごとの温度変動をFig. 4.13 に示す.60Hzにおいては,7,000 K未満となることがあるものの,測定可能は範囲において
は7,000 Kから9,000 Kの間で変動している様子が見られる.駆動周波数が高くなるにつれ
て7,000 Kを超える頻度が減少していることがわかる.このことから,6相2段交流アーク
においては,駆動周波数の増大は,アークを放電領域の中心部から外周側へ集める効果を持 つことが推察される.
駆動周波数の影響をより詳しく比較するために,アーク面積の解析,比較を行った.異な る周波数におけるアーク面積の時間変動を Fig. 4.14 に示す.60Hz においては 29 - 45%,
120Hzにおいては25 - 44%,180Hzでは23 - 42%の間で変動している.駆動周波数とアーク
面積およびその変動には強い相関はみられない.
アーク面積の時間変動特性を明らかにするために,FFT解析を行った結果を Fig. 4.15 に 示す.60Hz, 120Hz, 180Hz の駆動周波数における変動周波数はそれぞれ,360Hz, 720Hz,
1080Hzであった.同様に変動時間は,2.8 ms, 1.4 ms, 0.93 msであった.駆動周波数の増加
に伴い,変動周波数が増加していることがわかる.また,12 本の電極を用いた交流アーク であるが,制御相数が6相であるため,6相交流アークと同様の変動周波数を示している.
交流1周期におけるアークの存在確率分布をFig. 4.16に示す.駆動周波数の増加に伴い アークが放電領域の外周部に多く存在するようになり,中心部はアークがほとんど存在し なくなることがわかる.放電領域内には常にアークが存在する領域は無いことがわかる.つ まり,6相2段交流アークにおいて,駆動周波数はアークの分布や変動周波数には影響を与 えるものの,アーク面積については相関が無いことがわかる.
4.2.2 70 kPaにおける駆動周波数依存 (a) 6相交流アーク
駆動周波数 60Hz, 120Hz, 180Hz の時の高速度カメラのスナップショットと,それに対応 した温度分布をFigs. 4.17 - 19に示す.高速度カメラの画像より,それぞれの電極からのア ーク放電が左回りに移っていく様子が見られる.ひとつの電極先端に注目すると,60Hzに おいては周期的なアークのスウィングが観察されるが,180Hzにおいては対照的に放電領域 の中心付近に向かって直線的にアークが伸びていることがわかる.また,アークの発光強度 やその分布においても違いが見られる.60Hz において,常にアークが存在する領域は観察 されないが,これに対して 180Hz においてはアークが定常的に存在している様子が見られ る.放電領域の中心部からのアルゴンの発光は,60Hzに比べて180Hzのほうが明確に観察 される.温度分布図より,おおよそ7,000 Kから12,000 Kの温度範囲で変動しており,電極 近傍の温度が特に高いことがわかる.駆動周波数が高くになるにつれて,中心付近の高温領 域が拡大し,60Hzでは8,000 K程度であった温度が180Hzにおいては8,500 Kから9,000 K まで温度が上昇している.
駆動周波数が放電領域中心部の温度に与えている影響を明らかにするため,高速度カメ ラの中心部1画素の温度を取り出して比較を行った.駆動周波数ごとの温度変動をFig. 4.20 に示す.駆動周波数が高くなるにつれて,中心部の温度が上昇し,変動幅も小さくなってい ることがわかる.60Hzにおいては7,000 K未満になる瞬間があるのに対して,120Hzおよ
び180Hzにおいては常に7,000 Kを上回っている.180Hzにおいては,8,200 Kから9,000 K
の高い温度が観察されている.駆動周波数の増大によってアークが中心部に集まっている ことにより,高温部が常に形成されることを表している.
駆動周波数の影響をより詳しく比較するために,アーク面積の解析,比較を行った.異な る周波数におけるアーク面積の時間変動をFig. 4.21 に示す.アーク面積の時間変動におい て,周波数による明らかな差が見られる.60Hzにおいては22 - 37%,120Hzにおいては29
- 38%,180Hzでは32 - 38%の間で変動している.駆動周波数の増大に伴い,アーク面積の
中心値が増加し,変動幅が減少していることがわかる,
アーク面積の時間変動特性を明らかにするために,FFT解析を行った結果を Fig. 4.22 に 示す.60Hz, 120Hz, 180Hz の駆動周波数における変動周波数はそれぞれ,360Hz, 720Hz,