双極性障害における「簡易な心理教育」の考案とそ
の有用性に関する研究
著者
齊藤 由佳
学位名
博士(教育心理学)
学位授与機関
関西学院大学
学位授与番号
34504甲第638号
URL
http://hdl.handle.net/10236/00027317
2017 年 度
博 士 学位 論文
双 極 性障 害に お ける 「簡 易 な心 理教 育 」の 考 案 と
そ の 有用 性に 関 する 研究
関 西 学院 大学 大 学院 文学 研 究科
総 合 心理 科学 専 攻 心 理科 学 領域
齊 藤 由佳
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要 旨
双 極 性 障 害 は 、 う つ 病 と 同 じ 気 分 障 害 の 一 つ で あ り 、 精 神 疾 患 の 中 で も 重 要 な 分 野 で あ る 。 双 極 性 障 害 の 治 療 は 薬 物 療 法 が 中 心 と な る が 、 服 薬 中 断 に よ る 再 発 率 が 高 く 、 慢 性 の 経 過 を 経 る こ と が 多 い た め 、 心 理 学 的 ア プ ロ ー チ に よ る 精 神 療 法 を 通 じ て 患 者 に 正 し い 疾 患 理 解 を 促 す こ と が 肝 要 で あ る 。心 理 教 育 は 、 精 神 疾 患 な ど 受 容 し に く い 問 題 を 持 つ 人 た ち に 正 し い 情 報 を 心 理 面 に 配 慮 を し な が ら 伝 え 、 心 理 ・ 社 会 的 な 改 善 を 図 る 心 理 学 的 ア プ ロ ー チ の 一 つ で あ り 、 海 外 で は 双 極 性 障 害 を 対 象 と し た 心 理 教 育 の 臨 床 試 験 結 果 が 報 告 さ れ て い る 。 し か し 、 い ず れ も 体 系 的 で 負 荷 が 重 い 構 成 で あ り 、 診 察 時 間 と マ ン パ ワ ー が 限 ら れ て い る 我 が 国 の 精 神 科 医 療 の 現 状 を 鑑 み る と そ の 実 施 は 容 易 で は な い 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 日 本 の 臨 床 現 場 で も 導 入 が 容 易 な 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 を 新 た に 考 案 し 、 そ の 有 用 性 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し て 実 施 し た 。 ま ず 、 研 究 1 と し て 大 学 生 を 対 象 に 双 極 性 障 害 の 認 知 状 況 の 調 査 を 行 っ た 。 一 般 住 民 に お け る 双 極 性 障 害 の 認 知 度 の 低 さ は 既 に 報 告 さ れ て い る が 、 平 均 的 発 症 年 齢 で あ る 若 年 層 で の 認 知 状 況 は こ れ ま で 調 査 さ れ て い な い 。 情 報 化 社 会 が 進 む 昨 今 を 考 慮 し 、 現 状 で の 疾 患 認 知 状 況 を 把 握 す る こ と は 心 理 教 育 の 重 要 性 を 確 認 す る た め に 必 要 と 考 え 計 画 し た 。 調 査 の 結 果 、 大 学 生 の 半 数 以 上 が 双 極 性 障 害 の 疾 患 名 を 認 知 し て お ら ず 、 最 近 の 若 年 者 に お い て も 疾 患 認 知 度 が 低 い こ と が 示 唆 さ れ た 。 加 え て 、 双 極 性 障 害 に お い て 極 め て 重 要 な 問 題 で あ る 再 発 や 自 殺 の リ ス ク の 高 さ 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 治 療 の 必 要 性 が 十 分 に 認 識 さ れ て い な い 現 状 が 明 ら か と な っ た 。 し た が っ て 、 現 在 に お い て も 若 年 者 を 含 め 広 い 年 齢 層 を 対 象 と し た 心 理 教 育 が 重 要 で あ る こ と を 強 調 す る 結 果 を 得 た 。 そ こ で 、 日 本 の 実 臨 床 で も 導 入 が 容 易 な 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 を 考 案 し 、 そ のii 有 用 性 を 検 討 す る こ と は 臨 床 的 意 義 が あ る と 考 え 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 診 療 録 を 対 象 と し た 後 方 視 的 観 察 研 究 を 研 究 2 と し て 実 施 し た 。「 簡 易 な 心 理 教 育 」は 、患 者 と 心 理 専 門 職 が 1 対 1 で 実 施 す る 個 人 心 理 教 育 と し 、 疾 患 に 関 す る テ キ ス ト を 交 互 に 音 読 で 読 み 合 せ る 方 法 と し た 。 研 究 結 果 よ り 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 に 対 し 薬 物 療 法 と 併 用 し て 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 を 実 施 す る こ と に よ り 、 社 会 適 応 の 改 善 と 疾 患 理 解 が 進 み 、 さ ら に 一 部 の 患 者 で は 気 分 傾 向 を 正 確 に 評 価 で き る 可 能 性 が 示 さ れ た 。 し か し 、 本 研 究 で は 患 者 経 過 の 詳 細 な 検 討 は 行 っ て お ら ず 、 ど の よ う な 過 程 を 経 て 疾 患 理 解 が 進 み 、 社 会 適 応 が 改 善 し た か は 不 明 で あ っ た 。 そ こ で 研 究 3 で は 、 研 究 2 の 対 象 例 の 中 か ら 診 断 ま で 精 神 科 診 療 歴 が 長 く 複 雑 な 治 療 経 過 を も つ に も か か わ ら ず 、「 簡 易 な 心 理 教 育 」の 導 入 に よ り 社 会 適 応 が 著 し く 改 善 し た 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 一 例 を 取 り 上 げ て 、 そ の 有 用 性 を 記 述 的 に 検 討 し た 。 心 理 教 育 を 通 じ て 患 者 経 過 を 詳 細 に 検 討 し た 結 果 、 音 読 と い う 手 法 と 個 人 心 理 教 育 と い う 形 式 が 患 者 の 疾 患 理 解 を 深 め 、 さ ら に 読 み 合 わ せ と い う 手 法 が 患 者 と 心 理 専 門 職 の 信 頼 関 係 を 構 築 し た 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 こ の よ う に 得 ら れ た 疾 患 理 解 の 向 上 と 信 頼 関 係 の 構 築 は 、 周 囲 と の 関 係 性 を 良 い 方 向 に 変 化 さ せ 、 結 果 と し て 社 会 適 応 の 向 上 に つ な が っ た こ と が 考 え ら れ た 。 次 に 、 研 究 2 お よ び 3 で 検 討 し た 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 の 手 法 を 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 患 者 の 外 来 服 薬 指 導 に 応 用 し て 取 り 入 れ た 一 例 を 研 究 4 と し て 記 述 的 に 検 討 し た 。 服 薬 指 導 を 通 じ て 患 者 経 過 を 詳 細 に 検 討 し た 結 果 、 詳 し い 薬 物 療 法 の 知 識 の 習 得 が 可 能 と な っ た だ け で な く 、 治 療 に 対 す る 積 極 性 の 促 進 や 薬 剤 師 と の 信 頼 関 係 の 構 築 な ど の 心 理 的 な 支 援 に も つ な が っ た こ と が 示 唆 さ れ た 。 本 研 究 結 果 よ り 、 日 常 の 診 療 の 範 囲 内 で 実 施 可 能 な レ ベ ル の 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 の 有 用 性 を 示 唆 す る こ と が で き た こ と は 、 我 が 国 の 現 状 を 考 え る と 大 き な 意 義 が あ る と 考 え る 。
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目 次
第 1 章 序 論 ... 1 第 1 節 双 極 性 障 害 と は ... 2 1. 概 念 ... 2 2. 歴 史 的 変 遷 ... 3 3. 疫 学 ... 4 4. 併 存 疾 患 ... 6 5. 病 因 ... 6 6. 診 断 ... 9 7. 診 断 分 類 ... 17 8. 経 過 ・ 予 後 ... 18 9. 治 療 ... 20 第 2 節 双 極 性 障 害 に お け る 臨 床 上 の 課 題 ... 22 1. 疾 患 認 知 度 ... 22 2. 精 神 療 法 ... 24 3. 服 薬 指 導 ... 34 第 3 節 研 究 の 意 義 と 目 的 ... 37 第 2 章 研 究 ... 40 第 1 節 [ 研 究 1] 大 学 生 に お け る 双 極 性 障 害 の 認 知 状 況 の 調 査 ... 40 1. 背 景 と 目 的 ... 40 2. 方 法 ... 41 3. 結 果 ... 47 4. 考 察 ... 60 5. 結 論 ... 66iv 第 2 節 [ 研 究 2]「 簡 易 な 個 人 心 理 教 育 」が 実 施 さ れ た 双 極 Ⅱ 型 障 害 に 関 す る 後 方 視 的 観 察 研 究 ... 66 1. 背 景 と 目 的 ... 66 2. 方 法 ... 68 3. 結 果 ... 77 4. 考 察 ... 84 5. 結 論 ... 94 第 3 節 [ 研 究 3]「 簡 易 な 心 理 教 育 」に よ り 社 会 適 応 能 力 が 著 し く 改 善 し た 双 極 Ⅱ 型 障 害 患 者 の 一 例 ... 94 1. 背 景 と 目 的 ... 94 2. 症 例 提 示 ... 96 3. 考 察 ... 101 4. 結 論 ... 106 第 4 節 [ 研 究 4] 服 薬 指 導 に 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 の 手 法 を 取 り 入 れ た 双 極 Ⅱ 型 障 害 患 者 の 一 例 ... 107 1. 背 景 と 目 的 ... 107 2. 症 例 提 示 ... 109 3. 考 察 ... 116 4. 結 論 ... 118 第 3 章 総 合 考 察 ... 120 1. 双 極 性 障 害 に お け る 心 理 教 育 の 重 要 性 ... 121 2. 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 の 手 法 ... 123 3. 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 の 内 容 ... 124 4. 「 簡 易 な 心 理 教 育 」 に よ る 社 会 適 応 の 改 善 ... 125 5. 研 究 の 限 界 と 今 後 の 課 題 ... 126
