博士(工学)宮崎松生 学位論文題名
超々臨界圧蒸気夕ービン材料の組成設計 学位論文内容の要旨
近年 、電 力分 野に おぃ て地 球資 源の 有効 活用 およ び環 境問題に対応す るため、一層の発 電 効率 の向 上が 進ん でい る。 その ーつ の有 カな 手段 とし て、火力発電用 蒸気タービンは、
蒸 気 温 度 の 高 温 化 お よ び 高圧 化が 図ら れて きた 。本 研究 はそ の実 現に 大き く貢 献 した 蒸 気 ター ビン 構成 部品 材料 の耐 熱陸 向上 、焼 戻脆 化の 軽減 ならびに耐エ口 ージョン陸の発現 など材料および材料技術の開 発研究に関するものである。
第一 章は 、火 力発 電に おけ る最 近の 社会 的な 要求 、そ れに応じた、タ ービンの動向と蒸 気 条件 の具 体的 な高 温・ 高圧 化の 動き 、さ らに 、使 用材 料に求められる 基本的特陸と蒸気 条件の上昇に対応した8項目の材料研究の概要を述べた。
第二章では、566℃級蒸気タービンに適用レ た3項目の材料技術について 述べた。第一は、
10. 5Cr―lMo―V‑O. lNbーN鋳鋼の開発である。同系組成の既存翼材や口ータ材を参考に、大型 鋳 物と して 化学 成分 と熱 処理 条件 の最 適化 を図 った 。そ の結果、高強度 化にNbの添加は欠 か せな いが 、延 ・靭 性の 低下 を考 慮し て0.1% 程度 に抑 制する、Cは溶接性を考えて0.15%
程 度 に 下 げ る こ と が 適 当 であ り、 ミク 口組 織の 安定 性か らCr当量<9.5が必 要で あ るこ と を 明 ら か に し た 。 熱 処 理 で はNb析 出 物 お よ び6フ ェ ライ ト固 溶の ため1070℃高 温 焼鈍 の 採 用と ,そ の後 、焼 きな らし 十二 段焼 戻処 理が 適当 であ る 。以 上の 施策 によ り566℃ 、10 万 時間 クリ ーブ 破断 強度 、120MPaを達 成し 、31MPa、566/566/566℃蒸気 条件の超々臨界圧 機高温・高圧部の耐圧部品を この材料で製造した。
スーパクリーン鋼は、焼戻 脆化感受陸が、Jフんクター =(Si+Mn) (P+STi)xl04と相関性 の ある こと を見 出し 、そ れを10以下とする材 料設計思想を3. 5%NiCrMoVロータ鋼に適用し た もの であ る。 これ によ り、 従来鋼と異なる 焼戻脆化しなぃ特陸を検証し、その特I生を有 す る 3. 5%NiCrMOV低圧ロ―タ鋼を実現した。この材料は、入口蒸気温度 の上昇した上述の 超 々臨界圧機低圧 ロータに初めて適用され、従来鋼では避け得ない焼戻脆 化現象を回避レ、
効率向上に貢献している。
ホウ化処理ノズ ルは、ボイラチューブから剥離レ、飛来する高速の高温 ぬ封ヒ物が、ター ビ ンノ ズル に激 しぃ ェロ ージ ョン を発 生さ せる 問題 に対 レて、有効な対 策を提供した。高 温 工口 ージ ョン 試験 装置 を製 作レ 、固 体粒 子に よる 工口 ージョン現象の 理解とそれに耐え る 表面 処理 を検 討し た結 果、 ノズ ル材 料に 対す る固 体粒 子エロージョン が約30°の角度で 激 しく 、そ のェ 口ー ジョ ンレ イト が固 体粒 子の 衝突 速度 の指数関数で表 せること、そして ホ ウ化 処理 が最 大の 耐工 ロー ジョ ン性 を示 すこ とを 明ら か にし た。 つい で、12Cr耐熱鋼/
ズ ル 材 の ホ ウ 化 処 理 層 が、 高温 安定 性の 高いFe2B、FeB、お よびCrBか ら構 成さ れる こと や、Bおよ びそ の他 構成 元素 の濃 度分 布を 明ら かに し、 硬さ が1600Hvと 高い こと や基材 と の密着性に優れることなどが有利に働くことを示レた。
第 三 章 は 、600℃ 級 ター ビ ンの 高温 部を 対象 とし た改 良12Cr鋼 と称 する3種の 材料 開発 に 関 す る も の で あ る 。 従 来 の12C rMoVNbN鋼 を 基 本に 、 高融 点金 属で あるWの 添加 と 低C 化を クリ ーブ 破断 強度 の強 化手 段 とし 、組 織の 安定J陸 維持 の ためNiを 増量 してCr当量 を 調整する材料設計指針を採用レた。
