博 士 ( 理 学 ) パ ウ デ ル , ラ ル プ ラ サ ド
学 位 論 文 題 名
Geological and Petrological Study
of the Central Nepal Himalaya with Special Reference to Tectono‑Thermal Evolution
and Inverted Metamorphism in the Lesser Himalaya ( 中 央 ネ パ ー ル ヒ マ ラ ヤ の 地 質 学 的 お よ び 岩 石 学 的 研 究 ― と く に 低 ヒ マ ラヤ 帯 の造 構 ―熱 史 と逆 転 変 成作 用 につ い て)
学位論文内容の要旨
近年,ヒマラヤの地質で古くから知られているいわゆる逆転変成作用はヒマラヤ の形成史の上で大きな問題となっており,その形成過程について様々なモデルが提 唱されている.しかし,それらの研究のほとんどは高変成度岩石からなる高ヒマラ ヤ帯を対象としており,逆転変成作用が典型的に見られる低ヒマラヤ帯ではほとん ど行われていない.その理由は低ヒマラヤ帯の地質構造がより複雑であり,また,
構 成 岩 石 の 変 成 度 が 低 く 温 度 構 造 を 推 定 す る こ と が 困 難 な た め で あ る . 本研究では,中央ネバール,ポカラ―夕ンセン地域の北は高ヒマラヤ帯南部から南 は サブヒマラヤ帯にいたる100kmX50klnの広範な地質図の作成とスラストテク卜 二クスの設定,野外と鏡下観察による変形構造解析による変形時相の編年,鏡下観 察における鉱物共生関係の解析とEPMAなどによる鉱物化学組成分析による変成時 相の解析とその温度・圧力条件の推定,X線回折計によるイライトの結晶度と白雲 母のbo値の測定などによる低変成度域における温度構造および圧カの推定,さらに K‑Ar法による千枚岩類の全岩年代測定などによって,同地域の変成・変形史および 構造発達史を明らかにした.さらに,従来の逆転変成作用形成モデルを検討すると ともに,本研究から得られたデータから本地域の逆転変成作用のモデルを提案した.
申請者は詳細な地質調査と構造解析により,先カンプリア系〜下部古生界および ゴンドワナ堆積物からなる本地域の低ヒマラヤ帯を南から北へ,現地性のバラオー トクトン,二つのスラストシー卜(スラストシートIおよびU)および主中央衝上 断層帯(MCTゾーン)に区分し,全体が上部主中央衝上断層をルーフスラスト,主 境界衝上断層をフ口アスラストとするforel亅1cl‑propagating duplex構造をなすこ とを明らかにした.また,アウトオブシーケンススラストやノヾックスラストの存在 も明らかにした.従来,MCTゾーンの存在についてはそれを否定する意見もあった が,申請者はその岩層,変形,変成作用の特徴を明らかにし,本地域での存在を明
確 に し た . 申請 者 は 本 地 域 で は 少 な く と も5回(Di〜Ds)の 変形 時相 が区 分さ れる こと を示 し, その うちDiとD2は第 三紀 のヒ マラ ヤ期変動より前の運動とした.Diは 層理 面に 平行 な片 理面Siを形 成し ,SiはD2期に 北北東ー南南西方向の軸をもつF2褶 曲を 被っ てい る. さら に,ヒ マラ ヤ変 動期 のD3期に上部主中央衝上断層の活動によ り剪断片理面(S3)が形成された.広く見られるS−C構造や伸長線構造はこの時期に形 成し た. その 後,D4運 動によ り既 存の すべ ての 構造は東西方向の軸を持つ南フウツ ゲン ツの 褶曲 を被 った .最後 のDs変形 はヒ マラ ヤの上昇・削剥期の脆性的な断層運 動に よる もの であ る. 本地域 はま た多 重変 成作 用を被っている.すなわち,低ヒマ ラヤ帯は先ヒマラヤ期(先第三紀)のアンチゾーン変成作用(Mo)を被り,さらにネオ ヒマラヤ期(中新世)の上部主中央衝上断層活動期からその活動後にかけてはダイア ジェ ニッ クか らガ ーネットグレードの変成作用(M2)を被った.