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6. 結 論 ... 127 引 用 文 献 ... 128
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第 1 章 序 論
第 1節 双 極 性 障 害 と は
1. 概 念 双 極 性 障 害 は う つ 病 と 同 じ 気 分 障 害 の 一 つ で あ り 、 精 神 疾 患 の 中 で も 重 要 な 分 野 で あ る 。 気 分 は 多 様 な 形 容 で 表 現 さ れ る 。 例 え ば 落 ち 込 ん だ 、 悲 し い 、 空 虚 な 、 ふ さ ぎ 込 ん だ 、 苦 痛 な 、 過 敏 な 、 気 の 滅 入 る 、 高 揚 し た 、 多 幸 的 な 、 躁 的 な 、上 機 嫌 な ど が あ る (B.Sadock, V.Sadock, & Ruiz, 2015 井 上 監 修 ,2016)。 気 分 障 害 は 健 康 な 時 に 起 こ る 気 分 の 浮 き 沈 み と 比 べ る と 程 度 が 強 く 、 持 続 期 間 が 長 く 、 機 能 的 障 害 を も た ら す こ と が 特 徴 で あ る (野 村 ・ 樋 口 , 2015)。 す な わ ち 、 自 分 で は コ ン ト ロ ー ル で き な い 程 の 激 し い 躁 状 態 や 苦 し く て 生 き て い る の が つ ら い 程 の う つ 状 態 が 、気 分 の 切 り 替 え が で き な い ま ま 一 定 期 間 以 上 持 続 し 、 そ の 人 が 持 っ て い る 機 能 を 損 な う も の が 気 分 障 害 と 定 義 さ れ て い る (Sadock et al., 2015 井 上 監 修 , 2016)。 双 極 性 障 害 の 診 断 基 準 の 一 つ で あ る 米 国 精 神 科 医 学 会 が 定 め た 「 精 神 疾 患 の 分 類 と 診 断 の 手 引 第 4 版 テ キ ス ト 改 訂 版 」( Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;DSM -IV-TR) に 従 う と 、 双 極 性 障 害 は 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド 、 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド 、 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド 、 混 合 性 エ ピ ソ ー ド の 組 み 合 わ せ で 構 成 さ れ る (American Psychiatric Association , 2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003)。 エ ピ ソ ー ド と は 、 躁 や う つ の 気 分 症 状 が 始 ま っ て か ら 治 ま る ま で の 期 間 の こ と を 言 う 。 主 な 双 極 性 障 害 で は 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド ま た は 軽 躁 エ ピ ソ ー ド と 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド の 両 方 を 持 つ 場 合 と 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド だ け を も つ 場 合 が あ る 。 通 常 、 双 極 性 障 害 は 気 分 エ ピ ソ ー ド と 症 状 が な い 寛 解 期 を 長 期 に わ た っ て 繰 り 返 す (Figure 1-1)。 し か し 、 寛 解 と 治 癒 は 同 義 で は な く 、 長 期 に わ3 た っ て 再 発 を 繰 り 返 す こ と も 双 極 性 障 害 の 特 徴 で あ る 。 Figure 1-1.双 極 性 障 害 の 経 過 に 関 す る 概 念 図 2. 歴 史 的 変 遷 精 神 医 学 の 診 断 分 類 体 系 が 変 化 す る に つ れ て 、 双 極 性 障 害 の 概 念 は 変 化 し て き た (野 村 ・ 樋 口 ,2015)。19 世 紀 、ド イ ツ の 精 神 医 学 者 で あ る ク レ ペ リ ン は う つ 病 と 双 極 性 障 害 の 原 型 で あ る 躁 う つ 病 ( manic depressive psychosis) を 独 立 し た 疾 患 と し て 提 唱 し 、 単 極 性 う つ 病 も 躁 う つ 病 と い う 1 つ の 疾 患 に ま と め る の が 妥 当 で あ る と 考 え て い た 。そ の 後 、1960 年 代 以 降 、躁 う つ 病 の 経 過 、発 症 率 の 性 差 、遺 伝 歴 、病 前 性 格 等 の 研 究 結 果 を 考 慮 し て 、「 双 極 性 障 害 」と「 単 極 性 う つ 病 」 の 2 つ に 分 け る べ き と の 考 え 方 、 す な わ ち 二 元 論 が 提 唱 さ れ た 。 元 来 、 精 神 疾 患 は そ の 病 因 の 基 づ き 心 因 ( 心 理 的 原 因 )、 内 因 ( 素 因 )、 外 因 ( 脳 を 含 む 身 体 疾 患 や 中 毒 性 物 質 が 原 因 ) の 三 分 類 さ れ て い た が 、 そ の 後 の 研 究 に よ り 、 多 く の 精 神 疾 患 の 発 症 に は 心 因 も 素 因 も 、 環 境 因 も 遺 伝 因 も 、 脳 や 身 体 も 関 係 し て い る こ と が 明 ら か に な り 、 伝 統 的 な 病 因 分 類 の 妥 当 性 が 疑 問 視 さ れ る よ う に な っ た 。 ま た 、 伝 統 的 診 断 分 類 は 診 断 基 準 を 明 示 し て お ら ず 、 医
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師 の 間 で 診 断 の 一 致 が 得 ら れ な い 事 態 が 生 じ て い た 。そ こ で 、1980 年 以 降 、診 断 の 一 致 率 を 高 め る こ と を 目 的 と し 、 WHO(World Health Organization)や 米 国 精 神 医 学 会 は 症 状 と 経 過 に 基 づ い た 操 作 的 診 断 基 準 を 作 成 し た 。 操 作 的 診 断 基 準 と は 、 各 精 神 障 害 を 診 断 す る 際 に ど の 症 状 に 着 目 し 、 そ の 症 状 が い く つ あ れ ば そ の 精 神 障 害 と 診 断 す る か を 示 し て い る も の で あ る 。
WHO の 診 断 分 類 で あ る 疾 病 及 び 関 連 保 健 問 題 の 国 際 統 計 分 類( International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems;ICD -10)で は 、「 気 分( 感 情 )障 害 」と い う 大 分 類 の 中 に 、双 極 性 感 情 障 害( 従 来 の 躁 う つ 病 ) と 反 復 性 う つ 病 性 障 害 ( 従 来 の う つ 病 ) が 含 ま れ て い る ( 中 根 ・ 岡 崎 , 1994 )。 米 国 精 神 医 学 会 が 2000 年 に 発 表 し た DSM-IV-TR(American Psychiatric Association,2000 高 橋・大 野 監 訳 ,2003)で も「 気 分 障 害 」の 中 に 双 極 性 障 害 ( 従 来 の 躁 う つ 病 ) と 、 大 う つ 病 性 障 害 ( 従 来 の う つ 病 ) を ま と め て い た 。 し か し 、 2013 年 に 発 表 さ れ た DSM 改 訂 第 5 版 ( DSM-5) (American Psychiatric Association,2013 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2014)で は 症 候 論 、 家 族 歴 、 遺 伝 学 的 な 観 点 か ら 双 極 性 障 害 と う つ 病 を 個 別 に 章 立 て し 、 気 分 障 害 と い う カ テ ゴ リ ー は 使 用 し て い な い 。 3. 疫 学 3.1 有 病 率 双 極 性 障 害 は ま れ な 疾 患 で は な い 。 双 極 性 障 害 の 生 涯 有 病 率 は 、 世 界 各 国 で の 研 究 の ま と め に よ れ ば 、 双 極 Ⅰ 型 障 害 が 1.06%(95%信 頼 区 間 : 0.81-1.31)、 双 極 Ⅱ 型 障 害 で は 1.57%(95%信 頼 区 間 : 1.15-1.9)と さ れ て い る ( Clemente et al., 2015)。一 方 、日 本 に お け る 4134 例 を 対 象 と し た 疫 学 調 査 の 結 果 で は 、生 涯 有 病 率 は 、 双 極 Ⅰ 型 障 害 が 0.08%、 双 極 Ⅱ 型 障 害 が 0.13%と さ れ て い る (川 上 他 , 2006)。 従 っ て 、 日 本 で の 生 涯 有 病 率 は 約 0.2%と 考 え ら れ 、 欧 米 に 比 べ る
5 と 頻 度 が 低 い 。 こ の 理 由 と し て は 、 面 接 時 の 応 答 に お け る 文 化 的 な 違 い や 、 参 加 者 の 偏 り な ど に よ る 、 サ ン プ リ ン グ バ イ ア ス が 関 与 す る 可 能 性 が 考 え ら れ て い る (加 藤 , 2011)。 3.2 性 差 双 極 性 障 害 は 、 発 症 頻 度 の 性 差 は ほ と ん ど な い と さ れ る (Sadock et al., 2015 井 上 監 修 ,2016)。躁 病 エ ピ ソ ー ド は 男 性 に 多 く 、大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド は 女 性 に 多 い 。 女 性 に 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド が 見 ら れ る と き は 、 男 性 に 比 べ て 混 合 性 の 症 状 を 示 し や す く 、 ま た 、 女 性 は 1 年 間 に 4 回 以 上 の 躁 病 エ ピ ソ ー ド を き た す よ う な 急 速 交 代 型 を 呈 す る 頻 度 が 高 い と さ れ て い る 。 3.3 発 症 年 齢 双 極 性 障 害 の 発 症 年 齢 は 、 日 本 を 含 む 世 界 11 ヶ 国 の 調 査 の 結 果 か ら 約 25 歳 で あ る こ と が 分 か っ て お り 、 約 半 数 の 患 者 が 25 歳 以 前 に 発 症 す る と 報 告 さ れ て い る (Anderson, Haddad, & Scott, 2012;Merikangas et al.,2011)。 双 極 性 障 害 の 発 症 年 齢 が 、 教 育 や 就 職 と い っ た 社 会 性 の 発 達 に お い て 重 要 な 時 期 と 重 な る た め 、 結 果 と し て 疾 患 の 発 症 が 生 涯 に わ た る 障 害 を 引 き 起 こ す こ と と な る ( Merikangas et al.,2011)。 発 症 年 齢 の 違 い に よ っ て 病 歴 や 疾 患 経 過 が ど の よ う に 異 な る か を 比 較 し た 研 究 で は 、 早 期 発 症 群 ( 20 歳 以 下 ) は 21 歳 以 降 の 発 症 群 と 比 較 し て 自 殺 企 図 や パ ニ ッ ク 発 作 の 回 数 が 多 く 、 う つ 病 エ ピ ソ ー ド の 期 間 が 長 い な ど 予 後 が 不 良 で あ る こ と を 示 唆 し て い る (Coryell, Fiedorowicz, Leon, Endicott, & Keller, 2013)。
