博 士 ( 工 学 ) 赤 澤 正 道
学 位 論 文 題 名
Characterization and Control of Surfaces and Interfaces of GaAs and Related Alloys (砒化ガリウムと関連混晶の表面・界面の評価と制御)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
シ リ コ ン を 利 用 し た 半 導体 集 積回 路は 、近 年め ざま しい 発展 を遂 げ、VLSIを生 産 す るに至った。その発展に対する高度情報化社 会からの要請は留まるところを知らず、
さ らなる高速化、高集積化にむけて、研究・開 発が行われている。しかし、その研究・
開 発 も 、 将 来 を 見 通 す と 限 界 が 見 え 始 め て お り 、 新 た な 方 策 が 模 索 さ れ て い る 。 砒化ガリウムおよびその関連混晶は、高い電 子移動度や直接遷移形のバンド構造とい ったシリコンには ナょい優れた物性をもち、高速・高周波デバイスや光電子デバイスにお い て実用化されており、光電子集積回路に適し た材料として期待されている。さらに、
量 子デバイスの研究においては最も研究されて いる材料であり、超高密度集積回路ある い は 全 く 新 し い 機 能 ・ を も っ 集 積 回 路 の 出 現 を 期 待 さ せ て い る 。 高集積化は、素子の微細化・高密度化を意味 し、それはすなわち半導体の表面・界面 の 半導体内部に対する割合の増加を意味する。 したがって、半導体材料の表面・界面の 特 性をよく知り、制御することは今後ますます 重要になって行くものと考えられる。と こ ろが、一般には、砒化ガリウムおよびその関 連混晶は、その表面・界面の制御が困難 であることが知ら れており、重要な課題として残されている。
本研究はこのような背景のもとで、砒化ガリ ウムおよびその関連混晶の表面・界面を 制 御する方法を見っけることを目的とした。具 体的には、表面・界面の性質を詳しく調 ベ 、DIGS (disorder‐induced gap state)モ デル に基 づい た超 薄膜 界面 制御 眉を 用 い て、絶縁体、金属、および他の半導体との界 面の電子物性を工学的に制御する方法を 検 討した。特に、絶縁体ー化合物半導体界面に おいては、従来はフェルミレベルがピン ニ ン グ さ れ る 原 因 と な っ て い た 、 界 面 準 位 の 低 減 に 成 功 し 、MISFETの 作 製 に も 成 功した。
全体は7章から成る。以下に各章の要旨を述 べる。
第1章 は序 論で ある 。本 研究の歴史的背景に っいて述べ、本研究の目的と本論文の構 成にっいてまとめ ている。
第2章 では 砒化 ガリ ウム およびその関連混晶 の表面・界面において一般に見られるフ ェ ルミレベルのピンニング現象とその機構に関 するモデル、および界面の特性の制御方 法にっいて述べて いる。
第3章 では 、本 研究 にお いて用いた、表面・ 界面の形成・分析・評価のための方法と その原理にっいて 述べている。
第4章 では 、一 般に は制 御が困難とされてい る、絶縁体と砒化ガリウムおよびその関 連 混晶との界面におけるフェルミレベルのピン ニングの除去法にっいて検討した結果に っ い て 述 べ て い る 。 こ こ では 、DIGSモデ ルに 基づ き、 界面 の制 御法 とし て、 シリ コ ン超薄膜を界面制 御層として用いる方法にっいて検討し、その形成法の最適化を行った。
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具 体 的 に は 、 光CVDに よ るSi02あ る い はSj3N4の 絶 縁 膜 と 、MBE成 長 に よ る GaAsお よ びInGaAsと の 界 面 を 、 超 高 真 空 中 で 、MBEシ リ コ ン 超 薄 膜 を 挿 入 して 形成 し、X線光 電子 分光 法によりその場表面観察す る方法で制御を試みた。結果と し て 、 シ リ コ ン 界 面 制 御 層 は 、Si´ 02−InGaAs界 面 に 対 し て 有 効 で あ る こ と が わか り、界面準位の低減に成功した。