第3章,第4章,および第5章では,第2章で述べた多相交流アーク発生装置およびア ーク計測装置を用いて,多相交流アークの空間的,時間的変動特性について測定,解析した 結果を詳細に述べる.本章では,交流アークの相数と電極本数が放電と温度特性に与える影 響に調べた結果について述べる.多相交流アークは商用の三相交流を用いることを基本と しているため,120度の位相差をもった電力を3本の電極に供給する3相交流アーク,位相 差をこの半分の60度として6本の電極に供給する6相交流アーク,さらに位相差を半分の 30度として12本の電極に供給する12相交流アーク,さらにそれらを組み合わせた構成を 取りうる.電極本数を増やすとアークの面積が増え,安定したプロセスの実現が期待できる が,一方で装置が複雑化し高価となる.最適な構成を設計するためにも相数や電極本数が放 電と温度特性に与える影響を明らかにすることは意義深いことであると考える.
3.1 実験条件
3.1.1 3相,6相,12相交流アークの放電および温度特性
まず交流アークの相数を 3相,6 相,12 相と変化させた場合のアークの放電と温度特性 について調べた.実験装置およびアーク計測装置は第2章にて述べたとおりである.その他 の詳細条件をTable 3.1に示す.向かい合う電極間の距離は100 mm,駆動周波数は60Hz,
圧力は大気圧(101.3 kPa)である.各電極に投入する電力は電流一定制御とし,100 Aとなる ように調整した.アーク生成用の雰囲気ガスは各プラズマトーチ先端部より供給し,トーチ
1本あたり2 L/min.とした.
電極配置と供給する電圧波形について説明する.Figs. 3.1-3.3 に各相数条件における電極 配置と各電極に供給する電圧波形を示す.電極番号については第2章で述べたFig. 2.2に則 っている.3相の場合は,物理的に120度の角度差を持つ3本の下段電極,No. 1, 5, 9を使 用した.電圧は 120度ずつ位相をシフトさせて供給した.つまり商用電源である 3 相交流 電圧をそのまま使用できる形であり,従来から具現化されている構成である.6相の場合は,
物理的に60度の角度差を持つ6本の下部電極,No. 1, 3, 5, 7, 9, 11を使用した.電圧はとな りあう電極の位相が順に60度ずつシフトするように供給した.12相の場合は上段,下段す べての電極を使用した.上下方向の高さの差はあるが,平面的に見ると隣り合う電極は物理 的に30度ずつずれて配置されている構成である.各電極に供給する電圧は隣り合う電極の 位相が順に30度ずつシフトするように供給した.実際の電気回路は,下段電極の6相に対 して,上段電極の6相を,相変換トランスにより30度の位相差をもって供給するよう設計 されている.つまり,下段電極No. 1を基準にしたときに,それに隣接する上段電極No. 2 の位相が 30度ずれているということであり,本実験条件の場合は 30 度遅れて供給されて いる.
3.1.2 12相と6相2段交流アークの放電および温度特性
次に,12本の電極を12相と6相で制御した場合に交流アークの放電と温度特性に与える 影響について調べた.実験の諸条件をTable 3.2に示す.向かい合う電極間の距離は上段電
極では82 mm,下段電極では92 mm,駆動周波数は60Hz,圧力は大気圧(101.3 kPa)である.
各電極に投入する電力は電流一定制御とし,150 Aとなるように調整した.アーク生成用の 雰囲気ガスは各プラズマトーチ先端部より供給し,トーチ1本あたり2 L/min.とした.
電極配置と供給する電圧波形について説明する.12相の場合は前述のFig. 3.3である.6 相で制御する場合の電極配置と電圧波形をFig. 3.4 に示す.電極配置は12相と同じである が,供給する電圧の位相が異なる.隣り合う電極,例えばNo. 2とNo. 3,No. 4とNo. 5に 同一位相の交流電圧を印加する.つまり,上段と下段をそれぞれ6相で駆動し,となりあう 電極に供給する交流電圧の位相をそれぞれ同一にする.この交流アークの制御方式を,「6相 2段交流アーク」と標記する.
3.2 実験結果および考察
3.2.1 3相,6相,12相交流アークの放電および温度特性
3相交流アークにおける高速度カメラのスナップショットと,それに対応した温度分布を
Fig. 3.5に示す.スナップショットは 794 nmのバンドパスフィルタにて撮影した映像であ
り,温度分布の算出方法は第2章で述べたとおりである.60Hz交流の一周期の約16.7msを 12 分割した時間ごとに示している.高速度カメラのスナップショットにおいて,任意の電 極に着目すると,アークが存在しているときとしていない時があることがわかる.このよう に交流アークは点弧,消弧そして再点弧を繰り返していることがわかる.また,アークに着 目すると,反時計回りに電極から電極へ移行している動きが見られる.各電極からのアーク にはスウィングがほとんど認められず,放電領域の中心方向に伸びるようにアークが発生 していることがわかる.t = 0.0 msから7.0 msまでのスナップショットに,アノード時とカ ソード時の標記を加えた.黄色実線がアノード時,赤色破線がカソード時のアークを示して いる.アノード時に比べてカソード時のアークは輝度が高く,緊縮している様子が見られる.