ま た 、近 年 で は 北 米 を 中 心 に 10 か ら 19 歳 で の 発 症 が 主 で あ り 、10 歳 代 以 下 で も 発 症 す る 例 が ま れ で は な い と の 報 告 が あ る (Blader, & Kafantaris, 2007)。 更 に 小 児 で の 発 症 例 は 再 発 リ ス ク が 高 く 、 機 能 レ ベ ル や QOL が 低 い と の 報 告 (Perlis et al., 2009)が あ り 注 目 を 集 め て い る が 、 小 児 期 双 極 性 障 害 は 注 意
6 欠 如 ・ 多 動 性 障 害 (Attention-Deficit/hyperactivity Disorder;ADHD ) や 自 閉 症 ス ペ ク ト ラ ム 障 害 な ど と 密 接 且 つ 複 雑 に 関 連 し て お り 、 そ の 診 断 に は 十 分 な 検 討 が 必 要 と 考 え ら れ て い る 。 3.4 配 偶 者 の 有 無 双 極 Ⅰ 型 障 害 は 、 結 婚 し て い る 人 よ り も 離 婚 歴 の あ る 人 、 ま た は 未 婚 の 人 に 多 い (Sadock et al., 2015 井 上 監 修 , 2016)。 そ の 背 景 と し て 発 症 の 早 さ や 、 障 害 の 結 果 と し て の 夫 婦 間 の 不 和 を 反 映 し て い る と も 考 え ら れ る 。 4. 併 存 疾 患 気 分 障 害 患 者 は 、1 つ 以 上 の 併 存 疾 患 を も つ リ ス ク が 高 い 。双 極 性 障 害 で は 、 50%以 上 に 不 安 障 害 が 合 併 し 、 ア ル コ ー ル 使 用 障 害 を は じ め と す る 物 質 使 用 障 害 の 合 併 も 50%以 上 に み ら れ る (Sadock et al., 2015 井 上 監 修 ,2016)。ま た 、 物 質 使 用 障 害 や 不 安 症 の 併 発 は 、 双 極 性 障 害 の 予 後 を 悪 化 さ せ 、 自 殺 の リ ス ク を 顕 著 に 高 め る こ と が 報 告 さ れ て い る (野 村 ・ 樋 口 ,2015; Sadock et al., 2015 井 上 監 修 , 2016)。 5. 病 因 双 極 性 障 害 の 原 因 と し て は 、 生 物 学 的 要 因 、 遺 伝 的 要 因 、 心 理 社 会 的 要 因 等 が 考 え ら れ て い る 。 5.1 生 物 学 的 要 因 双 極 性 障 害 の 病 因 と し て は 、 生 物 学 的 異 常 に つ い て は 多 数 の 報 告 が な さ れ て い る (Berk et al., 2007; Kato, 2008; 加 藤 , 2011; 武 田 , 2008)。 最 近 ま で 、 ノ ル エ ピ ネ フ リ ン や ド パ ミ ン と い っ た モ ノ ア ミ ン 神 経 伝 達 物 質 に 焦 点 が あ て ら れ て き た が 、 昨 今 で は 、 単 一 の 神 経 伝 達 物 質 の 障 害 よ り も 、 神 経 行 動 系 、 神 経 回 路 そ し て よ り 複 雑 な 神 経 制 御 機 能 が 注 目 さ れ て い る 。
7 脳 内 神 経 伝 達 物 質 の バ ラ ン ス の 変 化 の 一 つ と し て 、 脳 内 ド パ ミ ン 系 神 経 系 の 機 能 変 化 が 考 え ら れ て い る 。 躁 状 態 を 引 き 起 こ す 精 神 刺 激 薬 が 脳 内 ド パ ミ ン 濃 度 を 増 加 さ せ る こ と 、 ド パ ミ ン D2 受 容 体 阻 害 薬 が 躁 状 態 に 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ て お り 、 躁 状 態 で は 中 脳 辺 縁 系 を 中 心 と し た ド パ ミ ン 神 経 系 の 機 能 亢 進 が 示 唆 さ れ て い る 。 一 方 、 ド パ ミ ン 枯 渇 作 用 を 有 す る レ セ ル ピ ン が う つ 状 態 を 誘 発 す る こ と 、 抗 う つ 薬 投 与 後 に 前 頭 野 で の ド パ ミ ン 増 加 が 報 告 さ れ て い る こ と な ど よ り 、 う つ 状 態 で は ド パ ミ ン 神 経 系 の 機 能 低 下 が 示 唆 さ れ て い る (Berk et al., 2007; Kato, 2008)。 最 近 で は 、 神 経 画 像 研 究 や 動 物 モ デ ル 研 究 で ド パ ミ ン 仮 説 を 指 示 す る 結 果 も 報 告 さ れ て い る が 、 未 解 決 の 問 題 は ま だ 多 い 。 例 え ば 、 脳 内 の 障 害 部 位 、 シ ナ プ ス で の ド パ ミ ン 過 剰 伝 達 の メ カ ニ ズ ム 、 混 合 状 態 や 回 復 期 で の ド パ ミ ン の 役 割 な ど が 不 明 で あ り 、 病 因 仮 説 と し て 洗 練 さ れ る に は 更 な る 研 究 が 必 要 で あ る ( 武 田 , 2008)。 5.2 イ ノ シ ト ー ル 仮 説 双 極 性 障 害 の 治 療 薬 と し て 最 も 歴 史 が 古 い 、 リ チ ウ ム の 薬 理 作 用 に 関 連 し た 病 態 仮 説 も 提 唱 さ れ て い る 。 そ の う ち 一 つ は 、 リ チ ウ ム の イ ノ シ ト ー ル モ ノ フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ (inositol monophosphatase ;IMPase)阻 害 作 用 に 関 連 す る イ ノ シ ト ー ル 仮 説 ( Harwood, 2005) で あ る 。 IMPase は イ ノ シ ト ー ル リ ン 脂 質 の 加 水 分 解 に よ り 精 製 さ れ た イ ノ シ ト ー ル 三 リ ン 酸 を イ ノ シ ト ー ル へ 分 解 す る 酵 素 で あ る 。 培 養 神 経 細 胞 内 で リ チ ウ ム が 成 長 円 錐 の 崩 壊 を 阻 止 し 、 こ れ は イ ノ シ ト ー ル の 添 加 に よ り 阻 害 さ れ る こ と が 報 告 さ れ て い る ( Williams, Cheng, Mudge, & Harwood, 2002)。し た が っ て 、リ チ ウ ム は 細 胞 内 イ ノ シ ト ー ル 欠 乏 を 介 し て 、 成 長 円 錐 を 拡 大 す る も の と 考 え ら れ て い る ( Harwood,2005)。 さ ら に 、 双 極 性 障 害 の 培 養 リ ン パ 芽 球 で は 、 イ ノ シ ト ー ル 濃 度 減 少 ( Belmaker et al.,2002)、 IMPase 活 性 低 下 (Shamir et al,1998)が 報 告 さ れ て お り 、 イ ノ シ ト ー ル 仮 説 を 支 持 し て い る 。
8 5.3 ミ ト コ ン ド リ ア 機 能 障 害 仮 説
加 藤 ら の グ ル ー プ は 、 双 極 性 障 害 の 死 後 脳 の 大 脳 皮 質 で ミ ト コ ン ド リ ア ・ デ オ キ シ リ ボ 核 酸( mitochondrial deoxyribonucleic acid;mtDNA)欠 失 が 増 加 し て い る 患 者 を 見 い だ し た (Kato, Stine, McMahon, & Crowe, 1997)こ と か ら 、 ミ ト コ ン ド リ ア 機 能 障 害 仮 説 を 提 唱 し て い る (T.Kato, & N.Kato, 2000)。 こ れ は 、 双 極 性 障 害 の 一 部 で は mtDNA 変 異 に 伴 う ミ ト コ ン ド リ ア 機 能 障 害 が 関 与 し て お り 、 そ の 結 果 、 脳 内 で mtDNA 変 異 が 蓄 積 し 、 ミ ト コ ン ド リ ア カ ル シ ウ ム シ グ ナ リ ン グ の 異 常 が 誘 引 さ れ 、 神 経 可 塑 性 の 変 化 や 細 胞 死 へ の 脆 弱 性 を 介 し て 双 極 性 障 害 に 至 る と い う 仮 説 で あ る (T.Kato, & N.Kato, 2000 )。 ま た 、 ミ ト コ ン ド リ ア の 機 能 が 障 害 さ れ た マ ウ ス で は 、 行 動 量 が 周 期 的 に 変 動 し 、 こ れ が リ チ ウ ム に よ り 改 善 す る こ と な ど が 報 告 さ れ て い る (Kasahara et al., 2006)。 5.4 遺 伝 的 関 与 双 極 性 障 害 の 発 症 に 遺 伝 が 関 与 す る こ と は 、 多 く の 双 生 児 研 究 や 家 族 研 究 か ら 示 さ れ て い る 。 双 生 児 研 究 で は 、 双 極 Ⅰ 型 障 害 の 一 卵 性 双 生 児 に お け る 一 致 率 は 約 80%と 、 二 卵 性 双 生 児 に お け る 一 致 率 で あ る 13%に 比 し て 高 く (Goodwin, & Jamison, 2007)、 遺 伝 要 因 の 関 与 は 明 ら か と 考 え ら れ て い る 。 5.5 ス ト レ ス 脆 弱 性 モ デ ル 精 神 疾 患 の 発 症 再 発 は 、 遺 伝 的 関 与 や 生 物 学 的 要 因 を 基 盤 と し て 、 心 理 社 会 的 要 因 の 相 互 作 用 で 生 じ る と い う 考 え 方 が あ り 、 ス ト レ ス 脆 弱 性 モ デ ル と 言 わ れ て い る (厚 生 労 働 省 , 2008)。 ス ト レ ス 脆 弱 性 モ デ ル は 、 ラ イ フ イ ベ ン ト 等 の 心 理 社 会 的 な ス ト レ ス が 生 物 学 的 脆 弱 性 を 刺 激 し 、 精 神 症 状 の 再 発 ・ 再 燃 を 引 き 起 こ す と 考 え る も の で あ る (厚 生 労 働 省 , 2008)。 双 極 性 障 害 に お い て も 、 他 の 精 神 疾 患 と 同 様 に ス ト レ ス 脆 弱 性 モ デ ル が 仮 説 と し て 考 え ら れ て お り ( 忽 滑 谷・真 鍋 ,2005)、ス ト レ ス が 病 状 の 悪 化 に つ な が る だ け で な く 、疾 患 の 症 状 そ の も の が 次 の ス ト レ ス 環 境 を 形 成 し て し ま う こ と が 双 極 性 障 害 の 独 特 な 点 と い
9 え る (鷲 塚 ・ 加 藤 , 2012)。 こ の よ う に 、 双 極 性 障 害 の 病 態 仮 説 は 多 数 提 唱 さ れ て い る も の の 、 原 因 解 明 は 未 だ 発 展 途 上 で あ り 、 双 極 性 障 害 の 発 症 原 因 は 確 定 的 で は な い 。 6. 診 断 双 極 性 障 害 の 診 断 は 、 米 国 精 神 科 医 学 会 が 定 め た 「 精 神 疾 患 の 分 類 と 診 断 の 手 引 」( DSM)( American Psychiatric Association,2000 高 橋・大 野 監 訳 ,2003; American Psychiatric Association,2013 高 橋 ・ 大 野 監 訳 ,2014)や 、国 際 疾 病 分 類 (ICD)( 中 根 ・ 岡 崎 ,1994) に 基 づ い て 行 わ れ る 。
