博 士 ( 薬 学 ) 宮 崎 敦 広
学 位 論 文 題 名
プ ラ ノ ヾ ス タ チ ン の 実 験 動 物 に お け る HDL‑cholesterol 低 下 機 序 と コ モ ン マ ー モ セ ッ ト に お け る 作 用
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
血清 コレス テ口ー ル低下 薬とし て広く 臨床で用 いられ ている3‑hydroxy‑3‑methylglutaryl coenzymeA (HMG‑CoA)還元酵 素の阻害薬Pravastatin sodium (PV)を実験動物に投与し、以下の よう な点を 明らか にした 。
1.反 復投与 時にお けるPVの 肝臓選 択的ス テ口ー ル合成 阻害
PVは、 肝 臓 ス テ口 ― ル 合 成(SS)を選 択的に阻 害する ことが 特徴で あるが 、これ は細胞 レベ ルある いは動 物への 単回投与 による 報告で あり、 連続投 与時に おけるSSの組織選択性に つい て示さ れてい なかっ た。この ため、 マウス を用い 反復投 与にお けるSSの組織選択性につ いて 検討し た。PVお よび同 じ酵素 を阻害 するsimvastatin、lovastatinを それぞれ5および10 mg/kg、 雄 性C57/BL6マ ウス (8週 令 ) に11日 間 連続 投 与 し 、8組織 に お け るSS活 性 を調べ た 。 いず れ の 薬 剤も 、 肝 臓 のSS阻 害を阻害 した。PVは、10 mg/kgでさえ 肝臓以 外の臓 器で SS阻害 を 示 さ なか っ た が 、他 の2薬 剤 は 肝臓 以 外 の 臓器 で5mg/kgで20%以上 、10 mg/kgで 30%以 上 阻 害 した 。 こ の こと か ら 、PVは反 復投与 において も、肝 臓SSを選 択的に 阻害す る こと が明ら かとな った。
2. Pravastatinのウ サギに おけるHDL‑cholesterol低下 機序
PVは実験動物の血清総コレステ口ール(Total Cholesterol: TC)を低下させることが知られて おり、その機序は低比重リポタンバク質(Low Density Lipoprotein: LDL)受容体夕ンバク質を増 加さ せたこ とによ るLDL‑cholesterol (LDL‑C)低下に 基づくと考えられている。しかし、PV投 与時 のりポ タンバ ク質プ 口ファイ ルを分 析する と、高比重リポタンパク質cholesterol (High Density Lipoprotein‑C: HDL‑C)も低下している場合も多く、その低下の機序は知られていない。
この 機序を解明するため、雄性日本白色種(Japanese White: JW)ウサギ(5ケ月令)を用いて、
PVの血 清コレ ステ口 ール低 下作用 の機序 を検討し た。PV 1〜30 mg/kg、21日間連続投与は、
肝 臓LDL受 容 体 夕 ンパ ク 質 が3mglkg以 上 か ら 用量 に 依 存 して増 加した 。その 用量に おいて は、肝臓遊離コレステロール(FreeC・,holesterolニFC)含量とLDL‑Cを低下させた。PVは肝臓の HMG‑CoA還 元 酵素 を 阻 害 し、 肝 臓 のFC含 量 を 低下 さ せ 、LDL受 容 体 夕 ンバ ク 質 を 増加さ せ る と いう 良 く 知 られ た 機 序 によ り 、LDL‑Cを 低 下 させ た 。 一 方PV 30mg/kgをJWウサ ギに4 日 間 投 与 す る とHDL‑Cが 選 択的 に 低 下 した 。HMG‑CoA還 元 酵素 阻 害 薬 によ っ て 、HDL‑Cを 選 択 的に 低下 させた 報告は これまで なかっ た。こ の時の 肝LDL受容 体夕ン パク質 は変化 がな かったが、肝臓からの超低比重リポタンパク質(VeryLowDensityLipoprotein:VLDL)―コレステ リル エステル(Cholesterylester:CE)分泌速度が低下していた。またPV10mg瓜g以上の用量を 21日間 投 与 す ると 、VLDL.CE分 泌 速度が 有意に低 下し、 同じ用 量でHDL‐Cも低下 した。 こ
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の こ と か ら 、PVに よ るHDL‑Cの 低 下 に は 、VLDL‑CEの 分 泌低 下が 関与 する と 考え られ た。
