博士(環境科学) 照井健志 学位論文題名
数値モデルを用いた大型カイアシ類
(Neocalanus crisぬtus) の生活史の研究
(Studies on life history of large Copepoda (Neocalanus cr
ふぬfuS )uSingthe
numeriCalmodel)
学位論文内容の要旨
北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 に 生 皀 す るNeocalanus c. 応 鰡 伽 は 、 表 層 の 植 物 プ ラ ン ク ト ン お よ び 微 小 動 物 プ ラ ン ク ト ン を 摂 餌 す る 主 要 な 大 型 カ イ ア シ 類 で あ る 。 こ のNc応 細 ぬば は 魚 介 類 等に 捕 食 さ れ 、 基 礎 生 産 か ら 高 次 栄 養 段 階 生 物 ヘ 生 物 生 産 を 橋 渡 し す る 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 。 こ れ ま で 海 洋 観 測 や 飼 育 実 験 に よ り 、 生 活 史 や 各 成 長 ス テ ー ジ の 体 重 と 体 長 な ど 、 明 ら か に な っ て い る 。 し か し な が ら 、 常 に 変 動 す る 環 境 中 の 生 態 系 や 、 生 活 史 を 持 続 的 に 発 生 さ せ て い る メ カ ニ ズ ム に つ い て 、 明 ら か に な っ て い な い 。 こ れ ら を 観 測 や 飼 育 実 験 で 明 ら か に す る 事 は 難 し く 、 数 値 モ デ ル を 利 用 し た 研 究 が 必 要 で あ る 。
本 研 究 の 目 的 は 、 変 動 す る 海 洋 環 境 中 に お け るNc応 幻 舩 の 生 態 を 解 明 す る た め 、 N ピ 応 砌 船 の 鉛 直 移 動 を 含 め た 詳 細 な 生 活 史 を 再 現 可 能 な 生 態 系 モ デ ル を 開 発 し 、 モ デ ル の 結 果 か ら 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 の 環 境 がNc腑 細 鮒 の 生 活 史 に ど の よ う な 影 響 を 与 え て い る の か 調 べ る 事 で あ る 。 本 研 究 で は 、 ま ず 簡 易 な ノ く ラ メ 一 夕 設 定 を 用 い た 数 値 モ デ ル で 一 年 性 の 生 活 史 の 再 現 を 行 い 、 成 長 ス テ ー ジ の 発 達 と 海 洋 生 態 系 の 関 係 を 明 ら か に し た 。 次 に 産 卵 さ れ て か ら 死 亡 す る ま で の 成 長 履 歴 を 追 跡 可 能 な 数 値 モ デ ル に 発 展 さ せ 、 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 の 環 境 が Ncm細z班 の 成 長 に ど の よ う な 影 響 を 与 え て い る の か 調 べ た 。 ま た 各 個 体 群 の 成 長 履 歴 を 比 較 す る こ と で 、 個 体 群 の 間 で 成 長 の 差 異 が 生 じ る 理 由 に つ い て 調 べ た 。 そ し て モ デ ル の 感 度 解 析 を 行 う こ と で 生 活 史 が 成 立 す る メ カ ニ ズ ム に つ い て 考 察 し た 。
Ncm細 船 の 数 値 モ デ ル を 開 発 す る に あ た り 、 基 礎 と し た 低 次 生 態 系 モ デ ル はMミM【 爪O ば o曲PaciflcEcosystemModelUsedforRe酉onalocean01hy) で あ る 。NEMumは 、 北 太 平 洋 海 洋 科 学 機 構 (PICES) の モ デ ル タ ス ク チ ー ム に よ っ て 開 発 さ れ た 、 表 層 の 低 次 生 態 系 を 再 現 し た 窒 素 べ ー ス の 生 物 エ ネ ル ギ ー モ デ ル で あ る 。 ニ のNEMI瓜Oに 、Mc廊 勿 ぬ ロ の 詳 細 な 数 値 モ デ ル を 組 み 合 わ せ る ニ と で 、 変 動 す る 海 洋 環 境 中 のNcぬ 勿 舩 の 生 態 の 再 現 を 試 み た 。 Nぴ 西 細 觚 の 生 活 史 を 個 体 群 ご と に 再 現 す る た め に 利 用 し た 数 値 モ デ ル はPopmadon DリarnicsMode1(PD岬 と 、h卿gianEnsembleModel(LE胸 で あ る 。 