また、最適な厚さ のシリコン超薄膜は、下地の半 導体 とは擬似的な格子の整合を保ち、かっその上に堆積 される絶縁膜の形成時には、下 地の 半導体表面の乱れを防止して、結果的に絶縁体―半 導体界面の乱れを低減し、界面 準位 を低 減す るこ とが 明 らか とな った 。こ の結 果は 、界 面制 御の 指導 原理 とし たDIG Sモデ ルを 支持 する もの であ った。さらに、界面準位の 低減された絶縁体―半導体界面 を 応 用 し て 、InGaAsMISFETを 作 製 ・ 評 価 し た 。 作 製 し た MISFETは 、 界面 制御層無しで作製したものに比較してはるかに性能 がよく、前例の無い優れた安定 性 を も っ こ と が わ か っ た 。Ml SFETの 特 性 の 向 上 か ら 、 界 面 準 位 の 低 減 がMISデ バイ スの特性向上に重要であることが明らかとなるとと もに、シリコン界面制御層の有 効性が確か、められた。
第5章で は、 超高 真空 中の 一貫プロセスにより最適化 されたシリコン超薄膜界面制御 技 術 の 機 構 に 対 し さ ら に 詳 細 な 検 討 を 加 え 、 大 気 に さ ら し たInGaAs表 面 の 不 活 性 化お よび金属一半導体界面のショットキ一障壁高さの制 御への応用にっいて検討した結 果 に っ い て 述 べ て い る 。 大 気 に さ ら し たInGaAsは そ の 表 面 に 自 然 酸 化 膜 が 形 成 さ れ て お り 、DIGSモ デ ル に 基づ いて 考え ると 、こ の 自然 酸化 膜に よる 乱れ に起 因し た 表面 準位が、半導体表面フェルミレベルのピンニングの 原因になっており、その除去と 再酸化の防止こそが、半導体表面の不活 性化において重要であると考えられる。そこで、
表面 自然酸化膜の除去法にっいて検討した。その結果、 弗化水素による化学的表面処理 と 、 シ リ コ ン 超 薄 膜 と の 組 合 せ に よ っ て 、InGaAs表 面 の 自 然 酸 化 膜 を 除 去 し て 、 Si 02膜に より 表面 を不 活性 化することに成功し、超高 真空中の一貫プロセスで形成し た絶 縁体一半導体界面と同程度まで、界面準位を低減す ることができた。一方、これま で 困 難 と 考 え ら れ て き た 金属 ―GaAs界 面の ショ ッ トキ 一障 壁高 さの 人工 的制 御も 、 ドー プしたシリコン超薄膜界面制御層の利用により可能 であることを示し、その機構に っいて述べている。乱れの少ナょい金属 ―半導体界面を利用して、良好な特性をもっショ ットキーバリアダイオードの作製に成功 した。
第6章で は、 理論 的に 予測 されている、界面ダイポー ルの発生によるヘテロ界面パン ド不 連続量の制御にっいて検討した。界面ダイポールは 、砒化ガリウムおよびその関連 混晶 においても理論的には発生が予測されているものの 、実験的に確かめられた例はな かっ た。 しか し、 最近 に なっ て、 砒化 ガリ ウム と砒 化ア ルミニウムとの界面に、Si原 子層 を挿 入す るこ とに よ り、 界面 ダイ ポー ルが 発生 する こと をXPSによ る測 定に より 確認 したとの報告が出されたので、これに対し、再検討 を加えた。その結果、報告され たよ うな通常のエピタキシャル成長によるシリコン原子 層の挿入によっては、界面ダイ ポ ー ル は 発 生 し ナ ょ い こ と が 明 か と ナ ょ っ た 。 具 体 的 に は 、GaAs―AIAsお よ びIn GaAs−InAIAsヘ テ ロ 界 面 に っ い て 検 討 し 、XPS観 察 を 行 い 、 実 験 デ ー タ に 対し て理論計算による考察を行った。データの詳細ナょ 検討の結果、両界面にSi原子層 をMBE法に より 挿入 して も、 原子 が拡 散し てし まい 、 界面における6.ードーピングが 行わ れるだけであり、実際にはバンド不連続量の変化は 起こらないことがわかった。そ の証 拠として、試料表面での急峻なバンドの曲がりによ り、内殻準位ピークの半値幅お よび 価電子帯上端とのエネルギ一差が大きく変化してい ることを指摘し、これに独自の モデルで説明をっけた。
