博士(理学)村上 弘 学位論文題名
三次元有限要素法による分子軌道計算 学位論文内容の要旨
本 論 文 の 研 究 は 、 三 次 元 の 有 限 要 素 法 に よ る 分 子 軌 道 計 算 法 で あ る 。 分 子 軌 道 計 算 は 、 系 が 球 対 称 で あ れ ぱ 一 次 元 問 題 に 、 回 転 軸 対 称 で あ れ ば 二 次 元 問 題 へ と 変 数 の 分 離 に よ り 還 元 で き る 。 こ れ ま で 、 一 次 元 や 二 次 元 の 問 題 に 還 元 さ れ る 場 合 は 、
Har tree − Fock ( H − F ) や Hartree ― Fock ― Slater ( H − F ― S ) 模 型 な ど に 対 す る 分 子 軌 道計 算 が 有 限 要 素 法 に よ り 行 な わ れ 、 精 密 な 結 果 の 算 出 に 成 功 し て い る 。 こ れ に 対 し 、 三 次 元 の 有 限 要 素 法 を 分 子 軌 道 計 算 に 用 い た 結 果 の 報 告 は ほ と ん ど 無 い 。 そ れ は 三 次 元 の 有 限 要 素 法 計 算 は 、 一 次 元 や 二 次 元 の 計 算 に 比 べ 、 著 し く 困 、 難 だ か ら で あ る 。
有 限 要 素 法 で は 、 三 次 元 問 題 は 一 、 二 次 元 な ど の 場 合 と 比 べ 、 扱 う 自 由 度 が 遙 か に 多 く な る 。 た と え ぱ 精 密 な 計 算 に お い て 、 望 ま れ る 自 由 産 が 各 次 元 方 向 に 10 ‑2 で あ る と 仮 定 す る と 、 全 自 由 度 が 一 、 二 、 三 次 元 の 場 合 に そ れ ぞ れ 10 ^2 、 10 '4 、 10'6 位 と な る 。 こ れ だ け で 三 次 元 問 題 が 如 何 に 困 難 で あ る か が よ く わ か る 。 ( 系 の 複 雑 さ
や要素分割の適応度に対応し、 この数字は変わりうるが、精密な計算の大体の目安と する。)
通 常 の 有 限 要 素 法 で は 、 離 散 化 方 程 式 の 係 数 行 列 を 生 成 格 納 し た う え で 方 程 式 を 解
く 。 そ の 際 Hartree ― Fock ( H − F ) 模 型 の 場 合 に は 、 一 般 化 固 有 値 方 程 式 の Fock 行 列 は 基
底 関 数 の 如 何 に か か わ ら ず 密 行 列 で あ る 。 SCF 方 程 式 を 離 散 化 し た 係 数 の 行 列 を 生 成
し た り 格 納 す る こ と は 、 一 次 元 で は 簡 単 に で き 、 二 次 元 で も 実 現 可 能 で あ る 。 と こ ろ
が 三 次 元 の 場 合 に は 、 10 ^ 6 次 の 密 行 列 の 生 成 や 格 納 は 記 憶 量 や 計 算 量 の 要 求 が 莫 大
で 、 到 底 実 現 司 能 で は な い 。 他 方 Hartree ― Fock − Slater ( H − F − S ) 模 型 な と 交 換 相 互 作
用 を 含 ま な い 場 合 は 、 一 般 化 固 有 値 方 程 式 の Fock 行 列 は 疎 行 列 と な る 。 大 ま か に 言 つ
て 、 童 な り を 持 た な い 基 底 の 間 の 行 列 要 素 は 零 と な る 。 基 底 の 番 号 付 け を う ま く 選 ん で お け ぱ 、 帯 行 列 に も な る 。 係 数 行 列 の 非 零 要 素 の み 生 成 格 納 す れ ば 、 記 憶 量 や 計 算 量 はH−F の 燭 合 と 比 べ て 低 く な る 。 二 次 元 で はH−Fよ り もH―F―Sの 計 算 報 告 が 多 い の も こ の た め で あ る 。 し か し 三 次 元 の 場 合 に は 、 ま だ そ れ で も 要 求 は 過 大 で あ る 。
