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博 士 ( 環 境 科 学 ) 伊 藤 俊 弘 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 環 境 科 学 ) 伊 藤 俊 弘

学 位 論 文 題 名

STUDIES ON ZINC AND NEUROTRANSMITTERS IN THE BRAIN HIPPOCAMPUS        UNDER THE RESTRAINT STRESS

( 拘 束 ス 卜 レ ス に よ る 海 馬 中 亜 鉛 お よ び 神 経 伝 達 物 質 の 動 態 に 関 す る 研 究 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

I研 究目的

  脳内の亜鉛 は海馬の苔状線維 に高濃度に存在して いる。海馬はスト レスに対して感受性が強く,

スト レ スに より 海 馬に 係わ る種々の 神経系が興奮を示す 。しかし,海馬に 存在する亜鉛がス トレ スに 対 して 如何 な る関 わり を持って いるかは明らかでな い。ストレスによ る海馬の亜鉛の変 動に っい て ,組 織レ ベ ルで 検討 した報告 はほとんどなく,神 経伝達に直接関係 するシナプトゾー ムに っい て の検 討は 全 く行 われ て いな い。 ま た, 亜鉛 は 海馬 で2,3の物 理化 学的刺激により神 経末 端か ら 放出 され る こと が認 められて いるが,ストレスに よって亜鉛の放出 がみられるかどう かは 明ら か でな い。 本 研究 では ,海馬に おける亜鉛とストレ スとの関係を明ら かにするために, ラッ トに拘束ストレスを負荷したときの海馬中亜鉛の動態を(1)海馬組織中の亜鉛濃度と(2)海馬のシナ プトゾーム分 画中の亜鉛濃度に っいて検討するとと もに,(3)海馬における神経末端からの亜鉛の 放出 特 性を あら か じめ 確認 してから ,ストレスによる亜 鉛の放出を経時的 に検討した。さら に,

亜鉛 が グル タミ ン 酸神 経伝 達系に関 与することから,グ ルタミン酸を含む アミノ酸神経伝達 物質 の放出にっい ても同時に分析を 行い,亜鉛とこれら 伝達物質との関係を検討した。(4)ストレス指 標で あ る血 漿コ ル チコ ステ 口ンの変 化を測定し,海馬に おける亜鉛の変動 との違いを比較検 討し た。 ス トレ スに よ る脳 内亜 鉛の変動 を経時的に検討した 研究はこれまで報 告がなく,この研 究で 初めて試みら れた。

|1研 究 方 法

実 験 1. 1. 拘 束 ス ト レ ス に よ る ラ ッ ト 脳 海 馬 組 織 中 亜 鉛 濃 度 の 変 化   Wistar系 雄 性 ラ ッ ト(270―340 g)をス ト レス 群と 対 照群 に分 け ,ス トレ ス 群に は15分 ,30 分 お よ び60分 の 拘 束 ス ト レ ス を 負 荷 し た 。 拘 束 に は , 拘 束 終 了 後 直 ちに 断 頭が 出来 る よう

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に設計,製作したアクリル製拘束ケージを用いた。ラットはストレス群では拘束終了後,対照群 では代謝ケージから取り出した後,直ちに断頭して脳を取り出し,海馬組織を分離後凍結乾燥し た。凍結乾燥試料をテフ口ン製の分解容器中で硝酸により加熱分解し測定試料とした。亜鉛濃度 は ,誘 導結 合プ ラ ズマ 質量 分析 装置(ICP・MS:Seiko,SPQー6500)を用いて測定した。

実 験1.2. 拘束 ス トレ スに よる ラッ ト 脳海 馬の シナ プ トゾ ーム 分画 中亜 鉛濃度の変化   実験対象ならびに拘束ストレス負荷は,実験1と同様である。シナプトゾ一厶試料はラット3 匹分の海馬組織を合わせて1試料とし,ラージシナプトゾームおよびスモールシナプトゾームの 各分画をWhittakerの方法に準じて分離した。これらの試料は一部を蛋白質,残りを亜鉛の定 量に用いた。

