長崎大学教育学部自然科学研究報告第27号227‑242 (1976)
布のすべり抵抗について
井上栄
Sakae Inoue
227
On the Sliding Resistance of Fabrics
The sliding resistance of fabrics which is one of the important factors making clothes comfortable to wear was measured by means of a strain‑meter.
Experiments were made with 6 kinds of sample broad‑cloth (all‑cotton 4 kinds, polyester‑cotton mixed spun 2 kinds) concerning the resistance of these cloths to 1) tracing‑paper and 2) the samples (with 3 different directions of texture conditions).
The results are as follows:‑
1) In the case of single sliding, the sliding resistance is influenced by the fundamental constituent character of cloths, yams and cloth structure.
2) On the above‑mentioned samples, nap also has some influence. Directions of texture give rise to different resistance.
1.緒言
衣服の着どこちについては,生理的反応も含む複雑な要素を持つもので,まだ客観的解明が なされていない。その要素の一つとして「すべり抵抗」の問題があげられるが,最近検討され 始めたばかりである。 1)
筆者は,ストレインメ‑タ‑による「布すべり抵抗測定装置」を用い,プロ‑ドクロス6種 (純綿4,ポリエステル/綿混紡2)のすべり抵抗を,対トレ‑シングペ‑パー,対試布(布 目方向3条件)について測定し,二,三の知見を得たので報告する。
2.実験
2.1試料:表1のとおりである。
表1試料
228 井 上 栄 表1試 料(つづき)
クリンフ。(%)
タテ糸 13.8
9.5 7.3 8.5 10.1
9.6
ヨコ糸
7.1 8.8 8.5 8.7 5.3 8.8
布中心線に対する糸軸の波の高さ(観)
タテ(hw)
O.178 0.197 0.176 0.168 0.138 0.152
ヨコ(hF)
0.064 0.119 0.067 0.071 0.064 0.085
D(hw十hF)
O.242 0.316 0.243 0.239 0.202 0.237
cover factor
0.68 0.69 0.70 0.71 0.68 0.68
試料は,非イオン系界面活性剤液(濃度0.3%,炭酸ソーダ0.1%溶液,浴比30)を用いて 40℃で30分間処理した後十分に水洗し,自然乾燥,予備乾燥後,亜硝酸ソーダデシケータ中で 調湿したものを用いた。測定は,25±0.5℃,65±2彩RH,風速25c而secに調整された人工気 候室で行なった。
2.2実験方法
・図1は「布すべり抵抗測定装置」の概略図である。
8thωn A肌P
RecOヒdeレ
8・G
δα肌Ple 月「図・vlηθplα船
図1 布すべり測定装置概略図
すべり速度5徊寵/min,荷重19/c〆として,すべり抵抗をストレインゲージ(10009用)で 検出する。同一箇所を3回すべらせた後4回目から測定した。試料の大きさは,幅3.5cη,長
さ8.5㎝を用意し,試料把握後3.5×7c那になるようにした。
すべり対象として可動台上に次の条件を設定した。
2.2.1 トレーシングペーパー
2.2.2 試料布,但し(i)ω/儲 ( )←)/←),(m)e/ω(ω/8との平均)((+)はたて方向,
(一)はよこ方向を表わす)
2.5 織物の諸性状の測定
