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博 士 ( 農 学 ) 澤 内 大 輔

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 澤 内 大 輔

学 位 論 文 題 名

自 由 貿 易 協 定 が 日 本 の 農業 生 産 お よび 農 業 環 境 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る経 済 分 析

学 位 論 文 内 容 の 要旨

  1990年代後半以降、WTO(World Trade Organlzation;世界貿易機関)交渉の停滞などを背景 に、自由貿易協定(Free Trade Agreement; FTA)の締結件数が世界的に増加している。FTAは、

関税撤廃などにより、特定国間で貿易を自由化する取り決めである。日本では、農産物の 関税が非農産物の関税に比べて高い。このため、FTAなどの貿易自由化交渉では、農産物 関税の撤廃・削減が、交渉の重要争点となる。とりわけ、日本がオーストラリア(豪州)

などの農産物輸出国との間でFTAを締結し、関税が撤廃されると、日本では農業生産が減 少するなどの影響が見込まれるからである。さらに、貿易自由化は、農業生産に影響を及 ぼ すのみな らず、農業生産の変化を通じて農業環境にも影響を及ぼす点も注目される。

  本研究の課題は、FTA締結が日本の農業生産および農業環境に、どのような影響を及ぼ すのかという点を、経済学的に分析することである。分析対象とするFTAは、日本の農業 生 産 に 大き な影 響を及ぼ すと見込ま れる日本 ・豪州・ ニュージ ーランド(NZ)間FTAと した。農業生産に及ぽす影響については応用一般均衡モデルで分析し、また農業環境に及 ぼ す 影 響 に つ い て は 農 業 環 境 指 標 の1っ で あ る 余 剰 窒 素 量 の 変 化 で 分 析 し た 。   第2章では、日本、豪州、NZ各国における経済、農業および貿易政策などの動向を整理 し た。豪州 とNZは日本に比べて経済規模が小さく、豪州とNZにおける日本産品の輸入関 税 は、既に 低い水準 となって いる。こ のことから、日本は、豪州およびNZとFTAを締結 しても、日本から豪州.NZへの工業製品輸出の大幅な拡大は、見込み難い点が示唆された。

また、日本では、コメ、小麦などの農産物に高関税品目が残存している。これら高関税品 目 の農産物 関税が撤廃されると、農業生産に国際競争カを有する豪州とNZの両国から日 本への農産物輸出が大幅に増加し、日本国内の農業生産が減少すると見込まれる点も示唆 された。

  第3章では、農産物貿易が農業環境に及ぼす影響に関する既存研究を整理した。農産物 貿易の自由化が農業環境に及ぼす影響は、農業生産の変化に伴った外部効果の変化を「限 界評価」するものであると経済学的には捉えるニとができる。しかしながら、日本の既存 研究において、このような「限界評価」の視点からの分析が、殆どなされていなぃ点を指 摘した。

  第4章では、本研究の分析手法である応用一般均衡分析および余剰窒素分析の枠組みを 概 説した。FTA締結が農 業生産に 及ぼす影 響を計測 する際に用 いるGTAP(Global Trade Analysis Proect)モデルは、1つの品目に焦点を当てた経済モデルである部分均衡モデルと は異なり、複数の品目を分析対象とした経済モデルである応用一般均衡モデルの1っであ

‑ 887

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る。GTAPモデルは、(DFTA締結などの貿易分析として世界で最も広く用いられてぃ`る、

◎他の応用一般均衡モデルと比較して、農業部門がより細分化され、また分析可能な国・

地域数も多いなどの特徴を有している。

  余剰窒素を指標とした農業環境への影響分析には、OECD Soil Surface Nitrogen Balanceを 用いる。余剰窒素量は、農業生産における養分収支に着目した環境指標であり、肥料など として農地に投入される窒素量と、農作物などとして農地から持ち出される窒素量との差 として定義される。本研究では、農地面積当たり余剰窒素量の増加を、農業由来の環境負 荷ポテンシャルの上昇と捉える。