DSM-IV-TR の 診 断 基 準 ( American Psychiatric Association,2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003) で は 、 ま ず 気 分 エ ピ ソ ー ド の 診 断 を 行 う 。 気 分 エ ピ ソ ー ド と し て 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド 、 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド 、 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド 、 混 合 性 エ ピ ソ ー ド が 定 義 さ れ て い る 。躁 病 エ ピ ソ ー ド で は 、気 分 が 高 揚 す る 、解 放 的 に な る 、 ま た は 怒 り っ ぽ く な る と い っ た 気 分 の 変 化 が 少 な く と も 1 週 間 以 上 続 く 状 態 と 定 義 さ れ る 。 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド で は 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド と 症 状 は 同 じ だ が 、 持 続 期 間 の 定 義 が 4 日 以 上 で あ り 、 そ の 重 篤 さ も 社 会 的 ・ 職 業 的 機 能 障 害 を 起 こ す ほ ど で は な い か 入 院 を 要 し な い 程 度 で あ る 。 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド で は 、 抑 う つ 的 な 気 分 と 何 に 対 し て も 興 味 ・ 関 心 や 楽 し さ が 感 じ ら れ な い 状 態 の 2 つ の 基 本 症 状 を 示 す 。 混 合 性 エ ピ ソ ー ド は 、 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド 症 状 と 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 症 状 が 入 り 混 じ っ て 出 現 す る 場 合 で あ る 。 以 下 に DSM-IV-TR で 定 義 さ れ て い る 気 分 エ ピ ソ ー ド の 概 要 を 示 す 。 6.1 躁 病 エ ピ ソ ー ド 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 基 本 的 特 徴 は 、 気 分 が 高 揚 す る 、 開 放 的 に な る 、 あ る い は 怒 り っ ぽ く な る と い っ た 気 分 の 変 化 が 1 週 間 以 上 続 く 状 態 で あ る 。 た だ し 、 入 院 治 療 が 必 要 と す る 程 度 で あ れ ば 、1 週 間 未 満 で も 基 準 を 満 た す( Table 1-1)。
10 高 揚 し た 気 分 と は 、 本 人 と し て は 「 気 分 が 良 い 」 や 「 う き う き す る 」 と 表 現 し 、 周 囲 も 「 活 気 」、「 陽 気 」 と と ら え る 。 ま た 、 気 分 が 解 放 的 に な る の で 、 見 ず 知 ら ず の 人 に 話 し か け た り 、外 見 的 に も 服 装 や 化 粧 が 派 手 に な る こ と が 多 い 。 躁 病 エ ピ ソ ー ド で は 、 高 揚 し た り 、 開 放 的 な 気 分 に よ る 言 動 が 他 者 に 防 が れ た り し た 場 合 に は 怒 り っ ぽ さ が 前 面 に 出 る こ と に な る 。 こ れ ら の 基 本 症 状 を 示 す 期 間 内 に 、 以 下 の 7 項 目 の う ち 3 項 目 が 顕 著 に 持 続 し て 存 在 す る こ と が 必 要 と な る 。 た だ し 、 気 分 の 高 揚 や 開 放 感 が 乏 し く 、 怒 り っ ぽ さ だ け が 存 在 す る 場 合 は 、 4 項 目 必 要 で あ る 。 1) 自 尊 心 の 肥 大 あ る い は 誇 大 的 思 考 : 自 分 が 誰 よ り も 優 れ た 人 間 に 思 え る な ど 自 己 評 価 が 高 ま り 、思 考 も 誇 大 的 な 考 え 方 に つ な が る 。そ の 結 果 、現 実 不 可 能 な 計 画 を 立 て る 。 2) 睡 眠 欲 求 の 減 少 : 睡 眠 時 間 が 短 す ぎ る 状 態 で あ っ て も 、 す っ き り し た 気 分 で 目 覚 め 本 人 は 睡 眠 が 不 足 し て い る と は 思 っ て い な い 。 3) 普 段 よ り も 多 弁 で 、 話 し た い 気 持 ち が 強 い : 話 し た い 気 持 ち が 次 か ら 次 へ と 生 じ 、 声 が 大 き く 多 弁 と な る 。 途 中 で 介 入 し 会 話 を 留 め る こ と が 困 難 と な る 。 易 怒 的 な 気 分 が 強 い 場 合 は 、 会 話 内 容 も 不 平 、 批 判 が 多 く な る 。 4) 考 え が 次 々 に 浮 か ぶ:考 え が 次 々 に 浮 か ぶ 結 果 、多 弁 を 呈 す る 。話 す 内 容 も 次 々 に 変 わ り 、 関 連 性 が 乏 し い 話 題 に 移 っ て い く 。 5) 注 意 の 散 漫:容 易 に 注 意 が 逸 れ 、他 の 事 象 に 気 が と ら れ 、話 題 に 集 中 で き な い こ と が 起 こ る 。 6) 目 標 指 向 性 の あ る 行 動 が 高 ま る 、 あ る い は 精 神 運 動 性 の 焦 燥 : 対 人 面 を 中 心 と し て 、性 的 、職 業 的 、宗 教 的 、政 治 的 な 目 的 を も っ た 計 画 や 行 動 が 増 加 す る 。時 に 、足 踏 み を 頻 回 に す る 、手 を よ じ る な ど 、内 的 な 緊 張 感 と 連 動 し た 活 動 性 の 亢 進 を 呈 す る こ と が あ る 。 7) 困 難 な 結 果 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が 高 い 快 楽 的 活 動 に 熱 中 す る : 開 放 的 で 、
11 計 画 性 に 乏 し く 、 誇 大 的 な 気 分 に お り 、 浪 費 や 粗 暴 な 運 転 な ど へ の 無 分 別 な 行 動 に つ な が る 。 こ れ ら の 症 状 に よ っ て 、 本 人 の 本 来 持 っ て い る 社 会 的 機 能 が 損 な わ れ る 、 あ る い は 入 院 を 要 す る 、 妄 想 や 幻 覚 な ど の 精 神 病 性 の 症 状 を 呈 す る と い っ た 状 態 が 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 診 断 に 必 要 な 要 件 と な る 。 Table 1-1 DSM-IV-TR に お け る 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 診 断 基 準
( American Psychiatric Association ,2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003)
A . 気 分 が 異 常 か つ 持 続 的 に 高 揚 し 、 開 放 的 で 、 ま た は い ら だ た し い 、 い つ も と は 異 な っ た 期 間 が 、 少 な く と も 1 週 間 持 続 す る ( 入 院 治 療 が 必 要 な 場 合 は い か な る 期 間 で も よ い ) B . 気 分 の 障 害 の 期 間 中 、以 下 の 症 状 の う ち 3 つ( ま た は そ れ 以 上 )が 持 続 し て お り( 気 分 が 単 に い ら だ た し い 場 合 は 4 つ )、 は っ き り と 認 め ら れ る 程 度 に 存 在 し て い る 。 ( 1) 自 尊 心 の 肥 大 、 ま た は 誇 大 ( 2) 睡 眠 欲 求 の 減 少 ( 例 : 3 時 間 眠 っ た だ け で よ く 休 め た と 感 じ る ) ( 3) 普 段 よ り も 多 弁 で あ る か 、 喋 り 続 け よ う と す る 心 迫 ( 4) 観 念 奔 逸 、 ま た は い く つ も の 考 え が 競 い 合 っ て い る と い う 主 観 的 な 体 験 ( 5) 注 意 散 漫( す な わ ち 、注 意 が あ ま り に も 容 易 に 、重 要 で な い か ま た は 関 係 の な い 外 部 刺 激 に よ っ て 他 に 転 じ る ) ( 6) 目 標 志 向 性 の 活 動( 社 会 的 、職 場 ま た は 学 校 内 、性 的 の い ず れ か )の 増 加 、ま た は 精 神 運 動 性 の 焦 燥 ( 7) ま ず い 結 果 に な る 可 能 性 が 高 い 快 楽 的 活 動 に 熱 中 す る こ と( 例:制 御 の き か な い 買 い あ さ り 、 性 的 無 分 別 、 ま た は ば か げ た 商 売 へ の 投 資 な ど に 専 念 す る こ と ) C . 症 状 は 混 同 性 エ ピ ソ ー ド ( Table 1-4) の 基 準 を 満 た さ な い D . 気 分 の 障 害 は 、 職 業 的 機 能 や 日 常 の 社 会 活 動 ま た は 他 者 と の 人 間 関 係 に 著 し い 障 害 を 起 こ す ほ ど 、 ま た は 自 己 ま た は 他 者 を 傷 つ け る の を 防 ぐ た め 入 院 が 必 要 で あ る ほ ど 重 篤 か 、 ま た は 精 神 病 性 の 特 徴 が 存 在 す る 。 E . 症 状 は 物 質( 例:乱 用 薬 物 、投 薬 、あ る い は 他 の 治 療 )の 直 接 的 な 生 理 学 的 作 用 、ま た は 一 般 身 体 疾 患 ( 例 : 甲 状 腺 機 能 亢 進 症 ) に よ る も の で は な い 注 :身 体 的 な 抗 う つ 治 療( 例 :投 薬 、電 気 け い れ ん 療 法 、光 療 法 )に よ っ て 明 ら か に 引 き 起 こ さ れ た 躁 病 様 の エ ピ ソ ー ド は 、 双 極 Ⅰ 型 障 害 の 診 断 に あ た る も の と す る べ き で は な い 。
