長崎大学教育学部自然科学研究報告 第30号 123‑132 (1979)
半導体圧力変換器による魚類の動作記録(I)
大渡 敦
(昭和53年10月31日受理)
The Record of the Fish Action
by the Semiconductor Pressure Transducer (I) Atsushi OWATARI
Technological Laboratary, Faculty of Education, Nagasaki University, Nagasaki
This semiconductor pressure transducer is used to make a record of the action of the fish caudal fin, when it is given an absorptive stimulation with siphon.
The apparatus, which uses the semiconductor miniature type pressure transducer utili‑
zing the Pieso resistance effect, detects the pressure change of the water, and amplifies to record it.
Its performance is as follows ; frequency characteristic is from D. C. to 15KHz, sensibility is 25μ bar/cm, total frequency characteristic is from D. C. to 10Hz, and the diameter of the pressure receptor is 5mm. Therefore it is very useful in the water.
This recorded wave shows that the action wave of the fish caudal fin (kick wave) is under 0.3Hz while the attacked fish escapes desperately.
1.まえがき
水中の音響については,すでに多くの報告1〜5)があり,その多くは,音電変換に水中マイクロ ホンを使用し,それらのマイクロホンの周波数特性は30Hz以下で,応答が急に減衰する欠点があ るため30Hz以下での報告は見られない。また水中では,光の透過度が大きく変化するのに対し, 音響の伝送特性は空気中より安定で優れている。従って水中動物が音に敏感で,情報の媒介に, 音響の広帯域まで感じるように生理的機能が発達したものと思う。また,発生機能をもたない魚 体でも,成群行動下では騒音が生じたり,えさに群がる魚群の補食音が聴かれるなどがある。そ の発音源は個体か,または,個体間からである。その個体の行動を音響的に解明する必要があ
り,それも未開の超低周波数からの,動作を計測記録して,資料を得ることが重要であろう。こ れらの目的に最も適合する半導体圧力変換器を利用した装器について,その特性と,魚の泳ぎの 測定結果を報告する。
*昭和17年度日本水産学会,春季大会(於日本大学晟獣医学部)にて講演(1972. 4. 3)
**長崎大学教育学部工業技術教室
124 、ノく渡 敦
2.計測装置と実験方法
写真1は半導体小型圧力変換器6)(PMS−5)を示す。 これの圧力を検出する原理は,半導体結 晶のヒエゾ抵抗効果(Piezo resistance effect)を利用したもので,この変換器の特長は,
鰻磯嚇鱒繍灘.、.
欝難磁一藤,・ 撫.
臨.羅羅譲雛灘滋灘綾慧謝 繕
写真 1・半導体圧力変換器、変成器と感圧部
1。小形水密で取付けが容易である、,
2.高出力である。
3.固有振動数が高い.
4.過渡現象に対し追従性が良い。
5.変換器は検出に際Lて流体の容積変化が少なくてすむ.
6.耐久寿命がすぐれている.
などであって,水中マイク・ホンとして最適である。
A B C
麹嘗繍壽 藩鋒醤一警藪縣蟻 姦縫
…i..、 シ櫻辮麟iil『
.輔懸妻:
、繊繊
㈱繍鑛, 鷺、, 購難薫$ ∈
鰐∞∞㎜ 悼 鱒 } 婁i藩蕪…灘・
繋騒
『繊i警i.
