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木村広(昭和62年10月31日受理)

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(1)

バットの違いによる打球の飛びの研究

‑木製バットと金属製バットの比較‑

木村広

(昭和62年10月31日受理)

A study of ball velocity hitted by wooden bat and metal bat Hiroshi KIMURA

Abstract

It's been reported that the post‑impact velocity of ball hit by metal bat higher than that hit by wooden bat. The post‑impact velocity of the ball is determined by the coefficient of restitu‑

tion and pre‑impact momentum of the bat.

In this study, the coefficient of restitution of bat and ball and pre‑impact momentum of the bat are measured. The results are foollows,

1) Coefficient of restitution of metal bat are slightly higher than that of wooden bat. And the range which the coefficient of restitution is relatively high is more wide in metal bat.

2) The pre‑impact velocity of wooden bat is greater than that of metal bat. But momentum is slightly lesser.

3) The post‑impact velocity of the ball was calculated using the laboratory data. The re‑

suits are 48.3m/sec. in metal bat and 46.9m/sec. in wooden bat. These values are greater than Bryant's field test.

1.緒言と目的

野球は国民的なスポーツである。シーズンになると,スポーツ紙にプロ野球の話題が見られ ない日はなく早朝の河川敷は草野球チームであふれる'84年のロサンゼルスオリンピックか

らは公開種目ともなり,人気はますます高まっている。

そんな人気に支えられてか,野球用具にはさまざまな改良が加えられ続けている。水はがよ く,障害の発生しずらい人工芝や,通気性の優れたユニフォーム,さらには,変化球まで投げ られるピッチングマシンなどである。

バットの改良もめざましい。最近のバットのなかには,規定に合格したものでありながら, 明らかに「飛びすぎる」と感じるものがあったりする。

もともと,耐久性に優れるという理由で採用に踏みきった(高校野球)金属製バットが真二 つに折れる事件が頻発するようになって,金属製バットの蝶定の見直しが始まった。同時に, なぜ,最近の金属製バットは打球を遠くへ飛ばせるか,また,折れやすいのか,研究がなされた。

吉福は最近の(当時)金属製バットの肉厚が薄くなっていることに着目したこ)そこで,バッ トとボールをバネと見なしてそれらの衝突をシュミレートし, 「肉厚の薄い金属製バットの方

(2)

が反発性が高い」という結果を出している。しかし,この説はにわかには信じがたい。非弾性 的であるバットとボール衝突を弾性的にシュミレートしている点,論拠としている金属製バッ トの肉厚の薄い部分は打球部ではなく重心付近のテーパー部であり,シュミレーションのスコー プ外である点などからである。

さらに,実際にバットの反発性を測定した例は,過去にはない。反発性の測定をせずに反発 性のシュミレートをするのは無謀でもあろう。

そこで,本研究では,木製バットと金属製バットの反発係数を実際に測定し,その差を比較 してみた。さらに,それらのバットを同じようにスイングしたとき,バットの重心に関する並 進速度と回転速度がどれくらい変わるものかを測定した。それらの結果から,使用するバット によって,また,同一のバットでも打球位置によって,打球の飛びがどう変わるかを調査した。

2.方法

バットとボールが同一平面上を運動し,ポールはバットの長軸に垂直に衝突すると仮定すれ ば,以下の関係が成り立っ。

m(v‑vo)‑‑P M(u‑uo)‑P+T I(w‑wo)‑ ‑Ph+TL

v‑u+hw

e=‑vo‑uo+hwo

これは撃力方程式として知られている。

ここで,Mはバットの質量,uo,uは衝突前後のバットの重心の並進速度,mはボールの質 量サvo,vは衝突前後のボールの並進速度,Iはバットの重心に関する慣性モーメントwo, Wは衝突前後のバットの重心に関する回転角速度,Pは衝突時にボールからバットに加わる力 積,Tはバットを持っ手からバットに加わる力積,hはバットの重心からボールが衝突した位 置までの距離,Lはグリップの中心からバットの重心までの距離である。また,eは反発係数 である。

打球に対するTの影響については,テニスラケットについてBakerElliottHatze

‑,.5)