実 験1.3. 拘 束 ス ト レ ス に よ る ラ ッ ト 血 漿 中 コ ル チ コ ス テ 口 ン 濃 度 の 変 化   実験対照は,実験1.2.で用いたラットから各群10匹ずっを任意に選び,断頭時に頚動脈血 を採取し血漿を分離した。コルチコステロンの分析は,高速液体クロマトグラフィーならびに電 気化学的検出器を用いて行った。

実験2.1.ラット脳海馬における亜鉛の細胞外への放出特性

  実験は脳微小透析法くマイク口ダイアリシス法)により行った6 Wistar系雄性ラット(350・ 400g)の海馬に透析用プ口ーブを埋め込み,ペントバルビタール麻酔下プ口ーブにりンゲル液 を灌流し,15分毎に試料を回収した。透析液中の亜鉛濃度の変化をみるために,灌流液を高カリ ウム液(lOOmM),無カルシウム液および10‑6Mテトロドトキシン(TTX)溶液にそれぞれ交 換した。試料中の亜鉛はフレームレス原子吸光分光光度計(日立180・80)により測定を行った。

実験2.2.拘 束ス卜レスによるラッ卜脳 海馬の細胞外亜鉛濃度およびァミノ酸濃度の変化   実験2.1.と同様にマイク口ダイアリシス法を用いて検討した。海馬に透析プローブを埋め 込んだWistar雄性ラット(270−340g)に拘束ストレスを1時間負荷した。実験中リンゲル液 を灌流し続け,15分おきに透析液を回収した。試料中の亜鉛は,フレームレス原子吸光分光光度 計(日立180・80)により測定を行い,グルタミン酸を含むアミノ酸は,高速液体ク口マトグラ フィーおよび電気化学的検出器を用いて測定した。

皿結果および考察

実験1.拘束ストレス負荷によるラット脳海馬組織中の亜鉛濃度は,拘束15分後で対照群に比べ て有意な減少を示し(PくO. 01),この低下は他のストレス群にも見られた。すなわち,海馬組 織 中 の 亜 鉛 は 拘 束 ス ト レ ス 負 荷 の 早 い 時 間 で 変 化 す る 事 が 明 ら か に な っ た 。

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  ラージ ンナ プトゾ ー厶fま, 海馬の 神経伝 達に 亜鉛が 直接関与する場であるが,この分画中の亜 鉛濃度 は拘束 スト レス負 荷によ り低下 する傾 向を 示し, この傾 向は海 馬組 織中亜鉛の変動と同様 であっ た。亜 鉛が 海馬に 高濃度 である ことや 刺激 により 細胞外 へ放出 され ることから,ストレス におけ るこれ らの 変動は 共通の 原因により生じるものと考えられた。一方,スモールシナプトゾー ム分画 の亜鉛 濃度 は,ス トレス により 増加す る傾 向を示 した。 これら の結 果から,ラージシナプ トゾー ムとス モ― ルシナ プトゾ ームと では亜 鉛の 神経伝 達に果 たす役 割が 異なるものと考えられ た。

  血漿コ ルチ コステ 口ンは ,スト レス により 副腎皮 質から 血液中 に放 出され るが,拘束ストレス によ り こ の 濃 度 は, ス ト レス 負荷15分およ び30分 で対照 群に比 べて約2倍 に,60分では4倍 に増 加した 。対照 群,15分およ び30分 の群で は,各 測定値 のば らっき がかな り大き かったのに対し,

ストレ ス負荷60分で は一様 に濃度 上昇 が認め られる ことか ら,血 漿コ ルチコ ステ口ンは海馬中亜 鉛 の 変 動 に 比 べ , ス ト レ ス の 影 響 が強 く 現 れ る のに 時 間 を 要 する こ と が 明 らか に な っ た 。 実験2.海 馬から の亜鉛 放出特 性に 関して ,細胞 間隙に 放出 された 亜鉛が どの程 度神経 伝達 に関 与する かは明 らか にされ ていな い。細 胞外の 亜鉛 濃度は ,高カ リウ厶 刺激 により有意に上昇し,