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騰 ^姑:
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i婁欝羅難讐
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、 』 胃吊 P、 ■へ 、
Y、_ .靴瀬ビr
韓蟹 {灘装響 簸繕篤饗灘蟄鋒鑓鱒 濯難藩饗謹蜂登諺褻誠齢
懸難繍㈹嚇鱒騰
無 鵬 緯 繕 謝 獲 麟総、懸 麟 襯i磯 整 盤 簿 弊 麟
一闘糠
第1図 半導体圧力変換記録装置グ)プロソク図、感圧部、直流増幅器、記録器
卜導体圧力変換器による,照類び)動作記録 125
第1図は本計測装置のブ・ック図を示す。
A)検出部 この回路はハーフブリッジ(halfbridge)方式で,一一対の単結晶半導体で構成さ れる。その一つはダミー・一ド(dummy load)として用いブリッジの一辺とする。 これは圧力 変化には不感にし,温度変化に対し共通に感受するよう近接して配設し,半導体が温度変化に対
し不安定な弱点を補償している。外部には1k9×2の比例辺抵抗と1009の平衡用可変抵抗器で抵 抗型ブリッジを構成するから,このブリッジの周波数特性は優れている。PMS−5,1Hと はSemiconductorのMiniature typeでPressure transducerとして使う。 その感圧面が 5φmm,定格圧力が!kg/cm2で,Hはhalf bridge方式の商品名であり,固有振動数15KHzの 豊田工機製品を使用した。
B)直流増幅器(D.C Amplifier)6L2−Pは利得5/10/20/50/100/200/500倍,周波数特性0
〜10KHzの三栄測器KK製品を使用した。
C)記録器 2ベンレコーダVP−652Aで,ベーハ速度2/6/18cm/M,入力電圧10/20/50/100/
200/500mV,入力信号範囲DC〜0.3Hz(125mm),の松下通信KK製品を使用した。
2.1感度 この計測装置の総合感度特性は感圧面の水圧バール(bar)と記録のふれ(cm)
より,水柱1cmの水圧7)は,
標準気圧 1atm=760mHg=1013mbar 水柱13.6×76=1033.6cm
水柱(cm) 1013/1033=0。98二980μbar/cm
D.C Ampの各利得と記録器の入力電圧感度をハラメータとして,水柱(cm)の変化を横軸に とって,記録のふれ(cm)を縦軸に示した両者の関係を第2.3図で示す。
舗
篤
天○
褒
麟・
翫…
、鰹 〆
〆 /
ノ ダ 憂 〆
㍊ 〆
/ ど メノ 〆 鰹 ノ ≠ノ /
鐸ψ〆 綜 〆
馨 〆 ≧ / ξ
繁
垂
第2図水深〜記録の感度曲線〔μbar/cm〕
凄
寒魯
瀟
よ癒
塚
輩 寓
が 鱒伽 譲 灘鰍蝋嚴
P鰍 P、
、髄難蓑
灘難鱗霧
…
響麟i懇
第3図 水深〜記録の感度曲線〔μbar/cm〕
2。2水槽
1)アクリ板の水槽20(D)×27(H)×35(W)cm3の中央17.5cm,底面よ1)5cm Lの,kllに5φmm
126 大 渡 敦
の圧力検出孔をうがって,PMS−5を装着する。約20cm注水した後,水槽の長径方向の一端を約 1cm持上げて,もとに復すると,水面は長径方向に反復する波が起こる。その波動記録を第4図 に示す,この記録より水槽の波動特性は,
灘
鱒
繍
萎
灘
第4図
、蕪鎌繍一一・一・一拶 一 一一・照 曽 実験水槽20(D)x22(H)×35(W)の波動記録
a)水槽の水面を発泡スチ・一ル板の押しふたで密閉し,水面の波動を抑圧すると,その振動 数f;0.5Hz,減衰率8)λ=0.85となる。
b)次に押しふたを取り払って水面を開放した,自由振動の状態では,固有振動数f=1.4Hz,
減衰率λ二〇.025である。
II)尾さ体長(fork length.FL)15cm以上の固体についての実験水槽は,第5図に示す構造
(長さ.単位・・cm)
250 54
V
} 1 γv /
25
160 ! ←22→
d:圧力検出孔, n ネット, v ビニールテーフ 第5図実験水槽(II)
とし,5mm合板を組み合わせて,ビニールシートを内張りして水槽とする。中央のdは圧力検 出孔で,nは魚体をdの検知範囲内に遊泳さすための制IL網を示し,水槽の⊥二部周囲には傾斜を 付け,特に長径両婿,1の水面には薄いビニールテーフvを多く浸し,水面の進行波を吸収し抑制す
』卜導体圧力変換器による魚類の動作記録 127
る効果をねらった。
魚の泳ぎには二つのハターンが観測される。
a)尾びれ(caudaHin)を左右対称に振り推進する。例えば池や緩やかな流れを逆のぼるとき に見られる,定常状態の泳法である。
