博 士 ( 理 学 ) 志 村 俊 昭
学 位 論 文 題 名
Genesis and crystallization of the lower crustal S ‑ type granitic magma
(下 部地 殻に おけ るS夕イ プ 花崗 岩質 マグ マの成因と結晶作 用)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ほ とん どの バー アル ミ ナ′ ス花 崗岩質岩・火山岩は 、アルミナスな砂泥質岩類の アナ テ ク シ ス に よ り も た ら さ れ た と 理 解 さ れ て お り 、 こ れ ら はSタ イ プ 花 崗 岩 質 岩
(Chappell and White,1974) と よ ぱ れ て い る 。 多 く のSタ イ プ 火 成 岩 類 は石 英、
長 石 類、 黒雲 母の 他に 白 雲母 、ザ クロ 石、 菫 青石 、ア ルミ ノ 珪酸 塩鉱 物、 電気 石 、ス ピ ネ ルな どを 含む が、 斜 方輝 石を 伴うものは少ない。 一方、実験岩石学的研究から は、
砂 泥 質岩 類の 部分 溶融 に よっ てプ ルトンを形成するに 十分な量のマグマを生ずるに は、
黒 雲 母の 分解 温度 に到 達 する こと が必 要で あ るこ とが 知ら れ てい る。 この 条件 で は液 か ら 前 述 の 鉱 物 以 外 の 相と して 斜方 輝石 を 晶出 する 。よ っ て、 アナ テク シス に よるS タ イ プ マ グ マ の 発 生 に おい ては 、斜 方輝 石 を伴 うSタイ プ火 成岩 がよ り 重要 であ る。
マ グ マ か ら 晶 出 し た 相と して 斜方 輝石 を 含む 天然 のSタイ プ火 成岩 体 は少 ない が、
南 東 オー スト ラリ ア、 西 南日 本、 そし て日 高 変成 帯に 見ら れ る。 これ らの 含斜 方 輝石 Sタ イ プ 火 成 岩 類 は 、Opx士Grt士Crd+Bt十Pl士Kfs+Qtzの 鉱 物 組 合 せ で 特 徴 づ け ら れ 、斜 方輝 石を 含ま な い岩 石に 比ぺ より 未 分化 な組 成を 示 す。 また これ らの 火 成岩 体 は 岩 石 学 的 検 討 か ら 、5〜7kb、800.C以 上 の 条 件 か ら 結 晶 作 用 を 行 っ た と さ れ てい る。 これ らの 条 件は グラ ニュ ライ ト 相の 条件 であ り 、高 い地 温勾 配を 持 つ島 弧 ・ 大陸 性地 殻下 部の 条 件に 相当 する 。し か しな がら 、前 述 のほ とん どの 岩体 は 火山 岩 体 ある いは 地殻 浅部 迸 入体 であ り下 部地 殻 の条 件で 固結 し たも ので はな い。 こ れに 対 し 日高 変成 帯の 斜方 輝 石‐ ザク ロ石トーナル岩(最 下部トーナル岩)はグラニュ ライ ト 相 の 変 成 岩 に 迸 入 し 、 グ ラ ニ ュ ラ イ ト 相 の 条 件 で 結 晶 作 用 を 行 っ て い る 。
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日 商 変 成i仔 は 烏 弧 地 殻 上 部 〜 下 部 に 至 る 価 上 断 片 で あ る (Komatsuとrロf. 1983;Os anai etロf. ,1991) 。地 殻変 成 岩層 は砂 泥質 ・ 塩基 性変 成岩 によ り 構成 さ れ、 そ の変 成度 は東 側 (構 造的 上位 )か ら 西側 (下 位) へ上 昇 しグ ラニ ュラ イト相 に 至る 。 また はん れい 岩 類、 花崗 岩類 など の 火成 岩類 がこ の地 殻 層序 の様 々な レペル に 迸 入 し て い る 。 こ れら の花 崗 岩質 岩類 はそ の構 成 鉱物 、全 岩化 学組 成 からSタ イプ とIタ イ プ に2分 で き る 。 そ し て 各 々 のSr同 位 体 初 生 値 は 各 々 の 起 源 物 質 が 斜 方 輝 石 角閃 岩 と砂 泥質 変成 岩 であ るこ とを 示し て おり 、主 帯の 主変 成 作用 期に 最下 部地殻 の アナ テ クシ スに より 生 成し 、そ の直 後に 地 殻の 各深 度に 迸入 し たと され てい る。花 崗 岩 質 岩 類 は 地 殻 層 序へ の迸 入 深度 によ って4分 され た。 こ のう ちグ ラニ ュラ イ トに 迸 入 し て い る 最 下 部Sタ イ プ ト ー ナ ル 岩 は 、Opx十Grt土Crd十Bt十Pl士Kfs十Qtzの 組 合 せ を 示 し 、Sタ イ プ の 岩 石 の 中 で は 世 界 で 最 も 未 分 化 な 組 成 を 示 す 。 新冠 川 上流 地域 には 最 下部 〜中 部ト ーナ ル 岩が 連続 して 分布 し てい る。 構成 鉱物や 全 岩化 学 組成 は最 下部 〜 中部 トー ナル 岩ヘ 漸 移的 に変 化す る。 ま た壁 岩へ の接 触変成 作 用 に は 地 殻 層 序 へ の 迸 入 位 置 に よ りP‑丁 条 件 に系 統的 な 違い が認 めら れる 。 これ ら のこ と はこ の岩 体が 下 部地 殻〜 中部 地殻 に 至る 花崗 岩迸 入体 の 断面 であ るこ とを示 して いる。
