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博 士 ( 工 学 ) 大 澤 紘 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 大 澤 紘 一

学 位 論 文 題 名

冷 延 鋼 板 の 深 絞 り 性 向 上 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  鉄鋼製品の10%をしめる冷間圧延(冷延)鋼板は,自動車産業発展に伴い品質特性および製造 技術の両面で著しい進歩を遂げた。自動車の大量生産に向けた高品質鋼板の安定供給,設計の自 由度を高めるためのプレス成形性向上,安全性や車体軽量化に適した高強度高靱性鋼種の新開発 などのニーズに対応するため,鉄鋼各社は炉外精錬技術や連続焼鈍技術を新たに生みだし,これ を用いて高品質の軟質冷延鋼板や高張力冷延鋼板の開発を行ってきた。主として自動車ボディに 使われる冷延鋼板の最も重要な品質特性はプレス成形性である。プレス成形性は深絞り性,張り 出し性,伸びフランジ性,曲げ性などの諸材質特性,表面潤滑性などからなる総合性状であるが,

このうち特に材料の深絞り性が基本的な成形特性であると考えられている。したがって,最近20 年間における冷延鋼板製造技術に関する研究のカ点は深絞り性の向上に注がれてきたといっても 過言ではない。

  本研究は冷延鋼板の深絞り性に影響をおよぼす諸因子のうち,特に添加元素に注目し,侵入型 溶 質元 素で あるCと 置換 型溶質元素であるMn,Cr,P,Siの組み合わせを変えてその効果を検 討した。すなわち,自動車ボディの成形に適した深絞り性を有する軟質冷延鋼板にっいては,実 工程の箱焼鈍および連続焼鈍をシミューレートした加熱速度で冷延加工材の再結晶焼鈍を行い深 絞り性試験と金属学的考察から基礎的検討を加えるとともに,結果の製造技術への応用を図った。

また,自動車の安全性や軽量化に対処するための高張力冷延鋼板にっいては,良好なプレス成形 性を実現するための深絞り性 や他の機械的特性に関する基礎的知見とあわせ,連続焼鈍工程に マッチしたミク口組織の制御方法にっいて金属学的に検討した。本論文は以下のようにまとめら れる。

  第1章は,本研究の背景をなす冷延鋼板開発の歴史,自動車用冷延鋼板に要求される諸特性お よび製造技術にっいて概括した。そして,本研究が主要目的とする,深絞り性に優れた冷延鋼板 製造のための工学研究の意義にっいて論述した。

  第2章は ,冷 延鋼 板の 基本 合 金元 素で あるCとMnに っい て ,冷 延― 焼鈍 後の深絞り性を,

ランクホード値と呼ばれる塑性異方性比(r値)と金属学的因子である再結晶集合組織で評価し,

    − 99ー

(2)

その添 加効果 にっいて調べた。まず,低炭素鋼および極低炭素鋼にMnをO.03〜0. 80%添加し た後,湿H:中で脱炭処理を行いC濃度を0. 001〜0. 10%の間で5段階に調整し,微細パーライト から粗大セメンタイトまで,さまざまな炭化物形態を有する鋼をっくる。これを一定圧延率で冷 延したのち,箱焼鈍および連続焼鈍を模擬した加熱速度で再結晶化焼鈍を行った。深絞り性は調 質圧延 後に引 張試験を 行い, 圧延方向 に対し00,450,90°の3方向に対するr値の加重平均値

( 平均r値 )で 評 価 した 。 低 炭 素冷 延 鋼 板の 深 絞 り性 はMnの 増加と ともに, また, 一定Mn 濃 度で はCの増 加 と とも に 著 し く低 下 し た。 す な わち ,r値はCとMn両 元素が固 溶かっ 共存 下で低下すること,そして低下傾向は極低C濃度域で顕著になることが明らかとなった。一方,

X線 積分反 射強度で 評価した 再結晶 組織の集 合度は ,r値 に対応し てC,Mnの固溶 共存下 で低 下し再 結晶組 織がランダム化した。すなわち,Mnの回復抑制効果が減退し,回復・再結晶過程 における再結晶核の方位選択性が小さくなったためにランダム化が進行した。このとき,固溶C はフェ ライト 中で固溶Mnとなん らかの相 互作用 (C・Mn相互作用 )を有 し,この ため, 再結 晶集合 組織の ランダム 化→鋼 板圧延面 における(111}面の発達抑制→r値低下,にいたったも のと考えられた。以上より,冷延鋼板の深絞り性を高める方策として,@鋼中S量などを考慮に い れてCとMnの 添 加バ ラ ン ス を設 計 し ,◎CとMnの 固 溶量 を 適 度に 保 持 すべ く 冷 延前の 炭 化物形態を加工,熟処理により制御し,かっ,◎冷延後の焼鈍温度と加熱速度を最適化すること により ,回復 ・再結晶 時のC、Mn相互 作用を抑制することが重要であることを明らかにした。