こ の思 想で 耐熱 性を 改善 した 改 良12Cr口 ータ 鋼に おい て、 フウ ライ ト形 成元 素で あるW の1% 添 加 と オ ー ス テ ナ イ ト 形 成 元 素 で あ るCの 減 少(0.18→0.14%)が 有効 であ るこ とを 明ら かにし、反面、クリーブ破断 強度を阻害レなぃ範囲のNi増量(0.4→0.8%)で合金 バ ランスを補った。この化学成分(0.14C―10. 5C rMOVNb―1w10.8Ni)による実寸大ロータの試 作か ら、 口ー タ鋼 とし ての 適合 性 を確 認し 、593℃ ,lO万時 間 クリ ーブ 破断 強度100MPa以 上の目標強度を有することを示した。
改 良12Cr鋳 鋼 は 同 様 の 思 想 に 従 い 従 来12Cr鋳 鋼 を 改 良 し た も の で あ る 。 ク リー プ破 断強 度に対してWの添加およびCの 低減(0.15→0.12%)効果は明瞭であった。延・靭性 は Ni増 量 な ど に よ り 十 分 に補 完さ れ、 従来12Cr鋳鋼 より 優 れる こと を明 らか にし た。 以上 の改良を加えた結果、目標のクリープ破断強度を有する0.12Cー10CrMOVNbN−0.8w―0.9Ni鋳 鋼を製品化できた。
改 良12Cr翼 鋼 は 、Nb含有 量の 高い 従来12Cr翼鋼 を同 様 思想 で改 良し たも ので ある 。寸 法が 小形 ゆえ に強 化元 素の 増量 が 可能 であ るが 、Nbの多 量添加は延・靭性に有害で、ク リ ープ 破断 強度 の維 持に も効 果が 明 瞭で ない ため 、0.2% 程度に抑えた。Wの添加とCの低 減 は、口ータおよび鋳鋼と同様に有効で、化学成分を0.16C―11CrM0い0.2Nb−N―1.lW−0.8Ni に決定レ,製品化した。
加 えて 、改 良12Cr鋼 のマ トリ ク スに 固溶 する 元素 、析 出物とその形態などを調査し、 合 金 元 素 の 役 割 や 強 化 メ カ ニ ズ ム を 考 察 し た 。 特 に ,Wは クリ ープ 中に 組織 の回 復を 遅ら せる 効果 が破 断強 度に 寄与 する と 推察 され た。 また ,初 期にWの80%が マト リク スに固 溶 レ、強化に寄与するが、クリープ中にはLaves相(Fe:(W,M0))を析出し、破断時の固溶量 は0.4〜0.6%程度に低減することを明らかにした。
第 四 章 は 、630℃ 級 を目 指 した2種 の新 型12Cr鋼 の開 発 に関 する もの であ る。 新型12Cr 口ー タ鋼 は、Mo当 量〓Mo十1/2W〓1.5を基本にWの1.8%へ の増量とB添加がクリーブ破 断 強度 向上 の主 要手 段で ある 。そ の 他に 、C、Mhおよ びNiの低 減 など を盛 リ込 んで いる。 強 化元 素で ある フェ ライ ト形 成元 素 の増 量と 、C、Mnおよ びNiな どオ ース テナ イト 形成元 素 の低 減に よる 合金 バラ ンス の変 動 に対 し、Al変 態温 度に 影響の小さいCoを添加して調節 し た 。 そ の 結 果 、Wの 増 量とBの顕 著な 添加 効果 が明 らか に なっ た。Coは 合金 バラ ンス をと るの に有 効な だけ でな く、3%の 添加はクリープ破断強度にも有効である。このような合 金 設計により、クリープ破断強度で改良12Cr鋼をはるかに凌ぐ、
O.10C―10Cr−1.8wー0.7MovNbN―3Coー0.01Bの新型12Cr口ータ鋼を提供できることを示した。
新 型12Cr翼 鋼は 、口 ータ に比 べ て小 型材 料で ある 有利 さを 生か し、 さら なるWの増量 と Bお よ びRe添加 をク リー プ破 断強 度向上の手段とレた。2.6w→0.lMo系およびB添加の有 効
性を示し、Wなどがクリープ中に粒界やマルテンサイトのラス境界に塊状のLaves相を高 密度に析出させ、粒界強化に働く可能性を示した。Reの添加は、0.5%までの範囲で、特に 650℃でのクリーブ破断強度向上に有効であった。Reは、Re自体の固溶強化に加え、クリ ープ中におけるWの固溶量低減を抑制し、Wの固溶強化を維持する効果があると推察され た。