試料諸元の通例の項目のほかに次の測定をした。(1〉クリンプ(2)織物の形態(布中心線に対す る糸軸の波の高さ)(3)布地表面のケバ
方 法
(1)クリンプ:試布上に,たて糸およびよこ糸に沿って10cηの距離にゲージマークをつけた 後静かに糸をほぐす。これを黒つや紙にはり,糸引張り試験機にかけてルーぺで観察しながら
クリンプが消失するまで引き伸ばしてその距離を測定し次式で求める。 (10回平均値)
クリンフo(%)= 〔(2ノー2)/4〕 ×100
但し 2:ゲージマークの距離
布のすべり抵抗について 229
2 :クリンプ消失時の距離
(2)織物の形態:糸の波状を乱さないように静かにほぐした織糸を万能投影機(100×)で 投影してトレースし,図2のようにして求めた。
『 ヨ,傘
好余 θ
脚
、 h
、
一
Pr
ow 一 齢
D=hw十hF
甑 hw=4/3恥師
hF=4/3Pw レ/匝
晩
Cw一(1w−PF)/PF CF=(1F−Pw)/Pw
図2 織物の形態測定
(3)ケバ:試料を正しく45。に折りたたみ,万能投影機(50×)で投影し,それを直接印画 紙に焼きつけ(BRIGHTNESS CONTROL3/5で5秒間)現像し,写真判定を行なう。なお 50倍に拡大するため被写面積が非常に狭くなるので無作為に10枚ずつ撮影した。
3. 実験結果および考察
3.1 ストレインメーターでの測定結果の標準曲線を図3−1〜3−5に示す。何れも初期抵 抗がみられる。
5.2 布地表面のケバだちの写真
10枚の写真の中から比較的ケバの多いもの1枚,少ないもの1枚をえらび図4−1〜4−6
に示す。 (次頁より)
図にみるように,純綿間では4Cが著しくケバ長が長く,量も多い。ついで6C,8C,10 Cの順に減じていることが観察される。
混紡では,4TCと6TC間に,4Cと6C間ほどの差がみられず6C程度である。またポ リエステル繊維とみられる先端のまるいケバが注目される。
5.5 織物の性状について
純綿試料と対応する混紡試料は,4C→4TC,6C→6TCである。表1のように糸の太さ
(tex表示),糸密度,クリンプは近似している。然し,撚りが混紡のほうが強く,それは布の 厚さ(特に低荷重)および布中心線に対する糸軸の波の高さ(以後波の高さと略す)にあらわ れている。また,4Cと8Cは単糸,双糸の相異で,番手は同じに相当し,糸の太さ,布の厚 さ,波の高さ,糸密度等多くの項目が近似している。ブロードクロスは平織ではあるが,たて よこの糸密度が約2:1と大きく異なるため,たて糸の浮きが,たて方向に楕円に近い形にな っているQ
5.4対トレーシングペーパーについて 3.4.1たて方向(+)
図3−1にみるように,6C>4C,8C,10C>4TC>6TCの順にすべり抵抗を示す。純
230 井 上 栄
図4 1 布ノ乏面のケバ(4C)
布のすべり抵抗について 231
図4−2 〆1∫表r/ilのケバ(6C)
232 井 上 栄
嚢
図4−3 布表而のケバC8C)
布のすべり抵抗について 233
図4−4 布表而のケバ(10C)
234 井 栄
図4−5 布表面のケバqTC)
布のすべり抵抗について 235
図4 6 !i∫表面のケバ/6TC)
236 井 上 栄
0.4
一〇.3 造
ミ
の
ンO.2 弗冒1 帰 マ0・1 卜
0
4C8Cノ汐C 6C
/ /一
4TC 6TC 〜
5 10
図3−1たて方向
//4C・8q OC
,,一 ,一一 TC
−r一一一6TC
15 すべり距離(mm)
綿間では,糸が太く波の高い6Cが大きい抵抗を示している。一方前記(5.5)の類似点を もつ40番,60番試料で混紡が低い抵抗を示したことは,構成基質の相違すなわちポリエステル 65%混紡による繊維表面およびケバの形態の影響および波の高さを主とする布構造の相違のた めと思われる。
3.4.2よこ方向(一)
図3−2にみるように,6C>8C,10C>4C,6TC>4TCと,大体たて方向と類似した 傾向を示しているが,すべり方向の異なるための変化が,4Cおよび4TCにあらわれて抵抗 が下がり,従って順位が変っている。またそれぞれの試料のたて,よこ方向の差をみると,4 C,4TCのみ(+)方向>(一)方向と差がでている。これは,よこ方向のすべりでは,単糸で
0.4
50.3
ど お累0・2