Missavage^等が研究して,"グリップの強さは,スイートスポットで打撃を行うときは全く 影響がなく,スイートスポットを外した打撃については,若干効果がある。"と報告している。

本研究では,打撃中のグリップの強さTはゼロ,と仮定する。

なお,本研究を通じて,グリップの中心とは,グリップエンドから10cmの距離にある位置 とした。

(a)反発性を求める実験

同じ質量,慣性モーメントのバットを同じ速度でスイングできるのなら,反発性の高いバッ トを用いたほうが,打球は遠くまで飛ぶ。反発係数は,普通,反発係数で表される。反発係 数は,2つの物体の衝突前後の相対速度の比である。実際の打撃場面から,バットとボールの 反発係数を測定するのは難しい。ボールの跳ね返る方向はまちまちであるし,バットは人間の 手で保持されているからその影響も無視できない,などからである。そこで,吊り下げられて 静止しているバットにピッチングマシンから発射したポールを衝突させる実験を行い,前述し た撃力方程式を利用して,反発係数を求めた。そうすることで,uo‑w0‑0,T‑Oとできる。

(3)

ボールの衝突する位置をバットのグリップ付近から先端まで変化させて,衝突位置別の反発係 数を計算してみた。

撃力方程式をeについて解き直すと, (m+M)I+mMh2

e= mMIvo P‑1

となる。この式を使って,反発係数eを算出する。そのためにはm, M, I, h, vo, vを測 定すればよい。

伸縮性の糸で長軸が垂直になるように吊るしたバットに,ピッチングマシンから発射したボー ルをぶつけ,ポールの入射速度vo,反射速度V,および,衝突位置hを以下の方法で測定した。

ピッチングマシンのボールの発射口の近くに,レーザー光線を水平に通しておく。

Cj s GJ Q )U

⊂ヱ

〟 . ‥ g a g e

T

」)

(u

‑」

JN ta r t s t o p u t a r t s to p c o u rーL e r、( ー) C 0 U n Le 「( 1.)

u o r

T

c t io n g e n e r a t

図1.実験構成図

バットには,衝突による振動を感知できるようにゲージを貼る。

ピッチングマシン寄りに,投球部を半径7.5cmの円形に切り抜いたボードをたてる。この ボードにもゲージを貼り,振動を感知できるようにしておく。バットに衝突して跳ね返ったボー ルは,このボードにぶつかるわけである。ボールの跳ね返りはかなりばらつくので,ボード上 に当たった位置が穴の中心から半径15cm以内に収まったものだけをデータとして採用する。

(なかには,穴を通り抜けるものもあり,これはボードにさわらないため,データにはならない。) ボールがレーザーをよこぎってからバットに振動の起こるまでの時間と,その瞬間からボー ドに振動の発生するまでの時間を測定し,それらの値で,レーザーとバットの問の距離,およ び,バットからボードまでの距離を割り,入射速度vo,反射速度Vとした。

hは,衝突の様子を真横から取ったビデオ画面をマイコンのディスプレイにスーパーインポー ズし,ボールの軌跡およびバットの像をデジタイズして測定した。

m, Mは重量計, Iは2本吊り法を用いて測定した。なお,実験に用いたバットは,ある プロ野球選手が使用しているものと同じ型の木製バット1本(R社製)と,高校野球用試合専 用金属製バット(R社製)で,共に硬式用バットである。金属製バットは,昭和60年当時の いわゆる"飛ぶ"金属製バットである。 (表1)ボールは大学硬式野球公式戦用のニューボール を用いた。

(4)

表1.実験に用いたバット

質量 長 さ 慣 性 モ ー メ ン ト 重 心 の 位 置

〔k g 〕 m 〕 k g m 2〕 〔m 〕 木 製 バ ッ ト 0 .854 0.860 0 .0434 0 .475 金 属 性 バ ッ ト

(試 合 専 用 ) 金 属 性 バ ッ ト

( 旧 式 )

0 .962

0 .913 0.840

0.840

0 .0590

0 .0522

0 .430

0 .425 1)慣性モーメントは重心まわりについてのもの

[実験の精度について]ボールとバットの質量の測定誤差は1g以下であった。バットの 重心まわりの慣性モーメントの測定誤差は5%以下であり,バットのどこにボールがあたった かは5 mm以下の誤差で測定できた。