こ れ ら の 数 イ 直 モ デ ル は 、 従 来 の 生 物 エ ネ ル ギ ー モ デ ル で は 再 現 で き な い 、 段 階 的 な 成 長 を 伴 う 個 体 群 の 発 達 や 鉛 直 移 動 を 含 め た 連 続 的 な 生 活 史 を 再 現 可 能 で あ る 。PDMの 個 体 群 は 、 成 長 ス テ ー ジ と そ の 成 長 ス テ ー ジ 中 の 年 齢 に よ り 区 分 さ れ て い る 。 成 長 ス テ ー ジ の 違 い は 、 成 長 ス テ ー ジ ご と の 生 息 す る 深 度 や 餌 の 種 類 の 違 い を 表 現 す る 。 年 齢 の 違 い は 、 同 じ 成 長 ス テ ー ジ の 生 息 期 間 の 違 い を 表 現 す る 。 同 時 に 存 在 す る 複 数 の 年 齢 群 の 成 長 を 個 別 に 計 算 可 能 で あ り 、 ス テ ー ジ の 発 達 に 伴 う
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個 体 群 の 変 化 を 表 現 で き る 。 し か しPDMは ス テ ー ジ の 発 達 過 程 で 個 体 群 が 混 ざ り 合 っ て し ま う 。 そ の た め 、 個 体 群 ご と に 成 長 履 歴 を 追 跡 す る ニ と は で き な ぃ 。LEMは 、 同 時 に 生 ま れ た 個 体 群 を コ ホ ー ト と し て 表 現 し た 数 値 モ デ ル で あ る 。 各 コ ホ ー ト は 一 個 体 あ た り の 体 重 、 発 達 ス テ ー ジ 、 年 齢 、 誕 生 日 と 個 体 群 あ た り の 密 度 を 記 録 し て い る 。 こ れ ら 記 録 さ れ た 情 報 を 基 に 各 個 体 群 の 摂 食 、 排 泄 、 排 出 、 成 長 、 死 亡 、 捕 食 、 産 卵 の 過 程 が 計 算 さ れ る 。 そ の た め 、LEMは 各 コ ホ ー 卜 の 成 長 履 歴 を 追 跡 可 能 で あ る 。
PDMは 、Copepodite期 の 発 達 が 春 期 ブ ル ー ム に 合 わ せ て 行 わ れ て い る こ と を 示 し た 。 く :opepodite期 の 成 長 は 夏 に 終 わ り 、 鉛 直 移 動 に よ り 深 層 ヘ 生 物 量 は 転 送 さ れ て い た 。 冬 季 に な る と 、N cristatusは 産 卵 を 開 始 し 、 一 午Itの 生 活 史 を 終 え た 。 ニ の 結 果 は 、 観 測 か ら 予 想 さ れ た 生 活 史 シ ナ リ オ と ほ ぼ 一 致 し て い た 。Copepodite期 の 餌 選 択 に よ り 、 小 型 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 発 達 が 抑 え ら れ た 。 そ の 結 果 、 大 型 植 物 ブ ラ ン ク ト ン は 優 先 的 に 栄 養 塩 を 利 用 で き 、 生 産 量 を 一 気 に 増 大 さ せ て い た 。 発 達 し たC5期 は 、 増 大 し た 大 型 植 物 プ ラ ン ク ト ン を 主 要 な 餌 と し 、 表 層 で の 成 長 を 速 や か に 終 わ ら せ て い た 。 ー 方 で 、Copepodite期 の 成 長 期 間 を 、 観 測 か ら 推 定 さ れ た 値 と 比 較 す る と 、 早 す ぎ る 結 果 と な っ た 。 こ れ は モ デ ル 中 の 餌 の 供 給 量 が 多 く 、 摂 餌 量 が 常 に 最 大 摂 餌 量 に 達 し て し ま う た め だ っ た 。 こ の 結 果 を 踏 ま え 、LEMで は 餌 の 設 定 を 見 直 し た 。 LEMは 、Copepodite期 の 成 長 がNcristatusの 表 層 ヘ 鉛 直 移 動 し た 時 期 と 春 季 ブ ル ー ム の 時 期 に 影 響 さ れ て い る ニ と を 示 し た 。 特 に 表 層 に お け る 成 長 期 間 を 短 縮 化 す る た め に は 、 早 く 表 層 へ 鉛 直 移 動 し て 摂 餌 を 開 始 す る よ り も 、 鉛 直 移 動 し た 時 に 春 季 ブ ル ー ム と 遭 遇 で き る か ど う か の 方 が 重 要 で あ る こ と を 示 し た 。 