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博士(環境科学) 遠藤 寿 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(環境科学)   遠藤    寿 学位論文題名

Effects of C02 and iron availability on the community composition and photosynthetic physiology of natural     phytoplankton

  (C02

と鉄の 利用可能性が天然植物プランクトンの群集構造および

    

光合 成生理機能に与 える影響)

学位論文内容の要旨

  

人間活動によって大気中に排出されたC02 の約1/4 は海洋によって取り 込まれ,海水中のpH を低下させる.これは海洋酸性化とよばれ,石灰化 生物の外骨格形成阻害など,細胞レベル,延いては生態系や物質循環過程 への影響が懸念される.海洋は陸域に匹敵する人為起源C02 の吸収源であ り,その生物過程の大部分を植物プランクトンによる光合成(基礎生産)

が担っている.先行研究から,C02 の増加に対する植物プランクトンの応 答は系統群や種レベルで異なることが指摘されており,海洋酸性化の進行 は海洋植物プランク卜ンの群集構造や生理活性に影響を与え,海域の基礎 生産カを変化させる可能性がある.そのため,将来的な気候変動の規模を 正確に予測するために,C02 増加による植物プランクトンヘの影響解明が 重要であるが,現場海水を用いた群集レベルでの影響評価に関する研究は 乏しい.そこで本研究は,高緯度域を主体とする計4 つの海域で船上培養 実験を行い,今後予測されるC02 の増加に対する天然植物プランクトンの 応答を評価することを目的とした・

  

現場群集を用いた

C02

添加培養実験は,北太平洋亜寒帯循環域(2008 年

8

月),ベーリング海(2009 年9 月),北太平洋親潮域(2011 年5 月),および 南大洋(2011 年

12

月‑2012 年

1

月)で行った.親潮域を除く海域はHNLC 海 域に属し,海水中の低い鉄濃度が植物プランクトン現存量の制限要因のー っとして考えられる.同海域では今後陸域からのダスト供給増加に伴い,

‑ 780

(2)

鉄 制 限 が 緩 和 さ れ る 可 能 性 が あ る こ と か ら , 鉄 濃 度 の 増 加 が 植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 に 与 え る 影 響 も 同 時 に 評 価 し た . 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 群 集 組 成 は , 主 に

HPLC

色 素 分 析 と 群 集 解 析 プ 口 グ ラ ム

CHEMTAX

を 用 い て 推 定 し た ・ さ ら に , 本 研 究 で は 炭 素 循 環 へ の 観 点 か ら 海 洋 の 基 礎 生 産 の 約

40

% を 担 う と さ れ る 珪 藻 類 に 着 目 し , 光 合 成 カ ル ビ ン . ベ ン ソ ン 回 路 に て

C02

固 定 を 担 う 酵 素 ,

RubisCO

の 大 サ ブ ュ ニ ッ ト を コ ー ド す る

rbcL

遺 伝 子 の

mRNA

発 現 を 指 標 と し , 珪 藻 類 の 光 合 成 炭 素 固 定 活 性 を 評 価 し た .

  

結 果 , 親 潮 域 を 除 く 全 て の 海 域 で ,

C02

の 増 加 に 伴 い ハ プ ト 藻 類 の 指 標 色 素 で あ る

19

・ ヘ キ サ ノ イ 口 キ シ フ コ キ サ ン チ ン の 増 加 率 の 低 下 , お よ び ハ プ ト 藻 類 に 属 す る 石 灰 化 種 で あ る 円 石 藻 類 の 細 胞 数 減 少 が 観 察 さ れ た . 一 方 , 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 を 除 く 海 域 で ,

C02

の 増 加 に 伴 い 珪 藻 類 指 標 色 素 フ コ キ サ ン チ ン の 増 加 率 が 低 下 し た . さ ら に , 親 潮 域 と べ ー リ ン グ 海 で は , 高 し

