博 士 ( 医 学 ) 斉 藤 高 彦
学 位 論 文 題 名
カ テ コ ー ル ア ミ ン 心 筋 症 にお け る
心 筋 ア ポ ト ー シ ス に 関 与 す る シ グ ナ ル 伝 達 系 に 関 す る 考 察
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
心 臓 に 圧 負 荷 や 容 量 負 荷 な ど の さ ま ざ ま な 負 荷 が 加 わ る と 交 感 神 経 系 や レ ニ ン ・ ア ン ギ オ テ ン シ ン 系 な ど の 代 償 機 構 が 働 き 心 機 能 を 維 持 す ・ る よ う に 適 応 し て い く が , そ の 適 応 破 綻 に よ る 機 能 不 全 状 態 が 心 不 全 で あ る , し か し 交 感 神 経 系 の 持 続 的 な 亢 進 は 心 筋 障 害 を 起 こ し う る . ノ ル エ ピ ネ フ リ ン や イ ソ プ ロ テ レ ノ ー ル(ISO)の 投 与 に よ る 心 筋 障 害 が 報 告 さ れ , カ テ コ ー ル ア ミ ン の 過 剰 投 与 , 過 剰 分 泌 に よ り 心 筋 障 害 を き た し た も の を カ テ コ ー ル ア ミ ン 心 筋 症 と 呼 ぷ よ う に な っ た .
ア ポ ト ー シ ス は 多 細 胞 生 物 に 備 わ っ た 細 胞 死 の ー つ の 様 式 で あ る . 近 年 心 不 全 患 者 お よ び 各 種 実 験 動 物 モ デ ル に お い て 心 筋 細 胞 に お け る ア ポ ト ー シ ス の 報 告 が 相 次 い で い る ,pア ド レ ナ リ ン 受 容 体 刺 激 に よ る 心 筋 細 胞 ア ポ ト ー シ ス に っ い て はln vivoで はShizukudaら がISO を 持 続 投 与 し た ラ ッ ト に お い て 初 め て 報 告 し た , 最 近Saitoら がpア ド レ ナ リ ン 受 容 体 刺 激 に よ る 心 筋 細 胞 ア ポ ト ー シ ス に はCa 2+‑カ ル モ ジ ュ リ ン 依 存 性 プ ロ テ イ ン ホ ス フ ァ タ ー ゼ で あ る カ ル シ ニ ュ ー リ ン が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と を 報 告 し た , 心 筋 に お い て カ ル シ ニ ユ ー リ ン は 心 筋 細 胞 内Ca2+の 上 昇 に よ り 活 性 化 さ れI細 胞 質 内 に り ン 酸 化 さ れ て 存 在 す る NF‑AT3を 脱 リ ン 酸 化 し 活 性 化 し 核 内 ヘ 移 行 さ せ る . 核 内 ヘ 移 行 し た NF‑AT3はGATA4と 結 合 しBNP,pMHC等 の 転 写 を 亢 進 さ せ 心 筋 細 胞 肥 大 へ と っ な が る と 考 え ら れ て い る . Saitoら は カ ル シ ニ ュ ー リ ン 阻 害 剤 のFK506に よ っ てISO持 続 投 与 に よ る ア ボ ト ー シ ス が 抑 制 さ れ る こ と を 報 告 し た . こ れ ら の 報 告 か ら カ テ コ ー ル ア ミ ン に よ る 心 筋 障 害 の 要 因 に ア ボ ト ー シ ス が 含 ま れ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ る , し か し 心 筋 ア ポ ト ー シ ス に 関 与 す る シ グ ナ ル 伝 達 系 に っ い て は ま だ 未 解 明 の 部 分 が 多 い .Shizukudaら やSaitoら の 系 で は 浸 透 圧 ポ ン プ に よ り 一 定 量 のISOを 持 続 投 与 し て い る が , 心 不 全 患 者 で は 症 状 の 増 悪 と 緩 解 を 繰 り 返 し な が ら 心 不 全 が 進 行 し , 血 中 カ テ コ ー ル ア ミ ン 濃 度 に つ い て も 一 定 の 値 が 持 続 す る の で は な く 一 過 性 の 上 昇 と 低 下 を 繰 り 返 す こ と が 知 ら れ て い る . 今 回 我 々 は 比 較 的 高 用 量 のISOを 間 け つ 的 に 投 与 し た ラ ッ ト モ デ ル を 用 い , カ テ コ ー ル ア ミ ン 心 筋 症 に お け る 心 筋 ア ポ ト ー シ ス に 関 与 す る シ グ ナ ル 伝 達 系 に つ い て 考 察 し た .
