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博 士 ( 工 学 ) 西 村 生 哉

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 西 村 生 哉

学 位 論 文 題 名

機 能 性 表 面 構 造 を 有 す る 人 工 股 関 節 摺 動 面 に 関 す る 基 礎 的 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  1960年 代 初 頭 に イ ギ リ ス のChamleyが 股 関節 全置 換術(Total Hip Replacement,THR)に成 功し て 以 来 、 人 工 関 節 は 本 格 的 に 発 展 し 、 現 在 で は 世 界 中 で 年 間30万 例 以 上 のTHRが お こ な わ れ て い る 。THR症 例 数 の 増 加 に 伴 っ て 経 年 的 なmechanical failure例 も 増 加 し てお り再 置換 術 が お こ な わ れ る よ う に な っ て き た 。 再 置 換 術 を お こ な わ な く て は な ら な い 理 由 は 、 主 に 人 工 関 節 摺 動 面 の 摩 耗 と カ ッ プ や ス テ ム 部 分 の ゆ る み(loosening)で あ る 。 最 近 の 研 究 に よ っ て 、 こ の 摺 動 面 の 摩 耗 とlooseningと の 間 に 密 接 な 関 係 が あ る こ と 、 す な わ ち 摺 動 面 に お ける超高密度ポリ,エチレン(ultra high molecular weight polyethylene,LMVf WPE)の摩耗粉の発生が looseningの 大 き な 原 因 で あ る こ と が 明 ら か に な っ て き た 。 し た が っ てlooseningの 防 止 に は 人 工 関 節 摺 動 面 に お け るUHMWPEの 摩 耗 を 防 止 す る こ と が 不 可 欠 で あ り 、 そ れ に よ っ て 患者にたいへんな負担の かかる再置換術の症例を減 らすことができる。

  本 研 究 は 、 人 工 関 節 摺 動 面 の 表 面 改 質 を お こ な い 、 そ の 潤 滑 性 能 の 向 上 を 図 ろ う と し た も の で あ る 。 従 来 よ り 摩 擦 摺 動 面 の 潤 滑 性 能 の 向 上 を 目 的 と し て 、 摺 動 部 表 面 に 凹 凸 パ タ ー ン を 形 成 す る 表 面 改 質 法 を 開 発 し て き た 。 こ れ は 主 に 機 械 部 品 用 の ド ラ イ ベ ア リ ン グ の 摩 擦 ・ 摩 耗 特 性 を 改 善 す る た め の も の で 、 特 に 潤 滑 油 を 含 ま な い 状 態 で の 金 属 対 金 属 の 摺 動 に お け る 摩 擦 特 性 を 向 上 さ せ る 技 術 で あ る 。 本 研 究 は 、 こ の 技 術 を 人 工 関 節 摺 動 面 に 応 用 す る こ と に よ り 、UHMWPE摩 耗 粉 の 発 生 を 抑 え 人 工 関 節 の 寿 命 を 延 長 さ せ る こ と を 目 的とし、そのための基礎 的な検討をおこなった。

  本論文は全体で5章か らなる。

  第1章 は 「 序 論 」 で あ り 、 人 工 関 節 の 歴 史 ・ 材 料 ・ 問 題 点 な ど に っ い て 述 べ た 後 、 本 論 文 で 取 り 扱 う 内 容 の 工 学 的 な 基 礎 と な る ト ラ イ ボ ロ ジ に つ い て 概 説 し て い る 。 さ ら に 本 論 文 で 提 案 し て い る 摩 擦 摺 動 面 へ の 機 能 性 表 面 構 造 ( 凹 凸 パ タ ー ン ) 付 加 に っ い て 紹 介 し て 、 本研究の位置づけと目的 を明らかにしている。