)C02

条 件 下 で 珪 藻 類 の

rbc

五 転 写 率 が 減 少 し た こ と か ら , 現 場 の 珪 藻 類 が

C02

濃 度 の 増 加 に 応 じ て

rbcL

mRNA

発 現 を 下 方 制 御 し た 可 能 性 が 示 さ れ た . 珪 藻 類 は 海 洋 に お け る 生 物 ポ ン プ の 主 要 な 駆 動 者 で あ る こ と か ら , 本 研 究 で 観 察 さ れ た 珪 藻 類 の 現 存 量 お よ び 光 合 成 活 性 の 低 下 は , 大 気

C02

の 増 加 に 対 し て 正 の フ イ ー ド バ ッ ク を も た ら す 可 能 性 が あ る . 一 方 , 円 石 藻 類 の 減 少 は 石 灰 化 過 程 で 生 じ る 海 水 中 の ア ル カ リ 度 の 低 下 や

C02

の 排 出 を 減 少 さ せ る た め , 大 気

C02

の 増 加 に 対 し て 負 の フ イ ー ド バ ッ ク と し て 働 く 可 能 性 が あ る . 本 研 究 か ら , 海 水 中 の

C02

濃 度 増 加 は 天 然 植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 に 対 し , 群 集 構 造 や 光 合 成 活 性 を 変 化 さ せ る 可 能 性 が 示 さ れ た が , そ の 影 響 の 規 模 と 性 質 は 海 域 に よ り 異 な っ て い た . 一 方 で , 鉄 濃 度 の 増 加 は , 調 査 を 行 っ た 全 て の 海 域 に お い て , 珪 藻 類 を 主 体 と し た 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 増 殖 お よ び 光 合 成 活 性 を 促 進 し た . こ の こ と か ら , 今 後

HNLC

海 域 へ の 鉄 供 給 量 が 増 加 す れ ば , 同 海 域 に お け る 基 礎 生 産 の 増 加 が 見 込 ま れ , 大 気

C02

濃 度 の 増 加 に 対 し て , 負 の フ イ ー ド パ ッ ク が 期 待 さ れ る .

  

本 研 究 か ら 得 ら れ た 知 見 は , 今 後 , 気 候 変 動 に 対 す る 将 来 予 測 モ デ ル の 構 築 や 政 策 決 定 を 行 う 上 で 重 要 で あ る と 考 え ら れ る . し か し な が ら , 遺 伝 子 転 写 応 答 の 生 理 メ カ ニ ズ ム や 海 域 特 異 性 の 解 釈 は 未 だ 理 解 が 乏 し い 事 か ら , 室 内 実 験 に よ る 生 理 応 答 の 検 証 や 捕 食 効 果 を 含 め た 生 態 的 影 響 の 評 価 な ど , 更 な る 知 見 の 蓄 積 が 求 め ら れ る .

―781 ‑

(3)

学位論文審査の要旨 主査 副査

副査 副査 副査 副査

准 教 授   鈴 教 授  田 教 授  吉 准 教 授   沖 助 教  藏 主 任研 究員  

木光 中俊 川久 野龍 崎正 村

学 位 論 文 題 名

ヨ 曇

毅 (一 般サ □ま ^ゑカキよWえみほゑ#学Wえみ)

Effects of C02 and iron availability on the community composition and photosynthetic physiology of natural     phytoplankton

  (C02

と鉄の利用可能性が天然植物プランクトンの群集構造および

    

光合成生理機能に与える影響)

