博士(理学)高村博之 学位論文題名
Nonexistence of global solutions to semilinear wave equations
(半線形波動方程式の大域解の非存在)
学 位 論 文 内容 の 要 旨
本論文は単独の半線形波動方程式に対する初期値問題を研究したものである。その目的 は、任意の小さな初期値に対してどこまで時間大域的に解が存在するかという一般論に対し て、解の非存在という逆の立場からある種の枠組みを作ること1 こある。その枠とは非線形 性の強弱であったり、初期値の無限速方での挙動であったりする。解は古典解を考える。
一般論は大きな初期値に対して作れないことがわかっているので、ここでは初期値は十分 小さ いと 考え る。 一 般論 では 口u 三 群u − △u =F(u ,Du) という形を扱っている。 こ こで D は 時空間 の微 分で 、F は滑らかな非線形項で多項式のオーダーをもっものとする。
これに対する反例を作るのが目的であるから、ここでは方程式の物理的意味などは一切考
えないことにした。本論文では扱う方程式を一般論との対応を考慮に入れて□u ‑ lulp と
口 u ‑ lutlp と い う 特 殊 な 形 の も の に 限 っ た 。 こ こ で p>l と す る 。
第1 章では前半で最新の一般論の紹介を行い、後半でこれらの特殊な方程式の歴史を述
べて いる 。具 体的 には 次の ような予想を立てている。まず初期値の台がコンパクトの場
合を考える。 このとき時間大域解が、1 くp ≦ Po(n) ならばある正の初期値に対レては非
存在、p 冫Po(n) ならぱ任意の初期値に対して存在するというようなPo (n) がある。 ここ
でn は空間の次元を表している。 これはそれぞれの方程式について具体的に書くことが
できる。 もちろんこの予想は一般論と整合している。次に初期値の台がコンパクトでな
い場合を考える。台のコンパクト性を取り除くことは、解の漸近挙動の調査や散乱理論へ
の応用などで重要である。 このときコンパク卜のときの存在の場合であるp 冫Po(n) のと
き で も 、 初 期 値 の 無 限 遠 方 で の 減 衰 が 悪 い と 非 存 在 に な っ て し ま う こと があ る。 以上 の予 想を定式化して、以下の各章で詳しく解析している。
第2章 は 波 動 方 程 式 の 基 本 解 に 対 す る 各 点 評 価 の 準 備 に 充 て て い る 。 一 般 諭 で はL2̲理 論 の お か げ で 空間 の次 元が 高く ても 苦 には なら ない 。 レか しこ こで 扱う 方程 式は 非線 形項 の 可 微 分 性 が 低 く 、 一 般 論 の 最 大 の 武 器 で あ る エ ネ ル ギ 一 法 が 使 え ない 。そ こで 基本 解の 各 点 評 価 を 用 い て 解 析 す る こ と に な る 。 ゛基 本解 は空 間の 次元 が4以 上に なっ た途 端に 複雑 に な る 。 具 体 的 に は 正 値 性 が な く な る の で あ る 。 解 の 爆 発 を 証 明 す る た め に は 正 値 性 は 不 可 欠 で あ る 。 こ こ で は 時 空 間 の 一 部 分 を 取 り 出 レ て そ れ を う ま く 解 決 し て い る 。 第3章 で は 台 が コ ン パ ク ト で あ る 場 合 の 非 存 在 を す べ て の 次 元 で 証 明 し て い る 。 た だ し
□u ‑ lulpに つ い て はp Po(n)のn> ―4の 場 合 は 残 し た ま ま に な っ て い る 。 3.1節 は
□u ‑ lulpのn‑2,3の とき の非 存在 を より 詳し く、 解のlifespanの上 から の評 価も 含め て証 明 し て い る 。lifespanと は 解 の 存 在 す る 最 大 時 間Tの こ と で あ る 。 具 体 的 に は 、 初 期 値 に 小さいパラメ一夕E>0を付けてu(エ,0)=Eヤ(エ),ut(エ,0)〓£¢(ヱ)としT=T(E)とする。
時 間 大 域 解 の 非 存 在 と はT(E) く+xの こ と で あ る 。 こ の 節 で は さ ら に1くpくPo(n) のときT(e)≦Ce−2p(p−1)/1(p,…、p二ニPo(n)のときT(e)≦exp(C‑P(P―1))ということを示 し て い る 。 ここ でCは ピに 無関 係な 正定 数で ある 。7(P n)=2十 (n十l)p−(n―l)p2で、
こ の と き のPo(n)は7(P,n)=0の 正 根 で あ る こ と に 注 意 す る 。 興 味 深 い の は 時 間 局 所 解 の 存 在 に よ っ てT(e‑)は 下 か ら も 同 じEの オ ー ダ ― で 評 価 さ れ て い る こ と で あ る 。 3.2節 は
□u ‑ luIPの1くpくPo(n)の 場 合 の 非 存 在 を す べ て のnに 対 レ て 示 し て い る 。 3.3節 は