こ れ で 明 ら か な よ う に 、 係 数 行 列 の 格 納 を 前 提 と す る 二 次 元 以 下 で 有 効 に 用 い ら れ て き た 計 算 法 を 、 引 き 統 き 三 次 元 に お い て 使 用 す る こ と は 不 可 能 で あ る 。 そ こ で 、 低 次 元 と は 根 本 的 に 異 な る 計 算 法 の 開 発 が 不 可 欠 と な る 。
三 次 元 有 限 要 素 法 に よ る 分 子 軌 道 計 算 法 に は 、 次 の こ と が 要 求 さ れ る
・ I散 化 方 程 式 の 係 歓 行 列 を 生 成 格 納 し な い 。
・ な る べ く 計 算 量 が 少 な い 。
・ な る べ く 記 憶 の 読 み 書 き が 少 な い 。
上 の 三 条 件 を 考 慮 し 開 発 し た 計 算 法 は 、 以 下 の 技 法 を 組 み 合 わ せ た も の で あ る
・SCF方 程 式 の 変 分 法 的 離 散 化 手 法 と し て 、 pー 版 (p−version) 有 限 要 素 法 を 採 用 す る 。
・ 直 交 座 標 で の テ ン ソ ル 積 型 基 底 関 数 を 採 用 し 、 RADO(Rapid Application of Discretized Operator) と 呼 ぷ 技 法 を 採 用 す る 。 こ れ に よ り 、 離 散 化 さ れ た 行 列
の係 数 ベヶ トルヘの適用が 全体行列を生成記憶せずに行 なえ、 しかも計算量も蔵 らせ る 。
・ LBGS基 底 関 数 と 直 方 体 要 素 を 組 み 合 わ せ る こ と に よ り 、 一 般 化 固 有 値 問 題 を 標 準 固 有 値 問 題 に 帰 着 さ せ る 。
・固 有位 が近 接縮 童 して いて も収 束が 良 いプ ロ. y クLanczos 法により、操準固有値 問 題を 反復 的に 解 く。
・ SCF 方程式を階層的(hierarchic )手法により、徐々 に基底系の位数を上げて解く 。 ・電子間の相互作用を交 換相互作用も含め、 電荷 分布の作るポテンシャル場により 記述し、RADO 法を使用す る。
・ 電 荷 分 布 の 作 る ポ テ ン シ ャ ル 場 は 、 Poisson 方 程 式 を 解 い て 求 め る 。
・ Poiss 。 n 方 程 式 の 境 界 条 件 の 高 速 計 算 に 、 多 重 極 展 開 法 を 利 用 す る 。
・ 多童 極展 開の 計 算に 必要 な、 球 調 和関 数の 格子 点 上で の値 を高 速に 計算する 。
上の 各技 法を 採用 し た本 論文 の計 算法 に より 、 従来 の 方法 とは 異な りFock 行列の 生
成や格納が無く、 しかも計算量や必要な言己憶容量がはるかに軽減されたので、 三次元
の 有 限 要 素 法 に よ る 分 子 軌 道 計 算 が 行 な え る よ う に な っ た 。
テ ストとしてHartree 方程式によるSCF 基底状態の計算を、一電子系では He+ と
H2+ にっいて、 ニ電子系ではHe とH2 にっいて計算をおこなった。 基底状態の全エ
ネルギーの限界値と本研究による計算値の比較は以下の表に示すとおりであり、計算
位 の 真 の 値 か ら の ず れ は 30 〜 100 ■ icroa 、 u . 以 内 で あ っ た 。