実 験 動 物 と し て19週 齢 のWistar系 ラ ッ ト ( オ ス ,450g‑510g) を 使 用 し た . ラ ッ ト を 以 下 の4グ ル ー プ に 分 け て 検 討 し た ( 各 群3匹 ) .ISO群 :IS0 25mg/kg/clayを ラ ッ ト 背 部 に14 日 間 連 続 皮 下 注 投 与 し た ,CONTROL群 :0.OIN規 定HC1を ラ ヅ ト 背 部 に1日1回 皮 下 注 , 14日 間 連 続 投 与 し た ,FK+ISO群 : カ ル シ ニ ュ ー リ ン 阻 害 剤 で あ るFK506を17日 間 連 続 筋 注 投 与 し ( Img/kg/day), FK506投 与 開 始4日 目 か ら 17日 目 ま で の 14日 問 , ISO 25mg/kg/clayの 皮 下 注 を 併 用 し た .FK群 :FK506 Img/kgdayを17日 間 連 続 筋 注 投 与 し た . ブ ロ ト コ ー ル 終 了 後 pentobarbital麻 酔 下 に ラ ッ ト 心 を 摘 出 し た . 我 々 は ア ボ ト ー シ ス の 誘 導 の 確 認 の た め , ま ず ア ボ ト ー シ ス 実 行 因 子 で あ るCaspaseの 活 性 化 に 対 し 亢 進 的 に 働 くBaxと 抑 制 的 に 働 くBcl‑2をWestern blot法 に よ り 検 討 し た .ISO
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投与によルラット心筋におけるBax 蛋白発現量の有意な増加と,Bcl‑2 蛋白発現量の有意な 減少を認め,Bax /Bcl‑2 ratio は増加していたが,FK506 投与によってもこの変化を抑制 することカs できなかった.さらにCaspase フんミリーの中で最下流に属するCaspase ・3 の 活性化を,Western blot 法により検討した.コント口ール群およびFK506 単独群ではp'20 subunits (active form )は検出できなかったが ISO 投与群およびISO にFK506 を併用した 群 に お い て active form が 検 出 され た . 次 に ア ボ ト ー シ スに よ る DNA 断 片 化 (DNA laddering) を検 出する ため に, ラッ トか ら抽 出したゲノムDNA の断端にTdT を用いて 32P‑dCTP を付加し,アガロースゲル電気泳動,サザンブロット,オートラジオグラフイー を 行 っ た . ISO 投 与 に よ り 明ら かな DNA 断片 化が認 めら れた がFK506 は ISO 投 与に よる DNA 断片化を抑制できなかった.以上の結果から,ISO 間けつ投与により心筋細胞のアポ ト ー シ ス は 誘 導 さ れ る が FK506 は こ の 変 化 を 抑 制 で き な い こ と が 示 さ れ た , ISO は比較的高用量を間けつ的に投与した場合,p2 刺激作用による血圧低下を弓f き起こ す事が知られている, 我々の系でもIS0(25mg/kg) 皮下注により平均血圧値は1 分以内に 20 %低下したがその後漸増し皮下注 2 時間後に前値に回復した.一方p1 刺激による心拍数 増加は投与後24 時間の時点でも認められた.この結果からISO による血圧低下に対して,
内因性カテコールアミン,レニンなどの分泌亢進が生じ血圧の低下が代償されているものと 推定される.よって本研究で使用したISO 間けつ投与モデルではp 受容体刺激のみではなく a 受容体やアンギオテンシン II 受容体などのGq を介した系の活性化も引き起こしていると 予想される,in vitro でば受容体刺激薬であるphenylephrine は2‑deoxyglucose により誘導 される心筋細胞アボトーシスを抑制する作用があるが,カルシニューリン阻害剤であるCsA の併用投与カs この作用を抑制することが報告されている.またアンギオテンシンII 刺激はin vitro でアポトーシスを誘導することが報告されている,一方G ぱq を過剰発現するトランス ジェニックマウスの心臓では,アポトーシスが亢進している事が報告されている,以上の ように,Gq を介する情報伝達経路は全体としてアボトーシスを誘導する方向に働いている 可能性がある,