b)天敵から逃避するとぎや,えを捕獲するときの泳ぎがあり,これは外部刺激に対し強大な 瞬発力を発する異常状態の泳法である。今回の実験は装置の構造上,後者の泳法について計測記 録を行って貴重な資料を得た。
外部刺激を与える方法としては,注水・排水用のビニールチューブ3φmmで,サイフォン式排 水の吸水口を尾びれに近接すると,ひれは吸着されて的確に反応を示す。逆に注水の場合は的確 な反応を示さない,のみならず注水圧が直接,変換器により検出し記録されるので都合が悪い。
以上の基礎測定より,水槽a)で用いた,押しふたの抑圧効果は,魚の記録波形に大きな影響 を与えないので使用しないこととした。
撚、
毒 穀 盗紺焦翻罵禦
雛 , 響
艦欝一饗…照一・
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繋翻.、
紘 孕
とリサヤまイみぴ き ヤ ずのへ 疑、 l i
寮零無_灘黙
齢
鑑露堀雌,1、
第6図 金魚(EL・9cm)尾びれの動きの記録
謬撤無搭 無鍵
第6図は金魚(Cα耀∬ガ螂α雄α彦π5。FL9cm)の尾びれの動作記録波形を示す。 記録上のふれ
(kick)は十・一の二相性で,波形の緩慢な変化が金魚の生態を象微しており,基線も動揺して
いる。
膿こ 韮
撫i
ノダぎが ゆゑ
! 麹 、1、
涯 霧
齢舜瀬爺ぎ
第7図
li
ll
麟烈. ・1襲 賦 写 懇無逐蕩縄喰
響
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,蟹蟻戴 臓 簸
1 霊
i… 擁 鼠聡
i雛蟹賠㌦熟
「
潔即伽饗愛
嘩鱒
フナ(FL・20cm)の口もとでの吸水,吐水の記録
鼠隷 呼〉
12δ 人 渡 敦
第7図は異常状態でのフナ(Cαrα55彪5α躍α∫zご5.FL。20cm)で,口もとの水圧記録を示す、、
基線より上方負圧のふれは,吸水の減圧状態を示し,4〜6回毎に強く吐水する加圧の記録は基 線の下方に示される。 これは一般の動物が重症時におこす呼吸症状に共通しており,このフナは 上口びるの先端を深く欠傷していて,7日後に死滅した。尾びれの動きは強力で,そのキックの 周期T secは一定しており,記録波形はコイ(Cツρriπμ5c併Pガo)に相似な二相性である。
第8・9図は,同じコイ(FL.27cm)の尾びれの動作記録波形で,このキックの波形は十・
一・ 十と三相性になっている。
妻l l l鼎,、,,
蝋鱗緯,辮纏㍑,1、無
雛理
》
}
ll
赫灘騨鱒
灘瀞傭鍵
鯉鋸撫轡㎜藤撫・
第8図
摯
コイ(FL・20cm)尾びれの動きの記録
黙難 轍
灘鍵撫群
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▽∵.
『
∫ i
l、 聴岨
第9図 コイ(FL・20cm)尾びれの動きの記録
彩導体圧力変換器による魚類の動作記録 129 第10図はコイ(FL.27cm)の胸びれ(Pectoral fin)の動作記録で,波形は2〜3Hzのパルス 振動である、
第11図はコイ(FL.27cm)の尾びれの動作記録で,キックの波形は二相性である。
藝競欝響ぐ 露
鮭雛
灘 癬
l i
第10図 コイ(FL・27cm)胸びれの動きの記録
欝・
要
諺 灘鰐齢i 豪
裁
1織
麟鞭雪糖麟
羅 鍵 灘鱒礁 擁 ll ll il 蓼
離欝翻
暫
欝
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第11図 コイ(FL・27cm)尾びれの動きの記録
3.結果と考察
各魚類の個体から発生した振動の記録は,その振動(μbar)よ1),音の強さ(dB)9)は 2・1・91・μ。曽「・。緬dB・
熱
多 … … 多
溺
霧、
韻鰻
130 大渡 敦
義鱒1
、潔
轟
幾 壽姦搬i1
鯵 、 慧
癖 お
饗 ・『
P賜 PP P『
警
『羅欝賑鍛韓腿賂鵜耀糠萎
翻・ ・ 欝 灘 難 養
麹 稔
舞
癖
欝灘 籍
蕊 難
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き轍縫縫糠、露噸
1・鰯隷
、翻懸墨
離蝋鎌嫉、
灘 =縫
辮 鑛難 灘・
灘
1灘
雛響
第12図
箋 欝 鱗 籔 ♂ P1. 墾 器 麟鋤癖繊繊齢蝦繍萎、
各ひれより発生するパルスの周期対圧力と回数
11騰繋麟鍵、
麟
i搬灘 警鱒i蓼騨
饒
譲鐡・一㌔・顯欝 麟織
馨藪磁縦 搬霧
^.警
懸擁、灘麟き
、難、奨 摩
講鞭灘馨麟、
…懸、叢灘灘』
灘灘 翠・
織轍難馨鑛
・・ 纏鎌
雛灘麟・、難鑑
1、滋灘灘鍮蝋撒
蓋. 、.盤.、、 ,_
薄 諜響 欝 徽
第13図 各ひれより発生する周波数対圧力総和
