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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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     博士(環境科学)齊藤    愛 学位 論文題名

西部北太平洋亜寒帯域における植物プランクトンの      鉄 ス ト レ ス と そ の 応 答 に 関 す る 研 究

学位論文内容の要旨

  植物 プランク トンは海 洋における 主要な基 礎生産者 であり、 植物プラ ンクトンが作り出 す有 機物は食 物連鎖を 通して高次 の栄養段 階に転送 されてお り、海洋 生態系は 植物プラン クト ンの基礎 生産によ って支えら れている 。同時に 、植物プ ランクト ンの生産 は、海洋に 溶け 込む二酸 化炭素の 濃度を決定する要因のーっとなっている。特に珪藻類のブルームは、

光 合 成に よ って 海 洋 表層 に おい て 固 定し た 二 酸化炭 素を中深 層への炭 素の輸送 を促進す る効 果が大き く、海洋 の炭素循環 において 重要な役 割を担っ ている。 そのため 、植物プラ ンク トンの基 礎生産を 支配する因 子を同定 すること は、海洋 の炭素循 環過程を 理解する上 で非 常に重要 である。 近年、鉄はHNLC(High NutrientLowCb亅0rophyll)海域における植物 プラ ンクトン の増殖制 限要因のー っといわ れ、人為 的な鉄添 加によっ て大型珪 藻類の増殖 が 促 進さ れ るこ と が 報告 さ れた 。HNLC海 域の ひ とつであ る北太平 洋亜寒帯 域におい て、

西部 北太平洋 亜寒帯域 の鉄の供給 量は、中 国大陸か らの黄砂 の飛来の 他にオホ ーツク海陸 棚を 経由して 海洋循環 によって外 洋域に供 給される 経路も存 在するた め、東部 北太平洋亜 寒帯 域と比較 すると高 い。本海域 では基礎 生産量に 季節変動 が見られ 、特に親 潮域におい ては 毎年春季 に大規模 な珪藻ブル ームが発 生する。 この春季 ブルーム の発達に ともない鉄 濃度が減少することが報告されておりくNismokaefロZ.,2007)、本海域の基礎生産は鉄によ って 支えられ ている可 能性が示唆 されてい る。しか し、自然 に供給さ れる鉄が 春季珪藻ブ ルー ムなど、 植物プラ ンクトンの 増殖を制 限してい るかにつ いての知 見は未だ 不十分であ る。 本研究で は、光合 成夕ンバク 質である フウレド キシンお よびフラ ボドキシ ンから、植 物プ ランクト ンの鉄ス トレスを評 価するこ とを試み た。植物 プランク トンは鉄 ストレスを 受 け た際 、 光合 成 光化 学系Iの電 子受容部 において、 鉄硫黄夕 ンバク質 であるフ ウレドキ シン の合成が 抑制され る。その代わりに鉄を含まないフラポドキシンの合成が誘導されて、

明 反 応を 進 行さ せ 、 暗反 応 のた め の 還元 力 (NADPH)を 作 る 。こ の 生理 特 性 を利用 し、

ウエ スタンブ 口ッティ ング法を用 いてこれ らの光合 成夕ンバ ク質を検 出し、西 部北太平洋 亜寒 帯循環域 、親潮域 およびオホ ーツク海 における 植物プラ ンクトン 群集中の 大型珪藻類

(体長20〜200um)の鉄ストレス応答を調査した。

  2004年西部北太平洋亜寒帯循環域において行われた中規模現場鉄散布実験(SEEDS‐II)に おしゝて、表層(5m)のクロ口フィルロ(Chlロ)濃度O.62nlgm一3から2.84mgn13に、光化学系II

(2)

の最大量子収率(F丿R)は0.29から0.42に増加し、植物プランクトン群集は鉄制限から開放 された。しかし、大型珪藻類のフェレドキシンおよびフラボドキシンの分析結果によると、

鉄散布バッチ内においてフェレドキシンは検出されず、フラポドキシンは常に検出された。

さ らに 、フ ラポ ドキ シン パン ドの 強度比 は、 鉄パ ッチ内外で有意な差が認められなかった

(p冫0.05)。この結果から、鉄散布後も大型珪藻類の鉄ストレスは解消されなかったこと が 示唆 され た。SEEDS‑IIでの 表層 混合層 水深 は約30mと深 く、 希釈効 果に より 鉄散布直後 以 外、 鉄バ ッチ 内Sm深に おし ゝて 、0.5 nM以 上の 溶存鉄濃度を維持することができなかっ た ため 、細 胞内 鉄要 求量が高しゝ大型珪藻類の増殖に充分な鉄が供給されず、珪藻類がSEE DS‑IIではプルームを作らなかった理由の1つとして考えられた。

