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第 4 章 研究Ⅱ 組織的努力がモチベーションの持続性に及ぼす影響に関する研究

① 仮説

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130 きる。Seligmen(1975)の学習的無力感理論では、自身の行動と結果の随伴性への認 知が、個人の感情並びにモチベーションに重要な役割を果たすと考える。したがっ て、失敗を能力、運ないし課題の難易度など統制不可能の要因に帰属することは、

自身の行動の無効さを暗示することから、非随伴的な認知を導き、抑鬱的な感情の 喚起やモチベーションの低下をもたらすことになる。他方、努力不足などの統制可 能な要因への帰属は、失敗した本人に行動と結果が随伴していると認識させ、無力 感状態並びに遂行成績の改善に寄与することが期待できよう。

一方、Abramson(1978)の学習的無力感理論の改定理論では、Seligmen(1975)

よりも因果次元性を重要視する。その改定理論では、非随伴的遂行結果を、統制の 所在(内的‐外的)、安定性(安定的‐不安定的)及び全般性(全般的‐特殊的)

の 3 つの因果次元で捉える。そして、失敗を能力などの内的・安定的・全般的要因 に帰属するほど、重篤で慢性的な無力感状態に陥ると Abramsonは主張する。その改 定理論によると、内的・安定的・全般的要因である能力帰属が執行強度および持続 性に最も有害とされる。ここまでの結論は Seligmen と一致している。だが、最適な 帰属要因について、外的・不安定的・特殊的である運要因への帰属が、無力感状態 の改善に寄与し、最善な帰属であると Abramson(1978)は主張する。それに対し、

Seligmen(1975)は努力帰属(内的・不安定的・特殊的)を提唱する。これは両者の 最大の違いであろう。

最後に、Bandura(1977)の自己効力理論では、タスクに対する自己効力の高さが モチベーション並びに遂行成績を規定すると考える。一方、自己効力感に最も影響 力のある規定要因は実際の遂行結果(即ちそれまでの成功・失敗経験)である。し たがって、原因帰属は自己効力感の判断に有効な情報を提供し、自己効力感を媒介 してモチベーションやパフォーマンスに影響を及ぼすと考えられる。だとすると、

能力帰属は低い自己効力感を導きやすく、結果的にモチベーションの低下を招く。

一方、努力や運への帰属は、必ずしも低い自己効力感の判断をもたらすとは限らな いため、比較的に適切な帰属であるとBanduraが結論づけた。

以上の先行研究を踏まえると、安定的で内的要因の能力帰属は最も望ましくない 帰属要因であることは、各理論で一致していると言える。一方、持続性にプラスの 影響を与える原因については、様々な見解があり、努力、運または外的不安定要因

(Wilson&Linville、1982、1985)の 3 つが挙げられているが、どの要因が最も合理 的な帰属となるかはまだ明らかになっていない。また、これらの結論は、全て学校

131 場面においての結論であり、ビジネス達成場面の応用については、更なる検討が望 まれる。

再帰属訓練

前述したように、教育心理学分野では、帰属要因がモチベーションの持続性に及 ぼす負の影響の程度により、能力不足への帰属が最も不適切であるのに対し、努力、

運または外的不安定的要因への帰属が比較的適切だとされている。したがって心理 学者達は、「再帰属訓練」を通じ、個人の不適切な原因帰属を修正し、彼らを適切 な 原 因 へ 帰 属 さ せ る こ と が 可 能 で あ る こ と を 、 様 々 な 実 験 を 用 い て 証 明 し た

(Dweck、1975;Wilson&Linville、1982、1985;Anderson&Jennings、1980;など)。

ここでは要因ごとに代表的な再帰属訓練を取り扱う実験を紹介する。

Dweck(1975)の実験では、努力要因への再帰属訓練を試みた。被験者は以下に示す ステップ①~ステップ③の 3 つの過程の繰り返しを経て、失敗を努力要因に帰属す るようになり、最終的にモチベーションの持続性の向上を図る。具体的な操作手順 は下記の通りである。ステップ①失敗体験=被験者はある課題について失敗を経験 する。ステップ②努力の提示=教師は失敗の原因は努力不足であると被験者に強調 し、その上で被験者にヒントを与え、正解にたどり着くように促す。ステップ③成 功体験=成績や正解率の改善を経験する。Dweck の再帰属訓練では、この 3 つのス テップが繰り返され、最終的に被験者の学習的無力感状態が改善され、モチベーシ ョンの持続性の向上が見られた。しかし、この再帰属訓練法には、致命的な欠陥が 存在する。それは、努力帰属を強調した後の成功体験が学習的無力感の改善の必要 条件であるという点である。換言すると、努力への帰属を促進すると同時に、その 努力に随伴する成果がすぐに現れるような工夫が必要なのである。逆に自分が努力 したとの自覚の下での失敗、もしくは努力強調下での連続失敗は、最終的に低能力 へ の 帰 属 に 導 き 、 よ り 重 度 な 学 習 的 無 力 感 に 陥 る 可 能 性 も 考 え ら れ る

