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博士(水産学)橋本慎治 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(水産学)橋本慎治 学位論文題名

亜寒帯海域における沈降粒子中のアミノ酸および    ヘキソサミンの動態と海域特性に関する研究

学位論文内容の要旨

  

海洋表層に棲息する植物プランクトンの動態は、二酸化炭素濃度の増 加による地球温暖化問題の鍵を握っており、また潜在的な海産資源量を 把握する上で極めて重要である。

  

北部北太平洋亜寒帯海域およびべーリング海は、世界中で最も生物資 源の豊富な海域であり、植物プ゛ランクトンの生産、すなわち基礎生産の 高い海域であると考えられている。しかしながら、これらの海域におけ る研究調査の多くは気象条件により夏季に限られていたため、生物生産 の季節変動や年変動はこれまで正確に把握されていない。長期間におけ るセジメント・トラップ実験は、これらの海域の生物過程の変動を把握 するうえで最も有効な手段のーつである。セジメント・トラップ実験か ら得られるアミノ酸に関するデータは沈降有機粒子の起源および分解過 程のよい指標となり、一方、アミノ糖の一種であるへキソサミンは動物 プ ラ ン ク ト ン の 相 対 的 な 寄 与 を 推 定 す る の に よ い 指 標 と な る 。

  

本研究は、生物生産の高い沿岸域および外洋域にセジメント・トラツ プを設置し、採取した沈降有機粒子中のアミノ酸およびへキソ.サミンを 測定することにより、それらの季節変動と成分組成比から表層における 生 物 過 程 お よ び そ の 海 域 特 性 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し た 。

  

沿岸域

  

沿岸域における有機物粒子の生産および沈降過程を明らかにするため に、

4

つの沿岸域、すなわちチュクチ海、大槌湾、噴火湾ロ部および噴 火湾中央部でセジメント・トラソプ実験を行った。

  

海底付近に沈降するアミノ酸フラックスは、基礎生産量から算出され たアミノ酸生産量の8―45%の範囲であった。ヘキソサミンフラックスは

(2)

アミノ酸フラックスと正の相関性(rニニO. 51,n二二ニll)を示した。これは、有 機 物 粒 子 フ ラ ッ ク ス の 増 加 と と も に 動 物 プ ラ ン ク ト ン 起 源 粒 子 が 増 加 し た こ と を 意 味 す る 。 し か し な が ら 、 沈 降 有 機 粒 子 中 の 植 物 プ ラ ン ク ト ン 起 源 粒 子 と 動 物 プ ラ ン ク ト ン 起 源 粒 子 の 相 対 的 な 割 合 を 推 定 す る こ と が で き る へ キ ソ サ ミ ン / ア ミ ノ 酸 比 と ア ミ ノ 酸 フ ラ ッ ク ス の 関 係 は 、 負 の 相 関 性(r=070n=ll) を示 し、 有機 物粒 子フ ラック スの 増加 とと もに 植 物 プ ラ ン ク ト ン 起 源 粒 子 の 割 合 が 動 物 プ ラ ン ク ト ン 起 源 粒 子 よ り も 相 対 的 に 多 く な っ て い る こ と を 意 味 す る 。 す な わ ち 、 沿 岸 域 に お い て 基 礎 生 産 量 に 対 す る 粒 状 有 機 物 フ ラ ッ ク ス の 割 合 は 、 動 物 プ ラ ン ク ト ン の 捕 食 に大きく左右されるものと考えられる。

  外洋域

  外 洋 域 に お け る 生 物 生 産 過 程 を 明 ら か に す る た め に 、19908月 か ら 19937月 の3年 間 、 べ ー リ ン グ 海 ( 設 置 水 深 :3200m)お よ び 中 央 北 太 平 洋 ( 設 置 水 深 :4400m)に お い て セ ジ メ ン ト ・ ト ラ ッ プ 実 験 を 行 っ た 。   ベ ー リ ン グ 海 に お け る ア ミ ノ 酸 フ ラ ッ ク ス は 、 晩 春 か ら 初 夏 お よ び 秋 季 に か け て ピ ー ク を 持 ち 、 冬 季 か ら 早 春 に か け て 低 い 傾 向 を 示 し た 。 し か し な が ら 、 そ の ピ ー ク の 時 期 お よ び 規 模 は 年 に よ る 変 動 を 示 し た 。 一 方 、 中 央 北 太 平 洋 に お け る ア ミ ノ 酸 フ ラ ッ ク ス は 、 晩 春 か ら 初 夏 に か け て 高 く 、 冬 季 か ら 早 春 に か け て 低 い 傾 向 を 示 し た 。 ま た 、 そ の ピ ー ク の 時 期 お よ び 規 模 は 年 に よ る 変 動 を 示 し た 。 中 央 北 太 平 洋 に お け る ア ミ ノ 酸 フ ラ ッ ク ス は 、 い ず れ の 時 期 に お い て も べ ー リ ン グ 海 よ り も 低 い 傾 向 を示した。