一 方、2005年5月 の親 潮域 にお ける 表層 (5 mのCb亅ロ濃度はブルームが発生した観測点で は9.01mgn3に 達 する も の の 、 そ れ 以 外 の 観 測 点 で は2nlg灯3以 下 で あ っ た 。 溶存 鉄濃 度 は0.23〜6.37nMであ り、 溶存 鉄濃度 が最 も高 かった沿岸の観測点ではフウレドキシン が 検出 され た一 方で 、フ ラポ ドキ シンは 明瞭 に現 れなかったため、鉄ストレスの影響を受 けていないことが示唆された。それ対し、海水中の溶存鉄濃度が低しゝ観測点では、ブルー ム が珪 藻認 めら れた 観測 点を 含め て、フ ラポ ドキ シンが検出された。春季親潮ブルームの 発 生・ 終息 には 、珪 藻類 の鉄 増殖 制限の 可能 性が 今まで示唆されていたが、本研究のフラ ボ ドキ シン 発現 の結 果か ら、 ブル ーム時 の大 型珪 藻類が鉄ストレス状態にあったことが初 めて証明された。

  さ ら に 詳 細 に 春 季親 潮珪 藻ブ ルー ムに おけ る珪 藻群 集の 鉄ス トレ スを 時空間 的に 調査 す るた めに 、2007年4月に北海道・東北沖のハ1me観測線上のA5観測点(42°00 N,145゜1 5 E) にお いて1ケ月 間の高頻度定点観測を、5月および6月にA‐Lme観測線およびその東部 に 位置 するB−L血e観 測線 にお いて トラ ンセ クト 観測を行った。4月の観測においては、表 層Chla濃度および珪藻類の現存量は観測期間を通して高く(それぞれ1.8‐29mgm一3,0.81 x105‐1.08x106ce11sl.り、継続的に珪藻ブルームが発生していた。5月および6月の観測 で はA‐Lme観測 線上 の観 測点 のChlロ濃 度は1nlgm.3以下まで低下していたが、B−Line観 測 線上 の観 測点 にお いては0.82−6.51nlgm13であり、ブルームが認められた。3つの観測 に おい て、 植物 プラ ンク トン ブル ームが 認め られ た観測点では常に円心目珪藻類が優占し てしゝた。本観測における溶存鉄濃度は0.08−0.53nMであり、全ての観測においてフラポド キ シン のみ が検 出さ れ、 春季 親潮 ブルー ムに おけ る珪藻類は鉄ストレスを抱えながら増殖 し てい たこ とが 明ら かと なっ た。 過去の 知見 にお いて、珪藻類のフラポドキシンは鉄欠乏 の 初期 段階 から 発現 し、 溶存 鉄濃 度が1nM以 下で 強く 発現 する ことが 知ら れて しゝるおり

(DaveyandGeider,2001;LaRoche甜ロぇ,1996)、本研究におけるフラポドキシン蓄積と 溶 存鉄 濃度 の閾 値は 、こ れら の知 見と一 致し た。 しかしながら、フラポドキシンの蓄積量 とR/n、お よび 溶存 鉄濃 度と の間 に単純 な相 関関 係は見られず、抗体の交差性、鉄要求量 な ど溶 存鉄 濃度 以外 の要 因が 影響 を与え てい る可 能性が考えられた。フラボドキシンの発 現 は細 胞が 利用 可能 な鉄 の現 存量 に制限 され てお り、その閾値は種によって異なることが 知 られ てい る。 本研 究に おい ても プルー ムを 構成 する珪藻種が時空間的に大きく変化して い たこ とか ら、 フラ ボド キシ ンの 蓄積量 の変 化は 出現した珪藻種の鉄要求量の違いを反映 意していたと考えられた。

    ―1002−

(3)

学位論文審査の要旨

主査   准教授   鈴木光次 副査   教授   乗木新一郎 副査   教授   吉川久幸 副査   教授   久万健志

副査   教授   服部   寛(東海大学生物理工学部)