□u ‑ lut lPの1くp≦ Po(n)の 場 合 の 非 存在 とlifespanの 評価 を すべ てのnに 対し て示 して いる。 具体 的には1くpくPo(n)のときT(e)≦Ce−(p−1)/(1−(n−l)(p−1)/2)、p゜ Po(n)の ときT(e)≦exp(Ce一( −1))ということを示している。 この場合はp0(n)=(n十l)/(n−1) で あ る こ と に 注 意 す る 。 こ の と き も 時 間 局 所 解 の 存 在 に よ っ てT( )は 下 か ら も 同 じEの オ ー ダ ー で 評 価さ れて いる こと が一 部 の場 合は わか って いる 。 この 章で 証明 して いる 結果 の 中 に は 知 ら れ て い る 古 い も の も 含 ま れ て い る が 、 証 明 は 遥 か に 簡 略化 して あり 統一 的で ある。
第4章 は 本 論 文 の 中 核 を な す 部 分 で 、 台 が コ ン パ ク ト で な い 場 合 の 解 の 非 存 在 を す べ て の 次 元 に 渡 っ て証 明し てい る。 ま ず 前提 とし て台 がコ ンパ ク卜 とき で存 在す る場 合で ある
p 冫 Po(n) を 仮定する 。 このと き次のよ うな初期 値の遠方で の減衰の 臨界値伽の存在が 予想されている。lxl →oo のとき▽呈ヤ(エ),▽呈砂(エ)〓〇(I エl‑ ^)ここでQ ,p はp =0 を含む適当な多重指数で、 K ≧伽ならばT (c ):十 oo となる。 反対にャ(ヱ)三0 ,サ(エ)>
M/(l 十 Iz | ) ここ で M>O , 0 く 茂 く K0 な らば T(e) く 十 oo となる 。 さらに このとき 評 価T (ピ)くCE ―(Ko‑K ) ‑  ̄が成立する。 時間局所解の存在によってT (£)は下からも同じ£
のオ ーダーで 評価されていることが一部の場合にはわかっている。 この臨界値 Ko は lulp に対 しては( p 十 l)/(p − 1 )で 、lutlp に対し ては l/(p − 1 )である。 これは方程式のス ケー ル変換に 対する不変性に関係している。っまりu(x , t )が方程式を満たしているなら ぱ、 uR(x ,め ‑R ^。 − 1u(Rx , Rt) , R>O も 方程式を満たしているというものである。以上 は n‑2 , 3 のと き には 第 2 章で述 べた理由 によって ある程度 わかって いた。 この 章では 基本解の正値性をうまく引き出すことによって、上の非存在の部分をすべての次元に対して 証明することに成功した。
以上の本論文の解析によって、小さな初期値に対する時間大域解の存在の一般論に対して
初期値の無限遠方での挙動の制限を明確にしたことになった。 この点では当初の目的は十
分達成されたと言える。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Nonexistence of global solutions to semilinear wave equatlons ( 半 線 形 波 動 方 程 式 の 大 域 解 の 非 存 在 )
本論文は単独の半線形波動方程式に対する初期値問題を研究したものである。その目的 は、任意の小さな初期値に対してどこまで時間大域的に解が存在するかという一般論に対し て、解の非存在という逆の立場からある種の枠組みを作ることにある。その枠とは非線形 性の強弱であったり、初期値の無限遠方での挙動であったりする。解は古典解を考える。
一般論は大きな初期値に対して作れないことがわかっているので、ここでは初期値は十分 小 さ い と 考える 。 一般 論で は□ u 三 au ー△ u = F(u , Du) とい う形 を扱っ てい る。 こ こ でD は時 空間 の微分 で、 F は 滑ら かな非線形項で多項式のオーダーをもっものとする。
これに対する反例を作るのが目的であるから、ここでは方程式の物理的意味などは一切考 えないことにした。本論文では扱う方程式を一般論との対応を考慮に入れてロu ‑ luIP と ロ u = IutIp と い う 特 殊 な 形 の も の に 限 っ た 。 こ こ で p>l と す る 。 第1 章では前半で最新の一般論の紹介を行い、後半でこれらの特殊な方程式の歴史を述 べ てい る。 具体 的に は次 のよ うな 予想を立てている。まず初期値の台がコンパクトの場 合を考える。 このとき時間大域解が、1 くp ≦p0 (n )ならばある正の初期値に対レては非 存在、p >Po(n) ならば任意の初期値に対して存在するというようなpo (n) がある。 ここ で n は 空間の次元を表している。 これはそれぞれの方程式について具体的に書くことが できる。 もちろんこの予想は一般論と整合している。次に初期値の台がコンパクトでな い場合を考える。台のコンパクト性を取り除くことは、解の漸近挙動の調査や散乱理論へ の応用などで重要である。 このときコンパクトのときの存在の場合であるp 冫Po(n) のと きでも、初期値の無限遠方での減衰が悪いと非存在になってしまうことがある。以上の予 想を定式化して、各章で詳レく解析している。
