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第 4 章 研究Ⅱ 組織的努力がモチベーションの持続性に及ぼす影響に関する研究

1. 組織的努力

ここで言う「組織的努力」とは、Sitkin(1992)の組織学習理論の中で述べられた 知的な失敗(intelligent failure)を促進するために組織が整えるべき様々な条件を、

筆者が整理し、定義した概念である。

組織学習理論とは、組織が失敗から教訓を得て、経験から学び、それを組織の進 化 及 び 成 長 に 結 び 付 け る プ ロ セ ス を 解 明 す る 理 論 で あ る 。 組 織 学 習 理 論 は 、 Argyris&Schon(1978)によって提唱された理論である。彼らは「メンツや見栄えを 守る、支配権や優位性を維持する、自分の賞罰や責任を逃れる」などといった自己 防衛的な行動が、組織の問題解決や意思決定を阻害するものとし、更に、自己成 長・自己実現のための概念モデルを提示した。Argyris&Schon のこの理論は、後に

Senge(1990)により広まったが、Senge が実務的な管理手法により目を配っており、

その意味では本来の組織学習理論とはかけ離れたともいえよう。

そこで本研究の研究内容を考慮し、組織学習理論に関わる諸研究のうち、失敗を 中心に議論を展開する Sitkin(1992)の研究に注目した。以下、簡単に彼の理論モデ ルについて説明する。

Sitkin理論の中核は知的失敗(Intelligent Failure)を推奨することである。Sitkinに

よると、組織メンバーが、知的失敗を起こすことにより、そこからしか得られない 情報や経験を学び、最終的に大きな成功を果たすという。なお、「知的失敗」につ いて、Sitkinは下記の5つの要件、つまり

①よく計画された行動

②結果の不確実性

③大きくない規模

④スピーディーな行動サークル

⑤関連するドメイン

を全て満たすものと定義する。

更に、何故知的失敗が組織にとっていいものと考えられるかについて、彼は図 4-3 のように、小さな成功と小さな失敗のメリット&デメリットを比較しながら説明した。

125 まず小さな成功がもたらしたメリットとして、個人レベルでは効率の上昇や、モチ ベーション及び自信の持続、そしてチームレベルではチーム全体の調和や価値観の 共有が期待できるという。それらのメリットはリライアビリティ(reliability)に正 の影響を及ぼし、その結果短期的パフォーマンスが上がる。しかしそれと同時に、

小さな成功が①自発的な探索活動を制限する、②注意力を低減させる、③自己満 足・惰性を助長する、④リスク回避的な発想及び行動を催す、⑤組織メンバー間の 同一化を加速するといった 5つのデメリットが存在する。Sitkinは、それらのデメリ ットは個人のレジリエンス(Resilience)を経由し、最終的に長期的パフォーマンス に負の影響を与えると指摘する。

一方、小さな失敗(知的失敗)がもたらすメリットとして、①情報および潜在問 題への注意を喚起する&更なる調査活動を促進する、②問題への認識と解釈をより簡 単なものにする、③新たな解決策の探求を鼓舞する、④変化に適応しようとするモ チベーションを醸成する、⑤リスクへの耐性を育成する、⑥多様性を実現させる、

⑦より豊富な経験を提供するといった 7 点を挙げた。そして、それらのメリットは 同じくレジリエンスを経由し、結果的に長期的パフォーマンスに正の影響を及ぼす とした。しかしながら、Sitkin は論述の中に、小さな失敗がもたらすデメリットにつ いては言及しなかった。理論としてそれは勿論欠陥ではあるが、上記のメリットは、

小さな失敗がもたらした金銭上の損失などのデメリットを完全に上回っているとい

うSitkinの主張が垣間見える。

知的失敗は、個人の長期的パフォーマンスに正の影響を及ぼし、最終的に組織全 体の成功に寄与する。したがって、組織側としては、それを促進する組織環境を整 えなければならない。そこで、組織側がすべき努力として、Sitkinは

①結果よりプロセスを重要視する

②失敗を「合法化」する

③知的失敗を促進する組織文化と組織デザインを提唱する

④失敗管理システムを構築する

の 4点を指摘した。ただし、上記の4点に対する説明では、Sitkinは管理側のある べき「考え方」(例えば、プロセス重視)と具体的な「実行策」(例えば、迅速な フィードバックの提供)を混同している(図 4-2 参照)ため、本研究は、「上司要 因」と「組織要因」という 2つの次元に分けて、Sitkinの提唱した「知的失敗」を促 進する組織環境を作るための様々な要件を整理し、従業員の失敗後のモチベーショ

126 ンの維持という視点から、組織によってなされるべき努力、即ち本研究の言う「組 織的努力」について検討してみた。

具体的には、上司要因にはフィードバック・スタイルと上司のリーダーシップが 含まれている。一方、組織要因には業績評価システムと組織文化が含まれている。

この中で、フィードバックはとりわけ従業員の失敗後のモチベーションの持続性を 大きく左右すると考えられるため、4つの下位次元のうち最も重要だと言えよう。し たがって、次の節ではまず上司のフィードバック・スタイルに焦点を当て、定量的 な手法を使い、失敗奨励志向及び失敗回避志向の 2 種類のフィードバックが従業員 のモチベーションの持続性に与える影響を検証する。そして、更に次の節では、そ の他の組織的努力の諸変数のモデレーター効果について考察する。

組織的学習

(レジリエンス)

127

図4-2 Sitkinの理論のフレームワーク

Sitkin(1992、P247)により作成(日本語訳:筆者)

「知的失敗」を促進する組織環境 プロセス重視

1.行動の独立性

2.チャレンジ的な目標レベル

3.迅速なフィードバックとロースピードな学 習

失敗の「合法化」

1.リーダーシップの可視化 2.失敗後のキャリア機動性 3.公表

組織文化と組織デザイン 1.革新のためのトレーニング

2.資源コミットメント&失敗のモニタリング 3.組織的理解

失敗管理システム

知的失敗の特徴 1.よく計画された行動 2.結果の不確実性 3.大きくない規模

4.スピーディーな行動サークル 5.関連するドメイン

組織的学習

(レジリエンス)

128 図4-3

失敗と成功とパフォーマンスの関係

Sitkin(1992、P247)により作成

(日本語訳:筆者)

小さい成功の発生

小さい失敗の発生

成功がもたらすメリット

・手続き上の効率アップ

・目標と価値観の共有

・操作上の安定性と調和

・持続するモチベーショ ンおよび自信

成功がもたらすデメリット

・制限された探索活動

・注意力の低減

・自己満足/惰性

・リスク回避

・同一化

失敗がもたらすメリット

・情報および潜在問題へ の注意喚起とさらなる調 査活動

・問題への認識と解釈の 簡潔化

・新たな解決策の探求

・変化に適応しようとす るモチベーション

・リスク許容

・多様性

・経験

リライアビリティ

レジリエンス

短期的パフォ ーマンス

長期的パフォ ーマンス

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ドキュメント内 失敗のモチベーション に対する影響について (ページ 125-130)