レーザーからバットまでの距離は, 90±0.1‑cm,バットからボードまでの距離は65±0.1cm であった。ボールの跳ね返りの散らばりを半径15cmまで許したので,バットにボールが衝突

した位置と,跳ね返ったボールがあたったボード上の位置との琵巨離は,最大で66.7cmであった。

反発係数を計算するときに見込まれる相対誤差の上限は,

で表せる。計算で得られた反発係数の測定誤差は13%以下と見積ることができた。

ピッチングマシンから発射するボールの速度は,約20m/sec.となるようにした(この速度 は,毎回細かく測定される)。これは現実のバットとボールの衝突速度の70m/sec.には遠く 及ばない。しかし,安全上の理由から今回の実験ではこれが限界であった。一般に,衝突速度 が大きくなると反発係数が大きくなると反発係数は低下するため,ピッチャーとバッターが対 決するとき,ボールとバットの反発係数は今回のデータよりも小さくなっているはずである。

(b)バットの運動量を求める実験

バットの反発性が同じであっても,質量,慣性モーメントが違っていれば,スイングに影響 が出て,バットスピード,つまり,バットの重心に関する並進速度と回転速度が変わってくる。

これは打球に影響する。

本研究では,ボールを正確に打つ技術には立ち入らない。最大努力でスイングをしていると き,たまたま,バットにボールがベストな衝突をするものとして,ある被験者が,どんなバッ

トを使用したとき,どれほどの打球を飛ばす可能性,あるいは潜在力があるかを調査した。

被験者は3名で, T大学の野球部員S.I,バドミントン部員Y.U,および,柔道部員H. K である。

実験に用いたのは,被験者らが振りやすいと感じた木製バット,旧式の金属製バット,試合 専用金属製バットの3本である。木製バットと試合専用金属製バットは,反発性を求める実験 でも用いたものである。旧式の金属製バットとは, "飛びすぎる'',あるいは, "折れ易い"と

いう問題が発生する(昭和59年)以前の金属製バットである(表1参照)。

(5)

被験者にそれぞれのバットでティーバッティングを全力で行わせ,バットの運動をティーの 鉛直上方から12000rpmのマルチストロボ写真に取った。

写真に写ったバットの像をデジタイズして,ティーにのせたボールに衝突する直前のバット の重心の並進速度,および,重心を中心とする回転角速度を求めた。

今回の実験では,被験者のスイングがアッパースイングであるか,あるいはダウンスイング であるかの違いについては無視した。

3.結果と考察 (a)反発係数について

各々のバットで, 300回づっ,試技を行ったが,実際にデータとなったものは,木製バット では65個,金属製バットでは40個であった。採用できない試技は,ほとんどが跳ね返りが規 程の半径15cmの円内に収まらなかったものである。さらに投球のコントロールに優れたピッ

チングマシンが望まれる。実験で求められた反発係数を図に示す。横軸は,重心からの距離 である。重心の位置を0.0とし,そこからバットのグリップ方向をマイナス,ヘッド方向をプ ラスとする。便宜上,グリップの中心をグリップエンドから10cmの位置としたときの,撃心 の位置をC. P.で示した。

両方のバットとも反発係数の値は撃心付近を頂点とする山型の分布をしている。

反発係数の最大値は,木製バットでは童心から10.4cmの位置で得られた0.68,金属バット では重心から17.0cmの位置で得られた0.71であった。

反発係数の最大値を得た位置から5mm (衝突位置の測定誤差)以内の位置で得られたデー タの平均を取る。木製バットでは4つ,金属製バットでは2つのデータが,その範囲以内にあっ た。木製バットの最大の反発係数は0.64±3.25%,金属製バットでは0.67±6.50%と推定され る。反発係数の平均値では,金属製バットの方が4.7%大きい。

これによって予想される打球の初速度の増加は3.4%である。

全体的な変化は,木製バットでは急しゅんで,金属製バットでは緩やかなように見える。デー タに最小2乗法を用いて3次曲線をあてはめてみると,

木製バットの測定値は,

e‑ ‑43.48h3‑0.11h2+2.03h+0.48 (r‑0.98)

