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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 星 川 晃 範

     学位論文題名

Sliding of spin‑density‑wave in (TMTSF)2Cl04    ((TMTSF)2CI04 におけるスピン密度波のスライデイング)

学位論文内容の要旨

  

擬一次元有機導体(TMTSF)2Cl04 は、アニオンCIO 。ーの配向秩序転移温度TAO が約24K で起こる。TAO における試料の冷却速度を速くすることにより、アニオンの配向秩序が 抑制され、電子バンドの一次元性が増加することが知られている。冷却速度が最速のと き 、ス ビ ン密 度波

(SDW)

相 が約

6K

で 出 現し 、二 次元 性が 増加 する にっ れSDW 転移 温 度

TSDW

は 減少 する 。

SDW

相 では スラ イ ディ ング と呼 ぱれ る

SDW

の 集 団励 起で ある 並 進モ ー ドの 存在 が知 られ てい る。一方、1H‑NMR のスピン格子 緩和率T .・1 におぃて

T

.卜0.3 TSDW) で異常が観測され、比熱の実験においても同じ温度で異常が観測されてお り 、SDW 相を 二分 する 相転 移の 存在 が 示唆 され てい る。 この 相転 移に より

SDW

の ス ライディングのメカニズムが変化することが期待される。本研究の目的は(TMTSF)2C10 。 におけるアニオンの配向秩序を 制御することにより変化する電子バンドの一次元性と

SDW

の スライディングのメカニズムとの関係を調べるとともに 、低温側の相転移との 関わりについて明らかにすることである。四端子法を用いたバルス測定により電気伝導 度の測定を広範囲にわたっておこなった。

  SDW

相での電気伝導度の電場依存性は特徴的電場(しきぃ 電場Er) を境に増大する。

この 振る舞いはSDW のスライディングにより説明される。

Er

以 下の電場では不純物に

よ って

SDW

が ビン 止め され てい るが 、

ET

以 上の 電場 では この ビン 止め がは ずれ

SDW

のス ライディングが起こる。この とき、SDW が電荷を運ぷ担い 手となることから電気

伝導 度 が増 大す ると 理解 され る。 実験 によ って 得ら れた

Er

の温度変化はSDW 転移温

度TSDW が

SK

以上 の場 合は 高温 に向けて比較的大きく増大する 振る舞いを示し、TSDW

が5K 未満では比較的緩やかな温 度変化になった。この実験結果に対し二次元性を表す

バラメー夕80 とTSDW との関係を 考慮し、さらに荷電不純物による二次の効果のビン止

めを考慮したET の温度変化の理 論値との比較をおこなった。

TSDW

が高い場合、Er の温

度変化は 弱いビン止め と呼ばれる不純物濃度が高く ビン止めボテンシャル の低い場

合のビン止め機構により説明される。―方、TSDW が低い場合は、その温度変化は 強い

ビン止め と呼ぱれる不純物濃度が低く ピン止めボテンシャル の高い場合から期待さ

れるものに一致した。っまり、

TSDW

の低下とともに弱いピン止めと呼ばれるピン止め

機構から、反対の強いピン止めと呼ぱれる機構へのクロスオーバーが起きていると考え

られる。さらに、TSDW の低下と ともに有効不純物濃度が減少しているといえる。この

ことは(TMTSF)2CIO 。における不純物ビン止めを与えるものとして、最初から試料中に

含まれている不純物とアニオンの配向秩序のニっを考えることにより説明される。っま

り、TSDW が高いほどアニオンの 配向が無秩序になることから、アニオンの配向秩序自

体を不純物ボテンシャルと考え ることにより、TSDW の低下とともに不純物濃度は減少

すると見なすことができる。よ って(TMTSF)2CI04 に関しては、アニオンの配向秩序が

抑制 されTSDW が低下した結果、SDW のピン止め機構が弱いピン 止めから反対の強いビ

(2)

ン 止めへ のクロ スオー パー が起こ ること がわか った 。

  一 方 、Erの 温 度 変 化 で はSDWを 分 け る よ う な 低 温 側 の 相 転 移 温 度T. 近 傍 で の 異 常 は 見 ら れ な か っ た 。 こ こ で 、SDWの ス ラ イ デ ィ ン グ に よ る 過 剰 電 気 伝 導 度 の 大 き さGcxcto(2ET)‐a(0)) /o(0)と定 義する。a'cxeの温度依存性は、T.近傍を境に急激に減少した。