第7章にお いて、前章までの結果を総括し、まとめとした。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査 教 授 長 谷 川 英 機 副 査 教 授 田 頭 博 昭 副 査 教 授 福 井 孝 志 副 査 教 授 陽 完 治 副 査 教 授 雨 宮 好 仁
学 位 論 文 題 名
Characterization and Control of Surfaces and Interfaces of GaAs and Related Alloys (砒化ガリウムと関連混晶の表面・界面の評価と制御)
シリコン集積回路は、今世紀 後半に驚異的進歩を達成し、高度情報化社会の実現を可 能と し た。 数あ る半 導体材料のうち、シリコンでこれが可能となった 重要な理由の1っ として、シリコン酸化膜によル シリコン表面の性質がよく制御できることが挙げられる。
砒化ガリウムおよぴその関連 混晶は、高い電子移動度をもっ、直接遷移形のパンド構 造をもっ、基板が半絶縁性をも っ、高度のへテロ接合が形成できるなどといったシリコ ンにはない優れた物性をもった め、超高速デパイス、光電子デバイスに適した材料であ り、その特長を活かした高速電 子集積回路や光電子集積回路の実用化が進展しっっある。
さらに、これら材料は、精密を ヘテロ接合多層膜構造が実現できるため、それをいかし た先端量子デパイスの研究に、 欠くことのできない材料でもある。しかし、シリコンと 比較すると、これら材料は、そ の表面・界面の制御が困難であることが知られており、
重要な未解決の技術的課題とし て残されている。
集積回路の高性能化や高密度 集積化は、デバイス寸法の微細化によって達成される。
また、微細化により、電子の量 子力学的挙動が顕著となり、新しいデパイスの可能性が 開かれる。このような微細化さ れた領域では、半導体の表面・界面の性質が半導体内部 の性質に対して、より重要とな ってくる。従って、表面・界面を適切に制御することは、
砒化ガリウムおよび関連混晶を 用いたデパイスのさらなる高密度集積化を促進するため にも、また、新しい量子デパイ スを研究開発するためにも、今後ますます重要となる課 題であるといえる。
本論文は、このようナょ背景 のもとに、砒化ガリウムおよびその関連混晶の表面・界面 の性質を理解し、その物性を制 御することを検討したものである。全体は7章から成り、
各章の要旨と成果は、以下に述 べる通りである。
第1章 は 序 論 で あ り 、 本 論 文 の 歴 史 的 背 景 、 目 的 、 構 成 に つ い て 述 べ て い る 。 第2章で は、 砒化 ガリウムおよびその関 連混晶の表面・界面において一般的に見られ るフェルミ準位のピンニング現 象にっいて述ベ、本論文で界面制御の指導原理としてい るDIGSモ デ ル を はじ め とし て、 ピン ニン グの 機構 に関 する 従来 のモ デル にっ い て概 観している。また、さらに、従 来試みられた界面の物性の制御の手法にっいて述ぺてい る。
第3章で は、 本論 文において用いられた 表面・界面の形成・分析・評価の手法にっい
て、それら の原理と本論文で具体的に用いられたシステムの構成・ 性能にっいて述ぺて いる。
第4章 では 、砒化ガリウムおよびその関連混晶と絶縁体と の界面におけるフェルミ準 位のピンニ ング現象を、シリコン超薄膜界面制御層によって除去す る方法にっいて検討 し た結 果を 述べ てい る 。こ の方 法は 、分 子線 エピ タキ シャ ル(MBE)成長により結晶 成 長 し たGaAsま た はInGaAs層 の 上 に 、 超 高 真 空 中 で 、MBE法 に よ り 、 シ リ コ ン 超 蕁 膜 を 形 成 し て か ら 、 光 化 学 気 相 堆 積 (CVD) 法 に よ り 、Si02あ る い は S i3N4絶縁 膜で 覆う も ので ある 。プ ロセスの評価および最 適化には、界面の構造およ び 組成 をX線 光電 子分 光法 によ りそ の場 表面 観察 す る方 法お よぴ 容量―電圧(C−V) 法で界面の 電気的特性を評価する方法が用いられている。最適な厚 さのシリコン超薄膜 は、下地の 半導体とは擬似的な格子の整合を保ち、かっその上に堆 積される絶縁膜の形 成時に下地 の半導体表面の乱れを防止して、結果的に絶縁体―半導 体界面の乱れを低減 し、界面準 位を低減する役割を果たすことを明らかにしている。さ らに、界面準位の低 滅 さ れ た 絶 縁 体 ― 半 導 体 界 面 を 利 用 し て 、InGaAsを チ ャ ネ ル と す るMISFET を試作し、 高い実行移動度を実現すると共に、この種のデパイスで 従来から問題とされ てきたドレ イン電流のドリフト現釁にっいて、前例の無い優れた安定性を達成している。