  ヘ キ ソ サ ミ ン フ ラ ッ ク ス と ア ミ ノ 酸 フ ラ ッ ク ス と の 相 関 性 に つ い て み る と 、 そ の 関 係 は 両 海 域 と も に 正 の 相 関 性 ( べー リ ン グ 海 ;r二 ニ0 60 n=35:中 央 北 太 平 洋 ;r=0. 69n=33)を 示 し た 。 し か し な が ら 、 中 央 北 太 平 洋 に お け る ア ミ ノ 酸 フ ラ ソ ク ス と へ キ ソ サ ミ ン フ ラ ッ ク ス と の 回 帰 直 線 の 傾 き ( ヘ キ ソ サ ミ ン フ ラ ッ ク ス / ア ミ ノ 酸 フ ラ ッ ク ス ) は 、 ベ ー リ ン グ 海 よ り も32倍高 い 値 で あ っ た 。 こ れ は 、 両 海 域 に お い て 有 機 物 粒 子 フ ラ ッ ク ス の 増 加 に と も な い 動 物 プ ラ ン ク ト ン 起 源 粒 子 が 増 加 し 、 中 央 北 太 平 洋 に お け る 動 物 プ ラ ン ク ト ン 起 源 粒 子 の 増 加 量 が 、 べ ー リ ン グ 海 よ り も 大 き い こ と を 意 味 し て い る 。 す な わ ち 、 中 央 北 太 平 洋 に お け る 沈

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降有機粒子中の動物プランクトン起源粒子の関与はべーリング海よりも 大きい。

  

ヘキソサミン含有量は、べーリング海では冬季に高い傾向を示し、ー一 方、中央北太平洋では春季から夏季に高い傾向を示した。さらに、中央 北太平洋におけるへキソサミン含有量は、アミノ酸フラックスと正の相 関性

(r:

ニ0.47,r1ニ33)を示すのに対して、べーリング海では負の相関性

(r=

0

.46,n=35)を示した。これは、中央北太平洋では有機物粒子フラッ クスの増加とともに動物プランクトン起源粒子の割合が相対的に大きく なるのに対して、ベーリング海では植物プランクトン起源粒子の割合が 相対的に大きくなることを意味している。

  

両海域から得られた沈降粒子のサイズ分画(<63皿m,63ルm−Imm)を行っ た結果、

<63

ルm区分のへキソサミン含有量は63ルmーImm区分よりも低い値 であり、その区分の大部分が珪藻類によって占められていた。一方、63

H m‑lmrn

区分は動物プランク卜ン起源粒子を多く含んでいた。これらのこ とから、中央北太平洋における動物プランクトンによる捕食圧がべーリ ング海よりも大きいのではないかと推察された。

  

本研究を行ったべーリング海と中央北太平洋における沈降有機粒子中 のアミノ酸およびへキソサミンの結果と

Haake et al.

1993)

によって報 告された北東太平洋

(StationP

)の結果を比較すると、両海域における へキソサミンフラックス、ヘキソサミン含有量およびへキソサミン/ア ミノ酸比は、北東太平洋よりもかなり低い値を示している。すなわち、

両海域における動物プランクトン現存量や捕食圧は北東太平洋よりも低 く、而海域の表層における生物過程は北東太平洋とかなり異なると結論 づけられる。

  

以上の結果から、沿岸域お.よび外洋域ともに有機物粒子フラックスお よびその組成の変動は、動物プランク卜ンの捕食により大きく左右され ることが明らかになった。本研究による結果は、沈降粒子中の有機物組 成を詳細に検討することにより、生態系の海域の特性を解明する有効な 指標になると考えられる。

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨

教授 教授 教授 助教授

  

