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井上栄 (昭和39年11月1日受理)

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(1)

長崎大学学芸学部自然科学研究報告第16号109‑116 (1964)

布の吸水性について(第1報)

井上栄

(昭和39年11月1日受理)

Studies on Drop Absorption of Textiles (Part 1)

Sakae INOUE

Abstract

Three kinds of textiles which were given drop‑absorption tests were the same in kind of fiber and manner of weaving, but different in thickness of yarn. The factors influencing the rapidity of permeation were examined as

follows :

1) In the following formulas K=v/t K=k0・k k0= ・・・ ,

"k0" is in proportion to the thickness and the number of capillary. When

"cover factor" is used instead of the number, the ratio of "k0" which is con‑

sidered quantity in proportion to that of yarn is 9 : 9 : 7.

2) γ/η being definite, "k" becomes quantity which is proportioned to cosθ3/2,

while the kind of fiber being the same, contact angle θ is influenced only by

the difference of contact angle caused by the condition of the surface of tex‑

tiles. The ratio of "K," however, is 4 : 2 : 1, so that the condition of the surface of the textiles is considered to have a great influence.

3) The difference of contact angle caused by the condition of the surface of textiles is influenced by such factors as thickness, twist and density of yarn.

I緒言

布の吸水性を考える場合,吸水速度と,平衡吸水量の2つの面がある。この申,吸水速度 すなわち水分浸透性の測定方法としては,沈降法Wick‑up Method (溶液の上昇度法) ,

*本論文の要旨は,昭和58年10月12日日本家政学会第15回総会で発表した。

**長崎大学学芸学部家政教室

(2)

110 井  上

Larose Method(吸収液量法),DroP−Absorption Test(液滴消失時聞法,叉は滴下法)

(!)(2)等がある。これらの中には,毛細管,液の粘度,液の表面張力,および接触角などと の関係式が与えられているものもあるが,中には単に測定値の比較から優劣をきめるものもあ る。我々は経験的に,糸密度や撚の強弱,糸の太さなどが影響を与えるものと考えるのである が,これら織物の機構から解明したものは見当らない。わずかに,浸透剤の影響を主目的にし た研究の中に,前記の要因をあげ,それらに左右されるものと思われるとしたもの(3),また 同一試料を使用することによってそれらの影響を除いたとしたもの(4)等が見られる。そこで 筆者は,織物の機構からみた要因をつかむことはできないかと,近藤,金綱氏等の研究(4)を

もとにして検討したので報告する。

H 実  験  方  法

(1)試料:第1表の如くである。

第冒表

1壕 、嘉㎝黒鴇一)

60 80 100

1.5552 1.2216 1.0799

0.277 0。259 0.210

糸密度本/cm

45 55 65.5

25 27 51

撚  数 /cm

7.5 8.5 8.8

6。4

7 8

 (2)実験方法

 試料は,ヨード反応の無いことを確かめた後,エーテル処 理をして油脂の影響を除き,亜硝酸ソーダデシヶ一タ中で湿 度調整をし,標準状態の時を選んで実験した。

 図のように,ミクロピーユレットを固定し,ビューレット の口から5cmのところに布がセットされるようにする。次 に蒸溜水を1滴(0.025529:100/100滴)滴下して,その瞬 間,左手に持ったストッブウォッチをおす。そして光線のく

る反対側から斜に観察して,その液滴の光が消える瞬間まで     }蘇       し

の時間を測定する。 (17〜20回)      嚇 また考察資料として・毛潴半径・撚角度・c・ve「facto「

等を求めたので,それらに必要な測定法の大要を示せば次の

       }

通りである。

 i)繊維のヂニール

 織物の糸をほぐし,繊維をひきぬいて3cm長のものを10本単位30束用意する。繊維を切る

(3)

         布の吸水性について(第1報)      111

には,金属尺の上で一定の張力を与えておいて行う。湿度調整をした繊維を,標準状態におい てTorsion balanceで重量測定をし,次の式から算出した。

     w     w:繊維の重量

     _×9000      1

         1.:繊維の長さ

ii)繊維の直径(d)

     11・9×〆せんいのデニール/ρ ρ:繊維の比重 iii)糸の直径(D)

     2〆

       糸のデニール       900000×ρ×3.14

     W糸のデニールは丁×9000から算出する・糸の切断や測定は繊維に準じて行うが・長さは・

9Cmを10本とり1本ずつ重量測定をした。

量v)繊維長

糸をほぐして,ラγダムに100本の繊維をとり出し,一定の張力で長さを測定し,Cleg9の 方法で解析して有効繊維長を求めた。

v)撚数

 r検撚器」を用いて7cm間の撚数を測り,10本の平均値を出し,1cm問の撚数に換算した。

皿実験結果および考察

考察に必要な数値を表示すれば次の通りである。

i)繊維および糸の大きさ

   第2表  繊維および糸の大きき

布の番手

デニール  (㎝)直 径

有効繊維長  (㎝)