学 位論文 審査の要旨
主 査 教 授 佐 々 木 不 可 止 副査 教授 小中重弘
副査 教授 山口 兆
副査 教授 山柴正則(工学研究科)
学 位 論 文 題 名
三 次元 有限 要素法 による 分子軌 道計算
分子 の電 子状怒 を記 述する ハー トリー ・フ ォック 方程 式は三 次元 空間に おけ る非線 形連 立偏微 分方程式 で ある が、通 常こ の方程 式の 解であ る分 子軌道 を、 原子軌 道と 呼ばれ る比 較的少 数の 基底関 数系 の線形結 合 とし て求 める。 原子 軌道を 基底 として 用い る理由 は、 分子は 第一 近似で は化 学結合 によ り主に 外殻 付近 が 少し 変形 した構 成原 子の集 まり として 記述 できる とい う描像 が妥 当であ るこ とによ る。 しかし 小さ な系
( 少数 の軽 い原子 より なる分 子) につい ては 充分な 原子 軌道関 数系 を導入 する ことが でき るが、 大き な系 に つい ては 最高速 計算 機の演 算能 カをも って しても 充分 な数の 原子 軌道を 用い ること は容 易では なく 、基 底 関数 系の 選択が 計算 結果に どの 程度の 影響 を及ぱ すか につい ての 見積り も困 難であ るの が現状 であ る。
分子 軌道計 算は 、系か 球対 称であ れば 一次元 問題 へ、回 転軸 対称で あれ ば二次 元問 題ヘ変 数分 離によ り
還 元で きる 。この よう に低次 元の 問題に 還元 される 場合 には、 分子 軌道計 算の 最も精 密な 結果は 原子 軌道
基 底の 導入 ではな く有 限要素 法に より得 られ てきた 。こ れに対 して 三次元 の有 限要素 法を 分子軌 道計 算に
用 いた 結果 の報告 はほ とんど 無い 。その 理由 は三次 元の 有限要 素法 計算は 一次 元や二 次元 の計算 に比 べて
扱 う自 由度 が遥か に多 く、そ のた め著し く困 難であ るか らであ る。 しかし 有限 要素法 を導 入すれ ば基 底系
に 依存 する 不明確 な因 子を排 除し 、大き な系 にっい て信 頼度の 高い 結果を 得る 可能性 があ る。本 研究 に於
い て、 申請 者は有 限要 素法を 三次 元の系 に適 用する 上で 現れる 困難 を乗り 越え る手法 を種 々開発 して 実際
に い く っ か の テ ス ト 系 に つ い て 分 子 軌 道 計 算 を 行 っ た 。 以 下 そ の 研 究 概 要 を 述 べ る 。
通 常 の 有 限 要 素 法 で は 、 譲 散 化 方 程 式 の 係 数 行 列 を 生 成 格 納 し た う え で 方 程 式 を 解 く 。 し かし 三 次 元 ハ ― ト リ ― ・ フ ォ ッ ク 方 程 式 の 係 数 行 列 の 次 元 数 は106程 度 が 必 要 と な り 、 そ の 行 列 の 生 成 や 格 納 は 記 憶 量 や 計 算 量 の 要 求 が 莫 大 と な り 計 算 の 実 行 は 不 可 能 と な る 。 申 請 者 は 二 次 元 以 下 で 有 効 に 用 い ら れ て き た 今 ま で の 計 算 法 は モ の ま ま 三 次 元 問 題 に 拡 張 で き な い こ と を 指 摘 し 、 低 次 元 と は 根 本 的 に 異 な る 計 算 法 と し て 、 譲 散 化 方 程 式 の 係 数 行 列 の 生 成 と 格 納 を 避 け 、 計 算 量 お よ び デ ー 夕 転 送 量 が 飛 躍 的 に 少 な い 方 法 を 開 発 し た 。 そ の 内 容 は 以 下 の 手 法 を組 み 合 わ せ た も の で あ る 。