  第2章 は 「pin on diskに よ る 摩 擦 ・ 摩 耗 実 験 」 と 題 し 、pin on disk摩 擦 ・ 摩 耗試 験機 を用 い て 、 パ タ ー ン 付 加 に よ る 潤 滑 性 能 向 上 に つ い て 検 討 し て い る 。 上 に 述 べ た よ う に 、 凹 凸 パ タ ー ン 技 術 は 元 来 ベ ア リ ン グ を タ ー ゲ ッ ト と し て 開 発 さ れ た も の で あ り 、 金 属 対 金 属 の 摺 動 に お い て は 非 常 に 大 き な 効 果 を あ げ て い る が 、 人 工 関 節 の よ う に 金 属 対 高 分 子 材 料 の 摺 動 に お い て も 、 そ の 効 果 を 発 揮 す る か ど う か は 不 明 で あ っ た 。 そ こ でpin on disk摩 擦 試 験 機 を 用 い て 金 属 対 高 分 子 材 料 の 摩 擦 実 験 を お こ な っ た と こ ろ 、 金 属 対 高 分 子 材 料 の 摺 動 に お い て も 、 摺 動 面 の パ タ ー ン 付 加 に よ っ て 摩 耗 量 を 大 幅 に 抑 え る こ と が 可 能 で あ り 、 潤 滑 性 能 を 向 上 さ せ る こ と が 可 能 で あ る こ と が わ か っ た 。 ま た 、 潤 滑 性 能 の 向 上 の 程 度 は 付 加 し た パ タ ー ン の 径 と ピ ッ チ に 依 存 し て お り 、 潤 滑 性 能 を 最 も 向 上 さ せ る 最 適 な 径 ・ ピ ッ チ が 存 在 し て い る こ と も わ か っ た 。 こ れ ら 径 、 ピ ッ チ に よ る 最 適 値 存 在 の 理 由 に っ い て も 考察を加えた。

(2)

  

3

章は「ボールとカップによる摩擦実験」と題し、市販の人工股関節に凹凸パターン を付加した試料を用いて摩擦実験をおこない、その潤滑性能について検討している。第2 章によって、金属対高分子材料の摺動においてもパターン付加技術が摩擦・摩耗特性向上 に有効であることがわかったが、これは

pin on disk

による実験(平面対平面または平面 対球面)の結果である。そこで市販されている人工股関節のカップと骨頭を試料とした摩 擦実験(球面対球面)をおこなった。ウエットエッチング法により市販の人工股関節骨頭 に凹凸パターンを付加した試料は、パターンを付加していない(すなわち市販のままの状 態)の試料と比べて、摩擦係数が低く摩擦状態も安定していた。これによってpin on disk 試験機のような球面対平面の場合だけでなく、球面対球面の場合においても摺動面への凹 凸パターン付加が効果を示すことがわかった。

  

4

章は「関節シミュレータ実験」と題し、関節シミュレータを試作し、それを用いて、

市販の人工股関節に凹凸パターンを付加した試料の潤滑性能にっいて検討している。凹凸 パターン付加技術を人工股関節に応用するにあたっては、実際の歩行を模した関節シミュ レータによる摩擦実験が必要である。そこで関節シミュレータを試作し、これを用いた摩 擦実験をおこなった。第

3

章で用いたものと同様の試料(骨頭にパターン付加)を用いて 実験をおこなったところ、カップの摩耗量に大きな違いが見られた。すなわちパターンを 付加した試料はパターンなしのものと比較して、カップの摩耗量が約1 /2 に減少した。

また‥実験終了後の摺動面の観察でも大きな違いが見られ、パターンを付加していない試 料に比ぺて付加した試料では摺動表面の摺動痕が少なくスムーズで、表面あらさも小さか った。また、市販の人工関節摺動面の形状精度がベアリング等と比較して非常に劣ってい ることを指摘し、形状精度を改良した人工関節を試作し、摺動実験をおこなった。その結 果、形状精度を改良しただけでも潤滑性能が向上したが、それにパターンを付加した試料 はさらに潤滑性能が良好であることがわかった。さらに摺動面に変動荷重を与えられるよ うに関節シミュレータを改良し、より実際の歩行に近い状態での摺動実験をおこなった。

その結果、市販の人工関節では

I fflVf WPE

の摩耗、摺動面の傷(摩耗痕)が観察されたが、

形状精度を改良したものにパターンを付加した試料ではUHlvf WPE の摩耗や摺動痕がほと んどない、良好な潤滑状態が得られた。第4 章の最後では、摺動面にパターンを付加した 場合の潤滑状態改善に関しての考察をおこなっている。

