博 士 ( 工 学 ) 沼 澤 潤 二
学 位 論 文 題 名
垂 直 磁 気 ヘ ッ ド の 高 感 度 化 と 画 像 記 録 へ の 応 用 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
磁気記録は情報の記録手段として不揮発性,長期間安定性,記録再生の高速性・広帯域 性,低コス卜など優れた点を有し,特に音声・画像・各種デー夕等の大容量記録装置に用 いられている.テレピ放送は多量の動画像と音声情報を収録,加工,再生,保存すること が必要な分野であるため磁気記録装置は必要欠くぺからざるものとなっている,近年情報 の多様化,高品質化にともなって記録すべき画像情報量は飛躍的に増加しつっある.従来 用いられてきた長手磁気記録方式はビット長が短くなると磁化反転領域における減磁界の 影響が大きくなり再生出カが急激に減衰する.垂直磁気記録は磁化反転領域での減磁界の 影響がピット長が短くなるほど小さくなるため原理的に高密度記録に適した記録方式であ る.垂直磁気記録は当初線記録密度を高める事にカ点が置かれていたが,動画のような膨 大な情報の記録を必要とする用途には線記録密度のみならずトラック密度も同時に高め,
面記録密度(単位面積あたりの記録ピッ卜数)を高くすることが必要である.ビット長を 一定にして卜ラック幅を狭めていくと1ビットの面積が小さくなり,媒体表面における漏 洩磁束が減少し再生出カが減少する.このため狭トラック化には高感度・低雑音の垂直磁 気ヘッドが必要である.しかし当初使われていた垂直磁気記録用の補助磁極励磁型単磁極 ヘッドはりングヘッドと比較して感度・雑音の面で劣っており狭トラック再生には適して いなかった.本研究は狭トラック化が可能な高感度・低雑音垂直磁気記録用単磁極ヘッド の実現を目的とし,また垂直磁気記録に適した画像信号記録方式の開発を目的としたもの である,本論文は,単磁極ヘッドと二層媒体を用いて高密度磁気記録を実現するために解 決すべき問題点の解明,高感度・低雑音単磁極ヘッド実現のための新しいへッド構造の提 案と試作,ヘッド主磁極用軟磁性薄膜の試作と特性改善手法の開発,高密度記録に適した 画像信号記録方式の検討及び高密度画像信号記録再生実験結果について,これらの成果を まとめたものである,
第1章では,磁気記録技術の進歩の歴史を概観し,長手磁気記録と垂直磁気記録の原理 及び特徴を高密度記録の観点から比較し,垂直磁気記録の高密度記録領域における優位性 について述べている. 第2章では,補助磁極励磁型単磁極ヘットとCo―Cr/Ni―Fe二層膜垂 直磁気記録媒体との組み合わせの垂直磁気記録において狭トラック記録時の問題点となっ ていたへッドの記録再生感度とインピーダンス雑音との関係および垂直磁気記録用Co−Cr/
Ni―Fe=層膜媒体においてパーマロイ層から発生し,単磁極ヘッドに誘起する雑音の分離測 定法について述べている. 第3章では,高感度・低雑音単磁極ヘッドを開発するために 必要なへッド評価技術について述べるとともに単磁極ヘッドの主要部分である主磁極磁性 薄膜の高周波透磁率測定法の新規提案を行った.また高密度録画のために特に重要となる 単磁極ヘッドの再生出力,雑音,CN比,オフトラック特性評価法についても述べている.
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第4章では,主磁極励磁型単磁極ヘッドの一種であるW型単磁極ヘヅドの再生感度・イ ンピーダンス雑音が補助磁極励磁型単磁極ヘッドより優れていることを実験的に明らかに した.更にW型単磁極ヘッドのへツ卜磁場解析及びへッド感度解析を3次元有限要素法を 用いて計算機シミュレーションを行った.この解析結果に基づきへッドの高感度化のため に新構造の単磁極ヘッドを開発した.このへッドはトラック幅方向に磁束のりターンパス コア を配 置し た主 磁極 励磁 型単磁極ヘッドの一種で,TRFヘッド(single−pole head with Transverse Return−path core of Flux flow)と呼ぶことにした.またもうーつの高 感度 化を 目指 した 試み であ る薄 膜垂 直磁 気ヘ ッドFiTR(Film head with Transverse Return―path core)の試作及び記録再生実験結果についても述べる. 第5章では,単磁 極ヘッドの記録再生特性に関係する最も重要な構成材料である主磁極用軟磁性薄膜の試作 及び特性評価結果について述べている.ここでは主磁極磁性薄膜としてCo−Zr−Nbアモルフ アス磁性薄膜のスパッタプロセス,アニールプロセス,エッチングプロセスについて述べ た.スパッタプロセスでは特性改善のために新しく見いだした独自の磁性膜作製法,アニ ールプロセスではこの膜の熱処理のために試作された装置,特にアモルフアス磁性薄膜の 一軸磁気異方性誘導のための磁場を印加するために試作した電磁石の磁界分布,そしてエ ッチングプロセスについてはウェットェッチング法でエッチングパターン精度を改善する ために新たに開発したェッチャン卜の組成およびェッチングプロセスについて述べている.