  第5章で は、日本 ・豪州・ NZ間で全部 門の関税を撤廃するFTAを締結した場合、日本 の農業生産に、どのような影響が見込まれるのかを応用一般均衡モデル(GTAPモデル)を用 いて分析した。日本のGDP(国内総生産)は、FTA締結前と比較して0.05%増加する一方、

農業産 出額は5.0% 減少する 。日本の 農業部門 別にみると、小麦生産が最も大きく減少

(−63.9%)する。

  豪州のGDPは0.02%減少 し、NZのGDPは0.15%増加する。豪州の農業産出額は8.7%増 加し、NZの農業産出額も9.6%増加する。農業部門別に産出額増加率をみると、豪州では コ メ 生 産 が 最 も 高 く(466.7% ) 、 NZで は 生 乳 生 産 が 最 も 高 い(24.4% ) 。   農産物 貿易への 影響をみると、豪州およびNZの二国からのみにおいて、日本への農産 物輸出額が最大で371.2%増加し、またカナダやアメリカなどの第三国からの日本への農産 物輸出額が最大で23.8%減少する。

  第6章で は、日本 ・豪州・NZ問で全部 門の関税 を撤廃す るFTAを締結し た場合、日本 の農業環境にどのような影響が見込まれるかを、余剰窒素量の変化で分析した。日本では、

FTA締結前と比較して、投入窒素量および産出窒素量が5.9%および8.1%減少し、その結 果として余剰窒素量は3.9%減少する。豪州では、投入窒素量および産出窒素量が2.0%およ び2.3%増加し、余剰窒素量は1.5%増加する。NZでは、投入窒素量および産出窒素量が4.4% および3.5%増加し、余剰窒素量は44.6%増加する。

  農業産出額1%の変化に対し、余剰窒素量が何%変化するかを「限界評価」する環境負荷 の農業生産弾力性は、日本では0.8である。この結果は、農産物貿易自由化による農業生 産の減少に比べて、余剰窒素でみた農業環境負荷が、大幅には改善しない点を示している。

環境負 荷の農業 生産弾力性は、豪州が0.2、NZが4.7である。っまり、豪州とNZでは農業 生産が1%増加すると、余剰窒素でみた農業環境負荷がそれぞれ0.2%、4.7%増加する。

  以上の ように、 本研究は 、日本・ 豪州・NZ間FTA締結が、日本の農業生産および農業 環境にどのような影響を及ぼすのかとぃう点を、経済学的に分析したものである。本研究 は、応用一般均衡分析の枠組みを用いて、農産物貿易の自由化が農業環境に及ぼす影響を 農業生産の変化に伴った外部効果の変化として「限界評価」を試みた日本初の研究である。

本研究の分析結果は、今後、日本がFTA締結交渉をすすめて行く上での基礎データとして も有用だと考える。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

自由貿易協定が日本の農業生産および 農業環境に及ぼす影響に関する経済分析

  本 論文 は7章 か らな り 、図29、表54、文 献138を 含 む 頁数135の和 文 論 文で あ り、

別に参考論文5編が付されている。

  1990年代後半以降、世界貿易機関(World Trade Organization; WTO)交渉の停滞などを 背景に、自由貿易協定(Free Trade Agreement; FTA)の締結件数が世界的に増加している。

FTAは 、 関税 撤 廃 など に より 、 特 定国 間 で貿 易 を 自由化す る取り決 めである。FTAな ど の貿易自 由化交渉 では、農 産物関税 の撤廃・ 削減が、し ばしば交 渉の重要争点とな る 。 と りわ け 、 日本 がオー ストラリ ア(豪州 )などの 農産物輸 出国との間 でFTAを締 結 し、関税 が撤廃さ れると、 日本では 農業生産 が減少する などの影 響が見込まれる。

さ らに、貿 易自由化 の影響に よって、 家畜頭数 などが変化 すれば、 家畜糞尿排出量な ど に 起 因し た 環 境負 荷発生 量も変化 する。こ のため、FTA締結が農 業環境に及 ぼす影 響も注目される。