(6)

と回帰できた。金属製バットでは,

e‑ ‑25.47h3+2.07h2+1.48h+0.45 (r‑0.92)

と回帰できた。かっこ内のrの値は,原データと回帰曲線の相関係数である。求めた反発係数 の回帰曲線を重ねて図4に示す。

HE

o木娘バット

fcKWくットU。JL芋一缶こ・

⊂】

0 ◆

⊂l ◆

曲線の頂点,すなわち,反発係数の最大値 はこの回帰曲線では木製バットの方が高くなっ ている。木製バットでは12.5cmの位置の 0.647,金属製バットでは0.165cmの0.633 が曲線の頂点である。金属製バットにおいて は,原データの平均で求めた値である0.67 より,かなり小さくなった。

この原因として,金属製バットでは頂点付 近のデータの数よりも,周辺部のデータの数 が多いため,回帰式がそちらの低い値に引っ

̲0.1 0.0 0.1 0.2 (in)張られて頂点の位置が下がってしまったこと 図4.木製バットと金属性バットの反発係数の比較 が考えられる。それを補正するために,頂点

付近のデータに重みを付ける方法がある。し かし,データの数や分布に木製バットと金属製バットとの問に差があるので今回は見送った。

回帰曲線で見た反発係数の最大値からの低下率が10%以下である範囲は,木製バットでは 12cm,金属製バットでは15cmであり,金属製バットは,反発性の相対的に高い範囲が広い と言えよう。さらに,反発係数の相対的に高い範臣鋸ま,木製バットではほとんど撃心付近で あり,金属製バットでは比較的バットの先端に近い。

つまり,金属製バットでは,反発係数の高い範囲は広いが,打球感は良くない。逆にいうと, 打球感が悪くても打球が良く飛ぶことがありうる。反対に木製バットでは,反発性が高い範囲

は狭いが,もしその狭い部分でボールを打てるならば打球はよく飛び,かつ,打球感が良い。

しかし,その狭い部分でボールを打てないと打球を飛ばず,打球感も悪いことになる。

(b)バットの運動について 測定の結果を表2に示す。

木 製 バ ッ ト 金 属 製 バ ッ ト

並 進 速 度 回 転 角 速 度 並 進 速 度 回転 角 速 度

〔m ′s e c .〕 〔Ta d ′s e c .〕 〔m ′s e c .〕 〔Ta d ′s e c .〕

S . I 2 2 .8 3 2 .9 2 1 .9 3 2 .0

Y . U 1 9 .0 3 9 .0 16 .4 3 7 .5

H . K 2 0 .3 2 7 .6 1 9 .3 2 7 .0

木製バットを用いたときにバットの重心の並進速度,重心まわりの回転角速度ともに最も大 きくなっており,次いで,試合専用金属製バットを用いたとき,最後に旧式の金属製バットを 用いたときとなった。これは3人の被験者に共通している。

バットの質量や重心に関する慣性モーメントは,木製バット,旧式の金属製バット,試合専

(7)

用金属製バットの順に大きくなっているのに対し,バットの並進速度,回転角速度の順番が旧 式の金属製バットと試合専用金属製バットで逆転していることが注目される。

バットスピードを大きくするには,手首のアンコックをできるだけ遅らせ,インパクトの直 前に集中的に行うのが効果的である。これは角運動量の保存則による。旧式の金属製バットは グリップから重心までの距離が短く,質量も他のバットに比べて中途半端である。 "ヘッドの 重みを感じられない",すなわち,角運動保存則を活かしきれないバットになっているのでは

ないだろうか。グリップに関する慣性モーメントも3本中,最低であった。この点については, さらに研究する余地があるだろう。

次に,被験者S. Iのデータを用いて,運動中のバットにボールが衝突するとき,どの衝突位 置ではどれくらいポールを跳ね返すことができるかを計算した。ただし,衝突位置による反発 係数の違いについては,ここでは無視することにする。

結果を図5に示す。

試合専用金属製バットを用いたときは木製(kgm/seり バットを用いたときよりも並進速度, 3回転7.u 角速度では劣ったものの,どんな位置でボー

ルを打っても,より打球を飛ばせる可能性が6・8 ある。つまり,運動量としては金属製バット の方が大きいといえる。

バットの質量や慣性モーメントが小さすぎ6.4 ると,スイングスピードが大きくても打球は 遠くへは飛ばせない。逆に,質量や慣性モー6・2

メントが大きすぎるとスイングスピードが落 ち,投球に間に合わなくなってしまう。

つまり,打撃に最も適切な質量や慣性モー

口木地バット

・..ti比Luバット

K‑二二:*>..

