博士(工学)澤井 学位論文題名
高強度薄鋼板の機械的 I 生質に関する基礎的研究 学位論 文内容の要旨
巌
高強 度薄 鋼板は ,主と して自 動車用 材料 として 開発が 進めら れて きた。 これら材料の研究開発 の 社 会的 要請の 背景と して, 当初 は安全 性の向 上を目 的と し,っ いで, 第1次石油 ショッ クを契 機 と した 燃 費 改 善 の ため 重 量 の 軽 量化 , さ ら に 最近 は自 動車の 快適性 の追求 とC02廃棄 ガス対 策が 大きな 課題と なっ ている 。その 解決の ーっ として 自動車 用薄鋼 板の高 強度 化による一層の軽 量化 と使用 鋼材量 の低 減化が 求めら れている。こ.うした材料の高強度化は主として,固溶強化,
析出 硬化お よび相 変態 による 強化な ど組織 制御 により 進めら れてき た。し かし ,材料の高強度化 が進 むに伴 い逆に 伸び が減少 するな ど加工 性の 劣化が 新たな 課題と して提 起さ れ,強度と同時に 延性 にも優 れた高 強靱 鋼板の 開発が 強く要 請さ れてい る。こ の様な 背景か ら, 本論文では,引張 り 強 度が80kgf /mm2以 上 の 高 強 度か っ30%以 上 の 伸 び を 有す る 従 来 の 高強 度薄鋼 板より 優れ た材 料を開 発する こと を目的 として ,加工 誘起 相変態 による 伸びの 向上と 加工 誘起相変態発現の ため の残留 オ―ス テナ イトの 生成条 件およ び残 留オー ステナ イトを 含有す る鋼 板の機械的特性向 上 の た め の 熱 処 理と 合 金 元 素 の効 果 を 明 ら かに し て い る 。 本論 は9章 か ら構 成 さ れ て いる 。 第1章は 序論で ,本 研究を 遂行す るため の社会 的背 景および高強度薄鋼板の開発経緯を説明し,
さら に残留 オース テナ イト相 とべー ナイト やマ ルテン サイト 相への 変態誘 起に よる塑性減少との 関連 および 研究目 的を 述べて いる。
第2章 では, 従来の 炭素鋼 の熱 処理法 では得 られな かった ,多 量の残 留オー ステナ イト を得る 方 法 とし て,オ ーステ ナイト 単相 領域, または オ―ス テナ イトと フェラ イト2相共 存領域 で焼鈍 後 , 引続 き一定 温度で 均熱処 理す る2段 熱処 理法を 見い出 し,従 来の 焼き入 れ及び 徐冷熱 処理法 と比 較し新 熱処理 法の 長所を 論じて いる。 さら に,鋼 材の機 械的性 質に及 ぼす 残留オーステナイ ト相 の影響 にっい て, 従来の 研究を 検討し ,薄 鋼板の 伸び向 上に残 留オー ステ ナイト相の制御す る熱 処理が 有益か っ新 しい技 術であ ること を示 した。
第3章 では, 加工用 薄鋼板 にお ける残 留オー ステナ イト相 の生 成に及 ぼす炭 素,シ リコ ン,マ ンガ ン,ニ ッケル およ びク口 ムの各 元素濃 度の 影響を 明らか にして いる。 炭素 はオーステナイト
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相 に 濃化 する こ とに よル オ ーステナ イト相を安定化さ せ,シリコンおよび マンガンはオース テナ イ ト 相へ の炭 素 濃縮 を助 長 すること を確認し,残留オ ーステナイト相の生 成には1.O%以上 の炭 素 を オー ステ ナ イト 相に 濃 化さ せる 必 要が ある こ とを 明確 に した 。
第4章で は, 残 留オ ース テ ナイ ト相 を 多く 生成 す るた めの2段熱 処 理法 にお け る1次 均熱 条件 お よ び2次 均熱 条件 に っい て論 述 して いる 。 残留 オー ス テナ イト 相 の生 成は1次均熱過程で は主 に 均 熱温 度に 強 く影 響さ れ ,ま た2次 均熱 過 程で は均 熱温度および均熱時 間に著しく影響を 受け る こ とを 示し た 。と くに1次均 熱 温度 は, 均 熱時 の変 態過程におけるオー ステナイト相への 炭素 の 濃 化と ,オ ― ステ ナイ ト 相か らの 炭 素の 拡散 に よる濃度減少 割合に大きく影響 し,また2次均 熱 温 度お よび 加 熱時 間は べ イナイト 変態の割合とべイ ナイト変態に伴う未 変態オーステナイ ト相 中 へ の濃 化炭 素 量を 律速 す るこ とを 明 らか にし て いる 。
第5章 で は,2段熱 処理 法 にお ける 炭 素鋼 中の 残 留オ ース テ ナイ ト相 生 成機構にっいて論 述し て い る。 残留 オ ース テナ イ ト相は1.O%以上の炭素の 濃化によって安定化 される。この炭素 の残 留 オ ース テナ イ ト相 への 濃 化は,ベ イナイト変態過程 でべイナイト相の相 境界に排出された 炭素 は シ リコ ンに よ る炭 化物 形 成の抑制 効果の作用の結果 ,排出炭素は隣接す る未変態オーステ ナイ ト 相 中に 拡散 す るこ とに よ り濃化さ れることを明示し ,多量の残留オース テナイト相を生成 させ る た めの2次均 熱処 理 過程 を提 案 した 。
