本章では,本研究で用いた多相交流アーク発生装置の構成およびアーク発生のための制 御方法について述べる.また,放電状態の観察方法,温度計測方法および計測データの解析 方法について述べる.
2.1 多相交流アーク発生装置
2.1.1 プラズマ発生チャンバ
本研究で用いた多相交流アークプラズマ発生装置の外観写真をFig. 2.1に,概略図をFig.
2.2に示す.本多相交流アーク発生装置は,福伸工業株式会社製であり,2015年3月に製作 されたものである.チャンバは円筒形状であり,おおよその内寸は直径330 mm,高さ800 mmである.チャンバは圧力調整機能を有したバルブを介してスクロール式の真空ポンプに 接続されている.主な材質はSUS304であり,チャンバ壁冷却のために冷却水を循環させる 機構を備えている.アーク発生のための雰囲気ガスは,マスフローコントローラを介してチ ャンバ内に導入される.バルブ開度を調整することでチャンバ内を一定の圧力に保つこと ができる.
チャンバ側壁に上段と下段にそれぞれ6本ずつ,合計12本のアーク発生用トーチが挿入 されている.上段の6 本のトーチは円周上に 60度の角度をもって均等に配置されており,
すべて水平に設置されている.下段の6本のトーチも同様に60度の角度差をもって均等に 配置されており,上段のトーチとは相対的に30度の角度差で設置されている.つまり,平 面的にみると上段,下段の12本のトーチはすべて30度の角度差で配置されている.なお,
下段のトーチは水平面に対して30度先端が上向きになるように設置されている.Fig.2.2に おいて,電極No.1, 3, 5, 7, 9, 11が下段の電極,電極No.2, 4, 6, 8, 10, 12が上段の電極である.
12本のトーチを2 段構成とした理由は,多相交流アークの特長の一つである大面積の高温 領域を,さらに鉛直方向にも拡大するためである.すべてのトーチはサーボモータにより前 後移動する機構を持ち,対面する電極間の距離を60 mmから100 mmの間で調整すること ができる.特定の向かい合う2本のトーチのみ,最初の点弧のために2~3 mm程度まで近 づけることができるよう設定されている.それぞれのトーチに交流電源が 1 台ずつ接続さ れており,合計12台の交流電源を備えている.また,電極先端に流すシールドガス用の供 給配管と,トーチ冷却用の冷却水循環配管もそれぞれのトーチに接続されている.
チャンバの上部に,高速度カメラとバンドパスフィルタ光学系からなるアーク計測用の 機器が設置されている.また,計測を同期するためのオシロスコープやPCが接続されてい る.これらの計測機器については2.2で詳細に述べる.
付帯装置も含めたレイアウト図をFig. 2.3に示す.多相交流アーク発生装置本体を中心と し,制御(操作)盤・電源盤,溶接用交流電源を収納した電源装置ラック,冷却水循環用の 水冷式チラー,周波数変換用のインバータ装置が主な付帯設備として配置されている.また
図示していないが真空ポンプの後段は,集塵機につながるダクトが接続されている.本体の フットプリントは1300 mm x 1300 mm,全体のレイアウトのサイズはおおよそ6 m x 3 mで ある.
2.1.2 プラズマトーチ
本研究で用いたプラズマトーチの図面をFig. 2.4に示す.福伸工業株式会社製の多相交流 アーク放電用高性能プラズマトーチを採用した.プラズマトーチの外径はφ50 mm,チャン バ内にあるトーチの長さはおよそ500 mmである.主に酸素の存在する雰囲気において,電 極の消耗を抑制するためのシールドガスの流路,電極やトーチそのものを冷却するための 冷却水流路および電極への交流電力印加回路がトーチ内部に装備されている.電極は,仕事 関数を下げるための添加物としてLa2O3を2wt%含んだタングステン製で,直径φ6 mm の ものを用いた.トーチへの交流電力を供給する部分はワンタッチ着脱式を採用しており,使 用する電極本数や交流電圧の相制御などに対して,各トーチに接続する電源ケーブルの接 続を変更するたけで簡便に実験ができるよう工夫されている.
多相交流アークプラズマ点弧前のタングステン電極の先端形状をFig. 2.5に示す.先端突 き出し長さは5 mm,先端角度は60度とした.形状の加工にはグラインダーを用いた.
2.1.3 交流電源装置とインバータ
本装置には,株式会社ダイヘン製(B-3006)溶接用交流電源が12台用いられている.市 販の溶接用交流電源を用いていることで,電極本数や交流の相数の増減に対して柔軟に対 応でき,安価な設備価格を実現している.60Hzの商用3相交流電源を用いており,R相,
S相,T相をそのまま3本の電極に供給することで実現するのが3相交流アークである.本 研究において主に議論する6相交流アークは,R-S間,S-T間,T-R間,S-R間,T-S間,そ してR-T間の電圧を用いることで実現することができる.さらに,これらの6相交流を Δ-Y相変換トランスに入力することで,位相が30度ずれた 6
相交流出力(R’-S’,S’-T’,T’-R’,S’-R’,T’-S’,そしてR’-T’)を得ることができる.これら2種類の6相交流を組み合わ
せることで,位相が30度ずつ均一にずれた12相交流が得られ,それらを12台の交流電源 に入力することで,12相交流アークを実現することができる.