  本 研究 の 課 題は 、FTA締結が日 本の農業 生産およ び農業環 境に、ど のような影 響を 及 ぼ す のか と い う点 を、経 済学的に 分析する ことであ る。分析 対象とするFTAは、日 本 の農業生 産に大き な影響を 及ぼすと 見込まれ る日本・豪州・二ユージーランド(NZ) 間FTAである。

  第2章 では 、 日 本、 豪州、NZ各 国におけ る経済、 農業およ び貿易政 策などの動 向を 整 理した。 豪州とNZは 日本に比 べて経済 規模が小 さい点、日 本では、 コヌ、小麦など の農産物に高関税品目が残存している点などを明らかにした。

  第3章 では 、 農 産物 貿易が農 業環境に 及ぽす影 響に関す る既存研 究を整理し た。経 済 学的見地 から、農 産物貿易 の自由化 が農業環 境に及ぽす 影響は、 農業生産の変化に 伴 っ た 外 部 効 果 の 変 化 と し て 分 析 さ れ る 点 な ど を 明 ら か に し た 。   第4章では、本研究の分析手法であるGTAP(Global Trade Analysis Proect)モデルおよ び 余 剰 窒素 分 析 の枠 組 みを 整 理 した 。 応用 一 般 均衡分 析モデル のひとつで あるGTAP モ デルは、 農業部門 がより細 分化され 、分析可 能な国・地 域数も多 いなどの優れた特 徴 を有して いる。ま た、本研 究に用い る環境指 標は余剰窒 素量だけ に限定され、余剰 窒 素 量 のデ 一 夕 作成 に はOECDSoilSurfaceNitrogenBalanceの データベ ースが用 られ る点などを指摘した。

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貴彦 男 康克 史 本村 南 山出 長 授授 授 教 准教 教 査査 査 主副 副

(4)

  

第5章 では、日本 ・豪州.

NZ

間で全部門の関税を撤廃する

FTA

を締結した場合、

日本の農業生産に、どのような影響が見込まれるのかをGTAPモデルを用いて分析し た。日本のGDP(国内総生産)は、

FTA

締結前と比較して0.05%だけ増加する一方、

農業産出額は5.0%だけ減少する。日本の農業部門別にみると、小麦生産が最も大きく 減少(

‑63.9%)

する。っまり、F′

rA

締結が日本の農業生産に及ぽす影響は、GDPや産 出額の変化率からみて、日本経済全体および日本国内の他部門に及ぼす影響よりも大 きい点などが明らかとなった。

  

また、農産物貿易への影響をみると、豪州およびNZの二国からのみにおいて、日本 への農産物輸出額が最大で3 71.2%増加し、またアヌリカなどの第三国からの日本への 農産物輸出額が最大で23.8%減少する。っまり、

FTA

締結によって関税が撤廃されれ ば、FTA締結国以外の第三国側にとって、懸念される経済的影響が生じる点も示され た。

  

第6章 では、日本 ・豪州.

NZ

間で全部門の関税を撤廃する

FTA

を締結した場合、

日本の農業環境にどのような影響が見込まれるかを、余剰窒素量の変化で分析した。

農業産出額1%の減少に対し、余剰窒素量が何%減少するかを評価する環境負荷の農業 生産弾力性は、日本では0.8であった。っまり、日本では、農産物貿易自由化による農 業生産の減少に比べて、余剰窒素でみた農業環境負荷が大幅には改善しない点が示さ れた。

  

以上のように、本研究は、日本・豪州.NZ間FTA締結が、日本の農業生産および 農業環境に及ばす影響を、経済学的見地から分析したものである。本研究は、応用一 般均衡分析の枠組み内で、FTA締結が経済面のみならず、環境面に及ぼす影響をも含 めて明らかにしている点で、高く評価できる。また、本研究の分析結果は、今後、日 本 が

FTA

締 結 交 渉 を す す め て 行 く 上 で の 基 礎 的 知 見 と し て も 有 用 で あ る 。

  

よって、審査員一同は、澤内大輔が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を 有するものと認めた。

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