第6章では,画像信号の変調方式について概説し,その中で垂直磁気記録特性に適して いると考えられる3っの変調方式による画像信号の記録実験について述べている.このう ちニつの変調方式は一個の単磁極ヘッドを用いた記録再生実験装置に適用されたもので主 磁極膜厚よりも長い記録波長領域(一次ピーク帯域)と主磁極膜厚より短い記録波長領域
(二次ピーク帯域)とを有効利用する変調方式について述べている.残りのーつの変調方 式は二個の主磁極励磁型単磁極ヘッドを用いた記録再生実験装置に適用されたもので主磁 極膜厚より長い記録波長領域(一次ピーク帯域)のみを利用する変調方式について述べて いる.本研究によって以下のことが明かと顔った.
(1)垂直磁気記録用Co−Cr/Ni一Fe=層膜媒体においてパーマロイ層から発生し,単磁極ヘ ッ ド に 誘 起 す る 雑 音 の 分 離 測 定 法 と そ の 抑 圧 法 を 見 い だ し た .
(2)垂直磁気記録に於いて高いCN比を得るためには補助磁極励磁型単磁極ヘッドより 主 磁 極 励 磁 型 単 磁 極 ヘ ッ ド の 方 が 有 利 で あ る 事 を 明 ら か に し た .
(3)主磁極励磁型単磁極ヘッドの記録磁界分布・再生感度の三次元有限要素法による解 析,オフトラックサイドクロストーク測定およびこのヘッドで記録した媒体の記録 磁化パターンの観察を行った結果このへッドが高感度で急峻なトラック幅方向記録 磁界分布を持っことを明らかにした.
(4)トラック幅方向に磁束のりターンパスコアを配置した新しい構造の主磁極励磁型単 磁極 ヘッ ドで あるTRFヘ ッド を考 案し ,こ のへ ッド の再生感度・記録磁界分布の 三次元有限要素法による解析および記録再生実験を行い,高い再生感度と急峻な記 録磁界分布をあわせもつ事を明らかにした・
(5)トラック幅方向の磁束のりターンパスコアと主磁極の間隔を短縮できる薄膜構造の 主磁 極励 磁型 単磁 極ヘ ッド であ るFiTRヘ ッドを 考案 し, この ヘッ ドの トラ ック 幅方向の記録磁界分布がより急峻になる事を明らかにした,
(6)Co−Zr−Nbアモルフアス主磁極磁性薄膜の一軸磁気異方性を誘導する均一な磁界分布 電磁石を持った回転磁界中熱処理装置を開発し分散の少ない一軸磁気異方性を誘導 することができることを明らかにした.
(7)Co−Zr−Nbアモルフアス磁性薄膜のトラック幅を精度よくェッチングするためのウェ ッ ト ェ ッ チ ン グ 用 エ ッ チ ャ ン ト , 及 び ェ ッ チ ン グ 条 件 を 見 い だ し た .