郎 次
一 徹
太
練 幸
美
見 田
我 澤
保
上 久
儀 小
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
第2章は波動方程式の基本解に対する各点評価の準備に充てている。
第3章 で は 台 が コ ン パ ク ト で あ る 場 合 の 非 存 在 を す べ て の次 元 で 証明 し て いる 。 た だし 口u ‑ lulpに つ い て はp=ニPo(n)のn>4の 場 合 は 残 し た ま ま に な っ て い る 。 3.1節 は
□ ‑ lulpのn=2j3の と き の非存 在をよ り詳しく 、解のlifespanの上から の評価 も含めて 証 明 し て い る 。lifespanと は 解 の 存 在 す る 最 大 時 間Tのこ と で ある 。 具 体的 に は 、初 期 値 に 小さいパラメー夕£冫0を付けてu(x,0)〓ecp(x),ut(ヱ,0)=E¢(z)としT=T(E)とする。
時 間 大 域 解 の 非 存 在 と はT(£ ) く 十ooの こ と で あ る 。 こ の節 で は さら に1くpくPo(n) のときT(E)<―Cど―2p(p−l)/‑y(p …ヽp二ニPo(n)のときT(a')<―exp(C‑P(P―1))ということを示 し ている 。 ここでCは£ に無関 係な正定 数であ る。y(p n) 〓2十 (n十l)p― (n―l)p2で、
こ の と き のPo(n)はy(pっn) =Oの 正 根 であ る こ と に注 意 す る。 興 味 深い の は 時間 局 所 解の 存 在 に よ っ てT(e)は 下 か ら も 同 じEの オ ー ダ ー で 評 価 さ れて い る こと で あ る。 3.2節 は 口u ‑ lulpの1くpくPo(n)の 場 合 の 非 存 在 を す べ て のnに 対 し て 示 し て い る 。 3.3節 は 口u ‑ lutlpの1くp≦ Po(n)の 場合 の 非 存 在とlifespanの 評 価を す べ てのnに 対し て 示 し て いる。 具体的には1くpくPo (n)のときT(e)≦Ce―(p―1)/(1ー( ―l)(p−1)/2)、p Po(n)の ときT(E)<―exp(C―(p−1))ということを示している。 この場合はPo(T7)=(n十l)/(n−1) で あ る こ と に 注 意 す る 。 こ の と き も 時 間 局 所 解の 存 在 に よっ てT(e)は 下か ら も 同じEの オ ーダ ー で 評価 さ れ て いる こ と が一 部 の 場合 は わ かっ て いる。 この章で 証明し ている結 果 の 中 に は 知 ら れ て い る 古い も の も含 ま れ てい る が 、証 明 は 遥 かに 簡 略 化し て あ り統 一 的 で ある。
第4章 は 本 論 文 の 中 核 を な す 部 分 で 、 台 が コ ン パ ク ト で ない 場 合 の解 の 非 存在 を す べて の 次 元 に 渡 っ て 証 明 し てい る 。 まず 前 提 とし て 台 がコ ン パ ク トと き で 存在 す る 場合 で あ る p>Po(n)を 仮 定 す る 。 こ の と き 次 の よ う な 初 期 値 の 遠 方 で の 減 衰 の 臨 界 値 知の 存 在 が 予 想され ている。lxl→ooのとき▽ 竺ヤ(z), ▽名ゆ(z)= 〇(lxI−^) ここでa,pはp=0 を 含む 適 当 な多 重 指 数 で、, >伽 な ら ばT( £ )= 十ooと な る 。反 対 に ャ(x)三0, ゆ (エ)>
Mノ(1十1ヱI) ^ こ こ でM>O,0くKく ぉoな ら ばT(£ ) く+ooと な る 。 さ ら にこ の と き評 価T(e)くCEー(K0−K)一lが 成立 す る 。 時 間 局所 解 の 存在 に よ ってT(e)は 下 から も 同 じE の オ ー ダ ー で 評 価 さ れ てい る こ とが 一 部 の場 合 に はわ か っ て いる 。 こ の 臨 界値coはlulp に 対 し て は (p十l)/(p―1) で 、lutlpに 対 し て はl/(p―1) であ る 。 こ れ は方 程 式 のス ケ ー ル 変 換 に 対 す る 不 変 性 に 関 係 し て い る 。 以 上 はn ‑2,3の と き に は 基 本 解 の 単 純 さ に よっ て あ る程 度 わ か って い た 。 こ の章 で は 基本 解 の正 値性を うまく引 き出す ことによ っ て、上の非存在の部分をすべての次元に対して証明することに成功した。
以 上の本 論文の解 析に・ よって、 小さな初 期値に 対する時 間大域 解の存在 の一般 論に対し て 初期値の無限遠方での挙動の制限を明確にしたことになった。
よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も のと 認 め る。