カル シ ウ ム を 取 り除 く と 基 底 値の 約70% に低 下 し た。こ れに対 しTTX液で は,亜 鉛濃度 は低下 する傾 向を示 した ものの ,基底 値との 有意差 は認 められ なかっ た。こ の結 果から,細胞外ヘ放出 される 亜鉛は ,神 経活動 による もの以 外に細 胞の 代謝に 伴って 放出さ れる ものも存在することが 示唆さ れた。

  拘束ス トレ スによ る細胞 外への 亜鉛 放出に 関して ,細胞 外の亜 鉛濃 度はス トレス負荷15分では 有意な 上昇を 示す が,30分 以後で は拘 束負荷 前の値 と同じ レペル に戻 る。さ らに,この変化はグ ルタミ ン酸と ほぼ 同じ放 出パ夕 一ンを 示すこ とか ら,海 馬にお ける亜 鉛の 放出が神経末端からグ ルタミ ン酸と とも に生じ る可能 性が明 らかに され た。

IV結 語

  中 枢神経 系にお ける亜 鉛と ストレ スとの 関係を 明らか にす るため に,ラットに拘束ス卜レスを 負荷 し, 海馬中 亜鉛の 変化を 検討し た。

  そ の結果 ,海馬 組織中 亜鉛 の低下 ,巨大 シナプ トゾー 厶分 画での 低下傾向および細胞外亜鉛濃 度の 上昇 が認め られた ことか ら,海 馬の 亜鉛は ストレ ス負荷 によ り神経 末端から放出されること が明 らか となっ た。さ らに, 亜鉛の 放出 はスト レス負 荷の早 い時 期に現 れ,その放出は海馬の神 経 伝 達 物 質 で あ る グ ル タ ミ ン 酸 と 同 じ 挙 動 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。

(4)

  以上 より, 亜鉛は 脳内で スト レスに よりそ の挙動 が変化 する ととも に,海馬での神経伝達に重 要な役 割を 果たし ている ことが 認めら れた 。

学位論文審査の要旨 主 査    教 授 . 斎 藤 和 雄 副 査    教 授    小 島    豐 副 査    教 授    黒 柳 俊 雄 副査    教授    保原喜志夫

  本研究 は,海 馬にお ける ストレ スと亜 鉛との 関係を 明ら かにす る目的 で,ラットに拘束ストレ ス を負 荷し海 馬中亜鉛の動態を(1)海馬の組織中およびシナプトゾー厶分画中の亜鉛濃度の変化に っ いて 検討す るとともに,(2)海馬における神経末端からの亜鉛の放出特性をストレスとの関係に お いて 経時的 に検討した。また,(3)亜鉛がグルタミン酸神経伝達系に関与することから,グルタ ミ ン酸 を含む アミノ酸神経伝達物質の放出にっいても同時に追求した。さらに,(4)亜鉛とこれら 伝 達物 質との 関係を ストレ ス指標 であ る血漿 コルチ コステ ロン の変化 と海馬における亜鉛の変動 と の違 いにっ いて検 討した 。この 様な ストレ スによ る脳内 亜鉛 の変動 を経時的に検討し,その機 序 を 明 ら か に し た 研 究 は こ れ ま で に な く こ の 研 究 で 初 め て 試 み ら れ た 。 1. 拘 束 ス ト レ ス に よ る ラ ッ 卜 脳 海 馬 組 織 お よ び シ ナ プ ト ゾ ー ム 中 亜 鉛 濃 度   Wistar系 雄 性ラ ッ ト(270・340g) の 拘 束終 了 後 直 ち に 断頭 が 出 来 るよう に設 計,製 作した ア クリ ル製拘 束ケー ジを用 いて,15分,30分お よび60分 の拘束 スト レスを 負荷し,拘束終了後,