今回我々はラットヘ ISO を間けつ的に投与しアポトーシスの誘導したが,FK506 はこれ を抑制できなかった,FK506 によりp 受容体刺激によるカルシニューリンの活性化を阻害 しても,カルシニューリン非依存性の(Gq を介した系など)経路の活性化を FK506 が抑制で きず,その結果としてアボトーシスの誘導を抑制できなかったものと推察された. 本研究 によルカテコールアミン心筋症における心筋アポトーシスには,カルシニューリン非依存性 のシグナル伝達系が関与している可能性が示唆された.
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学 位 論 文 審査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
カテコールアミン´ふ筋症における
心筋 アポト ーシス に関与 するシ グナル 伝達系に 関する 考察
申 請 者 が 提 出 し た 学 位 論 文 は 、p受 容 体 ア ゴ ニ ス ト で あ るIsoproterenol(ISO)を ラ ッ ト に 投 与 し 心 筋 ア ボ ト ー シ ス を 誘 導 し 、 さ ら に カ ル シ ニ ュ ー リ ン 阻 害 剤 で あ るFK506を 投 与 し 、 ISOに よ る 心 筋 ア ポ ト ー シ ス に 関 与 す る シ グ ナ ル 伝 達 系 に 関 す る 検 討 を 加 え た も の で あ る 。 最 近 、 浸 透 圧 ボ ン プ に よ るISO投 与 マ ウ ス モ デ ル な ど を 用 い て 、ISOに よ る 心 筋 細 胞 ア ポ ト ー シ ス に はCa2+‑カ ル モ ジ ュ リ ン 依 存 性 プ ロ テ イ ン ホ ス フ ァ タ ー ゼ で あ る カ ル シ ニ ュ ー リ ン が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と い う 報 告 が あ っ た 。 申 請 者 はWistar ratにISOを 間 欠 的 に 投 与 し た モ デ ル を 作 成 し て 、 ラ ッ ト を4つ の グ ル ー ブ に 分 け て ア ポ ト ー シ ス に っ い て 検 討 し た 。 CONTROL群 は 0. OIN規 定 HC11日1回 の 皮 下 注 を 14日 間 連 続 行 っ た 。ISO群 は IS0 25mg/kg/dayの 皮 下 注 を1日1回14日 間 連 続 行 っ た 。 FK群 は カ ル シ ニ ュ ー リ ン 活 性 を 抑 制 す る た め に FK506 Img/kgdayを1日1回 筋 注3日 問 の 前 投 与 の 後 、O.OIN規 定HC1 お よ び FK506を14日 間 連 続 投 与 し た 。 FK+ISO群 はFK506 Img/kg/dayを1日1回 筋 注3 日 間 の 前 投 与 の 後 、FK506お よ びISOを14日 間 連 続 投 与 し た 。 ア ボ ト ー シ ス の 主 経 路 を 制 御 す るBcl‑2フ ん ミ リ ー に は 、Bax、Badな ど の ア ポ ト ー シ ス に 亢 進 的 に 働 く グ ル ー プ と 、 Bcl‑2な ど の 抑 制 的 に 働 く グ ル ー プ が あ る が 、 こ れ ら の 蛋 白 発 現 量 の 変 化 をWestern blot法 に よ り 示 し た 。ISOを 投 与 し た 群 に てBaxの 増 加 とBcl‑2の 減 少 を 認 め た が お よ びCaspase の 活 性 化 をWestern blot法 に よ り 示 し 、FK506の 併 用 投 与 が こ れ ら の 変 化 を 抑 制 で き な い こ と を 示 し た 。 