学 位 論 文 題 名

西部北太平洋亜寒帯域における植物プランクトンの      鉄 ス ト レ ス と そ の 応 答 に 関 す る 研 究

  植物 プラ ンク トン は, 海洋 にお ける主要な基礎生産者であ り,海洋の生態系や炭素循環 の 起点 とな って いる 。こ のた め, 植物プランクトンの基礎生 産を支配する因子を同定する こ とは ,海 洋の 炭素 循環 過程 を理 解する上で極めて重要であ る。近年,海水中の鉄は高栄 養 塩 , 低 ク 口 口 フ ィ ル(HNLC)海 域 に お け る 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 増 殖 制 限 要 因 の1っ と し て知 られ てお り, 人為 的な 鉄添 加によって植物プランクト ン(特に,大型珪藻類)の増 殖 が促 進さ れる こと が数 多く 報告 された。しかし,自然に供 給される鉄が西部北太平洋亜 寒帯域および緑辺海域におけ る植物プランクトンの増殖を制限してし〕るかどうかに関する 知 見は 極め て限 られ てい る。 この ため,申請者は,植物プラ ンクトンが鉄欠乏ストレスを 受 けた 際,光合成光化学系Iの電子受容部において,鉄硫黄夕 ンパク質であるフェレドキシ ン の合 成が 抑制 され その 変わ りに 鉄を 含ま ない フラ ポド キ シン の合 成が 抑制 され る特 徴 を 利用 し, フウ レド キシ ンお よび フラポドキシンの存在比か ら現場の植物プランクトンの 鉄欠乏ストレスを定量的に評 価する試みを行った。

  申請 者は ,先 ず,2004年夏 季に 実施された西部北太平洋亜 寒帯循環域における現場鉄散 布実験において,大型珪藻類 の大増殖(プルーム)が発生しなかった理由を考察するため,

大 型珪 藻類 に対 して フェ レド キシ ンおよびフラポドキシンア ッセイを行った。その結果,

実 験期 間中 ,フ ウレ ドキ シン カ瀬 出されず,フラポドキシン のみが見られたことから,鉄 散 布後 も大 型珪 藻類 が鉄 欠乏 スト レス下にあったことを発見 した。即ち,同海域で大型珪 藻 類の プル ーム を人 為的 に発 生さ せ,生物ポンプ能を高める ためにはより多量の鉄散布が 必要であることが示唆された 。

  次に ,申 請者 は, 毎春 ,親 潮域 でブルームを形成する大型 珪藻類の鉄欠乏ストレスを評 価 する こと を試 みた 。親 潮域 にお ける春季珪藻ブルームは, 冬季鉛直混合による表層への

1003

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栄養塩供給と日射量の増加に伴う水温上昇による水柱の成層化により,発達する。通常,

このブルームは6,7月に終息するが,親潮域の―部はHNI C状態になることから,春季親 潮珪藻ブルームの規模および期間は,海水中の鉄によって制御されてしゝる可能性が考えら れる。申請者は,2005年春季親潮域の海洋観測におしゝて,海水中の溶存鉄濃度が比較的高 しゝ観測点ではフェレドキシンを検出した。一方,珪藻ブルームが発生していた溶存鉄濃度 の低い観測点ではフラポドキシンが検出されたことから,ブルームを形成する大型珪藻類 が鉄欠乏ストレス下にあったことを初めて明らかにした。しかし,この2005年の観測は2 日間のみで実施された寸描的なものであったことから,2007年4月から6月にかけて高頻度 定点および定線海洋観測航海に参加し,春季親潮域の大型珪藻類の鉄欠乏ストレスを評価 した。植物プランクトンブルームが発生していた観測点では,常に円心目珪藻類が優占し ていた。この際,表層海水中の溶存鉄濃度は低く,全ての観測点において,フラポドキシ ンのみが検出されたことから,春季親潮域でブルームを形成する大型珪藻類は,鉄欠乏ス ト レ ス を 抱 え な が ら , 増 殖 し て い た こ と が 本 研 究 で 実 証 さ れ た 。   最後に,申請者は,2006年夏季のオホーツク海および西部北太平洋亜寒帯域とオホーツ ク海を挟む千島列島海域における大型珪藻類の鉄欠乏ストレスを評価した。オホーツク海 は,世界有数の巨大河川であるアムール川などから多量の栄養塩や鉄が供給されることか ら,春から夏にかけて,高い基礎生産カを持つことが知られている。しかし,オホーツク 海における大型珪藻類の鉄欠乏ストレスに関する知見は過去に報告されていなしゝため,申 請者は,その評価を行った。その結果アムール川河口付近ではフェレドキシンの蓄積が 高く,サハリン島東沿岸から南の沖合へ向かうに従い,フェレドキシンの蓄積が減少し,

フラポドキシンの蓄積が増加する傾向が見られた。この結果は,海水中の溶存鉄濃度の分 布と比較的良い一致を示した。また,千島列島海域では,海水中の溶存鉄濃度が比較的高 かったにもかかわらず,フラボドキシンのみが検出された。千島列島海域では,潮汐によ る水柱の鉛直混合が活発なため,大型珪藻類は表層に留まることが困難であることから,

その増殖が光により制限されていたことが推測された。また,光制限下の大型珪藻類は,

光捕集能カを増加させるために多くの鉄を使って光合成色素を合成しなければならなくな るこ と から , 結 果的に 大型珪藻類 は鉄欠乏 ストレス 状態にあ ったと考 えられた 。   審査員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大 学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(環学)の学位を 受けるのに売三分な資格を有するものと判定した。

参照

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