一方、新型12Cr鋼に共通する課題として、ESR溶解時におけるB濃度管理の難しさや粗 大な複合ホウ化物が生成レ易いことを明らかにした。その防止には、特に、BおよびN濃 度 を 厳 格 に 管 理 で き るESR設 備 や 使 用 ス ラ グ の 適 切 な 選 定 が 必 要 で あ る 。 最後に、第五章で、これらの材料が、いずれも高効率機の基幹部品材料として製品化さ れ 、 電 カ の 安 定 供 給 と タ ー ビ ン の 効 率 向 上に 著 しく 貢 献 して い る例 を 示 した 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
超々臨界圧蒸気夕ービン材料の組成設計
本 論 文 は 火 力 発 電 効率 の向 上に 有効 な蒸 気タ ービン の高 圧化 およ び蒸 気温 度の 高 温 化 を 図 り 、 構 成 部品 材料 の耐 熱性 向上 、焼 戻脆化 の軽 減な らび に耐 エ口 ージ ヨ ン 性 の 発 現 な ど に 関す る研 究で あり 、そ の成 果は以 下の よう にま とめ られ る。
ベースとなる566℃級蒸気タービン材料では、10. 5Cr宀lMo―V―0.lNb―N大型鋳物用 鋼の 化学 成分 の最 適化 を図 リ、 延・ 靭性 の低下を考慮してNb<0.1%、溶接性を考慮 してC<O. 15%、ミ ク口 組織 の安 定性 からCr当量<9.5が必要であることを明らかにし た 。 ま た 、 熱 処 理 で はNb析 出 物 お よ び6フ ェ ラ イ ト固 溶の ため1070℃高 温焼 鈍の 採用 し、 焼き なら しの 後に2段焼 戻を 行う 処理法を考案した。以上により、566℃、
10万 時 間 ク リ ー プ 破 断強 度、120MPaを 達成 し、31MPa、566℃級 蒸気 条件 の超 々臨 界圧機用高温・高圧部品材料の製造に成功した。
一 方、 焼戻 脆化 感受 性が 、Jフ ァク ター ニニ(Si+Mn) (P+Sn)xl04と相関性のある こ と を 見 出 レ 、 そ れ を10以下 とす るこ とで 焼戻 脆化し ない 特性 を得 るこ とを 明ら かにした。これにより、3. 5%Ni.CrMoV低圧ロ―タ鋼を実現し、566℃級超々臨界圧 機用低圧口ータの効率向上に貢献した。
ボ イ ラ チ ュ ー ブ か ら剥 離し て飛 来す る高 速の 高温酸 化物 が、 ター ビン ノズ ルに 激 し ぃ ェ 口 一 ジ ョ ン を発 生さ せる 問題 につ いて 、高温 エロ ージ ョン 試験 装置 を製 作 レ て 研 究 レ た 。 そ の結 果、 固体 粒子 エロ ージ ョンは ノズ ル材 料に 対し 約30゜の 角 度 で 粒 子 の あ た る とき が最 も激 しく 、そ のェ 口ージ ョン 速度 は固 体粒 子の 衝突 速 度 の 指 数 関 数 で 表 せる こと を明 らか にし た。 その対 策と して 、ノ ズル 表面 のホ ウ 化 処 理 が 最 大 の 耐 工ロ ージ ョン 性を 示す こと を見い だレ た。 また 、12Cr耐 熱鋼 ノ ズ ル 材 の ホ ウ 化 処 理層 が、 高温 安定 性の 高いFe2B、FeB、お よびCrBか ら構 成さ れ る こ と 、 硬 度 が1600Hvと 高 く 、 基 材 と の 密 着 性に 優 れ る こ と な ど を 示 し た 。
宜
行 明
郎
七
邦
昌 惣
平
井 藤
貫 橋
石 工
大 高
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
600℃ 級 タ ー ビ ン の 高 温 部 材 開 発 に 関 し て は 、566℃ 級 材 料 を 基 本 に し て 、 フ ェ ラ イ ト 形 成 元 素 で あ るWの 添 加 と オ ー ス テ ナ イ ト 形 成 元 素 で あ るCの 減 少 を ク リ ー プ 破 断 強 度 強 化 の 手 段 と し 、 組 織 の 安 定 性 維 持 の た めNiを 増 量 し てCr当 量 を 調 整 す る 組 成 設 計 の 新指 針を 考案 した 。こ れに 基づ き、Wの1% 添加 、Cは0. 18から0.14%
へ 減 少 、Niは0.4か らO.8% へ と 増 加 さ せ た 鋼 を 試 作 し 、593℃ ,10万 時 間 ク リ ー プ 破 断 強 度lOOMPa以 上 を 有 す る こ と を 示 し た 。 鋳 鋼 の 場 合 は 実 際 の 溶 製 や 使 用 中 の 組成変化 などを考慮して、0. 12C―10C rMoVNbN−0.8W−0.9Niとする改良12Cr鋳鋼の製 品化に成 功した。