最下 部 トー ナル 岩体 は 壁岩 のグ ラニ ュラ イ トに アグ マタ イト 状 に迸 入し 、こ れらを 多 量に 包 有し て非 常に 不 均質 な岩 相を 示す 。 変成 岩包 有物 周囲 に はト ーナ ル岩 マグマ と の反 応 (同 化作 用) に よっ て特 異な 岩石 が 形成 され てい るが 、 同化 作用 の影 響をま ぬ がれ た 岩石 は均 質な 岩 相を 示し 、構 成鉱 物 の組 成累 帯構 造は 全 て単 純な 温度 降下を 示 して い る。 鉱物 の包 有 関係 と組 成累 帯構 造 から 解析 され た構 成 鉱物 の晶 出順 序はザ クロ 石‐斜長石・斜方輝石‐黒雲母‐石英‐菫青石‐カリ長石である。新冠川上流の岩体で は結 晶作用の初期条件として6kb、940.Cが見積られる。
下部 地 殻に おけ る初 性 的なSタイ プ マグ マの 生成 条 件と結晶 作用を解明するために、
内 熱 式 高 温 高 圧 実 験 装置 によ り 溶融 実験 を行 った 。 出発 物質 には 最下 部Sタイ ブ トー ナ ル 岩 の 粉 末 を 用 い た 。6kbで の 実 験 結 果 と 天 然 の 晶 出 順 序 と を 比 較 す ると 、 結晶 作 用 はH20が3〜4wt. % の 非 常 に 狭 い 範 囲 で 、 か つ900.C以 上 の 温 度 か らス タ ート し てい る こと 、が わか る 。こ の温 度は砂泥質グラニュライトが 黒雲母の分解温度を越え て 高 度 に 溶 融 す る 条 件と して 妥 当で ある 。低 いH20含 有量 は アナ テク シス がHユOに不
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飽和な条件で起こったことを示している。
日高変成帯では中部・上部の花崗岩質岩類はごく稀にしか斜方輝石を持たない。こ れに対し下部・最下部トーナル岩は斜方輝石を含むが黒雲母‐石英のシンプレクタイト が見られ、斜方輝石の仮像を形成している。このことから斜方輝石の分解反応として 次の反応が示される。
3(Mg,Fc)Si0,十KAIS i,0・十Hz0〓K(Mg,Fc),AIS i,0|。(OHユ)十3Si0エ この反応は温度の低下により右辺へ進行する。またこの反応では斜方輝石の安定領 域 はXHエOとaKAISi,O.に コン トロ ール され る。 こ の場 合XHユOは低 いか ら、
a KAISiユO.がより重要である。
斜 方輝 石の 安定 領域 に対 す るaKAISi308の効 果を検証するために 、出発物質に KAISi,O. ゲルをノルムor=15、20、25になるように加えた別の実験 を行った。
この結果は斜方輝石の晶出限界がマグマの丿ルムorの増加にともない高温側にシフト することを示している。最下部トーナル岩のノルムorの最大値は15.6%、一方中部ト ーナル岩では24.2%で、地殻浅部迸入体ほど丿ルムorに富んでいる。この組成変化は マグマ自身の分化による。即ち、Sタイプ花崗岩質岩に斜方輝石が含まれるかどうか は マ グ マ 自 身 の 結 晶 作 用 に よ る 組 成 変 化 と 温 度 低 下 に 支 配 さ れ て い る 。 地殻の各深度におけるSタイプマグマの発生とその結晶作用は本研究によって初め て具体的に明らかにされた。最下部地殻( 日高変成帯の場合、約8.5kb 950.C)で 発生した含斜方輝石Sタイプマグマは、まずメルトとレスタイトとの分離を行う。こ の過程は下部地殻においてほとんど完了する。すなわち、いわゆる¨restite model¨ は下部地殻でしか成り立たない。次にこの初生的マグマは地殻物質と反応を行いなが ら、分化しつつ地殻内を上昇し、斜方輝石を欠く火成岩体を形成してゆく。日高変成 帯の 場合 、マ グマ はduplexのrampに沿ってsyn‑tectonicに迸入する が、この過程 も他の島弧・体陸性地殻に共通する可能性が大きい。