・D

‑0.1 0.0 0.1 0.2 0.3

図5.木製バットと金属性バットの運動量の比較 メントがバットにはあるわけだが,この被験

者にとっては試合専用金属製バットが最も最適な質量や慣性モーメントに近かったと考えられる。

他の被験者についても同様であった。

反発係数が同じである場合,打球の初速度が5%大きくなるためには,運動量の値は2.5%

大きくなければならない。衝突位置がバットの重心から先端側に24cm以上離れた位置である と,その2.5%の差が生じている。しかし, 24cm以上先端側というのは打球位置としてはか なり打ち損ねに近い。最大値で比較すると, 6.78と6.82で金属製バットの方が大きいが,差 は0.6%に過ぎない。反発係数を0.6として,打球の初速度に見積もると1%である。すなわ ち,バットの運動量の差だけでは,打球の飛びの違いを説明できない。

(C)金属製バットの慣性モーメントについて

同じ反発性のバットを同じスピードでスイングできるならば,質量や重心に関する慣性モー メント大きなバットを用いたほうがよい。しかし,同じようにはスイングできない。スイング スピードに影響するのは,質量とグリップに関する慣性モーメントであると考えられる。同じ 慣性モーメントでも,童心に関するものとグリップに関するものという若干の違いがある。

試合に用いられないマスコットバット(素振り専用のバット)の質量は1.060kg,グリップ

(8)

に関する慣性モーメントは0.277kgm2であるから,普通の人に最も適した値はそれ以下であ ろうと推測できる。

いま,重心に関するモーメントの大きなバットを作るものとする。このとき,質量やグリッ プまわりの慣性モーメントを同時に大きくしてマスコットバットの値に近づけると,スイング スピードが低下して,打球を飛ばせなくなってしまう。そのため,質量とグリップに関する慣 性モーメントは変えずに,重心に関する慣性モーメントだけを大きくしてみる。そうすると同 じようにスイングできるはずだから,大きくなった重心まわりの慣性モーメントの分だけ,前 よりも"飛ぶ"バットが出来上がる。

そのようなバットを作るには,重心付近の質量を両端に移動させることができればよい。

木製バットは外形を変えずにそれを行なうことは不可能である。外形を変えたものとしては, あるノックバットのように重心付近までのバットの外径を特に細めにしたものがある。しかし このバットは構造的に弱く,ピッチャーの投げるボールを打っことには適さない。実際に打っ てみると,たやすく折れてしまう。

金属製バットでは外形を変えずにバットの両端に質量を移動させることができる。重心付近 の肉厚を削り,その分を移動させればよい。しかし,そのように作ったバットは,やはりノッ クバットのように構造的に弱いはずだ。

今回測定した2本の金属製バットは質量が違うので慣性モーメントの絶対的な値を比べるの はやや無理がある。そこで,慣性モーメントの値を質量で割った値を比較してみる。グリップ に関する慣性モーメントと質量の比は2つの金属製バットとも0.242で同じだが,重心に関す

る慣性モーメントと質量の比は0.鴨13と0.0572で試合専用金属製バットの方が7%強高い, 試合専用金属製バットは重心付近の肉厚を削り,削った分を他の場所にくっつけて,重心まわ

りの慣性モーメントを稼いでいると考えられるだろう。

この内厚が薄く構造的に弱い部分には,打撃によって旧式の金属製バットに比べ1.8倍のスト レスが加わっている三)このような理由から試合専用金属製バットは, "折れ易い"と考えられ る。だからこの"折れ易い"金属製バットは童心付近で真二つに割れるのである。木製バット が折れるときは,重心よりもグリップに近い細い部分で折れるのとは際だった違いである。