  第3章 は, 第2章で 侵 入 型 溶質 元 素Cと 置 換 型溶 質 元 素Mn間の 相互作用 が冷延鋼 板の深 絞 り性に 重大な 影響をおよぼすことが明らかになったことから,Mn以外の置換型溶質元素である Cr,Si,PとCの組み 合わせ がどのよ うに深絞 り性に 影響をお よぼすかにっいて同様な手法に より実験した。

  CrはMn以 上 に回 復 過 程 の抑 制 効 果が あ る 。再 結 晶 に際し てf111}面方位の 選択的 核発生 が 顕在 化 す る結 果 ,Cr添 加 によりr値が高 く維持 される。 しかし ,固溶Cが共存 するとMnと 同様な 相互作 用が生じ ,冷延 鋼板の深 絞り性が急激に低下する。SiとPの場合は,冷延鋼板の 深絞り 性への 影響は小 さく,Cとの 相互作用 も見ら れない。 また,PはC・Mn相互 作用を 軽減 するよ うに働 く。以上 の実験 事実は, 同じ置換 型溶質 元素でもMn,CrなどCと親 和カの 大き い炭化 物形成 型の元素 は相互 作用を有 し,黒鉛安定化型のSiやPは相互作用しないことを示唆 してい る。そ して,C、Mn相 互作用やC‑Cr相互作 用は回復 ・再結 晶時に再 結晶集合 組織の ラ ンダ厶化を促進し,{111)集合組織の発達を阻害する,として体系的に考察できた。相互作用の 金属学 的メカ ニズムは 回復・ 再結晶時 に形成されると推定される置換型溶質原子(M)と侵入型 溶質原 子(I)のMI、dipoleまたはMI・complexと考えら れ,こ れが回復時に転位の上昇運動

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を拘束 し,再結晶挙動を変化させるものと推測された。dipoleが転位の運動を阻害する効果を 検証す るため,再結晶温度付近の500℃で引張強度を測定した結果,Cを固溶させた場合は著し く 強 度 が 増 加 し た 。 こ れ は 間 接 的 な が らC‑Mn dipoleの 存 在 を 証 明 す る も の で あ る 。   これらの成果を基に,深絞り性に優れた軟質および高張力冷延鋼板を製造するための溶質成分 設計の指針が得られた。

  第4章では,前章までに得られた,冷延鋼板の深絞り性および再結晶集合組織に影響する,@

溶質成分,◎冷延前のフェライトおよび炭化物組織,◎焼鈍条件など製造工程上の要因,に関す る基礎的知見を製造技術に適用し,箱焼鈍法および連続焼鈍法で深絞り性に優れた自動車用冷延 鋼板を製造するための開発研究にっいてのべた。

  箱焼鈍 法による 軟質冷 延鋼板お よび高 張力冷延鋼板の製造においては,前者ではCとMnの深 絞り性 改善効果 ,後者 ではSi,Mn,Pな どの深絞り性と強度の改善効果を考慮した溶質成分の 設計とそれにマッチした熟処理プ口グラムを開発した。一方,連続焼鈍法では急速加熱が特徴で あり,圧延加工工程との組み合わせが重要である。すなわち,軟質冷延鋼板の製造においては,

急速加 熱焼鈍下 でC‑Mn相互 作用が小 さくな るように 成分を 調整した鋼にっいて,熱延および 巻取り条件を最適化して炭化物組織の制御をはかり深絞り性を向上させた。また,高張力冷延鋼 板の製造では,連続焼鈍水焼入れ法を新しく開発した。すなわち,焼鈍後の水焼入れ条件を種々 変化させてミク口組織と機械的性質の制御に関する基礎的な検討を行い,これに基づき,引張強 さ35〜150kgf /mm の広い強度範囲の種々の鋼板にっいて,深絞り性,高延性低降伏比など優れ たプレス成形性と強度を有する製品の製造方法の開発を行った。自動車用鋼板は,最近これら連 続 焼 鈍 法 に よ る 製 品 へ と 移 行 し , 自 動 車 の 性 能 向 上 に 寄 与 し て い る 。   第5章は,本論文で得られた結果を要約し,総括したものである。

学位論文審査の要旨

  主として自動車ボディに使われる冷延鋼板の最も重要な品質特性はプレス成形性である。プレ ス成形性は深絞り性,張り出し性,伸びフランジ性,曲げ性などの諸材質特性,表面潤滑性など,

   

   

井 田

石 成

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

からなる総合性状であるが,このうち特に材料の深絞り性が基本的な成形特性であると考えられ ている。

  本研究は冷延鋼板の深絞り性に影響をおよぼす諸因子のうち,特に添加元素に注目し,侵入型 溶質 元素 であ るCと置 換 型溶質元素であ るMn,Cr,P,Siの組み合わ せを変えてその効果を検 討した。すなわち,実工程の箱焼鈍法および連続焼鈍法を模擬した加熱速度で冷延加工材の熟処 理を行い,深絞り性試験と金属学的考察から基礎的検討を加えるとともに,結果を製造技術ヘ応 用した。本論文の成果は以下のようにまとめられる。