  植 物 プ ラ ン ク ト ン は , 海 洋 に お け る 主 要な 基 礎 生 産 者で あ り , 海 洋の 生 態 系 や 炭 素循 環 の 起 点 と な っ て い る 。 こ の た め , 植 物 プ ラ ン クト ン の 基 礎 生 産を 支 配 す る 因子 を 同 定 し ,そ の 影 響 を 評 価 す る こ と は , 海 洋 の 炭 素 循 環 過 程を 理 解 す る 上 で極 め て 重 要 であ る 。 現 在 ,人 間 活 動 に よ っ て 大 気 中 に 放 出 さ れ た 二 酸 化 炭 素(C02)の 約30% は 海 洋 に よ り 取 り 込 ま れ , 海 水 中 のpHを 低 下 さ せ てい る 。 こ の 現象 は 海 洋 酸 ´陸 化 と 呼 ば れて お り , そ の 進行は ,海 洋植物 プ ラ ン ク ト ン の 群 集 構 造 や 生 理 活 性 に 影 響 を与 え , 基 礎 生 産を 変 化 さ せ る可 能 性 が あ る。 こ の た め , 将 来 的 な 気 候 変 動 に 対 す る 海 洋 生 態 系 へ の 影 響 を 評価 す る 上 で ,海 水 中 のC02増 加 に 対 す る 植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 へ の 影 響 を 評価 す る こ と は 喫緊 の 課 題 の ーつ で あ る 。 しか し な が ら , 現 場 植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 を 対 象 に ,C02影 響 の 評 価 を 実 施し た 研 究 は 未 だ非 常 に 限 ら れ て い る 。 こ の た め , 申 請 者 は , 海 洋 の二 酸 化 炭 素 吸 収域 と し て 重 要な 高 緯 度 外 洋域 を 研 究 対 象 と し て 選 び , 今 後 予 測 さ れ るC02濃 度 の 増 加 に 対 す る 天 然 植物 プ ラ ン ク ト ン群 集 の 応 答 を 評 価 す る こ と を 試 み た 。 ま た , 近 年 ,高 緯 度 外 洋 域 に生 息 す る 植 物プ ラ ン ク ト ンの 増 殖 カ ミ 海 水 中 の 低 い 鉄 利 用 度 に よ り 制 限 さ れて い る こ と カ 黼さ れ て い る が, 今 後 , 地 球温 暖 化 に 伴 う 水 柱 の 成 層 化 の 強 化 や 陸 域 か ら の ダス ト 供 給 増 加 によ り , こ れ らの 海 域 で は 海水 中 の 鉄 濃 度 が 変 化 す る 可 能 性 が あ る 。 こ の た め , 申 請 者 は , 植物 プ ラ ン ク トン 群 集 のC02応 答 の み な ら ず, 鉄 添 加 応 答に つ い て も 調査 し た 。

  現 場 植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 を 用 い た 船 上C02添 加 培 養 実 験 は , 北太 平 洋 亜 寒 帯循 環 域 お よ 乙 鴎 黼 , ベ ー リ ン グ 海 , 南 大 洋 で 実 施 し た 。 親 潮 域 を 除 く こ れ ら 海 域 で は , 植 物 プ ラン ク ト ン の 海 水 中 の 鉄 利用 度 カ 湘iめて 低 い こ と が知 ら れ て い る 。植 物 プ ラ ン クト ン の 群 集 組成 の 評 価 に は , 主 に 高 速 液 体 ク 口 マ ト グ ラ フ イ ー(HPLC)に よ る 植 物 プ ラ ン ク ト ン 色 素 分 析 と そ の デ 二 夕 を 用 い た 多 変 量 解 析 に よ り 行 っ た。 さ ら に , 申 請者 は , 海 洋 基礎 生 産 の 約40% を

782

(4)

担 う 珪 藻 類 に 着 目 し , 光 合 成 カ ル ピ ン ー ベ ン ソ ン 回 路 に お い て ,C02固 定 を 行 う 酵 素 RubisCOの 大 サ プ ュ ニ ッ ト を コ ー ド す る 珪 藻 而 江 遺 伝 子 の 転 写 量 を 指 標 に , 珪 藻 類 の 光 合 成 炭 素 固 定 活 性 を 評 価 し た 。