  

5

章は「結諭」であり、前章までの実験・研究で得られた知見、結論および今後の研

究課題として残された問題をまとめている。

(3)

学位論文審査の要旨 主査   教授   三田村好矩 副査   教授   五十嵐   悟 副査    教授    石川博將 副査    教授    山本克之

学 位 論 文 題 名

機能性表面構造を有する人工股関節摺動面に      関する基礎的研究

  1960年 代 初 頭 に イ ギ リ ス のChamleyが 股 関 節 全 置 換 術(Total Hip Replacement,THR)に 成 功 し て 以 来 、 人 工 関 節 は 本 格 的 に 発 展 し 、 現 在 で は 世 界 中 で 年 間30万 例 以 上 のTHRが お こ な わ れ て い る 。THR症 例 数 の 増 加 に 伴 っ て 再 置 換 術 例 も 多 く な っ て い る 。 再 置 換 術 を お こ な わ な く て は な ら な い 理 由 は 、 主 に 人 工 関 節摺 動 面 の摩 耗 と カッ プ や ステ ム 部 分 の ゆ る み(loosening)で あ る 。 最 近 の 研 究 に よ っ て、 こ の 摺動 面 の 摩耗 とlooseningと の間 に 密 接 な 関 係 が あ る こ と 、 す な わ ち 摺 動 面 に お け る 超 高 密 度 ポ リ エ チ レ ン(Ultra  High Molecular Weight Polyethylene,UHMWPE)の 摩 耗 粉の 発 生 がlooseningの 大 きな 原 因 であ る こ と が 明 ら か に な っ て き た 。 し た が っ てlooseningの 防 止 に は 人 工 関 節 摺 動 面 に お け る UHMWPEの 摩 耗 を 防 止 す る こ と が 不 可 欠 で あ り 、 そ れ に よ っ て 患 者 に た い へ ん な 負 担 の か か る 再 置 換 術 の 症 例 を 減 ら す こ と が で き る 。

  以 上 の よ う な 背 景 の も と 、 本 論 文 は 人 工 関 節 摺動 面 に 対し て 表 面改 質 を おこ な い 、 その 潤 滑 性 能 の 向 上 を 図 ろ う と し た も の で あ る 。 著 者 は従 来 よ り摩 擦 摺 動面 の 潤 滑性 能 の 向 上 を 目 的 と し て 、 摺 動 部 表 面 に 凹 凸 パ タ ー ン を 形 成 する 表 面 改質 法 を 開発 し て きた 。 こ れ は 主 に 機 械 部 品 用 の ド ラ イ ベ ア リ ン グ の 摩 擦 ・ 摩 耗 特性 を 改 善す る た めの も の で、 特 に 潤 滑 油 を 含 ま な い 状 態 で の 金 属 対 金 属 の 摺 動 に お け る 摩擦 特 性 を向 上 さ せる 技 術 であ る 。 本 論 文 は こ の 技 術 を 人 工 関 節 摺 動 面 に 応 用 す る こ と に よ り 、UHMWPE摩 耗 粉 の 発 生 を 抑 え 人 工 関 節 の 寿 命 を 延 長 さ せ る こ と を 目 的 と し て お り 、そ の た めの 基 礎 的な 検 討 をお こ な っ て い る 。

  ま ずpin on disk摩擦 ・ 摩 耗試 験 機 を用 い て 、パ タ ー ン付 加 に よる 潤 滑 性 能向 上 に つい て 検 討 さ れ て い る 。 凹 凸 パ タ ー ン 技 術 は 元 来 ベ ア リ ング を タ ーゲ ッ ト とし て 開 発さ れ た も の で あ り 、 金 属 対 金 属 の 摺 動 に お い て は 非 常 に 大 き な効 果 を あげ て い るが 、 人 工関 節 の よ う に 金 属 対 高 分 子 材 料 の 摺 動 に お い て も そ の 効 果 を 発揮 す る かど う か は不 明 で あっ た 。 そ こ でpin on disk摩 擦 試 験機 を 用 いて 金 属 対高 分 子 材料 の 摩 擦実 験 を おこ な っ た 。そ の 結 果、

