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博 士 ( 医 学 ) 伊 藤 清 高

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 伊 藤 清 高

学 位 論 文 題 名

部 分 門 脈 動 脈 化 術 の 有 用 性 に 関 す る 実 験 的 検 討

ー 動 脈遮 断 肝 に対 す る長 時 間 観察結果 一

学 位 論 文 内 容の 要 旨

I. 目 的

    近年,肝胆膵領域癌の手術では肝動脈に操作が及ぶ例が増加している。この際,それに伴う 肝動脈再建困難例,再建動脈の閉塞例,術後肝動脈出血に対する血行遮断例などは,肝動脈周囲の 側副血行遮断も加わっているため,肝血流量,酸素供給量の減少をきたし,肝不全病態を誘発する。

そこで本研究では,動脈遮断肝モデルを作成した上で,門脈本幹に小口径動脈を直接吻合し門脈内 に動脈血を流入させる部分門脈動脈化術の有用性を検討した。本法が肝血流量,肝酸素供給量を保 持し,有効な肝酸素代謝を行い,ひいては肝動脈遮断後の肝不全を回避し得るか否かにっいての報 告はなく,術後の肝血行動態,酸素受給動態,生化学的検査値の経時的変化を明らかにすることを 目的とした。

II. 方 法

  a.実験操作方法雑種成犬を用いThiopenthalによる静脈麻酔下に気管内挿管,調節呼吸とし,

開腹下に門脈本幹,総肝動脈を剥離露出した後,肝への側副血行遮断として胃十二指腸動脈,右胃 動 脈 ,肝 十 二 指腸 靱 帯 結合 織 , 小網 を 結 紮 切離 した 。この後 ,以下 の3群 を作成し た。

  1.肝動脈遮断群(hepatic arterial ligation以下HAL群)総肝動脈を結紮切離し肝流入血を   門脈血のみとし48時間観察した。(N二二7)

  2.部分門脈動脈化短期観察群(partial portal arterialization‑short以下PPA‑S群)総肝動   脈結紮切離後,中枢側切離端を門脈本幹に端側に吻合し門脈内に動脈血を流入させ,48時間観察   した。(N二二二二7)

  3.部分門脈動脈化長期観察群(partial portal arterialization‑long以下PPA‑L群)PPA‑S   群と同様の操作を行い,1週間観察した。(N:7)

    各群とも実験終了後犠牲死させ,肝を摘出し湿肝重量を測定した。なお基礎実験から,肝動脈   遮断群の安定した観察期間が72時間以内であることが確認されているため,肝動脈遮断長期群は

66−

(2)

  

作成しなかった。

b

.測定項目

HAL

群,

PPA‑S

群では肝動脈遮断前,遮断または吻合2時間後,48時間後に,PPA‑L 群では肝動脈遮断前,1週間後に以下の項目を測定し検討した。

  1

,門脈血流量,肝動脈血流量←電磁血流計を使用した。

  2

.門脈圧,肝静脈圧

  3

.肝組織血流量ーレーザードップラー組織血流計を使用した。

  4

.肝動脈血,門脈血,肝静脈血の酸素飽和度と血色素量

  5

.末梢血GOT,

GPT

,総胆汁酸濃度

以上の測定値から以下の項目を算出した。

  6

. 総 肝 血 流 量 二 二 ( 術 前 ) 門 脈 血 流 量 十 肝 動 脈 血 流 量 , ( 術 後 ) 門 脈 血 流 量

  7

.門脈血管抵抗=100x(門脈圧―肝静脈圧)/門脈血流量

  8

. 肝 組 織 血 流 量 変 化 率 二 ニ

ioox

( 術 前 肝 組 織 血 流 量 / 術 後 肝 組 織 血 流 量 )

  9

. 肝 酸 素 供 給 量 ー

1.34x

肝 動 脈 血 流 量

x

肝 動 脈 血 酸 素 飽 和 度

x

肝 動 脈 血 色 素 量 十

    1.34x

門脈血流量x門脈血酸素飽和度x門脈血色素量

  10.

肝 酸 素 消 費 量 二 二 肝 酸 素 供 給 量 ー

1.34x

総 肝 血 流 量

x

肝 静 脈 酸 素 飽 和 度

x     

肝静脈血色素量

  11.

