第 3 章 研究Ⅰ 仕事場面の帰属要因モデル及びその規定要因に関する研究
② 経験(勤続年数)
62 一方、女性の場合は、比較的自己保護的な帰属行動をとろうとすると考えられる。
要するに、その失敗が「致し方ない」と強調するために、統制不可能で非意図的要 因に帰属する傾向にあろう。この条件で帰属ビジネス達成場面の帰属要因モデルに 照らし合わせると、性格、組織的人的要因及び非人的要因の 3 つが全て当てはまる。
しかし、その 3 つの帰属要因を再吟味すると、男性と比較すると(少なくても上辺 では)より職場の雰囲気やチームの協力関係を重要視する女性のほうが、組織的人 的要因に帰属するとは考え難い。したがって、仮説1-2を導出する。
仮説 1-2 ビジネス達成場面では、女性は比較的に自らの失敗を性格要因または 外的非人的要因に帰属する。
63 は前節の性別ほどバラつきはなかったが、やはり 1 つの共通する結論に辿り着いて はいない。例えば、Connor&Walsh の若者と年配者の帰属行動の違いを比較する一連 の研究(Connor、 Walsh、 Litzelman&Alvarez、1978;Connor&Walsh、1980)で は、年齢が上昇するにつれ、人々が自らの失敗を外的で安定的要因に帰属する傾向 が強くなると指摘した。また、Ferris、Yates、Gilmore&Rowland(1985)の調査では、
自己評価においては、年齢が高いほど、自分のパフォーマンスを高く評価し、また 失敗を外的要因に帰属する傾向がみられるという結果が報告された。それとは対照 的に、Reno(1979)が年長者グループが失敗(彼はそれを予期せぬ遂行結果と呼ん でいた)を安定的要因、つまり能力不足または課題難易度に帰属するのに対し、年 少者グループは失敗を不安的要因、努力不足に帰属する傾向にあると証明した。な お、いずれの研究においても、成功後の帰属行動と年齢との間には有意な相関関係 は検証されていなかった。
次に他者評価に焦点をあてる研究をレビューする。これらの先行研究は、本研究 の視座と異なるため、簡単にまとめる。近年の経営学分野では、職場での上司の年 齢差別(ageism)に関する研究が盛んに行われている。若年の従業員に比べ、年配の従 業員のミスまたは業績不振がより厳しく評価されていると指摘される。その主な原 因の 1 つが、他者評価における年齢による原因帰属の違いだと指摘されている
(Brent、2011;Rupp、 Vodanovich&Crede、2006 )。具体的に、上司の評価では、
年配の従業員の業績不振は比較的に統制不可能な要因に帰属され、その結果、若い 従業員と比較して、トレーニングを受けるチャンスも少なくなる。一方若年の従業 員の業績不振は仕事に対するノウハウの不足に帰属される傾向にある。
以上のレビューから、少なくとも、年齢が個人の失敗後の帰属行動を影響する重 要な変数の一つであるとは言えよう。ただし、影響を及ぼすメカニズムに関しては、
様々な見解があり、更なる吟味が必要である。
そういった結論の不一致に対し、Banziger&Drevenstedt(1984)が非常に有力な解 釈を提供している。それは、個人の年齢は帰属行動は影響を与えるが、そのメカニ ズムには課題指向性(task specific)がみられるというものである。換言すると、タ スクの性質に対する認識(予想内ないし予想外)が、年齢が該当個人の帰属行動に 与える効果をモデレートする。具体的に、個人が予想内の失敗に対し安定的要因に 帰属する傾向にある一方、予想外の失敗に対し不安定的要因に帰属する傾向にある
と Banzigerらは主張する。この解釈で Reno(1979)の研究結果を説明すると、つま
り年長者のグループは自らの失敗をある程度予測した(予想内の失敗だと認識する)
64 ため、安定的要因に帰属した。そして年少者のグループは自らの失敗を予期せぬ結 果だと認識したため、非安定的要因に帰属した。Smith(1981)が行った実験は
Banziger らの観点を支持する。彼は、年少者グループが有利と予想される遂行スピ
ードが業績評価と直結するスピード関連(speed-related)課題と年長者グループが有 利と予想される遂行経験が業績評価と直結する経験関連(experience-related)課題を それぞれデザインし、被験者にそのうちのどれか 1 つを与えた。そこで、年長者グ ループにとっては、「スピード関連課題での成功」及び「経験関連課題での失敗」
が「予期せぬ遂行結果」になる。一方、年少者グループにとっては、「スピード関 連課題での失敗」及び「経験関連課題での成功」が「予期せぬ遂行結果」になる。
実験の結果、予期せぬ遂行結果に対し、被験者が不安定的な要因に帰属する傾向を 示した。
ではここでの問題は、個人の失敗に対する「予測」は年齢の増加によってどのよ うに変化するかということになる。Vernon(1969)は、児童に対する実証研究に基 づき、年齢が高くなるにつれ、個人の「失敗への耐性」が高くなるという仮説を提 唱した。合理的な解釈の一つは、子供の場合(学校を通うことが前提で)、年齢と 能力が正相関に変化し、また自己効力感も次第に上昇すると考えられるため、その 結果失敗を能力へ帰属するケースが年齢の上昇につれて減少し、結果として失敗へ の耐性が高くなるという現状が観察されるであろう。また、自己効力感と年齢の正 相関の仮説は、Ferris ら(1985)の研究にも支持されている。彼らは個人の年齢が大 きいほど、自分のパフォーマンスを高く評価し、失敗を外的要因に帰属すると報告 した。Ferrisら(1985)の観点は、下の図3-1にまとめられる。
図3-1
Ferrisら(1985)により筆者作成
更に、上記の仮説モデルをビジネス達成場面用に修正すると、以下のことが言え よう。まず、組織に所属する個人を検討するとなると、年齢より「勤続年数」のほ うがより大きい影響力を持つことになろう。従業年数が長いほど、該当個人は自分
年齢↑
自己効力感↑
能力↑ 失敗を予期せぬ事態と認識する
外的要因に帰属 不安定要因に帰属
65 自身が所属する業界並びに企業に対する認識が深まり、専門知識が増加し、また同 じ企業に務める時間が長いほど、その企業に対する特殊的熟練も上昇し、a.少なくと も本人の認識では、若手の社員より自分のほうがより能力を有すると考えるであろ う。したがって、勤続年数が長い従業員は、失敗を予期せぬ事態と認識する可能性 が上昇し、勤続年数が短い従業員に比べると、失敗を不安定的な要因に帰属する傾 向にある。それと同時に、b.同じ組織に所属する年数が長くなるほど、非公式的な
「権威」または「地位」が上昇するという暗黙の認知が存在する可能性が考えられ、
自らの地位を保つために利己的(self-serving)な帰属行動を行う可能性が上昇し、換 言すると外的要因に帰属する傾向が強くなるであろう。そして、前節で構築したビ ジネス達成場面の帰属要因モデルに照らし合わせると、上記の因果次元の定義に相 応しい要因は「非人的要因」である。以上の分析から、仮説2を導出する。
仮説2 ビジネス達成場面では、勤続年数が上昇することにつれ、従業員は自らの失 敗を非人的要因に帰属する傾向にある。