温度分布については,7,000 Kから13,000 Kの幅で変動している.アノード時には7,000 K
から10,000 K,カソード時には7,000 Kから11,000 Kの温度範囲を持っていることがわか
が30度遅れている右隣の電極で発生したアークに引き寄せられ消弧するという一連の動き が見られる.アークのスウィングの原因は電圧の増加減少に起因する他の電極からの回転 電磁場やアーク周囲に発生する誘導磁場である.アークのスウィングは隣接するアークの 電磁場によるローレンツ力を受けているために起こっている.温度分布は,7,000 K から
13,000 Kの間で変動している.アノード時には7,000 Kから10,000 K,カソード時には7,000
Kから11,000 Kの温度範囲を持っていることがわかる.この温度範囲は3相交流アークと
ほぼ同等の値を示している.これは電極 1 本あたりの電流値を一定に制御しているためで ある.相数の増加により,アークそのものの温度の変化はないが,アークによる高温領域は 拡大している.
12 相交流アークにおける高速度カメラのスナップショットと,それに対応した温度分布
をFig. 3.7に示す.6相交流アークと同様に,電極先端で発生したアークがスウィングして
いる様子が見られる.温度分布は,7,000 Kから13,000 Kの間で変動している.アノード時
には7,000 Kから10,000 K,カソード時には7,000 Kから11,000 Kの温度範囲を持っている
ことがわかる.また,12相交流アークにおいてはアーク発生領域の中心付近に7,000 Kの高 温部が交流1周期の内の大部分の時間で存在していることがわかる.
以上のように交流アークの相数が放電と温度特性に与える影響について示したが,より 詳しく比較するために,アーク面積およびアーク存在確率の解析を行った.算出方法につい ては,第2章の2.3項で述べたとおりである.3相,6相,12相交流アークにおけるアーク 面積の時間変動をFig. 3.8に示す.横軸が時間で,交流5周期分を示している.縦軸はアー ク面積である.この図より,3相,6相,12相交流アークのアーク面積は平均値でそれぞれ 35%,45%,70%である.相数の増加とともにアーク面積が増加していることがわかる.
3相,6相,12相交流アークにおけるアーク存在確率をFig. 3.9に示す.この図において,
アーク存在確率”0”は交流1周期においてアークが全く存在しない領域,”1”は常にアークが 存在している領域を示している.3相交流アークでは高速度カメラのスナップショットで見 られた通り,ほぼ直線的なアークであり,常にアークが存在する領域は見られない.6相交 流アークではアークにスウィングの影響で領域が拡大していることがわかる.12 相交流ア ークでは領域全体にアークが拡がり,中心付近には常にアークが存在している.相数に関す る検討については,12 相交流アークで最も均一な高温領域が得られている.多相交流アー クを用いた材料プロセシングなどを行う場合は12相交流アークが適している.
3.2.2 12相と6相2段交流アークの放電および温度特性
Table 3.2で示した実験条件での12相交流アークの高速度カメラのスナップショットとそ
れに対応した温度分布をFig. 3.10 に示す.スナップショットにはアークおよびアークに起 因する輝度の高い領域が鮮明に表れている.前項に比べて電流値が1.5倍の150 Aであり,
電極間距離も近いためであると考えられる.また,アークが時計回りに順に発生しているこ ともわかる.温度分布は,7,000 Kから13,000 Kの間で変動している.アノード時には7,000
Kから11,000 K,カソード時には7,000 Kから12,000 Kの温度範囲を持っていることがわか る.電極近傍では13,000 Kの高温領域が観察されている.中心付近に常に7,000 K以上の温 度を持つ高温領域が存在していることも特徴的である.
6相2段交流アークの高速度カメラのスナップショットとそれに対応した温度分布をFig.
3.11 に示す.12 相交流アークでは隣接する電極に次々にアークが移っていく様子が見られ たが,6 相 2 段交流アークでは隣り合う電極 2 本ずつにアークが移っている様子が見られ る.温度分布は,7,000 Kから13,000 Kの間で変動している.アノード時には7,000 Kから
11,000 K,カソード時には7,000 Kから12,000 Kの温度範囲を持っていることがわかる.電
極近傍では13,000 Kの高温領域が観察されている.12相交流アークに比べて高温領域が外 周部に偏っているように見える.
2つの放電条件の影響をより詳しく比較するために,アーク面積およびアーク存在確率の 解析を行った.12相交流アークおよび6相2段交流アークにおけるアーク面積の時間変動
をFig. 3.12に示す.12相交流アークでは,40%から65%の間で変動しており,6相2段交流
アークにおいては,35%から60%の間で変動している.12相交流アークおよび6相2段交 流アークにおけるアーク存在確率をFig. 3.13に示す.12相交流アークではアーク発生領域 内において比較的均等にアークが存在しており,さらに中心付近には常にアークが存在す る領域があることがわかる.これに対して6 相2 段交流アークにおいては,アークが領域 の外周部に偏って存在しており,中心部の存在確率が低いことがわかる.このように,同じ 12 本の電極を用いた場合において,交流の相数制御の違いが多相交流アークの放電状態や 温度特性に与える影響を明らかにすることができた.多相交流アークで生成した高温領域 を用いて材料プロセシングを行うことを考えると,より均一性が高く,中心部にアークが安 定して存在する 12 相交流アークが適している.なぜなら,アーク領域への材料の供給は,
ノズル等を用いて中心部に行うことが装置設計上も適切であるためである.
3.2.3 アークの変動周波数
本章で得られたアーク面積の時間的変動を調べるため,FFT解析を行い,アーク変動周波 数を算出した.算出方法は第2章2.3項で述べたとおりである.3相,6相,12相,6相2 段交流アークのFFT解析結果をFig. 3.14に示す.実験条件で述べた通り,6相2段交流ア