いっぽう,高ヒマラ ヤ帯 は先 上部 主中 央衝 上断層 活動 期( 前期 第三 紀)にカイアナイトグレードの変成 作用(M1)を, さら に, 上部主 中央 衝上 断層 活動 期にその衝上運動にともなって降温 変成 作用(M2)を被 った ,した がっ て, 低ヒ マラ ヤ帯のガーネットグレードから高ヒ マ ラ ヤ 帯 の カイ ア ナ イ ト グ レー ドに 至る アイ ソグ ラッ ドの 逆転 現象 は主 変成 作用 (Mi)の 後 の 上部 主 中 央 衝 上 断層 にそ う衝 上運 動に よる 見か けの もの であ る. いっ ぽう ,本 地域 を南 北に 横断す るニ つの ルー トに そう詳細なイライト結晶度および白 雲母 のbo値の 測定 や鉱 物の組 み合 せお よび 再結 晶度の検討によると,低ヒマラヤ帯 は層 序的 に上 位で ある 北方ヘ 変成 度が 上昇 して おり,明らかに温度構造の逆転がみ られ る. これ は上 部主 中央衝 上断 層に そっ て高 温の高ヒマラヤ帯が低ヒマラヤ帯に 衝上 した ため であ る. その後 ,高 ヒマ ラヤ 帯と 低ヒマラヤ帯はともにヒマラヤの上 昇・ 削剥 期の 後退 変成 作用(M3)を 被っ てい る. さらに,申請者は,低ヒマラヤ帯南 部の クリ ッべ にお ける ゴンド ワナ 堆積 物と その 下盤岩石のイライト結晶度の検討か ら、ゴンドワナ堆積以前(中期古生代以前)における変成作用の存在を指摘している,
申請者はこのような変形・変成過程を総括して,インド―ユーラシア衝突後に,イン ド大陸の北縁で起こった前縁褶曲―衝上帯としてのヒマラヤのスラストテクトニクス の形成モデルを示した.
以上のように,申請者は大陸衝突帯の前縁褶曲―衝上帯であるヒマラヤのスラスト テク トニ クス を明 らか にする とと もに ,変 形時 相を解明した.また,従来ほとんど 行わ れて いな かっ た低 ヒマラ ヤ帯 の温 度構 造を 明らかにすることによって,いわゆ る逆転変成作用の実態を示し,その形成モデルを示した.
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 渡 辺 暉 夫 副 査 教 授 松 枝 大 治 副 査 助 教 授 在 田 一 則
学 ti 論文題 4?1
Geological and Petrological Study of the Central Nepal Himalaya with Special Reference to Tectono‑Thermal Evolution and Inverted h/Ietamorphism in the Lesser Himalaya
(中 央ネパールヒマラヤの地質学的および岩石学的研究
―とくに低ヒマラヤ帯の造構―熱史と逆転変成作用について)
近 年,ヒマラヤのいわゆる逆転 変成作用の形成過程につい て様々なモデルが提唱されて いる.しか レ, それらの研究のほとんどは高 変成度岩石からなる高ヒマ ラヤ帯を対象としており,逆 転変成作用 が典 型的に見られる低ヒマラヤ帯 ではほとんど行われていな い.その理由は低ヒマラヤ帯 の地質構造 がよ り複雑であり,また,構成岩 石の変成度が低く温度構造 を推定することが困難なため である.本 研究 では,中央ネパール,ポカラ 一夕ンセン地域の,高ヒマ ラヤ帯南部からサブヒマラヤ 帯にいたる 100kmX 50kmの 広 範な 地質 図の 作成 と スラ スト テク ト ニク スの 設定 ,野 外と鏡下観察に よる変形構 造 解析 に よる 変形 時相 の 編年 ,鏡 下観 察に お ける鉱物共生 関係の解析とEPMAなどによる 鉱物化学組 成 分析 お よび 化学 組成 マッピン グによる変成時相の解析とそ の温度・圧力条件の推定,X線回折計に よ るイ ラ イト の結 晶度 と 白雲 母のbo値 の測 定 などによる低 変成度域における温度構造お よび圧カの 推 定, さ らにK―Ar法 による千枚 岩類の全岩年代測定などに よって,同地域の変成・変形 史および構 造発 達史を明らかにした.さらに ,本研究から得られたデ一 夕から本地域の逆転変成作用 のモデルを 提案 した.