12 6.2 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド 躁 病 エ ピ ソ ー ド と 基 本 症 状 を 含 む 症 状 項 目 は 同 一 だ が 、 期 間 が 最 短 4 日 間 で よ く 、 重 篤 さ も 社 会 生 活 上 大 き な 支 障 を き た さ な い 程 度 、 あ る い は 入 院 治 療 を し な い 程 度 と 定 義 さ れ て い る ( Table 1-2)。 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド で は 、 睡 眠 時 間 が 減 少 し て も 比 較 的 元 気 で あ り 、 機 嫌 が よ く 、 友 人 と の 交 流 も 活 発 で 、 本 人 に と っ て は 調 子 が 良 い と し か 感 じ ら れ な い 。 激 し く 怒 っ た り す る こ と が 少 な く 、 何 の 問 題 も な い よ う に 見 え る が 、 本 人 を よ く 知 っ て い る 人 か ら 見 る と 、「 い つ も と 違 う 」と 気 付 く 場 合 が あ る 。軽 躁 は 、躁 病 エ ピ ソ ー ド ほ ど 思 考 の 転 導 性 が 強 く な く 、 ま と ま っ た 作 業 が 遂 行 で き る こ と や 、 自 我 親 和 的 で あ る た め 、 本 人 の み な ら ず 周 囲 で す ら 病 的 と 認 め な い こ と も 多 く 、 存 在 を 見 出 す こ と が 困 難 で あ る (加 藤 , 2011; Manning, 2002)。
13 Table 1-2
DSM-IV-TR に お け る 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 診 断 基 準
( American Psychiatric Association ,2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003)
A . 持 続 的 に 高 揚 し た 、 開 放 的 な 、 ま た は い ら だ た し い 気 分 が 、 少 な く と も 4 日 間 続 く は っ き り と し た 期 間 が あ り 、 そ れ は 抑 う つ の な い 通 常 の 気 分 と は 明 ら か に 異 な っ て い る 。 B . 気 分 の 障 害 の 期 間 中 、以 下 の 症 状 の う ち 3 つ( ま た は そ れ 以 上 )が 持 続 し て お り( 気 分 が 単 に い ら だ た し い 場 合 は 4 つ )、 は っ き り と 認 め ら れ る 程 度 に 存 在 し て い る 。 (1 ) 自 尊 心 の 肥 大 、 ま た は 誇 大 ( 2) 睡 眠 欲 求 の 減 少 ( 例 : 3 時 間 眠 っ た だ け で よ く 休 め た と 感 じ る ) ( 3) 普 段 よ り も 多 弁 で あ る か 、 喋 り 続 け よ う と す る 心 迫 ( 4) 観 念 奔 逸 、 ま た は い く つ も の 考 え が 競 い 合 っ て い る と い う 主 観 的 な 体 験 ( 5) 注 意 散 漫( す な わ ち 、注 意 が あ ま り に も 容 易 に 、重 要 で な い か ま た は 関 係 の な い 外 部 刺 激 に よ っ て 他 に 転 じ る ) ( 6) 目 標 志 向 性 の 活 動( 社 会 的 、職 場 ま た は 学 校 内 、性 的 の い ず れ か )の 増 加 、ま た は 精 神 運 動 性 の 焦 燥 ( 7) ま ず い 結 果 に な る 可 能 性 が 高 い 快 楽 的 活 動 に 熱 中 す る こ と( 例:制 御 の き か な い 買 い あ さ り 、 性 的 無 分 別 、 ま た は ば か げ た 商 売 へ の 投 資 な ど に 専 念 す る こ と ) C . エ ピ ソ ー ド に は 、 そ の 人 が 症 状 の な い と き の 特 徴 と は 異 な る 明 確 な 機 能 障 害 が 随 伴 す る D . 気 分 の 障 害 や 機 能 の 変 化 は 、 他 者 か ら 観 察 可 能 で あ る E . エ ピ ソ ー ド は 、 社 会 的 ま た は 職 業 的 機 能 に 著 し い 障 害 を 起 こ す ほ ど 、 ま た は 入 院 が 必 要 と す る ほ ど 重 篤 で は な く 、 精 神 病 性 の 特 徴 は 存 在 し な い 。 F . 症 状 は 物 質 ( 例 : 乱 用 薬 物 、 投 薬 、 あ る い は 他 の 治 療 ) の 直 接 的 な 生 理 学 的 作 用 ま た は 一 般 身 体 疾 患 ( 例 : 甲 状 腺 機 能 亢 進 症 ) に よ る も の で は な い 注 :身 体 的 な 抗 う つ 治 療( 例 :投 薬 、電 気 け い れ ん 療 法 、光 療 法 )に よ っ て 明 ら か に 引 き 起 こ さ れ た 軽 躁 病 様 の エ ピ ソ ー ド は 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 診 断 に あ た る も の と す る べ き で は な い 。 6.3 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド の 基 本 症 状 は 、 抑 う つ 気 分 と 、 何 に 関 し て も 興 味 ・ 関 心 や 楽 し さ が 感 じ ら れ な く な っ て し ま う 状 態 の 2 つ で あ る 。 こ の う ち ど ち ら か 1 つ は 存 在 す る 上 で 、 他 の 症 状 と 併 せ て 5 個 以 上 に 存 在 す る こ と が 必 要 で あ る 。 症 状 の 持 続 期 間 と し て は 2 週 間 以 上 に 持 続 す る こ と が 求 め ら れ る( Table 1-3)。 1) 抑 う つ 気 分:患 者 の 表 現 と し て は 、「 気 が 滅 入 る 」、「 気 分 が 落 ち 込 む 」「 憂 う
14 つ 」「 悲 し い 」「 希 望 が も て な い 」「 さ び し い 」「 む な し い 」「 く よ く よ 考 え 込 む 」と い っ た 言 葉 で 表 現 さ れ る 。暗 く 沈 ん だ 表 情 、単 調 で 力 の な い 口 調 、う つ む き が ち な 姿 勢 、 涙 も ろ さ 、 と い っ た 周 囲 か ら 観 察 で き る 形 で 表 現 さ れ る 場 合 も あ る 。 2) 興 味・関 心 や 喜 び の 喪 失:趣 味 や 娯 楽 な ど 、そ れ ま で 関 心 を 持 っ て い た こ と に 全 く 興 味 が も て な く な り 、 楽 し く も 感 じ ら れ な い 。 新 聞 や テ レ ビ へ の 関 心 も 薄 れ 、 仕 事 や 学 業 に も 関 心 が 乏 し く な る 。 3) 体 重 あ る い は 食 欲 の 変 化:食 欲 の 低 下 は 、食 事 へ の 興 味・関 心 の 喪 失 に 類 似 し た 訴 え に な る こ と が 多 い 。 食 欲 の 低 下 か ら 体 重 減 少 に 至 る 場 合 が あ る 。 時 に 、 食 欲 が 亢 進 し て 、 体 重 が 増 加 す る 場 合 が あ る 。 4) 睡 眠 の 変 化 : 不 眠 の 訴 え は 頻 度 が 高 く 、「 寝 つ き が 悪 い 」「 途 中 で 目 が 覚 め て 、寝 つ く こ と が で き な い 」「 朝 早 く 目 が 覚 め て し ま う 」の い ず れ も 起 こ り 得 る 。過 眠 を 呈 す る 場 合 も あ る が 、熟 眠 感 の 欠 如 が 背 景 に あ る こ と が 多 い 。 5) 精 神 運 動 性 の 焦 燥 も し く は 抑 制 : 精 神 運 動 性 の 焦 燥 と は 、 内 的 な 緊 張 と 連 動 し た 活 動 性 の 亢 進 、 例 え ば 足 踏 み を 頻 回 に す る 、 手 を お す る な ど の 状 態 を 呈 す る 。精 神 運 動 性 の 抑 制 は 、周 囲 か ら み て 動 き が 減 り 、会 話 も 少 な く な る と い っ た 状 態 で あ る 。こ の 項 目 だ け は 、他 者 か ら 観 察 可 能 な 状 態 で あ り 、 本 人 の 主 観 に 基 づ く 症 状 で は な い 。 6) 疲 労 感 ま た は 気 力 の 減 退:「 疲 れ や す い 」「 億 劫 」「 や る 気 が 出 な い 」「 気 力 が わ か な い 」 と い っ た 表 現 を と る こ と が 多 い 。 7) 無 価 値 観 あ る い は 自 責 感:自 己 評 価 が 極 端 に 下 が り 、「 自 分 は 役 立 た ず の 人 間 だ 」と い っ た 捉 え 方 を し 、「 皆 に 申 し 訳 な い 」と の 考 え を 生 じ が ち で あ る 。 8) 思 考 力 や 集 中 力 の 減 退 あ る い は 決 断 困 難 :「 考 え が 進 ま な い 」「 決 め ら れ な い 」と い っ た 訴 え が 生 じ る 。考 え が 円 滑 に 進 ま ず 、注 意 を 集 中 で き な い と 感 じ ら れ る 。 迷 い が 生 じ て 決 断 が 困 難 と な る 。
15 9) 自 殺 念 慮 、自 殺 企 図:「 役 立 た ず の 自 分 な ど こ の 世 に い な い よ う が 良 い 」「 迷 惑 を か け て 申 し 訳 な い の で 、 消 え て な く な り た い 」 と い っ た 自 殺 念 慮 が 生 じ る 場 合 が あ る 。 自 殺 念 慮 か ら 、 自 殺 行 為 に つ な が る 可 能 性 が あ る 。 Table 1-3 DSM-IV-TR に お け る 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド の 診 断 基 準
( American Psychiatric Association ,2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003)
A . 以 下 の 症 状 の う ち 5 つ ( ま た は そ れ 以 上 ) が 同 じ 2 週 間 の 間 に 存 在 し 、 病 前 の 機 能 か ら の 変 化 を 起 こ し て い る 。こ れ ら の 症 状 の う ち 少 な く と も 1 つ は 、(1)抑 う つ 気 分 、 あ る い は (2)興 味 ま た は 喜 び の 喪 失 で あ る 。 注 : 明 ら か に 一 般 身 体 疾 患 、 ま た は 気 分 に 一 致 し な い 妄 想 ま た は 幻 覚 に よ る 症 状 は 含 ま な い 。 (1 ) そ の 人 自 身 の 言 明( 例 : 悲 し み ま た は 空 虚 感 を 感 じ る )か 、他 者 の 観 察( 例 : 涙 を 流 し て い る よ う に 見 え る )に よ っ て 示 さ れ る 、ほ と ん ど 1 日 中 、ほ と ん ど 毎 日 の 抑 う つ 気 分 。 注 : 小 児 や 青 年 で は い ら だ た し い 気 分 も あ り う る 。 (2 ) ほ と ん ど 1 日 中 、ほ と ん ど 毎 日 の 、す べ て 、ま た は ほ と ん ど す べ て の 活 動 に お け る 興 味 、喜 び の 著 し い 減 退( そ の 人 の 言 明 、ま た は 他 者 の 観 察 に よ っ て 示 さ れ る ) ( 3) 食 事 療 法 を し て い な い の に 、著 し い 体 重 減 少 、あ る い は 体 重 増 加( 例:1 か 月 で 体 重 の 5% 以 上 の 変 化 )、 ま た は ほ と ん ど 毎 日 の 、 食 欲 の 減 退 ま た は 増 加 ( 4) ほ と ん ど 毎 日 の 不 眠 ま た は 過 剰 睡 眠 ( 5) ほ と ん ど 毎 日 の 精 神 運 動 性 の 焦 燥 ま た は 抑 止( 他 者 に よ っ て 観 察 可 能 で 、た だ 単 に 落 ち 着 き が な い と か 、 の ろ く な っ た と い う 主 観 的 感 覚 で は な い も の ) ( 6) ほ と ん ど 毎 日 の 疲 労 感 ま た は 気 分 の 減 退 ( 7) ほ と ん ど 毎 日 の 無 価 値 感 、ま た は 過 剰 で あ る か 不 適 切 な 罪 責 感( 妄 想 的 で あ る こ と も あ る 。 