第 3 章 研究Ⅰ 仕事場面の帰属要因モデル及びその規定要因に関する研究
② 仕事場面の失敗帰属要因尺度
77 本節は、Seligman(1979、1982)の ASQ 尺度を参照し、場面想定法を用いて回答 者に自分自身がある特定のネガティブな場面にいると想像してもらい、更にビジネ ス達成場面での失敗原因の帰属尺度を作成し、第 3 章で構築した帰属要因モデルの 因子構成と照合した上で、モデルの妥当性の検証を試みる。
尺度の作成 場面想定法
まず、場面想定法を用いた理由は、「失敗」という条件をコントロールするため である。序章で述べたように、従業員は日々様々な失敗場面に直面することであろ う。これらの失敗は、業種、職種、職位、企業の規模、組織形態そして具体的な職 務内容により、まさに十人十色である。したがって、仕事場面で失敗を精密に定義 し、その上で定量的に測定することは至難の技であろう。それを前提とすると、個 人個人の失敗後の帰属行動の相違を比較し、個人属性との相関を検討することは、
ほぼ不可能である。なぜなら、個人属性と失敗後の帰属行動の関係を明らかにする ために、失敗をコントロールし、全く同じもしくは少なくとも類似した失敗状況を 回答者に経験させることが必要前提となるからである。しかし、言うまでもなく、
実務においてこれは不可能に近いミッションであろう。
この矛盾を解決するために、実験をデザインすることにより、実務でコントロー ルできない変数をコントロール可能にするという方法がある。具体的の実験手法と して、場面想定法、実験室実験及びフィールド実験の 3 つが存在する。本研究では、
場面想定法を用いて失敗をコントロールすることにした。
ここでまず 3 つの方法について簡単に説明してから、その中から場面想定法を選 ぶ理由について述べる。この 3 つの方法とも心理学、社会学及び教育学で広く使わ れている手法である。村田&山田(2000)によると、場面想定法とは、あるシナリ オで描写された社会的場面の中に自分がいると想定して、その場面での自分の認知、
感情並びに行動などを推測する方法である。一方実験室実験とフィールド実験のど ちらも、人工的に実験室において場面や環境を設定する方法であるが、フィールド 実験には、現実の生活場面に実験を持ち込んで実施するという特徴があげられる。3 つの方法を比較すると、場面想定法には、実験法では測定することが難しい内容を 扱う研究において用いられることが多く、また、多数の場面や細かい条件の設定も 可能であり、実験より多くのデータを得られるメリットがある。その一方で、場面
78 の解釈が実験参加者によって異なる可能性が存在し、実験に比較するとリアリティ を高めた上での検討が必要だとも指摘されている(藤島、2004)。この点に関して は、Freedman(1969)が、実際の行動とどのように行動すると思うかという信念と は異なるものであり、人がどのように行動すると思うかを研究してもその人の実際 の行動は解明できないと指摘している。
では本研究はなぜ場面想定法を採用したのか。それは、研究内容及び研究対象の 性質を考えた上で、本研究において、場面想定法は十分な妥当性があると考えられ るからである。実際に、帰属理論に関する先行研究では、実験による失敗もしくは 成功場面の体験と場面想定法を用いる研究の両者がほぼ同じ割合で見受けられる。
また、その中で、早期の理論模索段階では実験室実験及びフィールド実験を採用す る場合が殆どであるのに対し、近年の研究では場面想定法が主流となりつつある。1 つの大きな理由と考えられるのが被験者の年齢である。心理学では、人間の個性、
自己効力感や学習的無力感などを含む全てが幼少期の経歴から形成されるものと考 えられているため、帰属理論に関する早期の研究は 3歳~8歳の児童を対象に行って いた。したがって、読み書き能力の客観的制限により、場面想定法の応用は困難で あったに違いない。一方、社会人を対象とする本研究では、このような心配はいら ないであろう。
また、その 2 つの手法の優劣を比較する研究はなかったが、先行研究では両者の 結果が非常に類似していることから、場面想定法も十分な信頼性と妥当性があると 考えられる。例えば、Weiner&Wong(1981)の実証研究は、個人が自らの失敗を内 的・統制可能な要因に帰属する傾向に対し、成功を外的・統制不可能な要因に帰属 する傾向があると結論づけた。その研究は、トータルで 5 つの実験を行い、そのう ちの4つが場面想定法を用い、1つが実際の出来事(被験者である大学生の中間試験 の成績に対し、open response方式で帰属行動を測定した)であったが、5つの結果全 てが一致した。したがって、この結論をもたらしたのは他の原因にあり、場面想定 法によって個人が利己的な帰属または自己防衛的な帰属を回避しようとする可能性 は否定できると考えられる。
更に、近年では、社会学や教育学分野のみならず、経営学の分野においても、場 面 想 定 法 を 用 い る 研 究 が 行 わ れ て い る 。Boivhuk、Bolander、Hall、Ahearne、
Zahn&Nieves(2014)の研究はその一例である。Boivhuk らはリーダーシップが新人