春 季 ブ ル ー ム 前 に 表 層 ヘ 鉛 直 移 動 し た コ ホ ー ト は 、 水 温 が 低 く 餌 が 少 な い 環 境 か ら 成 長 を 開 始 し て い た 。 水 温 と 餌 濃 度 は 時 間 と 共 に 好 転 し て い く た め 、 遅 れ て 鉛 直 移 動 し た コ ホ ー ト ほ ど 良 い 環 境 下 で 成 長 を 開 始 で き 、 成 長 期 間 は 短 縮 化 し て い っ た 。 こ の た め 、 春 季 ブ ル ー ム 前 に 表 層 ヘ 鉛 直 移 動 し た コ ホ ー ト は 、 そ れ ぞ れ 異 な る 時 期 に 表 層 ヘ 鉛 直 移 動 し た に も 関 わ ら ず 、 表 層 で の 成 長 を ほ ぼ 同 時 に 終 了 さ せ て い た 。 実 際 の 海 洋 で は 、 異 な る 時 期 に 表 層 ヘ 鉛 直 移 動 し て も 成 長 期 間 を 短 縮 化 す る ニ と で 、 同 時 に 成 体 へ 成 熟 し 、 成 体 の 集 団 を 形 成 し て い る と 予 想 さ れ る 。
モ デ ル の 水 温 に つ い て 感 度 角 晰 を 行 っ た と こ ろ 、 春 季 ブ ル ー ム の 時 期 が 変 動 し た 。 そ の 結 果 、 変 動 前 の 環 境 下 で 生 存 し て い た コ ホ ー ト の 一 部 は 春 季 ブ ル ー ム に 遭 遇 で き ず 死 亡 し た 。 一 方 で 、 変 動 前 の 環 境 下 で 春 季 ブ ル ー ム に 遭 遇 で き ず 死 亡 し て い た コ ホ ー ト が 、 変 動 後 の 環 境 下 で 春 季 ブ ル ー ム に 遭 遇 可 能 に な り 生 存 し て い た 。 実 際 の 海 洋 環 境 は 常 に 変 動 し て お り 、 春 季 ブ ル ー ム の 開 始 時 期 は 毎 年 一 定 で は な い 。 そ の た め 、 複 数 回 に わ た り 長 期 間 の 産 卵 活 動 を 行 う こ と で 次 世 代 の 個 体 群 が 春 季 ブ ル ー ム に 遭 遇 で き る よ う に し て い る 生 存 戦 略 だ と 考 え ら れ る 。 本 研 究 で 明 ら か に し た ス テ ー ジ の 発 達 時 期 や 各 コ ホ ー 卜 の 成 長 の 違 い は 、 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 の 代 表 的 な 季 節 変 動 パ タ ー ン か ら 導 き 出 さ れ た 。 一 方 でN cristatusは 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 に 広 く 分 布 し て お り 、 産 卵 さ れ た 海 域 に よ っ て 遭 遇 す る 環 境 条 件 は 異 な る 。 同 時 に 卵 の 空 間 的 な 位 置 は 物 理 的 な 移 流 と 拡 散 に 強 く 影 響 さ れ る 。 空 間 的 な 影 響 を 含 め た 、N cristatusの 生 態 を 明 ら か に す る た め に は 、 3次 元 海 洋 物 理 モ デ ル と 組 み 合 わ せ る 必 要 が あ る だ ろ う 。
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学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査 副査
教授 教授 准教授 助教 准教授
岸 門谷 工藤 上野 山口
学 位 論 文 題 名
道郎
茂
勲 洋路
篤(大学院水産科学研究院)
数値モデルを用いた大型カイアシ類
(Neocalanus crSぬfuS )の生活史の研究
(
StudieSOnlif・
ehiStoryoflargeCOpepodaUV,
e〇
Caム口uSe 々.s 幽
fuS)
uSingthe numeriCalmodel)
Neocalanus cristatus
は、北太平洋亜寒帯域に生息する主要な大型カイアシ類で、
基礎生産から高次栄養段階生物へ生物生産を橋渡しする重要な種である。過去に、定 期的な船 舶による海洋観測や室内における飼育実験により、ル
cristatusの生活史や 各成長段階の体重や体長などが、明らかにされてきた。しかしながら、変動する海洋 環境中におけるル