肝酸素消費率−100x(肝酸素消費量/肝酸素供給量)

上記測定血流量値は実験犬の個体差を除くため単位湿肝重量(100g)で除し補正した。また,摘出 肝の一部をホルマリン固定後HE染色し,鏡検した。

m

. 結 果

  PPA‑S

群,

PPA‑L

群とも実験終了時まで門脈血酸素飽和度は上昇し,剖検では全例吻合部の開存 を確認し得た。

    a

.肝血行動態

  1

.門 脈血 流 量

HAL

群 では 経時 的に漸減したが,PPA‑S群,PPA‑L群では48時間 後,1週間

  

後とも肝動脈血の流入により有意に増加した。

  2

.総肝血流量HAL群では

48

時間後に前値の

60

% に有意に低下し,PPA‑S群

48

時間値ば前値

  

130

% に 有 意 に 上 昇 し た 。

PPA‑L

1

週 間 値 は 前 値 の

6

% の 増 加 に 留 ま っ た 。

  3

.門脈圧HAL群では経時的に低下傾向を認め,

PPA

両群では上昇傾向がうかがわれたが,

  

ともに前値との有意差は認めなかった。

  4

.門脈血管抵抗HAL群では経時的に上昇傾向を認めたが,前値との有意差は認めなかった。

  PPA‑S

群 ,

PPA‑L

群 の

48

時 間 ,

1

週 間 値 は 前 値 に 比 べ 有 意 に 低 下 し た 。

  5

.肝組織血流量変 化率HAL群では経時的に組織 血流は有意に低下したが,PPA‑S群では48

  

時間でも95.5%,PPA‑L群でも1週間後で91.4%を保っていた。

67

(3)

    b.肝酸素受給動態

  1.肝酸素供給量HAL群48時間値は前値の49%に低下したが,PPA‑S群では48時間でも前値の   130% を 保 ち 得 た 。 し か しPPA‑L群 1週 間 値 ぼ 前 値 の 約71.2% に 低 下 し た 。   2.肝酸素消費量HAL群,PPA両群とも有意な変化を来さなかった。

  3.肝酸素消費率HAL群では48時間後には供給酸素の44.5%を消費したが,PPA‑S群では15.3   %の消費に留り,PPA‑L群でも1週間後には25.9%の消費率でともに前値と有意差は認めなかっ   た。

    c.血液生化学値

  1. GOT,GPT HAL群では48時間後には各々740.9KU,993.7KUと経過とともに著明に上昇し   た。PPA群では術後24時間で最高値(321.OKU,368.6KU)となったが,以後漸減し1週間後に   は前値と有意差を認めなくなった。

  2.末梢血 総胆汁 酸濃度HAL群では 経過と ともに上昇し48時間で20.6nmolに達した。PPA   群 で は 術 後4日 目 ま で 上 昇 傾 向 に あ っ た が , 術 後1週 間 目 に は 正 常 値 に 復 し た 。     d.組織学的変化

48時間後の所見はHAL群では低酸素性肝細胞壊死の所見を呈していたが,PPA‑S群ではほぼ正常 に近い組織所見であった。

IV. 考 察

  肝動脈結紮犬を用いて,部分門脈動脈化術が肝不全を回避し得るかどうかを検討した。肝動脈は 肝血流量維持としてより酸素供給量保持としての意義が高いとされるが,肝動脈結紮により門脈血 流量も経時的に減少したことから,肝動脈血流消失により肝内血管構築の緊張低下が生じ低圧系の 門脈血流のみでは肝末梢組織までの肝灌流が得られないが,部分門脈動脈化によって門脈血流量を 増加することにより末梢肝血流量の保持が可能になることが示唆された。門脈圧は部分門脈動脈化 術施行後も変動しなかったが,本実験系でのシャントによる流入動脈血流量の範囲では門脈血管床 は圧を上昇させずに血流を受け入れる適応能カが存在すると考えられた。部分門脈動脈化術により 上昇した門脈内の酸素を肝が有効に利用できるかが問題となるが,肝内微小循環では肝動脈からの 毛細血管が直接門脈に流入する経路も認められており,肝には門脈内の酸素を有効に利用する代償 性機構の存在が示唆され,門脈内の酸素濃度を上昇させる意義が確認された。血液生化学値の変動,

組織学的変化からも部分門脈動脈化術は肝動脈遮断後の虚血性,低酸素性肝不全を術後1週間にわ たって回避し得たことが示唆された。

V. 結 語

  肝動脈を門脈に端側吻合する部分門脈動脈化術は,肝に悪影響を与えることなく,肝動脈閉塞,

遮断によって生じる動脈虚血性肝不全を回避する効果があることが確認され,本法は肝動脈再建困

‑ 68―

(4)