第6章 で は, 残留 オ ース テナ イ ト相 を有 す る鋼 板の 機械的特性に及ぼす 熱処理の効果とし て,
実 際 の鋼 板生 産 過程 にお け る製 造条 件 の決 定要 因 であ る1次 均熱 温 度お よび加熱 時間ならびに2 次 均 熱温 度お よ び加 熱時 間 の影響に つL、て考 察している。引張 り強度は1次均熱温度の上昇 と共 に 増 大し , 伸び は( フ ェラ イト 十 オー ステ ナ イト )2相 共存 領 域のA3変 態 点よ り幾 分 低い 温度 で1次均 熱 処理 する こ とに より 最 大と なり ,1次 均 熱時 間は 引 張り 強度 お よび伸びに殆ど影 響し な い こと を示 し てい る。 一 方,2次均 熱温 度 の上 昇お よ び2次 均熱 時間 が 長くなるに従い引 張り 強 度 は低 下し , 伸び は一 定 の2次 均熱 温度 お よび 時間 に対して最大となる ことを明らかにし た。
さ ら にこ れら 機 械的 性質 は マルテン サイト支配領域, 低炭素ベイナイト領 域および残留オー ステ ナ イ ト減 少領 域 の3領 域に 分割 し て変 化す る こど を見 いだした。また,最 良の機械的特性を 示す 鋼 板 材料 にっ い て実 用製 品 と同一寸 法のプレス成型試 験を行った結果,優 れた成型性を有す るこ
とを確認している。
第7章 で は, 機械 的 性質 に及 ぼ す変 形温 度 の影 響にっいて検討して いる。残留オース テナイト 相 は 広範 囲に わ たっ て安 定性し ており,その結果 ,残留オーステナイ ト相の変態誘起塑 性効果に 起 因 して 伸び 憾 変形 温度150℃付近で最大 となり,この変態 による誘起塑性は 室温から300℃の温
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度範囲において発現することを示した。
第8章では,第7章までの研究により確立した高強度薄鋼板の機械的性質向上のための金属組 織制御,製造条件を考慮した生産ラインを応用し開発試験を遂行し,鋼板全体にわたって,本研 究 で 明 ら か に さ れ た と 同 等 の 材 料 特 性 を 有 す る こ と を 確 認 し て い る 。 第9章は本論文の結論であり,各章を総括している。
学位論文審査の要旨 主査 教授 高橋平七郎 副 査 教 授 石 井 邦 宜 副 査 教 授 成 田 敏 夫 副査 教授 丸川健三郎
本論文は,高強度かつ加工性など機械的性質に優れた高強靱鋼板の開発を目的とし,加工誘起 相変態による伸びの向上と加工誘起相変態発現のための残留オ―ステナイトの生成条件および薄 鋼板 の機 械 的特 性向 上の た めの 熱処 理と 合金 元 素の 効果 を明 らか に した ものである。
まず,多量の残留オーステナイト相を得る2段熱処理法を見出しこの熱処理により制御した残 留オーステナイト相 からなる薄鋼板は優れた機械的特性を有することを明らかにしている。
次に,新しく見出した2段熱処理法で得られる残留オーステナイト相の生成に及ぼす炭素,珪 素などの添加元素の効果を検討し,残留オーステナイト相は同相への炭素の濃化により安定化さ れ , 珪 素 お よ び マ ン ガ ン は そ の 炭 素 濃 化 を 助 長 す る こ と を 明 確 に し た 。 さらに,多量の残留オーステナイト相生成機構にっいて考察し,炭素の残留オーステナイト相 への濃化は,ベイナイトヘの変態過程で排出された炭素が隣接の未変態オーステナイト相中に拡 散濃化されること,また,適切な2次均熱処理温度および時間の設定によって濃縮炭素濃度を制 御 し 安 定 な 残 留 オ ー ス テ ナ イ ト を 得 る こ と が 可 能 で あ る こ と を 示 し た 。 最後に,薄鋼板の機械的特性と組織との関連にっいて検討し,伸びは残留オーステナイト相の 塑性変形過程に伴う変態誘起効果に起因して生じ,機械的性質は残留オーステナイト相の量に依 存し,マルテイサイト支配領域,低炭素ベイナイト領域および残留オーステナイト減少流域の3 領域に分かれて変化することを示すと共に,実際の応用試験により,本方法で得られた薄鋼板は
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優れた加工特性を有することを確認した。
以上のように,本研究は,新しい2段熱処理法による残留オーステナイト組織の制御により実 用薄鋼板の高強靱化を可能にし,またその制御機構を明らかにしたものであり,この成果は,金 属材料工学に寄与するところ大なるものがある。
よ っ て 著 者 は , 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
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