  第1章は,本研究の背景 をなす冷延鋼板開発の歴史,自動車用冷延鋼板に要求される諸特性お よび製造技術にっいて論述した。

  第2章 は, 冷延 鋼板 の 基本 合金 元素 であ るCとMnに っい て, その 添加 効果 を塑 性異方性比

(r値)と再結晶集合組織で評価した。

  ま ず, 低炭 素鋼 およ び極 低炭 素鋼 にMnを添 加し た 後,C濃度を調 整して,微細パーライト から粗大セメンタイトまで,さまざまな炭化物形態を有する鋼をっくった。これを一定圧延率で 冷延したのち,.箱焼鈍および連続焼鈍を模擬した加熱速度で再結晶化焼鈍を行った。深絞り性(ま 調質 圧延 後にr値 を測 定 して 比較 した 。低 炭素 冷延 鋼板の深絞り性 はMnの増加とともに,ま た , 一 定Mn濃 度 で はCの 増 加 と と も に 著 し く 低 下 し た 。 す な わ ち ,r値 はCとMn両 元素 が 固溶かっ共存下で低下すること,その低下傾向は極低C濃度域で顕著になることを明らかにした。

一方,X線積分反射強度と してもとめた再結晶組織の集合度もC,Mnの固溶共存下で低下した。

すなわち,Mnの回復抑制効果が減退し,回復・再結晶 過程における再結晶核の方位選択性が小 さくナょったためにランダム化が進行したものと考えられた。このとき,固溶Cはフェライト中で 固溶Mnと なん らか の相 互作 用(C・Mn相互 作用 )を 有 し, この ため ,再 結晶 集合 組織のラン ダム 化→ 鋼板 圧延 面に おけ る(1川面 の発 達抑 制→r値低 下, に至 った もの と推 測された。

  第3章 では ,Mn以外 の 置換 型溶 質元 素で あるCr,Si,PとCの組み 合わせがどのように深絞 り性に影響をおよぼすかにっいて検討した。

  CrはMn以 上 に 回復 過程 の抑 制効 果が あ り, 再結 晶に 際し て(1川 面 方位 の選 択的 核発 生 が顕 在化 する 結果 ,Cr添加 によ りr値 が高 く維 持さ れる 。し かし ,固 溶Cが 共存 するとMnと 同様な相互作用が生じ,冷延鋼板の深絞 り性が急激に低下した。SiとPの場合は,深絞り性へ の影 響は 小さ く,Cと の 相互 作用 も見 られ ない 。ま た,PはC、Mn相 互作用を軽減するように 働く 。以 上の 実験 事実 は、 同じ 置換 型溶 質元 素で も ,Mn,CrなどCと親和カの大きい炭化物 形成型の元素は相互作用を有し,黒鉛安定化型のSiやPは相互作用しないことを示唆している。

  C・Mn相互 作用 の金 属 学的メカニズム は,回復・再結晶時に形成される置換型溶質原子(M)     ‑ 102ー

(5)

と 侵入型溶 質原子 (I) のMI・dipole, またはMI,complexと 考えられ,これが回復時に転位 の上昇運動を拘束し,再結晶挙動を変化させるものと推測された。

  第4章では,冷延鋼板の深絞り性および再結晶集合組織に影響する,@溶質成分,◎冷延前の フェライトおよび炭化物組織,に関する基礎的知見を製造技術に適用し,箱焼鈍法および連続焼 鈍 法 で 深絞 り 性 に優 れ た 自動 車 用 冷延 鋼 板 を 製造 す る ため の 開 発研 究 に っい て のべ た。

  箱焼鈍法 による 軟質冷延 鋼板お よび高張 力冷延鋼 板の製 造におい ては, 前者ではCとMnの 深 絞り性改 善効果 ,後者で はSi,Mn,Pなどの深絞り性と強度の改善効果を考慮して溶質成分 の 設 計 を 行 う と 同 時 に , そ の 成 分 に 適 合 し た 熱 処 理 プ ロ グ ラ ム を 開 発 し た 。   一方,連続焼鈍法では急速加熱が特徴であり,圧延加工工程との組み合わせが重要である。す なわち,軟質冷延鋼板の製造においては,熱延および巻取り条件を最適化して炭化物組織の制御 をはかり深絞り性を向上させた。また,高張力冷延鋼板の製造では,連続焼鈍水焼入れ法を新し く開発し,引張強さ35〜150kgf /mm°の広い強度範囲の種々の鋼板にっいて,深絞り性,高延性,

低 降 伏 比 な ど 優 れ た プ レ ス 成 形 性 を 有 す る 製 品 の 製 造 方 法 を 確 立 し た 。   第5章は,本論文で得られた結果を要約し,総括したものである。

  これを要するに,本論文は,冷延鋼板の深絞り性向上に関して金属組織学的検討を加え,高い プレス成形性を有する冷延鋼板の製造法を確立したものであり,鉄鋼材料製造学の進歩に寄与す る ところ大 である。よって著者は,博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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