  こ れ ら 船 上 培 養 実 験 の 結 果 , 親 潮 域 を 除 く 全 て の 海 域 に お い て , 海 水 中 のC02濃 度 の 増 加 に 伴 い , ハ プ ト 藻 類 の 現 存 量 指 標 で あ る19‑ヘ キ サ ノ イ 口 キ シ フ コ キ サ ン チ ン 濃 度 の 相 対 的 な 低 下 が 確 認 さ れ た 。 ま た , 顕 微 鏡 観 察 結 果 か ら , ハ プ ト 藻 類 の 内 , 炭 酸 塩 骨 格 を 持 つ円 石 藻 類 の 細 胞 数 の 減 少 が 見 ら れ た 。 一 方 , 北 太 平 洋 亜 寒 帯 循 環 域 を 除 く 全 て の 海 域 で , 海水 中 のC02濃 度 の 増 加 に 伴 い , 珪 藻 類 の 現 存 量 指 標 で あ る フ コ キ サ ン チ ン の 濃 度 の 相 対 的 な 低 下 が 確 認 さ れ た 。 ま た , 珪 藻 め 也 遺 伝 子 の コ ピ 一 数 を 評 価 し た 親 潮 域 , ベ ー リ ン グ 海 , 南大 洋 の 培 養 実 験 に お い て , フ コ キ サ ン チ ン 濃 度 と 珪 藻 めc醐 齢 汗 コ ピ ー 数 と の 間 に 有 意 な 相 関 関 係 が 見 ら れ た こ と か ら , 珪 藻 め 也 遺 伝 子 コ ピ ー 数 も 珪 藻 現 存 量 の 指 標 に な り 得 る こ と を発 見 し た 。 さ ら に 申 請 者 は , 親 潮 域 と べ ー リ ン グ 海 で は , 高tt)C02濃 度 下 に お い て , 珪 藻rbc遺 伝 子 の 転 写 率 が 低 下 し た こ と か ら , 現 場 の 珪 藻 類 が ,C02濃 度 の 増 加 に 応 じ て , そ の 遺 伝 子 発 現 を 下 方 制 御 し て い た こ と を 明 ら か に し た 。 上 記 で 観 察 さ れ た 珪 藻 類 の 現 存 量 お よ び光 合 成 活 性 の 低 下 は 大 気C02の 増 加 に 対 し て 正 の フ イ ー ド パ ッ ク を も た ら す 可 能 性 が あ る の に 対 し , 円 石 藻 類 の 減 少 は 石 灰 化 過 程 で 生 じ る 海 水 中 の ア ル カ リ 度 の 低 下 やC02の 排 出 を 減 少 さ せ る た め , 大 気C02の 増 加 に 対 し て 負 の フ イ ー ド パ ッ ク と し て 働 く 可 能 陸 が あ る . 本 研 究 結 果 か ら , 海 水 中 のCO瑚 懿 隻 増 加 は 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 群 集 構 造 や 光 合 成 活 性 を 変 化 させ る こ と が 示 唆 さ れ た が , そ のC02影 響 の 規 模 は 海 域 に よ り 異 な る こ と が 判 明 し た . 興 味 深 い こ と に , 海 水 中 の 鉄 濃 度 を 増 加 さ せ た 全 て の 実 験 に お い て , 珪 藻 類 を 主 体 と し た 植 物 プ ラン ク ト ン の 群 集 の 増 殖 お よ び 光 合 成 活 性 が 促 進 し た . こ の 結 果 は , 今 後 , 調 査 海 域 へ の 鉄 供給 量 が 増 加 し た 場 合 , 同 海 域 に お け る 基 礎 生 産 の 増 加 が 見 込 ま れ , 大 気C02濃度 の増 加 に対 して , 負 の フ イ ー ド パ ッ ク カ 寸 調 待 さ れ る と 考 え ら れ た 。

  上 記 の 研 究 成 果 は 大 変 貴 重 な も の で あ り , 申 請 者 は , 在 学 中 , 第2回 北 海 道 大 学 サ ス テ ナ ビ リ テ ィ ー 学 生 研 究 ポ ス タ ー コ ン テ ス ト に お い て , 北 海 道 大 学 総 長 賞 ( 最 優 秀 賞 ) を 獲得 す る な ど , 多 く の 受 賞 を し た 。

  審 査 委 員 一 同 は , こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し , ま た 研 究 者 と し て 誠 実 か つ 熱 心 で あ り, 大 学 院 博 士 課 程 に お け る 研 鑽 や 修 得 単 位 な ど も あ わ せ , 申 請 者 が 博 士 ( 環 境 科 学 ) の 学 位を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

783 ‑

参照

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