cris tatusの生態や、生活史を周年的に継続させているメカニズム について、明らかにされていない。これらを解明することは、海洋観測や飼育実験に よる研究は時間的および空間的に限りがあるため難しく、数値モデルを利用した研究 が必要であった。
本研究は、変動する海洋環境中におけるル
cr is tatusの生態を解明するため、ル
cr ista tusの成長段階の発達に伴う季節的鉛直移動を含めた、個体群レベルの詳細な 生活史を再現可能な数値モデルを開発し、北太平洋亜寒帯域における周期的な環境変 動がル
cristatusの成長および生存にどのような影響を与えているのか調べた。数値 モデルに よって再現された生活史は、観測から予想されたルcris ぬ
tusの季節的な生 活史のシ ナリオとほぼ一致しており、生活史を完了できたルcris ぬ
tusの表層におけ る成長率および出現期間は、観測によって推定された値の範囲内であった。そして、
数値モデルにおいて、周年的に安定して発生する個体群の成長段階の発達は、大型植 物プラン クトンに よる春季ブ ルームの時期とほぼ一致して行われていることを示し た。ル
cristatusの表層における成長期間は、ルcristatus が表層に出現した時期と、
春季ブルームの開始時期とに大きな関連があり、特に表層における成長期間を短縮化
するためには、早く鉛直移動して摂餌を開始するよりも、鉛直移動した時に春季ブル
ームと遭遇できるかどうかが重要であった。春季ブルームの開始前に早く表層ヘ鉛直
移動したルcris tatus の個体群は、餌の少ない環境から成長を開始するため、成長期
間が長期 化していた。一方で春季ブルーム中に表層へ鉛直移動したルcristatus の個
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体群は、餌の多い環境中で成長を行うため、成長期間が短縮化する。そのため、成長
期 間が短縮化 したルcristatus の 個体群は 、これら より早く 表層へ鉛 直移動した ル
cristatusの個体群 に成熟時期が追いっくことができ、同時に深層へ鉛直移動してい
た。実際の海洋でも、異なる時期に表層ヘ鉛直移動しても成長期間を短縮化すること
で、同時に成体へ成熟し成体の集団を形成しているであろうことを、数値モデルから
予想した 。春季ブル ームに遭 遇できなかったルcristatus はすべて死亡した。感度解
析において、春季ブルームの時期を変化させた場合も、同様にその変化したブルーム
,に遭遇した個体群が生存可能であった。したがって、春季ブルームに遭遇できずに死
亡したル
crisヵtus の個体群 が、深層に数多く存在するであろうことを数値モデルに
よって示すことができた。実際の海洋環境は常に変動しており、春季ブルームの開始
時期は一 定ではない 。ルcris ぬtus の長期間におよぶ複数回の産卵活動は、次世代の
ルcristatushs 春季ブ ルームに遭遇できるように行っている生存戦略であることを、
このモデルによって示すことができた。
以上のよ うに、ルcristatus の個体群レベルの詳細な生活史を再現可能な数値モデ
ルを作成することで、連続的に変動する海洋環境中における生態と生活史を周年的に
継続させているヌカニズムを明らかにした。実際のルcris tatus は北太平洋亜寒帯域
に広く分布し、鉛直移動によって海洋表層出現した海域によって遭遇する餌環境は異
なってい る。同時に ルcristatus は物理的な移流と拡散に強く影響されるため、広大
な海洋に おける空間 的な影響 を含めたルcristatus の生態を明らかにするためには、
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次元海洋物理モデルと組み合わせる必要性も示した。
このように精密に作られた数値モデルを用いて生活史を再現することにより、北太
平洋亜寒帯域における生物資源のキーストーン種である、大型カイアシ類の生活史に
立脚した生存戦略を解析でき、さらに地球環境の変化に対応した生態系の変化につい
て精密な予測にっながることが期待される。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であ
り,大学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(環境科学)
の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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