さ ら に ア ガ ロ ー ス ゲ ル 電 気 泳 動 法 に よ ル ア ポ ト ー シ ス に 特 徴 的 な 現 象 で あ る DNA断 片 化 を 検 討 し た 。 ISO投 与 に よ り 明 ら か なDNA断 片 化 を 認 め た が 、 FK506はISO 投 与 に よ るDNA断 片 化 を 抑 制 で き な か っ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、ISO間 欠 投 与 に よ り 心 筋 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス が 誘 導 さ れ る がFK506は こ の 変 化 を 抑 制 で き な い こ と を 明 ら か に し た 。 血 行 動 態 的 に は 、ISOの 単 回 皮 下 投 与 に よ り 血 圧 は 一 次 的 に 著 明 に 低 下 し 、 そ の 後 漸 増 し 回 復 す る が 、 心 拍 数 の 増 加 は 投 与24時 間 後 ま で 持 続 し て い た 。 こ の 結 果 か らISOのp2作 用 に よ る 血 圧 低 下 に 対 し て 、 反 射 性 に 内 因 性 交 感 神 経 活 性 や レ ニ ン ・ ア ン ジ オ テ ン シ ン 系 な ど が 亢 進 し 、 血 圧 の 低 下 が 代 償 さ れ て い る も の と 推 定 し て い る 。 こ の こ と よ り 、ISO間 欠 投 与 モ デ ル で は 、 カ ル シ ニ ュ ー リ ン の 系 の み で は な く 、 カ ル シ ニ ュ ー リ ン 非 依 存 性 の シ グ ナ ル 伝 達 系 の 活 性 化 も 生 じ て い る こ と が 予 想 さ れ る 。FK506に よ りISO投 与 に よ る ア ポ ト ー シ ス を 抑 制 で き な か っ た が 、 こ の こ と はISOに よ る ア ポ ト ー シ ス が カ ル シ ニ ュ ー リ ン の 経 路 の み な ら ず 、 カ ル シ ニ ュ ー リ ン 以 外 の 経 路 に よ っ て も 制 御 さ れ て い る こ と を 示 し て い る 。 よ っ て カ テ コ ー ル ア ミ ン 心 筋 傷 害 に 際 し て の 心 筋 細 胞 ア ポ ト ー シ ス の 抑 制 に あ た っ て は 、 カ ル シ ニ ュ
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顕明 郎 秀和 畠口 嶋 北川 長 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
ーリンだけではなく、同時に活性化される交感神経活性や液性因子に対しても考慮する必要 性がある。
学位論文の発表に際し、副査の川口教授から ISO により誘導される心筋細胞アポトーシス において考えられるカルシニューリン以外の経路についての質問があった。次いで副査の長 嶋教授から心不全において誘導される心筋アボトーシスの意義や実験モデルの妥当性につい ての質問があり、最後に主査の北畠教授からカルシニューリン阻害による心肥大抑制効果に ついて質問があった。申請者は研究結果に基づぃて、あるいは文献的知識により、概ね適切 に回答し得た。質疑応答の時間は約15 分であった。
この論文は、分子生物学的解析手法を用いて、カテコールアミン刺激によるアポトーシス において、カルシニューリン以外の経路の関与を明らかにし、今後のp 受容体刺激によるア ポトーシスのシグナル伝達経路についての検討に示唆と方向性を与えた点で高く評価される。
審査貝一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や単位取得なども併せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す るも の と 判 定 し た 。
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