第 3 章 研究Ⅰ 仕事場面の帰属要因モデル及びその規定要因に関する研究
① 性別
帰属理論を巡る実証研究では、個人の帰属行動においての性差に注目する研究は 数多く見られる。しかも、そのうちの殆どが両者の間に有意な相関関係が存在する ことを証明している。(Basow&Medcalf、1988; D’Amico、Baron&Sissons、1995;
Ickes&Layden、1978; LaNoue&Curtis 、1985; Beyer 、1998/1999 ; Berg 、 Stephen&Dodson 、1981; Dweck 、Goetz&Straus 、1980; Parsons 、Meece、 Adler&Kaczala、1982) 。 し か も 、 こ の 性 別 に よ る 原 因 帰 属 行 動 の 差 異 は 、 Little&Lopez(1997)によるロサンゼルス、東京、東ベルリン、西ベルリン、モスク ワ、プラハの 6 つの都市の 2 年生から 6 年生までの児童を対象とする調査から、文 化背景に影響されないことが検証された。
上記の研究は、学習場面のものが殆どであるが、様々な国や地域、または異なる 年齢層を対象に実証研究を行い、両者の相関が検証されたことから、ビジネス達成 場面においても、性別が個人の帰属行動の規定要因である可能性が十分考えられる。
しかしながら、具体的なメカニズムに関して、それらの研究の結論がまだ完全に 合意されていない。たとえば、Doherty&Baldwin(1985)が、女性が男性より外的要 因(例えば運要因またはタスク難易度要因)に帰属する傾向があると指摘した。同
じ観点がWong(1982)の研究にも見られるが、それと真逆な意見、つまり達成場面
での成功に対し、男性も女性も内的要因に帰属する傾向を示すが、達成場面での失 敗に対し、女性のほうが努力ないし能力の内的要因に帰属する傾向にあると主張す る研究も多数存在する(Berg、Stephen&Dodson、1981; Dweck、Goetz&Straus、 1980; Parsons、Meece、Adler&Kaczala、1982)。この問題は、Frieze、Whitley、
Hanusa&Mchugh(1982)でも指摘された。Frieze ら(1982)は性差と個人の帰属行
動の仮説モデルが主に下記 3 種類存在すると整理した。なお、Frieze ら(1982)が
Weinerの2次元モデルをベースに議論を行った。
60 表3-2 3つの理論的観点による女性の帰属行動に対する予測
理論的観点
外部性帰属 自虐的帰属 低期待帰属
(成功の場合)
能力 低い 低い 低い
努力 低い 低い 高い
課題難易度 高い 高い 低い?
運 高い 高い 高い
(失敗の場合)
能力 低い 高い 高い
努力 低い 高い 低い
課題難易度 高い 低い 高い?
運 高い 低い 低い
Frieze、Whitley、Hanusa&Mchugh(1982)により筆者が日本語に訳したもの
3 つの理論的観点を簡単に説明すると、外部性帰属(externality)とは女性が男性 に比べ、遂行結果のいかんによらず、常に外的要因に帰属する傾向にあるという観 点である。その理由として、女性が比較的に成功不安並びに失敗不安(McClelland、
1987)の両方が共に高い水準にあるため、常に達成場面から脱出しようとする。そ して、外的要因への帰属は、成功に対する責任を転嫁することで個人を高成功不安 の状態から解放し、または失敗がもたらした屈辱感ないし恥ずかしさを軽減する効 果があるとされる。
次に自虐的帰属(Self-Derogation)とは女性が自らの成功を外的要因に、そして自 らの失敗を内的要因に帰属すると主張する観点である。その理由として、自尊感情 の高い人は自分に対して有利な情報しか取り入れないのに対し、自尊感情の低い人 は自分に対する不利な情報しか取り入れない傾向にある。更に、女性は一般的に達 成場面において自尊感情が低いとされる(Frieze、1978)ため、帰属行動に行う際に 自分に不利な情報を主に取り入れることになるであろう。
最後に低期待帰属とは達成場面において女性が男性ほどの成功期待を有していな いという観点である。したがって、この観点では、女性が成功する際に不安定要因 に、そして失敗する際に安定要因に帰属する傾向にあろう。
61 上記の 3 つの理論的観点から導いた結論は、明らかに異なっている。更に、Frieze ら(1982)がメタ分析を通じ、対象となる 21個の研究において、共通する結論が① 男性が女性より能力帰属する傾向にある、②男性は自らの成功ないし失敗を運要因 に帰属することは稀であるという 2 つしかないと指摘した。そのことから、彼らは その 3 つの仮説モデルを全て否定し、性差による個人の帰属行動には一定するパタ ーンは存在しないと結論づけた。
しかし、果たしてそうであろうか。この設問に対し、Basow&Medcalf(1988)は 下記のように解釈する。性別が個人の帰属行動に影響を与える経路はかなり複雑で あり、場合によって、性差は直接帰属行動に影響を与えるわけではなく、主に他の 変数(特にtask outcome及びthe sex typing of the task)の関数として間接的に帰属行 動に影響を与えることも考えられる。
一方、因果次元性については、上記の研究の殆どが Weinerの2次元モデルを採用 し、成功と失敗両方に対する議論を行った。また、3次元モデルを採用する研究でも、
性別による帰属行動の差異は安定性次元と統制の所在次元の 2 つの次元に集中して いる結果を得たとBeyer (1998/1999)によって指摘されている。更に、Basow&Medcalf
(1988)が、性別が統制の所在次元への影響は、遂行結果が失敗である時だけ見ら れると指摘した。
以上のことから、下記のことが推測できよう。
a. 性別は、達成場面での失敗後の帰属行動に対し、有意な規定要因である。
b. 性別と帰属行動の間に、媒介変数の存在も考えられる。
c. 性別は、一部の因果次元にのみ影響を及ぼす。
上記の 3 つの推測を踏まえ、以下のことが言えよう。ビジネス達成場面において、
男性は自らの自尊感情やプライドを守るために、意図的で不安定的な要因に帰属す る傾向にある。なぜなら、意図的要因に帰属することで、「故意に失敗した」とい う言い訳ができるからである。また、不安定的な要因に帰属することで、成功への 期待も一定水準に維持できよう。そして、前節で構築したビジネス達成場面の帰属 要因モデルに照らし合わせると、上記の因果次元の定義に相応しい要因は「努力」
であると言える。以上のことから、仮説1-1を導出する。
仮説 1-1 ビジネス達成場面では、男性は比較的自らの失敗を努力要因に帰属す る。
62 一方、女性の場合は、比較的自己保護的な帰属行動をとろうとすると考えられる。
要するに、その失敗が「致し方ない」と強調するために、統制不可能で非意図的要 因に帰属する傾向にあろう。この条件で帰属ビジネス達成場面の帰属要因モデルに 照らし合わせると、性格、組織的人的要因及び非人的要因の 3 つが全て当てはまる。
しかし、その 3 つの帰属要因を再吟味すると、男性と比較すると(少なくても上辺 では)より職場の雰囲気やチームの協力関係を重要視する女性のほうが、組織的人 的要因に帰属するとは考え難い。したがって、仮説1-2を導出する。
仮説 1-2 ビジネス達成場面では、女性は比較的に自らの失敗を性格要因または 外的非人的要因に帰属する。