(Covington&Beery、1976)。

Covington らの指摘に対し、Anderson&Jennings(1980)は新たな努力帰属への再帰

属訓練の方法を提示した。彼らは、努力そのものの特質に着目し、努力には方略

(strategy)という方向的側面と量的(exertion)側面の 2 つの側面が存在すると述べ、

失敗という遂行結果に対し、当事者なりに努力した事実を正当に評価した上で、失 敗の原因が方略ないし方法が不適切であることに帰属させるほうが、努力の量的側 面、つまり「努力が足りない」に帰属させるより適切であると主張する。実験では、

132 大学生の被験者が電話を通じ献血依頼を行うが、電話する相手がサクラで、一回目 の依頼は必ず断られる。その失敗に対し、統制群の被験者達にはそれが能力不足で あると説明され、また実験群の被験者達は、試行錯誤をするうちに誰にでも獲得で きる話し方のコツが必要であると、つまり電話依頼の方略に問題があると説明され た。その結果、方略帰属群のほうが、以降の電話依頼における成功期待及び赤十字 ボランティアへの参加意欲が高い水準を示した。なお、この実験の設計上、直接努 力要因の量的帰属と方略的帰属を比較しなかったことが残念であったが、方略帰属 の効果を証明するには、かなり有力な証拠と言えよう。

一方、運帰属への再帰属訓練について、実際、運への帰属を積極的に導くよう介 入した研究は見当たらなかった(宮本&那須、1995)。考えられる理由として、ま ず、運要因の因果次元の判断、特に統制の所在次元において、他の要因より著しい 個人差が見られること(Weiner、1972)、更に、モチベーションの持続性との関係 についても異なる見解が存在することが挙げられる。例えば、Seligmen(1975)と Abramson(1978)が、運が無力感に与える影響について真逆な意見を持っているよ うに、運帰属と持続性の関係については、まだ納得のいく結論に辿り着けていない。

最後に、Wilson&Linville(1982、1985)が、外的不安定要因への再帰属訓練を試 みたことに言及しておこう。彼らは、大学での学業に対する不安を訴える新入生に 対し、「殆どの学生は、学業に関する問題は時間が経つにつれ自然的に解消し、2年 生になる頃には成績も向上することが知られている」という偽りの情報をインタビ ュービデオを通じて与えた。このたった 1 回の情報によって、実際に統制群に比べ、

実験群のほうが成績が良好で退学率も相対的に低くなっていた。この結果に対し、

Wilson らは、与えられた情報の一致性が高く(誰でも 2 年生になれば成績の改善が

期待できる)且つ弁別性が低い(概ね一年後に改善される)という特質から、被験 者が当初の内的で安定的な帰属要因から外的で不安定的な帰属要因に移行したと分 析している。

ビジネス達成場面での応用

以上、教育場面での各失敗原因への帰属とその後のモチベーションの持続性の関 係を概観した。これらの研究の殆どは Weiner(1972)の 2 次元モデルをベースに議 論を展開するものである。しかし、既に第 3 章の研究Ⅰで説明したように、Weiner の帰属要因モデルは学校での達成場面を想定して構築されたものであり、具体的な 帰属要因も因果次元もそのままビジネス達成場面に適用させることは困難である。

133 そのため、研究Ⅰでは、ビジネス場面に合わせて下記の 4 要因モデルを想定し、そ の妥当性を証明した。したがって、この節では、まず教育心理学分野の結論を踏ま え、ビジネス達成場面での失敗原因への帰属の合理性を論じてから、再帰属訓練の 実行可能性について検討する。

表3-1 ビジネス達成場面においての帰属要因モデル(再掲)

筆者作成

まず先行研究を踏まえてビジネス達成場面での失敗原因への帰属とモチベーショ ンの持続性との関係を検討してみよう。ここも Weiner(1987)、Seligmen(1975)、

Abramson(1978)及び Bandura(1977)の 4 人の理論をベースに議論を進める。

Weiner(1987)の観点は主に以下の 2 点である。①安定性次元が成功期待を規定し、

不安定的な要因が安定的要因より成功期待に正の影響を及ぼす。②統制の所在次元 が感情反応を規定し、内的で安定的要因が無能感を引き起こす。したがって、ビジ ネス達成場面では性格帰属が最も不適切である。一方、努力&スキル要因帰属及び外 的非人的帰属への帰属が比較的適切といえよう。

Seligmen(1975)の観点では、統制不可能な要因への帰属が、自らの行動と結果と の間の因果随伴性が存在しないとの認識を導くため、学習的無力感を醸成し、モチ ベーションの持続性に負の影響を与えるとしている。一方、前述したように、この ビジネス達成場面での帰属要因モデルにおいて、外的要因が全て統制不可能と定義 されているため、Seligmen の観点によると性格要因、組織的人的要因及び外的非人 的要因への帰属は全て不適切な帰属であり、努力&スキル帰属が最も適した帰属要因 といえよう。

次に、Abramson(1978)の観点では、内的・安定的・全般的要因への帰属がモチ ベーションの持続性に最も有害であるのに対し、外的・不安定的・特殊的要因への 帰属が最も適切であると主張する。したがって、彼の観点によると、ビジネス達成 場面では、性格帰属が最も望ましくないのに対し、非人的要因への帰属が最も適切 な要因帰属となる。

安定性 統制の位置

内的 外的

安定 性格 組織的人的要因

不安定 努力、スキル 非人的要因

ドキュメント内 失敗のモチベーション に対する影響について (ページ 130-140)