さ ら にPV投与 群に お いて はVLDLの タン バ ク質 の分 泌速 度 に変 化が 認め られ な かっ たこ とか ら、 肝臓 からCE‑poor VLDL粒 子が 分 泌さ れて いると考えられ た。一方、投与期間中、コ ン卜 口 ― ル 群 とPV投 与 群 の 間 で 、VLDL‑Cの 濃 度 に 差 は 認 め られ なか った 。こ の 結果 とPVによ るHDL‑Cの 低 下 にVLDL‑CEの 分 泌 低下 が関 与し て いる とい う可 能性 と 合わ せた 結果 、HDL‑C の低下は、HDL粒子からCE‑poor VLDL粒子ヘCEが、cholesteryl ester transfer protein (CETP) を介し、移動することによ って引き起こされていると考 えられた。このことを立証 するため、
VLDL中のCE分 子種 の 解析 を行 った とこ ろ 、PV投与 群のVLDL‑CEは、cholesteryl Jinoleate が 多 か っ た 。 こ の こ と か ら 、HDLからCETPを 介し てCEが 移動 して きて いる こ とが 明ら かと な っ た 。 以 上 の こ と か ら 、JWウ サギ にお いて 、PVは 、2つの 機序 によ り血 清TCを 低下 させ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 す な わ ち 、LDL‑Cの 低 下 はLDL受 容 体 依 存 的 に 、HDL‑Cは 肝臓 か ら のVLDL‑CE分 泌 低 下 に よ り誘 導さ れ るCETPに 依存 し た機 序に より 低下 し たこ とが 明ら かと なっ た。 実験 動 物に おい てHMG‑CoA還 元酵 素 阻害 薬がHDL‑cholestrolを低下させる 機序 を明らかにし、ヒトと異な る反応を示す根拠を見出した 。
3.脂質低下モデル動物とし てのヨ垂2ヱニモセットの可 能性
マウスやウサギのような 動物はヒトと進化の過程を異 にしており、ヒトのりポタ ンパク質お よび動脈硬化研究のモデル 動物としてふさわしいかは十 分にはわかっていない。こ の点を考慮 に入れ、薬の開発にふさわ しい実験動物を考えると、ヒ 卜の進化の過程と近縁の関 係にあるサ ルのような霊長類における 研究は重要である。最近、新 世界サルに属するコモンマ ーモセット の血清脂質およびりポタン バク質プ口ファイルが、血中・の脂質値が正常値を示すヒ卜のものと 非常に類似している事が明 らかになり、脂質代謝の研究 のために重要な実験動物と 考えられて きて いる 。そ こで 雄 性コモンマ― モセッ卜を含めた8種類の実 験動物の血清脂質およびり ポタ ンバク質プロファイルを比 較し、本動物がヒト血清脂質 に近いプロファイルを示す 事を確かめ た。 その 結果 、血 清TC値 およ び各 種 リポ タン バク質コレステ 口ール値は、血中の脂質値 が正 常値を示すヒトのものと非 常に類似しており、ヒトの血 清脂質およびりポタンパク 質研究に有 益 な 動物 であ ると 考 えら れた 。さ らに 、 この 動物 にPVを14日 間連 続投 与し た とこ ろ、 血清 TCはPVの 用 量 に 依 存 し て 低 下 し た 。 肝LDL受 容 体 夕 ン パ ク 質 の 増 加 と 、 肝 臓FC含 量 お よびLDL‑Cを 低下 させ た用 量 は同 一で あっ た。 こ れら のこ とか ら 、コ モンマーモセッ卜 にお け るLDL‑C低 下 の 機 序 も 、JWウサ ギと 同 様と 考え られ た 。さ らに 、本 動物 に おけ る結 果と こ れ ま で 多 く の 動 物 で 報 告 さ れ て き た 肝LDL受 容 体 夕 ン パク 質の 上 昇率 とLDL‑C低下 量の 相関関係を調べたところ、 コモンマ―モセットにおける 相関関係は、ヒトにおける 相関関係と 近似の関係にあった(r0.967、p匸ニ0.0025)。このこと から、コモンマ―モセッ卜におけるLDL 代謝はヒトに近いと考えら れた。以上のことから、本動 物を用い脂質低下剤の薬理 効果を評価 を 行 う こ と に よ り 、 ヒ ト に お け る 薬 効 を 推 定 で き る も の と 考 え ら れ た 。 4.血中MVA濃度の臨床的 意味合いとその応用
高脂血症の解析および病 態の医療的な薬理効果を調べ るために、生体内のステロ ール合成活 性を調べることは重要であ る。これまでは、臨床的な観 点からこの活性を測定する には煩雑な 方法を用いるしかなく不便 であった。近年、゛コレステロール合成の中間産物であるmevalonate (MVA)の 血中 濃度 が、 生体 内 のSS活性 を反 映す る 指標 とし て考 え られ てきている。しか し、