(8)垂直磁気記録の画像記録方式として,長手磁気記録のVTRに用いられているFM
された輝度信号に色度信号を重畳記録する方式より重畳信号を含まない単純なFM
記録の方が高密度化出来る事を見いだした,
学位論 文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
垂直磁気ヘッドの高感度化と画像記録への応用に関する研究
テレ ピ放 送は 多量 の動 画 像と 音声 情報 を収 録、 加工 、再 生、 保存 する こと が必 要 な分 野 で ある ため 磁気 記録 装置 は 必要 欠く べか らざ るも のと なっ てい る。 近年 情報 の多 様 化、 高 品 質化 にと もな って 記録 す べき 画像 情報 量は 飛躍 的に 増加 しつ っあ る。 従来 用い ら れて き た 長手 磁気 記録 方式 はビ ッ ト長 が短 くな ると 磁化 反転 領域 にお ける 減磁 界の 影響 が 大き く な り再 生出 カが 急激 に減 衰 する 。垂 直磁 気記 録は 磁化 反転 領域 での 減磁 界の 影響 が ピッ ト 長 が 短 く な る ほ ど 小 さ く な る た め 原 理 的 に 高 密 度 記 録 に 適 し た 記 録 方 式 で あ る 。 本研 究は 狭ト ラッ ク化 が 可能 な高 感度 ・低 雑音 垂直 磁気 記録 用単 磁極 ヘッ ドの 実 現と 垂 直 磁気 記録 に適 した 画像 信 号記 録方 式の 開発 とを 目的 とし たも ので ある 。本 論文 は 、単 磁 極 ヘッ ドと 二層 媒体 を用 い て高 密度 磁気記録を実現するために解決すべき 問題点を解明し、
高 感度 ・低 雑音 単磁 極ヘ ッ ド実 現の ため の新 しい へッ ド構 造の 提案 と試 作な らび に ヘッ ド 主 磁極 用軟 磁性 薄膜 の試 作 と特 性改 善手 法の 開発 、高 密度 記録 に適 した 画像 信号 記 録方 式 の 検討 を行 い、 これ らの 成 果を まと めた もの であ る。
本研 究に よっ て以 下の こ とが 明か とな った 。
(1)垂 直磁 気記 録用Co−Cr/Ni―Fe二層 膜媒 体に おい てパ ーマ ロイ 層か ら発 生し 、 単磁 極 ヘ ッ ド に 誘 起 す る 雑 音 の 分 離 測 定 法 と そ の 抑 圧 法 を 見 い だ し た 。
(2) 垂 直 磁 気 記 録 に 於 い て 高 いCN比 を 得 る た め に は 補 助 磁 極 励 磁 型 単 磁 極 ヘ ッ ド よ り 主 磁 極 励 磁 型 単 磁 極 ヘ ッ ド の 方 が 有 利 で あ る 事 を 明 ら か に し た 。
(3) 主 磁 極 励 磁 型 単 磁 極 ヘ ッ ドの 記録 磁界 分布 ゜再 生感 度の 三次 元有 限要 素法 に よる 解 析 、 オ フ ト ラ ッ ク サ イ ド ク ロ ス ト ー ク 測 定 お よ び こ のへ ッド で記 録し た媒 体 の記 録 磁 化 パ タ ー ン の 観 察 を 行 っ た 結 果 こ の へ ッ ド が 高 感 度で 急峻 なト ラッ ク幅 方 向記 録 磁 界分 布を 持っ こと を 明ら かに した 。
(4) ト ラ ッ ク 幅 方 向 に 磁 束 の りタ ーン パス コア を配 置し た新 しい 構造 の主 磁極 励 磁型 単 磁 極 ヘ ッ ド を 考 案 し 、 こ の ヘ ッ ド の 再 生 感 度 ・ 記 録 磁界 分布 の三 次元 有限 要 素法 に よ る 解 析 お よ び 記 録 再 生 実 験 を 行 い 、 高 い 再 生 感 度 と急 峻な 記録 磁界 分布 を あわ せ も つ事 を明 らか にし た 。
(5) ト ラ ッ ク 幅 方 向 の 磁 束 の りタ ーン パス コア と主 磁極 の間 隔を 短縮 でき る薄 膜 構造 の 主 磁 極 励 磁 型 単 磁 極 ヘ ッ ド を 考 案 し 、 こ の へ ッ ド の トラ ック 幅方 向の 記録 磁 界分 布 が より 急峻 にな る事 を 明ら かに した 。
(6)Co―Zr―Nbアモ ルフ アス 主磁 極磁 性薄 膜の 一軸 磁 気異 方性を誘導す る均一な磁界分布 電 磁 石 を 持 っ た 回 転 磁 界 中 熱 処 理 装 置 を 開 発 し 分 散 の少 ない 一軸 磁気 異方 性 を誘 導
一
次
一
久
幸
香
榮
利
笠 内
田 間
武 栃
廣 本
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
することができることを明らかにした。
(7)Co―Zr−Nbアモルフアス磁性薄膜のトラック幅を精度よくエッチングするためのウェ ッ ト ェ ッ チ ン グ 用 エ ッ チ ャ ン 卜 、 お よ び ェ ッ チ ン グ 条 件 を 見 い だ し た 。
(8) 垂直 磁気 記録 の画 像記録方式として、長手磁気記録のVTRに用いられている周波 数変調された輝度信号に色度信号を重畳記録する方式より重畳信号を含まない単純 なFM記録の方が高密度化出来る事を見いだした。
これを要するに、著者は、狭トラック化が可能な高密度・低雑音垂直磁気記録用単磁極 ヘッドおよび画像信号記録についての新知見を得たものであり、磁気記録、磁気工学、電 子デパイス工学の進展に寄与するところ大である。よって著者は、北海道大学博士(工学)
の学位を授与される資格あるものと認める。