第5章 では 、シリコン超薄膜界面制御技術の機構を、さら に発展させ、大気にさらし たInGaAs表 面 の 不 活 性 化 お よ び 金 属 一 半 導 体 界 面 の シ ョ ツ 卜 キ ー 障壁 高さ の制 御 へ応用する ことについて検討した結果を述ぺている。まず、すぺて の工程を超高真空中 で 行を う第4章の方法は、通常のデパイス製作工程に取り入 れにくいことに注目し、大 気 に さ ら し たInGaAs表 面 に 、 シ リ コ ン 超 薄 膜 界 面 制 御 層 技 術 を 適 用す るこ とを 検 討 し て い る 。 そ の た め 、 大 気 に さ ら し たInGaAs表 面 の 自 然 酸 化 膜 の除 去法 につ い て 検討 し、 弗酸 によ る 化学 的表 面処 理と 表面 の化 学量 論的 組成 の制御と、MBE法によ る シ リ コ ン 超 冓 膜 形 成 と の 組 合 せ に よ っ て 、InGaAs表 面 の 自 然 酸 化膜 を完 全に 除 去すること に成功し、界面準位を超高真空中の一貫プロセスと同程 度までに、低減する ことに成功 している。次に、シリコン超薄膜界面制御層技術を金属 ―半導体界面に適用 す る こ と を 検討 して いる 。す なわ ち、 金属 ―GaAs界 面で は 、こ れま でフ ェル ミ準 位 のピンニン グ現象により、ショッ卜キー障壁高さが一定値をとることが知られているが、
ドープした シリコン超薄膜界面制御層を挿入することによりその人 工的制御が可能であ ることを実 験的に示し、その機構について述ぺている。
第6章 では 、シリコン超薄膜界面制御層により、ヘテロ接 合のパンド不連続量を制御 する可能性 について検討している。砒化ガリウムおよぴその関連混 晶のヘテロ界面に、
IV族原子層 を挿入すると、界面に化学結合に基づく真性ダイポール が発生し、パンド不 連続量が変 化することが理論的に予測され、かっ、実験的にも、砒 化ガリウムと砒化ア ル ミニ ウム との 界面 に 、Si原子 層を 挿入することにより、 パンド不連続量が変化する こ とを 、光 電子 分光 (XPS)法 によ り確 認し たと の 報告 がす でに なされている。そこ で 、 GaAs― AIAsお よ ぴ InGaAs− InAIAsの 2種 類 の へ テ ロ 界 面 に 、 シ リコ ン超 薄膜 を挿 入 する こと によ る電 子物 性の 変化 を、XPS法 で観察し、実験デー タに対して 理諭計算による考察を加えた。この結果、いずれの界面 でも、見かけ上、パ ン ド不 連続 量が 変化 し たよ うに 見え るが 、XPSス ペ クト ルに は、 内殻準位ピークの半 値幅の増大 および内殻準位と価電子帯上端とのエネルギー差の変化 といった、異常な振 舞 い が 見 ら れ 、 結 局 、Si原 子 屠 をMBE法に より 挿入 して も 、高 温で ある ため 原子 が 拡 散し てし まい、界面における6−ドーピングが行われるだ けで、パンド不連続量の変 化は生じな いという新しいモデルに到達している。このモデルでは 、パンド不連続量の 見 かけ の変 化は、6−ドーピングによる試料表面での急峻な パンドの曲がりにより生ず るが、これ を定量的に評価し、実験的に観測された異常性を定量的 に説明することに成 功している 。
第7章 に お い て は 、 本 論 文 で 得 ら れ た 結 果 を 総 括 し 、 ま と め と し て い る 。 以上のよ うに本論文は、砒化ガリウムおよびその関連混晶の表面 ・界面の評価と制御 について、 系統的な研究を進め、いくっかの重要を知見を得たもの であり、半導体工学 の進歩に寄 与するところ大である。
よって著 者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格 あるものと認める。
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