・ ハ ― ト リ − ・ フ ォ ッ ク 方 程 式 の 変 分 的 離 散 化 手 法 と し て 、 P版 有 限 要 索 法 を 採 用 し た 。
・ 三 次 元 直 交 座 標 で の テ ン ソ ル 積 型 基 底 関 数 を 採 用し 、RADO(Rapid Application of Discretized Operator)と 呼 ぷ 手 法 を 採 用 し た 。 こ れ に よ り 、 離 散 化 さ れ た 行 列 の 係 数 ペ ク ト ル へ の 適 用 が 全 体 行 列 を 生 成 お よ び 格 納 を せ ず に 行 な え、 し か も 計 算 量 も 滅 ら す こと が 可 能 と な っ た 。
・ LBGS(Lobatto‑Gauss)基 底 関 数 と 直 方 体 要 素 を 組 み 合 わ せ る こ と に よ り 、 一 般 化 固 有 値問 題 を 解 を よ り 求
・ め 易 い 標 準 固 有 値 問 題 に 帰着 さ 廿 た 。
・ 標 準 固 有 値 問 題 を 固 有 値 が 近 接 縮 童 し て い て も 収 束 の よ い プ ロ ッ ク Lanczos法 に よ り 解 い た 。
・ ハ ― ト リ − ・ フ ォ ッ ク 方 程 式 を 階 層 的 手 法 に よ り 徐 々 に 基 底 系 の 位 数 を 上 げ て 解 く こ と に よ っ て 、計 算 精 度 に つ い て 確 実 な 判定 基 準 を 得 た 。
・ 亀 子 間 の 相 互 作 用 を 交 換 相 互 作 用 も 含 め 、 電 荷 分 布 の 作 る ポ テ ン シ ャ1ル 場 に よ り 記 述 し 、 そ の 際RADO 法 を 用 い た 。
・ 電 荷 分 布 の 作 る ポ テ ン シ ャ ル 堪 を ポ ァ ッ ソ ン 方 程 式 を 解 く こ と に よ っ て 求 め 、 そ の 境 界 条 件 の 高 速計 算 に 多 量 極 展 開 法 を 利 用し た 。
・ 多 量 極 展 開 の 計 算 に 必 要 な 球 面 調 和 関 数 の 格 子 点 上 で の 値 を 高 速 に 計 算 す る ア ル ゴ リ ズ ム を 開 発 し た 。 以 上 の 各 手 法 の 開 発 ・ 適 用 に よ り 、 申 請 者 は 一 電 子 系 のHe+とH2+、 二 電 子 系 のHeとH2の 各 基 底 状 態 に つ い て ハ ー ト リ ー 方 程 式 を 解 き 、 全 エ ネ ル ギ ー の 真 値 か ら の ず れ が30〜 100p a.u.以 内と な る 結 果 を 得 た 。 テ ス ト 系 に つ い て 得 た 数 値 デ ー タ 自 体 の 化 学 上 の 意 義 は 少 な い が 、 こ の 強 文 に お い て 申 請 者 が 在 来 の 原 子 軌 道 に よ る 基 底 関 数 系 の 自 由 度 の 上 限103を 一 挙 に3x 10s程 度 に 拡 大 し 、 三 次 元 有 限 要 素 法 か 分 子 軌 道 計 算 に 有 カ な 手 段 と な る 可 能 性 を は じ め て 示 し た こ と は 、 分 子 電 子 状 態 の 研 究 に 対 す る 重 要 な 寄 与 で あ る と 認 め ら れ る 。 ま た 主 鎗 文 の 内 容 は 権 威 の あ る 国 外 の 学 術 雑 誌 に 既 に 発 表 さ れ 、 高 い 評 価 を 得 て い る 。 審 査 員 一 同 は 、 主 簡文 と 参 考 簡 文(3鑷 )の 内 容 を 検 討 し 、 申 請 者 が 博士 ( 理 学 )の 学位 を得 るに充 分の 資格 があ る も の と 認 め た 。