セールスマンの学習的無力感および売上志向(sales-oriented)行動の相互関係につい ての研究を行った。そこでは場面想定法で仮説の検証を行っている。このことから、
79 社会学や教育学ほど主流ではないが、経営学分野でもこの手法は適用できると言え よう。
ビジネス達成場面の原因帰属尺度
失敗原因の帰属尺度がいくつか存在するが、その中で、本章の冒頭部分で言及し た Seligman(1979)及び Peterson、Semmel、Baeyer、Abermson、Metalsky&Seligman
(1982)のASQ(Attributional Style Questionnaire)が帰属行動を測定する際に最も広 く使われているメソッドだとも言える。この質問表は、個人差に着目し、個人の帰 属様式を測定するものである。具体的に、ポジティブな場面とネガティブな場面を 被験者にそれぞれ 6個計 12個を提示し、それぞれその結果を招いた主な原因を記入 した上で、その原因の次元に対する認識を 7 段階評価で測定する。また、この尺度 では、12 個の質問のうち、半分が達成欲求に関するもので、残り半分は親和欲求に 関するものとなっている。質問例は下記通りである。
*この質問例はSeligman(1985)の質問紙を筆者が翻訳したものである。
Seligman(1979、1982)の ASQ尺度が、本研究に直接適用できない理由は 4つあ
る。
あなたは最近ずっと仕事を探していますが、なかなかうまく行きません。
1.主な理由を一つ記入してください。
2.その理由は、あなた自身に関する問題ですか?それとも周りの人もしくは環境の問題です か?(数字を 1 つお選びください)
完全なる他人や環境の問題 1 2 3 4 5 6 7 完全なる私自分自身の問題
3.仮に将来また仕事を探す際に、同じ問題が現れると思いますか?(数字を 1 つお選びくだ さい)
再び現れることはないと思う 1 2 3 4 5 6 7 常に存在していると思う
4.その理由は、単に仕事探しという活動に影響を与えるものでしょうか。それとも生活のあらゆ る方面に影響を与えるものでしょうか。(数字を 1 つお選びください)
このシチュエーションのみに影響する 1 2 3 4 5 6 7 生活のあらゆる方面に影響する 5.このシチュエーション(仕事探し)は、あなたにとってどれほど重要ですか。(数字を 1 つお 選びください)
全く重要ではない 1 2 3 4 5 6 7 極めて重要である
80 第一に、その質問紙は自由回答式(open response) である。帰属行動の評定項目 は主に 3 種類ある。それは、自由回答式メソッド(Open response method)、パーセ ンテージ・メソッド(percentage method)とスケール・メソッド(scale method)で ある。Elig&Frieze(1979)は定量分析によってその三者の信頼性と妥当性の検証し、
比較を行った。その結果、自由回答式が、最も低い信頼性、ならびに他の測定尺度 との間の低共通性を示した。その結果に基づき、特に大学生がパズルゲームを解く ようなタスクの場合、失敗をもたらす可能な原因カテゴリーが既によく認識されて いるため、スケール・メソッドが最適な選択肢であると彼らは結論づけた。一方、
新たな達成場面での原因帰属行動を分析する際に、原因に対する認識の程度が明ら かに上記の状況と異なるため、自由回答式がより適切な場合も考えられるが、デー タの処理が困難なことと判定者の主観的判断に依存するという問題点が存在すると 指摘される(Elig&Frieze、1975 )。そのため、本研究では、自由回答式ではなく、
スケール・メソッドを採用するほうが相応しいだといえよう。
第二に、Seligman(1979、1982)のASQ尺度が 12問から構成され、質問項目のなか で仕事場面のみならず、生活全般の様々な場面を扱っている。つまり、本研究の調 査対象に当たらないものも多数含まれていることになる。
第三に、その尺度において、原因の帰属次元を統制の位置、安定性、全般性の 3 次元構成と定義している。一方、本研究では、統制の位置(内的・外的)、統制可 能性(統制可能・不可能)、安定性(安定的・不安定的)、意図性(意図的・非意 図的)並びに全般性(全般的・特殊的)という 5 次元全て取り扱っているため、帰 属行動の因果次元に対する定義が異なる。
最後に、ASQ 尺度は主に帰属様式と抑鬱傾向の関係の検討に使われているもので あるため、直接経営学分野での調査でも適用するかどうかは、再吟味する必要があ る。
以上の 4 つの理由から、Seligman(1979、1982)の ASQ 尺度自体は本研究には不向 きだと判断する。ただし、質問紙による場面想定法といった尺度の構成及び実施方 法については、本研究も採用する。
ⅰ.ネガティブ場面の提示
本研究において、ネガティブな場面の作成にあたり、下記 2 つの先行研究を参考 にした。その 1 つは Boivhuk、Bolander、Hall、Ahearne、Zahn&Nieves(2014)の研 究で用いられるネガティブ場面である。Boivhukらの研究では、事前に被験者から営