こ れ まで にSS臓器 丘 おけ るSS活性 とこ れ ら中 間産 物の 血 中濃 度の 相関 を十 分 に調 べた 論文 は な い。 この ためPVをコ モン マー モセ ッ トヘ 単回 投与 し 、肝 臓選 択的SS阻 害 につ いて 確か め、 さら に肝 臓ス テ 口ー ル合 成活 性 、肝 臓中 およ び血 中MVA濃 度 の関 係について検討し た。
そ の 結果 、PVはコ モ ンマ ーモ セッ トに お いて 肝臓 のSS活 性を 選択 的に 阻害 し てい るこ とを
確認し、さらに肝臓のSS活性と肝臓および血清MVAに優れた相関関係あった。これらのこ とから 、血清MVAは大 部分肝臓 のSSにより産生され、血清MVAレベルが、肝臓のSS活性 をほぼ反映させていると考えられた。さらに薬剤単回投与後の血清MVA変化を調べることに よ って 、 血 清脂 質 低 下の 評 価 を迅 速 に 行 えう る パ ラヌ ー タ の可能 性を示 唆した。
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学 位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
野村 五十嵐 井/口 大熊
学 位 論 文 , 題 名
靖幸 靖之 仁一 康修
プラノヾスタチンの実験動物におけるHDL‑cholesterol 低下 機序とコ モンマ ーモセットにおける作用
Pravastatin sodium (P.Oは、コレステ口ール合成系の3‑hydroxy‑3‑methylglutaryl coenzymeA(HMG‑CoA)還 元 酵 素の 阻 害 薬で あ り 、血 清 コ レス テ 口 ール低 下薬とし て 広く臨床で用いられている。
本 薬 剤は 肝臓 ステ口ー ル合成(SS)を選択的 に阻害 すること が特徴で あるが 、これ は細 胞 レ ベルあ るいは 動物への 単回投 与による 報告で あり、連 続投与時 におけ るSS の組織選 択性に ついて示 されて いなかっ た。このため、申請者はマウスを用い反復投 与に お け るSSの 組織 選 択 性 につ い て 検討し た。その 結果、 対照薬のsimvastatin、 lovastatinに比ベ 、反復 投与にお いても、 肝臓SSを選択的に阻害することを明らかと した。また、PVの血清総コレステロール(Total Cholesterol: TC)低下作用の機序は、低 比 重 リ ポ タ ン パ ク 質(LDL)受 容 体 夕 ン バ ク 質 を 増 加 さ せ た こ と に よ る LDL‑cholesterol (LDL‑C)低下に基づくと考えられている。しかし、実験動物における PV投 与 時 の り ポ タ ン パ ク 質 プ 口 フ ァ イ ル を 分 析 する と 、 高比 重 リ ポタ ン パ ク質 cholesterol (HDLーC)も低下している場合も多く、その低下の機序は知られていない。
この た め 申請 者 は 、こ の 機 序 を解 明 す るた め 、 雄性 日 本 白色 種(JW)ウサ ギを用い て、PVの 血清コレ ステ口ー ル低下 作用の機 序を検 討した。 その結 果、PVによるLDL‑C 低下 作 用 の機序 は、肝 臓のHMGーCoA還元酵素 を阻害 し、肝臓 のFC含量 を低下さ せ、
LDL受 容体 夕 ン パク 質 を 増 加さ せ る とい う良く知 られた 機序に基 づくも のであっ た こ と を 確 認 し た 。 一 方PV 30 mg/kgをJWウ サ ギに4日 間投 与 す るとHDL−Cが 選択 的に 低 下 した 。 こ の時 の 肝LDL受 容 体夕 ンパク質 は変化 がなかっ たが、 肝臓から の 超低 比 重 リポタ ンパク 質(VLDL)ーコ レステリ ルエス テル(CE)分泌 速度が 低下して い るこ と 、 またPV 21日 間 投与 実 験 にお い て 、VLDL‑CE分泌 速 度 が有 意に低 下し、同 じ 用 量 でHDL‑Cも 低 下 し た 結 果 を 得 た 。 こ の こと か ら 、PVに よるHDL‑Cの 低下 に は 、VLDL‑CEの ′分 泌 低 下が 関 与 する と 考 え た。 ま たPV投 与 群に お い ては 、VLDL のタ ン パ ク質 の 分 泌速 度 に は 変化 が 認め られなか ったこ とから、 肝臓か らCE‑poor VLDL粒子 が 分 泌さ れ て い ると 考 え た。 一 方 、投 与 期 間中 、 コ ント 口一ル 群とPV投 与群 の 間 で、VLDL‑Cの 濃度 に 差 は認 め られなか った。 以上の結 果とPVに よるHDL‑C