単 に 自 分 を と が め た り 、 病 気 に な っ た こ と に 対 す る 罪 の 意 識 で は な い ) ( 8) 思 考 力 や 集 中 力 の 減 退 、ま た は 、決 断 困 難 が ほ と ん ど 毎 日 認 め ら れ る( そ の 人 自 身 の 言 明 に よ る 、 ま た は 他 者 に よ っ て 観 察 さ れ る ) ( 9) 死 に つ い て の 反 復 思 考 ( 死 の 恐 怖 だ け で は な い )、 特 別 な 計 画 は な い が 反 復 的 な 自 殺 念 慮 、 ま た は 自 殺 企 図 、 ま た は 自 殺 す る た め の は っ き り し た 計 画 B . 症 状 は 混 合 性 エ ピ ソ ー ド ( Table 1-4) の 基 準 を 満 た さ な い C . 症 状 は 、 臨 床 的 に 著 し い 苦 痛 、 ま た は 社 会 的 、 職 業 的 、 ま た は 他 の 重 要 な 領 域 に お け る 機 能 の 障 害 を 引 き 起 こ し て い る 。 D . 症 状 は 、 物 質( 例 : 乱 用 薬 物 、投 薬 、あ る い は 他 の 治 療 )の 直 接 的 な 生 理 学 的 作 用 、 ま た は 一 般 身 体 疾 患 ( 例 : 甲 状 腺 機 能 亢 進 症 ) に よ る も の で は な い 。 E . 症 状 は 死 別 反 応 で は う ま く 説 明 さ れ な い 。 す な わ ち 、 愛 す る 者 を 失 っ た 後 、 症 状 が 2 か 月 を 超 え て 続 く か 、 ま た は 、 著 明 な 機 能 不 全 、 無 価 値 感 へ の 病 的 な と ら わ れ 、 自 殺 念 慮 、 精 神 病 性 の 症 状 、 精 神 運 動 制 止 が あ る こ と で 特 徴 づ け ら れ る
16 6.4 混 合 性 エ ピ ソ ー ド 混 合 性 エ ピ ソ ー ド は 、 最 低 1 週 間 ほ と ん ど 毎 日 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 基 準 と 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド の 基 準 を 両 方 す べ て 満 た す こ と と 定 義 さ れ て い る ( Table 1-4)。 例 え ば 気 分 は 落 ち 込 ん だ り 不 安 が 強 い の に 頭 の 中 で は 色 々 と 考 え て じ っ と し て い ら れ な い と い う 状 態 で あ っ た り 、 行 動 は 活 発 で 話 し 続 け て い る の に 、 気 分 は 死 に た く な る く ら い 憂 う つ だ と い う よ う な 状 態 を 示 す 。 ま た 、 気 分 の 障 害 は 職 業 的 機 能 や 日 常 活 動 、 対 人 関 係 に 著 し い 障 害 を 起 こ す ほ ど 重 篤 で あ る こ と が 定 義 と し て 求 め ら れ る 。
な お 、DSM-5( American Psychiatric Association,2013 高 橋・大 野 監 訳 ,2014) で は 混 合 性 エ ピ ソ ー ド は 廃 止 さ れ 、 気 分 エ ピ ソ ー ド に 対 し て 「 混 合 性 の 特 徴 を 伴 う 」 と い う 特 定 項 目 を 付 与 す る こ と と な っ た 。 こ の 特 徴 の 有 無 を 診 断 す る 基 準 は 、 抑 う つ エ ピ ソ ー ド と 躁 病 、 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド で は 異 な っ て い る 。 い ず れ の 基 準 も DSM-IV-TR に お い て 混 合 性 エ ピ ソ ー ド の 診 断 に 際 し て 要 求 さ れ た 基 準 に 比 べ る と 緩 和 さ れ て い る 。 こ の 変 更 は 、 混 合 性 エ ピ ソ ー ド の 診 断 基 準 が 厳 し す ぎ た な ど の 問 題 点 へ の 対 応 で あ り 、診 断 が よ り 現 実 に 即 し た も の と な っ た (川 崎 ,2013)。 Table 1-4. DSM-IV-TR に お け る 混 合 性 エ ピ ソ ー ド の 診 断 基 準
( American Psychiatric Association ,2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003)
A . 少 な く と も 1 週 間 の 間 ほ と ん ど 毎 日 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド ( 表 1 ) の 基 準 と 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド ( 表 3 ) の 基 準 を ( 期 間 を 除 い て ) と も に 満 た す 。 B . 気 分 の 障 害 は 、 職 業 的 機 能 や 日 常 の 社 会 活 動 ま た は 他 者 と の 人 間 関 係 に 著 し い 障 害 を 起 こ す ほ ど 、 ま た は 自 己 ま た は 他 者 を 傷 つ け る の を 防 ぐ た め 入 院 が 必 要 で あ る ほ ど 重 篤 で あ る か 、 ま た は 精 神 病 性 の 特 徴 が 存 在 す る 。 C . 症 状 は 物 質( 例:乱 用 薬 物 、投 薬 、あ る い は 他 の 治 療 )の 直 接 的 な 生 理 学 的 作 用 、ま た は 一 般 身 体 疾 患 ( 例 : 甲 状 腺 機 能 亢 進 症 ) に よ る も の で は な い 注 :身 体 的 な 抗 う つ 治 療( 例 :投 薬 、電 気 け い れ ん 療 法 、光 療 法 )に よ っ て 明 ら か に 引 き 起 こ さ れ た 混 合 性 様 の エ ピ ソ ー ド は 、 双 極 I 型 障 害 の 診 断 に あ た る も の と す る べ き で は な い 。
17 7. 診 断 分 類
DSM-IV-TR で は 、 前 述 し た 気 分 エ ピ ソ ー ド の 組 み 合 わ せ に よ っ て 、 疾 患 が 診 断 さ れ る( American Psychiatric Association,2000 高 橋・大 野 監 訳 ,2003)。
1 回 以 上 の 躁 病 エ ピ ソ ー ド ま た は 混 合 性 エ ピ ソ ー ド が あ る 場 合 は 双 極 Ⅰ 型 障 害 、 1 回 以 上 の う つ 病 エ ピ ソ ー ド と 1 回 以 上 の 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド が あ り 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド や 混 合 性 エ ピ ソ ー ド が な い 場 合 は 双 極 Ⅱ 型 障 害 と 定 義 さ れ る 。 す な わ ち 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド が あ る 場 合 は 双 極 Ⅰ 型 障 害 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド が な く 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド が あ る 場 合 は 双 極 Ⅱ 型 障 害 と 診 断 さ れ る こ と に な る 。 7.1 双 極 I 型 障 害
前 述 の と お り 、 DSM-IV-TR の 診 断 基 準 ( American Psychiatric Association,2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003) で は 1 回 以 上 の 躁 病 エ ピ ソ ー ド が あ れ ば 双 極 Ⅰ 型 障 害 と 診 断 さ れ る 。 躁 病 エ ピ ソ ー ド に は 、 気 分 の 異 常 か つ 持 続 的 な 高 揚 し 、 開 放 的 で 、 い つ も と は 異 な っ た 期 間 が 一 週 間 以 上 持 続 し 、 社 会 的 ま た は 職 業 的 機 能 の 著 し い 障 害 を 引 き 起 こ し て い る と い う 定 義 が あ る 。 そ の た め 、た っ た 1 回 の 躁 病 エ ピ ソ ー ド の み で も 、失 職 、離 婚 、退 学 な ど 社 会 生 活 上 、 大 き な 傷 跡 を 残 す こ と も あ る 。 そ れ に 加 え 、 気 分 エ ピ ソ ー ド を 繰 り 返 す こ と に よ っ て 、 次 第 に 社 会 的 烙 印 、 自 己 評 価 の 低 下 、 社 会 的 地 位 の 剥 奪 、 有 意 義 な 人 間 関 係 の 喪 失 な ど 、様 々 な 要 因 に よ り 社 会 生 活 水 準 が 低 下 し て い く (加 藤 ,2011)。 7.2 双 極 Ⅱ 型 障 害 前 述 の と お り 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 は 、 1 回 以 上 の 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド と 1 回 以 上 の う つ 病 エ ピ ソ ー ド を 呈 し 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド が な い 場 合 と 定 義 さ れ る ( American Psychiatric Association,2000 高 橋 ・ 大 野 監 訳 , 2003)。 双 極 Ⅱ 型 障 害 は 、1994 年 に 発 表 さ れ た DSM 第 4 版 (DSM-Ⅳ )で 初 め て 双 極 性 障 害 の 下 位 分 類 と し て 採 用 さ れ た 比 較 的 新 し い 診 断 名 で あ る 。 診 断 上 に お け る 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 最 大 の 問 題 点 は 、 軽 躁 状 態 の わ か り に く さ で あ る 。 軽 躁 は 社 会 生