難時の対 策のーっとして有用であり,臨床への応用が可能であると考えられた。

‑ 69―

(5)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

部分 門脈動脈 化術の有 用性に関する実験的検討

一 動 脈 遮 断 肝 に 対 す る 長 時 間 観 察 結 果 一

  

近 年 、 肝 胆 膵 領 域 癌 の 手 術 で は肝 動脈 に操 作が 及ぷ 例 が増 加し て。 、る 。こ の際 そ れ に 伴 う 肝 動 脈 再 建 困 難 例 、 再 建 動 脈 の 閉 塞 例 、 術 後 肝 動 脈 出 血 に 対 す る 血 行 遮 断 例 な ど は 、 肝 動 脈 周 囲 の 側 副 血 行 遮 断 も 加 わ っ て 、 肝 血 流 量 、 酸 素 供 給 量 の 減 少 を き た し 、 肝 不 全 病 態 を 誘 発 す る 。 動 脈 遮 断 肝 モ デ ル に お ぃ て 、 門 脈 本 幹 に 小 口 径 動 脈 を 直 接 吻 合 し 門 脈 内 に 動 脈 血 を 流 入 さ せ る 部 分 門 脈 動 脈 化 術 が 、 肝 血 流 量 、 肝 酸 素 供 給 量 を 保 持 し 、 有 効 な 肝 酸 素 代 謝 を 行 い 、 ひ い て は 肝 動 脈 遮 断 後 の 肝 不 全 を 回 避 し 得 る か 否 か の 詳 細 な 報 告 は な ぃ 。 そ こ で 本 研 究 は 本 法 施 行 後 の 肝 血 行 動 態 、 酸 素 需 給 動 態 、 生 化 学 的 検 査 値 の 経 時 的 変 化 を 明 ら か に す る こ と で 動 脈 遮 断 肝 で の 本 法 の 有 用 性 を 検 討 し た 。

  

実 験 方 法 と し て は 、 雑 種 成 犬 を 用 い 、 開 腹 下 に 肝 へ の 側 副 血 行 遮 断 と し て 胃 十 二 指 腸 動 脈 、 右 胃 動 脈 、 肝 十 二 指 腸 靭 帯 結 合 織 、 小 網 を 結 紮 切 離 し た 後 、 肝 動 脈 遮 断 群 と し て 総 肝 動 脈 を 結 紮 切 離 し 、 肝 流 入 血 を 門 脈 血 の み と し

48

時 間 観 察 し た 群 、 部 分 門 脈 動 脈 化 短 期 群 と し て 総 肝 動 脈 結 紮 切 離 後 、 中 枢 側 切 離 端 を 門 脈 本 幹 に 端 側 に 吻 合 し 、 門 脈 内 に 動 脈 血 を 流 入 さ せ 、

48

時 間 観 察 し た 群 の 二 群 を 作 成 し 比 較 検 討 し た 。 ま た 部 分 門 脈 動 脈 化 長 期 群 と し て 部 分 門 脈 動 脈 化 施 行 後

1

週 間 観 察 し た 群 を 作 成 し 、 短 期 群 と の 比 較 検 討 を 行 っ た 。 基 礎 実 験 か ら 、 肝 動 脈 遮 断 群 の 安 定 し た 観 察 期 間 が

72

時 間 以 内 で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る た め 、 肝 動 脈 遮 断 長 期 群 は 作 成 し な か っ た 。 肝 動 脈 遮 断 群 、 部 分 門 脈 動 脈 化 短 期 群 は 術 前 、 術 後

2

時 間 、 術 後

48

時 間 に 、 部 分 門 脈 動 脈 化 長 期 群 は 術 前 と 術 後

1

週 間 に 、 肝 血 行 動 態 と し て 門 脈 血 流 量 ・ 総 肝 血 流 量 ・ 門 脈 圧 ・ 門 脈 血 管 抵 抗 ・ 肝 組 織 血 流 量 を 、 肝 酸 素 需 給 動 態 と し て 肝 酸 素 供 給 量 ・ 肝 酸 素 消 費 量 ・ 肝 酸 素 消 費 率 を 、 生 化 学 検 査 と し て 末 梢 血

GOT

GPT

、 総 胆 汁 酸 濃 度 を 測 定 及 ぴ 算 出 し 、 検 討 を 加 え た 。 ま た 、 摘 出 肝 の 一 部 を ホ ル マ リ ン 固 定 後

HE

染 色 し 、 鏡 検 し た 。

  

そ の 結 果 、 門 脈 血 流 量 は 動 脈 結 紮 群 で は 経 時 的 に 漸 減 し た が 、 門 脈 動 脈 化 短 期

70―

之 秀

紘 慶

藤 田

加 安

授 授

教 教

査 査

主 副

(6)