砂泥質変成岩のアナテクシスによってプルトンを形成し得るだけの体積のSタイプ マグマを生ずるには高い地温勾配を持つ島弧・大陸性地殻下部の条件が必要である。
プルトンを形成する多くのSタイプ花崗岩質岩は初生的には下部地殻で発生した斜方 輝 石 ‐ ザ ク ロ 石 花 崗 岩 質 マ グ マ が 分 化 し た も の で あ る と 考 え ら れ る 。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 荒 牧 重 雄 副 査 教 授 針 谷 宥 副 査 教 授 中 村 耕 二 副査 助教授 渡辺暉夫
学 位 論 文 題 名
G e n e s i s a n d Crystallization of the lo:rer crus tal S‑type granitic magma
( 下 部 地 殻 に お け るSタ イ プ 花 崗 岩 質 マ グ マ の 成 因 と 結 晶 作 用 )
花 崗 岩 質 岩 類 の 中 で も
Sタ イ プ花 崗岩 質岩 類(
Chappell andWhite,
1974)は 詳細 に研究されている岩石のーっであるが、実際の地殻内でのマ グ マ の 結 晶 作 用 や 壁 岩 と の 反 応に っ い て は 未 解 決 の 部 分 が 多か った 。
申請者は天然の地殻断面(日高変成帯)において、S タイプ花崗岩質岩類 の生成・結晶作用の過程を地質学的・岩石学的手法によって明らかにし、そ の 温 度 ・ 圧 力 条 件 を 見 積 り 、 溶 融 実 験 に よ る 研 究 へ と 発 展 さ せ た 。
ほとんどのS タイプ花崗岩質岩類は斜方輝石を伴わないが、溶融実験によ れば砂泥質岩類の部分溶融によってプルトンの形成に十分な量のマグマを生 ずるには、黒雲母の分解温度に到達しなけれぱならず、このこのときの液か ら斜方輝石を晶出することが知られていた。日高変威帯の斜方輝石を伴う岩 体では、鉱物の包有関係と組成累帯構造から解析された構成鉱物の晶出順序 はザクロ石ー斜長石―斜方輝石一黒雲母一石英一菫青石ーカリ長石である。さら に 申請者 は溶 融実 験を 行な い、 この 晶出 順序 は6kb では
Hエ
0が3 〜
4wt.X の非常に狭い範囲で、かっ900 .C 以上の温度から結晶作用がスタートしてい
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なければならないという結諭を得た。このことはS タイプマグマの生成条件 がH よ0 に不飽和な条件であることを示している。
さらに申請者は斜方輝石を伴わない岩体が斜方輝石を伴うマグマ(ザクロ 石一斜方輝石花崗岩質マグマ)の分化によって形成されることを証明した。
斜方輝石の安定領域は温度・圧力条件に加えJH ,o とa KAISi .。,にコントロ ールされれており、斜方輝石の晶出限界がマグマのノルムOr の増加にともな い高・温側にシフトし、このためマグマ自身の分化と温度低下によって斜方輝 石が消滅する。
申請者は、以下のようなマグマの発生から迸入に至る過程を明らかにした。
最下部地殻(日高変成帯の場合、約8.5kb 950 .C )で発生した含斜方輝石
Sタイプマグマは、まずメル卜とレスタイ卜との分離を行う。この過程は下 部 地 殻 に おい て ほ と ん ど 完 了 し て い る 。す なわ ち、 いわ ゆる
restite modelは下部地殻でしか成り立たない。次にこの初生的マグマは地殻物質 と反応を行いながら、分化しつつ地殻内を上昇し、斜方輝石を欠く火成岩体 を 形 成 し てゆ く 。 日 高 変 成 帯 の 場 合 、 マ グ マ は
duplexの
rampに 沿 って
syn―
tectonicに迸 入す るが 、こ の過 程も 他の 島弧・大陸性地殻に共通す る可能性が大きいと申請者は指摘している。この包括的で明快な論理と正確 な実験・調査はこれまでのS タイプ花崗岩質マグマの研究が、実際の岩体の 構成 鉱物
(Opx−free) と 要求 され る条 件( アナ テクシスによる大量のメル トの 発生 (Opx ―bearing ))との間に整合性が見られなかった事を見事に 説明するものとなっている。申請者の地質学・構造地質学・岩石学・実験岩 石学の手法を駆使したこの研究は、今後地殻の運動とマグマの迸入機構との 関係を本格的に論ずる重要な契機を作り出すものである。審査員一同はこれ らの成果を高く評価し、申請者が博士(理学)の学位を受けるに十分な資格 を有すると認めた。
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