こ の こ と は 低 温 側 の 新 た な 相 転 移 と と も にSDWの ス ラ イ デ ィ ン グ に よ っ て 運 ぱ れ る 電 荷 が 減 少 す る こ と を 意 味 す る 。 こ の と き 、ETの お よ そ15倍 程 度 の 高 電 場 ま で 加 え る と 急 激 な 電 気 伝 導 度 の 増 大 が 見 ら れ た 。 こ の 高 電 場 の 電 気 伝 導 特 性 はT*以 下 で の み 観 測 さ れ 、 温 度 依 存 し な いj=oexp( ‐E/E) で 表 さ れ る こ と が わ か っ た 。 実 験 で 得 ら れ たEoの 大 き さ か らSDWギ ャ ッ プ を 越 え る よ う な 絶 縁 破 壊 が 起 き て い る の で は な く 、 小 さ な ギ ヤ ッ プ で あ る こ と が 見 積 も れ る 。 し た が っ て 、 こ の 低 温 の 高 電 場 に お け る 電 気 伝 導 特 性 は 量 子 効 果 に よ る 新 し い 電 気 伝 導 特 性 で あ る こ と が 期 待 さ れ る 。 ま た 、 低 電 場 側 でET が 観 測 さ れ て い る こ と か ら 、 電 場 を 加 え る こ と に よ り 従 来 型 のSDWの ス ラ イ デ ィ ン グ か ら 新 し い 電 気 伝 導 特 性 へ の ク ロ ス オ ー バ ー が 起 き て い る と 考 え ら れ る 。 我 々 は こ の 新 し い 電 気 伝 導 特 性 は 量 子 効 果 に よ るSDWの ス ラ イ デ ィ ン グ に よ る も の と 考 え て い る 。   こ れ ら の 現 象 を も と にT. で 起 き て い る 相 転 移 を 説 明 す る ー つ の モ デ ル と し て 、 不 整 合SDWか ら デ ィ ス コ メ ン シ ュ レ ー シ ョ ン を と も な っ たSDWへ の 転 移 が 起 き て い る と 考 え た 。 不 整 合SDWは 格 子 定 数 と 密 度 波 の 波 長 と の 比 が 簡 単 な 整 数 比 に な ら な い 場 合 で 反 対 に 整 合SDWは こ の 比 が 簡 単 に な る 場 合 を さ す 。 デ ィ ス コ メ ン シ ュ レ ー シ ョ ン は 本 来 不 整 合 のSDWが あ る 範 囲 毎 に 整 合 に な る よ う に 波 長 を 変 え 、 そ の か わ り に 全 体 の つ じ っ ま を 合 わ せ る た め 等 間 隔 に で き る 位 相 の キ ン ク 部 分 を 指 す 。 こ こ でSDWの 位 相 の キ ン ク 部 分 が あ る 程 度 の 領 域 を も っ な ら ば 、 こ の キ ン ク 部 分 は 不 整 合SDWに 近 い 状 態 で あ り 、 キ ン ク 部 分 が 不 整 合SDWと 同 様 に 不 純 物 に よ ル ピ ン 止 め さ れ る と 考 え ら れ る 。 こ の 結 果 、kの 値 は 不 整 合SDWbと 大 差 な い こ と が 期 待 さ れ る こ と か ら 、T. に お い て 島 の 温 度 変 化 に 異 常 が 見 ら れ な か っ た と 考 え ら れ る 。 さ ら に 、 密 度 波 全 体 が 一 度 に 動 く と き と 比 ベ キ ン ク 部 分 の み が 動 く 場 合 に は キ ン ク 部 分 の み が 〆 。xcに 関 与 す る こ と か ら 、T. 近 傍 でacが 小 さ く な っ た と 考 え ら れ る 。 高 電 場 に お け る 電 気 伝 導 度 の 増 大 は 、 キ ン ク 部 分 だ け で な く 整 合 的 な 部 分 も あ わ せ て 全 体 が 一 度 に 動 い て い る と 考 え ら れ る 。 整 合 的 な 部 分 は 格 子 と の 相 互 作 用 に よ り 密 度 波 が 止 め ら れ て い る の で キ ン ク が 不 純 物 ビ ン 止 め を は ず し て 動 く よ り も 大 き な エ ネ ル ギ ー でSDWが ロ ッ ク さ れ て い る 。 こ の と き の 整 合 性 ロ ッ キ ン グ に よ る エ ネ ル ギ ー ギ ャ ッ プ はSDWギ ャ ッ プ と 比 べ か な り 小 さ い こ と か ら 、 高 電 場 に お い てSDWが こ の 整 合 性 ロ ヅ キ ン グ に よ る エ ネ ル ギ ー ギ ャ ツ プ を ト ン ネ ル す る よ う な 量 子 効 果 を 含 む 集 団 励 起 が 起 き て い る こ と が 期 待 さ れ る 。 こ の 様 に 不 整 合SDWか ら デ ィ ス コ メ ン シ ュ レ ー シ ョ ン を と も な っ たSDWへ の 相 転 移 が 起 き て い る と 考 え る こ と に よ り 一 連 の 低 温 で の 現 象 が う ま く 説 明 で き る こ と が わ か っ た 。   本 研 究 に よ り 、 (TMTSF2Cl04で は ア ニ オ ン の 配 向 秩 序 が 抑 制 さ れTsDwが 低 下 し た 結 果 、SDWの ビ ン 止 め 機 構 が 弱 い ビ ン 止 め か ら 反 対 の 強 い ピ ン 止 め へ の ク ロ ス オ ー バ ー が 起 こ る こ と 、 又 、SDW相 を 分 け る 相 転 移 は 不 整 合SDWか ら デ ィ ス コ メ ン シ ュ レ ー シ ョ ン を と も な っ たSDWへ の 相 転 移 が 起 き て い る 可 能 性 を 明 ら か に し た 。