マ 恒0.1
0
6C
8C,10C
//
4C /!〆
6TC4TC
5 10
6C
/8q1。C
/4q6TC
15 すべり距離(mm)
図3−2よこ方向
布のすべり抵抗について
ある4C,4TCに多少糸構造の影響がでたと思われる。
5.5 対試布について
図3−3〜3−5に示す。
1.5
暮1.0 き 帽 顯 ひ マ 赫
0.5
4C
237
10C 6C
8C 4TC 6TC
0 5 10
図3−3(1)(+)/(+)
15 20
すべり距離(mm)
1.5
1.0
セQ き 轄 羅 ひ マ 昼
0.5
6C 4C
4TC
10C 8C
6TC
4C 8C
6C,4TC
6TC
lOC
霜
5 10 15 20
すべり距離(mm)
図3−4(II)(一)/(一)
238 井 上 栄
1.5
宕1.0 ミ
き 轄 潭 ひマ ゼ
0.5
4C 6C 8C
4TC 8C
4C 6C
10C
6TC 4TC
6TC
10C
5 10
図3−5(m)(一)/(+)((+)/(一))
15 20
すべり距離(mm)
図にみるように次の順位を示す。
(i) (+)/(+) 4C>6C>8C>4TC>6TC,10C (ll) ←)/←) 4C,8C>6C,4TC>6TC>10C (iii) ←)/G→ 4C>6C>8C>4TC>6TC>10C
ここでまず注目されることは,対試布では,対トレーシングペーパーの場合と順位が著しく 変ったことである。即ち,常に4Cが抵抗が最高になり,10Cが最低になっている。これはケ バの影響と考えられる。このことは,すべり対象間の関係をみることによってさらに明らかに なる。図5−1〜5−6にみるように8C,10C,4TC,6TCでは,←)/←)>←)/(+)>(+)/
←Dの順位を示し,←)/(+)は中間にある。これは,ブロードクロスの布構造の特長が対試布の場 合強くでた結果と考えられる。
然し,4Cが←)/⑲>ω/ω,日/eと,異った順位を示すことは,たてよこ異方向のすべり の場合,ケバのからみ合いが,同一方向よりさらにひどくなった結果と思われる。 6Cでは
←)/の,←)/ω>←D/ωであるがその差は小さい。
以上布のすべり抵抗は,単一の場合,布の構成基質,糸構造および布構造の影響をうける。
さらに,すべり対象を同一試布にした場合,ケバの影響が加わること,布目方向によって抵抗 が異なることが認められた。終りに写真撮影に協力された内田清子嬢に感謝致します。
1.5
セ
ミ bρ1.0
輯 顯 ひ マ
←
0.5
布のすべり抵抗について
(一)/(_)(一)/(+)
(+)/(+)
i5
239
(一)/(+)
(+)
(一)
1.5
嶺。1.0
き 轄 懸 ひマ
←
0.5
邸
5
(つ)
(+)
10
図5−1 4C
(一)/(+)
すべり距離(mm)
20
(一)
(一)/(+)
(+)
5 10
図5−26C
15
すべり距離(mm)
20
24σ 井 上 栄
1.5
ハ巻1.0
論
葦
墨
嵩O.5
(一)
(一)/(+〉
(+)
5. 10 15 20
すべり距離
図5 38C
1.5
宕 ミ1.0 き 轄 環 ひ マ ト
0.
(一〉
(一)/(+〉
(+)
彪
5 P10 15 20
すべり距離(mm)
図5−410C
布のすべり抵抗について 241
1.5
障…1.0
ミ
き 環 顯 な マ
←
0.5
(一)
(一)/(+〉
(+)
》
5 10 15 20
すべり距離(mm)
図5−54TC
1.5
一1.0セ
o き お 翠 ひマ ト
0.5
(一)
(一)/(+)
(+)
鋤
5 10
図5−66TC
15
すべり距離(mm)
20
242 井、上二 栄 r
4.要 約
衣服の着ごこちの重要な要素である布のすべり抵抗を,ストレインメーターによって測定し た。試布はブロードクロス6種(純綿4,ポリエステル/綿混紡2)につき,1)対トレーシン グペーパー。2)対試布(布目方向3条件)について行なった。結果は次のようである。
(1)単一のすべりの場合・すタり抵抗は・布の構成基質,糸構造および布構造に影響され る◎
(2)対試布の場合はケバの影響が加わる。布目方向により抵抗が異なる。
引 用 文 献 1)鈴木淳,新海克彦,大平通泰:繊学誌,29,52(1973)