の低下にVLDL −CE の分泌低下が関与しているという考察と合わせた結果、HDL‑C の 低下は、HDL 粒子からCE‑poor VLDL 粒子へCE が、cholesteryl ester transfer protein (CETP) を介し、移動することによって引き起こされていると考えられた。VLDL 中 のCE 分子種の解析を行ったところ、 PV 投与群の VLDL‑CE は、 HDL 由来のcholesteryl linoleate .が多かった。このことから、HDL からCETP を介してCE が移動してきてい ることが明らかとなった。以上のことから申請者は、JW ウサギにおいて、PV は2 つ の機序により血清 TC を低下させることを示した。すなわち、 LDL‑C の低下はLDL 受 容体依存 的に、HDL‑C は 肝臓から の VLDL‑CE 分泌低下により誘導されるCETP に依 存した機序により低下したことを明らかとした。これは、実験動物においてHMG‑CoA 還元酵素阻害薬がHDL‑cholesterol を低下させる機序を示し、ヒトと異なる反応を示 す根拠になると考えられた。
また、マウスやウサギのような動物はヒトと進化の過程を異にしており、ヒトのり ポタンパク質および動脈硬化研究のモデル動物としてふさわししゝかは十分にはわか っていない。この点を考慮に入れ、申請者は薬の開発に適した実験動物を見出すこと を目的に、入手可能な8 種類の実験動物の血清脂質およびりポタンパク質プロファイ ルを比較した。その結果、コモンマーモセットの血清TC 値および各種リポタンパク 質コレステ口ール値は、血中の脂質値が正常値を示すヒトのものと非常に類似してお り、ヒトの血清脂質およびりポタンパク質研究に有益な動物であることを確証した。
さらに、 この動物 に PV を連続 投与した結 果、血清 TC は PV の用量に依存して低下 することを見出した。肝LDL 受容体夕ンパク質の増加と、肝臓FC 含量およびLDL‑C を低下させた用量は同一であった。これらのことから、コモンマーモセッ卜における LDL‑C 低下の機序も、JW ウサギと同様と考えた。さらに、本動物における結果とこ れまで多 くの動物 で報告さ れてきた肝 LDL 受容体夕ンパク質の上昇率とLDL‑C 低 下量の相関関係を検討したところ、.コモンマ―モセットにおける相関関係は、ヒトに おける相関関係と近似の関係にあった。このことから、申請者はコモンマーモセット におけるLDL 代謝はヒトに近いと考え、本動物を用い脂質低下剤の薬理効果の評価 を 行 う こ と に よ り 、 ヒ ト に お け る 薬 効 を 推 定 で き る 可 能 性 を 示 し た 。 高脂血症の解析および病態の医療的な薬理効果を調べるために、生体内のステ口ー ル合成活性を検討することは重要である。これまで、臨床的な観点からこの活性を測 定するには煩雑な方法を用いるしかなく不便であった。近年、コレステ口ール合成の 中間産物である mevalonate (MVA) の血中濃度が、生体内の SS 活性を反映する指標と して考えられてきている。しかし、これまでにSS 臓器におけるSS 活性とこれら中間 産物の血中濃度の相関を十分に検討した論文は見られない。このため申請者は、PV をコモンマーモセットヘ単回投与し、肝臓選択的SS 阻害について確かめ、さらに肝 臓ステ口ール合成活性、肝臓中および血中MVA 濃度の関係について検討した。その 結果、PV はコモンマーモセットにおいて肝臓のSS 活性を選択的に阻害していること を確認し 、さらに 肝臓の SS 活性と肝臓および血清 MVA に高い相関関係にあること を見出し た。この ことから、申請者は、血清 MVA が大部分肝臓の SS により産生さ れ、 血清MVA レベルが、肝臓の SS 活性をほぽ反映させていることを示した。さら に薬剤単回投与後の血清MVA 変化を比較することが、血清脂質低下の評価を迅速に 行いうるバラヌータの可能性を示唆した。
以上のような新知見を明らかにした申請者は、博士(薬学)の学位を受領するのに 十分な資質を有するものであることを認めた。
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