海 馬 組 織 中 の 亜 鉛 濃 度 を 誘 導 結 合 プ ラ ズ マ 質 量 分 析 装置(ICP・MS:Seiko,SPQ・6500)を 用 いて 測定し た。そ の結果 ,拘束 スト レス負 荷によ るラッ ト脳 海馬組 織中の亜鉛濃度は,拘束15 分 後 で 対 照 群に 比 べ て 有意 な減 少を示 し(PくO.01),こ の低下 は30分 ,60分 負荷群 にも見 られ た 。す なわち ,海馬 組織中 の亜鉛 は拘束ストレス負荷の早い時間で変化する事が明らかになった。

シ ナプ トゾー ムのう ち,ラ ージシ ナプ トゾー 厶分画 中の亜 鉛濃 度は拘 束ストレス負荷により低下 す る傾 向を示 し,こ の傾向 は海馬 組織 中亜鉛 の変動 と同様 であ った。 亜鉛が海馬に高濃度である こ とや 刺激に より細 胞外ヘ 放出さ れる ことか ら,ス トレス にお けるこ れらの変動は共通の原因に よ り生 じたも のと考 えられ る。一 方, スモー ルシナ プトゾ ーム 分画中 亜鉛濃度は,ストレスによ

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り増加する傾向を示し,このちがいからラージシナプトゾームとスモールシナプ卜ゾ一厶の神経 伝達に果たす役割が異なることが示唆された。

2.拘 束ス トレ ス ラッ トの 血漿 中 コル チコ ステ 口ン 濃度および透析液中のアミノ 酸濃度   測定は拘束液体ク口マトグラフィーならびに電気化学的検出器を用いて行われた。その結果,

血漿コルチコステ口ン濃度は,ストレス負荷15分および30分で対照群に比べて約2倍に,60分で は4倍に増加した。対照群,15分および30分の群では,各測定値のばらっきがかなり大きかった のに対し,ストレス負荷60分では一様に濃度上昇が認められることから,血漿コルチコステ口ン は海馬中亜鉛の変動に比べ,ストレスの影響が強く現れるのに時間を要することが明らかになっ た。

3.ラット脳海馬における亜鉛の細胞外への放出特性

  脳微小透析法(マイクロダイアリシス法)によルラットの海馬から15分毎に回収された透析液 中の亜鉛濃度をフレームレス原子吸光法で測定した。その結果,細胞外亜鉛濃度は,高カリウム 刺激 により有意に上昇し,カルシウムを取り除くと基底値の約70%に低下した。これに対し TTX液では,亜鉛濃度は低下の傾向を示したものの,基底値との間に有意差は認められナょかっ た。この事実から,細胞外へ放出される亜鉛は,神経活動によるもの以外に細胞の代謝に伴って 放出されるものも存在することが明らかとなった。また拘束ストレスによる細胞外への亜鉛放出 に関して,細胞外の亜鉛濃度はストレス負荷15分では有意な上昇を示すが,30分以後では拘束負 荷前の値と同じレベルに戻る。さらに,この変化はグルタミン酸とほぼ同じ放出パターンを示す ことから,海馬における亜鉛の放出が神経末端からグルタミン酸とともに生じる可能性が明らか にされた。

  以上,海馬組織中亜鉛の低下,巨大シナプトゾーム分画での低下傾向および細胞外亜鉛濃度の 上昇が認められたことから,海馬の亜鉛はストレス負荷により神経末端から放出されることが明 らかとなった。さらに,亜鉛の放出はストレス負荷の早い時期に現れ,その放出は海馬の神経伝 達 物 質 で あ る グ ル タ ミ ン 酸 と 同 じ 挙 動 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。   本研究で得られた知見は,ストレスによる脳海馬の亜鉛の動態と機序を細胞内および細胞外の レベルで明らかにし,亜鉛が海馬の神経伝達に重要な役割を果たしていることを証明したもので あ り , 申 請 者 は 博 士 ( 環 境 科 学 ) の 学 位を 受 ける のに ふさ わし い もの と判 断し た。

参照

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