の交流電源に入力されるという構成をとっている.現在の構成では機器の制約のため,周波 数変換は 6 相交流アークまでに対応している.トーチに供給する電流や他のプロセス条件 にもよるが,商用周波数の60Hzから180Hzまで他の条件を保ったまま連続的に周波数を変 化させることができる.
2.1.4 アーク発生方法
多相交流アークの実験手順について述べる.
まずは実験準備として装置のメインブレーカ,チラー,集塵機およびインバータの電源を 投入する.雰囲気ガスのアルゴンを供給できるよう,液体アルゴンボンベのバルブを開ける.
各プラズマトーチにつながる電源ケーブルは所望の放電パターン通りに接続されているこ とを確認する.
真空ポンプを起動,バルブを全開にしてチャンバ内を 5 Pa程度まで排気する.その後,
チャンバ内にアルゴンガスを導入し,バルブを調圧モードに設定し,所定の圧力に調圧を行 う.アルゴンガスは各プラズマトーチの先端およびチャンバ下部の供給ノズルより導入す ることができる.
調圧が完了すると,点弧用の 1 対のトーチをあらかじめ設定されている点弧位置までサ ーボモータの動作によって前進させる.本装置の場合,Fig. 2.2に示すトーチのうち,No.1 とNo.7が点弧用である.操作盤で使用する電極を選択することによって,当該トーチに交 流電圧が供給される.点弧準備,点弧ボタンにより点弧用のトーチに高周波が印加され,ア ークが発生する.その後,この1対のトーチを後進,つまりトーチがお互い遠ざかる方向に 移動し,初期位置まで移動する間に,他のトーチ間にもアークが発生し,アークが全体に広 がる.トーチ先端の位置を所定の値になるようサーボモータの動作により調整する.インバ ータ装置の操作パネルで所定の周波数に設定した後,所定の電流値になるよう電圧を調整 する.以上で,一連の点弧フローは完了である.本装置における12相交流アークの放電の 様子をFig. 2.6に示す.
消弧は,制御盤にある電源切ボタンを押すことによりすべての電力供給が停止する.ただ し,トーチ先端周辺やチャンバ,排気管は非常に高温となっているため,アルゴンガスは5 分以上,冷却水は30分以上流し続けることが必要である.
終了作業は,実験準備作業の逆の順序でガス,冷却水,各種電源を停止,切断する.
2.2 アーク計測装置と方法
本研究では,第1章で述べたように多相交流アークの温度の変動を,2次元かつミリ秒オ ーダで捉えて明らかにすることを目的のひとつとしている.プラズマ温度の計測は発光分 光法にて算出することが一般的である.しかし,従来の分光器を用いた計測方法では空間分 解能が乏しく,測定時間の観点ではミリ秒オーダで変動する領域を測定することは困難で ある.これに対して本研究では,アーク温度の変動については二波長発光分光法により算出
することを目論み,独自の高速度カメラとバンドパスフィルタ光学系からなる計測ユニッ トを開発した.本方式は,高温領域の時間的,空間的変動を高い分解能で測定することが可 能である.さらに,交流周期に同期させた測定も可能であり,交流アークの変動を詳細に捉 えることができる.以下,アーク温度の計測装置の構成および方法について詳細に述べる.
2.2.1 アーク計測装置
本研究で用いた,高速度カメラとバンドパスフィルタ光学系からなるアーク計測装置の
概略図をFig. 2.7に示す.バンドパスフィルタ光学系と高速度カメラの2つのユニットから
成る.バンドパスフィルタ光学系は株式会社フォトロン製(MSI-2),高速度カメラは株式会 社フォトロン製(FASTCAM SA-5)を用いた.アークからの発光はスプリッタによって2つの 光路に分離される.異なる波長のバンドパスフィルタによって分光され,CCD 上でそれぞ れ単色の2次元発光強度分布が観測される.いずれかのCCDで得られた像を連続的に記録 することによりアークの変動が観察でき,2波長の発光強度比を用いて温度分布の変動を得 ることができる.また,交流電圧と同期させて測定を行うため,横河電機株式会社製のオシ ロスコープ(SCOPE CORDER DL850)および制御用PCを用いた.
2.2.2 温度計測方法
多相交流アークの観察手順について述べる.
2.2.1 で述べた計測装置を,多相交流アーク発生装置の上部に設置する.発生装置上部に
設けられた観察用の石英窓を通してアーク発生領域全体が視野に入るよう,位置調整を行 う.発生装置にてアークを発生させ,条件が安定したことを確認し,高速度カメラ,オシロ スコープ,PCの同期を確認して,一定時間撮影を行う.
2.3 計測データ解析方法
2.3.1 アーク挙動の解析
アーク挙動の解析は,高速度カメラで撮影した動画ファイルからスナップショットを抽 出し,時系列に並べることにより行った.異なった 2 つの波長の動画ファイルが得られる が,観察に適した輝度をもつものを選択すればよい.ただし,得られた画像はある特定の断