半導体圧力変換器による魚類の動作記録 131
で表し,式中0・2は圧力変換器の表面積(cm2)で,0.0002は音圧の最低可聴値(μbar)である。
この音の強さを縦軸に,各魚種,体長からの波形を,』二相性・三相性と減衰振動に類別し,その 周期Tsecを横軸にとって,音の強さ対周期丁を第12図に示した。
第13図は横軸に周期T secの逆数,f=1/THzの周波数に対する,音の強さdBの集計を縦 軸に表した。
第12図で160dB以下に見られる,普通の健康な魚類からは,個体差(魚種,体長)による,音 の強さ(泳ぎの強さ)の差は認められない。それぞれ胸びれの動きの音の強さは118/150dB,周 期は0.3〜3sec,周波数にして0.3〜3Hzに分布しておる。尾びれの動きの音の強さは130〜158 dB,周期は3.3〜18sec,周波数にして0.05〜0.3Hzの間に分布している。この実測には尾びれ をサイフォンで吸着する刺激,すなわち無条件刺激10)を与えた。その反応は,外敵からの攻撃に 対する逃避行動に該当するであろう。
一般に自然の水域で捕食の対称となる魚は,群の中で体力が劣り,逃げ足が遅くて小さいのが 最も危険率が大きい,いわゆる弱肉強食の社会である。 しかし,魚体の表面積が小さいほうが,
水力学的に観ると,摩擦抵抗が小さく,したがって加速に有利であり,逃げ出しが敏速である,
以上の事情を総合し,第12,13図で音の強さが個体差に関係なく,分布して現われるのは,魚類 が外敵の攻撃から逃避する行動は,平等に自己防衛が為されるよう,環境に応じ緩急よろしく,
力を発揮する為と思われる。それには反射的に作用する神経系の制御能力に余裕のあるときであ って,健康体の行動を示すものであろう。
第12図の×印で示す,負傷しているフナ(FL20cm)の尾びれの動ぎは,キック11回中,音の 強さ164〜180dBが8回,その周期は10secに集中しており,周波数は0.1Hzである。また180dB の5,8,12secの記録も,前記の健康な魚類の動きに比して強力であり,その行動のために消費 するエネルギーは大きく,そのためか衰弱が早かった。第12図の×印で明示されるように,丁字 形の線上に集中し,音の強さを示す定形的なパターンとなっている。これは尾びれに,運動神経 系からの抑制作用が有効適切に働かないために,動物に特有な,ゆとりのある動作ができない,
すなわち症状の悪化した魚の記録が注目されるQ
4.ま と め
魚が外部からの刺激に対応して起こす行動がキック泳法であって,その力の発しかたは,魚種 や体長による差は認められないが,健全か否かによる力の出し方に差のあることが実測により判 った。このキック泳法は,加速が大きく,エネルギーの消費が合理的であることを,水力学的,
および生理学的な視点からとらえ,その詳細については続報において述べることにする。
謝辞 この研究は,昭和45年度・総合研究(A),課題番号2009・代表者・東大海洋研・黒木敏 郎教授の指導の下で,実験を遂行するに当り,同海洋研究所,水江一弘教授のご助言とご指導を 賜り,また,長大水産学部竹村陽助教授のご協力をいただき深甚の謝意を表する。
132 大渡 敦
参 考 文献
1)漆原,大坪,江東:海洋音響特性試験(1),防衛庁技報,4,28,p.73(昭和40−4).
2)A.TAKEMuA:Stu(1ies on the Underwater Sound−III.On the mechanism of sound production and the underwater sounds produced by L加加r麗5孟吻oηπ5,Marine Biology,9,2,1971.5。
3)MlzuE K,,M。NIsHIwAKland A.TAKEMuRA:The UnderwaterSound ofGanges RiverDolph三n
(1ゼα∫α痂臨gαηg8置加),Sci。Rep。Whales Res.Inst.,23,123−128,1971.9.
4)TAKEMuRA,A.3The Distribution of Biological Underwater Noise at the Coatal Waters of Japan,
Bul1.Jap.Soc.Sci.Fish.,38,3,201−210,1972.
5)水江:海の哺乳類の水中鳴音,遺伝,2411,1972.11.
6)近藤,加藤=半導体小型圧力変換器について,トヨタ技報,7,2,1966.9.
7)機械工学便覧,8−41.2.2.
8)帆足:電気計測,オーム社.p.82−83.
9)西巻=電気音響振動学,コロナ社,p.8−11,
10)川本:魚類生理,恒星社,p.408−420,1977.