タ ー ビ ン 翼 鋼 で は 、 寸 法 が 小 形 ゆ え に 強 化 元 素 の 増 量 が 可 能 で あ る も の の 、Nb の 多 量 添 加 は 延 性 ・ 靭 性 に 有 害 で あ る こ と か ら0.2% 程 度 に 抑 え た 。 こ の 場 合 、 改 良12Cr翼 鋼 と し て0.16C―11C rMoV―0.2Nb―N―1.1Wー0..8Niと レ て製 品化 した 。 さ ら に 、 改 良12Cr鋼 の マ ト リ ッ ク ス に 固 溶 す る 元 素 、 析 出 物 と そ の 形 態 な ど を 調 査 し 、 合 金 元 素 の 役 割 や 強 化 メ カ ニ ズ ム を 考 察 し た 。 特 に ,Wは 、 ク リ ー プ 中 に 組 織 の 回 復 を 遅 ら せ る 効 果 が 破 断 強 度 に 寄 与 す る と 推 察 さ れ た 。 ま た 、 添 加 し たW の80% は マ ト リ ク ス に 固 溶 し 強 化 に 寄 与 す る が 、 使 用 中 にLaves相 (Fe: (W,Mo) ) を 析 出 し 、 破 断 時 の 固 溶 量 は0.4〜0.6% 程 度 に 低 減 す る こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 高 温 の630℃ 級 の タ ー ビ ン 材 料 に 関 し て は 、Mo当 量‑Mo十1/2W ‑1.5を 基 本 にWの1. 8%へ の 増 量 とB添 加 を ク リ ー プ 破 断 強 度 向 上 の 新 た な 指 針 と し た 。 強 化 元 素 で あ る フ ウ ラ イ ト 形 成 元 素 の 増 量 と 、C、Mn、Niな ど オ ー ス テ ナ イ ト 形 成 元 素 の 低 減 に よ る 合 金 バ ラ ン ス の 変 動 に 対 レ 、Ai変 態 温 度 に 影 響 の 小 さ いCoを 添 加 し て 調 節 し た 。 そ の 結 果 、Wの 増 量 とBの 顕 著 な 添 加 効 果 が 明 ら か に な っ た 。Coは 合 金 バ ラ ン ス を と る の に 有 効 な だ け で な く 、3% の 添 加 は ク リ ー プ 破 断 強 度 に も 有 効 で あ る 。 こ の よ う な 合 金 設 計 に よ り 、 ク リ ー プ 破 断 強 度 で 改 良12Cr鋼 を は る か に 凌ぐ、O. 10CーlOCr−1.8W−0.7MoVNbN―3Co−0.OIBの新型12Crロータ鋼を実用化できる ことを示 した。
タ ー ビ ン 翼 鋼 に つ い て は 、 小 型 材 料 で あ る 有 利 さ を 生 か し 、 さ ら な るWの 増 量 と Bお よ び 新 た にRe添 加 を ク リ ー プ 破 断 強 度 向 上 の 手 段 と レ た 。 こ の 場 合 、Wは ク リ ー プ 中 に 粒 界 や マ ル テ ン サ イ ト の ラ ス 境 界 に 塊 状 のLaves相 を 高 密 度 に 析 出 さ せ 、 粒 界 強 化 に 働 く 可 能 性 を 示 し た 。Reの 添 加 は 、0.5% ま で の 範 囲 で 、 特 に650℃ で の ク リ ー プ 破 断 強 度 向 上 に 有 効 で あ っ た 。Reは 、Re自 体 の 固 溶 強 化 に 加 え 、 ク リ ー プ 中 に お け るWの 固 溶 量 低 減 を 抑 制 し 、Wの 固 溶 強 化 を 維 持 す る 効 果 が あ る と 推 察 された。
こ れ を 要 す る に 、 著 者 は 、 超 々 臨 界 圧 蒸 気 タ ー ビ ン 材 料 に つ い て 、 実 用 に 耐 え 得 る 組 成 設 計 指 針 を 確 立 し た も の で あ り 、 耐 熱 材 料 の 開 発 な ら び に 材 料 工 学 に 貢 献 す る と こ ろ 大 で あ る 。 よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れる資格 あるものと認める。