博 士 ( 理 学 ) 石 川 敦 史 学 位 論 文 題 名
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Spin ― density ‐ wave transltioninorganlCCOnduCtorS underpreSSureandmagnetiCfield
(有機導体における圧カおよび磁場下のスピン密度波転移)
学位論文内容の要旨
有機導体(TMTSF)2Xおよぴ(TMTTF)2X (X=PF6,AsF6,Cl04,Br etc.)はその擬一次元的な 伝導に起 因してス ピンパ イエルス、スビン密度波(SDW)、超伝導等の様々な物性を示す物 質である。その基底状態は物質の違いおよぴ圧カによって変化し、これらは圧カをバラメ タとした 統一的な 相図が 提唱され ている 。本研究 において扱った(TMTTF)2Brは常圧では 反強 磁 性 相を 基 底 状態 に持っが 、圧カ を印可す ると約0.5GPa以上で 基底状態 が不整合 SDW状態 へと変わ ること が知られている。反強磁性相より高温側では系は幅の広い抵抗の 極小を100K前後で示すが、抵抗の極小を示す温度は圧カと共に低下し最後には消滅する。
この抵抗の極小と反強磁性転移の間の領域では系は電荷局在状態にあると考えられている。
このように擬一次元有機導体において圧カによって多様な相が現れる理由については電子 相関 が 本 質的 に 重 要で あ る と思 わ れ 、そ の 電 子状 態 に 大 きな 興 味 が持 た れて いる。
本研究で は擬ー 次元有機 導体(TMTTF)2Brに ついて 静水圧下 での電気 抵抗測 定からSDW 転移 の 詳 細を 調 べ た。 また、高 圧側の 不整合SDW相に おいて磁 場を加 え、SDW転移温度 の磁場依 存性を調 べた。 抵抗測定は通常の四端子法で行われ、もっとも伝導の大きいa軸 方向の直流抵抗を測定した。
図1に 各圧カに おける 抵抗測定の結果を示す。常圧において(′rMTTF)2Brは14Kで反強 磁性 相 へ と転 移 す るこ とがNMR測定か ら示され ている 。これに 対して 抵抗は18Kでキン ク構造を 示し、14Kでは 転移を示すような抵抗の変化が存在しなかった。一方磁化率測定 の結果では19K付近から磁化率の等方的な減少が始まっている(図2)。b.軸方向の磁化率 において は反強磁 性転移 温度の14K以下 でスピン フロップが生じており、またa軸方向の 磁化率が 上昇に転 じるの も14K以下である。抵抗のキンク構造と磁化率の減少はほぼ同じ 温度で起こっており、ここで反強磁性転移とは異なる何らかの相転移が存在することが示 唆される。
圧カを印可すると常圧で見られたキンク構造は抵抗の温度微分における緩やかなピーク 構造に変 化する。 ピーク の温度は 圧カと ともに上 昇し,0.3GPaにおいて23Kを 示し最大 となる。 このピー クの温 度は常圧 から0.3GPaま での測 定を行っ た各圧カ におい てNMR測 定によって報告されている反強磁性転移温度と比べて4〜8K大きい値を示す(図3)。この
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こ とから0.3GPaまでの 圧力領域 におけるピークの温度は常圧で示唆された反強磁性相よ り高温側の相転移によるものであると推察される。
この新た な相転移を説明するモデルのーっとして、電荷分布の変調が考えられる。NMR 測定から反強磁性相においては電子スピンがa軸方向に(个,O,↓,0)の順に並んだ秩序状態が 示唆されている。これを電荷から見ると単純には電荷密度の高いサイトと低いサイトが交 互 に並ん だ状態にあると考えられる。14Kで抵抗に変化がないことから反強磁性転移温度 の上下で電荷の状態は変化していないと推察され、反強磁性転移より高温で電荷のみが先 に こ の よ う な 秩 序 状 態 に 転 移 した も の がこ の 新 たな 相 転 移で あ る 可 能性 が あ る。
0.3GPa以上の圧 力下に おいては ピーク構造を示す温度は減少を始める00.5GPaにおい て ピーク 温度は19.5Kまで低下するが、圧カの増加に対するピーク温度の低下の度合いは 0.5GPaを 境 に緩 や か にな る 。NMR測 定から0.3GPa以上の 圧カにお いて反強 磁性相 で不 整 合SDWの成分が 観測さ れること が報告されており、このことから0.3〜0.5GPaの圧力領 域 は反強 磁性状態 と不整 合SDW状 態のク ロスオー バー領域 であると思われる。0.5GPa以 上 の 圧力下 では抵抗 の微分 のピーク は不整 合SDW相 への転移 に対応 している 。SDW転移 温 度 は圧カ の増加と 共に低 下し、2.lGPaで12.5Kを 示した 。このよ うなSDW転移温 度の 圧力依存性はフェルミ面のネステイングに基づく平均場理論の描像と良く一致している。
0.5GPa以 上の圧力 下にお いてc.軸方 向に磁場 を加える とSDW転移温度 が磁場 の増加 と共に上昇する振る舞いが観測された(図4)。この転移温度の上昇は磁場の二乗に比例す る 曲線で よく記述 できた 。このよ うな振 る舞いはTMTSF塩 においても見られ、擬一次元 有 機導体 のSDW転移に共通の性質であると考えられる。平均場理論ではこれは圧カの増大 に よルフ ェルミ面 のネス テイング が不完 全になる ことによ って抑制されたSDW転移が磁 場を加えることにより一次元性を回復させるためであると説明され、この磁場の二乗の比 例係数は系の二次元性に対応した量である。磁場の二乗の比例係数が圧カの増加と共に大 きくなっていることからも実験結果が平均場理論の結果で良く説明されることがわかる。
磁場の二 乗の比例 係数とSDW転移 温度の関係を(TMrI ̄SF)2PF6と比較すると(図5)、
(TM′rTF)2Brは一 次元性が 大きく、2.lGPaにおい て常圧 の(TMTSF)2PF6とほぽ同じ状態 で あるこ とが示唆された。(TMTSF)2PF6に比べてより一次元的であるにもかかわらず、磁 場 の二乗 の比例係 数の増 加に対す るSDW転移温度 の変化が 大きいことから、(TMTTF)2Br に おいて は系の二 次元性 だけが圧 力変化するのではなく、ネステイングが完全な場合の SDW転移 温度TSDWOが圧カ の増加に 伴って 減少して いるこ とが示唆された(図6)。この TSDWOの低下の主たる原因としてはcoupling constant N(O)Iが圧カと共に減少しているこ とが考えられる。゛
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図5卩MTTF)2Br及 ぴ(TMTSF)2PF6の
磁場の二乗の比例係数とSDW転移温度
の関係
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20
18
16
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0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 P(GPa) .