申 請者は先カンブリア系〜下部 古生界およびゴンドワナ堆 積物からなる同地域の低ヒマ ラヤ帯を南 か ら北 へ ,現 地性 のバ ラ オー トク トン ,二 つ のスラストシ ート(スラス卜シートIおよ びu)および 主中 央衝上断層帯(M(ニTゾーン )に区分し,.全体が上部主中央衝上断層をルーフスラスト,主境界 衝 上断 層 をフ 口ア スラ ストとす るforeland―propagatingduplex構造をなすことを明らか にした.ま た, アウトオブシーケンススラス トやバックスラストの存在 も明らかにした.従来,M( 冫rゾーンの 存在 についてはそれを否定する意 見もあったが,申請者はそ の岩層,変形および変成作用 の特徴を明 ら かに し ,本 地域 での 存 在を 明確 にレ た. 申 請者 は本 地域 では 少 なく とも5回(D1〜D5)の変形時 相 が区 分 され るこ とを 示 し, その うちDlとD2は第三紀のヒ マラヤ期変動より前の運動と した.ヒマ ラ ヤ変 動 期のD3運 動時 に 上部 主中 央衝 上断 層 の活動により 主要剪断片理面が形成された .広く見ら れ るSーC構造 や伸 長線 構 造は この 時期 に形 成 した.その後 ,D4運動により既存のすべて の構造は南 フ ェッ ゲ ンツ の褶 曲を 被 った ,最 後のD5変 形 はヒマラヤの 上昇・削剥期の脆性的な断層 運動による もの である.本地域はまた多重変 成作用を被っている.すな わち,低ヒマラヤ帯は先ヒマ ラヤ期(先 第三 紀)のアンチゾーン変成作用(MO)を被り,さらにネオヒマラヤ期(中新世)の上部主中央衝上断層 活動 期からその活動後にかけては ダイアジェニックからガー ネットグレードの変成作用(M2)を被っ た, いっぽう,高ヒマラヤ帯は上 部主中央衝上断層活動期( 前期第三紀)にカイアナイト グレードの 変 成作 用 (M1)を ,さ ら に, 上部 主中 央衝 上 断層活動期に その衝上運動にともなって降 温変成作用
(M2)を被った.レたがって,低 ヒマラヤ帯のガーネットグ レードから高ヒマラヤ帯のカ イアナイト
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グ レー ドに 至る アイソグラ ッドの逆転現象は主変成作 用(Ml)の後の上部主中央衝 上断層にそう衝上 運動による見か けのものである.いっぽう ,本地域を南北に横断するニ つのルートにそう詳細なイラ イ ト結 晶度 およ び白 雲 母の 白雲 母のbo値などの検討に よると,低ヒマラヤ帯は層 序的に上位である ゴヒ方へ変成度が上昇しており,明らかに温度構造の逆転がみられる.これは上部主中央衝上断層にそっ て高温の高ヒマ ラヤ帯が低ヒマラヤ帯に衝 上したためである.その後, 高ヒマラヤ帯と低ヒマラヤ帯 は とも にヒ マラ ヤの 上 昇・ 削剥 期の 後 退変成作用(M3)を被っている.さらに,申 請者は,低ヒマラ ヤ帯南部のクリ ッぺにおけるゴンドワナ堆 積物とその下盤岩石のイライ ト結晶度の検討から,ゴンド ワナ堆積以前( 中期古生代以前)における 変成作用の存在を指摘した.申請者はこのような変形・変成 過程を総括して ,インドーユーラシア衝突 後に,インド大陸の北縁で起こった前縁褶曲―衝上帯として のヒマラヤのス ラストテクトニクスの形成 モデルを示レた.
これを要する に,著者は,低ヒマラヤの スラストテクトニクスを明ら かにするとともに,中期古生 代以前をふくめ たヒマラヤの多重変成―変 形作用を明らかにし,低ヒマ ラヤ帯の逆転変成作用につい て 新 知 見 を 得 た も の で あ り , ヒ マ ラ ヤ の 地 質研 究に 対し て貢 献 する とこ ろ大 なる も のが ある . よ っ て 著 者 は , 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る .
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