デニール

直 径 (cm)

60  1.5 0.00108  5.45

 162

0.0122

1緯

 1.2 0,001055  5.28

159.5 0.012

80

 1.2 0.oo1P55

5.65

125,5 0,0106

1緯

 1.2 0.001055  5。6

118.8 0.OlO4

100  1 0.000956  5。55

102.6 0.0096

 1.1 0.001002  5、5

94.5

0.0092

ii)毛細管群の平均半径(τ)

       %

  τ=施(D2/n−d2)

 D:糸の直径 d:繊維の直径 n:糸の構成繊維数

(4)

112

第3表

井 上   栄

毛細管群の半径

60

80

100

0.0005D5 0.0004925

0.000454

0.000467 0.0004%

0.000456

経+緯

0.000972 0.000966 0.000890

τの比

162

161

ユ48

τの比

(54115)

 54

(52955)

 55

(59458)

 59

iii)加撚糸の water transport constant(k8)

   k80=k8(1十〇.87DTεσ)2    k8・=k80/(1十〇.87DTω)2

  k80:垂直毛細管のwater transport constant

  Tω:撚数

    第4表   加撚糸のwatert「ansPo「tconstant

 DT価o

(1十〇.87DT包σ)2

 K3

 K8の比

60

0.09ユ5 1.165 0.858 86

0.0768 1.158

0.8ワ9

88

80

0。0901 1.工65

0.860 86

0.0728 1.151 0.884 88

100

0.0844 1.152 0.868 87

0.0756 1.152 0.885 88

iv)cover factor

  cover factor K=K1十:K2−KIK2    K1=D雪/P1    1/n,=Pl

   n:糸密度/cm D:糸の直径    1,2はそれぞれたて,よこを表わす          第5表   coverfactor

60

0.6ワ588 0.67

80

0.7001 0.7

100

0。720942 0.72

v)撚角度(5)

      16d翰

  撚角度θ=57・3πDt(1一πLD2)

(5)

布の吸水性について(第1報)

D:糸の直径(cm)

d:繊維の直径(cm)

t:1cm間の撚数 L:繊維長(cm)

      第6表 撚 角 度 と 撚

115

撚角度

撚  数

60 14.6

7.5

ユ1.2 6.4

80

14.08 8.5

11.15

7

100 12.87

8.8

10.6ワ

8

vi)浸透速度

測定値平均およびその%乗値を表示すれば第7表の通りである。

       第7表  浸透速度および浸透速度恒数の比

浸透速度  t(秒)

 t%

  %v/t Kの比

60

 5.5  6

4.255  4

80

5

11

.2.52

2

100

 8.8 26 0.981  1

以上の結果から考察すれば次の通りである。

1)浸透速度に関する関係式には次のようなものがみられる。

     γcosθA㌧rθt

   S2二=       =k8t……… (a) (1)

       2η      rγCOSθ

   V=         ………(b)(6)

      4τx

   12一(考・c響)rt ………(c)(4)

     S:wick−up距離

     1:t時間の液面の移動する距離      V:浸透速度

     γ:液体の表面張力      r:毛細管半径      θ:接触角      η:液体の粘度

(6)

114 井  上

     k8:Capi11ary water transport constant       t:時間

      x:距離

 しかし,何れもモヂル毛細管の場合の輸水を示すもので,織物のように複雑な因子をもつも のにそのまま適用するには問題がある。さらに,(a)を示したHo11iesは,織物のwick−

upについては,S2=k、(t−t8)を与え,吸水のおくれt8をsurface wetting timeと名付 けてdrop absorptionと相関性のあることを指摘しているが,垂直方向と水平方向の吸水に は,根本的に表面状態の影響の差があることが考えられるので,両方法の差異については次の 報告にゆずることにする。

 さて,(c)式を織布の液滴消失時間について適用したものに次のものがある(4)。

    V3Kt%    V:吸収液量       K;ko・k

       恥一書・(告)㌦・π・艶

      %         k一(一γ讐sθ)

    すなわち

      K=V/t%………(d)

 浸透速度恒数K,すなわち浸透度は液滴消:失時間tの渥乗に反比例することを示し,これだ けでも実冊的に比較するだけには差支えないが,筆者は織物の機構との関係を究明するため,

Kすなわちk。・kの検討を試みた。

2)まず・kにおいて液の傾(考)につレ・ては・一定醸の蒸鰍を・温・醸を標準状態

にした実験室で使うことによって一定とする。接触角COSθは,織物を構成する物質すなわち 繊維材料自身の接触角と,表面粗さおよび集合形態などの物理的条件を含む接触角であるが,