群 では

48

時 間後には 有意に増 加し、門 脈動脈化 長期群の1週 間目でも

48

時間値と 変化の 無い高流 量門脈血 流を確認 した。総 肝血流量 は動脈結紮群では48時間後に 前値の

60

%に有意 に低下し 、門脈動 脈化短期 群48時間値は前値の130%に上昇し、

両群聞 に有意差 を認めた 。門脈動 脈化長期 群

1

週間値 も前値の約6名の増加を保ち

48

時間値 との有意 差は認め なかった 。門脈圧 は動脈結 紮群、門脈動脈化両群とも 有意な 変化は認 めなかっ た。門脈 血管抵抗 は動脈結 紮群では経時的に上昇傾向を 認 め、門 脈動脈化 短期群の

48

時間と有 意差を認 めた。門脈 動脈化長 期群の1週 間 値は門 脈動脈化 短期群の

48

時間値と 有意な変 化は認め なかった。肝組織血流量変 化率は 動脈結紮 詳では経 時的に組 織血流は 有意に低 下したが、門脈動脈化短期群 では48時 間でも

95

5

%、門脈 動脈化長 期群でも

1

週間後で91.4%を保ち得た。肝 酸素需 給動態で は肝酸素 供給量で 動脈結紮 群

48

時間値 は前値の49%に低下したが 門脈動 脈化短期 群では48時 間値でも 前値の130%を 保ち得た。しかし門脈動脈化長 期 群

1

週間 値は前値 の約71.2%に 低下し、 短期群の

48

時間値と比 較して有 意差を 認めた 。肝酸素 消費量は 動脈結紮 群、門脈 動脈化両 群とも有意な変化を来さなか った。 肝酸素消 費率の検 討では、 動脈結紮 群では

48

時 間後には供給酸素の44.5% を消費 していた が、門脈 動脈化短 期群では

15.3

%の消費に留り、門脈動脈化長期 群でも

1

週間後に は25. 9%の消費 率にとど まった。 血液生化学値の推移では、GOT

GPT

で動脈 結紮群で は48時間後には各々

740. 9KU

、993. 7KUと経過とともに著明に 上昇したのに対し、動脈門脈化群では術後24時間で最高値(321. OKU、368. 6KU)と な ったが 、以後漸 減し

1

週間 後には前 値と有意 差を認めな くなった 。末梢血 総胆 汁酸濃 度は動脈 結紮群で は経過とともに上昇し

48

時間で20. 6nmol/lに達した。門 脈 動脈 化 群 では 術 後4日目 ま で 上昇傾 向にあっ たが、術後

1

週間目に は正常値 に 復した 。組織学 的変化で は動脈結 紮群の48時 間後の所 見ではぃわゆる低酸素性肝 細 胞壊死 の所見を 呈してい たが、門 脈動脈化 群では48時間 後、

1

週間 後とも、 ほ ほ正常に近

I

、組織所見であった。

  

以 上の結 果から、 肝動脈を 門脈に端 側吻合す る部分門脈 動脈化術 は、1週間 に わたり 、門脈圧 の上昇な どの悪影 響を与え ることな く、良好な肝血行動態、酸素 需給動 態を保ち 、肝動脈 閉塞、遮 断によっ て生じる 動脈虚血性肝不全を回避する 効・果があることが確認され、本法は肝動脈再建困難時の対策のーっとして有用で あり、臨床への応用が可能であると考察された。

  

口頭発 表におぃ て安田慶 秀教授よ り実験動 物とヒ卜 での肝動脈と門脈の血流の 関連性 の違い、 門脈血流 に対する 肝動脈の 役割、肝 組織酸素含量の変化、長期間 の高流 量門脈血 流による 門脈圧亢 進症の発 症と組織 学的変化の問題、動脈血ケ卜 ン体比 の変化に つI、て、 本聞研ー教授より肝動脈、門脈間の圧格差による血流量 比率の 変化、門 脈血流の 変化によ る栄養代 謝の影響 に関しての質問があったが、

申請者 はおおむ ね妥当な 回答をし た。また 安田慶秀 、本聞研一両教授にはさらに 個別に審査をいただき、合格と判定された。

  

動脈遮 断肝にお ける部分 門脈動脈 化術の有 用性に関 して、血行動態、酸素需給 動態の 両面から 詳細に検 討を加え た本研究 の意義は 大きく、本論文は博士(医学

一・71 ‑

(7)

の学 位授 与 に値 する もの と考 える。

72―

参照

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