18 活 上 大 き な 支 障 を 来 さ な い 程 度 の 躁 状 態 で あ る た め 、 厳 密 に 特 定 す る こ と が 容 易 で は な い 。 さ ら に 、 う つ 状 態 が 受 診 の 契 機 と な り や す い の に 比 べ て 、 軽 躁 は 自 我 親 和 的 で 、 本 人 の み な ら ず 周 囲 さ え も 病 的 と は 認 め な い こ と が 多 い と 考 え ら れ て い る (白 川 , 2008)。 実 際 に 、 双 極 Ⅱ 型 患 者 は Ⅰ 型 患 者 と 比 較 し て 病 識 が 低 く 、 疾 患 が 社 会 的 に 及 ぼ す 影 響 へ の 認 識 も 乏 し い こ と が 示 さ れ て い る ( Pallanti et al., 1999)。 こ の よ う に 、 軽 躁 状 態 の 特 定 が 困 難 で あ る た め 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 存 在 は 見 過 ご さ れ が ち で あ る 。 初 診 時 に 双 極 性 障 害 の 37%が う つ 病 と 診 断 さ れ て い た と 報 告 が あ り (Ghaemi, Boiman, & Goodwin, 2000)、 適 切 な 治 療 を 受 け て い た 双 極 Ⅱ 型 障 害 患 者 は 15.4%の み で あ っ た と も 報 告 さ れ て い る (Merikangas et al.,2007)。ま た 、初 発 症 状 か ら 診 断 に 至 る ま で の 長 さ は 、 約 20 年 要 す る と の 報 告 ( Scott et al., 2015)も あ り 、い ず れ も 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 診 断 に お け る 困 難 さ を 表 し て い る 。 ま た 、 軽 躁 状 態 が 及 ぼ す 社 会 的 な 影 響 が 正 し く 認 識 さ れ て い な い こ と も 臨 床 上 の 大 き な 問 題 と 言 え る 。 双 極 Ⅱ 型 障 害 が 経 験 す る 生 涯 の エ ピ ソ ー ド 数 は 、 う つ 病 や 双 極 Ⅰ 型 障 害 よ り も 双 極 Ⅱ 型 障 害 で 多 い 傾 向 が あ る こ と (Dell'Osso et al., 2015)、 双 極 Ⅱ 型 障 害 患 者 の 1/3 で は 生 涯 に お い て 何 ら か の 自 殺 企 図 歴 が 認 め ら れ 、そ の 割 合 は 双 極 Ⅰ 型 障 害 と 類 似 す る こ と が 報 告 さ れ て い る( Novick, Swartz,& Frank,2010)。 さ ら に 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 患 者 は 双 極 Ⅰ 型 障 害 と 類 似 し た 認 知 機 能 障 害 を 示 し 、 特 に 職 業 的 困 難 に 影 響 を 与 え る こ と が 明 ら か と な っ て い る (Rosa et al., 2010)。こ の よ う に 、双 極 Ⅱ 型 患 者 に お け る 社 会 的 な 影 響 は 決 し て 無 視 さ れ る べ き で は な い こ と が 、 最 近 の 研 究 で 明 ら か と な っ て い る 。 8. 経 過 ・ 予 後 双 極 性 障 害 は 慢 性 の 経 過 を 経 る こ と が 多 く 、 気 分 エ ピ ソ ー ド が 一 度 し か な い と い う 場 合 は 稀 で あ る (野 村 ・ 樋 口 , 2015)。 一 生 の う ち 、 再 発 を 繰 り 返 す 症 例
19 が 90%以 上 を 占 め 、気 分 エ ピ ソ ー ド の 回 数 は 2 か ら 30 回 と 幅 広 い が 、平 均 は 約 9 回 と さ れ て い る 。ま た 、双 極 性 障 害 の 約 10 か ら 20% は 、年 に 4 回 以 上 も 気 分 エ ピ ソ ー ド を 繰 り 返 す 急 速 交 代 型 を 示 す 。 治 療 を 受 け な か っ た 場 合 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド は 約 2 か ら 3 か 月 続 き 、 軽 躁 エ ピ ソ ー ド や 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド は 6 か 月 以 上 続 く こ と も あ る (野 村・樋 口 ,2015)。 長 期 経 過 観 察 に よ る と 、 双 極 Ⅰ 型 障 害 の 場 合 で 1/3、 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 場 合 で は 約 半 数 の 期 間 を 、大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド で 過 ご す こ と が 報 告 さ れ て い る( Judd et al., 2002; Judd et al., 2003)。
ま た 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド で は 問 題 行 動 に よ る 失 職 や 借 金 な ど の 社 会 的 問 題 、 う つ 状 態 で は 長 期 に わ た る 業 務 遂 行 能 力 の 欠 如 が 懸 念 さ れ る 。 米 国 で の 双 極 障 害 患 者 の 平 均 失 業 率 の 6 倍 で あ っ た と の 報 告 が あ る (Kogan et al.,2004)。 対 人 関 係 上 の 心 理 社 会 的 問 題 を 抱 え る 割 合 も 80%と 高 く 、 家 族 や 友 人 と の 対 人 葛 藤 が 68%、結 婚 生 活 上 の 困 難 が 49%に 報 告 さ れ て い る (Hirschfeld,Lewis, & Vornik, 2003)。さ ら に 、家 族 が 感 じ る 負 担 も 大 き く 、双 極 性 障 害 を も つ 家 族 226 人 の 調 査 で は 、 家 族 の 9 割 以 上 が 患 者 の 問 題 行 動 に 苦 し ん で い る と い う デ ー タ が あ る (Perlick et al.,1999)。双 極 性 障 害 に よ る 社 会 機 能 の 障 害 は 、高 血 圧 や 糖 尿 病 と い っ た 疾 患 と 比 べ て も 重 篤 で あ り (Stewart et al.,1989)、 2016 年 に WHO が 発 表 し た 疾 患 の 障 害 に よ り 失 わ れ る 年 数 ( years lived with disability;YLD) で も 双 極 性 障 害 は 21 位 に ラ ン ク さ れ て お り (GBD 2015 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators , 2016)、 こ の 疾 患 が 及 ぼ す 社 会 的 な 損 失 は 考 慮 さ れ る べ き で あ る 。
双 極 性 障 害 患 者 の 社 会 機 能 は 薬 物 治 療 の み で は 充 分 に 改 善 し な い 可 能 性 が あ る 。 そ こ で 、 丹 治 ・ 原 田 ・ 藤 越 ・ 植 田 ・ 片 桐 (2016)は 、 抗 精 神 病 薬 投 与 を 開 始 し た 双 極 性 障 害 患 者 445 例 の 気 分 症 状 と Global Assessment of Functioning ( GAF) 尺 度 を 用 い た 機 能 の 全 体 的 評 価 を 48 週 間 に わ た っ て 評 価 し た 。 試 験 開
20 始 時 の GAF 評 価 で は 機 能 に 重 大 な 障 害 を 抱 え て い る 状 況 が 明 ら か と な り 、 試 験 開 始 後 に は 機 能 の 改 善 傾 向 は 認 め ら れ た も の の 、 い く ら か の 困 難 が 残 さ れ る レ ベ ル に と ど ま っ た 。 し た が っ て 、 双 極 性 障 害 患 者 に お け る 治 療 目 標 を 十 分 な 機 能 レ ベ ル の 回 復 と す る た め に は 、 薬 物 療 法 に 精 神 療 法 な ど 別 の 治 療 ア プ ロ ー チ を 組 み 入 れ る こ と が 求 め ら れ る 。 9. 治 療 双 極 性 障 害 の 治 療 は 、 患 者 の 安 全 性 が 確 保 さ れ る こ と 、 診 断 評 価 が な さ れ る こ と 、 現 在 の 症 状 だ け で な く 予 後 ま で 考 慮 し た も の で あ る 必 要 が あ る (Sadock et al., 2015 井 上 監 修 ,2016)。最 初 に 判 断 が 必 要 と な る と な る の は 、入 院 の う え 治 療 す る か 外 来 治 療 と す る か と い う 点 で あ る 。 入 院 治 療 の 適 応 と な る の は 自 殺 や 殺 人 の リ ス ク が あ る 場 合 、 十 分 な 食 事 や 休 養 が 取 れ な い 場 合 、 ま た は 診 断 を 行 う た め に 入 院 が 必 要 な 場 合 で あ る (Sadock et al., 2015 井 上 監 修 ,2016)。 ま た 、 患 者 の 周 囲 は 躁 病 エ ピ ソ ー ド の み を 、 本 人 は 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド の み を 加 療 の 対 象 と 考 え 、 各 エ ピ ソ ー ド へ の 対 応 だ け を 期 待 す る が 、 疾 患 経 過 を 重 視 し た 治 療 目 標 を 立 て る こ と が 重 要 で あ る (野 村 ・ 樋 口 , 2015)。 双 極 性 障 害 の 治 療 は 、薬 物 療 法 が 中 心 と な る( 日 本 う つ 病 学 会 ,2012)。し か し 、 双 極 性 障 害 は 再 発 率 が 高 く 、 慢 性 の 経 過 を 経 る こ と が 多 い た め 、 心 理 学 的 ア プ ロ ー チ に よ る 精 神 療 法 を 通 じ て 患 者 や 患 者 家 族 に 対 し 、 疾 患 に 関 す る 理 解 を 促 し 、 薬 物 療 法 の 重 要 性 を 熟 知 し て も ら う こ と が 肝 要 で あ る ( 日 本 う つ 病 学 会 , 2012; 野 村 ・ 樋 口 , 2015)。 9.1 薬 物 療 法 薬 物 療 法 は 、 急 性 期 治 療 と 維 持 療 法 に 分 け ら れ る 。 ま た 、 患 者 が 呈 し て い る 状 態 が 躁 病 エ ピ ソ ー ド か 、 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド か に よ っ て 異 な っ た 戦 略 が 必 要 と な る 。