(d)打球の初速度

被験者S. Iが実験で用いた2本のバットで打撃を行うとき,打球の初速度にどれほどの差 が生じるかを,図6に示す。このとき,バットの反発係数は計算で求めた回帰曲線,スイング

Im/secj 6u

so

10

30

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o

y H柑Esras

・金成娘バット

0.4 0.5 0.6 0.7 (m)

図6.木製バットと金属性バットの打球の初速度の比較

スピードは実験で測定したものとして,イン パクト直前のボールの速度を30m/sec.とし た。グラフの横軸はグリップエンドからポー ルが衝突した位置までの置概に換算してある。

グリップエンドから57‑62cmの位置でポー ルを打つとき,木製バットの方が金属製バッ

トよりも打球を飛ばせ,その範囲外で打つと き,金属製バットの方が飛ばせることになる。

57‑62cmの範囲内でポールを打ったときの 打球の初速度の差は0.5%程度であった。

ただし,金属製バットでは反発係数の回帰

(9)

曲線の頂点は,原データの平均よりかなり小さかった(3.1節)ので,求めた平均値で反発係 数を置き換えると,グリップから60cmの位置で48.3m/sec.となり,木製バットの打球 46.9m/sec.よりも3.0%速くなる。

‑7)Bryantは,大学野球の選手のラインドライブの打球の初速度を測定し,木製バットで 39.64m/sec,金属性バットで昼40.36m/sec.であったことを報告しているO

それぞれ本研究の計算で得られた値よりも小さい値となっている。この差は,本研究でバッ トとポールの反発係数を測定した際のボールとバットの衝突前の相対速度は約20m/sec.であ り,実際の打撃場面での約70m/sec.に及ばなかったことが原因と考えられる。反発係数は一 般に,衝突速度が大きくなると低下するからである。衝突速度の増加に伴い,木製バットや金 属性バットの反発係数がどのような変化をするか,さらに調査が必要である。

4.まとめ

本研究では,木製バットと金属性バットを用いて打撃をするときに,打球の初速度に差につ いて調査した。

反発係数は,最大値では金属性バットの方が4.7%大きかった。.反発係数の相対的に高い位 置も金属性バットの方が広い傾向があったG

スイングをしたときのバットの重心に関する並進速度,回転速度は木製バットの方が大きかっ たが,運動量については金属性バットの方が1%程度大きくなっていた。

打球の初速度を,反発係数とバットの運動量から計算すると,金属性バットの方が3.0%速 い打球を打てる可能性があった。

金属性バットの方が打球を遠くまで飛ばせる打球範囲が広い。

試合専用金属性バットは童心に関する慣性モーメントを大きくして,打球をより飛ばそうと する工夫がみられる。しかし,そのため重心付近の剛性が弱く,試合専用金属性バットは重心 付近で割れるのではないかと思われた。

参考文献

1)吉福康郎,"野球の金属バットの反発係数に関する力学モデル'',日本体育学会第36回大会号,p.395, 1985.

2)Baker,J.A.WandC.A.Putnum,̀̀TennisRacketandBallResponsesDuringImpact UnderClampedandFreestandingConditions',ResearchQuartely,vol.50,No.2,pp.

164‑170,1979.

3)Elliott,B.,"Tennis:theinfluenceofgriptightnessonreactionimpluseandrebound velocity",MedicineandScienceinSportsandExercise,vol.14,No.5,pp.348‑352,1982.

4)Hatze,H.,"Forcesanddurationofimpactandgriptightnessduringthetennisstroke", MedicineandScienceinSports,vol.8,No.2,pp.88‑95,1976.

5)Missavege,R.J.J.A.BakerandC.A.Putnum,"TheoreticalModelingofGripFirmness DuringBall‑RacketImpact',ResearchQuartelyForExerciseandSport,vol.55,No.3, pp.254‑260,1984.

6)木村広,"バットの振動についての一考察",東京体育学研究,vol.12,pp.41‑47,1985.

7)Bryant,F.0.etc,"DynamicandPerformanceCharacteristicsofBaseballbats",Re‑

searchQuartely,vol.48,No.3,pp.505‑509,1977.

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