金 属 対 高 分 子 材 料 の 摺 動 に お い て も 、 摺 動 面 の パ ター ン 付 加に よ っ て摩 耗 量 を大 幅 に 抑 え る こ と が 可 能 で あ り 、 潤 滑 性 能 を 向 上 さ せ る こ と が可 能 で ある こ と を明 ら か にし た 。 ま た 潤 滑 性 能 の 向 上 の 程 度 は 付 加 し た パ タ ー ン の 径 と ピッ チ に 依存 し て おり 、 潤 滑性 能 を 最 も

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向上させる最適な径・ピッチが存在していることも確認された。これら径、ピッチによる 最適値存在の理由にっいても考察が加えられている。

   次に市販の人工股関節に凹凸パターンを付加した試料を用いて摩擦実験をおこない、そ の潤滑性能にっいて検討されている。金属対高分子材料の摺動においてもパターン付加技 術が摩擦・摩耗特性向上に有効であることがわかったが、これはpin on disk による実験

(平面対平面または平面対球面)の結果である。そこで市販されている人工股関節のカ ップと骨頭を試料とした摩擦実験(球面対球面)をおこなっている。ウエットエッチング 法により市販の人工股関節骨頭に凹凸パターンを付加した試料は、パターンを付加してい ない(すなわち市販のままの状態)の試料と比べて、摩擦係数が低く摩擦状態も安定して いた。これによってpin on disk 試験機のような球面対平面の場合だけでなく、球面対球 面の場 合において も摺動面へ の凹凸パタ ーン付加が 効果を示すことが確認された。

   さらに関節シミュレータを試作し、それを用いて、市販の人工股関節に凹凸パターンを 付加した試料の潤滑性能にっいて検討されている。凹凸パターン付加技術を人工股関節に 応用するにあたっては、実際の歩行を模擬した関節シミュレータによる摩擦実験が必要で ある。そこで関節シミュレータを試作し、これを用いた摩擦実験をおこなっている。パタ ーンを付加した試料と付加していない試料(市販のままの状態)を用いて実験をおこなっ たところ、カップの摩耗量に大きな違いが見られた。すなわちパターンを付加した試料は パターンなしのものと比較して、カップの摩耗量が約1 /2 に減少した。また、実験終了 後の摺動面の観察でも大きな違いが見られ、パターンを付加していない試料に比べて付加 した試料では摺動表面の摺動痕が少なくスムーズで、表面あらさも小さかった。また、市 販の人工関節摺動面の形状精度がベアリング等と比較して非常に劣っていることを指摘し、

形状精度を改良した人工関節を試作し、摺動実験をおこなった。その結果、形状精度を改 良しただけでも潤滑性能が向上したが、それにパターンを付加した試料はさらに潤滑性能 が良好であることが確認された。さらに摺動面に変動荷重を与えられるように関節シミュ レータを改良し、より実際の歩行に近い状態での摺動実験をおこなった。その結果、市販 の人工関節では UHMWPE の摩耗、摺動面の傷(摩耗痕)が観察されたが、形状精度を改 良したものにパターンを付加した試料では UHMWPE の摩耗や摺動痕がほとんどない、良 好な潤滑状態が得られた。また摺動面にパターンを付加した場合の潤滑状態改善に関して の考察がおこなわれている。

   これらの結果を総合することにより、人工股関節摺動面形状精度を向上させ摺動面に凹 凸パターンを付加する技術が、人工股関節の摩耗防止、すなわちloosening の防止・再置 換手術の減少に大きな効果をもたらすことを明らかにした。

   近年、人工股関節摺動面の材料は金属やセラミックスなども用いられるようになってい る。本論文で扱われている人工股関節の材料は金属 (Co −Cr 合金)と高分子(UHMWPE) で あるが、本論文の成果は摺動面の材料が変わっても適用できる可能性が高く、また人工股 関節のみならず人工膝関節などにも応用が可能である。

   以上を要するに、著者は人工股関節の摩耗を抑え、 loosening を防止・再置換手術を減

少させる摺動面の表面改質に関して新知見を得たものであり、生体工学、バイオトライポ

ロ ジ ー 、 整 形 外 科 領 域 に 対 し て 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。

   よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認める。

参照

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