(3)

学位論文審査の要旨

     学位論文題名

Slicling of spin‑density‑wave in (TMTSF)2Cl04    ( (TMTSF)2Cl04 におけるスピン密度波のスライデイング)

  有 機 導 体(TMTSF)2Cl04に お い て は 、 試 料 を 急 冷 す る こ と に よ ル ア ニ オ ン の 配 向 秩 序 が 抑 制 さ れ 、 電 子 バ ン ド の 一 次 元 性 が 増 大 す る こ と に よ り 低 温 で ス ピ ン 密 度 波(SDW)相 が 安 定 化 さ れ る 。 こ のSDW相 で は 電 場 を 加 え る こ と に よ ル ス ラ イ デ ィ ン グ と 呼 ば れ るSDW の 集 団 運 動 が 励 起 さ れ 、 し き い 電 場 を と も な っ た 非 線 形 電 気 伝 導 度 と し て 観 測 さ れ る 。 一 方 、NMR等 の 実 験 か ら 低 温 で (T. 〜 0.3TSDW)でSDW相 を 二 分 す る 相 転 移 の 存 在 が 示 唆 さ れ て い る 。 こ の 結 果 、 こ れ ら の 相 に お け るSDWの ス ラ イ デ ィ ン グ の メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る こ と は 、 物 性 物 理 学 に お い て 極 め て 意 義 深 い も の と な っ て い る 。 著 者 は 試 料 の 冷 却 速 度 に よ り(TMTSF)2Cl04に お け る 電 子 バ ン ド の 二 次 元 性 を 制 御 し 、 SDWの ス ラ イ デ ィ ン グ のダイナミクス とT゛における相転移との関 わりについて研究を行った。

  一 次 元 性 の 最 も 大 き い 場 合 に お い て 、 温 度 の 上 昇 と と も に 比 較 的 急 激 に 増 大 す る し き い 電 場 を 観 測 し た 。 さ ら に 、 し き い 電 場 の 温 度 依 存 は 二 次 元 性 が 増 大 す る と 緩 や か に な る 結 果 を 得 た 。 著 者 は 、 こ の 振 る 舞 い を 平 均 場 理 論 に よ るSDWの 荷 電 不 純 物 に よ る 二 次 の ピ ン 止 め 効 果 で 解 析 し 、 ー 次 元 性 が 大 き い 場 合 に は 「 弱 い ピ ン 止 め 」 機 構 が 支 配 的 で あ り 、 二 次 元 性 の 増 大 と と も に 「 強 い ピ ン 止 め 」 機 構 に 変 化 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 (TMTSF)2Cl04に お い て は ア ニ オ ン の 配 向 秩 序 の 乱 れ が 有 効 不 純 物 と な る こ と に 着 目 し 、 二 次 元 性 の 増 大 が 有 効 不 純 物 濃 度 の 減 少 を も た ら し 、 「 弱 い ピ ン 止 め 」 か ら 「 強 い ピ ン 止 め」/丶丶のクロ スオーバーが起きることを 議論した。

T゛ に お け る 相 転 移 に 関 し て は 、 し き い 電 場 の 温 度 依 存 はT゛ を 境 に 連 続 的 で あ る が 、 過 剰 電気伝導度の大 きさo′excp(ゼ(2E,)‐ゼ(0))/G(0)]はT.以下で急激な減少を示すことを見いだし た 。 ま た 、T゛ 以 下 の 温 度 の 高 電 場 で の み 温 度 依 存 し な いj=joexp(―Eof) で 表 さ れ る 新 し い 電 気 伝 導 特 性 を 観 測 し た 。 さ ら に 、T゛ 以 下 のSDW相 で は 通 常 の し き い 電 場 が 観 測 さ れ た 後 さ ら に 高 電 場 で 新 し い 電 気 伝 導 特 性 が 現 れ る こ と を 確 認 し 、 電 場 に よ っ て 従 来 型 のSDW の ス ラ イ デ ィ ン グ か ら 新 し い 電 気 伝 導 特 性 へ の ク ロ ス オ ー バ ー が 起 き て い る こ と を 明 ら か に し た 。 著 者 は こ の 温 度 に 依 存 し な い 新 し い 電 気 伝 導 特 性 は 量 子 力 学 的 ト ン ネ ル 効 果 に よ るSDWの ス ラ イ デ ィ ン グ に よ る も の で あ る こ と を 議 論 し た 。 さ ら に こ れ ら の 振 る 舞 い か らT に お け る 相 転 移 を 説 明 す る モ デ ル と し て 、 不 整 合 SDWか ら デ ィ ス コ メ ン シ ュ レ ー シ

成 孝

一  

  政

材 木

   

   

野 三

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

ヨンをともなったSDW への転移を提案した。

   以上のように著者の研究は、(TMTSF)2Cl04 におけるSDW のスライディングのダイナミ

クスを実験的に調べ、その具体的な機構を明らかにしたものであり、擬―次元導体のSDW

相 に お け る SDW の ダ イ ナ ミ ク ス の 理 解 に 大 き な 貢 献 を な す も の で あ る 。

   よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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