21 躁 病 エ ピ ソ ー ド 単 剤 で 有 効 性 が 示 さ れ て い る 薬 剤 は 、 リ チ ウ ム 、 バ ル プ ロ 酸 、 カ ル バ マ ゼ ピ ン と い っ た 気 分 安 定 薬 、 オ ラ ン ザ ピ ン 、 ア リ ピ プ ラ ゾ ー ル 、 ク エ チ ア ピ ン 、 リ ス ペ リ ド ン な ど の 抗 精 神 病 薬 が あ り 、 有 効 性 の 点 で は 遜 色 の な い 多 く の 選 択 肢 が あ る (加 藤 , 2011; 日 本 う つ 病 学 会 , 2012)。 日 本 う つ 病 学 会 の 治 療 ガ イ ド ラ イ ン に よ る と 、 軽 症 の 場 合 に は リ チ ウ ム 、 不 機 嫌 や 易 怒 性 等 を 認 め る 中 等 度 以 上 の ケ ー ス で は 、 リ チ ウ ム と 抗 精 神 病 薬 を 組 み 合 わ せ て 治 療 を 開 始 す る と さ れ て い る ( 日 本 う つ 病 学 会 , 2012)。 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 治 療 に 関 し て 、 治 療 ガ イ ド ラ イ ン で は ほ と ん ど 記 載 が な く 、躁 病 エ ピ ソ ー ド の 治 療 方 法 に 準 じ ざ る を 得 な い 現 状 で あ る 。近 年 の 研 究 で 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 は 臨 床 的 特 徴 お よ び 生 物 学 的 な 観 点 か ら 双 極 Ⅰ 型 障 害 と は 異 な る 病 態 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る に も 関 わ ら ず 、 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 軽 躁 病 エ ピ ソ ー ド の 治 療 に 関 す る 明 確 な エ ビ デ ン ス は 限 定 的 で あ る( 日 本 う つ 病 学 会 ,2012)。 こ の よ う な 現 状 を 鑑 み 、 丹 治 ・ 片 桐 ・ 竹 綱 ・ 植 田 ・ 山 田 (2016)は 双 極 性 障 害 を 対 象 と し た 抗 精 神 病 薬 の 1 年 間 に 及 ぶ 観 察 研 究 を 用 い 、 部 分 集 団 解 析 を 行 う こ と に よ っ て 双 極 Ⅱ 型 障 害 に お け る 抗 精 神 病 薬 の 安 全 性 ・ 有 効 性 を 検 討 し た 。 こ の よ う に 、 近 年 で は 双 極 Ⅱ 型 障 害 の 治 療 に 関 す る エ ビ デ ン ス の 少 な さ に 注 目 が 集 ま り 、 徐 々 に 研 究 結 果 が 報 告 さ れ 始 め て い る 。 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド 大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド の 薬 物 治 療 は 、 躁 病 エ ピ ソ ー ド と 比 較 す る と 効 果 は 限 定 的 で あ る (鷲 塚・加 藤 ,2012)。日 本 う つ 病 学 会 の 治 療 ガ イ ド ラ イ ン (2012)で は 、 ク エ チ ア ピ ン 、 リ チ ウ ム 、 オ ラ ン ザ ピ ン 、 ラ モ ト リ ギ ン に よ る 単 独 治 療 は い ず れ も 推 奨 さ れ る 治 療 で あ る と さ れ て い る も の の 、 実 際 に は 単 剤 で の 治 療 に は 限 界 が あ る 場 合 も 少 な く な い ( 鈴 木 ,2008)。 ま た 、 抗 う つ 薬 の 使 用 は 、 躁 転 の 危
22 険 や 、 急 速 交 代 化 の リ ス ク が 指 摘 さ れ て お り 、 現 時 点 の エ ビ デ ン ス か ら は 推 奨 さ れ な い 治 療 方 法 で あ る と さ れ て い る ( 日 本 う つ 病 学 会 ,2012)。 維 持 療 法 双 極 性 障 害 の 再 発 率 が 高 い 点 を 考 慮 す る と 、 維 持 療 法 は 必 須 で あ る 。 維 持 期 の 薬 物 治 療 と し て は 、リ チ ウ ム が 最 も 推 奨 さ れ て い る( 日 本 う つ 病 学 会 ,2012)。 し か し 、大 う つ 病 エ ピ ソ ー ド と 同 様 に 薬 物 療 法 の 効 果 は 限 定 的 で あ り (鷲 塚・加 藤 ,2012)、薬 物 治 療 の 継 続 維 持 に は 、心 理 社 会 的 治 療 が 重 要 で あ る と さ れ る( 日 本 う つ 病 学 会 ,2012)。 9.2 精 神 療 法 双 極 性 障 害 の 再 発 予 防 に 推 奨 さ れ る 治 療 法 と し て は 、 薬 物 療 法 と の 併 用 下 に お け る 精 神 療 法 と し て 、 心 理 教 育 、 対 人 関 係 - 社 会 リ ズ ム 療 法 、 家 族 療 法 が 挙 げ ら れ て い る ( 日 本 う つ 病 学 会 ,2012)。 各 精 神 療 法 の 有 効 性 に つ い て は 、 第 2 節 双 極 性 障 害 に お け る 臨 床 上 の 課 題 、 2.精 神 療 法 の 項 で 説 明 す る 。
第 2節 双 極 性 障 害 に お け る 臨 床 上 の 課 題
1. 疾 患 認 知 度 双 極 性 障 害 の 認 知 度 に 関 す る 十 分 な 調 査 は な く 、そ の 実 態 は 明 ら か で は な い 。 一 般 住 民 を 対 象 と し た 唯 一 の 国 内 調 査 研 究 で そ の 認 知 度 は 他 の 精 神 疾 患 と 比 べ て 低 い こ と が 示 さ れ て い る ( 片 桐 ・ 中 根 ,2013)が 、若 年 者 で の 検 討 は 行 わ れ て い な い 。 双 極 性 障 害 の 多 く は 若 年 発 症 で あ り 、 若 年 層 で の 疾 患 認 知 度 が い ま だ 不 明 で あ る こ と は 本 疾 患 の 治 療 を 考 え る 上 で 重 要 な 課 題 で あ る 。 1.1 精 神 疾 患 の 認 知 度 近 年 で は 、 う つ 病 な ど の 精 神 医 療 の 対 象 と な る 患 者 は 増 え て お り 、 精 神 疾 患 は よ り 一 般 的 な 病 気 と な っ て い る 。 実 際 に 精 神 疾 患 が ど の 程 度 認 知 さ れ て い る か に つ い て は 、 数 件 の 調 査 が 実 施 さ れ て い る 。23 平 成 20 年 度 厚 生 労 働 科 学 研 究 こ こ ろ の 健 康 科 学 研 究 事 業 「 思 春 期 精 神 病 理 の 疫 学 と 早 期 介 入 方 策 に 関 す る 研 究 」 の 結 果 で は 、 う つ 病 は 90%以 上 が 認 知 し さ れ て い た が 、 統 合 失 調 症 の 認 知 度 は 73%で あ っ た と 報 告 し て い る ( 岡 崎 ・ 西 田 ,2009)。東 京 都 が 行 っ た 調 査 で も 、う つ 病 や 認 知 症 の 認 知 度 は ほ ぼ 100%で あ る 一 方 、統 合 失 調 症 は 68.2%で あ っ た (東 京 都 生 活 文 化 局 広 報 広 聴 部,2013)。片 桐 ら の 調 査( 片 桐・中 根 ,2013)で も 、一 般 住 民 に お け る う つ 病 の 認 知 度 は 糖 尿 病 や 高 血 圧 と 同 程 度 に 極 め て 高 い が 、統 合 失 調 症 や ADHD、双 極 性 障 害 等 の 認 知 度 は 、 う つ 病 と 比 較 す る と 大 き な 開 き が あ っ た と し て い る 。 以 上 よ り 、 こ れ ま で の 調 査 で は う つ 病 に 比 べ 統 合 失 調 症 な ど の 他 の 精 神 疾 患 へ の 認 知 に は 遅 れ が 生 じ て い る こ と が 明 ら か と な っ て い る 。 1.2 双 極 性 障 害 の 認 知 度 前 述 の と お り 、う つ 病 の 認 知 度 に つ い て は い く つ か の 調 査 が 実 施 さ れ て い る 。 し か し 、 双 極 性 障 害 が ど の 程 度 認 知 さ れ て い る か は 十 分 な 調 査 が 行 わ れ て い な い 。 唯 一 、 前 述 し た 調 査 ( 片 桐 ・ 中 根 , 2013) で は 、 一 般 住 民 を 対 象 に 双 極 性 障 害 の 認 知 度 調 査 を 実 施 し て い る 。 そ の 結 果 、 双 極 性 障 害 に つ い て は 72.6%が 「 聞 い た こ と が な い 、 知 ら な い 」 と 回 答 し て お り 、 約 3/4 が 双 極 性 障 害 の 疾 患 名 す ら 認 知 し て い な い こ と が 明 ら か と な っ て い る 。 1.3 若 年 者 に お け る 精 神 疾 患 の 認 知 度 双 極 性 障 害 な ど い く つ か の 精 神 疾 患 は 、 多 く の 場 合 若 年 で 発 症 す る こ と が 明 ら か で あ る 。 し か し 、 若 年 者 に お け る 精 神 疾 患 の 認 知 度 調 査 は 数 少 な い 。 平 成 20 年 度 厚 生 労 働 科 学 研 究 こ こ ろ の 健 康 科 学 研 究 事 業 「 思 春 期 精 神 病 理 の 疫 学 と 早 期 介 入 方 策 に 関 す る 研 究 」 で は 、 中 学 生 、 高 校 生 、 大 学 生 、 小 中 学 生 保 護 者 に 分 け た 認 知 度 調 査 を 行 っ て お り 、 大 学 生 の う つ 病 、 摂 食 障 害 、 統 合 失 調 症 の 認 知 度 は 、 保 護 者 と 同 等 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る ( 岡 崎 ・ 西 田 , 2009)。し か し 、双 極 性 障 害 に 関 し て 、大 学 生 な ど の 若 年 層 に お け る 疾 患 認 知 度
24 は 調 査 さ れ て い な い 。
他 の 精 神 疾 患 と 同 様 に 、 双 極 性 障 害 の 多 く は 若 年 で の 発 症 が 多 く 、 前 述 の と お り 日 本 を 含 む 世 界 的 な 疫 学 調 査 で 発 症 年 齢 の 中 央 値 が 25 歳 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る (Anderson et al., 2012; Merikangas et al ., 2011) に も 関 わ ら ず 、 双 極 性 障 害 が 若 年 者 に ど の 程 度 認 知 さ れ て い る か の 調 査 は 実 施 さ れ て い な い 。 本 研 究 の 目 的 は 双 極 性 障 害 に お け る 心 理 教 育 の 有 用 性 を 検 討 す る こ と で あ る 。 し か し 、 そ も そ も 一 般 の 若 年 層 が ど の 程 度 双 極 性 障 害 を 認 知 し 、 理 解 し て い る か を 把 握 し て お く こ と は 、 心 理 教 育 の 重 要 性 を 理 解 す る た め に 必 要 な 情 報 で あ る 。 そ こ で 、 双 極 性 障 害 を 対 象 と し た 心 理 教 育 の 有 用 性 を 検 討 す る に 先 立 ち 、 平 均 的 な 発 症 年 齢 で あ る 若 年 層 に お け る 疾 患 認 知 度 を 把 握 す る こ と は 重 要 と 考 え た 。 2. 精 神 療 法 双 極 性 障 害 は 慢 性 の 経 過 を 辿 る た め 、 薬 物 療 法 に 加 え 、 心 理 教 育 な ど の 精 神 療 法 も 重 要 で あ る 。 し か し 、 日 本 の 臨 床 現 場 で 精 神 療 法 は 十 分 に 活 用 さ れ て お ら ず 、 普 及 に は 多 く の 課 題 が 存 在 す る 。 本 項 で は 、 ま ず 双 極 性 障 害 に お け る 精 神 療 法 の 臨 床 試 験 結 果 を 述 べ 、 次 に 我 が 国 で 精 神 療 法 を 導 入 す る に あ た っ て の 課 題 を 取 り 上 げ る 。 2.1 双 極 性 障 害 に お け る 精 神 療 法 双 極 性 障 害 の 治 療 は 薬 物 療 法 を 主 体 と す る が 、 再 発 率 が 高 く 、 慢 性 の 経 過 を 辿 る こ と か ら 、心 理 学 的 ア プ ロ ー チ と し て の 精 神 療 法 も 重 要 と な る (鷲 塚・加 藤 , 2012; 日 本 う つ 病 学 会 ,2012; 野 村・樋 口 ,2015)。ま た 、双 極 性 障 害 は 本 来 個 体 が も つ 脆 弱 性 の み で は 発 症 に 結 び つ か ず 、 外 的 ス ト レ ス に 適 切 に 対 処 で き ず 症 状 が 発 現 す る と も 考 え ら れ て お り( 忽 滑 谷・真 鍋 ,2005)、ス ト レ ス を 減 弱 す