図6るDWOの圧力依 存性
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 講師
野 村 一 成 伊 土 政 幸 北 孝 文 松 永 悟 明
学位論文題名
Spin‑density‑wave transition in organic conductors under pressure and magnetic field
(有機導体における圧カおよび磁場下のスピン密度波転移)
有 機 導体(TMTSF)2Xお よぴ(TMTTF)2X (X〓PF6,AsF6,Cl04,Br等 )はその 擬一次元 的な 電 子 バ ン ド に 起 因 し て ス ピ ン パ イ エ ル ス 、 ス ピ ン 密 度 波(SDW)、 超 伝 導 等 の様 々 な 凝 縮 状 態 を 示 す 。 そ の 基 底 状 態 は 構 成 分 子 の 違 い お よび 圧 カ に よっ て 異 なり 、 こ れら の 振 る 舞 い は 圧 カ を パ ラ メ タ と し た 統 一 的 な 相 図 で 理解 さ れ る 。こ の こ とは 圧 カ によ っ て 制 御 さ れ る 電 子 相 関 が 本 質 的 に 重 要 な 役 割 を 担 うた め で あ り、 そ の 電子 状 態 に大 き な 興 味 が 持 た れ て い る 。 著 者 は こ の 相 図 の ほ ぼ 中 央 に 位 置 す る(TMTTF)2Brに お い て 圧 カ お よ び 磁 場 下 で の 電 気 抵 抗 測 定 を 行 い 、 そ の 電 子 状 態 お よ びSDW転 移 の 圧 カ お よぴ 磁 場 依存 性 を 調べ た 。
低 圧 で の 抵 抗 測 定 に お い て 著 者 は 抵 抗 の 温 度 微 分 に お け る ピ ー ク で 表 さ れ る 相 転 移 を 観 測 し 、 そ の 転 移 温 度 がNMR等 か ら 示 唆 さ れ る 反 強 磁 性 転 移 よ り 高 温 側 に あ る こ と を 明 ら か に し た 。 ま た 、 静 磁 化 率 測 定 か ら こ の抵 抗 が 示 す転 移 が 磁化 率 の 等方 的 な 減 少 が 始 ま る 温 度 に 対 応 し て い る こ と を 見 出 し 、こ の 転 移 が反 強 磁 性転 移 と は異 な る 新 た な 相 転 移 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 反 強 磁性 転 移 温 度に お い て抵 抗 に 変化 が 無 い こ と か ら こ の 新 た な 相 と 反 強 磁 性 相 の 間 で 電 荷の 状 態 に 違い が 無 いこ と を 示し 、 こ の 新 た な 相 が ス ピ ン よ り 先 に 電 荷 の み が 秩 序 化 し た 状 態 で あ る こ と を 議 論 し た 。 一 方 、 高 圧 側 の 不 整 合 SDW相 で は 磁 場 を 伝 導 面 に 垂 直 なc゛ 軸 方 向 に 加 えSDW転 移 温 度TSDWの 磁 場 依 存 を 調 べ 、1SDWが 磁 場 の 二 乗 に 比 例 し て 上 昇 す る 結 果 を 得 た 。 こ の こ と か ら 、(TMTTF)2Brの 不 整 合 SDW相 がTMTSF塩 の 場 合 と 同 様 に フ ェ ル ミ 面 の ネ ス テ ィ ン グ に 起 因 し て 発 生 す る こ と を 明 ら か に し 、 磁 場 の 二 乗 の 係 数 とTSDWと の 関 係 を 平 均 場 理 論 に よ り 解 析 し 、 ネ ス テ ィ ン グ が 完 全 な 場 合 のSDW転 移 温 度TSDWO を 決 定 し た 。 こ れ ら か ら 、(TMTTF)2BrのSDW転 移 は 圧 カ に よ っ て 制 御 さ れ る 系 の 二 次 元 性 の み で 決 ま る の で は な く 、 電 子 相 関 の 変 化 が重 要 で あ るこ と を 明ら か に した 。 以 上 の よ う に 著 者 の 研 究 は 、 擬 ー 次 元 有 機 導 体に お い て 反強 磁 性 転移 に 隣 接し た 新
たな相転移を見出すとともに
SDW状態を定量的に議論したものであり、電子相関に よっ て 生じ る 多様 な 物理現 象の理解に 対して大き な寄与をな すものであ る。