繊維材料は一定にしてあるので,後の表面状態の接触角になる。

 3)つぎに,k・はn・とrに比例する量であるが,n・は毛紬管の数で,糸の量に関係するも のと考えられるので,糸の太さや密度の因子を持っcover factor(c.f)をとってみた。

 r,すなわち毛細管半径の%乗の比は,第3表の如く54:53:39で,それにc。fを一応そ のまま乗ずると,36:37:28となり,極く概数をとると9:9:7となる。

 4)一方表7に示すように,Kの比は4:2:1となっている。この式が適用できるものと すれば,問題はkの因子の中のcosθ%にしぼられることになる。ところが,接触角θにっい てはさきに述べたように表面状態の影響が大きいのであるが,まだ糸や組織との関係にっいて の明確な解析が行われていない。しかもこれは相当困難であることが予想される。

 5)撚については,(a)式S2;k8tにおいて,k8は糸直径と撚をfactorとしたもので

(7)

布の吸水性にっいて(第1報) 115 ある。表・4に示すように,3試料間にほとんど差がないが,わずかに100番経が大きくなって いる。tを一定とすれば,S2すなわちwick−up距離はわずかではあるが細番手の方が大き いことになる。これは,複雑な織物内部の微細構造に毛細管内の浸透理論をそのままあてはめ

ることは困難であるにしても,その影響の一部であることは否めないであろう。

 しかしこのk、は(d)式には適用できない。すなわち,k,は糸の撚数に反比例していて 良いようであるが,同時に糸の直径Dにも反比例している。しかるに,浸透距離とちがい,消 失時間ではむしろ糸の量に比例する。すなわち,(d)式においてDを大きくし,糸の量を大 にすればkoが大になり,従ってKが大になることは明かである。これは,さらしとガーゼに おいて,6秒:9秒と差がでていることでもわかる。

 さらに普通の織物には,糸が最もすぐれた物理的性質を示す撚数,すなわち最適撚数が与え てある。いま,撚数と水の浸透勾配の表(7)によれば,撚が強すぎても反対に弱すぎても浸透 速度が劣ることが示されているので,撚数を最適撚数よりひどく少くすることは,使用上不利 なばかりでなく,浸透に対しても有利ではない。また撚角度であるが,これは繊維や糸の大き さをとり入れた式であるので一応算出したが,結局撚数に大体対応する。しかも撚角度と糸の 繊維密度との関係を確立した上でないと物理量としてとりあげるわけにはゆかないので,その 方の実験をフィラメγ,ト糸で行う必要がある。

 以上を要約すれば,水の浸透速度をみる場合,実際の使用の状態に近い液滴消失時間法にお いて,浸透速度に影響を与える因子として,糸の量と,織物の表面状態により異る液滴の接触 角があげられ,後者の影響が大きいと考えられる。しかしこの接触角を規制する因子にっいて は,糸の太さ,撚,密度,組織,けば等が考えられるが,それらの数的関係については今後の 研究にまたねばならない。

 rDrop−Absorption Test」を,同種類の繊維の糸の異る,同組織の織物3種にっいて行 い,浸透速度に影響を与える因子について検討した。

・)K−V/t%K一㎞・k㎞一書・(麦)%・恥π許

k一 γ讐s塗)%において・恥は毛系田管の大きさとその数砒例する量であるカ;,数をC・ver factorにおきかえた場合,糸の量に比例する量と考えられるk・の比は9:9:7となる。

     γ      脆

 2) kは一を一定としたので,cosθ に比例する量となり,接触角θは繊維を同一にし      η

たので,織物の表面状態が原因する接触角の差にしぼられる。しかしKの比が412:1とな るので,その影響が大きいことになる。

 3) 表面状態の差異が原因する接触角の因子として,糸の太さ,撚,密度等が考えられ

る。

(8)

116 井  上

本実験を行うにあたり御指導いただいた,工業技術院識維工業試験所金綱技官に感謝いたし

ます。

参  考  文  献

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

平山順之:繊維学会誌 19,769(1965)

JIS:L lOO5

藤野清久,広田輝次:繊維機械学会誌 5,52(1952)

近藤一夫,渥美正輝,金綱久明:繊維工業試験所彙報 24,174(1952)

我妻直夫:繊維の物性と紡績理論,工業技術院繊維工業試験所論文刊行会,横浜(昭和55年)

    P170

桜田一郎,谷口政勝:繊維の科学,三共出版株式会社,東京(昭和56年)Pユ70 繊維学会編:化繊便覧,丸善株式会社,東京(昭和58年)P155

参照

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