北方 沿 岸域 を含む亜寒 帯海域は世界の海 洋の中で有数の生物 生産 カ を 有す るこ とはよ く知られている。 従って、海洋におけ る有機物 生 産 、分 解及 び沈降 の規模は極めて大 きく、かつ変化に富 むものと 考 え られ る。 とりわ け有機物生成の担 い手である植物プラ ンクトン の 季 節的 消長 からみ て、粒子の沈降粒 子フラックスも季節 的に極め て 大 きい もの と予想 される。最近地球 が温暖化しつっある のではな い か と云 われ ている が、その傍証とし て海洋における海水 温度の上 昇 が 挙げ られ ている 。このような海洋 環境の変動が生物生 産カにど の 様 な影 響を 与える のか、また、低次 生産生物過程が海洋 環境変動 に 対 して 如何 なる応 答を示すか、につ いては長期的な視点 に立った 検討が必要であることは云うまでもない。

    

本研究は、その端著として北方沿岸域および亜寒帯外洋域におけ る 低 次生 産過 程の年 及び季節変化を解 明することを目的と して行わ れ た もの であ る。研 究を行った海域は 、外洋域として北部 中央太平 洋 亜 寒帯 海域 及びべ ーリング海、沿岸 海域として噴火湾、 チャクチ 海 、 大槌 湾を 取り上 げた。研究手法と しては深層に係留し たセジメ ントトラップを用Iヽて時系列的に捕集された沈降有機物粒子、 主と

  

してア ミノ酸及びアミノ糖などの化学成分組成を化学指標として生 物生 産過程を調べた。すなわち、  タンパク質構成アミノ酸及びその 分 解 中間 生成 物に関 するデータは沈降 有機物粒子の起源及 び分解遇

  

程のパラメーターとし、ニ方、

  

アミノ糖の一種であるヘキソサミン

  

が亜寒 帯域で魚類の主要な餌となる甲殻動物プランクトンの殻に含

  

まれて いるキチン質の主要な有機物質であることから、海洋の有光

  

層にお ける一次生産と二次生産の関係を知る手懸かりになると考え

  

た。特 に、外洋域におい ては繰り返し

3

年間の研究を実施して年変

  

動についての検討を行った。

    

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主 査 副

査 査 副 副

                                               

                                         

     

(5)

  

以上の目的及び手法に沿って行われた研究の成果は以下のように まとめられる。

  

第一に研究海域全体として、アミノ酸とへキソサミンの両沈降フ ラックスは統計的に正の相関関係が認められることから、一次生産 から二次生産への生物過程がキチン質を有する甲殻動物プランクト ンにより進行していると共に、各海域における両成分のフラックス の比はその関わりの度合いを示すバラメーターになることを示した。

第二に3年間にわたる外洋域における時系列的解析では、ベーリン グ海及び北部中央太平洋海域では晩春から初夏に高い有機物フラッ クスが、観測された他、ベ―リング海においては秋期にも極大傾向が あることが示され、  これら外洋域においては年1回(北部中央太平 洋)または2回(ベーリング海)の生産カの極大が存在することを 示した。第三に北部中央太平洋におけるへキソサミンフラックス/

アミノ酸フラックス比がべーリング海の比よりも高いことから、北 太平洋では相対的に動物起源に富む粒子が沈降していると推定され た。第四に沈降粒子中のへキソサミン含有量とアミノ酸フラックス の関係にっいては、北部中央太平洋では正の相関関係を、一方、ベ ーリング海では負の相関関係を持つことを明らかにした。これは、

北部中央太平洋は動物プランク卜ンによる摂食過程が植物プランク 卜ン生産カに依存しているが、ベーリング海では植物プランクトン に対する動物プランク卜ンの応答が相対的に弱いことを示した。そ の要因については未解決であるが、北東太平洋における既存の資料 も併せて考察し、沈降粒子中のへキソサミン含有量とアミノ酸フラ ックス比の関係が亜寒帯外洋海域における低次生産過程の海域特性 を知る一指標として有効であることを示した。

  

申請者の研究は海洋における生産過程を沈降粒子の時系列試料を 用いて化学的手法、  すなわち沈降粒子中のアミノ酸とへキソサミン フラックス、含有量及び両成分比の解析によって明らかにした点は きわめて独創性に富んでいる。また、  この研究によって得られた成 果は海洋における低次生産の動態およびその海域特性を解明する有 効な化学指標となる可能性を有するので、審査委員一同は申請者の 研究が博士の学位(水産学)を授与するに価するものと認めた。

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参照

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